AKBの野球の小説書いてます

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526 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/20(火) 10:48:51.35 ID:dzszsVmxO
「打たないと」

宮崎は呟いた
しかしここまで二打席ノーヒット
完璧に抑えられている

「こんなわたしでもチームに残ったんだ」

宮崎は幼い頃からたくさんの習い事をしてきた
ピアノ、習字、茶道、サッカーにバスケ
しかしどれも長続きすることはなかった

そんな時、たまたま出会ったのが野球

楽しかった
ボールを追いかけることが
忘れられなかった
バットに当たったときのあの感触を

しかし現実は甘くなかった
野球の強豪校に入ったものの万年補欠
二年になった今も二軍ですら危うい状況だった
そんなある日、退部しようと戸賀崎の元へ向かっていた

「お〜い、みゃお〜」

喜作な声をかけたのは高橋みなみ

「どしたん?」

「いや…別になんでも…」

「それなら一緒に弁当食べよ」

「あ…はい…」

宮崎は断ることができないまま高橋と共に屋上へとやってきた
高橋が一人マシンガントークを連発し圧倒されていた
しかしどこか上の空だった

「辞めたいの?」

「えっ」

宮崎は高橋のその言葉に驚いた
心の中を見透かされていたのだ

「はい…実はもう限界なんです…未だに補欠だし、長所だって何もない
このまま続けてても意味ないかなって…」
527名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/20(火) 11:02:04.00 ID:dzszsVmxO
胸の内を全てさらけ出す
高橋になら安心して話せた
引き止めようとするのはわかる
だがこの気持ちはもう揺るぎがない
しかし返ってきたのは意外な言葉だった

「わたしも何度も辞めようと思ったよ」

宮崎は驚きで高橋の顔を見つめた

「どんなに練習したって試合で打てない
どうすればいいんだろうってずっと悩んでた」

高橋は遠くの空を見ながら続けた

「でもさなんか自分に限界を決めたくなかったんだよね
まだのびしろはある、もっと上手くなれるって思ってきた」

宮崎は動揺を隠しきれなかった
新キャプテンを努める高橋みなみ
キャプテンとしての気質は高く練習熱心で周りの者にも気を使える
まさかそんな彼女が辞めたいと思っていたなんて

「諦めたら試合終了だって誰かが言ってたから」

そう言った高橋の顔はどこか誇らしげに見えた
そしてなぜか涙が溢れた

「うぐっ…うぐっ…わたし…わたし…がんばります…」

その日以来一度も辞めたいとは思わなくなった
戸賀崎から退部届けを渡されたときも全く揺らぐことはなかった

そして今、部員が大幅に減りスタメンで出してもらった
何か何か少しでもチームの役に立ちたい

バットを力強く握りしめた
528名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/20(火) 11:19:38.66 ID:dzszsVmxO
キンッ!

金属音が響くもボールは前に飛んでいなかった
バックネットに掠り落下する
カウントツーストライクワンボール
宮崎は追い込まれていた
ここまでも全て直球に差し込まれての凡退

「勝負は直球」

宮崎は決めていた
必ず相手バッテリーも直球で勝負してくる
それにこのままで終わるわけにはいかなかった

城が振りかぶって投げた第四球目
インコース高めの釣り球に思わず手が出る
しかし臆することはなかった

「気持ちで持ってけ!」

渾身のスイングはボールを捉える
しかしボテボテのサードゴロ
アウトとわかっていながらも懸命に走る宮崎
サードの小笠原が打球を処理しファーストへと投げる

「諦めたら終わり」

宮崎の脳裏にあの言葉が浮かび上がる
最後の一歩で頭から飛び込んだ

交錯する一塁
ファーストの岸野はしっかり捕球している
一塁審判は両手を真横に伸ばした

「セーフ!」

秋葉原高校のベンチから歓声がわく
真っ黒になったユニフォームをはたきながら宮崎はガッツポーズを見せた
今試合、前田以外の初ヒット
そしてチームに勢いをつける貴重なヒット
529名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/20(火) 11:38:21.42 ID:dzszsVmxO
「守備に徹しろなんて言ったがもしかするともしかするぞ」

戸賀崎は一人言を漏らす
ノーアウト一塁
この回前田にまわるのだ

八番の北原
勿論サインはバント

「そんな簡単に送らせへんで」

城がマウンドから北原を睨み付ける
彼女の闘志は逆に燃えていた

セットアップから放たれた初球それはまるでワインドアップのような豪速球
そして試合終盤とは思えない球威だった
はじめからバントの構えをとった北原のバットに当たる
しかしそれは真上に浮き上がった

「あっ」

キャッチャーが滑り込むもボールはワンバウンド
あまりに球威が殺しきれなかったのが幸いした

「ここでのわたしの役目はきっちり送ること、亜美菜さんを楽にさせる」

第二球、今度は前に転がしバントを決める
ワンアウトで二塁に進み次の打者は佐藤
すれ違い様北原は声をかけた

「三振でいいですから」

疲労があるのはわかっていた
残り三回もある
しかも佐藤の後は誰もいない
この試合を考えれば前田に託すのが得策だ
その言葉通り佐藤は三振に倒れる

「来たで」

難波のベンチがざわつく

ツーアウト二塁
ここで迎えるバッターは今日全打席ヒットを打っている前田
530名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/20(火) 13:42:31.68 ID:XNyXkVtK0
支援
531名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/20(火) 22:53:28.03 ID:ppwryQ5j0
あげ
532名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/21(水) 10:55:31.75 ID:KVImWxy50
あげ
533 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/21(水) 11:00:56.31 ID:7GVXx/JjO
與儀がマウンドに向かう
それを城は不機嫌な顔で迎えた

「なんやねん」

口ではそう言うものの城はわかっていた
與儀が何を言いに来たのか、この打席がどれだけ大事かを

「勝負するやんな?」

「当たり前や」

返ってくる言葉はわかっていた、與儀が笑う

「ここ抑えて逆転や」

城のグラブにボールを渡し駆け足で戻っていく
その背中を見つめながら城は呟いた

「当たり前や」



ドクン…

ドクン…

胸の鼓動が高鳴る
今にも心臓が口からでてきそうなほどだ
バッターボックスに立つ前田
今日絶好調の彼女とて緊張していないわけはなかった

ずっと一人だった

どこかみんなから違う目で見られてた

でもこうして本当の仲間と一緒に野球ができる

わたしは一人じゃない

その瞬間、前田の耳に飛び込んでくるたくさんの声援
高橋の声はよく通る
峯岸の声も聞こえる
あ、いつも静かな佐藤の声まで

いつしか彼女の肩に乗った重い荷物は消えていた
視界が鮮明に映る
守っている相手の顔もよく見えていた

「今日の空ってこんなに青かったんだ」


キンッ!

真っ青な空の中に雲にも負けぬ真っ白な球が浮かび上がった
534名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/21(水) 11:18:19.05 ID:7GVXx/JjO
カウント2ストライク2ボール
四球目を外角低めに外し餌は撒いていた

「ここや」

與儀は迷うことなく内角高め前田の体すれすれに構えた
城の最も得意なコースであり最も体重の載るコース
城も迷わず首を縦に振る

「この一球で終わりや!」

セットアップから投球モーションに入る
足は先ほどよりも広く前足に体重がかけられる
足から腰、肩を通して腕へ力は伝達されていく
そして最後に指先から白球へ
最後までボールを押し出すように放たれた

一直線に與儀のミットに吸い込まれていく
それは彼女自身のそして與儀にとっても未だかつてない最高の一球だった

キンッ!

甲高い音が響き渡り皆の視線はライトへと移る
大きく引っ張られた当たりは風に乗りぐんぐん伸びていく

「入れさせんで」

ライトの白間が懸命に下がる
ライトポールとフェンス際彼女は落下する打球に飛びついた

ガシャンッ!

ボールは僅かに白間のグラブの上
そして僅かにスタンドへ入る下
フェンスにぶつかった

「よし!」

秋葉原高校のベンチから一斉に歓喜の声が漏れる
そして誰もが待ちわびた追加点が入った
535名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/21(水) 11:38:51.48 ID:7GVXx/JjO
悠々とホームに帰る宮崎
ボールは外野を転々としていた

「え?まじで?!」

高橋が驚いたのも無理はない
前田が果敢に三塁を狙ったのである

「いけー!あっちゃんーん!」

センターの門脇がポールを処理しセカンドに投げる
セカンドの小谷は中継しサードに送球した
前田の頭から飛び込むヘッドスライディング
気持ちの分だけ勝っていた

「セーフ!セーフ!」

またも歓声が沸き起こる
前田は白い歯を覗かせて笑った
感情高ぶる秋葉原高校ベンチは帰ってきた宮崎を手荒い歓迎で迎える


勢いづく秋葉原高校
それとは対称的に冷静なのは難波高校ベンチ

「交代や、準備しろ」

金子が3人に告げた
交代の報せを聞き城、與儀、門脇の3人がベンチに戻る
城は泣きじゃくっていた

「よくやった」

「ナイスピッチ」

「後は任せとき」

足早にグラウンドへ向かう3人が声をかけた
城は頷くことしかできずベンチに腰を下ろす
すると金子が声をかけた

「その悔しさ忘れたらあかん、そんでちゃんと見とけあれがレギュラーの3人や」

その言葉にどこか誇らしげと自信があった
まるで2点ビハインドとは思えぬほどに
三塁にランナーがいるとは思えぬほどに
536名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/21(水) 13:31:36.40 ID:mcNQAnSR0
>>491だよね?
537名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/21(水) 23:18:41.81 ID:Iw79arvr0
弱小野球部マネージャーの峯岸みなみが病気になって
前田敦子がマネージャーになりドラッガーのマネジメントを参考に甲子園に導くという小説を書きたいんだが
538名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/22(木) 13:31:53.00 ID:eRVFpXmV0
どうぞどうぞ
539名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 03:11:57.80 ID:q0ziq2Zz0
あげ
540名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 10:55:57.19 ID:YBhHfjNT0
あげ
541 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/23(金) 13:03:06.24 ID:VElW3byGO
ついにエースの渡辺がマウンドに立つ
山田は捕手に山本はセンターに入る

「投球練習はいりません」

余裕の笑みを見せる
対するバッターは高橋
七回表2アウト三塁
ここで打てば三点差、相手を大きく引き離せる

「なめんなよ」

高橋は小声で意気込んだ
ピッチャーの変わり目というのは隙ができやすい
しかも登板早々三塁にランナーを置くピンチ
エンジンが掛かるところ打ち込む

「プレイ!」

審判の試合再開の声が響いた
渡辺がゆっくりと構える

「…!」

高橋は驚いた
先ほどまでふわふわとしていた雰囲気から一気に変わる
その姿はエースにふさわしい風格

「え?」

そして高橋はまたもや驚いた
渡辺が振りかぶり大きく足を出す、すると体を深く沈めたのだ

アンダースロー
地面すれすれから投げられるその球はバッターの手元で浮き上がるという特徴をもつ
故にサブマリンとも謂われる

パンッ!

初球ど真ん中
美しいほどの直球が山田のミットにおさまる
そして高橋はバットを振ることなく腰を引いていた

120km程度の直球
大した速さは感じられない
どちらかと言えば城のほうが速い
しかし高橋にはそれ以上の脅威を感じていた
542名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 13:19:49.81 ID:VElW3byGO
右のアンダースロー
それは右打者からすれば足元から浮き上がってくる球
慣れない軌道のそれは脅威の他なかった

「まじか…実際こんなに打ちにくいのかよ…」

動揺を隠せない高橋
そして初球で腰の引けてしまった彼女に打てるはずもなかった

「ストライク!バッターアウト!」

三球三振全球ストレート
バットを振ることすらできずにベンチへと帰る

「どんまいどんまい!」

「あと三回きっちり守ろう」

仲間から励まされる
くよくよしている場合ではなかった

「うし!」

グラブを取り高橋は再びグラウンドへ走りだした



「あと三回」

北原は佐藤のグラブにボールを渡しながら言った
このバッテリーで挑む試合はこれが初めて
そして勝ちが手の届くところまできている

「初勝利期待してますよ」

北原はそう言うとマウンドから足早に去る
その背中を佐藤は見つめていた

「ありがとう、里英ちゃん」

打席に前回果敢な守備を見せた白間が入る
その目は先ほどの失態を取り返そうという強い意気込みがあった

「平常心、平常心」

深く息を吐き出し佐藤も決意を固める
そして秋葉原高校にとって長い長いイニングが始まるのである
543名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 16:18:09.29 ID:VElW3byGO
「こんなに短く持つのか」

北原は心の中で呟く
白間は体がないぶん長打は期待できない
しかしバットを短く持つことでチームで確実に仕事をこなすことに定評があった

「ここでの仕事は出塁」

金子からのサインもヒッティング、強気で攻める
しかしそこはバッテリーも読んでくる

「外、徹底的に外で勝負です」

北原が外いっぱいに構える
佐藤は構えられたその場所に的確に投げ込んでいく

キンッ!

外の球をかすらせて追い込んだ
決め球も勿論外

「外に外れていくスライダー」

振ってくる自信があった
外で攻められいつ内に突いてくるか警戒している
だからこそ早目に勝負をかける

佐藤が投げる
案の定、白間が手を出した
しかしその一球は北原のミットにおさまることはなかった

「うそ…」

少し上がった打球はライトの前にポトリと落ちる
ノーアウト一塁、難波高校にとって理想的な形になった

「よくやったで、みるるん」

金属バットを抜きゆっくりと打席に入る
ここからようやく登場する彼女たちの打席が続くのだ
途中出場の3人の打席が

「すぐ追い抜いたる」

不敵な笑みを見せながら山本がバッターボックスに入った
544名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 16:37:13.29 ID:VElW3byGO
「このバッターは一番注意しなければいけない」

北原の頭のなかにはすでに彼女の情報が入っていた
前回の試合で最も打ち込まれていたからだ

「それでも佐藤さんとは初対決」

試合に登板していない佐藤は勿論、山本を相手にしていない
それは彼女たちにとってラッキーな展開だった
球速平均120km、球威も切れもも伸びもそうあるわけではない
それでも佐藤がここまで抑えているのは絶対的なコントロールと多彩な球種があるからだ
スライダー、カーブ、フォーク、どれもそれ一本で勝負できるような球ではない
しかしそのどれを使っても佐藤は制球よく投げられる
一打席で攻略全ての球筋を見極めるのは至難の技だ
それがどんなスラッガーであっても

「投手の悪いところじゃなくいいところを伸ばす、それが捕手の役目」

だからこそ北原は彼女を信頼していた
あとは自分のリード次第なのだから

キンッ!

高めの釣り球に山本のバットが回る
カウント2ストライク3ボール
北原は確信した
今の球が見送れないということは見極めきれていないということ
つまり来た球を打ちにいっているだけなのだ

「もうストライクはいらない、ボールに外れる球に勝手に手を出す」

しかしそれは北原にとって最大の誤算だった
545名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 16:53:44.53 ID:VElW3byGO
「う〜〜〜〜〜」

キンッ!

ファール
両ベンチが共に息をつく
それもそのはずこれで18球目
2ストライク3ボールから未だ粘られていた

「くそっ、どこまで」

どんなコースどんな球種を放っても必ず山本は追っ付けてくる

「まさか…カット?!」

北原に嫌な予感が過る
カットそれはわざとボールを切ることで球数を多く投げさせる方法
しかしそんなプロでも難しい技術を山本ができるだろうか
しかも初対決の投手に

「あっ」

佐藤の集中が切れる
ここまで北原の指示通りに投げてきた
しかしここにきて北原の構えとは逆にボールが抜ける

「ボールフォア!」

長く続いた対決はフォアボールによって幕を閉じた
ノーアウトランナー一塁二塁
ピンチは広がり打席には山田

「はぁ…はぁ…」

佐藤の息が荒い
先ほどの勝負でかなりの体力を消耗してしまっていた
迎えた八番、初球だった

キンッ!

この試合はじめて佐藤の球が甘めに入り叩かれる
物凄い勢いの打球はセンターの頭を越しフェンスへとダイレクトにぶつかった
546名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 17:16:54.31 ID:VElW3byGO
一斉にランナーが走る
白間は当然三塁ベースを回った

「ストーップ!ストーップ!」

三塁ベースコーチが必死に彼女を止める
異常な対応に思わず白間の体は止まった瞬間だった

パンッ!

ボールがミットにおさまる快音が響く
北原のミットにはボールがあった

「え?なぜ?」

あの痛烈な当たりにも関わらずすでに返球がきている
打球の飛んだセンターを見る
そこには送球し終えた前田の姿があった

「すごい返球…」

仲間である北原も思わず驚いた
用心し深目に立っていた前田
それすらも越える打球だったがあまりの勢いのよさに前田の元まで跳ね返る
すぐに処理した彼女はホームに向かって矢のような送球を見せたのだ

それでも100m以上ある遠投
しかも白間が帰るよりも早く正確な返球
これも容易ではない芸当

「締まっていこう!」

外野から前田が声を出す
今の前田のビックプレーがナインの心に火をつけた

「この試合、ここが山場か」

戸賀崎が力強く拳を握り締め呟く
空は真っ青、照りつける太陽
その下でさらに燃える9人
七回裏、ノーアウト満塁
試合はまだわからない
547名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 23:40:30.39 ID:9h6Rx2bz0
入団6年目。
一軍での勝利数は5年間で3勝。
高卒社会人経由入団での数字だ。
冴えない投手だ。
二軍での試合、一軍のブルペンでは良い球を放るが、いざ一軍のマウンドに立つと上がってしまって思ったような球が投げられない。
勝っている試合ではもちろん、敗戦処理でも同じような投球が続いた。

だが、首脳陣は評価していた。
去年はアメリカへ派遣され経験を積んできた。
「今年は松原に期待だな。留学してきたわけだし、それで何か変わってくれたらと、期待してしまうよ」
監督が親しい記者に話した。
上がり症を克服もそうだが、技術力の向上を期待して送ったようだ。
「あっちの監督から聞いたよ。勿体ないなあとね。上がり症も良くなったらしいからね。」
機嫌良く話す監督の姿を見ると、居たたまれない気持ちになった。
「待てよ。そんなレヴェルじゃないよ。おいおい。」

高校を出てJR東日本に入社した。
家庭の事情で進学は断念したが、社会人で野球を続けることが出来た。
ただ、内部事情で新宿駅の駅員としても働いた。
プロ入りのきっかけは在籍3年目にたまたま好投してスカウトの目にとまったからだ。
順位は6位だった。
背番号は46を貰った。
548名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/23(金) 23:45:45.56 ID:Qq/sp/C50
あげ
549名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 01:11:56.52 ID:+3WpiBBj0
あげ
550名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 13:37:38.10 ID:TFlmrFOZ0
あげ
551名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 16:55:14.74 ID:Fn0/mJWu0
この作者前にバトロワ書いてた人だよな
今回はまともだけどいつはちゃめちゃ展開になるか・・・

支援
552名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 18:22:35.91 ID:y6VJrTf1O
どちらも期待!
553名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 23:11:51.69 ID:y6VJrTf1O
捕手
554 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/25(日) 11:38:11.65 ID:OivoOtr4O
マウンドに野手が集まる
その中央にいる選手は大きく肩で息をしていた

「大丈夫?亜美菜」

二塁手高橋が声をかける
それと共に北原も言った

「すいません、完全に読まれてました」

配球は全て彼女に任せられている
白間に読まれたのも山本の術中に嵌まったのも北原の責任だ

「いいよ気にしないで、ここまで投げられたのも里英ちゃんのおかげだし
それにまだ無失点、謝るには早いよ」

佐藤の優しい言葉、決して誰も責めることはない
そうは言うものの疲れは目に見えている
炎天下の中、しかも相手は強力打線
今まで二軍どまりの彼女がよく抑えていた

「まだここから降りたくないの」

佐藤の呟きに野手全員耳を傾けた

「すごく楽しいの今、だからまだまだ投げたい」

誰ももう言い返さない
それだけで充分だ
気持ちは理屈や現実を変える

「よし!ノーアウト満塁!締まっていこー!」

外野まで響いたその声に前田は不安はなかった
アウト3つなんとしてもとるだけだった

「プレイッ!」

打席にはピッチャーの渡辺

「ここでアウトを稼ぎたい、内野に転がさせてフォースアウト」

北原の思惑通り内野は前進守備
迷わずバックホーム体制
555名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/25(日) 11:54:31.37 ID:OivoOtr4O
「よっしゃ、どこでも投げてみぃ」

終始笑みの消えない渡辺
それは不気味にも不敵にも見える
しかし臆することはない
全力で北原のミットに叩き込むだけ

佐藤が振りかぶる
気持ちを切り替えて投げた一球目

キンッ!

快音が響き痛烈な打球が三塁手宮崎の頭上を襲う
必死に腕を伸ばすも白球はそのわずか上を通過した

「ファール!」

ギリギリのところで切れる
なんとか運は味方した

「ミルキー、もっと考えんかい!今の捕られてたらゲッツーやで!」

一塁ランナー山田から厳しい言葉が飛ぶ

「もう〜わかっとうわかっとう、ほんま菜々はうるさいなぁ〜」

しかし渡辺の顔はやはり笑顔
バットにジャストミートした確かな感触があった

「美優紀は投手として本当に才能がある、しかしバッティングにもそれ以上の才能があるとわたしは思っている」

山本が呟く
スラッガーである彼女が言うのだから渡辺の才能は本物なのであろう

「ただ一切打撃練習をしないのが欠点だがな」

ありのままの天性
天賦の才を持つ渡辺が今、秋葉原高校に牙を向く
556名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/25(日) 12:09:19.55 ID:OivoOtr4O
キンッ!

ボール球のストレートに手を出し渡辺は追い込まれた

「やはり、選球力は甘いな」

北原も彼女の実力を見切っていた
もう二の舞はしない

「残りは全てボール球、勝手に振ってくれる」

佐藤が首を縦に振る
北原の出したサインは高めの釣り球
これを見せておいて次はフォークで落とす
佐藤が撒き餌のストレートを放った

「!?」

大きく足を前に出し渡辺はフルスイグ
迷いのない一振りが空を一閃する

キンッ!

ゆらゆらと打球が舞い上がる
それはセカンド高橋の頭上にさまよった
懸命に下がる高橋
背面で飛び込みながらグラブを伸ばす
しかしボールは地面に落下した

「回れ!回れ!」

三塁ベースコーチが腕を大きく回す
白間が悠々ホームに帰りさらに山本も突っ込む

ライト小嶋からの返球
しかし高橋のミットにおさまるより一瞬早く山本が本塁のベースを踏んだ

「あっぶなぁ〜」

一塁ランナー渡辺がほっと胸を撫で下ろす
得点は2−2、試合は振り出しに戻された
くしくもエースの手によって
557名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/25(日) 13:25:55.19 ID:wH6UO9Bo0
支援
558名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/25(日) 21:29:03.26 ID:UfqBiDAH0
あげ
559名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/25(日) 23:15:40.53 ID:GdT//22y0
あげ
560名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/26(月) 00:13:19.25 ID:4nb+996O0
あげ
561名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/26(月) 12:40:15.79 ID:LsVYE2t4O
あげ
562 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/26(月) 19:55:53.44 ID:vu0viIaDO
まるでそれは悪夢のようだった
投げては打たれ投げては打たれた
どこに投げようとどの球種を放ろうとことごとく弾き返された

もうそれは計算の狂った精密機械
ただ相手のバッティングマシーン

何がいけないのかわからない
なぜ打たれるのかわからない
もう何も為す術がなかった

呆然と立ち尽くす彼女には燦々の太陽が嫌に暑苦しく感じた

ようやく3つ目のアウトを取った頃には打者一巡の猛攻でさらに4人の走者が帰っていた

「踏ん張れんかったなぁ〜あのピッチャー」

ベンチから出ようとした渡辺が言った

「三巡目やし、うちらには打たれとるしな」

「集中切れてもしゃあないてか?」

山田の話を渡辺は遮った
その表情はどこか不満そうである

「うちのピッチャーは切れんといてや」

「当たり前や、うちだれやと思とんねん」

バッテリーの二人は皮肉を交えながらグラウンドへと駆けた
笑みを含めたその顔は残酷なまでに対称的だった
563名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/26(月) 20:15:33.76 ID:vu0viIaDO
終盤、持っていかれた勢いは簡単に取り戻せるはずもなく

「ストライクバッターアウト!チェンジ!」

ボールに当てることもできず三者三振
圧倒的な力の差を示されていた

そして一度切れた糸が元には戻らぬように佐藤のピッチングも戻ることはなかった

この回も打たれに打たれ三失点
味方の守備に助けられなんとかスリーアウト

「お疲れ、よくやったよ」

覇気のなくなった佐藤の背中を叩き高橋が励ました
しかし佐藤の顔が上がることはなかった

最終回の攻撃、七番の宮崎から
一人でも出れば前田に回る
しかしもうすでにそんな問題ではない

「ストライクバッターアウト!」

呆気なく宮崎は空振り三振
北原が打席に向かう

「せめて一矢報いたい」

気合いを込めて構えた
しかし渡辺の風格はそれすらも呑み込む

全球直球
振ることで精一杯だった

「バッターアウト!」

力なく帰る北原
ラストバッターである佐藤とすれ違う

「佐藤さん…」

でかかった言葉を詰まらせた
がんばって、そんなこと言えなかった
自分は佐藤の為に何もできなかった
なのに佐藤にばかり

その日は本当に熱く溶けてしまいそうだった
いやもしかすると何かが溶けてしまっていたのかもしれない
564 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/27(火) 12:26:32.48 ID:559o3DXRO
打たれるのは全てピッチャーの責任だ
だがこの試合だけは自分を誉めたかった
今まで先発はおろか一軍にすら入ったことはない
それでも六回まで無失点
充分すぎる、もったいないくらいの満足感

なのに…それなのに…

佐藤の目の前には異才を放つ投手
大きすぎるその立ち姿
投げる毎に増す迫力

どれもが自分よりも上
圧倒的なまでに崇拝してしまうほどの差
到底届くことのない高み

わかっている、わかっているのになぜか比べてしまう
諦めてしまえば楽なのに
手を伸ばさなければ苦しまないのに

「わたしもあんなピッチャーになりたい」

彼女がそう呟いた時だった

「ボールフォア!」

球審から告げられる
佐藤は戸惑った

ここまで一寸の狂いもなかった渡辺の制球がここにきて崩れるのか?
ましてや打席には万が一にも打てない投手
その答えは自ずと出た

「ほんまあほや」

呆れるように山田が呟く
それとは逆に渡辺の顔は満面の笑みを浮かべていた

2アウト、最終回
ランナーなし
この状況でまさかそんなことをするだろうか
それは傲りでも冷やかしでもない
ただ単純な好奇心
ピッチャーとしての心のざわつき

「かかってこんかい、前田」
565名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/27(火) 16:21:07.34 ID:559o3DXRO
「まさか…わざと歩かしたってこと?」

秋葉原ベンチに物言えぬ空気が漂う
それは正に器の違い
否、頭の線が切れてしまっているのかもしれない
ただそれは前田に対する挑戦状

ゆっくりと前田は打席に立った
渡辺の挑発の意味をわかっている
それでも一切動揺なく何も変わらぬ姿だった
彼女には渡辺に負けぬほどの打者としての風格があった

「やっと出てきたか」

渡辺が嬉しそうにはにかむ

「なんでもえぇ、これでほんまに終わらすで」

山田のサインに渡辺は首を縦に振った
両者が注目する初球

キンッ!

久しぶりの金属音が響く
しかしボールはバックネットに引っ掛かっていた

「へぇ〜初球から当ててくんねんな」

さらに嬉しそうに渡辺は笑う
重心を前に載せ先ほどよりも深く沈み込んで投げられた二球目

バンッ!

今度はミットにおさまる轟音
前田のバットは僅かにボールの下を振っていた
つまり先ほどよりもボールが伸びているのだ

「ほい」

三球目を振りかぶろうとした直前だった
渡辺が前田にボールの握りを見せる

「三球勝負や、次はシンカーで落としたる」

掟やぶりのシンカー宣言
迎え撃つはスラッガー前田
勝負の行方や如何に
566板設定議論中@自治スレ:2011/09/27(火) 21:54:02.81 ID:5eiGa29G0
あげ
567板設定議論中@自治スレ:2011/09/28(水) 02:36:05.71 ID:B6GAfIwE0
あげ
568 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/28(水) 12:46:02.12 ID:48GedeMGO
打者はなぜ打てないのか?
どんなにホームランを打つバッターでも
ヒットを量産するバッターでも
その半分以上は必ず凡退する

それは来る球がわからないからである
160kmのストレートよりも消えるような魔球よりも
次にどんな球がくるのかわからない、それが最も脅威なのである

「まじか…」

秋葉原ベンチが騒然とする
いくら今日の試合で初見だからといって球種を教えるのは御法度
しかも前田ほどの打者には尚更だ

それでも顔に笑みを浮かべる彼女は握りを変えることなく構えた

意地と意地がぶつかる
しかしそれはほんの一瞬
たった一球、たった一振りに乗せて

渡辺の指からボールが離れる
予告通りのシンカー回転
左打席に立つ前田からは遠ざかりながら落ちる球

決してタミングを外すことなくその球が落ちる瞬間、前田は全力で振る
狙いすまされたその一振りは完璧に捉えたはずだった

ブンッ!

バットが空を切る音だけが虚しく響いた
ボールは山田のミットにおさまり前田の空振り三振
その一球は彼女の予想よりも遥かに落ちた
誰もが球審でさえも唖然とするほどの静寂な間が流れる

「ストライクバッターアウト!ゲームセット!」

前田の完敗と試合の終了がどうしようもない虚しさと悔しさと共に告げられた
569板設定議論中@自治スレ:2011/09/28(水) 15:46:23.89 ID:MqOFvSt/0
支援
570板設定議論中@自治スレ:2011/09/28(水) 20:41:57.83 ID:B6GAfIwE0
あげ
571板設定議論中@自治スレ:2011/09/29(木) 01:36:00.76 ID:JHuw+65B0
あげ
572 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/29(木) 15:54:06.96 ID:S2ebpqS+O
両チームのメンバーがベンチから出て整列する
ラストバッターの前田もバットを置き急ぐ

「ありがとうございました!」

礼をしお互いが言葉をかわす
前田には勿論同じ守備位置の途中出場の山本である

「ありがとう、いい試合やった」

何がだ
どこがいい試合だったんだ

「また試合しよ、がんばって」

なぜか涙が溢れた
ただの練習試合、しかも心機一転したチームの初陣
強豪相手によく戦った

それなのに、それなのに、涙が止まらない
頬を次々と伝っていく

がんばって

その言葉は前に試合をした時と同じ言葉
何も変わっていないということか
何も前に進めていないということか

「…つぎは…うぐっ…つぎは…勝つから…」

ただそれだけ
精一杯振り絞ってだした一言

前田は山本から背を向けると足早にベンチへと帰る
悔しいのではない
哀しいのではない
ただ渡辺相手に何もできなかった自分が虚しいのだ

やりきれない思いを前田は抱いていた
573板設定議論中@自治スレ:2011/09/29(木) 16:57:16.25 ID:S2ebpqS+O
「ありがとう!えぇ試合やったわ」

こちらはピッチャーの渡辺
満面の笑みで佐藤に話しかける
しかし佐藤は終始したを向いたままだった

「マウンドに立ってられるんは一人や」

渡辺が突然真剣な面持ちで言った

「ピッチャーは二人おる、でもなマウンド上で輝いていられんのは一人だけ
勝って笑みを見せれるか負けて這いつくばるか」

その口調からはここまでの渡辺の口調ではなかった

「やからな笑わしてもらうで笑ってられんのは勝者の特権や」

傷心している佐藤に告げる言葉ではないのかもしれない
それでも渡辺は言った
同じ投手として中盤まで好投した称賛として



勝者と敗者
勝負事故、それは必ず生まれる
勝者は次も勝てるよう努力しなければいけない
そして敗者は反省を踏まえ糧としなければいけない
そうどちらも進み続けなればいけないのだ
白球を追いかけ続ける限りそこにゴールはないのである

あれだけ晴れ渡っていた空は日が沈み夕闇に染まろうとしていた
それぞれ新たな課題と悔しさを胸にして帰りのバスに体を揺らす
ねむりつく車内に高橋の声が響いた

「あれ?!あっちゃんサイクルヒットじゃん!」

当の本人はそんなことなどつゆしらず月の光に照らされながら眠りについていた

【完】
574 ◆Wrj/778Rh2 :2011/09/29(木) 17:06:16.88 ID:S2ebpqS+O
当初は夏まで書く気だったのですがなにせ一試合でこの分量
気持ちが折れてしまいました
文章力をもっとつけれましたら続きを書きたいなと思います
最後にここまで保守してくださった方ありがとうございました
575板設定議論中@自治スレ
あげ