【AKB】小説スレ【48】

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338松本氏 ◆Gl3jYdoy9.

ひたすらに走った。とにかく走った。徒に走った。己を痛め付けるように走った。
はっはっはっ、と一定のリズムを刻む呼吸音。いや、走り始めたときに比べれば、幾分速くなっている。
喉の奥がジクリと痛む。

足を止めた。

目の前には、コンビニ。

呼吸を整える。汗で濡れたTシャツが気持ち悪かったが、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
店内を覗き込むと、麻衣が笑顔でレジを打っていた。
今日は休みのはずなのだが、俺と顔を合わせ辛くてシフトを変わったのだろう。
自分勝手な行動をしたことに、軽く舌打ちが漏れた。

深呼吸をした後、扉に手を掛け店内へと入る。

「いらっしゃい…」
言い終わるか前に目が合った。
麻衣の営業スマイルが固まり、悪戯がバレたときのような、気まずい顔に変わった。
目はどこを見ればいいのか判らず、あちこちを泳いでいた。
「…ませ」
言い掛けていた言葉を、数秒遅れで言った。
店内を見渡した後、レジの前にあるガムを手に取り、麻衣のいるレジへ差し出した。
麻衣は、俯いたままガムのバーコードをスキャンする。
「105円になります」
財布から500円を取り出し、レジのカウンターに置いた。
「500円お預かり致します。395円のお返しですね」
麻衣がお釣を差し出す。
その手を無言で取った。
麻衣の手はひんやりと冷たく、柔らかかった。

先程優子にしたように、麻衣の瞳をジッと見つめる。
後ろに並ぶ客の舌打ちが聞こえた。
「お待ちのお客様こちらへどうぞ〜」
何かを感じ取ったのだろう、みなみが隣りのレジを空けてくれた。

終始無言で手を取り合う二人を見て、先程の客は睨み付けるように店内を去った。
みなみの「ありがとうございました」の言葉が終わるか終わらないかのとこで、口を開いた。
「ごめん。そして、ありがとう」
ようやく出た言葉に、麻衣が顔をあげた。
「俺、自分のことばかり考えてて…
何も知らないで麻衣に協力求めてしまって…
今日だって、俺の為に優子ちゃんを代わりに呼んでくれたんだよな?

麻衣は視線だけを下に落とし、黙って聞いていた。
339松本氏 ◆Gl3jYdoy9. :2008/07/16(水) 06:07:02
「俺、告白したよ」
「えっ?」
再び麻衣が顔を上げる。
「そ、そっか。うん、良かったじゃん」
自分に言い聞かせるかのように、麻衣は頷きながらそう言った。
「で、OKは貰えた?」
無理に笑顔を作るその表情は、誰が見ても痛々しく思えるだろう。

「それがさ、返事聞く前に飛び出してきちゃって」
左手で頭を掻きながら、苦笑いした。
「じゃあ、返事聞かなきゃね」
今にも笑顔が崩れそうな麻衣は、俯きそれを隠そうとしながら明るく振る舞った。
「ん〜、でもフラれるかもなぁ…」
受け取ったお釣をポケットに仕舞う。
「なんせ、女の子1人置いて、飛び出してきちゃったわけだし」
はははと空笑いをし、下を向いた。
レジのカウンターのとこに、雫がポタポタと落ちている。
麻衣が俯いたまま、右手で涙を拭う。
それ以上は、何も話さなかったし、喋らなかった。
麻衣の顔に笑顔が戻るまで、ジッと佇んでいた。