別に怒ってた訳ではなかった。
優子が去ったあと、予定にはなかった展開に、少しだけ頭が混乱していただけだ。
ただ、あれ以上麻衣と二人でいると、怒っていなくとも、そういう態度を出してしまいそうで、
そんな自分が耐えられなくて、電話中の麻衣に精一杯の笑顔を作り、一言告げて、店を後にした。
ベッドに寝転がり軽く舌打ちをする。
店を出る間際、麻衣が見せた表情。
驚きにも見える寂しそうな顔。
その表情が脳裏に焼き付いて離れない。
一言、麻衣に謝りたい。
何を?
いきなり謝られても、麻衣は戸惑うだけだろう。
そう、俺は謝るようなことはしていない。
じゃあ、何に謝るつもりだったんだ?
そう、脳裏に焼き付いた麻衣の表情に、あの寂しそうな表情に、謝りたいんだ。
寝返りを打ち、携帯を開く。
メールフォルダの、受信欄には、麻衣の文字が並んでいる。
一つ、開いた。
最後のメール。
『お昼食べたら消えるから』
バレない様に、慌てて打ってくれたのだろう、たった一行だけ簡潔に打たれていた。
やはり謝ろう。
協力してくれたことに対する、謝罪とお礼。
「ごめん」と「ありがとう」。
親指で、ゆっくりと通話ボタンを押した。