オーストラリアのやよい軒 サバ定食が2500円もする理由
THE PAGE 8月13日(水)15時11分配信
定食チェーン「やよい軒」を展開する外食大手プレナス(福岡市)はこのほど、日本食の人気が高いオーストラリアの
シドニーに1号店「YAYOI」をオープンした。料金は「サバ塩焼き定食」が約2,500円。親しみやすいはずの定食店が、
オーストラリアでどうなってしまったのか。
日本のネット掲示板で「やよい軒シドニー店のメニュー高すぎワロタ」などと騒がれていたので、金曜日の昼下がりに
行ってみた。場所は、オーストラリア証券取引所(ASX)に近いシドニー金融街の公園に面した一等地。カモメの舞う
緑地が一望できるガラス張りの店内、白木をイメージした高感度なインテリアに、庶民向けの定食店というイメージは
全くない。場所柄、ダークスーツに身を包んだ証券・金融マン風の客が多く、繁盛している。そうしたエリート層の
週末は、金曜日のランチタイムから始まると言っていい。ほとんどの客は同僚や顧客と昼間からビールやワインを飲み、
優雅な時間を楽しんでいる。
オーストラリアの一般的な飲食店のサービスはお世辞にも素晴らしいとは言えないが、同店は接客のプロが日本式の
きめ細かい対応をしている。この国の富裕層は、味だけではなく、店内の雰囲気、サービスの質も同等に重視して
レストランを評価する。YAYOIはそうした嗜好に合わせ、本家のコンセプトを180度変えた高級和食店だった。
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■周辺の高級レストランより安い
メニューは噂の通り、定番の「サバ塩焼き定食」が26豪ドル(約2,500円)。隣のテーブルのオーストラリア人は、日本の
プレミアムビールを飲みながら、箸を上手に使って「和牛すき焼き定食」(33豪ドル=約3,200円)を食べている。記者は
「前菜4食盛り」(13豪ドル=約1,300円)と「あさり味噌汁」(6.5豪ドル=約630円)、日本産米を使用しているという
「ご飯」(3.5豪ドル=約340円)、同行の上司は「なす味噌とサバ塩焼き定食」(26豪ドル=約2,500円)をそれぞれ注文する。
料理は1品ずつ格調の高い和風の陶器に盛りつけられ、色取りや見せ方がうまい。鰹節や昆布だしの「うまみ」、「一汁三菜」
といった日本の食文化にこだわっているというだけあって味付けはシンプルで、濃い味を好むオーストラリア人に合わせた
現地の一般的な日本食レストランとは一線を画している。ただ、京都人の記者はそれでもやや甘辛いと感じた。会計は
ビール込みで、2人で合計63豪ドル(約6,100円)。客単価もおそらく30豪ドル(約2,900円)前後だが、立地や店構え、サービス、
凝った料理を考えればむしろ妥当だろう。周辺の高級レストランの客単価がざっと100豪ドル以上(約9,700円)であることを
考えると、むしろ安いとさえ言える。
■一風堂の豚骨ラーメンは1,500円
YAYOIの2,500円のサバ定食が高くない理由は、本家とのコンセプトの違いに加えて、日本の2〜3倍高いオーストラリアの
物価水準にある。昼食を簡単に済ませるにも、コンビニでサンドイッチ(4豪ドル=約390円)とコーラ1缶(2.5豪ドル=
約240円)を買うだけで600円以上はかかる。セルフサービスのフードコートでも、飲み物込みで10豪ドル(約970円)以内に
収まればいい方だ。レストランなら低・中価格帯の店でも20〜30豪ドル(約1,900〜2,900円)は下らない。日本の外食大手、
力の源カンパニー(福岡市)が2012年にシドニー市内にオープンしたラーメン店「博多一風堂」では、豚骨ラーメンが1杯
15豪ドル(約1,500円)する。
物価とともに賃金も上昇してきた。ホワイトカラーのマネジャー職の年収は現在、ざっと10万〜15万豪ドル(約970万〜
約1,500万円)といったところ。法定最低賃金も時給16.87豪ドル(約1,600円)と東京都(869円)のおよそ2倍となっている。
つまり、普通のビジネスマンでも2,500円のサバ定食は抵抗なく食べられるし、アルバイトの若者にとっても1,500円の
ラーメンは特に高くないのだ。店側も従業員にそれだけ給料を払っているので、相応の料金にしなければ経営が成り立たない。
出張で訪れる日本のサラリーマンは、口を揃えてオーストラリアの物価は高すぎると言う。確かに、資源ブームを背景とした
息の長い経済成長で、この国の物価と賃金は先進国でも屈指の水準まで上昇した。しかし、決して急激なインフレに悩まされて
いるわけではなく、長期的なトレンドで見ると物価は緩やかな伸びにとどまっている。オーストラリア準備銀行(RBA)によると、
1993年から2013年までに消費者物価は1.7倍になったが、20年間のインフレ率を年率平均で見ると2.7%と、RBAのインフレ
ターゲットである2〜3%内に収まっている。
本家とのコンセプトの違い、また、オーストラリアの経済的背景もあって、サバ定食が2,500円になったわけだが、かつて
日本人は、退職金で物価の安いオーストラリアに家を買って移住し、日本の年金で生活できた。また、日本の物価の高さは
訪日したオーストラリア人の語り種だった。しかし、約20年にわたるオーストラリアの「インフレ」と日本の「デフレ」の
ギャップが、その立場を逆転させてしまっている。
(守屋太郎/日豪プレス特約)
*為替レートは1豪ドル=96.66円(2014年8月12日のTTSレート)