℃-ute七姉妹物語シーズン3

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11号
もしも℃-uteの七人が姉妹だったら?を妄想するドラマ小説スレ。

前スレ
℃-ute七姉妹物語・シーズン2
http://c.2ch.net/test/-/ainotane/1190029714/

前々スレ
℃-ute七姉妹物語
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1179850910/

℃-ute七姉妹物語ログ保管庫
http://cute7sisters.web.fc2.com/index.html

※サイバーテロによって志半ばにして逝った前スレ
℃-ute七姉妹物語シーズン3
http://dubai.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1255008481/
2ねぇ、名乗って:2010/03/10(水) 01:08:28 ID:1aX1ixKj0
℃-ute七姉妹物語とは?

・芸スポ板に立った「鈴木愛理写真集発売スレ」にて、何故か「こんなドラマが見たい」という妄想談義が盛り上がり誕生。
・基本設定は「℃-uteの七人が姉妹だったら?」のみ
あとの設定は書き手次第で自由に。何でもありで描いていきましょう。
・「こんなシチュエーションは萌える」的なネタ投稿も歓迎!
・お話進行時以外は ℃-ute関連なら多少のスレ違いでもOK。
3一号:2010/03/10(水) 01:09:38 ID:1aX1ixKj0
先人に敬意を表し誕生経緯コピペ (鈴木愛理写真集発売スレより)

516 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:10:17 ID:YJRklwbw0
>>512
漏れも
℃-uteは舞美がリーダーのおかげで仲良し姉妹って感じ
ベリは女子中学生の仲良しグループって感じで内部で陰口とか
すごいんじゃないかと疑ってしまう


517 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:14:25 ID:0+zmcOMGO
>>516
姉妹に近い雰囲気があるのは同意
昔あややとかミキティがやってた美少女日記みたいに℃-ute7人でミニドラマやらないかな
母親が他界、父親が海外出張で残された7人姉妹が明るく毎日を暮らすベタな青春物語とか


518 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:16:45 ID:YJRklwbw0
>>>517
>母親が他界、父親が海外出張で残された7人姉妹が明るく毎日を暮らすベタな青春物語
やべぇ、すっごい見てみたいwww
舞美が7人分の洗濯物干してる姿とかマイマイが家出する話とか想像してしまったw
4一号:2010/03/10(水) 01:10:37 ID:1aX1ixKj0
520 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:33:22 ID:YJRklwbw0
>>517
やべぇ、妄想がとまらないw
nkskが学校で勘違いからいじめにあって落ち込むのをみんなで慰めたり、
愛理が男の子に告白出来ずにいるのを姉妹で背中押したりするんだろ?
マジ見てみたい


521 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/19(土) 23:46:45 ID:7o70uFDZ0
アニメ「てんとう虫の歌」の℃-ute版か


522 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:50:03 ID:0+zmcOMGO
>>520
いや、そこまでは考えてなかったw
でも7人ともキャラがバラバラだから脚本は確かに書きやすそうだな
どうせなら
興味半分で電話を立ち聞きしたことから舞美が年上の男と不倫してると誤解した妹たちが心配して探偵気取りで舞美を尾行・相手の男を叱責するも、お相手だと思っていた男は実は舞美のバイト先の店長だった。
みたいなベタベタな話がいいな
5一号:2010/03/10(水) 01:11:44 ID:1aX1ixKj0
523 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:56:57 ID:0+zmcOMGO
>>522の続き
「迷惑かけちゃってごめんなさい、お姉ちゃん…」
落ち込んでひたすら謝る妹たち
「本当に迷惑だよ…もう恥ずかしくてバイト行けないよ!」
怒った様子の舞美
さらに落ち込む妹たち
「でも…みんな心配してくれてありがとね。うれしかったよ。」と優しく声をかける舞美
パッと笑顔になる妹たち
「よ〜し、それじゃあ早く帰ってご飯にしよっか!」

525 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:00:27 ID:YJRklwbw0
>>522-523
オマイ天才・・

>>521
そういえば「てんとう虫の歌」も7人兄弟だっけ
「ひとつ屋根の下」もそうだが、ああいう系統の話って最近見かけないな
6一号:2010/03/10(水) 01:29:27 ID:GkepCWXq0
527 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:14:52 ID:/t3lPlt6O
>>521
そのアニメのことは知らなかったんだがさっきWikiで調べたら俺のイメージにぴったりだった
ただ貧乏暮らしの要素はなくても良いかな
海外出張中の父親から生活費は送られてきているということで


533 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:29:21 ID:u4v3X0sI0
>>517
最高だな、そのドラマ
キューティー探偵事務所よりも面白そうだ
イベント内でやってくれないかなぁ


534 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 00:31:58 ID:7SH/uNtO0
その昼ドラ 7姉妹物語 見たいお!>>517


535 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:35:13 ID:u4v3X0sI0
美少女日記のドラマは正直微妙だったけど、>>517のドラマはマジに面白そう
7一号:2010/03/10(水) 01:30:18 ID:GkepCWXq0
541 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 00:45:26 ID:xFOxjC7t0
長女は舞美なんだろうな 舞美姉さんの争奪戦が凄そうだな


542 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:54:11 ID:/t3lPlt6O
岡井ちゃんとマイマイは舞美姉ちゃんの取り合いで喧嘩しそう


550 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 01:45:56 ID:/t4o6vRl0
妄想好きだから姉妹モノも考えてみたけど
姉妹だと年齢設定がむずかしいよ
特に愛理なかさきカンナ千聖あたり


574 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 12:08:45 ID:u4v3X0sI0
>>550
漏れのイメージでは
長女 舞美(17歳 高2 母亡き後、妹達の母親代わりを務めるべく奮闘するがドジな一面も。妹達を叱るときもかみまくり。)
次女 えりか(16歳 高校中退 クールな現代っ子に見えて実はナイーブな一面も。なんだかんだ文句を言いながらいつも姉や妹をフォローしている。)
三女 早紀(15歳 中3 現実主義の優等生で姉や妹のことを誰よりも心配している。買い物上手で家計をやりくりするのが得意。)
四女 栞菜(14歳 中2 ちゃっかりした性格でイケメンに目がない。他人の色恋話にも目がない。家族のムードメーカー的存在。)
五女 愛理(13歳 中1 女の子らしく優しい性格。あがり症で普段は大人しいが、歌が大好きでマイクを持った途端に性格が豹変する。)
六女 千聖(12歳 小6 男勝りで気が強く、いつもクラスの男子とケンカしては必ず勝利して帰ってくる。家族のトラブルメーカー的存在。)
七女 舞(11歳 小5 奔放な性格で姉妹のマスコット的存在。最年少ながら鋭い指摘で家族のピンチを救うこともたびたびある。趣味はサングラス集め。)
8一号:2010/03/10(水) 01:31:02 ID:GkepCWXq0
七姉妹ドラマは栞菜の夢

(※℃-ute DVD MAGAZINE vol.4より)

从・ゥ・从:舞美「あたしたちが一緒のクラスになることないけどさあ、ドラマとかでやってみたいよね」

ノk|‘−‘): 栞菜「姉妹やりたい!」

从・ゥ・从:舞美「ねー、やりたいよねー。ちょっと、それ夢!」

ノk|‘−‘) :栞菜「姉妹でおんなじ学校がいい!」

ノソ*^ o゚):早貴「楽しそうヤバーイ!!」

ノk|*‘ρ‘) :栞菜「七人全員が姉妹で、学校が一緒で、七人しか住んでないの家に…」



栞菜の「ドラマで七姉妹やりたい」発言その2

(※ハロプロやねん2008年8月4日放送より)

Q:自分が番組を作れるとしたら、どんな番組がいいですか?
自分が出演するドラマとかでもいいですよ。

ノk|‘−‘):栞菜「……なんか、七人のさあ、ドラマ作りたくない?なんか姉妹みたいで」

リ ・一・リ:千聖「あー、家族物語」

ノk|‘−‘):栞菜「『姉妹物語』かな」
9一号:2010/03/10(水) 01:32:29 ID:GkepCWXq0
※シーズン1・エピソード一覧

・長風呂えりかちゃん(えりか)
・ナッキーの選択  (早貴)
・ホワイトボード  (愛理)
・たこ焼きクルリ  (早貴×えりか)
・ショートカット  (千聖+愛理)
・特製カレー    (ALL)
・るてるてずうぼ  (舞美)
・負けないで    (えりか)
・梅の花の咲く頃に (えりか)
・Mother Tells   (舞+千聖)
・雨の日は     (愛理)
・ゴールデン初デート(愛理×栞菜)
・みずいろの物語  (舞美+早貴)
・夏の夜の怪    (ALL)
・超にょう力    (愛理+千聖+マイ+早貴+栞菜)
・季節がめぐるように・・・(早貴×栞菜+熊井くん)
・ワン・モア・タイム(マイ×舞美)
10この辺までテンプレ:2010/03/10(水) 01:33:34 ID:GkepCWXq0
※シーズン2・エピソード一覧

・プレイス   (七姉妹+メグ)
・愛理'sパレット(愛理)
・キューティーセブン(七姉妹戦隊)
・16歳の恋なんて(舞美)
・大きな愛でもてなして (七姉妹+転校生)
・今度はそっち (えりか)
・イメージカラー(未完)
・キュートなサンタがやってきた (七姉妹ビギンズ)
・なっきぃのアンテナ(早貴×舞美)
・不思議な出会い(愛理×カッパの川太郎)
・不思議な出会い〜番外編〜 (愛理×カッパの川太郎・川太郎視点バージョン)
・イタズラ   (舞美×ちさまい)
・いつでも   (千聖×舞)
11一号:2010/03/10(水) 01:56:46 ID:lg03hqr00
しばらくさぼってたけど、次に描きたいテーマが見つかったので自分で立てちゃいました。
逃げられないように、またタイトルの予告だけでも

・銀幕に舞う人は美しく(仮)

これから、前スレと共に消えたエピソードをのんびりコピペでもしながら、
全力で仕上げたいと思ってます。
新しい(羊)でもしばしお付き合いを。
12キュートなサンタが“また”やってきた 1:2010/03/12(金) 21:51:38 ID:F/3tlK3c0

12月24日、時間はお昼を少し回ったころ――、

「あー、マイちゃんあっちあっち、あのチキンも美味しそうだよ!」
「待ってよ千聖、まだこっちはお菓子見てるんだってば!」

クリスマス用の装飾で彩られた、地元の駅前にある小さなショッピングセンターの食品売り場。
親子連れなど、たくさんの買い物客で混み合う人波の中に、千聖とマイの二人はいた。

――今日は、クリスマスイブ。
家では、舞美と愛理が今晩のパーティーのために、協力して手作りのケーキを制作中だ。
そのため、千聖とマイともう一人(?)が、今年はパーティー用の買い出しを任されている。

「ねえ、ちっさー、今日はチキンはいらないって!」

カートを押し、二人の後を少し遅れて歩いていた早貴が声を掛ける。

「えー!?だってこれ美味しそうだよ?」
「でも、向こうでも準備はしてるって言ってたじゃん、たしかチキンも用意してくれるって」
「そっかあ」

千聖が少し不満そうに言う。
今年のクリスマスイブは、去年に続いて、千聖たち姉妹が縁のある児童養護施設へ遊びに行き、
そこでみんなでパーティーを開くことになっていた。
早貴が話を続ける。

「……それに、ちっさーちょっと買いすぎ!もうカートがいっぱいじゃん」
「違うよ、これはマイちゃんがいっぱい入れたんだってば!」
「千聖だよ!」

千聖に追いついたマイが声を荒げる。
13キュートなサンタが“また”やってきた 2:2010/03/12(金) 21:54:17 ID:F/3tlK3c0

「マイちゃん!!」
「千聖!!」
「どっちでも一緒!!……ああ、やっぱりついてきてよかったよ」

早貴が大きくため息をついてみせる。
とにかく気前のいい千聖と、人のお財布からお金を出させるのが得意なおねだり上手のマイ。
そんな二人にお財布を任せると、いつも相乗効果で無駄遣いが加速してしまう。
そのため、お目付け役として早貴が必要なのだ。

「でもさ、人数だっていっぱいいるし、やっぱりお菓子とかたくさんあったほうがいいじゃん」

千聖が言った。
今年は、千聖や早貴たち姉妹が五人、訪れる施設には、友達になったユウちゃんという名の、
千聖や愛理と同じ年齢の女の子と、他に五人の子供たち。三人の先生たちの計十四人がいる。

「大丈夫、これだけあれば充分足りるよ。舞美ちゃんと愛理も待ってるし、レジへいこ」
「ちぇ、はーい」

千聖とマイが声を合わせて答えると、早貴がカートをレジ前の長い列の最後尾に着ける。

「混んでるから、あっちで待ってるね」

混雑するレジを早貴とマイに任せて、その場を離れた千聖は、

(でも、仕方がないんだよなあ、……だって、お買い物は楽しいんだもん)

と、心の中で少しの言い訳をしてみる。
そうだよ、それに自分のお買い物は、基本的に誰かを喜ばせたいからなんだよな。
そのために使うお金は、別に無駄遣いなんかじゃないと思う。
14キュートなサンタが“また”やってきた 3:2010/03/12(金) 21:55:05 ID:F/3tlK3c0

レジを見る。
列は長く、並んでいる人のカートの中身も多いため、早貴たちのレジ打ちはまだ済まない。
少し退屈になった千聖は、ぼーっと辺りを見回してみる。
そして、

「あ!」

横一列に並んだレジの向こうに、赤と緑と白い綿で飾られた特別なコーナーを見つけた。
そこへ歩いていき、千聖は並んでいたお菓子入りのサンタクロースの赤いブーツを手に取った。

「……うわ!これ、懐かしい!!」

思わず声を出してしまう。それを手にしただけで、何だかテンションが上がってしまったみたいだ。
白くて細かい網に包まれたお菓子が、ブーツの口の遥か上にまで溢れている。見えているのは、
普段も買えるようなお菓子ばかりなのに、この赤いブーツに入っているだけで、何でこんなに
特別なものに見えるんだろう。見ているだけで、すごくわくわくしてしまう。
まるでクリスマスの魔法みたいだ。

(……そうだ。だって、これ、小さいときに欲しくてしかたがなかったんだ)

千聖は、ずっと昔のことを思い出した。

お買い物に来て、お菓子の入った赤いブーツを、ずっと見上げていた小さいころの自分。
それでも“こんなもの”すらも買ってもらえず、怒声に近いがなり声に急き立てられて、
ときには頭を叩かれて、その場を離れるしかなかったあのときのクリスマス――。

「千聖!」「ちっさー、お待たせ!」

レジを終え、両手に買い物袋を下げたマイと早貴が声を掛けてきた。
15キュートなサンタが“また”やってきた 4:2010/03/12(金) 21:56:01 ID:F/3tlK3c0

「……もう二人とも、遅いってば!」怒る千聖に
「混んでたんだから仕方ないじゃん!」マイが言い返す。

しかし、強気な言葉と裏腹に、悲しい思い出に捕らわれて涙が出そうになったときに、
救いの声を掛けられたようで、千聖は少しほっとする。

「ごめんごめん。さ、行こ!」

早貴が二人を促し、その場を後にしようとする。
すると、

「ちょっと待って」

千聖が言い、後ろを振り向く。「……千聖さあ、実はこのブーツも買いたいんだ」
お菓子入りのブーツが並んだ棚を指差す。

「ええ?」
「まだ買うの?」
「うん……お願い、千聖が自分のおこずかいで買ってもいいから!」

千聖の哀願するような目に、マイが「……しゃーない」と答える。
早貴が「うん、じゃあ……いって来(き)!」笑顔で答える。

「……ありがとー、じゃあ待ってて!」

千聖が、ブーツを六つ両手で抱えると、そのままレジへ向かった。
無駄遣いは、決して自分のためじゃない“他人思い”の千聖を、実は知るマイと早貴がそれを見守る。
少しして、

「えへへへへ、買ってきちゃった。みんな、喜んでくれるかなあ?」
16キュートなサンタが“また”やってきた 5:2010/03/12(金) 21:57:25 ID:F/3tlK3c0

施設で待つ子供たちの数である、六つのブーツを入れた大きな袋を下げて千聖が戻ってきた。

「さ、今度こそ行こ」

早貴が言い、千聖も満足げに頷く。
帰ろうと、赤いブーツが並んだ売り場の横を再び通りかかったとき、千聖はその子とすれ違った。

幼稚園くらいの年齢だろうか、この季節には、もう寒いんじゃないかと思える、薄くて、たけが短い、
いかにも着古したような上着姿の女の子が、お菓子の入った赤いブーツをじっと見つめている。
千聖は立ち止まり、そして、目を奪われた。

(……あのときの、千聖みたいだ)

千聖は、いたたまれない気持ちになって女の子を見つめる。「……千聖?」早貴とマイが、
立ち止まっている千聖を振り返る。しかし、千聖の様子を見て、それ以上の声が掛けられない。

そのまま、ほんの少しの時間が過ぎた。
そこに、小学校の中学年くらいだろうか、やはり上等とはいえない洋服を身に纏った男の子が
やってきた。女の子を見つけて「……行くぞ」とぶっきらぼうに声を掛けて、その手を握った。
手を引かれて、その場を去ろうとしている女の子が、振り返ってずっとブーツを見つめている。

「……ねえ、ちょっと待って」

いきなり声を掛けられた男の子と女の子が、怪訝そうな顔で千聖を見上げる。

「これさあ、よかったらあげるよ」

千聖が、下げていた袋から赤いブーツを一つ取り出し、それを女の子の前に差し出す。
ブーツを受け取った女の子が驚きの表情でそれを見ている。「……でも」男の子が口を開きかける。
17キュートなサンタが“また”やってきた 6:2010/03/14(日) 20:33:59 ID:H6PYo0Y/0

「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」

千聖が笑顔で男の子にもブーツを渡すと、とまどっていた女の子も千聖を見て笑顔になる。
その顔を見て(あはは、よかった!)と千聖は嬉しくなった。

しかし、次に険しい表情で男の子が口を開くと、その言葉に、千聖の気持ちが一気に打ちひしがれた。
クリスマスイブの楽しい気分が、一瞬で吹き飛ばされてしまった。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま……」

玄関を開ける、千聖の声が力無く響く。

「おかえり、ちっさー!」
「ねえ、また買いすぎちゃったりしてないでしょうね?」

リビングへ入ってきた千聖を出迎えた愛理と舞美が、手に何も持っていない千聖に「え……!?」と
驚きの声を上げる。

「……ねえ舞美ちゃん、千聖は今日パーティーに行かない」
「えええ……!?」
「……千聖は、今年はプレゼントも何もいらないから……」

千聖は、そういうとリビングを出て、どたどたと音を立てて二階への階段を駆け上がっていった。

「待ってよ、ちっさー!!」

いっしょに帰ってきていたマイが、抱えていた大きな荷物をどんっとテーブルに置き、
千聖に続いて二階へ上がっていった。
18キュートなサンタが“また”やってきた 7:2010/03/14(日) 20:34:57 ID:H6PYo0Y/0

「え、え、え、ちょっと!?」愛理が戸惑い、「ねえ、ちっさー、どうしちゃったの!?」
舞美が心配気に、千聖がいる二階の天井を見上げた。

「実はね……」

舞美と愛理の横に、サンタクロースのブーツが六つ入った袋を抱えた早貴が立っていた。
早貴は、さっき横で見ていた千聖と男の子の様子を二人に話しはじめた――。


「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」

そう言って千聖が男の子にブーツを手渡したとき、男の子が口を開いた。

「いいです、いりません。すいません……ありがとうございました」

男の子は、自分がもらったブーツを千聖に返すと、深く頭を下げた。そして、
女の子が持っていたブーツを「ほら!」と取り上げて、それを千聖に差し出した。

「え!?……ねえ、遠慮しなくてもいいよ」

千聖が、少し戸惑いながらも笑顔を作り、女の子に再びブーツを渡そうとする。
しかし女の子は、下から千聖と男の子の表情を見比べて、それに手が出せないでいる。
「いいよお、あげるってば」千聖の言葉に、男の子は「いえ」と首を横に振る。
その頑なな態度に、千聖が少し困った顔になる。しばらく軽い押し問答が続いたあと、

「もう、いらないって言ってるじゃん!……オレらが、貧乏だからって……バカにすんなよな!!」
「ええ……!?」

男の子が怒気を含んだ荒い口調で言うと、女の子の手を強引に引いて、足早にその場を
去っていってしまった。「ちっさー……」早貴とマイが、ポツンと立ちつくす千聖に近寄る。
千聖の、笑顔の消えた表情が、少し青ざめて見えた。
19キュートなサンタが“また”やってきた 8:2010/03/14(日) 20:37:15 ID:H6PYo0Y/0

「そんなことがあったんだ……」

早貴の話を、神妙な顔で聞いていた舞美が言う。

「でね、マイちゃんと二人で励ましながら帰ってきたんだけど、ちっさー、
 ずーっと俯いたままで、何にも喋んないんだもん……」
「……で、帰ってきて、落ち込んでアレかあ」

舞美が、再び天井を見上げる。

「でも、ちっさーは親切で言ったんでしょ?それなのにさあ、バカにすんなは言い過ぎだよ!」

ずっと心配そうな顔で話を聞いていた愛理が、次には我が事のように憤ってみせる。

「……そうだよね、千聖は悪くないんだし、元気出してもらわなきゃ。
 だって今日は、せっかくのパーティーなんだし」

舞美が、テーブルの上のケーキと、たくさんのお菓子に目を向けて言った。


「ねえ、ちっさー、そんなに落ち込まないで元気出してよ」

舞美が、二階の自室のベッドに潜り込み、布団の中で膝を抱えて横になっていた千聖に話しかける。
傍らに座る早貴と愛理とマイが「そうだよ!」「ちっさー!」と思い思いに声を掛ける。

「ちっさーは、もちろん悪気があった訳じゃないんでしょ?そんなに気にすることないって」
「……うん」

布団の中から、小さな声が返ってくる。
20キュートなサンタが“また”やってきた 9:2010/03/14(日) 20:38:29 ID:H6PYo0Y/0

「じゃあ、いっしょにパーティーに行こうよ。……ほら、今年はえりも栞菜もいないのに、
 千聖までいなかったらホームの子供たちが寂しがるよ?」
「うん。……そうだね」

被っていた布団をめくり、千聖が顔を出した。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

お出かけの準備を終えた、午後三時近く――。
千聖たち五人は、手作りのケーキと、用意したパーティーグッズやたくさんのお菓子、
六つのサンタのブーツを持ってバスに乗った。

バスの中では、みんなが努めて明るく振る舞い、接してくれてるのが千聖にはわかった。
みんなに、気を使わせているのは悪いと思う。いつものように明るく笑おうとする。
それでも、会話と会話の、ほんの隙間にも千聖の表情は沈んでしまう。

昼間の男の子の言葉が、頭から離れてくれない。
どうやら、そんなに簡単に気持ちは切り替えられないようだ。


「おお、みんな、よく来てくれたなあ」

バスを降りた五人を、白い頭の年配の男性と、千聖と同じ年頃の女の子が出迎えてくれた。
千聖たちが“おとうさん”と呼び慕う人、小さかった千聖たちを預かり、“姉妹”として
育ててくれた虹沢と、彼が現在営むホームの“長女”であるユウちゃんだ。

「おとうさん!ユウちゃん!」

思わぬ出迎えに、みんなが笑顔になる。「みんな、いらっしゃい!」ユウが両手を振って答える。
去年、初めて訪れてから、何度か遊びにきていて、ユウちゃんとはすっかり仲良くなった。
21キュートなサンタが“また”やってきた 10:2010/03/14(日) 20:41:07 ID:H6PYo0Y/0

「ごめんね、寒いのに待っててくれたんだ?」

舞美が訊くと、

「ううん、お買い物のついでに、そろそろ来るんじゃないかってバス停に寄ってみたの。
 そしたらちょうど」

ユウは、小脇に雑誌が入った大きさの書店の包みを挟んでいた。
「さあ、行こうか」虹沢が笑顔で言う。「他の子たちも、みんな楽しみに待ってるんだぞ」」
促されて、みんなも笑顔でうなずく。そのまま、みんなで歩いていると、

「……ねえ、千聖ちゃん、今日はどうかしたの?」

千聖の方を向き、ユウが訊いた。

「え……、どうかしたって、何で!?」
「だって……いつももっと馬鹿みたいに元気に笑ってるのに」
「ちょ、……馬鹿みたいにって」
「あ、ごめんね、つい本音を」

ユウが、悪戯っぽい笑顔を見せた。
大人しそうに見えたユウちゃんは、仲良くなっていくにつれ、その可愛い外見とは裏腹に
言葉に遠慮が無くなっていった。それでも、許されるキャラをユウちゃんはしている。

「別に、何もないって」

遠慮をする仲ではなくなったことで、やはり千聖もぶっきらぼうに答える。
そこで始めてユウも「そう……」と真面目な顔になる。その顔に、少し千聖の心が痛む。
でも、仕方ない。せっかくの楽しいイブに、こんなことをユウちゃんに言うつもりはない。
ユウちゃんの気持ちまで暗くしてしまう。
22キュートなサンタが“また”やってきた 11:2010/03/19(金) 19:20:44 ID:kajur2D00
ユウちゃんには、日をあらためて話して謝ろう、と千聖は思った。


少し歩いて、ホームに着いた。民家を利用した、グループホームと呼ばれる児童養護施設だ。

「みんな、来たぞお」

玄関を開け虹沢が声を掛けると、「わああ!」という歓声とともに小学生の男の子が三人、
先頭を争うように飛び出してきた。そのあとを、小学生の女の子が一人、中学生の女の子が一人、
ゆっくりと歩いてきた。
「いらっしゃい!」と笑顔で言う女の子たちの丁寧な言葉を、

「千聖だあ!」「遊ぼう!」

千聖を見つけた男の子たちの大きな声がかき消した。

「ちょっと……お前ら、年上を呼び捨てにすんなよお」

千聖の言葉を、男の子たちは気にする様子もなく、ニコニコと笑っている。
……まったく、ユウちゃんといい、どうしてここの子供たちはみんな遠慮がないんだ。
でも、千聖は許してやることにした。だって自分も、言葉とは裏腹に、今はすごく笑っているから。
ひとまずの笑顔を見せた千聖は、昼間に出会った男の子と同じくらいの年頃の、この子たちの
屈託のない笑顔に感謝した。

それから千聖たちは、パーティー会場になっている広間へ通された。
去年と同じようにツリーが置かれ、クリスマスらしい飾りつけで部屋が彩られている。
長方形の低いテーブルを縦に繋げ、その上にたくさんのお菓子やパーティートイが用意してある。
ここでも「いらっしゃい」と、準備をしていた男女の先生に迎えられた。

「じゃあ、みんなが揃ったから、今年もメリークリスマスだ」

みんなでテーブルを囲むと、虹沢が嬉しそうに言った。
23キュートなサンタが“また”やってきた 12:2010/03/19(金) 19:21:31 ID:kajur2D00

「待って待って、実は……ケーキを作ったの」

ユウと女の子たちがキッチンへ行き、手作りのケーキを手に戻ってきた。

「あたしたちも。はい、ケーキ、今年も作ってきたの」

舞美がケーキをテーブルに並べる。「今年は普通のケーキだけどね」虹沢を見て悪戯っぽく笑う。

「じゃあ、あれは今年はやらんのか?……ほら、去年のハンドベル」
「あ……ごめんね。今年は、愛理が何だか忙しくなっちゃって、練習ができなくて……」

舞美が言い、横で愛理が申し訳なさそうな顔をした。すると、

「知ってる!愛理ちゃん今度デビューするんでしょ?」

ホームの小学生の女の子が瞳を輝かせて言い、みんなが歓声を上げた。

歌手を目指していた愛理は、あえて普段着で、ある歌手オーディションに挑戦した。
結果はグランプリこそ逃したものの、愛理は最終選考まで残ることができた。そして、
研修生としてレッスンを受けることになった。現在、愛理を含む十数名がデビュー候補生として、
レッスンに励む日々が続いている。

「いやあ〜、そんなそんな……わたしなんて、まだまだだってば!」

照れて、手をバタバタさせて答える愛理を、さらにみんなで「ひゅー」と冷やかす。
そして、愛理をはやし立てる声が一段落したとき、

「……ハンドベル、本当はねえ、舞美ちゃんが無くしちゃったから今年はできないんだよ」
「ちょっと、マイっ……!?」

マイが、舞美の隠していたことをバラした。ホームのみんなが「えー!?」と声を揃えた。
24キュートなサンタが“また”やってきた 13:2010/03/19(金) 19:22:17 ID:kajur2D00

「……ねえ舞美ちゃん、どうするの?あれ大事なハンドベルなんだよ!?」

さらに早貴が意地悪に問いつめる。

「帰ったら、もう一回ちゃんと探すってば。……でも、おかしいなあ!?
 たしかに、あそこに片付けたと思ったのにさあ……」
「舞美ちゃん、ドンマイ!」

舞美のミスをバラした張本人のマイが白々しく励ます。その口の端が、ひくひくと上がっている。
(ダメだよ、笑っちゃあ……)とマイを見て千聖は思う。
でも、そういう千聖にも、マイの気持ちが痛いほどわかってしまう。

(……もう、笑ったらバレちゃうでしょう!)

早貴と愛理も、虹沢とホームの子供たちも、理由を知っているみんなの顔が少し笑っている。
狼狽している舞美ちゃんは可哀想だけど、ホントのことを伝えるのはまだ先みたいだ。

「いいじゃない。今年は、わたしがピアノを弾くから、『きよしこの夜』みんなで歌おう」

ユウの提案にみんなが賛成して、ユウが部屋の隅にあるピアノに向かう。
用意してあった小さなろうそくをケーキに立てて、火を灯してから、部屋の明かりを消す。
ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が、みんなの顔をほのかに浮かび上がらせる。
厳かな雰囲気の中、ユウのピアノに乗せて、みんなの歌声が重なる。そして、

「メリー・クリスマス!!」

部屋の明かりが点くと、みんなで一斉にクラッカーを鳴らし、パーティーが始まった。
「いっぱい食べてね」と、サンタの帽子を被った舞美がユウと協力してケーキを切り分ける。
「お菓子もいっぱいあるからサ」早貴と愛理が菓子の袋を開けて並べる。マイに「千聖!」と
肘でつつかれ、「……これも、あるんだ」千聖が、サンタのブーツをそっと出す。
25キュートなサンタが“また”やってきた 14:2010/03/19(金) 19:24:33 ID:kajur2D00

「うわあ!」「ありがとー!」「可愛い!」と、みんなが喜んで受け取ってくれる。
「ほら千聖、よかったじゃん」マイがこっそりと言い、「うん」と千聖が小さく頷く。
たくさんのチキンピースと、オードブル料理を盛り付けた大きな皿がいくつも運ばれてきて、
ケーキの横に並べられる。「わあ、美味しそう!」と、みんなが手を伸ばす。

「……ちょっと、君たちは千聖と遊ぶんでしょ?」

千聖が、ケーキをほお張っていた男の子たちに声を掛ける。
「あ、あれやろうよ!」千聖が置いてあったジェンガを指さす。「あたしもやりたい!」と、
小学生の女の子も加わり、みんなでテーブルの端にジェンガを積み上げる。
「負けた子はさあ、罰ゲームありだからね」千聖が嬉しそうに言い、子供たちが「えー!?」と
声を上げる。

「うはははは!!」ジェンガが崩れる音に続き、千聖の明るい笑い声が部屋に響く。
早貴と愛理が千聖の方を見て、ほっとしたように微笑んだのがわかった。
(今日は心配かけちゃってごめんね)と千聖は思う。これで、みんなはもう安心しただろう。

――でも、自分のこの気持ちはいつ晴れるんだろう。
嘘でも、こうして笑っていないと思い出してしまう。そして、落ち込んでしまうんだ。
再び、暗い気持ちに陥りそうになった千聖は、また無理に声を上げて笑ってみせた。


「ねえ、千聖ちゃん」
「ん……?」

パーティーが始まって、しばらく経ったころ、ユウが声を掛けてきた。
千聖と遊んでいた子供たちは、今はテーブルのご馳走やお菓子に夢中になり、それぞれが
散りぢりになっている。ユウは、千聖が一人になるタイミングを見計らっていたようだ。

「今日、元気が無かった訳、マイちゃんから聞いた」
26キュートなサンタが“また”やってきた 15:2010/03/19(金) 19:25:18 ID:kajur2D00

……あの、おしゃべりめ。千聖が目で追う。視線に気付いたマイが、とぼけて顔を逸らせる。

「ああ、ごめんねさっきは。でも、もう大丈夫だから」
「うそ!」
「え……!?」きっぱりと言い切るユウに、千聖がたじろぐ。

「ねえ、何でそんな言い切れちゃうのさ?」
「だって、千聖ちゃんだけ、さっきからケーキもお料理も何も食べてない」
「えええ!?……何で、そんなとこ見てるのさ」
「手作りケーキだもん。食べて、美味しいって言ってもらえるかどうか気になるじゃない?
 なのに、見てたら千聖ちゃんだけ食べてくれなかった。ケーキも、それからお料理も」

そうか。見られてたんだ。千聖は、少し驚いた顔でユウを見る。
ユウが続ける。

「ねえ、千聖ちゃんらしくないよ?そんなにいつまでも落ち込まなくてもいいじゃん。
 千聖ちゃんは、その子たちのことを思って『あげるね』って言ったんでしょ?
 だったらもういいじゃない。その男の子だって、きっといつかわかってくれるよ」
「ううん、そうじゃないの」
「え……!?」
「千聖が落ち込んでるのは……その男の子のことじゃないんだ」
「え、そうなの!?」

今度は、ユウが驚く。

「じゃあ、どうして?」
「もちろん、その男の子がきっかけなんだけどね…………」

千聖は、少し黙ったあと、(ユウちゃんになら、言ってもいいか)と口を開く。

「……ねえ、ユウちゃんは、サンタクロースって信じてる?」
27名無し募集中。。。:2010/03/23(火) 15:31:34 ID:wLw4jCND0
やっと見つけました…
まとめサイトのURL変更とかできないのかなぁ
28ねぇ、名乗って:2010/03/28(日) 20:50:09 ID:1485v5zb0
あんまり更新できないから
もう「知る人ぞ知る」でいい気が
29キュートなサンタが“また”やってきた 16:2010/03/28(日) 20:52:46 ID:1485v5zb0

「サンタクロース……?」
「そう、サンタクロース」
「うん……信じてる。きっと、いると思うよ」

突然の質問に戸惑いながらも、ユウは真剣に答えてくれる。
「千聖ちゃんは……」そして、今度は千聖が訊かれる。「信じてないの?」

「千聖はねえ、信じてるよ。ずっと小さい頃から」
「うん」
「でもねえ、サンタさんって不公平なんだよ」
「え、どうして?」
「だってさあ、小さい頃ね、千聖の家にはサンタクロースが来てくれなかったんだ。
 ……お友達の家には、みんな来るのに、千聖のお家にだけ来てくれなかったんだ」
「…………」
「それはねえ、きっと千聖が悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ったんだ」
「ええ!?そんなことないよ!」
「ううん、違うの。でね、ある年のクリスマスに、悔しくって、お友達と喧嘩しちゃったんだ。
『サンタなんかいないんだ』って。そしたら、家に帰って、いっぱい叱られたの。
『お前は悪い子だ』って」

けっして、思い出したくない昔のこと。千聖の胸の奥が痛くなる。
でも、ユウが黙って話を聴いてくれている。千聖は血を吐くように言葉を続ける。

「ごめんなさい、いい子になりますって謝っても許してくれなくて、いっぱいいっぱい
 叱られて……」
「千聖ちゃん……」
「それから少しして、千聖は虹沢のおとうさんの家で暮らすことになったんだけど……」

千聖は、チラリと向こうにいる虹沢を見る。ユウには説明しなくてもわかるだろう。
現在、虹沢が営む養護施設に暮らすのがユウを含む子供たちだ。
30キュートなサンタが“また”やってきた 17:2010/03/28(日) 20:54:22 ID:1485v5zb0

「そしたら、千聖にもサンタさんが来てくれるようになったんだ」
「そう……よかったじゃない千聖ちゃん」
「うん。でね、舞美ちゃんや、なっきぃや、みんながいて、毎日もすごく楽しくなって」

それまで辛そうだった千聖の顔に少しの笑みが戻る。「うん」ユウもつられて笑顔で頷く。

「……でもさあ、やっぱりサンタさんは不公平だと思ったんだ」
「どうして?」
「だって千聖はさ、いい子になったわけじゃないんだよ?
 みんながいると楽しくって、つい調子にのっちゃって、いっつもマイちゃんと喧嘩したり、
 悪戯して愛理を泣かせちゃったりして、ちっともいい子になってないのに、サンタさんが
 来てくれるんだよ?」
「それは……関係ないよ」
「ううん、千聖はさあ、ずっと悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ってたの。
 それなのに、いい子じゃないのに、サンタさんが来てくれるんだよ?やっぱり不公平だって」
「……いいじゃない。許してあげなよ。サンタさんだってきっと忙しかったんだよ。
 それに、千聖ちゃんは悪い子じゃないよ。だって、それまでずっと我慢してきたんでしょ?
 サンタさんは、そんな千聖ちゃんを見つけて、助けてくれたんだよ」
「ううん、違う。それじゃ、やっぱり不公平だよ!」

千聖の声が強くなり、ユウが驚く。
そのまま下を向いた千聖が、次の言葉を小さく捻り出す。

「じゃあ、何で千聖ばっかり?」
「え?」
「千聖ばっかり助けてくれて、他の子は助けてくれないんだろうって思ったの」

千聖の頭に、昼間に出会った兄妹が浮かぶ。小さかった自分を思い出す。

「千聖にはさあ、サンタさんも来てくれるようになって、優しいみんながいつも助けてくれて、 
 欲しかったお菓子のブーツだって、何も考えずにいっぱい買えるようになって……」
31キュートなサンタが“また”やってきた 18:2010/03/28(日) 20:55:43 ID:1485v5zb0

「千聖ちゃん……」
「でも、日本にはまだサンタさんが来てくれない子って、きっといると思うんだ。
 ううん、それだけじゃなくって、欲しいものも買ってもらえなくて……もしかしたら
 ご飯も食べられないっていう子だって、いっぱいいるかもしれないんだ……」

日本の、いや世界のどこかに、小さい頃の千聖のように苦しんでる子がいるかもしれない。
それを想像するだけで、千聖の胸が苦しくなる。

「……それなのにさあ、千聖だけが助けてもらって、パーティーなんていって楽しんじゃ
 いけないって思ったんだ」

目をつぶると、涙が滲む。いけないと思って、すぐに手の甲で拭う。
周りを見渡す。舞美と早貴が、虹沢のおとうさんと笑いながら話をしている。愛理とマイと
子供たちが、きゃあきゃあ言いながらプラスチックの小さな樽に剣を刺して遊んでいる。
みんなが楽しそうでよかったと思う。でも、自分は今日は楽しまないと決めた。
テーブルの上の料理を見る。でも今日だけは我慢しようと、ぎゅっと口を結ぶ。
ユウが、そんな千聖を見て口を開く。

「千聖ちゃん……マリア様みたい」

感心したように言うユウに、千聖は疑問をぶつける。

「え、誰それ?歌手?」
「えええ、知らないの!?」
「えええって、ねえそんなに可笑しい!?」
「だって、クリスマスなのに」
「クリスマスだろうと知らないものは知らないじゃん!ねえそれ誰よ!?」

千聖の声が大きくなると同時に、お腹の音がぐぅと鳴った。
「ぷっ……あはははは!!」と、二人が同時に笑い声を上げる。
32キュートなサンタが“また”やってきた 19:2010/03/28(日) 20:56:53 ID:1485v5zb0

「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」

そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。

「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」

少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。

「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」

くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑って続ける。

「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したよ?」
「去年?」
「うん。七人の可愛いサンタさんが、突然やってきたんだ」

ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。

「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
33ねぇ、名乗って:2010/03/30(火) 21:36:39 ID:p91goiI60
何にも考えないでコピぺしてたら前スレで間違えたのをそのまま貼ってしまってた・・・
以降正しい19〜を貼ります

あと、基本人稲の一人よがりのスレでも「羊の下の方でこっそりやってる分にはいいか」と思ってたんですが
スレッド数がこれだけ減っちゃうと「やってていいのかな・・・」と多少気まずかったりしますね
でももうちょっとやりたいです
「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」

そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。

「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」

少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。

「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」

くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑い、
そして付け足す。「……感動とか」

「感動……!?」
「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したんだ。
 すごく可愛い七人のサンタさんが突然やってきて」

ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。

「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
35キュートなサンタが“また”やってきた 20:2010/03/30(火) 21:39:44 ID:p91goiI60

ユウが、みんなの方を向いて言う。テーブルの上で、黒ひげ人形が樽から飛び出し、
キャアと言う歓声が上がる。それを合図にしたかのように、

「ユウちゃん」

テーブルの向こうの虹沢から声が掛かる。「そろそろ、やろうか?」
ユウが「うん!」と頷き、「じゃあ、見ててね」と千聖に言って立ち上がる。
同時に、テーブルを囲んでいたホームの子供たちが立ち上がる。「えへへ」「じゃあね」と
悪戯っぽく笑い、この部屋と隣室を隔てるふすまを小さく開けて、その暗い隙間へと消えていく。

「え……なに!?なに!?」

ユウを含む子供たちが全員隣室へ消え、閉じられたふすまを見て舞美が声を出す。
そんな舞美を、早貴と愛理とマイがニヤニヤしながら見守っている。事情を知っているのは、
千聖も同じだ。「いいから、見てなさい」と虹沢が舞美に言う。少しの時間が経って、

「じゃーん!」

男の子の声と同時に、勢いよくふすまが両側に開く。部屋が、明かりの点いた隣室と繋がる。
視界に、真っ赤なクロスで覆われた横長のテーブルが飛び込んでくる。テーブルの上には、
ハンドベルが横一列に整列をするように置かれ、その後ろにはユウたち六人の子供が並んでいる。

「今年は、去年のお返しに、わたしたちがハンドベルを演奏したいと思います」

代表してユウが言う。みんな、サンタの帽子を被り白い手袋をはめている。

「え!?え!?え!?……うわあ!」

事態を呑みこんだ舞美が驚きの声を上げる。そして「ねえねえねえねえ……あ、あれ!?」
周りを見渡して、驚いているのが自分だけなのに気付く。「……何で!?」
36キュートなサンタが“また”やってきた 21:2010/03/30(火) 21:40:55 ID:p91goiI60

「早貴たちは知ってたもん。ねー」早貴が言い、愛理が「うんうん」と頷く。
「でも、どうして知ってるの?」不思議そうな顔で舞美が訊く。

「だって、あれ、ウチのハンドベルだもん」

マイが、ハンドベルを指で差して答える。

「どういうこと?だってあれ、わたしが無くしちゃったって……」
「ううん、舞美ちゃんが片付けたのを、こっそり貸してあげてたの」
「ええ!?じゃあ……」
「うん、舞美ちゃんは無くしてなんかいないよ」

マイが愉快そうに言い、舞美と千聖を除くみんなが悪戯っぽく微笑む。

「えええ!?ねえ、ひどいひどいひどいひどい!!」

ようやく事態を把握した舞美が声を上げると、

「去年のクリスマスには、驚かされたからな。仕返しだ」

その意地悪な言葉とは裏腹に、虹沢の温和な顔が優しくほころぶ。そして、

「ごめんね舞美ちゃん、わたしがみんなにお願いしたの。去年、舞美ちゃんたちのサンタと
 ハンドベルに感動しちゃって、今年はどうしても自分たちがサンタになってお返しをしたくて」

ユウの言葉に、舞美が「え、そんなそんな……」と少し照れて答える。
「……ね、嬉しいじゃん舞美ちゃん」早貴が舞美の顔を覗きこむ。舞美の顔に笑みが戻ったのを
確認して、ユウに目で合図をする。ユウが、小さく頷いて口を開く。

「去年の感動を伝えたくて、この曲を選んでみんなで練習しました。
『サンタが街にやってきた』聴いてください」
37キュートなサンタが“また”やってきた 22:2010/03/30(火) 21:41:39 ID:p91goiI60

ユウの声をきっかけに、子供たちの演奏が始まった。ハンドベルの、澄んだ綺麗な音色が
部屋の中に響く。やっぱりハンドベルの音はいいな、と千聖は思う。
千聖は目をつぶり、メロディに聴き入る。歌詞が、自然と頭に浮かぶ。

『――さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス
 サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』

昼間、出会った兄妹を再び思い出す。
今夜、あの子たちの家に、ちゃんとサンタさんは来てくれるのかな?

『――ねぇ 聞こえてくるでしょ 鈴の音がすぐそこに
 サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』

あの子たちだけじゃない。きっと世界中にいる、様々な問題を抱えて悩んでいるような
子供たちのところにも、サンタさんは公平に来てくれるのかな?

『――待ちきれないで おやすみした子に きっとすばらしいプレゼントもって
 さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス 』

ううん。サンタさんは来てくれても、もしかしたら問題は解決しないのかもしれない。
さんざん悩んでみたけれど、自分にしてあげられることもありそうに無い。
それでも……、

『――サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』

それでも、
いつか、みんなが幸せになって、笑って過ごせる日がくるといいな、と千聖は願う。
演奏が終わり、変わりにみんなの拍手と歓声が鳴り響く。部屋が、温かい雰囲気で包まれる。
千聖も、いつの間にかこぼれていた涙を拭って思い切りの拍手をする。
38キュートなサンタが“また”やってきた 24:2010/04/02(金) 21:34:04 ID:lY1W+6rU0

無事に演奏を終えられた子供たちが、拍手を受けて満足気な笑みを見せている。
代表して「ありがとう」と答えたユウが、「……舞美ちゃん、ごめんね。ハンドベル、
帰るときには持って帰ってね」と舞美に頭を下げる。「ううん、こちらこそありがとう」と、
舞美が素敵な演奏へのお礼を返す。そして、

「えへへへ、どうだった?」

ユウが千聖の横へ戻ってきて訊いた。「なんかさあ、素晴らしかった。なんか、感動しちゃった」
うまく言葉にできないのがもどかしいけど、千聖は感じたままを口にする。

「うん。音楽っていいよね。人を感動させられて、元気にしてあげられて。
 ……ねえ千聖ちゃん。まだ元気が出ない?落ち込んだまま?」

ユウの質問に、少し考えて、「ううん」と首を横に振る。「でも……」さっき、ユウが言った
言葉を思い出す。「自分にできることなんて、やっぱりわからないよ」
そのとき――、

「じゃあさあ、今年も去年みたいに、みんなでカラオケやろうよ!」

演奏の余韻で高揚した気分そのままに、早貴が声を上げた。
「待ってて、新しいのを買ってもらったんだ!」と中学生の女の子が、部屋にあるテレビ台の
下から、コードに繋がった新しいマイク型カラオケを引っ張り出す。
「去年は、楽しかったからなあ。今年は、もっと何でも歌えないかと思って買ったんだ」
そして「奮発したんだぞ」と虹沢が自慢げに言う。

「わたし、愛理ちゃんの歌が聴きたい!」

パーティー前に愛理のデビューを訪ねた女の子が、手を上げて言った。「いやいやいやいや、
ちょっとちょっと……」マイクを握らされた愛理が「じゃあ、順番だよ」と照れながら言う。
39キュートなサンタが“また”やってきた 24:2010/04/02(金) 21:37:48 ID:lY1W+6rU0

「ねえ千聖ちゃん」

こちらでは、ユウが千聖に話しかける。

「……前にね、愛理ちゃんの夢の話を聞いたとき、すごいって思ったの」
「歌手に、なりたいってこと?」
「うん。それで、歌で世界中の人を感動させられるようになるといいなあって」

何だそれ、初めて聞いたぞ。
愛理は、ユウちゃんに、そんな話をしていたのか。
自分には何も言ってくれなかったことに少し腹が立ったが、すぐに思い直した。
きっと自分が、ユウちゃんにしか落ち込んでいる理由を言えなかったのと同じだ。
近すぎると、恥ずかしくて言えないことがあるんだ。

「わたしも、愛理ちゃんみたいになりたいなあって思ったんだ」

そういえば、去年カラオケで聴いたユウちゃんの歌も上手かったなあと千聖は思い出す。
テレビから愛理が選んだ曲が流れ出した。二人で拍手をする。愛理の歌が始まった。

「……もしさあ、そんなことができたら、すごいと思わない?」

歌を聴きながら、ユウが千聖の耳元で言う。「そんなこと?」聞き返す千聖の声が、
カラオケに音に負けないように少し大きくなる。

「ほら、あったじゃない。自分でもできること!」
「え……!?」
「歌を届けて、世界中の人を感動させられるんだよ?それって、本当のサンタクロース
 みたいじゃない!!」
「ああ!!」
40キュートなサンタが“また”やってきた 25:2010/04/02(金) 21:38:48 ID:lY1W+6rU0

ユウの話を聞き、目の前で歌う愛理の姿を見て、千聖は気が付いた。
歌を届けて、人を感動させる。音楽は、人の気持ちを癒し、救うことができる。
今日の自分が、救われたように。

「ありがとうユウちゃん、自分ができること見つかったわ!」
「うん!」
「愛理を、応援すればいいんだね!」
「え……!?」

愛理の歌が間奏に入った。千聖は大きな声で「よお、愛理ィ!!」と拍手をする。
「やだ、ちょっと千聖!!」愛理がしきりに照れている。でも構わない。
今は自分たちの前だけでも、愛理ならきっと日本中、いや世界中にその歌を届けられるはず。
自分は、家族としてそれを、ずっと応援していってやろうと思う。

急に心のもやが晴れた気がした。テーブルの上を見る。オードブルの残りが、自分を呼んでいる
気がした。「……お腹、空いたあ!!」千聖は、残りの全てをたいらげる勢いで手を伸ばした。


「……じゃあ次、ちっさあーー!!」

チキンにかぶりついていた千聖を、歌い終えた愛理がマイクで指名した。

「えええ!?今、せっかく食べてるのにい!」
「ダメだよ、早く早く!」

愛理が「さっきの仕返しだよ」というような嬉しそうな顔で手招きをする。
周りのみんなの拍手と歓声にも急き立てられ、千聖は仕方なく席を立った。
ユウにマイクの操作を教えてもらい、歌いたい曲をテレビ画面で探して決める。
41キュートなサンタが“また”やってきた 26:2010/04/02(金) 21:40:46 ID:lY1W+6rU0
「あ、もうちょっとエコーを効かせた方がいいかも」

ユウが、何かマイクのボタンを操作して千聖に渡す。

「あーあーあー、ねえ別にそんな変わらないよ?」
「いいからいいから」

ユウが満足そうにテーブルの向こうの席に戻る。千聖が選んだ曲のイントロが流れ始める。
その、ほんの少しの間に千聖は考える。

(結局は、愛理頼みなのかあ……、自分は、応援だけしかできないのか……)

「千聖ちゃん、ピース!!」

今度はユウが、携帯電話のカメラを千聖に向けた。こんなときでも、思わず笑顔でピースサインを
返してしまう自分が情けない。カシャッと音がしてフラッシュが光った。
応援するだけの自分、かあ……でも仕方がないのか。それが、ほんの少しだけ悔しくなった。

(じゃあ、せめて今日だけは、この歌だけは愛理に負けないように歌ってやろう!)

千聖は気合を入れて、マイクを口もとへと運んだ。



「千聖ちゃん、もう一枚、ピース!!」

ユウは、千聖に携帯のカメラを向けて二枚目の写真を撮った。

「必要な写真は二枚……全身写真と、バストアップはこれでよし、と」
42キュートなサンタが“また”やってきた 終:2010/04/02(金) 21:42:40 ID:lY1W+6rU0

千聖が握るマイクを見る。録音状態を示す赤いランプがちゃんと点いているのを確認する。
テーブルの下に置いていた書店の包みから、夕方買ってきた一冊の雑誌を取り出す。
女性アイドルが表紙を飾るオーディション雑誌の、応募用紙が綴じられている頁を開く。

(これは、わたしからのプレゼント。千聖ちゃんなら、きっと大丈夫だよ)

去年、カラオケでみんなの歌を聴いたときから思っていたこと――。
そして今、千聖の歌を聴いて“やっぱり”と確信を持つ。

(歌でみんなを感動させられるのは、きっと愛理ちゃんだけじゃないよ)

ユウは、応募用紙の名前欄に“千聖”とその名前を書き込んだ。

(……でも、来年は、きっとみんなライバルなんだからね)

頁を一枚めくり、二枚目の応募用紙に向かう。そこに、今度は“憂佳”と自分の名前を書き込み、
ユウは……憂佳は悪戯っぽく笑った。
43ねぇ、名乗って:2010/04/08(木) 00:00:35 ID:kGRFZnYIO
作家1号さん乙です。

新作楽しみにしてますよ!


新規の作家さんとか出てこないかなぁ…。
44一号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/04/09(金) 22:30:41 ID:r1jkodLQ0
気分転換にたまには雑談なんぞ
人もいないし、今まで遠慮していたトリップなんかを付けてみます

>>43
℃-uteとしての露出が皆無なのが痛いんですよ。ラジオは基本ピン+αだし。
現在のキャラと人間関係が掴めないと、ネタ書くのってすごくむずかしい気がします。
基本在宅の自分なんぞは、数ヶ月に一度のDVDのみで飢えを癒されてる状態です。
今のアップフロントさんでは、ベリキューのメディア露出なんてもう諦めてますけどね・・・。

そこそこ読んでくれてる人がいるなら、自分は愚痴ってないで書かなきゃですね。
45川太郎 ◆NMaAIZyU8. :2010/04/12(月) 22:11:21 ID:COzJfR77O
お久しぶりです。

自分も新作書こうかなと思います。
まだまったく何も決めてないのでいつになるかわかりませんが…


七不思議が失敗だったので今度はがんばります。
46ねぇ、名乗って:2010/04/12(月) 22:54:24 ID:crtyyyaS0
>>45
もしログ持ってたら消えた前スレのエピソード貼り直して
失敗したと思ったところはこの機会にこっそり直しちゃえばいいんですよ
47川太郎 ◆erika.rd36 :2010/04/12(月) 23:32:08 ID:COzJfR77O
トリ間違ってたので直しました。


>>46
元データ消しちゃって持ってないんです…orz
481号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/04/30(金) 22:53:26 ID:vunMnKjA0
・・・こっそり


℃のblog楽しくていいね
おかげで数年振りに新しいネタ帳なんて作っちゃった
GW中に何とか一本仕上げたいす
49ねぇ、名乗って:2010/05/01(土) 18:58:59 ID:zN8nofE8P
cuteのPV見たら、5人しかいなかったんだけど、誰かやめたの?
501号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/05/01(土) 23:42:09 ID:GY9i37Zt0
>>49
2009年春?に有原栞菜 脱退
秋には梅田えりか 卒業

ですね
事務所も移籍した梅さんの現blogに栞菜との写真も出てくる
元気そうで嬉しい
51名無し募集中。。。:2010/05/02(日) 00:32:27 ID:83XUP+060
GWは家空けるので書き込めないけど携帯からwktk見てますね!
521号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/05/02(日) 20:54:39 ID:A//rfWxV0
間に合わなかったらごめんね。でも今回真面目にやってます。
今もテキスト開いて頭抱えて構成の真っ最中す。これができると「おおお、このオチ早く書きてえ!」ってなるんだけどな。
お話は前にチラッと予告したネタ>>11テーマは『舞美と映画』で。
5351:2010/05/05(水) 14:35:16 ID:4hTrJgyv0
帰ってきちゃったじゃないですか!w
まったりいつまでも待ってます
541号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/05/08(土) 01:17:00 ID:6Vqsj8Gd0
よかった、あんまり怒られなかったw

もう書き込めるかな?何かずっと規制くらってました。
あとネタも八割の出来(あと一ヶ所の展開)でちょっと詰まってます、ごめんなさい。

ド素人の癖に、ラストにどんでん返しやサプライズで「あ!」と言わせる話が書きたくて、
伏線を序盤から丁寧に貼りたいので、いわゆる「見切り発車」でスタートができないんス・・・
今回真面目にやってるのでもうちょっとだけ待ってて下さいな
55名無し募集中。。。:2010/05/23(日) 00:27:53 ID:99cYtX0e0
stkのように見守ってるよw
56ねぇ、名乗って:2010/06/05(土) 20:30:49 ID:soQAdXTIO
俺も
57ねぇ、名乗って:2010/06/24(木) 21:09:45 ID:EP18DtThO
まだ?
58名無し募集中。。。:2010/07/08(木) 12:38:46 ID:bkDkCOO/0
「舞美と映画」ってより「舞美と舞台」の時期になりました
59ねぇ、名乗って:2010/07/17(土) 15:36:23 ID:eX5QxVVb0
「らん」見たよ。まいみんかっこよかったなあ。

「冬の怪談」と同じで、まるでまいみんそのままのキャラだったw
60ねぇ、名乗って:2010/09/25(土) 22:59:56 ID:RsiBNeaTO
2ヶ月も誰も書き込んでないんだね。

作家さんはどこへ?
61名無し募集中。。。:2010/09/29(水) 17:36:00 ID:mzmlggmO0
作家さんに期待
621号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/12/20(月) 19:26:54 ID:TYOWIkWC0
こっそりと独り言書きこんでみる

クリスマスに向けて、リハビリ兼ねて短編を一本描きたいんだけど
クリスマスの夜の待ち合わせ場所でいいロケーションってないかなあ?
そのままヤマ場の舞台になるようなとこ
そんな経験無いんで見当もつかないや
とにかくクリスマスまでに頑張ろ
『――――ただ、会いたいだけ 』

12月のある日、
舞美の携帯電話のディスプレイに表示された、長い長いメール。
その中の一文に込められた、痛いほどの切ない気持ちを、舞美は汲み取る。
(……よし!)何かを決意した表情で、舞美は静かに携帯を閉じた。


クリスマスイブ、さらにそのイブである12月23日。
舞美が、メールを受け取って数日が経った日の夜のこと――。

「ねえみんな、明日のクリスマスイブなんだけどさあ……」

舞美が話しかけた。

「なあに舞美ちゃん?」
「どしたン?」

早貴とマイが顔を上げて答えた。千聖はツリーの飾りつけに夢中だ。
暖房がよく効いた自宅の暖かいリビングでは、愛理を除く三人、早貴と千聖とマイが
明日のパーティーの準備に励んでいる。
芸能のお仕事をしている愛理は、今夜は帰りが少し遅い。

「今年はさあ……あたしだけ別でもいいかな?」
「……えええー!?」

みんなが、揃って驚きの声を上げた。

「ほら、どうせ明後日はみんな一緒にパーティーできるんだしさ、イブは別々でもいいかなって」

舞美たちは、毎年クリスマスには姉妹みんなで縁のある児童養護施設を訪問し、
そこで子供たちとパーティーを開くことになっていた。

去年と一昨年は、イブの日に訪れていたが、今年のイブには愛理にお仕事が入り、
遅くなるかもしれないというので、愛理がオフである25日に行こうという事になった。
空いたイブの日は、愛理が帰ってから五人だけで自宅で祝おうと決めて準備をしていた。

「……ほら、あたし前から言ってたじゃん。もうクリスマスは別々でもいいんだよって」

舞美が話を続ける。
もう、みんな年頃の女の子だ。きっと、家族と過ごす以外のクリスマスが大切になってくるはず。
そのため、毎年、クリスマスが近づくと「別々でもいいんだよ」と舞美は言ってみる。
その度に、みんなは「何で?」「みんなでパーティーしようよ」と答える。

それを聞くたびに、舞美は保護者として、嬉しいような、淋しいような、複雑な気持ちになる。
でも「じゃあ、今年はデートに行くね」と答えられても、きっと同じ気持ちになるに違いない。
それを、まさか自分が一番に「抜ける」と言い出すとは思わなかった。

「舞美ちゃん、友達と約束しちゃったの?」

早貴が訊いた。

「でもさあ、それならもっと早く言ってくれればよかったじゃん。そしたらウチも
 友達と遊ぶ予定入れたのにィ」

マイがふくれて言い、「ちょっとぉ、マイちゃん!」千聖が怒ってみせた。
そこで舞美が、

「ううん、友達じゃないの。…………もっと大事な人」

口を開き静かに言うと、「え……ええええっ!?」みんなの驚きの声が、一際高く大きく重なった。
65名無し募集中。。。 :2010/12/23(木) 14:55:06 ID:pv8m9omv0
舞美さん
その表現は誤解を招きますぜw
661号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/12/23(木) 21:50:39 ID:HfBycr330
よかった。読んでる人がいたーーー。
分割してせいぜい5レスくらいの短ネタだと思って書き始めたら、
みんな勝手に動くわ喋るわ、結果話が膨らむわで倍以上の長さになりそうなので
一気に書くのは諦めて前のように連載形式でやります。

完成させるまでライブDVD買わないって決めてたから楽しみにしてたダンススペシャルが
まだ観れないぃ。
USTREAMもつべもずっと我慢してたのに。

早貴が「えええ、何それ何それ!?」千聖が「うそお!?」と慌てる中、
「ねえ、相手はどんな人よ?」マイが興味深そうな顔で舞美に訊く。

「それは、ねえ、……うふふふ」

舞美が、ついニヤけてしまい答えられないでいると、

「舞美ちゃん、顔、気持ちワルイ!」

早貴に言われてしまった。
でも、舞美は怒る気になれない。

「ちょっとお、みんな彼氏とか出来たら隠さないって約束してるじゃん」

千聖が責めるように言った。

「そうだけど、さあ、……うふふふふ」

笑い続ける舞美に、みんながあきれた顔になった。
人に言わせると、“気持ちが顔に出てしまう”タイプらしい。
嘘がつけない性格だと、自分でも思う。
なので“彼氏”じゃない人のことは、やはり答えようがない。だから、やっぱり笑うしかない。
それに、こういう事で問い詰められるのは、何だか思ったよりも気持ちがいいものだ。
舞美は、もう少し焦らして楽しんでみようと思った。

「ねえ舞美ちゃん、それってウチらも知ってる人?」

マイに訊かれて、「あー、もしかしたら、会ったことがあるかも」舞美は少しとぼけて答える。

「わかった!劇団の人?」

千聖が訊いた。舞美はまた「さあ……ねえ」と、とぼけて見せる。

この夏には、舞美が所属して出演する舞台にみんなを招待した。
楽屋にも招いて挨拶をしているので、みんな劇団の人の顔だけは知っている。
そのとき、

「ねえ舞美ちゃん……別に見栄張らなくてもいいんだよ?」

早貴が心配するように舞美の顔を見上げて言った。

「え……!?」
「もういいんだって誤魔化さなくても」
「誤魔化すって……!?」

舞美が訊き帰すと、

「そうだよ、18歳になっても家族でクリスマスイブを過ごすのは、
 別に恥ずかしいことじゃないんだからね?」

マイが答え、今度は舞美が「え……えええっ!?」と声を上げる番になった。

「舞美ちゃん、ウチらは舞美ちゃんとイブを過ごすの全然嫌じゃないんだから、
 いくつになっても遠慮なんかしなくていいんだよ?」

マイの言葉に早貴が頷き、千聖が『ああ、そうかあ』と納得する顔になった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!みんな、そんなふうに思ってたの!?」

舞美が慌てて言うと「そりゃあ」「ねえ」「うん」とみんなが頷いた。
691号 ◆7AYn.Q6rXU :2010/12/23(木) 22:35:38 ID:HfBycr330
また抜けがある・・・

>この夏には、舞美が所属して出演する舞台にみんなを招待した。

○この夏には、舞美が所属して出演する劇団の舞台にみんなを招待した。

かなあ・・・
続きは多分明後日

「じゃあさあ……今までクリスマスはみんな一緒がいいって言ってたのも、もしかしたら
 あたしのため?」
「だってさ、舞美ちゃんなんかいつまでたっても彼氏ができないしさ、
 せめてクリスマスはウチらが一緒にいてあげないと可哀そうじゃんか」

舞美の問いにマイが答える。早貴と千聖がニコニコと笑っている。

「ねえ……ちょっと、待ってよお」

舞美の体から、力が急に抜けていく。
あああ……、今まで保護者ぶって色々心配していたのが急に馬鹿らしく思えてきた。
それに、彼氏はできないんじゃないもん。まず、みんなの事を第一に考えて作らないんだから。
言い返したくなるのを、舞美はひとまず堪える。

「ね、舞美ちゃん。だから明日はウチらと一緒にパーティーしよ?」

再びマイが言った。

「いいもん、あたし明日デートに行くんだから。嘘じゃないもん、
 ちゃんと相手だっているんだから!」

ふくれた顔で舞美が捲くし立てる。「舞美ちゃん、まだ言ってる」早貴が言った。
「またあ」千聖があきれて笑い、「本当!?」マイが訊いた。

「本当だもん!……じゃあ、証拠を聴かせてあげるから」

舞美は自分の携帯電話を取り出すと、登録している番号の一つを呼び出し通話ボタンを押した。
「証拠……!?」みんなが首を傾げているとき、リビングに置かれている電話の電子音が鳴った。
みんなが微笑む。「なあんだ。舞美ちゃん、どこ掛けてんの!?」と千聖が電話を取る。

すると、

『あいりだよーー!!』

受話器の向こうから、テンションの高い自己紹介が響いてきた。

『今、お仕事終わったからねえ、今から送ってもらって帰るから。じゃあねーー!!』

愛理の、いつもの『今から帰るねコール』だ。「愛理だった」と千聖がみんなに説明する。
そのとき、

「あ、もしもし私です。舞美です」

舞美が話し始める。みんなが舞美に注目すると、舞美がマイを手招きで呼ぶ。
そしてマイの耳に携帯を当てる。

『もしもし、舞美ちゃん?……どうしたの?』

携帯から聴こえる男性の声に、「男のひとー!?」マイが驚く。
舞美はすぐにマイの耳から携帯を戻すと、自分の耳に当てる。

「あの、明日の、イブの話なんですけど。はい、待ち合わせの確認を……」

みんながあ然とする中、「ええ、夕方の六時に、場所は……」舞美は話を続ける。
「はい……じゃあ、また明日」舞美は携帯を切ると、勝ち誇ったようにみんなを見る。
「ホントだったのー!?」マイが声を上げる。「ねえねえねえ、今の誰よ!?」千聖が慌てた
テンションで言う。最後に早貴が「ねえ、どんな人なのさ!?」興味深げな瞳を見せた。
「……いや!」舞美が小さく答える。

「え……!?」
「もう絶対、誰にも教えてあげないんだから」
「えーー!?」

冷たい舞美の返事に、不満げな三人の声が合わさる。

「ちょっと、舞美ちゃん」
「ダメったらダメ!もう、絶対に内緒!」

舞美は突き放すように言うと、そのまま携帯を片手にリビングを後にした。
自室へ戻り、ベッドへ腰掛けると、何かの緊張が解けたかのように「ふう」と息を吐く。
果たして、上手くいっただろうか。話は、ちゃんと聴いていたかな?
少し、不安になってくる。

リビングを出るときの、みんなの顔を思い出してみる。
特に、あの悪戯っ子二人の表情はどうだっただろう?
……舞美は、そこで少し笑った。
あの様子なら、多分、大丈夫だ。あとは、全て明日だ。なるようになれ、だ。

舞美はそこで、携帯の、さっきとは違う番号を呼び出す。
耳に当てて、コールが鳴るのを聴く。

「あ、もしもし、あたしだけど。明日はね……」

そして、さっきとは違う、親しげな口調で話し始める――。



 ――――――――――――――――――――――――――――

Scene 2・キュートなサンタの待ち合わせ。

〜早貴、千聖、マイの待ち合わせ〜


「見つけた!ねえ、舞美ちゃんあそこにいるよ!」

遠くから舞美を見つけたマイが興奮して言うと、「シー!みんな隠れて!」と千聖が言い、
側に建つ大きな柱に隠れる。「え!?待って待って!」連られて早貴が慌てて身を隠した。

12月24日、夜――。
舞美が携帯電話で待ち合わせの約束をしていたのは、地元で一番大きな駅。
中央改札の前には、白くて太い円柱が等間隔に並んで高い天井を支え、そのまま隣に建つ
大きなショッピングモールと繋がる、連絡通路を兼ねた大きな広間がある。

広間の中央には、華やかな電飾で彩られた大きなクリスマスツリーがあり、
そのツリーの前に舞美はいた。多くの人が行き交う広間のツリーの周りには、舞美以外にも、
ここを待ち合わせ場所に選んだらしい沢山の男女が立っている。

そして、上に備えられたスピーカーから、絶えることなくクリスマスソングが聴こえてくる中、
白いマスクで口元を覆った早貴、キャップを目深に被った千聖、お気に入りだったサングラスを
引っ張り出して掛けているマイという怪しい三人組が、ツリーから十数メートル離れた柱の陰に
隠れて、舞美をこっそりと見守っている。

「ねえ、舞美ちゃん、着くの早くね?」

顔を出し、舞美を覗きこんでマイが言う。
やってくる舞美の彼氏を見逃しちゃいけないと、舞美が電話で話していた約束の時間の二十分も
前に来た早貴たちだったが、舞美がすでに待っていたのには驚いた。

「今日のデートがさあ、よっぽど楽しみなのかな?」

千聖が言うと、

「……ねえ、やっぱりこんなの止めない?舞美ちゃんが可哀相かも」

早貴がそっと提案をする。

「また出たよ、なっきぃのへたれがぁ」マイがあきれた顔をして、「うんうん」と千聖が頷く。

「あー、またそれ言ったあ、ねえ何でそれくらいでへたれ!?」

いつも言われる言葉に早貴が怒ってみせるが、やっぱりいつものように相手にされない。
憤る早貴に構わずにマイが続ける。

「だってさあ、舞美ちゃんがいけないんじゃん。別に、ウチらに隠すことないし」
「そうだよ。それに、あんなに必死に隠されると、どんな人かどうしても知りたくなるじゃん」

千聖が答えて言った。「でもぉ……」とマスクの下の口を尖らせる早貴が、「あ!」着信音に
気が付き、着ていたコートのポケットから携帯電話を取り出して開く。

「愛理から返信来たよ。えー……、『お仕事が終わったらこっちに向かうね』だって!」

愛理から来たメールを読み上げると、マイが「ほら、じゃあ問題無いじゃん」と得意気に言った。

「ウチらはさあ、別に舞美ちゃんを見張ってる訳じゃないじゃん。愛理とここで待ち合わせ
 してるだけだし」
「うん、たまたま待ち合わせ場所が一緒になったんだからね」

千聖が、マイに続いて言い聞かせるように言う。

「……だから、舞美ちゃんが彼氏と一緒にいるところを見つけちゃって、みんなで周りを
 取り囲んで冷やかしたりしても、わざとじゃないんだから」
「うん。そのまま舞美ちゃんのデートにくっついて行って、舞美ちゃんの彼氏に豪華な
 ディナーとか奢ってもらうことになっても、それは偶然なんだから仕方ないんだよね」

千聖とマイが、悪戯好きのいかにも子供っぽい笑みを浮かべながら言った。

「そうだけど、さあ……」

早貴が言葉を濁す。早貴が、気乗りしないのには大小二つの理由があった。

「それに、なっきぃも昨日は喜んで賛成してたじゃんか」

千聖が早貴に向かって言う。「……うん」早貴が小さく頷く。
早貴は、昨晩のことを思い出す。

舞美がリビングを出たあと、電話で話していた待ち合わせ場所と時間にみんなで待ち伏せて、
芸能人みたいにカメラで激写してやろうよとか、それじゃ可哀相だからクラッカーを鳴らして
祝福してあげようぜとか、その夜はいろいろなアイデアで盛り上がった。

結局、ただ偶然を装って待ち伏せて、舞美ちゃんの彼氏を品定めしたあと、思い切り冷やかして
やろうという話だけで落ち着いた。

一晩が明け、顔を会わせた舞美は、普段通りを装ってはいるものの、笑顔もどこかぎこちなく、
「じゃあ、今晩は遅くなるからゴメンね」とだけ言うと、いつものアルバイトに出掛けて行った。
そんな舞美の様子を思い出し、そして今、目の間で待ち合わせのために立っている舞美を見て、
早貴の心には、急速に後悔の念が浮かんできている。
――早貴が、今日の待ち合わせに気乗りしない、大きな理由の一つだ。

そもそも、昨日は、何であんなことを言っちゃったんだろう?
「別に見栄張らなくてもいいんだよ?」とか、「誤魔化さなくてもいいから」とか……。

早貴が、まだ気付いていない自分の感情を探ろうとしていると、

「あ、ねえ見て!舞美ちゃん電話してるよ?」

マイが言い、みんなが陰から舞美を注視する。舞美は、いつの間にか携帯電話で話をしている。

「舞美ちゃんさあ、何か怒ってるみたいだね」

気付いた千聖が言う。「うん」早貴が答える。距離が離れていても、それは早貴にもわかった。
電話で話している舞美の顔が、何かを問い詰めるようで少し険しい。
普段、あまり怒ることがない舞美の、見せたことのないその表情に、早貴は少し戸惑う。

「……舞美ちゃん、誰と話してるのかな?」

早貴が疑問を口にすると、

「待ち合わせ相手がまだ来ないから、それで怒ってるんじゃない?」

千聖が答える。

「でもさあ、それは勝手じゃね?だって、待ち合わせの時間まで、まだ大分あるじゃん」

マイが自分の腕時計を見て言った。早貴も時計を確認する。たしかに、舞美が言っていた
約束の時間である夕方の六時まで、まだ十五分以上ある。
しかし、それより早貴には、マイが話した“勝手”と言う言葉が引っかかった。

舞美を見ると、ずっと話し続けている。表情は、さっきよりは幾分穏やかになった。
どうやら、電話の相手とは和解したようだ。早貴は、ほっとしたあと、少し複雑な気持ちになる。
何だろう、この感情は……?と早貴は考える。舞美ちゃんが怒ってないのは嬉しいはずなのに、
彼氏と仲直りができたと思うと、あまり嬉しく思わない。
そして、気が付く。これは“嫉妬”だ。
77名無し募集中。。。:2011/01/05(水) 15:31:01 ID:97syWhar0
しましましまいいいねぇ

早貴は、昨晩のことを思い出す。
嬉しそうに『大事な人』の話をする舞美ちゃんを見てたら、何だか悔しくなっちゃったんだ。
それで嫉妬して、あんなことを言っちゃったんだ。

何で、嫉妬なんかしたんだろう。何で、悔しいと思うんだろう?
「舞美ちゃんには、いつまでたっても彼氏ができない」なんて千聖やマイと言いあいながら、
「仕方ない、クリスマスには、いっしょに居てあげなけりゃいけないな」とか言ってたくせに。

「舞美ちゃん、ずーっと喋ってるね」

マイが、少しあきれたように言う。舞美は、携帯で話し続けている。
たった今から会うはずなのに、会ったら、きっとたくさんお喋りだってするはずなのに、
何をそんなに話すことがあるのだろう?

「ねえ、よっぽど、その人のことが好きなのかな?」

茶化すでもなく、真面目な口調で千聖が言った。そうだ、と早貴は嫉妬の理由に気がつく。
自分たちは、舞美ちゃんの愛情を、無条件で一身に受け続けられると“勝手”に
思い込んでいたんだ。だけど、“親代わり”を勤めてくれている舞美は“親”じゃない。
一人の女の子なんだ。

早貴は、改めて舞美の表情を伺い見る。
舞美は、少し下を向き、何かを思い出すように瞳を閉じ、相手に語りかけている。
“誰か”を想う、優しい顔だ。

「……ねえ」

マスクを顎の下へずらして、再び“へたれ”と呼ばれるのを承知のうえで、早貴は話しかける。

「舞美ちゃんの邪魔するの、やっぱり止めない?」

すると、「そうしよっか、何かもう飽きちゃった」とマイが言い、「うん、思ったより
つまんないし」千聖もそう返した。
早貴は、(あれ……!?)と予想外の返事をした二人を見る。すると、
(鏡を見たら、今の自分はこんな表情をしてるのだろうな)と思えて、何だか可笑しくなる。

話す舞美の表情に、早貴は、もう不思議と嫉妬する気にはならなかった。
舞美があんなに好きだと思える相手なら、素直に一人の女の子として応援してあげよう、と思った。
きっと、みんな同じ気持ちじゃないかと思う。

「じゃあさ、もう何か温かいものでも食べて帰ろうよ」

千聖が両手を擦りながら言い、すっかり身体が冷えたらしいマイが身を縮めながら頷く。

「ダメだよ、だって愛理も呼んじゃったから、愛理が来るまでここにいなきゃ」

愛理に携帯で連絡を入れた早貴が答えた。「あ、そっかあ……」千聖が残念そうに言う。

「……もう、誰だよ愛理も呼ぼうって言ったの!?」

マイが、不機嫌さを隠そうともせず言い放った。
「マイちゃんじゃん!?」早貴が即座に答える。自分のせいにされてはたまらない。
「愛理との待ち合わせにすれば、舞美ちゃんを見張ってたことの言い訳ができるって」

「違うよ、ウチじゃないよ!千聖だよ」マイが言うと「マイちゃんだって!」千聖が反論する。
早貴が、今日は気乗りしなかった大小の理由の、小さい方の一つ。
すごく“くだらない理由”の方が頭をもたげてきた。“仲間割れ”だ。

「もう、いいじゃんどっちだって!」

早貴が、言い争いを止めない二人にあきれて言う。

「……静かにしないと、舞美ちゃんにバレちゃうよ?」

早貴の言葉に、二人が慌てて舞美の方を覗き見る。釣られて早貴も振り返り、

「……あ!!」

と三人が揃って声を出した。
行き交う多くの人の中、立っている舞美に向かって歩いてくる男性を見つけたからだ。
年齢が二十代の半ばから後半くらいに見える男性は、軽く右手を上げて真っ直ぐに舞美の正面に
向かって来ている。舞美は、男性の姿を確認すると、携帯を持った右手を下ろして、代わりに
左手を小さく上げ、掌を左右に振って答えた。

「ねえねえねえ、あの人どこかで見たことあるよね!?」

千聖が疑問を口にする。「うん」同意する早貴が頷く。

「あー!あれ、舞美ちゃんの劇団の人じゃん!!」

マイが興奮した口調で言った。
早貴も思い出した。以前、みんなで舞美の舞台を観に行ったときに紹介された人の一人だ。
たしか、名前を羽田さんといった。
羽田が舞美の前まで来ると、舞美はちょこんと頭を下げてからその顔を見上げた。

「なあんだ、舞美ちゃんの彼氏って、やっぱり劇団の人じゃんか」千聖が言い、
「ねえ、別に隠さなくてもいいのにさ」マイが何だか楽しそうに答える。
しかし早貴は、(あ・れ……!?)と二人の姿に何か違和感を感じる。
羽田が舞美にそっと顔を近づけ、その耳元で何かを囁くように言うと、舞美が『ぱあ』と
弾けるような笑顔を見せた。

「ねえ、あの二人、もうめっちゃ仲よさそうだよ!?」

千聖が、横に立つマイの腕を揺さぶりながら言う。「うんうん」マイが頷く。

「ねえ、どうするどうする!?」
「どうするって、もう邪魔しないって言ったじゃん!?」
「でもさあ……」

千聖とマイが言い合う中、早貴は改めて舞美と羽田を見て、違和感の正体に気が付いた。
下げられた舞美の右手には、さっきまで話していた携帯が、まだ閉じられずに握られている。
しかし、歩いてきた羽田は、振っていた右手にも、左手にも携帯を持っていなかった。

「待って、でも携帯が……」

言いかけるが、千聖とマイは何だか興奮して聴いていない。
その時、一人の若い女性が羽田に近づいてきて、履いていたブーツの先で羽田の脚を蹴り上げた。
「……え!?」それを見ていた早貴たち三人がまた揃って声を上げた。

「ねえ、何これ!?」

思わず早貴が言う。きっとみんなの頭にも?マークが渦巻いてるはずだ。
「もしかしてさあ、これ三角関係なん!?」マイが言った。「じゃあ……!?」千聖が訊く。
それを受け、最後に早貴が言う。

「これって…………修羅場!?」

脚を蹴られた羽田は、女性の方を振り返り、何かを弁明するように頭を下げている。

「じゃあ、どうするよ!?」マイが振り返って訊く。「どうするって……」早貴が戸惑い言う。
「……舞美ちゃんを助けにいかなきゃ!!」千聖が慌てて答える。

「えええ、マイやだよお……」
「ちょっと、マイちゃん!」
「だって……修羅場とか何か怖いじゃん」

“修羅場”という言葉の響きに怯んだのか、意外とチキンな“内弁慶”マイが尻込みをする。

「もう、人のことを“へたれへたれ”って言う癖に、自分の方がよっぽどへたれじゃんかあ」

さっきのお返しとばかりに早貴が言うと、

「だって、助けるっても何するのさ!?それに、舞美ちゃんの邪魔しないってさっき言ったし!」

へたれ呼ばわりされたのが悔しいのか、マイがムキになって答えた。すぐに千聖が、
「ねえ、それとこれとは話が違うじゃん!」と言い返し、仲間割れの第二ラウンド開始となった。

「でもさ……確かに恋愛の問題は、他人が口出しすることじゃないかも」

少し考えた早貴が、冷静な口調でそれに参戦すると、

「もう、なっきぃまで。舞美ちゃんは他人じゃないじゃん!……もういい、千聖一人でいくから」
「あ、待ってよ千聖!!」

早貴たちが止めるのも聞かずに、千聖が隠れていた柱から飛び出す。そして、

「……あれ、舞美ちゃんがいないよ!?」

千聖が二人の方を振り返り、不思議そうに言った。
「ええ!?」と早貴とマイも柱から顔を出し、さっきまで立っていたツリーの前から、
舞美の姿が消えているのに気付く。

「ねえ舞美ちゃんは……!?」マイが、思わず掛けていたサングラスを外し、
舞美がいた場所を凝視して訊く。「知らないよお……!」千聖が動揺しながら答える。

「……じゃあ、羽田さんは!?」

早貴が言うと、「……あ、あれ?」マイが歩いていく羽田の後ろ姿を見つけて指差した
その横を、先ほど羽田を蹴飛ばした女性が、羽田の腕に手を回して寄り添うように歩いている。

「え、ええええ……!?」

早貴たちが、まるで狐に化かされたような顔を、お互いに見合わせていると、

「……あなたたち、そこで何してるのッ!?」

後ろから、聞き覚えのある大きな声がして、三人が揃って「わああ!!」と大声を上げた。


 ――――――――――――――――――――――――――――


〜舞美の待ち合わせ〜

12月24日、クリスマスイブの夜――。
約束していた時間の前に、舞美は待ち合わせ場所に到着した。

大きなツリーの前に立ち、軽く辺りを見渡す。だけど、“二組”いる舞美の待ち人の姿は、
まだどちらも見えない。でも、それも当然だと思う。まだ、約束の時間までかなりある。
その前に、幾つかの確認しておきたいことが舞美にはあった。

舞美は携帯電話を取り出し、番号の一つを呼び出して掛ける。
呼び出し音を数コール聴いた後に、相手が出た。

『もしもし舞美ちゃん?どうしたの?』
「ううん、もう着いちゃったから。今どこ?」
『早くない?今、そっちへ向かってるとこだよ?』
「いいの。あたしが早く着きすぎちゃっただけだから。今、電車の中とか?」
『違うよ、歩いてるところ』
「そう」

よかったと舞美は思う。それなら、これから心おきなく話ができる。
舞美は、少し冷たく言い放つ。

「ねえ、それより、あれはどういうこと?」
『……あれって?』
「あのメールのことよ」
『メール……!?』
「ただ、会いたいだけ……とか何とか」
『何とかって…………』

いきなりの舞美の質問に、相手の言葉が少し途切れる。

『……もう、そのままだよ!ただ寂しくなって会いたいなと思ったから、書いただけじゃんか!』

少し、ムッとしているのがわかる。そのふて腐れている懐かしい顔が、容易に頭に浮かぶ。
舞美は構わずに、少しキツい口調のままで問い詰める。

「じゃあ、何であたしなの?」
『え……!?』
「知ってるんだから。“えり”とも会ってるんでしょ?」

舞美は、モデルという天職を得て、先に家から独立した“長女”えりかの名を口にする。

相手は少しの沈黙のあと、

『……うん』

それを素直に認めた。そして『……でも、それが?』と訊き返す。

「えりとは会えるし、あたしともこうして会える。それなのに、どうしてみんなとは会おうと
 しないの?」
『それは……』
「わかってるんだから。会いたいっていうのは、あたしだけじゃないでしょ?みんなに
 会いたいと思ってるんでしょ?じゃあ、何で……」
『それは……えりかちゃんと舞美ちゃんは別だよ!年上だし、まだ素直に甘えられるもん。
 だけど、みんなは……」

そこまで言うと、相手はハッと気付いたように言う。

『まさか、みんなには教えてないよね!?今日、あたしと会うってこと』
「ううん、言ってない。男の人とデートだって、嘘付いて出てきたから」
『そう……』

舞美の言葉に、相手は安堵の息を吐く。
しかし、その裏に隠された幾ばくかの落胆を、舞美はしっかりと感じ取る。
“もう一組”の待ち人は、ちゃんと来てくれるだろうか?“羽田さん、お願いします!”と
舞美は心の中で小さく祈る。

『……他のみんなは、舞美ちゃんたちと違って年下だしさ』

舞美が少し黙っていると、通話の相手が話を続ける。

『ウチがしっかりして、面倒だってみてあげなきゃいけなかったのに、
 最後まで迷惑ばっかりかけちゃって……』
「ねえ、そんな心配をしなくても、誰も迷惑をかけられたなんて思ってないよ?」

舞美が言うと、

『ううん、それだけじゃなくて……何だか怖くて』
「怖い?」
『みんなが、ウチのこと怒ってるんじゃないかって……」

通話相手が、小さく弱気な声を出した。
(この子は、相変わらずなんだから……)と、舞美は昔を思い出す。
基本的には明るい性格なのに、心配性で、ついつい考えすぎると、その答えはいつも
ネガティブな方に囚われてしまう。

「もう、何でそういうふうに思うの。怒ってるわけないじゃない」
『でも……』
「でもじゃない!」
『え!?』

強い口調で相手の言葉を遮り、

「もう、そんなことはどうでもいいの。
 あなた自身の気持ちはどうなの? みんなに会いたいの? 会いたくないの?」

舞美は、少し強引に訊ねてみる。

『そりゃあ……会いたいと思ってるよ』

やっと、素直な感情を返してくれた“彼女”に、「うん。それでいい」と舞美は薄く微笑み、頷く。
『……久しぶりに、叱られた』鼻をすする音と共に聴こえた彼女の声が、心なしか少し
嬉しそうに思えた。

「じゃあさ、あたしだけじゃなく、今度はみんなと会おうよ。愛理がさ、メールをしても
 ちっとも返事をくれないって悲しんでたよ?」

舞美が言うと、

『でも……』
「あ、まだ言うか」
『違うの!そんなんじゃなくて……』

彼女が慌てて答えた。「じゃあ……何?」今度は慎重に聴いてあげようと、舞美は優しく訊ねる。

『だって……みんなに悪くて』
「悪いって、何が?」
『だって、ウチにだけ……ウチ一人にだけ、本当の家族がいるなんてさ』
「本当の、家族……」

舞美は、彼女が……三女だった栞菜が家を離れたときのことを思い出した。
あたしたちは、ある児童擁護施設で出会い、そこで姉妹のように育てられた。
だから、みんな血は繋がっていない。

そんなある日……2008年の初めの頃のこと。
突然に、栞菜の肉親を名乗る人が、彼女の許へ訪ねてきた。泣きながら「いっしょに暮らそう」と
謝る母親を、栞菜は頑なに拒み続けた。

しかし舞美たちは、みんなで栞菜を説得した。それから苦悩と葛藤の日々を過ごした栞菜は、
たくさんの涙を流しながらも、みんなとの別れという傷みを乗り越え、実の両親に引き取られて
暮らすことを選んだ。

桜の花が咲く頃に、みんなが育った町を見下ろす場所にある、丘の上の公園で、
舞美たちは栞菜と別れた。

「もう、まだそんなこと気にして悩んでたの?」
『だって、みんなを差し置いて、自分だけが幸せになったみたいで……』

離れても、みんなを想い悩んでいた栞菜を、舞美は愛しいと思う。
舞美は、栞菜に優しく語りかける。

「……ねえ、じゃあ栞菜に一つだけ訊きたいことがあるの」
『なに?』
「栞菜はさ、あたしたちと暮らしているときに、自分を『不幸だ』なんて思ってた?」
『まさか、そんな訳ないじゃん!」

栞菜が慌てて否定をする。

「うん。もちろん、みんなが『あたしは不幸だ』なんて考えて暮らしてると思ってないよ。
 あたしも、自分を不幸だなんて、思っていないし」
『うん……』
「どうしてだか、わかる?」

舞美は、少し俯き、そっと瞳を閉じて言う。

「栞菜に、血の繋がった本当の家族がいるように、あたしも、みんなのことを
 本当の家族だと思ってるから――」

それは、栞菜を慰めるためだけに出た、口先だけの言葉じゃない。
紛れも無い、自分の本当の気持ちだと思う。
瞼の裏に、妹たちの姿が浮かんだ。(あいつらめ)と、昨夜のことを思い出す。
それでも、舞美の顔からは思わず笑みがこぼれる。

「もちろん、離れていても、栞菜も」

舞美が加えた言葉に、栞菜が「……ありがと」と小さく言う。

「じゃあ、みんなと会うのも問題ないよね?」

舞美が言うと、「でも、みんなは……」栞菜が訊き返す。

「……ねえ栞菜、憶えてる?以前、栞菜が愛理を『初デートの練習するんだ』って言って
連れ出したことがあったでしょ?」

話を遮る舞美の突然の質問に、

『憶えてるよお! みんなで跡をつけてきて、その日はメチャクチャになった!!』

栞菜が戸惑うこと無く即座に返事をした。「あれは、あたしたちのせいじゃ無いじゃない」
舞美は思わず笑って答えてしまう。

「……あれねえ、面白そうだからついていこうよって、誰が言い出したと思う?」

舞美が訊くと『……千聖と、マイちゃん?』栞菜が答えた。舞美が「そう」と頷く。
やっぱり、その二人しか思いつかないよね?と、舞美はまたおかしくなる。
そして、面白そうなことに目がなく、常に悪戯心でいっぱいなのは、今も変わらないんだよ。
『……でも、それが?』訊き返す栞菜に、

「あ、ごめんね栞菜。ちょっとだけ、そのまま待ってて!」

舞美は言い、携帯を持った右手を下ろす。正面に、劇団の先輩である羽田の姿を見つけたからだ。
こっちへ向かって歩いてくる羽田に、舞美は左の掌を振って答えた。
羽田が前まで来ると、舞美は(どうでした?)と問うようにその顔を見上げる。

「驚いたなあ、本当にいたよ。向こうの柱の陰に、君の妹さんたちが三人」

羽田は、舞美に顔を近づけると、視線だけをこっそりと柱の方に向けて舞美に知らせた。
「おかしな変装して隠れてたから、すぐわかったよ」笑う羽田に釣られて、舞美も笑う。

「でも、おかしなことを頼んじゃって、すいません」

舞美が、頭を下げて何度目かのお詫びをすると、

「いいってば。何度も言ったように、僕も丁度ここで待ち合わせだったんだから」

羽田が、笑顔を崩さずに言った。
イブの日に、この場所で彼女と待ち合わせてデートをするんだ、と喜んでいた羽田に、
じゃあ、同じ日に、同じ場所で自分も待ち合わせをするので、自分の妹たちが隠れて見張って
いないか、待ち合わせのついでにこっそり周りを探ってみてくれないか?と舞美は頼んでいた。

「……それにさ、探偵みたいでちょっと面白かったよ」

羽田が、着ていたコートの懐から一枚の写真を取り出して見せた。
羽田は以前に妹たちと顔を会わせているが、念のために渡しておいたみんなのスナップ写真だ。
まるで子供のように愉快そうな羽田の表情に、無茶なお願いをしていたんじゃないか?と
心配していた舞美は、ほっと胸を撫で下ろした。

「それよりさ、今度は本当に二人でデートでも、どう?」

羽田が悪戯っぽく言うと、後ろから羽田の本当のデート相手である女性が近づいてきて、
「こら!」と羽田の脚を靴先で蹴り上げた。「いてっ!」と声を上げ振り返った羽田は、
「あはは、冗談だってば、冗談」と弁解するように彼女に笑ってみせた。
その姿を見て、思わず舞美も一緒に笑ってしまう。
陽気な性格の羽田の口説き文句が、いつもの軽口なのは舞美も彼女も承知の上だ。

「ごめんなさい、羽田さんにおかしなことを頼んじゃって」

舞美はあらためて、何度か顔を合わせたこともある羽田の彼女に頭を下げた。

「いいんだって、こんなバカでよかったら、いつでも使ってやって」

言いながら、羽田の彼女が、羽田の左腕に手を回す。羽田が、怒るでもなく照れながら笑う。
イブの夜に寄り添い腕を組む、お似合いの二人を舞美は少しだけ羨ましく思った。
「じゃあ、僕らは行くからさ」そう言って、羽田と彼女は、振り返り歩いていった。

舞美は、羽田に教えられた柱の方を、顔を動かさずに横目で見る。
いるのは三人と聞き、誰がいないのか、すぐに想像がついた。
おそらく、一番会いたいであろう愛理がいないけど、あの子の忙しさでは仕方ないか……と思う。

「……ごめんね栞菜、お待たせ」

舞美は、再び携帯に話しかけた。

『ううん。もうすぐ、そっちに着くからさ、もう切ってもいいよ?』
「あ、待って。その前に、さっきの話だけどさ……」
『さっきの話?千聖とマイちゃんのこと?』
「そう」

話しながら、そっと動き始める。柱の側から死角になるツリーの陰へと、身を隠すように
さっと移動する。

「……最初に言ったでしょ?あたしは、今日はデートだって嘘ついて出てきたって」

舞美が話を続ける。『……』栞菜は、それを黙って聞いている。

「さんざんデートだって自慢してさ、でも相手は教えないで、みんなの前で待ち合わせ場所と
 時間が聞こえるように電話で話して……」
92名無し募集中。。。:2011/01/27(木) 00:35:09 ID:uDEISinG0
ここまで来たんなら全員集合も見たくなってくるなw
931号 ◆7AYn.Q6rXU :2011/01/28(金) 00:55:54 ID:UgOXrett0
>>92
全員集合の特別感は(自分は)最終話で。

今作は後4回(4レス分)で終わります。内ラスト3回絶賛煮詰まり中・・・

舞美は昨晩のことを思い出す。「見栄を張るな」とか「嘘だ」とか散々言われたけれど、
おかげで自然に事が運べた。今となっては感謝するべきかな、と思う。
舞美は、立っていたツリーの後ろを回り込み、柱へ向かって遠回りに歩きながら話す。

「……そんな面白そうなこと、あの二人が黙ってると思う?」
『ねえ舞美ちゃん、それってもしかして……』
「んふふふふ……じゃあ、待ってるからね」

栞菜の言葉を薄笑いで遮って、舞美は携帯を切る。
三人が隠れていると教えられた柱にそっと近づき、ツリーが覗ける位置の反対側へと回って
覗き込むと、何やら驚き騒いでいる早貴、千聖、マイの後ろ姿があった。

その様子が、とても可笑しくて、愛しいと舞美は思えた。
(三人とも、よく来てくれたね!栞菜が来るまで、ここで掴まえて放さないんだから!!)
思わず跳びつき抱きしめたくなる衝動を、ぐっと堪えて、後ろからそっと近づく。
まずは驚かせてやろうと、顔を引き締め、すっと息を吸う。

「……あなたたち、そこで何してるのッ!?」

舞美の声に、「わああ!!」と三人が声を上げた。驚き、振り向いたその顔を、
舞美は極上の笑みで迎えた。

 ――――――――――――――――――――――――――――

〜栞菜の待ち合わせ〜

(……やっぱり!)
栞菜は、舞美との待ち合わせ場所である大きなクリスマスツリーの前へ向かう途中で、
舞美の他に、早貴と千聖とマイの姿を見つけて、思わず足を止めた。
ずっと会いたいと思っていた懐かしいみんなの姿に、栞菜の瞳が潤む。舞美の計らいに感謝をした。
でも……と栞菜は躊躇する。さっき、舞美には言えなかったことが頭に浮かぶ。

自分が、えりかや舞美個人とは会えても、みんな一緒には会いたくない理由――。
ねえ舞美ちゃん。舞美ちゃんは、みんなの側にいるからわからないかもしれないけど、
みんなと会った後、楽しければ楽しいほど、一人に戻ると、きっとすごく寂しくなるんだよ?

栞菜は、そこから動けなくなった。立ち止まったまま、四人の様子をうかがう。
早貴たち三人は、舞美に向かって何か怒っているようだ。舞美は、三人を軽くいなしながら、
にこにこと笑って何かを説明しているように見える。
「まあまあ」と言う舞美の優しい声が、ここまで聞こえてきそうだ。

きっと、舞美の穏やかな笑みに包まれ、みんな許してしまうんだろうなと思えた。
そのくらいのことは、わかる自信があった。だって、かつては、自分もあの中にいたのだから。
やがて、三人の不満げな顔が徐々に和らいでいくのがわかり、(そら見ろ)と栞菜は心の中で呟く。
みんな変わらないな、と思う。しかし、自分は今、あの中にはいない。

ねえ舞美ちゃん。自分の大切だった場所に、自分がいなくても、何も変わらないのを見ること。
それは、自分が“必要ない存在”だったと思わされるようで、栞菜には何よりも辛いことなんだ。
昔を、思い出してしまうから。
棄てられた自分は“必要ない存在”だと、泣いてばかりいた小さい頃を思い出してしまうから――。

ふいに、誰かに自分を呼んで欲しいと思った。
手に力が入る。右手には、さっきまで舞美と話していた携帯が握られていた。すがるように
舞美を見る。が、舞美は気付かずに早貴たちに笑顔を向けている。

みんなと会うのに、怖気づいている自分に気付いた。舞美ちゃんには後であやまろう、
みんなに気付かれる前にこの場を去ろうと、栞菜はその場で舞美たちに背を向けた。

 ――――――――――――――――――――――――――――

〜愛理の待ち合わせ〜

愛理は、この日の仕事を終えて、早貴と約束した待ち合わせ場所へと急いでいた。
歩きながら、早貴から届いたメールの内容を思い出す。

『今日は、せっかくのイブなのに舞美ちゃんがいないんだって。で、何か悔しいから、
 みんなで美味しいレストランにでも行こうって話してたんだけど、愛理も来れるかな?』

(行ける行ける!行けますとも!)
『美味しいレストラン』と聞き、愛理は二つ返事で返信をした。もう、どんなに忙しくても、
必ず向かってみせる!と意気込み、愛理は早足で進んでいた。
待ち合わせ場所までもう少しというところまで近づくと、愛理は腕時計で時間を確認した。
(……よかった、何とか約束の時間に間に合いそうだ)と安堵し、そこでやっと歩を緩める。

少し、気持ちに余裕が生まれた愛理は、再びメールの内容を思い出した。
……何で、舞美ちゃんがいないと悔しいんだろう?きっと、昨晩に何かあったのかな?と
考えてみる。

仕事で遅くなった愛理が家に帰ると、めずらしく舞美がすでに自室に戻って姿を見せなかった。
リビングにいた早貴、千聖、マイの三人が、互いに顔を見合わせ、何かを企んでいるように見えた。
「何、何、どうしたの?」と愛理が訊いても、「ううん、別に」とはぐらかされてしまった。
「ふうん、そう……」と、愛理は平然を装ったてみたが、ほんの少し寂しく感じた。

芸能の仕事を始めて忙しくなった愛理は、最近みんなから「愛理は忙しいから……」という
言葉をよく聞くようになった。
でも、愛理には自信があった。夢だった歌のお仕事だもの。どんなに忙しくても大丈夫だと思った。
学校の成績も落ちてはいない。勉強と、仕事の両立も頑張ってこなしていると自分では思う。

しかし忙しくなることで、愛理には予想外のことがあった。土曜や日曜も、仕事で家を
空けることが多くなる愛理は、家族のイベントに参加できないことが増えてしまった。
仕方ないなと思いながらも、昨夜のように何かを内緒にされるのが、何よりこたえた。

だから、こうやって呼んでもらえることが愛理には嬉しかった。

ふと、昔を思い出した。誰よりも、自分のことを考えてくれていた姉がいたことを――。
常に側に寄り添い、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた、自分よりも背が低かった姉の存在。
あの頃は、寂しいなんて思ったことは無かったな。たまに振り回されたりもしたけど、
それさえも何だか懐かしく思える。

……何で、急にそんなことを思い出しちゃったんだろう?弱気になっちゃったのかな?
違う……と愛理は思いたかった。きっと、目の前に立ち止まっていた女性の後ろ姿が
似ていたせいだ。(そうだ、ちょうど身長もあれくらいで……)と、愛理は思い出す。

(あいつめ、会いに来ないどころか、最近はメールの返事もくれないぞ)軽く憤ったあと、
(久しぶりに、会いたいな……)
心の中で、そうつぶやいたとき、突然その女性が愛理の方に振り返った。

 ――――――――――――――――――――――――――――

〜再会〜

「……栞菜あ!!」

振り向いたときに、突然、栞菜は正面から名前を呼ばれた。

「何だよお、今ちょうど会いたいなって思ったとこだよ!ねえねえ奇跡ってあるのかな!?
 だって今日はクリスマスイブじゃん!!」

愛理が、一気に捲くし立てるように喋ると、跳びついてきて両手で栞菜の手を握り揺さぶった。
愛理の声に気が付き、早貴、千聖、マイたちが一斉にこっちを向いた。

「あー!!」「栞菜!!」「栞菜あ!!」

みんなに、大きな声で名前を呼ばれた。その瞬間、栞菜はあの頃を思い出した。
棄てられた自分は“必要ない存在”だと思っていた頃――。
舞美たちがいるホームに入所した栞菜は、ホームからの家出を繰り返す子だった。

その度に、みんなに捜された。
自分を見つけたみんなは、いつも「栞菜!」と大きな声で名前を呼んでくれた。
そのときの、みんなの笑顔が不思議だった。おとうさん、おかあさんと呼ばれていた職員の
二人は、栞菜に優しかった。
連れ戻された後も、「どうせ栞菜なんていらない子だもん!」と拗ねて言う自分を、
舞美は「ばか!」と叱った。そのあと、思い切り舞美に泣かれた。

やがて、栞菜は家出をしなくなった。「自分はいらない子」と言うことも無くなった。
栞菜の家出は、栞菜に“帰る場所”の存在を教えてくれたから。

みんなに名前を呼ばれて、舞美が“家族”と言った意味がわかった気がした。
離れていた時間も、つまらない拘りも、もう何も関係が無い。
隔たりは、その瞬間に大きな両方の瞳から、溶けて流れ出した気がした。

「栞菜あ!」

駆け寄ってくるみんなを、泣き顔で迎えたくないと思った。
赤い目のまま笑顔を見せると、「みんな……」栞菜は自然とその言葉を選んで言った。

「……ただいま!」






 ――――――――――――――――――――――――――――

〜そして、これから〜


「ねえ栞菜、ちょっと太ったんじゃない?」

再会してほんの数分後に早貴が訊いた。

「ホントだ。栞菜、何かぽっちゃりしてるし!」

続けてマイが言った。

「うはははは!ねえその顎のお肉やばいって!」

千聖が、指を差して遠慮なく笑いとばし、舞美と愛理がくすくすと笑った。

「……うるさいッ!」

顔を赤くした栞菜が、音を立てて千聖をはたく。
まったく、相変わらず遠慮のない連中だ!
こうなったら、こっちも遠慮なんかしてやるもんか!

これからは、会いたくなったら、何度でも会いにきてやる。
寂しくなったら、何度でも会いにきてやるんだから!
覚悟してろよ、と企み微笑む栞菜の顔が、そのままみんなの笑みに加わる。

そういえば、みんなで笑うのは久しぶりだな。その喜びが、栞菜の笑みを本物にした。
栞菜の笑みは、ずっと一緒にいたかのように、すぐにみんなに馴染んで溶けた。
100ねぇ、名乗って:2011/02/06(日) 21:32:48 ID:OuJEN1piO
久しぶりに覗いたら新作が!
1号さんありがとうございます。
1011号 ◆7AYn.Q6rXU :2011/02/07(月) 22:45:09 ID:U4Vb+tl00
よかったまだ人がいた嬉しい!
まあ、ずっと放置しちゃってたから仕方ないですよね
2月だし、次はバレンタインでもネタにして、今度こそ長くなりすぎないのを一本書けないか模索してます
>>11や誕生日の話も書きたいんだけどおっつかないや
102ねぇ、名乗って:2011/02/08(火) 09:45:46 ID:Zhs42USH0
>>101
始まったときから読んでました。
最初は誰と待ち合わせしているのかわからなくワクワクしていました。
またお願いします
1031号 ◆7AYn.Q6rXU :2011/02/08(火) 23:05:52 ID:rj5tjQgu0
>>102
おお、ありがとうございます!
期待されたら次も必ずやります

では、お話も書かずに全レスしてるコテはうざいだけだと思うので
自分は次のお話まで姿消しますね

次は『ちっさーとチョコレート工場』(仮)で
『ちっさー』の部分は『まいみぃ』か『なっきぃ』に変わってるかもしれませんが
104名無し募集中。。。:2011/02/08(火) 23:39:39 ID:SaBMeG0BO
もうここに惹かれてから四年の年月が経ったけど相変わらず大好きです
105ねぇ、名乗って:2011/02/24(木) 18:38:49.95 ID:ZQVu6R9D0
4年も経ったんだ・・・
感慨深いですね。
106名無し募集中。。。:2011/03/01(火) 01:17:51.67 ID:/9mXOW7E0
ん。大学一年から社会人一年になったよ
107ねぇ、名乗って:2011/05/14(土) 23:56:38.38 ID:dlI4E79pO
壁|д・)
108ねぇ、名乗って:2011/07/14(木) 15:26:53.27 ID:WUQjU9kjO
新作期待してますよ。
109ねぇ、名乗って:2011/07/15(金) 19:28:20.00 ID:iAmqc6ny0
℃新規で初めて読んだのですが・・・泣きました
今からログ保管庫いってきます
110ねぇ、名乗って:2011/07/31(日) 22:46:21.74 ID:OAUgFzpyO
サバ移転か何かでスレが軒並み消えたときに小説スレは絶滅したと思ってた。
明日からボチボチ楽しみに読ませてもらいます。
111ねぇ、名乗って:2011/08/02(火) 22:19:19.95 ID:F/iNLa530
PCが逝ってしまってトリップがわからなくなったけど1号です。

忙しいけど、そろそろ何か書きます。てか書きたいです。
才能の無い人間が物を書いて残すのは、なんか恥を掻き残してるみたいで気が退けてたんですが、
やっぱり℃と、この世界観が好きなんで、どうしても書きたくなって戻ってきてしまいます。

なので、この場が残ってるのは本当にありがたいです。
勝手な作者にお付き合いいただき、下手なお話でも待っててくれるような方には、本当に感謝してます。
で、次のお話・・・

時系列はバラバラになるのですが、舞美が何故女優を目指そうと思ったかを描く>>11(舞美×愛理)

『会いたいのに〜』のラストでちょこっと描いた、愛理の感じる疎外感・孤独感と
その解消を描くエピソード

何故か芸能界デビューすることになった千聖の、みんなを巻き込んでのちょっとしたドタバタ

・・・の、どれかを書こうと思ってます。
情けないことにどれも7〜8割の出来、どれを集中して仕上げようか迷っています・・・。
「これだ!」ってのが出来たら、それから書き始めたいと思います。
あまり期待しないで、1〜2週間後にまた覗いてみて下さい。「8月中に一話仕上げる!」が目標です。
112ねぇ、名乗って:2011/08/02(火) 23:23:58.58 ID:Ue9+88U10
>>111
頑張ってください
113ねぇ、名乗って:2011/08/02(火) 23:25:47.41 ID:Ue9+88U10
これ?
69 名前:1号 ◆7AYn.Q6rXU [sage] 投稿日:2010/12/23(木) 22:35:38 ID:HfBycr330
114ねぇ、名乗って:2011/08/03(水) 00:06:11.38 ID:/12G1G4R0
>>113
そうです。その文字列にするための文字が消えちゃいまして。
まあコテなんてウザいだけだろうし、別にこだわりも無かったからOKです。

無駄な自己顕示欲なんて抑えて、何か主張があるときはお話の中に込める
名無しに戻ればいいんですけどね。
このスレに限りつい主張や自我みたいなもんが顔を出して、いつも反省してます。
115ねぇ、名乗って:2011/08/19(金) 12:53:35.91 ID:jsBd0iQ50
age
1161号:2011/08/20(土) 16:09:05.53 ID:lrOLyyoe0
遅くなってごめんなさい、もうすぐプロット一本完成します。来週中には絶対始めます。
本編の展開とは何の関係も無いんだけど、舞美が作中で観る映画のタイトル
(ラブロマンスと女性が主役のアクション映画・共に洋画)みたいなどうでもいいとこで
つまったりしてます・・・
何かいいタイトルないかな
117ねぇ、名乗って:2011/08/20(土) 23:14:04.51 ID:PN+zw5mHO
℃-uteの曲名じゃだめかな?
「FOREVER LOVE」
とか
「Kiss me, love you」(Kiss me 愛してる)

とか
1181号:2011/08/20(土) 23:49:01.45 ID:lrOLyyoe0
>>117
おお、その手があったか。
ありがとう、使わせてもらいます!
アクション映画も何か無いかな。女性ヒロインが主役の、お話のヤマに観る大事な映画。
だけどタイトルは何でもいいという、いい加減というか何というか・・・
あらすじを考える以外は苦手です
119ねぇ、名乗って:2011/08/21(日) 21:26:08.58 ID:un8XdwS0O
アクションは…
「Fighting Bear」
とかどうですか?

ちなみに主演は日本人のKUMAIという背が高くて、美人でちょっと天然な女優さんというイメージ。


…すいません、余計な設定まで付けちゃいました…m(_ _)m

1201号:2011/08/22(月) 20:17:26.07 ID:nL1E8D1F0
>>119
実は主演女優のイメージに意味があって、展開上ちょっと外人さんである必要があるので
熊井ちゃんは次の機会に…m(_ _)m
タイトルはテキトーに考えてみます

本編書き始めたら相変わらず文章下手で嫌になっちゃった…
自己流でいいですよね
貼れる分量書き溜められたら始めますね
1211号:2011/08/24(水) 21:23:42.28 ID:KQNBrIp+0

※言い訳の前書き。

実は、今から始めるお話は、時系列的にはこのスレの冒頭『キュートなサンタがまた〜』の
一つ前、時期的にはもう二年前のお話になっちゃうのですが、どうしても描きたかったのと、
『物語』と銘打ってる上で必要なエピソードだと思ったので、あえて描かせてもらいたいと。

ですから、梅さん卒コンあたりの、ロングヘアーの舞美を想像して読んでいただけると幸いです。

目標は、20レス以内・一ヶ月以内の完結!
でもまあ、マイペースでやらせてくださいな。
では。
122UPSTANDING 1:2011/08/24(水) 21:29:55.01 ID:KQNBrIp+0

十月のある日、学校の授業を終えた舞美は、一人で映画館の暗闇の中にいた。
一度、家に戻る暇が無かったので、高校の制服姿のまま見上げたスクリーンの中、
本編前に上映された数本の予告編の中の一本に、その映画はあった。

それは洋画で、女性が主役の、よくあるたわいも無いアクション映画に見えた。
それでも、ほんの短い予告編の中でも、主演の女優さんがとても格好よく思えた。
後に自分の人生を変える映画になるとも知らずに、舞美は、ほんの軽い気持ちで(へええ、面白そう
だな。この次はこれが観たいな)と、そのタイトル『UPSTANDING』を記憶した。


この日、舞美が観たのは、洋画のラブストーリーだった。
もともと、観終えた映画の余韻に浸るのが好きで、エンドロールは最後まで眺める方だったが、
長いエンドロールが終わり、場内が明るくなっても、舞美は席から立てないでいた。
この“ぐずぐず”に泣き腫らした顔では、外には出られないと思ったからだ。

それでも(もうあまり時間は無いはずだ)と、頬に当てていたハンカチを離して、その手の
内側にしていた腕時計を見る。午後の八時を少し回ったところ。予定の時間を過ぎていた。
(……やばい!)と、最後に強引に目頭をひと拭いして、席を立つ。
シネコン式の劇場の、いくつもの扉が並んだ細長い通路を抜けて広くて明るいロビーに出ると、

「舞美ちゃん」

舞美はそこで、立っていた待ち人に声を掛けられた。

「愛理ぃ!ここまで来てくれたんだ?」
「うん。舞美ちゃん、多分ここで映画観てるなって思ったから」

舞美と同じく、学校の帰りにそのままここへ来た愛理は、中学校の制服のままだ。
普段の通学バッグの他に、体の脇にもう一つ大きなバッグを下げている。
123UPSTANDING 2:2011/08/24(水) 21:35:14.19 ID:KQNBrIp+0

「ごめんね、待たせちゃって。ちゃんと映画が終わる時間を計算して、間に合うと
 思ったんだけどさ……」

舞美が申し訳なさそうに言うと、

「何言ってんの、いつも待たせてるのはあたしの方じゃん」

愛理は、構わないよという風に手を振ってみせた。

「でも、本当は、あたしが待っててあげなきゃ、迎えに来た意味がないのに……」

舞美はそこで、愛理が下げていたバッグに視線を落とす。
バッグの中にはきっと、たっぷりと汗を吸ったレッスン着とシューズが入っているはずだ。

「今日はダンスレッスンだったんだ。どうだった?」
「もう、全然全然、ラクショー!って感じだよ」

愛理は、わざとふざけた感じで大げさに言い、「ほら」とその場でコミカルに踊ってみせる。
その妙な動きに「何、それ」と舞美が笑うのを確認して、愛理もにっこりと笑った。
そのあと、ふっと真顔になり、

「……あたしねえ、ダンスも結構好きかも」

そう言うと、今度ははにかみながら微笑んだ。
普段、それほど体を動かす方でもなく、本当にダンスが出来るかどうかと心配していた愛理を
知る舞美は、「そう、よかったじゃん」とほっとして答える。

ある大手の芸能プロダクションが大々的に開いた歌手オーディションに合格した愛理は、
都心の、レッスン場が併設された芸能事務所に通って、毎週のレッスンに励んでいた。
124ねぇ、名乗って:2011/08/26(金) 12:36:14.02 ID:sH/N+7op0
hosyu
125UPSTANDING 3:2011/08/26(金) 21:40:31.03 ID:tdZ+Z76q0

昼間にレッスンがある土曜や日曜と違い、平日のレッスン開始は主に夕方から夜になる。
関東の住まいとはいえ、都心からそれほど近くない距離から通う愛理にとっては、それだけ
帰宅の時間が遅くなってしまう。
愛理の“保護者”を自認する舞美は、地元の駅からの帰り、暗い夜道を、まだ中学生の愛理に
一人で歩かせるわけにはいかないと思い、レッスン帰りの愛理を必ず迎えに来ていた。

「それより、舞美ちゃん……」
「何?」

愛理が、突然舞美の顔を覗き込んできた。

「この映画さ、そんなに泣けた?」
「……え!?」
「目、真っ赤だよ?」

可笑しそうに見つめる愛理に、「だってえ……」舞美は振り返る。上映中の作品のポスターが
並んでいた。その中の一枚を見て言う。

「この女の子がね、一途で、健気で、可哀相でさ……」

舞美の視線の先には、ブロンドのロングヘアーが印象的な綺麗な女優さんがいた。
『EVER LOVE』というタイトルのその映画は、病に冒された女の子が、その短い生涯を、好きな
男の子に捧げるというもので、ありがちなお話だけど、とにかく泣けると話題になっていた。

女の子が一人で恋愛映画を観るのは淋しいな、とためらっていた舞美も、上映期間の終了間近に
ようやく「観よう!」と決心をした。結果は、「観てよかった!!」と思えた。
綺麗で、儚げな雰囲気の女優さんに魅せられ、その切ない恋に、大泣きをさせられてしまった。

「やだ、思い出したらまた泣けてきちゃった……」

舞美の目が、また潤み始めた。
126UPSTANDING 4:2011/08/26(金) 21:53:29.92 ID:tdZ+Z76q0

「大丈夫舞美ちゃん、ね、ね、ハンカチ持ってる?貸してあげよっか?」
「……だいじょうぶ……持ってる……」

ポケットからハンカチを取り出し涙を拭う舞美の肩を、「ほらほら」と愛理が優しくぽんぽん叩く。
「涙が止まったら、行こ」と愛理が促すと、「うん」と鼻をすすって舞美もゆっくりと歩き出す。
どちらが保護者かわからない、制服姿の二人が、並んで劇場のロビーを後にした。
――去り際に愛理が、壁に並んで貼られた上映前のポスターを眺めていった。

シネコン式の映画館が上階に入った商業ビルのエスカレーターを、二人で上下に並んで下りる。
下の階にはレストランのフロアがあった。

「……ちょっと、お腹空いちゃったね」

切り出したのは一段上にいた舞美だった。言葉には、何か軽く食べていきたいね、という
ニュアンスを含ませて。しかし――、

「うん。でも、家でご飯作って待ってるからさ……」
「そうだね……」

愛理の言葉に、舞美は(いけない!)と自省して答える。ただ映画を観ていた自分と比べて、
ダンスのレッスンを終えた愛理の方が、ずっとお腹が空いてるはずなのに、と……。
下階に着くと、二人は横に並んで歩いた。「……今日は、誰だっけ」舞美が今晩の食事当番を
尋ねると「たしか……千聖」愛理が答える。

「じゃあ、また、アレかあ……」舞美が言う。
「いいじゃん、美味しいんだから……」
「うん、まあ……」「ねえ……」

思い出して、二人の言葉が詰まってしまう。そこで、今度は愛理から話を切り出す――。

「でも舞美ちゃん、映画好きだよね?」
127名無し募集中。。。:2011/09/05(月) 23:20:07.90 ID:cLPmrnOBO
落ちたかと思った…良かった
1281号:2011/09/10(土) 21:15:17.50 ID:EIJxOMhh0
今の羊なら、そう簡単には落ちないですよ多分

続き書いてるけど、このペースだと明後日あたりになりそう
129UPSTANDING 5:2011/09/12(月) 22:30:07.40 ID:fNPN1qPP0

「そう……かな?」

訊かれた舞美は、映画が好きな友達のことをを思い出していた。
いつも映画館に通って、映画の話をして、映画監督や役者の名前にも詳しかったその子に比べると、
自分は監督どころか、役者さんの名前もろくに知らないし憶えていない。
そんな自分が映画好きを自認してはいけないと思い、「……そうでもないよ」と否定をした。

「でもさあ、舞美ちゃん、いつもここに来てるじゃん」

愛理が再び訊ねた。

「それはさあ、たまたま、ここに映画館があったからだよ」

愛理が通うレッスン場は、わりと大きな繁華街の中にあり、側にシネコン式の映画館があった。
愛理を迎えに来た舞美は、愛理がレッスンを受けている間、ここで映画を観ていることが多かった。

「映画を観てるとさ、待ってる間、ちょうど時間を潰せるから」

舞美が言うと、「……」愛理は無言でそれを聞いていた。
二人は、建物を出て街の雑踏に交じる。夜でも賑わう目抜き通りを、駅に向かって歩き出した。

「……ねえ舞美ちゃん、いつも待たせちゃってごめんね」

横を歩く愛理が、前を向いたまま小さく言った。

「何言ってんの、あたしが勝手に来て待ってるだけなのに」

舞美は否定をする。「それにさ……」次に口から出た言葉は、愛理を安心させるためだけに言う
言葉ではない、紛れも無い舞美の本心だった。

「……本当はね、早くここへ着いて、愛理を待ってる間に、映画を観るのが楽しみなのかも」
130UPSTANDING 6:2011/09/13(火) 23:24:06.70 ID:aLnBV+xV0

「……そうなんだ?」
「うん。一度観始めるとさ、何か癖になっちゃったみたいで、次々に新しい映画が
 観たくなっちゃって」
「へええ」

お互いに、前を向いたままの会話だったけど、愛理の顔に明るさが戻るのがわかった気がした。

「でも舞美ちゃん、この前は、ホラー映画も一人で観たんでしょ?凄いよねー!」

愛理が言った。
その程度のことを、とても“大変な偉業”のように言う愛理が“可愛い”と思えた。
「別に、凄くはないでしょー?」笑顔で答えながらも、そういえば以前の自分は、
ホラー映画を一人で観にいくなんて、たしかに考えられないなと思った。

「怖かったけどさあ、面白かったよ」

観た映画の内容を思い出す。荒廃した世界で、ゾンビに立ち向かう女戦士が、とても格好良かった。

「ほら、映画ってさあ、いながらにして、どんな世界でも体験できて、何にでもなれて、
 みたいなところが良くってさ……」

つい語り始めた舞美の話を、愛理は横で黙って聴いている。

「それにさあ、映画を観てる間は、何も考えなくて、嫌なことも全部忘れられるっていうか……」

舞美は、そこまで言って、はっと“そのこと”を思い出し黙ってしまう。そんな舞美に、

「舞美ちゃんさあ、やっぱり映画が好きなんだよ」

愛理が、にっこりと笑顔を向けた。
131UPSTANDING 7:2011/09/15(木) 22:49:36.28 ID:nV47Mimb0

「……ううん、ただ癖になったから観てるだけだよ」

やっぱり、そんな自分が映画好きを名乗ってはいけなと思い、舞美は改めて否定をする。
「それより、愛理……」映画から話題を変えようと、舞美は違う話を振る。

「……帰ったらさ、今日のダンスのステップ、教えてよ」
「え……さっきの!?」
「違う!あんな変なのじゃなくて、レッスンで習ったやつだよ!」

咄嗟に、また妙な動きを披露する愛理に、舞美はつい笑ってしまう。
おかげで、“愛理の変なダンス”に話は逸れて、会話が弾み、二人は笑いあいながら駅に着いた。


帰りの電車は、まだ混んでいた。
舞美と愛理が立っていると、ほんの数駅を過ぎた停車駅で、ちょうど前に座っていた二人組の
女性が立ち上がり、空いた座席に並んで腰掛けることができた。
『ほっ』と一息をついたあとで、舞美から話しかけた。

「……やっぱりさあ、車があった方がいいよね」
「え?」
「ほら、あたし、来年の二月には自動車の免許証が取れるから。そしたら、さ……」

そこまで言うと、愛理がもの凄い勢いでぶんぶんと首を横に振った。

「いいよいいよいいよ車なんて、そんなそんな……」
「どうしてよ、車があると便利だよ?」
「だって……舞美ちゃんが運転するんでしょ?」
「なによ、それえ!?」
「そうだ!車はさ、なっきぃが免許を取ってからでいいよ。それからでも遅くないからさ。
 ね?ね?ね?」
132名無し募集中。。。:2011/09/17(土) 12:00:58.50 ID:TSejFyLHO
普通の運転はいいんだけどふとしたときになんかしそうで怖いねw

「……ちょっと!?いま信号赤っ!!!」
「…えっ!?」キキーッ
「交差点の真ん中で止まらないでー!」
133UPSTANDING 8:2011/09/17(土) 23:10:34.62 ID:Nzl8Az1e0

必死な愛理に、舞美は思わず『むぅ』と口を尖らせる。
“天然ドジさん”なのは不本意ながら(……あくまで不本意ながら!)認めてはいるけど、
ちゃんと教習所へ通えば、人並み程度に運転くらいはできるはずだと自分では思うぞ。

「……ねえ、あたしが運転するのって、そんなに不安?」

納得できない舞美が訊くと、

「だって舞美ちゃんが車を運転するとさあ、きっと軽くアクセル踏んだだけでも『あれ!?』とか
 言って、スピードが簡単に200キロぐらい出ちゃうんだよ?そしたら怖いじゃん」

真顔で答える愛理に、(何だその理由!?)とあきれながらも、愛理の真剣な表情に(もしかして、
自分ならありえるのかも……!?)と、舞美はつい黙り考えてしまう。
そんな舞美を見て、愛理が(冗談だよ)とでも言うように、いかにも可笑しそうに表情を崩した。
「……あー!」と怒って見せる舞美をなだめるように、

「車なんて、やっぱりいいよ。きっと値段も高いしさ。ね?」

愛理が、改めて穏やかな口調で言った。
値段、値段なら……。舞美は、その言葉に反応して、今度はすぐに口を開いた。

「値段ならさ、買うのはワゴン車じゃなくて、もう普通車でもいいんだから……」

瞬間的に出た言葉の意味を、二人は即座に理解し、噛み締めた。少しの沈黙が二人を包む。
以前は、『車を買うなら、七人全員が乗れるようにワゴン車を買わなきゃね』なんて、みんなで
きゃあきゃあと話をしていたのに、今では、普通車があれば全員が乗れてしまう。
今年の春に家を出た栞菜に続いて、ついこの前、えりかが自立のために家を出たからだ。

「……それにさ、他の子はちゃんと、お父さんとかお母さんが車で迎えに来てくれるんでしょ?」
134UPSTANDING 9:2011/09/19(月) 00:09:40.98 ID:OY+WT9Se0

舞美が訊いた。舞美は、えりかと最後に交わした約束を思い出していた。
自分が保護者として、責任を持って妹たちの面倒を見る。だから、えりは心配しないで、と。

それから舞美は、デビューを目指す愛理に、自分がしてあげられることは何かを考えた。
こうしてレッスンが終わると迎えに来て、必ず一緒に帰ろうと決めて、行動した。
そして、他のレッスン生が車で送り迎えをされているのなら、自分もそうしてあげたいな、と思った。

「うん。でも、みんなじゃないよ?うちらみたいに、電車で帰る子もいっぱいいるよ?」

愛理が答えた。「でも……」続く舞美の言葉を「大丈夫だよ!」愛理が遮る。

「舞美ちゃんが免許を取れる頃には、あたしもう絶対デビューしてるから!そしたら車なんか
 無くても、マネージャーさんに付いてもらって、もう余裕で送り迎えしてもらうんだから!」

舞美の気持ちは理解してるよ?という風に、愛理は明るく言った。「それにさ……」愛理は
言葉を続けた。

「こうして二人で電車で帰るのも楽しいよ?家に帰るまで、舞美ちゃんを独り占めって感じで」

そう言うと、甘えるように横に座る舞美の腕に手を回してきた。

「もう……何言ってんの!?」

周りの視線を気にして、照れて言う舞美の顔を見上げて、「なーんてね」と言いながらも、
組んだ腕は離さず、力を抜いて絡めたまま、愛理は「くふふふ」と悪戯っぽく笑っている。
舞美の照れは、すぐに消えた。そこに、例え人数が減っても変わらない“家族”を感じたから。

「そうだ、今度の三者面談にも、ちゃんと行くんだからね」
135UPSTANDING 10:2011/09/20(火) 22:32:04.08 ID:BXa1OTpk0

舞美が思い出して言った。

「ああ、あたしの?……いいって言ってるのに。だって舞美ちゃんも学校があるでしょ?」
「でも、これも保護者としての責任だから……」
「大丈夫だってば。志望校だって変わらないんだし、特に話すことようなこともないからさ」

愛理が答える。
芸能の仕事を志し、デビューを目指す愛理は、同時に高校受験を控えた受験生でもあった。

「……志望校は、大丈夫なの?やっぱり変えないんだ?」
「うん、今のままなら、大丈夫じゃないかってさ」
「でも、レッスンに通いながら勉強するの、大変じゃない?」

愛理は、オーディションに合格して、レッスンに通うことが決まっても、それ以前から
希望していた志望校のランクを下げることを望まなかった。
きっと今夜も、疲れた体を食事とお風呂で癒したあとは、遅くまで机に向かうはずだ。

「大変だけどさ、オーディションに受かったときに、学業との両立もちゃんとしますって
 事務所の人と約束したしね」

それでも心配そうな顔の舞美に、

「平気だよ。勉強だって嫌いじゃないし、レッスンだって楽しいから。ほら、好きなことだし、
 ……小さい頃からの夢だったから」

そう言うと、愛理は照れくさそうに微笑んだ。

「そうかあ……愛理は偉いね」
「何を何を、別に偉くなんかないって……!」
136電脳プリオン:2011/10/26(水) 22:17:41.50 ID:4pLnGHPs0 BE:81081942-2BP(1960)
7人は多すぎだろ
137作B ◆SAKubqyuTo :2011/11/12(土) 16:42:56.39 ID:2V0kGCf10
すごい!このスレ生きてたんだ!www
138名無し募集中。。。 :2011/11/13(日) 00:12:12.54 ID:hLqUY2Fd0
生きてたんだ!wwwじゃねーよ
バカにしてんのか
ドライブに行ったままの愛理と舞美の続きを早く書けよ
139ねぇ、名乗って:2011/12/15(木) 06:37:51.58 ID:BC6vYhpG0
どんなジャンルでもいいから小説読みたいな。
140ねぇ、名乗って:2011/12/15(木) 21:10:35.93 ID:BC6vYhpG0
キュートがモビルスーツに乗るとかイインジャネ
141ねぇ、名乗って:2012/01/31(火) 04:53:11.91 ID:Iv/D2ICoO
あげてみる
142教えてください:2012/02/09(木) 19:32:00.25 ID:33fS8xlt0
http://japanese.joins.com/upload/images/2012/02/20120209115520-1.jpg


また、「私の夢は韓国の男性と結婚し韓国で生活すること。韓国の男性に
出会うのを助けてくれると信じている」と付け加えた。

この女性はハロプロのキュートに所属してた村上愛さんではないでしょうか?  



143ねぇ、名乗って:2012/04/05(木) 01:24:59.01 ID:25eVRidWO
続き待ってるよ
144アップスタンディング 11:2012/04/17(火) 23:10:54.79 ID:fcY9b4sC0

「偉いってば、小さい頃からの夢に向かって努力して、毎日こうやって頑張ってるじゃん」
「いやいやいや……そんなに褒められると照れるじゃないかあ!」

愛理が組んでいた腕にぎゅっと力を込めて、寄り添うように頭をもたげてきた。
(……おや?今日の愛理はやけに甘えてくるな)と、舞美は少し不思議に思った。

「ううん、愛理は頑張ってるよ。それに比べたら、あたしなんかさ……」

舞美はあらためて言い、自分の小さい頃のことを思い出してみた。

「……そうだ、思い出した!あたしの小さい頃の夢なんて、『テレビの中に入ってみたい』だよ?」
「テレビの……中?」
「そう、テレビの中!……もう、何かバカみたいじゃない?」

愛理と違って、幼くてバカバカしい自分の夢に、舞美は少しあきれて言った。
しかし、そんな舞美の問いに、

「ううん……全然バカみたいとは思わないよ?」

愛理が真剣な顔で言い、

「そういえば、舞美ちゃん小っちゃい頃に言ってた気がするね。ねえ、その夢の話、詳しく教えて?」

そう舞美に訊き返した。

「うん。ある時、テレビを見てたらね、テレビの中の人がすごく楽しそうに見えたの」
「中の人?」
「そう、そこにいる歌手の人や、タレントさんとかが、すごく楽しそうに見えてさ。
 ……でね、ふと、あたしもテレビの中に入りたい、あの仲間に入りたい!って思ったんだ」
「へええ」
145アップスタンディング 12:2012/04/17(火) 23:18:19.84 ID:fcY9b4sC0

愛理が興味深そうに話を聞いてくれている。だが、

「でも、さ……」

――続く舞美の言葉はそこで途切れて、少しの沈黙が二人の間に流れた。
舞美は、瞬間的にそれからのことに思いを馳せる。

ある時から、えりかと二人で五人の妹たちの“親代わり”を務めざるを得なくなったこと。
自分も学校に通いながら、妹たちの日常の世話に追われる生活。
“保護者”としての責任を担い、その重圧と闘う日々。
そんな毎日を送るうちに、自分の小さい頃の夢なんて、いつの間にか忘れちゃってたな、と――。

「舞美ちゃん?」

愛理に声を掛けられ、「……ん!?」と舞美は我に返った。

「どうした?」
「ううん……何でもない」

舞美は、微笑みながら答える。
愛理の表情を見て、あらためて思い出す。日々の生活を、辛いと思ったことは無かった。
まず、みんなの幸せを第一に考えるのは当たり前だと思った。
そして、妹たちもみんな、そう考える子たちばかりだったから。
舞美は、それを実感していた。
そうして、支え合うことで、あたし達は今日まで生きてこれたんだ、と。
それに……。

「……やっぱり、自分のせいだよ」
「え……?」

舞美がそっと呟やくと、愛理が不思議そうに訊き返した。
146アップスタンディング 13:2012/04/20(金) 20:08:18.26 ID:Sr2fNHfX0

毎日が大変だったのは、きっとみんなも同じはず。それでも、えりかはモデル、愛理は歌手と、
小さい頃からの夢に向かって努力して、その夢を叶えようとしている。
だから、自分だけが夢を忘れてしまったなんてのは言い訳に過ぎないんだ。

「……ううん、頑張り屋さんの愛理には関係無い話だよ。そうだよ、自分のせいなんだから」

そう言って、舞美はこの話をこれで終わらせようとした。
しかし、

「自分のせい、か……」

愛理が正面を向き、そう小さく呟いた。

「え……愛理?」
「ううん…………何でもない」

愛理はそう答えたが、自分の腕に回されていた手から、
急に力が抜けていったのに舞美は気付いていた。

「どうした愛理、何かあった?」

しかし、今度は答えが返って来ない。愛理は、ただ正面を見つめて、口を閉ざしている。
全く予想をしていなかった愛理の反応に、舞美は驚いた。そして、

「…………あたしさ、ちっとも頑張り屋さんじゃないよ」

愛理は、それだけを言うと、俯き、再び黙ってしまった。

「愛理……」
147アップスタンディング 14:2012/04/20(金) 20:13:10.89 ID:Sr2fNHfX0

舞美は、そんな愛理の様子に、それ以上立ち入ったことを訊くことが出来なくなってしまった。
それからしばらく、沈黙したままの時間が続き、電車は、二人が降りる駅へと到着した。


電車を降りた二人は、黙ったままホームを歩き、改札を抜ける。
そして、家路を急ぐ多くの人達と一緒に、夜の駅前通りに出た。
駅前から連なる商店街は、まだ開いている店のネオンと、店内から漏れる灯りで通りも明るく、
人の往来もまだ絶えてはいない。

駅から家までは、数通りの道順があったが、帰りが遅くなった時には、
安心して歩けるこの道を通ると二人は決めていた。
ここから自宅まで、十分ちょっと。いつもの通り道を、二人は並んで歩き出す。

「今日も遅くなっちゃったねー。お腹も空いたし、早く帰ろっか」

舞美から、努めて明るく話しかけてみたが、「……うん」と頷く愛理の返事は小さく、
やはり元気が無いようだ。
心配する舞美が、(さて、どうしようか……)と思案していると、

「……舞美ちゃん」

今度は愛理の方から話しかけてきた。

「ん、なに?」

ようやく自分の方から話してくれたな、と喜ぶ舞美の腕に、再び愛理が自分の腕を回してきた。
(え……!?)と、突然のことに舞美が驚いていると、

「今日は……遠回りして帰ってもいい?」
「遠回り?」
「うん。こっちから」
148アップスタンディング 15:2012/04/28(土) 21:22:50.27 ID:0QhJaO1n0

愛理が、組んだ腕に力を込めて、通りから外れる狭い道へと舞美を誘った。
そこは、人通りも少ない、少しほの暗い裏通りで、普段は夜なら絶対に通らない道だ。

「でも、こっちの道は、さ……」

少し戸惑う舞美に、

「二人いっしょだから平気だよ。……ねえ舞美ちゃん、駄目かな?」

再び愛理が訊いた。
いつもと違う愛理の様子に、(きっと、何か理由があるのかな)と舞美は思い、

「……そんなに言うなら、別に構わないよ」

と答えると「ありがと……」と愛理が小さく言った。
身を寄せあうように腕を組んだ二人は、暗く静かな道へと入る。
少し歩いてから、

「あのね……」

愛理の方から話しかけてきた。
先に口を開いてくれたことに安堵し、舞美は「うん」と頷いて話を訊く。

「……実はね、今日のダンスレッスン、散々だったんだ」
「え……!?」
「あたし一人だけ、他のみんなについていけなくてさ、先生にたくさん怒られて、
 みんなに迷惑をかけて、それでちょっと落ち込んじゃって……」

愛理が静かな口調で言った。
ダンスも「ラクショー」と答え、いつになく明るい調子でいた、
さっきまでの愛理の様子を思い出して舞美は驚く。
149アップスタンディング 16:2012/04/28(土) 21:26:03.16 ID:0QhJaO1n0

「自分では精一杯頑張ってるつもりなんだけど、できなくて。もう、すっごい悔しくてさ……」

愛理が話を続けた。

「泣きそうになったんだけど、絶対にみんなの前では泣くもんかーって思って。
 泣くときは、家に帰って一人になったときに……お風呂の中でいっぱい泣くぞって、
 ずーっと我慢してたんだけどね……」

愛理のテンションが普段より高く、また妙に甘えてきた理由がわかった気がした。
きっと、落ち込んでるのを悟られまいと、いろいろ無理をしてたんだな、と――。

「でも、あたしのせいで他のみんなに迷惑かけちゃったこと、
 舞美ちゃんに『自分のせいだ』って言われて思い出しちゃって……」
「あ、愛理、違うの。あれはね……」
「……ごめんね。我慢しきれなくなったみたい。
 だから、家に帰るまで、ちょっと遠回りさせて……」

愛理の言葉が、そこで途切れた。舞美と組んだ腕をギュツと引き寄せ、肩の辺りに顔を預ける。
愛理が、人の通らない道を選んだ理由もわかった。
堪えきれずに「うぇえ……」と小さな泣き声を上げ始めた愛理に、舞美がしてあげられることは、
同じく力を込めて愛理の身を引き寄せて、歩みの速度を遅めて、少しでも多くの時間を
思いきり泣かせてあげることしかなかった。

しばらく泣いて、気持ちも落ち着いたのか、続いていた愛理の泣き声が
「ぐすん……ぐすん」と鼻をすする音に変わった。

「愛理……?」

もう大丈夫?という意味で、舞美が優しく話しかけると、

「……ごめんね舞美ちゃん、こんなの、今日だけだから」
150アップスタンディング 17:2012/05/04(金) 19:36:47.99 ID:euFzS2Z50

愛理が言って、頬を伝った涙を手の甲で拭った。

「ほら愛理、ハンカチ貸してあげるから……」

そう言って、ポケットに手を入れた舞美に、

「大丈夫、持ってるから」

愛理が、自分のポケットからハンカチを取り出して、頬を拭きながらクスッと笑った。
「ん?」と、その笑みを不思議に思った舞美に、

「だって、さっきと反対なんだもん」

愛理が言い、「あー」思い出して舞美も笑った。
一緒に笑いながら、笑顔が戻った愛理に、舞美は少しホッとする。
角を一つ曲がり、別の通りへ出ると、二人が帰る家が見えてきた。

「ねえ、舞美ちゃん」

愛理が話しかけた。

「ん、なあに?」
「さっきさ、舞美ちゃんが言ってたとおりなんだよね。『全部、自分のせい』なんだって……」
「愛理、違うの。あれはあたしのことで……」

舞美の言葉を、「ううん」愛理が遮る。

「……出来ないことがあったら、それは誰のせいでもない、やっぱり自分のせいなんだよ」
「愛理……」
「だから、泣いてなんかいないで、もっともっと頑張らなきゃいけないんだ。……だって、
 せっかく舞美ちゃんが『頑張り屋さん』って褒めてくれたのにさ」
151アップスタンディング 18:2012/05/04(金) 19:43:41.53 ID:euFzS2Z50

愛理が、舞美の顔を覗きこみ、少し照れ臭そうに感謝の言葉を述べた。そして、

「ただいまー!」

玄関の扉を開ける頃には、愛理はいつもの愛理に戻っていた。
しかし、愛理の言葉に力強さが増すのとは逆に、舞美の表情が曇っていく。

あたしは、いったい何をやってるんだろう。
本当に頑張らなきゃいけないのは、あたしの方なのに、
いつも映画館の暗闇の中に、逃げてばっかりで……。

愛理より学年が三つ上の舞美は、現在高校三年生、愛理と同じ受験生――。
この秋、進路の決断を迫られているのは、実は舞美の方だった。


 ――――――――――――――――――――――――――――


その翌週、学校を終えた舞美は、制服姿のままで、映画館が入るビルのフロアーにいた。
この日は、また愛理のレッスンがある日。
朝、家を出るときには、「今日はダンスの日だよ」と明るく言っていた愛理。
きっと今頃は、人一倍の汗をかき、苦手なダンスに挑んでいるはずだ。

舞美は、劇場前の通路から、チケット売り場や売店が並ぶロビーを眺める。
でも、もう、しばらく、映画は観ないと決めていた。
愛理が頑張っているのに、自分ばかりが現実逃避をしている訳にはいかないと思ったから――。

それなのに、何故また映画館の前に来てしまったんだろう。
(つい、いつもの癖だな……)と舞美は反省をして、その場に立ち、進路のことを考えてみる。

あたしは、何がしたいんだろう?
152アップスタンディング 19:2012/05/04(金) 19:45:13.40 ID:euFzS2Z50

進学できる学力はあると言われている。しかし、『とりあえず進学』という訳にはいかない。

舞美には、四人の妹たちがいる。
早貴、愛理、千聖、マイ。
この先、誰が大学へ行きたいと言うかわからない。
全員が、大学へ進学できる経済的な余裕はあるのか?と考えると、『ならば自分は……』と思う。

それなら、就職――。あたしは、何になりたいんだろうと再び考える。
『テレビの中に入りたい』なんてバカなことを思った小さい頃。
それ以前も、それからも、なりたいと思ったものは沢山あったはずなのに、何も考えつかない。

舞美の視線が、劇場内の、スクリーンへと繋がる暗い入り口へと向く。
将来の事を考えるほど、悩めば悩むほど、その心が映画館の暗闇に吸い込まれていこうとする。

(……いけない!)と頭を振り、振り返って劇場の入り口に背を向ける。
とりあえずここを離れようと歩き始めたときに、制服のポケットに入れていた
携帯電話の着信音が鳴った。
ディスプレイには、登録されていた携帯番号と『早貴』の文字が表示されている。

「もしもし?」

舞美が携帯に出ると、

『……ねえちょっと舞美ちゃん、どこ行くの!?』
「え!?」

早貴の言葉に、舞美は思わず辺りを見渡たす。
「あー!!」舞美は、片手に携帯を持ち、もう片方の手を大きく振って、こっちに向かって
歩いてくる早貴の姿を見つけた。早貴だけではない。その両脇には千聖とマイもいる。
153アップスタンディング 20:2012/05/10(木) 21:16:59.74 ID:0dBPXZnS0

三人は、舞美と同じく学校帰りにそのままここへ来たらしく、学校の制服姿のままだ。
舞美の側まできた早貴は、携帯を切って「やっほ!」と明るく話しかけてきた。
早貴の横では、マイがニコニコと笑っている。千聖が、何故か一人だけ浮かない表情でいた。

「……どうしたの、みんな!?」

自分の携帯を仕舞って、舞美が訊ねると、

「舞美ちゃんさあ、愛理を待ってる間、いつも一人で映画観てるんでしょ?」

早貴が、舞美の顔を覗きこんで言った。

「え!?うん。でも、今日はさ……」
「ほら、もう舞美ちゃんばっかりズルいじゃん?」

マイが、舞美の言葉を途中で遮って言った。

「……だからね、今日はみんなで一緒に映画を観て、
ついでだから御飯も食べて帰ろうって話になって。ねえ、千聖?」

マイが千聖に同意を求めると、

「うん……」

千聖は、何かを納得していない顔で小さく返事をした。
マイと早貴の二人は、そんな千聖の表情を気に留める様子もなく笑顔のままだ。
舞美は、その光景を少し不思議に思った。

「映画は、楽しみだけどさあ、でもみんなは……」

千聖が口を開くと、
154アップスタンディング 21:2012/05/10(木) 21:19:30.22 ID:0dBPXZnS0

「ね、みんな映画楽しみじゃん?で、その後はついでにごはんだから!」

マイが、大きな声で千聖の言葉を遮った。
「うん。だから舞美ちゃんもさ」と早貴が言って、舞美が背を向けた劇場の入り口を指差した。
しかし、

「……ごめんね、あたしは、しばらく映画は観ないって決めたんだ。
 だから、今日は三人だけで観てきなよ」

舞美が言うと、「えー!?」と、早貴とマイが声を揃えて言った。

「ねえ舞美ちゃん、何で?」

早貴に訊かれた。けれども、舞美は返事に困ってしまう。
(愛理が、今もレッスンで頑張っているから……)
そう答えて、それが映画を観ない理由として、すぐに理解してもらえるとは思えない。
かといって、自分が、単に現実逃避のために映画館に通っていたなんて説明は、
恥ずかしくてなるべくしたくないなと思う。

「それは、さ……」

舞美が言葉に詰まっていると、

「ねえ、せっかく愛理が、みんなで一緒に映画観ようねって言ってたのにさ」

マイが不満げに言った。
(……ん、今なんて言った?)
突然の言葉をすぐに理解できずに、舞美が不思議な顔をしていると、

「あー、来たよー。こっちこっち!」
155アップスタンディング 22:2012/05/10(木) 21:24:55.41 ID:0dBPXZnS0

早貴が、誰かに向かって手を振り始めた。舞美は、その方向へと振り向いて、

「……え、愛理!?」

驚きの声を上げた。
みんなの前まで歩いて来た制服姿の愛理は、

「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」

と、早貴たち三人に言ったあと、舞美の方を向いて照れくさそうな顔を見せた。

「……愛理?なんで?今日、レッスンは?」

先週の、愛理の様子を思い出し、まだ信じられないという表情の舞美に、

「お休みしちゃった!嘘ついてサボるの嫌だから、レッスン場に行って先生に直接話してきたの。
 家族の大事な用事ができちゃったから、今日はスイマセンって」

愛理は、そう言って微笑んだ後、舞美にだけ何かを伝えるように、
こっそりとウインクをしてみせた。「え!?」と、そのウインクの意図が掴めず、
きょとんとしている舞美に、

「ねえねえ、実はあたし、これが観たいなーと思ってて!」

愛理が、上映中の作品ポスターが並んだ劇場前のロビーで、
拳銃を持った女性が真っ直ぐの姿勢で立っている一枚のポスターを指差した。

「あ!」

それは、舞美が予告編を観て面白そうだと思った洋画『アップスタンディング』だ。
156アップスタンディング 23:2012/05/24(木) 21:38:48.56 ID:0Ltu8ZKY0


愛理にも説得されて、舞美は、結局みんなと一緒に映画館に入ることになった。
何の映画を観るのかは、上映開始の時間がちょうど合うこともあり、
愛理が観たいと言ったアクション映画『アップスタンディング』に、さほど迷うことなく決まった。

五人で横並びに座れる席を取り、舞美たちは場内へ入る。大きなスクリーンと向かい合う。
『しばらく映画は観ない』と言ったばかりなのに、この場所へ座ると舞美は、
自分がとてもわくわくしていることに気が付いた。

――場内の照明が暗くなる瞬間。
観客の意識が日常から離れ、目の前のスクリーンが非日常の世界への入り口となるとき、
これから体験することになる未知の世界への期待に、舞美の胸は自然と高まっていく。

「……ねえ、愛理」

舞美が、隣に座る愛理に小声で話し掛けた。「ん?」という顔で、愛理が舞美の方を向いた。

「ありがとうね」
「え、何が?」
「……ううん、何でもない。一つ、わかっただけ」

舞美は、(自分は、もしかしたら本当に映画が好きなのかも……)と
気付かせてくれた愛理に礼を言うと、不思議そうな顔の愛理にニッコリと笑いかけてから、
正面を向き直った。そして、(さあ、映画を楽しむぞ!)と、意識をスクリーンに集中させた。

数本の予告編を経て始まった『アップスタンディング』は、親しい人物に騙され、
全てを失った女性『リサ』が、闇の世界に身を落としていきながらも、
高潔な精神だけは失うことなく、そこから立ち上がり、復讐を誓うというストーリーだった。

157アップスタンディング 24:2012/05/24(木) 21:45:11.49 ID:0Ltu8ZKY0

物語の主人公『リサ』を演じたのは、黒い髪を無造作なショートボブにした白人女性で、
体は細身だが華奢ではなく、鍛えられ、引き締められた体躯には力強さを漂わせ、
それでいて、スラリと伸びた長い手足のしなやかな動きに、女性らしい美しさを感じさせた。

『リサ』役の女性は、ハードなアクションシーンの多くを、自らがこなしているようだった。
スクリーンの中を縦横無尽に舞い、闘う彼女は、強く、そして美しかった。
そのラストシーンで、全てを終えて、毅然として立つ『リサ』の姿に、舞美は魅了されていた。


「面白かったねー!」

長いエンドロールを終えて真っ先にそう言ったのは、意外にも、
映画館に入るまで何だか元気の無かった千聖だった。
この映画が観たいと言っていた愛理が、即座に「うん!」と頷いた。

照明が点いても、場内は、まだ映画の心地よい余韻が溢れているようで
マイと早貴も、「面白かった!」「カッコよかったね!」と、満足そうな表情で言った。もちろん舞美も、

「うん、すごくカッコよかった!」

まだまだ、興奮が冷めやらぬといった様子で答えた。
舞美たち五人は、高揚した気分のまま劇場を出て、明るいロビーを歩く。
劇場の外は、もう現実の世界のはずなのに、まだ半分は映画の中にいるような不思議な気分がした。

――面白かった映画を観終えて映画館を出たときは、いつも感じることだ。
自分の中にまだ、映画の主人公がいて、勇気をくれているような気がして、
(ああ、この感覚も、自分は好きなんだな)と舞美は思った。

「わぁ、もうこんな時間だね」

早貴が、自分の腕時計を見てみんなに言った。
158アップスタンディング 25:2012/05/30(水) 20:52:10.36 ID:s1UtgMDQ0

「そうだ、みんなでごはん食べるって言ったじゃん。ねえ、ごはん!」

マイが思い出したように言うと、

「下の階にさ、レストランがいっぱいあったよ。そこは?」

愛理がみんなに訊いた。
愛理の意見に異論は出ずに、「行こう行こう!」とマイがみんなを促して、
舞美たち五人はレストランへと向かった。

エスカレーターを下っていくと、多くの飲食店が軒を連ねるフロアへと着いた。
歩いてみると、ファミリー向けのレストランや、和食、洋食、中華料理など、
たくさんのお店が並んでいて、どこへ入ろうか迷ってしまう。それで、

「みんなは何が食べたい?」

舞美が訊くと、

「マイはねえ、チャーハン以外なら何でもいい!」

マイが威勢よく答えた。
それと同時に、早貴と愛理が「あ!」という顔になり、

「ほら、やっぱりそうじゃんかー!」

突然、千聖が怒ったように言った。

「もう、千聖の作る御飯が嫌ならさあ、最初からそう言えばいいじゃん!」

声を荒げる千聖に、(何だ……!?)と舞美が驚いていると、
159アップスタンディング 26:2012/05/30(水) 20:53:51.13 ID:s1UtgMDQ0

「嫌じゃないってば!嫌じゃないけどさあ、いくら美味しいって誉められたからって、
 毎回毎回チャーハンじゃ飽きるっつーの!」

マイが、千聖に言い返した。

「だから、具とか味付けとか、ちゃんと考えて毎回替えてるじゃん!」
「いくら替えてもチャーハンはチャーハンだし。もう、マイはチャーハン以外が食べたいんだって!」

言い争いを始めた千聖とマイの間に、慌てて早貴が「まあまあまあまあ」と割って入る。
愛理が、呆気にとられていた舞美の方を向き、困ったような笑みを浮かべた。
(……あ!)と、舞美も気が付いた。
連呼されていた“チャーハン”という言葉に、舞美も思い当たる節があった。

料理が得意で、自らが進んで家族の料理番を務めていた長女えりかが家を出たことで、
晩御飯の準備は、必然的に残った五人が交代で務めることになった。

最初はみんな「レパートリーが続かないよ」と不安がっていたが、悪戦苦闘をしながらも、
全員で交代しながら、なんとか御飯を作っていった。
やっぱりみんな女の子、キッチンに向かうことや、手料理の感想を聞けるのは楽しいようで、
特に、千聖が作ったチャーハンが「美味しい!」とみんなに好評を博して、千聖も自信をつけた。

しかし、愛理がレッスンに通い始め、それを舞美が迎えにいくようになると、
二人の帰りが遅くなる日が増えて、さらに早貴が、友人に頼まれて放課後にカフェでのアルバイトを
始めたことで、晩御飯の負担が、千聖とマイの二人に大きくのし掛かるようになってしまった。

千聖が「気にすんな、任せろ!」と言ってくれたので、「ごめんね?」「じゃあ……」と、
みんながそれに甘えてしまったのだが(マイまでも!)、それから、
晩御飯の食卓にチャーハンが並ぶ率が、異常に増えてしまっていた。

みんな、自分の都合で千聖に任せてしまっている負い目があるので、あまり強く文句も言えずに、
舞美も先週「また、アレかあ……」と、つい愛理にコボしてしまったところだ。
160アップスタンディング 27:2012/05/30(水) 20:58:53.72 ID:s1UtgMDQ0

「実はね……」

愛理が、舞美に向かって口を開いた。

「……マイちゃんがね、もうチャーハンはヤだから、今日は外食したいって言って、
みんなで映画を観たいってことにすれば帰りに外食ができるって……」
「あー、愛理、何でそれバラすのさ!?」

マイが、愛理に怒り、

「いやいやいや、マイちゃんが自分で先にチャーハンって言ったんだし!」

愛理に言い返された。

「で、マイちゃんがさ……」

早貴が、愛理の話を引き継ぎ舞美に言った。

「……自分たちが言っても、きっと千聖は疑うから、『愛理が、たまにはみんなで映画が観たいって
言ってたことにしよう』って言って、それで愛理に連絡して……」
「ちょっと待って、じゃあ、そのために愛理の大事なレッスン休ませたの?」

舞美があきれて言うと、

「違うって!」

マイが、慌てて言った。

「愛理は本当に来なくていいからさ、『やっぱりレッスン抜けられなかった』って言って、
 後で口裏だけ合わせてもらおうと思って、それで連絡したら、愛理が『来る』って……」
161アップスタンディング 28:2012/06/20(水) 19:37:10.54 ID:369Th8KB0

それを聞き、舞美が驚いて愛理を見ると、

「……ごめんね舞美ちゃん。ちょうど前から観たいなーって思ってた映画もあったし、
 最近ずっと忙しかったから、本当にたまにはみんなで映画もいいかなって……」

愛理の眉が、申し訳なさそうにハの字になった。
(あ……!)舞美は、自分が愛理を責めてしまったような気がして神妙な面持ちになる。
怒っていたはずの千聖が、二人の表情に気付いて心配気な顔をした。

「でも……」

愛理が続けて言った。
眉毛のハの字はそのままだが、今度は目尻も一緒に下がり、

「来てよかったー!映画はやっぱり面白かったしさ、なんかもう、すかーっとしちゃった!」

両腕をぴんと上に伸ばして、思いきりの笑顔で言った。

「――誘ってくれてさあ、本当にありがとうね。次のレッスンは、もう倍以上頑張れそうだから!」

愛理が、みんなに礼を言った。
その明るい表情と言葉に、千聖の頬も一緒に緩んでしまっている。
「そう、よかった」舞美がほっと胸を撫で下ろして言うと、

「……ね、やっぱ今日は映画観に来てよかったじゃん?」

マイが、自分が何か手柄を立てたかのように自慢気に、話に割り込んできた。

「ちょっと!」
162アップスタンディング 29:2012/06/20(水) 19:38:01.81 ID:369Th8KB0

真顔に戻った千聖が、マイに向かって言うと、

「ごめんね千聖」

事の顛末を見守っていた早貴が、申し訳なさそうに言った。
「……許せない」千聖が厳しい顔で答えると、「えええ……!?」と驚いている早貴に、
「ううん、チャーハンしかうまく作れない自分を許せない」千聖がすぐに付け加えて言った。

「くそお、今に見てろお。絶対に料理上手になって、もっと何でも作れるようになってやるし。
そして、何を作っても『美味しい』って言われるようになってやるんだから」

悔しそうに言う千聖の背中を、「偉いっ!」と舞美が叩き、バチンという大きな音が辺りに響いた。

「痛ぁい!ちょっと舞美ちゃん何すんのさ!?」
「あ、ごめんよちっさー。そう考えられる千聖は偉いなあと思って、つい……」

舞美が、何ら悪びれることなく答えると、

「ううん、本当はずっと『みんなで映画が観たいなんて、口実じゃないか』と思って
 ムカついてたんだけどさ……映画はたしかに面白かったし」

千聖が、真面目な顔で言った。

「――なんかね、あの主人公を思い出したら、自分がやれることは頑張らなきゃなって思ってさ」
「そうかあ」

(……ああ、きっと千聖の中にも、まだ映画の主人公『リサ』がいるんだ)と舞美は気が付いた。
千聖の横で、「うんうん」と笑顔で頷いている愛理の中にも――。

やっぱり、映画はいいものなんだな、と舞美はあらためて思った。
163アップスタンディング 30:2012/06/20(水) 19:38:49.41 ID:369Th8KB0

映画はきっと、素敵な現実逃避なんだ。
観終えた人に、元気や感動を、現実に立ち向かう勇気を与えてくれる。
いつもいつも、映画館の中に逃げこんでいてはいけないけれど、自分の進路が無事に決まったら、
また映画館に通おうと舞美は思った。

千聖の心意気に、マイも「ごめんよ千聖。ウチらも千聖に任せきりにしないで、
これからちゃんとするからさ」と素直に謝り、この場は収まった。
「……じゃあ、お腹空いたし!」千聖が笑顔で言って、五人で食べたいものを言いあった。

結局、五人分の映画代を使った後なので、晩御飯代はなるべく節約しようよという事になり、
リーズナブルな料金設定のファミリー向けレストランに入ることになった。
五人で座れるテーブル席に着くと、思い思いに食べたいものを注文する。
料理が来るまでの間、始まったお喋りの内容は、自然と映画の話になった。

「リサ、カッコよかったねー!」

愛理が、まだ興奮している様子で言うと、「うん!」舞美が、心から賛同をして頷いた。

「あたしさ、この女優さんの映画初めて観たけど、本当にカッコよかったね!」

映画の中の勇姿を思い出して、舞美が言うと、

「何言ってんの、舞美ちゃん?」

愛理が不思議な顔で言った。

「え……何って、何が?」
「舞美ちゃんさあ、この人の映画、先週観たばっかりじゃないか」
「……先週?」
164アップスタンディング 31:2012/06/20(水) 19:40:32.60 ID:369Th8KB0

舞美が訊き返す。

「ほら、『EVER LOVE』観てたじゃん。今日観た映画と、主演の女優さんは同じ人だよ?」

……あ、『EVER LOVE』かあ。そうか、『アップスタンディング』と『EVER LOVE』が……。
言われても、すぐにはピンとこなかった。先週、観た映画をまず思い出そうと思った。
そうだ、とても切ない恋愛映画に大泣きをさせられたんだ。
ブロンドのロングヘアーが綺麗な女優さんが、とっても可愛くて儚げで……。
その『EVER LOVE』と、『アップスタンディング』、主演の女優さんは、同じ人なんだあ…………。

「……ええええっ!?」

舞美は驚きの声を上げた。

「嘘嘘嘘……!?だってだって、イメージが全然違うし!」
「嘘じゃないよ」

驚いている舞美の様子が可笑しいのか、愛理が、くすりと笑って答えた。

「この映画の役作りのために体を鍛えて、髪の毛も短く切って黒に染めたんだって。
 情報番組の特集で、インタビューで言ってたよ。
 あたしねえ、それを見て『この映画が観てみたいな』って思ったんだもん」

愛理の話に、千聖とマイが「へええ」と感心している。

「……でも、『EVER LOVE』を観たのは、つい先週なのに」

舞美が言うと、

「あれねえ、口コミで人気が出てロングラン上映してたから、撮影とかはかなり前の映画だよ」
165アップスタンディング 32:2012/06/26(火) 23:02:25.42 ID:IfXOOsdS0

早貴が言い、愛理が「うん」と頷いて舞美を見た。
まだ信じられないという表情の舞美に、

「女優さんって、すごいよね」

愛理が言うと、舞美以外のみんなが「うん」と感心して頷いた。

「……うん」

少し遅れて、舞美も頷く。
作品によって、全然違うイメージを作る……、女優さんは、本当にすごいなと舞美も思った。
そうかあ、映画の中では、女優さんはどんなものにもなれるのか……。

「……あ!」
「どうしたの舞美ちゃん?」

突然、声を出した舞美に、愛理が訊いた。
舞美は答えない。
突然、自分の頭に浮かんだ考えを整理するので精一杯になったから。

自分が、映画館に通った理由。
自分が進路に迷ったときに、何故、映画館に惹かれていたのか、わかった気がした。
ここが、何にでもなれる場所だからだ――。

そう言えば、小さい頃の夢の話を愛理にしたっけ。
あの頃の夢は、叶わなかったけれども。
けれども、今度は……。

「……あたし、もしかしたら、スクリーンの中に入りたいのかもしれない」
166アップスタンディング 33:2012/06/26(火) 23:03:22.12 ID:IfXOOsdS0

誰に言うでもなく、舞美の口から出た言葉に、今度は舞美以外のみんなが、
「えええ!?」と驚いた顔になった。


 -------------


翌週、愛理がレッスンの日。
舞美は、映画館には入らず、代わりに“ある場所”へ寄ってから愛理を迎えに行った。
夜になり、そろそろ愛理のレッスンも終わる頃に、レッスン場が入ったビルの前に着く。
入口の前で、愛理が出てくるのを待った。

ビルの奥から、レッスン生だと思われる数人の若い女の子が歩いてくるのが見えた。
その子達がビルから出てきたときに、

「愛理!」

その中の一人に、愛理の姿を見つけて、舞美は声を掛けた。

「…………舞美ちゃん!?」

愛理が、今朝とは違う舞美の姿に、驚きの声を上げた。

「舞美ちゃん、その髪の毛!?」
「えへへへ、切ってきちゃった」

美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、舞美は思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、

「……どう、短いのも似合うかな?」
167アップスタンディング 34:2012/06/26(火) 23:04:42.56 ID:IfXOOsdS0

心配していたことを、今度は照れくさそうに愛理に訊いた。
「へええ……」と、ずっと驚いていた愛理の表情が一転して、

「……うん!舞美ちゃん、ショートもすごく可愛いよ!」

弾けるような笑顔で答えた。
「ありがと!」と、舞美も笑みを浮かべる。

「……でもさあ、何で急にショートに?」

愛理が訊いた。

「この髪型だとさ、可愛いだけじゃなくて……
 これでスーツを着たら、大人っぽく見えると思わない?」
「え……スーツ?」
「うん。今度の愛理の三者面談には、それで行こうと思って。
 コンセプトは『クールでカッコいいお姉さん』ね。どう?」

今度の問いに、「……」愛理は黙ってしまって答えない。何かを考えているようだ。
しかし、すぐに「あー!」と口を開いた。

「舞美ちゃん、リサみたいなんだ!」

そう言って微笑む愛理に、舞美は照れて笑いながらも、

「あははは。これからは、いろんな自分になってみたいなって思って……」

そう答えて、(……これは、その第一歩)心の中で、付け加える。
168アップスタンディング 終:2012/06/26(火) 23:06:08.75 ID:IfXOOsdS0

そう、目指すは、女優。
目標は、あの場所――、
大きな大きなスクリーンの中。

もう、何も迷うことはない。誰のせいにもしない。
決意を込めて、毅然として立つ。それだけで、何だかとても気分がいい。
この感覚は自分に合ってるなと思えた。舞美には、それが少し嬉しかった。












169ねぇ、名乗って:2012/06/26(火) 23:07:16.19 ID:IfXOOsdS0

お話の時系列としては

『アップスタンディング』
 ↓
『キュートなサンタがやってきた』
 ↓
『会いたいのに、会いたいだけ』

の順で。
もう古い話だけど、書きたかったので最後まで書かせてもらいました。

次作もやりたいので、最後は久々に上げていきます。
では。
170ねぇ、名乗って:2012/06/26(火) 23:17:52.72 ID:b88lK1jh0
>>166

読み返したつもりなのに、つまんないミスがある

>美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、
>舞美は思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、



美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、
思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、

ですね。大事な最終回に・・・
まあいいや。
171ねぇ、名乗って:2012/07/11(水) 20:28:38.85 ID:D5/pUVw90
hosyu
172ねぇ、名乗って:2012/07/14(土) 21:47:16.03 ID:uXglUNIN0
次、早く書きたくて練ってるんだけど煮詰まったままだ
主役は『愛理』 テーマは『探し物』 キーパーツは『写真』
導入部もラストの〆もイメージできてるのに、中身のパーツが足りない

以前のように、ひとネタ思いついて軽く短編みたいなことが出来なくなっちゃったな
でもまあスレ落ちない限りまた帰ってきます
下手でも読み手が無くとも書くの好きです
173ねぇ、名乗って:2012/07/18(水) 19:22:13.56 ID:d4N3rOMs0
原点回帰して、最初期のテイストでしばらく短編を続けたいと思います。

長いお話に入っちゃうと、数ヶ月かかりきりになって他が書けなくなっちゃうので、今のうちに。
174雨宿り 1:2012/07/18(水) 19:23:24.52 ID:d4N3rOMs0

「あー、どうしよう千聖、雨降ってるよ」

買い物を終えて、出て来たスーパーマーケットの店先で、空を見上げて早貴が言った。

「うわ!すごい降りじゃん」

早貴の隣で、千聖が言った
七月の中ごろ、ある日曜日のこと、夕方。
まだ梅雨は明けていなかったけれど、朝からとても天気がよかったし、
家から近所のスーパーへ行くだけだったので、二人とも傘を持っていなかった。

「でもさあ、これ夕立だよ。きっとすぐ止むから」

千聖が言うと、早貴が「止むかなあ……」と、黒くて重そうな雲を見上げて不安気に答える。
雨は、依然として大きな雨音を立て、一向に止む気配が無い。

「じゃあ走って帰ろうよ」

千聖が言うと、

「えー!?荷物だって持ってるし、これだけ降ってるから、
 家に着くまでにはビチャビチャになっちゃうよ」

早貴と千聖は、片手にひとつずつ大きなエコバッグを下げていたし、
近所といっても、普通に歩いて十分程度の距離がある。

「でも千聖はさあ、少し濡れるくらい、別に気にしないよ?」
「少しじゃ済まないよ!これ結構降ってるってば」

涼しい顔で言う千聖に、早貴があきれて言った。
175雨宿り 2:2012/07/18(水) 19:24:42.88 ID:d4N3rOMs0

早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。

「じゃあ、もう少し待っててみようよ。止まなくても、小降りになるかもしれないし。
 そしたら、歩いて帰ろう」
「そうする?」
「うん、そうしようよ」

少し濡れるくらいは仕方ない、と早貴も覚悟を決めた。
二人は、他のお客さんの邪魔にならないように、お店の出入口から、
雨が当たらない横の軒先へと移動した。

「あ!でもアイスいっぱい買ったじゃん。溶けちゃわない?」

思い出して千聖が言うと、

「蓋がついてるから、帰ってまた冷凍庫で冷やせば大丈夫だよ」
「でも、棒アイスも買ったじゃん。あれって溶けると崩れちゃわない?」
「あー、そっかあ……。じゃあ、棒アイスだけ食べちゃおうか」

二人は、バッグからアイスキャンデーを二本取り出し、それにかじりついた。
キャンデーを半分ほど食べ終えたところで、

「……ねえ」

早貴から口を開いた。

「なあに?」
「……舞美ちゃんの今日のスケジュールって、何だって言ってたっけ?」

早貴が、姉妹で一番の“雨女”である舞美の名前を出した。
176雨宿り 3:2012/07/18(水) 19:26:04.76 ID:d4N3rOMs0

「舞美ちゃんの?」
「うん、もしかして今日はロケかなって?」
「あー、そうだったら雨も降るわあ」

千聖が「いかにも」という感じで頷いた。
女優としてすでにデビューしていた舞美は、地道にキャリアを重ねていたが、
目標としている銀幕への主演デビューはまだ遠かった。
それよりも、その“雨女”ぶりが、“ロケ潰し女優”として、
業界では早くも有名になってしまっていた。

「それじゃあ止まないかもよ?やっぱ、走って帰る?」

千聖が言った。
アイスを食べ終えてしまったが、雨脚が弱まる気配は感じられない。
「……うん」早貴は、止まない雨を見つめながら、気の無い返事をする。
そして、

「あ!」

早貴が、何かを思い出したかのように言った。

「待って、家にたしかマイちゃんがいたよね?」
「うん。リビングで寝そべってた」
「マイちゃんに電話して、傘を持ってきてもらおうよ」

早貴の提案に、

「でもさあ、あのメンドくさがりが、わざわざ雨の中、傘なんか持ってきてくれるかな?」

千聖が、思っている素直な疑問を口にした。
177雨宿り 4:2012/07/18(水) 19:29:08.72 ID:d4N3rOMs0

実際、今日も早貴と千聖が買い物に出かけるときに、「一緒に行く?」と訊いてみると
「メンドくさいからヤだ」と答えた子だ。

「大丈夫だよ!電話して、頼んでみるから」

マイが、必ず来てくれる確信があるかのように、自信ありげに早貴が言うと、
携帯電話を取り出して、マイの携帯番号を呼び出した。

『もしもしィ?』

数コールの後に、早貴の携帯からマイの気だるそうな声が聴こえてきた。

「もしもしマイちゃん?早貴だけどさあ……」
『あ、なっきぃ、どしたの?』
「ねえ、ちょっと窓の外見てよ」
『窓の外?』
「ほら、すっごい雨降ってるじゃん。でさあ、ウチらは傘を持ってきてない訳よ」
『うん……それで?』
「傘を二本持って、スーパーまで迎えに来てくれると嬉しいなあとか思ったんだけど……」

早貴は、できるだけ下手に出て頼んでみたつもりだったが、返ってきた返事は、

『えー、やだよおメンドくさい!』

千聖が予想した通りのものだった。

「そんなこと言わないでさあ、マイちゃんお願い!」

通話相手には見えないのに、早貴はつい携帯を持っていない方の手で拝みながら、再び頼みこむ。
178ねぇ、名乗って:2012/07/18(水) 19:47:31.18 ID:3bn9mkKy0
>>175
文の頭に余計なコピぺミスがありますね

×早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。

この一文いらないです。読んでる人いたらすいません。
179ねぇ、名乗って:2012/07/18(水) 19:55:03.29 ID:3bn9mkKy0
元テキスト読み直してみたら、一文余計なんじゃなくて
その前の一文をコピーし忘れてました

何かもうgdgdだ・・・
もう一回(2)だけ貼り直します
180雨宿り 2(正):2012/07/18(水) 19:56:40.26 ID:3bn9mkKy0
「……今日、すぐに傷むようなものは買ってないよね?」

早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。

「じゃあ、もう少し待っててみようよ。止まなくても、小降りになるかもしれないし。
 そしたら、歩いて帰ろう」
「そうする?」
「うん、そうしようよ」

少し濡れるくらいは仕方ない、と早貴も覚悟を決めた。
二人は、他のお客さんの邪魔にならないように、お店の出入口から、
雨が当たらない横の軒先へと移動した。

「あ!でもアイスいっぱい買ったじゃん。溶けちゃわない?」

思い出して千聖が言うと、

「蓋がついてるから、帰ってまた冷凍庫で冷やせば大丈夫だよ」
「でも、棒アイスも買ったじゃん。あれって溶けると崩れちゃわない?」
「あー、そっかあ……。じゃあ、棒アイスだけ食べちゃおうか」

二人は、バッグからアイスキャンデーを二本取り出し、それにかじりついた。
キャンデーを半分ほど食べ終えたところで、

「……ねえ」

早貴から口を開いた。

「なあに?」
「……舞美ちゃんの今日のスケジュールって、何だって言ってたっけ?」

早貴が、姉妹で一番の“雨女”である舞美の名前を出した。
181ねぇ、名乗って:2012/08/18(土) 23:32:17.52 ID:axt3Q4/O0
,,,
182ねぇ、名乗って:2012/09/04(火) 12:22:00.91 ID:rYoqLYSq0
age
183ねぇ、名乗って:2012/09/04(火) 12:25:38.14 ID:rYoqLYSq0
age
1841号:2012/09/05(水) 20:49:16.98 ID:8czjcn4s0
人がいるなら続き書きますか
とっくに梅雨も終わっちゃったけど・・
書き始めるからもうちょっと待ってて
185 忍法帖【Lv=3,xxxPP】(-1+0:5) :2012/09/11(火) 20:57:30.25 ID:PoEUMJV50
舞美(・∀・)イイ
186 忍法帖【Lv=20,xxxPPT】(-1+0:5) :2012/09/11(火) 22:46:12.37 ID:PoEUMJV50
かけっこ舞美
187雨宿り 5:2012/09/14(金) 22:29:28.63 ID:Bn5NsRh90

実際、今日も早貴と千聖が買い物に出かけるときに、「一緒に行く?」と訊いてみると
「メンドくさいからヤだ」と答えた子だ。

「ちゃんと頼めば大丈夫だよ!ちょっと電話してみるから」

まるで『マイは、必ず来てくれる!』という確信があるかのように自信ありげに、
早貴は携帯電話を取り出して、マイの携帯番号を呼び出した。数コールの後に、
『もしもしィ?』マイの気だるそうな声が聴こえてきた。

「もしもしマイちゃん?早貴だけどさ……」
『あ、なっきぃ。どしたの?』
「うん。マイちゃんさあ、今って暇?」
『あー、暇だよ暇。ナンもすることないし、ゴロゴロしてるだけだから』

暇なのは知ってる。
家を出る前に、リビングの長いソファーで横になり、
携帯をいじっていたマイの姿を思い出した。
とても忙しそうには見えなかった。
それでも、(いや、相手はあのマイちゃんだから!)と
早貴は気を引き締め、話を続ける。

「今さあ、まだ千聖とスーパーにいるんだけどね」
『うん』
「ねえ、ちょっと窓の外見てみて?」
『窓の外?』
「ほら、すっごい雨降ってきちゃったじゃん」
『うん』
「でね、ウチらは傘を持ってきてない訳よ。で、帰れなくなっちゃって……」
『うん……それで?』
188雨宿り 6:2012/09/14(金) 22:30:44.45 ID:Bn5NsRh90

(ここまで聞いたら、そろそろ察してよ!)
……と、言いたくなった言葉を飲み込むと、
マイの機嫌を損ねないように早貴は話を続ける。

「だからね、傘を二本持って、スーパーまで迎えに来てくれると、
 すっごく嬉しいなあとか思ったんだけど……」

早貴は、できるだけ下手に出て頼んでみたつもりだったが、帰ってきた返事は、

『あー、ごめんよなっきぃ、マイちょっと忙しいんだ』

だった。

「えええ!?今、暇だって言ったじゃん」
『急に用事を思い出したんだって。ホント、これマジ!』
「……ねえマイちゃん、何でそう見え見えの嘘つくかな!?」
『はぁ!?嘘じゃないし。急に用事ができたんだし』
「だって、急にそんな用事ができるっておかしいじゃん!」

ご機嫌取りの猫なで声から一転して、マイに詰め寄る早貴の態度が可笑しかったのか、
千聖がニヤニヤしながら、二人の携帯でのやり取りを眺めている。

「ねえマイちゃん、怒んないから、素直に言いな。
 ホントはただメンドくさいだけなんでしょ?」
『……そうだよ、メンドくさいに決まってんじゃん。だってさあ、
 外見てみ?めっちゃ雨降ってんだよ!?』
「雨降ってるから頼んでんじゃん!ねえマイちゃん、お願い!」

通話相手には見えないのに、早貴は携帯を持っていない方の手で拝みながら、再び頼みこむ。
しかし、
189雨宿り 7:2012/10/27(土) 19:23:58.30 ID:E+SWF2+20

『だから、やだって言ってるじゃん!だいたい梅雨だって明けてないのに、
 何で傘くらい持っていかないのさ!?』
「じゃあ、もういい!もう頼まないから!」

マイの言葉に瞬間的に反応して、携帯を切った早貴のふくれっ面を指差して、
千聖がいかにも可笑しそうにケラケラと笑った。

「……ね、だから言ったじゃんかあ。
 あのメンドくさがりのマイちゃんが、そんなことしてくれる訳ないって」

ひとしきり笑った後で千聖が言った。
笑われても、早貴はその事では怒る気にはならなかった。
それよりも、寂しく思う気持ちの方が強かったから。

「あーあ……」

早貴は大きく溜め息をつき、続けて言った。

「マイちゃん、変わっちゃったなー……」

ずっと一緒に暮らしてきたんだから、マイについてはいろいろと
知っているつもりだったんだけどな……。
すっかり変わってしまったところや、新たに判ったたところなど――。

「なっきぃ……」

落ち込む早貴の様子を察して、今度は少し心配気に話しかける千聖に、

「……ねえ千聖、もう忘れちゃった?」

早貴が訊ねた。
190雨宿り 8:2012/10/27(土) 19:31:36.85 ID:E+SWF2+20

「忘れたって、何を?」
「ウチらが、まだ小学生の時さ……。早貴が二年生で、千聖と愛理が一年生の時だから、
 マイちゃんだけまだ幼稚園で……」

雨が落ちてくる空を見上げ、早貴はあの日の事を思い出していた。
早貴と同学年には栞菜がいて、えりかと舞美は四年生。
幼稚園のマイ以外は、みんな同じ小学校に通っていた。

「ある時さ、学校が終わって帰る頃に、すっごい雨が降ってたことがあったじゃん」

それは今日と同じか、それ以上のどしゃ降りで、
朝は晴れていたので、早貴は傘を持たずに登校をしていた。

「それで、帰れなくなっちゃってさ、みんなで下駄箱の前で
 ずーっと立ってたことがあったじゃない?」

それは早貴だけではなく、千聖や愛理たち姉妹も、他の児童たちも同じで、
大きな下駄箱が並ぶ玄関の屋根から先へ出られなくなった子供たちが、
横に連なってきゃあきゃあと騒ぎながら、その先にある校門を眺めていた。

「へええ、そんなことあったっけ?覚えてないや」
「えええ、覚えてないの!?」

大切な思い出を『覚えていない』とあっけらかんと言ってのける千聖に、早貴は少し憤る。

「あー!そうだ、あん時千聖いなかったんだ。雨ン中、走って行っちゃって」

忘れていたのは早貴の方だった。
あの時は、『雨なんか関係ないや』とばかりに駆けていくやんちゃな男子が沢山いた。
その中に、やはり雨など気にせず飛び出していった千聖の姿があったのを思い出した。
191雨宿り 9:2012/12/04(火) 23:43:31.17 ID:CNbgJQ//0
「もう、千聖は変わらないんだから」

さっきも、雨の中を走っていこうと提案した千聖を思い出して、
早貴は思わず笑ってしまっていた。

「なになに、なに笑ってんのさ!?」
「ううん。……とにかく、学校から出られなくなっちゃって、
 今日みたいに玄関先で立ってたんだ」

学年が上のえりかと舞美の授業はまだ終わっていなかったので、
早貴は、栞菜と愛理の三人で身を寄せ合って、雨が止むのを待っていた。

「でも、いくら待っても雨は止まなくてね。で、ずっと待ってたら、
 他のお家の子はみんな、お母さんが傘を持って迎えに来てくれるんだ……」

傘を差して、お母さんと一緒に帰っていく友達に、
「バイバイ」と、早貴は明るく手を振り別れた。
本当の気持ちを悟られないように、努めて明るく振る舞ったつもりだけれど、
自分の感情は隠しきれなかったんだと思う。それから黙り込んでしまった早貴に、
愛理と栞菜も口を開かずに沈黙で応える。

口には出さなかったけど、きっと、愛理と栞菜も同じ気持ちでいたと思う。
羨ましくて、
悔しくて、
そして、だんだん悲しくなってきて……。

「友達がみんな先に帰ってくの見てたら、何だかわかんないけど、
 すごく悲しくなってきちゃってさ……」
「…………」
192雨宿り 10:2012/12/05(水) 00:01:22.51 ID:Wj7saeXE0
話を聴いていた千聖が、沈鬱な表情を見せて黙り込む。
きっと早貴の顔が、その時の気持ちを思い出して沈んでしまっていたのだろう。
しかし、

「でも、その時ね――」

次に早貴から発せられた言葉は、その笑顔と共に弾けたものだった。

「校門の向こうから、何本も傘を抱えた小さい女の子が歩いてきたんだ!」

女の子は、両手で沢山の傘を抱えていたので、自分は傘を差す余裕が無かったのだろう。
ぶかぶかの黄色いレインコートを着ていたが、強い雨に曝されて全身が濡れそぼっていた。
大きなフードが顔の半分を覆い隠していたが、遠くからでも、
それが誰なのか、早貴にはすぐに分かった。
自分の家族を、見間違えるはずがない――。

「マイちゃん!」

自分達の前まで歩いてきたマイに、早貴たちは驚いて声を掛ける。
全身がずぶ濡れになりながらも、その小さな体の前で守るように六本の傘を抱えたマイは、
フードの中から、まっさらで無垢な笑顔を覗かせて、早貴たち三人を見上げていた。

その顔を見たとき、せっかく、みんなの分の傘を持ってきてくれたマイのためにも、
高学年であるえりかと舞美の授業が終わり、一緒に帰れる時間になるまで、
この雨が止まなければいいな、と早貴は思った。

「……マイちゃんが、ずぶ濡れなりながら、みんなの傘を大事そうに抱えて、
 迎えに来てくれたんだ」
「へええ、あのマイちゃんが……」

早貴の話に、千聖が心底から驚いた顔をしている。
自分のあの時の気持ちが、少しでも千聖に伝わることを早貴は願って微笑んだ。
193ねぇ、名乗って:2012/12/05(水) 15:15:43.21 ID:cHMUgufQ0
ひさしぶりに
1941号:2012/12/05(水) 20:10:16.60 ID:Wj7saeXE0
残り3レス分くらいなのであと1週間くらいで終わらせますスイマセン
次もやります。一編でも多くを遺したくなって、久々に愛理主役が描きたいなって思ってて
195雨宿り 11:2012/12/09(日) 15:10:23.15 ID:RIjYYWzl0
結局、高学年の授業が終了を告げるチャイムが鳴っても、雨が止むことはなかった。
玄関まで降りてきたえりかと舞美の姿を見つけると、驚いている二人に、
マイは嬉しそうに傘を渡した。

マイは、自分の傘を持たずに、姉たちの傘を六本だけ抱えてきていたが、
千聖がどこかへ消えてしまっていたので、その分の傘をマイが差すことにして、
早貴たちはみんなで一緒に、傘を差して家路に就いた。

「――で、家に着いたら、みんなでマイちゃんのレインコートを脱がせてあげて、
 体の濡れてるところを拭いてあげてさ……」
「……そうだ、思い出したぞ!あん時は千聖もめっちゃ濡れてたのに、
 誰も千聖の心配しないで、みんなでマイちゃんマイちゃんって」
「千聖が、雨の中、勝手に帰るって行っちゃったんだから、自業自得でしょーが!」

千聖も、その時のことを思い出したようだ。
そうだ。千聖は先に家に着き、着替えて体を拭きながら、みんなの帰りを待っていたんだ。

「じゃあ千聖、その後の言葉は覚えてない?舞美ちゃんが、体を拭いてあげながら、
『……迎えにきてくれるのは嬉しいけどさ、こんなに濡れちゃって、
 風邪でも引いたらどうするの?』ってマイちゃんに訊いたんだ。そしたら……」
「そしたら?」

千聖が、真顔で訊いた。

「マイちゃんがね、『だって、たくさんおねえちゃんができて、
 うれしかったから』って言ったんだ」
「あ……」
「早貴もね、そのとき『ああ、迎えにきてくれる人がいるっていいな
 ……家族がいるっていいなあ』って、しみじみ思ったんだ」
196雨宿り 12:2012/12/09(日) 15:11:52.31 ID:RIjYYWzl0
千聖は、返事をしなかった。
それでも、千聖の表情から、早貴は察する。
気持ちは、早貴と同じだと思う。

脳裏に浮かぶのは、あの日、
児童養護施設で、自分たちが出会ったばかりの頃のこと。
「じゃあ、私たちで、家族になろうよ」と舞美が言い、みんなで誓った日。
そして、家族を得ることができたからこそ感じられた、あの雨宿りの日の至福。
大切な、思い出――。

「……あの時のマイちゃんは、ものすごく可愛かったのになー」

早貴は、さっき携帯電話で話したマイの“言葉”をあらためて思い出し、
嘆きの混じった言葉を吐いた。

それでも、ずっと一緒に暮らしてきたのだから、マイについては、いろいろ知っているつもりだ。
変わってしまったところもあるけれど、新たに判ったこともあるのだから――。
その時、

「あ、見てなっきぃ。雨が小降りになってきたじゃん!」

千聖が、空を見上げて嬉しそうに言った。
たしかに、雨の勢いが弱くなっている。このまま、雨は止むかもしれない。

「神様!」

早貴は、天に向かって祈った。
雨足はさらに弱まり、

「ほら、これ止みそうだって」

千聖が、軒先の庇から手を出し、雨の勢いを掌に確かめて言った。
197雨宿り 13:2012/12/09(日) 15:13:41.34 ID:RIjYYWzl0
「……仏様!」

早貴が手を合わせてさらに強く願うと、雨は、ほとんど止みそうになった。

「おー、なっきぃスゴいじゃん!これで濡れずに帰れそうだし」

しかし、喜ぶ千聖とは正反対に、早貴の表情は曇った。

……ダメだ!
早貴は、思い立って、ポケットに入れていた携帯電話を慌てて取り出す。
指先をせわしなく動かすと、液晶画面の中に一つのフォルダを呼び出す。
その中から、目当てのものを探し出して画面いっぱいに開く。
それは、携帯カメラで撮り、保存していた舞美の写真だ。

「舞美ちゃん、お願い!!」

早貴は、携帯画面の舞美に向かうと、そこに最大限の祈りを込めて願った。
その瞬間、激しい音を立て、勢いを取り戻した雨が再び強く降り始めた。

「あー、何やってんのさ、なっきぃ!」

千聖が怒って言った。
が、早貴は意に介することなく、(さすが雨女の舞美ちゃん、ありがとー!)と、
携帯を力強く胸に抱きしめると、(そろそろかな?)と通りの向こうに視線を移す。
そして、“目当ての人”の姿を無事に見つけて、にっこりと笑った。

「え?」

その笑みを不思議に思った千聖が、早貴の視線の先を向いて、

「マイちゃん!」
198雨宿り 14:2012/12/09(日) 15:15:26.45 ID:RIjYYWzl0
さらに驚きの声を上げた。
あの頃と比べると、すっかりと大人になったマイは、右手にお気に入りの色の傘を差し、
左手には他に二本の傘を抱えて、二人の前まで歩いてきた。

「……マイちゃん、どーしたのさ?」
「どーしたじゃないし。電話で呼んだのはそっちじゃんか!」

千聖の問いに、マイがむくれて答える。

「ありがとー、マイ。来てくれると思ってたよ!」

早貴が、嬉しそうに声を掛けると、

「来てくれると思ったじゃないし!……たく、何で傘くらい持ってかないのさ!」

ふくれっ面のマイが、左手に持った傘を、ぶっきらぼうに早貴と千聖に差し出す。
「ありがとー!」と、早貴は満面の笑顔で傘を受け取る。
早貴と千聖、それぞれがお気に入りの色の傘だ。

「だいたいさあ、もしマイにガチで用事があったらどーする訳よ?え?」

怒り口調で捲し立てるマイに、それでも早貴は微笑んでしまう。
ずっと一緒に暮らしきたのだから、マイについては、いろいろ知っているつもりだ。
マイが変わってしまったのは、いつの間にか、すっかり“口”が悪くなってしまったところ。
それから……、

「まあまあ、そう言わないで。マイちゃんがホントは優しいの知ってるんだしさ」

早貴が、なだめるように言うと、
199雨宿り 終:2012/12/09(日) 15:17:45.37 ID:RIjYYWzl0
「……別に、なっきぃがどれだけ濡れて帰ろうが、どうでもいいし。
 あんまり遅くなって、マイのアイスが溶けちゃうと困るから、迎えに来ただけだし」

冷たい言葉の裏に隠れるもの――、
早貴には、マイの瞳の奥にる感情が読み取れている。
早貴が知る、マイの性格、あらたに判ったところ。
その性格が、意外と“ツンデレ”だったということだ――。

「はいはい、わかったわかった。じゃあ、早く帰ろ」

早貴が、マイの肩をポンポンと叩くと、

「わかったじゃないよ。今度から傘くらいちゃんと持ってけ?マジで」
「うんうん、感謝してる」「マイちゃんのおかげです」

今度は、千聖と二人でなだめると、マイの口の端に、かすかな笑みが浮かんだ。
マイが来てくれるのはわかっていたので、この雨は止まないで欲しかった。
早貴は、再び舞美に感謝をすると、大切な家族から受け取った、お気に入りの色の傘を差し、
雨の中に一歩を踏み出す。
並んだ三色の傘は、くっついたり離れたりを繰り返しながら、仲良く家路に就いた。


(……この話は、いい話のままで終わらせましょう。
家に着き、『ねえ、マイのガリガリ君が無いじゃんかあ!』と
ひと悶着があったことは、みなさんには内緒で。 早貴)

「ちょっと、なっきぃぃ!!」
「……ハイっ!ゴメンなさいっ!!」
2001号:2013/03/01(金) 20:36:01.02 ID:el/mlQNJ0
そろそろ書きたくなってきたので何か書く
誰も読んでなくても、まずは宣言することで退路を断たないと
サボっちゃってなかなか進まないので、いつものように宣言から
2011号:2013/03/13(水) 20:23:44.38 ID:nWUXdZhG0
ちょっと煮詰まってるけど今回は真面目に練ってるので
今月中には始められたらいいな
次作は『愛理の休日』(仮)で
202ねぇ、名乗って:2013/12/18(水) 11:52:18.36 ID:MPqq69uC0
ここに載せます

℃-ute関連創作スレ紹介!!! 【小説・RPG】
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1387264086/
203ねぇ、名乗って:2014/06/24(火) 23:22:43.52 ID:dO5HvR0A0
次作が気になる!
2041号:2014/07/23(水) 20:43:33.60 ID:YkI68wPj0
久々に始めます
時系列的にはもう数年前の話にになっちゃうんだけど、
あえて今書いておきたい話なので
205愛理の休日 1:2014/07/23(水) 20:47:03.88 ID:YkI68wPj0
○愛理の休日


八月のある日、日曜日のこと――。
大きな窓を一分の隙間も無く塞いでいる頼もしいカーテンが、
それでも防ぎきれずに部屋に通してしまった強烈な夏の光で、愛理は目を覚ました。

真夏の太陽はすでに相当高く昇ったであろうことをカーテン越しに感じとり、
まだ少しぼんやりとした頭で枕元にある目覚まし時計に目を向ける。
時計の針はすでにお昼を過ぎていて、ほんの一瞬だけ、反射的にドキッとしたが、
(……今日はいいんだ)とすぐに思い直して再び目をつぶる。

――今日は、久々のオフだ。
待望の、待ちに待ったオフ。
夏休みで、学校も無いので、正真正銘の一日オフ!

お休みになったら、あれもしたい、これもしたいなと色々考えていたけど、
とりあえず一番やりたかったのは、思いっきり寝ること。
目覚まし時計も、携帯電話のアラームもセットをせずに、寝たいだけ寝ていられる幸せ。
ベッドの上で、愛理は思わず笑顔になる。

それでも、さすがに寝すぎてしまったかなと少し反省をする。
閉め切った部屋の中は、かなり蒸し暑くなっていて、額に汗が滲んでいる。
背中にも、たっぷりと汗をかいていて気持ちが悪い。

こんな状態で、よくこれだけ寝ていられたなと自分に感心をするが、
それだけ疲れが溜まっていたのかも、だから仕方ないかなとポジティブに考える。

さすがにこれ以上は眠れないなとベッドから立ち上がると、カーテンを開ける。
窓から一気になだれ込んできた真夏の凶悪な陽射しに、愛理は思わず顔をしかめた。
206愛理の休日 2:2014/07/23(水) 20:53:43.42 ID:YkI68wPj0
ほんの少しの間、窓から表を眺めていたが、

(……やはり今日は外へ出るのは止めよう、一日を、家の中だけで有意義に過ごそう)

とあらためて思い直して、カーテンを閉め直した。
カーテンが、一ミリの隙間も無く閉じられたかを確認すると、気をとり直すように
「あーあ……」と大きく伸びをする。
そして、

(今日はみんな暇かなあ。昨夜のうちに予定を訊いておけばよかったかな)

と考えて、愛理はパジャマ姿のまま部屋を出た。


一階のリビングへ降りていくと、エアコンが効いていてとても涼しかった。
暑い部屋から移動してきた愛理はまず「ふぅー」と安堵の一息を吐き、

「おはよー」

早貴がいるのを見つけて話しかけた。
早貴は、リビングに連なるダイニングキッチンに置かれたテーブルの上で、
ノートパソコンに向かっていた。そこにいたのは、早貴一人だけだった。

「あれー、愛理?」

早貴は、いかにも驚いた顔で愛理を見返して言った。

「ねえ、愛理今日お休みだったっけ?愛理のごはん、用意してないや」
207愛理の休日 3:2014/07/23(水) 20:57:07.07 ID:YkI68wPj0
「えええ、そうなの?」

愛理の困った顔を見て、

「……へへへ、ウソだよ。ちゃんと用意してあるから」

早貴はすぐに可笑しそうに表情を崩した。「あー、もう」とふくれる愛理に、

「でも、愛理あんまり起きてこないからさあ、お昼ご飯もう先に食べちゃったよ」
「あー、そんなそんな、全然構わないよ」

愛理は、今度は申し訳無さそうに首を横に振ってみせる。

「じゃあ、並べといてあげるから、先に顔を洗って、歯も磨いてきな!」
「うん。ありがとなっきぃ」

自室で、汗をかいたパジャマから楽な部屋着へ着替える。
洗面所へ降りて、置いてある洗濯かごにパジャマを入れてから、丁寧に顔を洗って、歯を磨く。
キッチンへ戻ると、テーブルには愛理の食事がすでに準備されていた。
早貴が座っている席の斜め前、食事が置かれた場所へ座ると、愛理は「いただきます」と手を合わせた。

「懐かしいでしょ」

早貴に訊かれて、頬張りながら愛理は頷く。
ベーグルにハム&チーズ。
紅茶とサラダを添えて。
休日のお昼、みんなが揃ったときによく食べていた、シンプルだけど定番だったメニューだ。

「愛理がオフだって言ってたから、久しぶりにみんなで食べようと思ってたんだけどさ」
「そうなんだ。それなら、もっと早く起きればよかったね……」
「ううん、愛理は疲れてんだから仕方ないよ。それに、マイちゃんだっていなかったんだし」
208愛理の休日 4:2014/07/30(水) 19:14:06.07 ID:HfIDwdTA0
「え、今日マイちゃんいないの?」
「うん、友達の家にお泊まりするんだって。だから昨日の夜からいないよ」

そういえば、昨晩からマイの姿を見ていなかったなと愛理はようやく思い出した。
最近、愛理が仕事で遅くなった日などは、マイはすでに自分の部屋に戻っている事が多かったので、
特に気にならなかったのだ。

「えええ、なんだよあいつぅ!」
「何、どしたの?」

突然、語気を洗げる愛理に、早貴が不思議そうな表情で訊く。

「えええ、なんだよあいつぅ!」
「何、どしたの?」

突然、語気を洗げる愛理に、早貴が不思議そうな表情を浮かべて訊く。

「マイちゃんさあ、『ねえ、愛理の今度のオフっていつよ?
そん時さあ、ちょっとマイのために空けておいて欲しいんだけど』って、
ずーっと、しつこいくらい言ってたのに……」
「へええ、マイそんな事言ってたんだ」
「うん。だから今日は一緒に遊ぶんだと思ってたのに……マイちゃん絶対忘れてるよ!」

一気に捲し立てる愛理に、

「マイらしいっちゃらしいじゃん……マイちゃんさあ、最近はお休みの日とか、外出の方が多いよ」

早貴が、宥めるように言った。

「そうなんだ……」
「それに今日は舞美ちゃんだってさあ……、あ!」
209愛理の休日 5:2014/07/30(水) 19:16:58.54 ID:HfIDwdTA0
早貴が名前を出したとき、その本人が音も無くリビングへ入ってきていた。
舞美の表情はいつになく厳しく、眉間には珍しく皺が寄っている。口元が、何かブツブツと動いている。

「あ、舞美ちゃん、おはよ……」

キッチンまで忍び寄ってきた舞美が後ろに立っているのに気付いた愛理が、
その“状態”にまでは気が付かずに挨拶をしようと振り返ると、

「あー、今話しかけちゃダメ!」

慌てて早貴が制止をするが間に合わず、

「……なにやつッ!」
「きゃっ!!」

愛理の鼻先に、舞美の手から鋭く伸びた剣先が突き付けられた。
突然のことに狼狽して、食べかけのベーグルサンドを手にしたまま固まってしまった愛理に、

「警察だ。貴様、そこを動くな!」

そう言って舞美は剣を……いや、右の掌で丸められ棒状になった冊子を、今度は高く振り上げた。

「え、え、え……!?」
「舞美ちゃん、ストップストップストップ!」

早貴の言葉は舞美には届かないようで、その動きは止まらずに、
愛理の頭上めがけて全力の一太刀を浴びせようとする。

「きゃあああ!」
210愛理の休日 6:2014/07/30(水) 19:23:25.47 ID:HfIDwdTA0
愛理の悲鳴と同時に、

「……あーもう、カーット!!」

早貴が発した単語に反応した女優・舞美の太刀は、愛理の頭上ギリギリでようやく止まった。

「…………あれ、愛理?」
「もう、あれ?じゃないよ。何やってるの舞美ちゃん!」

目を丸くして固まったままの愛理をよそに、早貴が舞美を叱る。

「ごめんね愛理、大丈夫だった?台詞を覚えてたら、つい集中しちゃってさ……」

舞美は、申し訳無さそうに言うと、右手に丸めていた映画の脚本を拡げてみせた。

「うん。でも、びっくりしたあ」

ようやく落ち着きを取り戻した愛理は、ベーグルサンドを皿に置き、胸に手を当てて言った。
そうだ。舞美が何かに集中しているときは周りが見えなくなるから、話しかけるなというのが鉄則なのだった。
特に、何か物を持っているときには気を付けろと――。

「そっか、舞美ちゃん明日からクランクインなんだっけ」
「うん。だから今日中に台詞と動きを完璧に入れておきたいんだけど、急が変更あって、なかなか大変でさ」

愛理の問いに、舞美が答えた。

「もう、舞美ちゃん朝からずーっとこんな調子なんだよ。せっかく久しぶりのベーグルサンドだって、
 脚本広げてブツブツ言いながら食べちゃうし」

早貴があきれて、でももう諦めているような口調で言うと、
211愛理の休日 7:2014/07/30(水) 19:28:05.32 ID:HfIDwdTA0
「だって、昨日は遊んじゃったからさ、その分今日は全力で頑張らなきゃと思って」

舞美が言った。

「そっか、昨日は花火大会だったんだね。いいなあ……」
「綺麗だったよー!ねえ愛理も来ればよかったのに。昨日、お仕事終わってからでも間に合ったんでしょ?」

今度は舞美が、愛理に訊いた。

「うん。でも、ほら、途中からとか何か慌ただしいし、ちょっと疲れちゃってたし、さ……」

あたふたとぎこちなく答える愛理に、

「……それにしても、意味がわかんないよね。現代が舞台なのに刀を持った女刑事って」

“愛理の事情”を知っている早貴が、助けるように舞美の映画に話題を変えた。

「監督さんが、急に思いついたんだっけ?」

愛理も、その話題に乗っかって舞美に訊くと、

「そう、『前に舞台で女剣士をやったことがあるので殺陣も出来ますよ』って何気無く言ったら、
『おお、じゃあ面白いからそれを是非採り入れよう』って、急に」
「それで、脚本まで書き直されちゃったんでしょ?」

愛理が言うと、早貴と顔を見合わせて可笑しそうに微笑みあった。

「もう、笑い事じゃないんだから!台詞回しも全部変わっちゃったし、動きも一緒に付けないと、
 なかなか台詞が入っていかなくて」
212ねぇ、名乗って:2014/07/30(水) 19:41:34.71 ID:HfIDwdTA0
何か、計算してた分量が張れないと思ったら>>208にミスがあるな・・・

>「えええ、なんだよあいつぅ!」
>「何、どしたの?」

>突然、語気を洗げる愛理に、早貴が不思議そうな表情で訊く。

の部分を二回コピーしちゃってる・・・
もし読んでる人がいたら、気にしないで読み飛ばして下さい。
213ねぇ、名乗って:2014/07/30(水) 19:51:06.67 ID:hGPkOBQH0
語気を洗げる



語気を荒げる

だな・・・
落ち込みながら次回へ続く
214ねぇ、名乗って:2014/07/31(木) 07:51:35.35 ID:aLETHfub0
>>212
わざわざどうも
楽しみにしてます
215愛理の休日 8:2014/08/12(火) 19:48:24.60 ID:Utc8Kn6q0
「とにかく、今はまだ愛理がご飯食べてるんだから、体を動かすんならどこか違う部屋でやって」
「はぁい」

早貴に言われて、舞美は困った顔のまま、きびすを返してキッチンを後にした。
その後ろ姿を見送ったあと、

「そっかあ……。じゃあ今日は、舞美ちゃん忙しいんだね」

愛理が言った。

「うん。でも、あたしと千聖は、特に予定も無いよ」
「千聖?」

(今、どこにいるの?)というニュアンスを含ませて訊くと、早貴は「うん……」と一言だけ呟き、
視線だけを天井へ向けて愛理に伝えた。

「……まだ、寝てるの?」
「休みの日は、いつもだけどね」

早貴は、あきれた様子で答えた。

「……だから、愛理が遊びに行きたいところがあれば、どこでも一緒に行けるんだけどさ」
「うん……」

愛理の返事は、歯切れが悪かった。

「愛理、やっぱりまだ外へ出たくないの?昨日の花火だって楽しかったし、
 今日だってせっかくのお休みなのに」
「だって、また、みんなに迷惑掛けちゃうといけないし……」
216愛理の休日 9:2014/08/12(火) 19:51:05.40 ID:Utc8Kn6q0
以前、やはり愛理がオフの日に、仕事があった舞美以外の姉妹四人で
連れだって遊園地へ遊びに行った時のこと。
その様子が、どこからか隠し撮りをされ、ネットにアップされていたことがあった。

愛理の横を歩く早貴と千聖も一緒に撮られた写真で、愛理以外の二人には目線が入れられていたが、
笑う千聖の鼻が拡がった瞬間を捉えられ、それが目線と相まって極めて不細工に見えて、
愛理本人よりも千聖の方が憤っていた。
愛理の名前を面白がって検索をしていた千聖が偶然に見つけ、舞美には内緒にしていること――。

「ウチらは、気にしてないって。愛理はもう有名人なんだし、
その家族ならあれくらいは仕方ないと思ってるよ。でも、このままじゃ愛理がさ……」

早貴が何かを言いかけたとき、二階のドアが勢いよく開く音がした。
続いて階段を降りるドタドタという騒がしい音が近づいてきて、

「あー、あちいいい!」

髪に寝癖をつけた千聖が勢いよく顔を出した。

「もう、千聖、いつまで寝てんの!」

少しキツい口調で問い詰める早貴に、

「だって、しょうがないじゃん!昨日の夜は寝れなかったんだから。
……あー、ここは涼しいィ!」

千聖は、何ら悪びれることなく答える。

「ちっさー、おはよ!」
217愛理の休日 10:2014/08/12(火) 19:53:13.19 ID:Utc8Kn6q0
愛理が声を掛けると、

「あ、そうか今日は愛理いるんじゃん!そうだ、愛理さあ、何か食べたいものない?何でも作ってやるよ」
「遅いよ!愛理もう食べちゃってるし。千聖の分もあるから、さっさと顔洗ってきな!」
「ふぁあい」

早貴に言われて、あくびの混じったような返事をしながら、千聖がひとまずその場を後にした。
愛理は、早貴の方を向くと、

「……とにかく、あたしは平気だから。今日は、家で大人しくしてるよ」
「でもさ……」

まだ何かを言いたそうな早貴に、愛理は“ある視線”を送って伝えた。
たしかに、『千聖が加わると荒れる話題』なのは早貴もわかっているので、
(承知をした)というように愛理に頷いた。

食事を終えた愛理が自分の食器を下げて、変わりに千聖の食事がテーブルに並べられると、

「あ、久しぶりじゃんベーグルサンド。いただきまーす!」

戻ってきた千聖が、愛理の隣に腰を下ろして、ベーグルサンドに勢いよくかぶりついた。

「うん。美味しい!」

いきなりバタバタと現れて、笑顔のままでベーグルを頬張る千聖の、場の空気を変えてしまう、
いつものムードメーカーぶりに、早貴と愛理の表情はついほころんでしまっていた。

「そうだ。ねえ愛理、昨日の写真、見る?」

早貴が、自分の前に置いていたノートパソコンを斜めにずらして、その画面を愛理に向けてみせた。
218愛理の休日 11:2014/08/12(火) 19:58:22.73 ID:Utc8Kn6q0
「あ、昨日の花火?」
「うん。たくさん写真撮ってきたから」

ノートパソコンには、早貴が愛用しているデジカメがケーブルで繋がれていて、
その画面の中には、小さなサムネイル画像が規則正しく並んでいた。

「わあ、綺麗!」

早貴が拡大してみせた一枚に、愛理は思わず声をあげる。
夜空に浮かぶ、金色の大輪。
黄金の花が、満開に開き、夜空の闇を眩い光で覆い尽くした瞬間が、
時間を止めてその場から切り取られたように、目の前の画面いっぱいに広がっていた。

「おお、まじで綺麗じゃん!なっきぃ、カメラ上達したんじゃね?」

千聖が、横から画面を覗きこんで言った。

「うん。花火って、上手に写真に撮るのはむずかしいって聞いたことあるよ。
なのに、すごい綺麗に撮れてる!」

愛理が褒めると、

「えへへ……。上手に撮れてるの、それだけなんだけどね。
全然綺麗に撮れないから、最後に舞美ちゃんの肩を借りて、カメラを固定して撮ったんだ」

早貴は、照れくさそうに言うと、「はい」と愛理にマウスを渡した。
愛理は、一枚一枚を順に拡大してみた。
花火の写真は、最初に見た一枚には及ばないにしても、どれも綺麗で、つい魅入られてしまう。
219愛理の休日 12:2014/11/24(月) 19:33:14.19 ID:rb0NTYnt0
様々な種類の花火の他は、舞美と早貴と千聖が、出発前に家の前で、
お互いの浴衣姿を撮り合ったものから始まり、賑やかな屋台の灯りを背景に、
三人が様々なポーズを決めているスナップ写真が並んでいた。

写真は舞美と千聖が二人で写っているもの、早貴が一人だけで写っているものが多く、
早貴を含めた三人が並んで写っているものは、全てが上半身のみのアップ写真だった。
早貴が所持するカメラなので、これは早貴がカメラを持つ手を伸ばして撮った“自撮り”だなと思った。

「なっきぃ、自撮りも上手いね。全員が綺麗に入ってる」

愛理自身もよく使う手法なので、ファインダー画面を見ないで
フレーム内に多人数を収めるむずかしさをよく知っている。

「だって、撮ってくれる人いないから仕方なくさー。でも自撮りで撮れるのは三人が限界だね。
 花火を撮るときも思ったんだけどさ、今度三脚でも買おうかなって」

愛理は「へええ、本格的だね」と感心して言った。
自分専用のデジカメを買った早貴が『カメラ女子』として目覚めて以来、この家では写真を撮る
(撮られる)機会が増えたので、たしかにあると色々と便利なのかもしれないと思った。

画面をクリックしていくと、舞美と千聖がかき氷を、早貴がりんご飴を手にした写真が順に現れた。
「あー」「……いいなあ」と、思わず声が出てしまう。
食べ物にばかり反応してしまう自分が少し情けなかったが、それを聞いた早貴が、

「あ、愛理もあとで浴衣着てみなよ。撮ってあげるから」

と、愛理に言った。
愛理の正面に座っていて、パソコンの画面を見ていなかったので、
どうやら『愛理は浴衣を羨ましがってる』と勘違いをしたらしい。
220愛理の休日 13:2014/11/24(月) 19:34:31.21 ID:rb0NTYnt0
「いいじゃん!みんなでまた浴衣着てさ、外で記念写真でも撮ろうよ」

千聖が、ベーグルサンドを頬張りながら早貴に賛同して言った。

「外で……?」
「あー、別に外じゃなくても、お庭でいいじゃん。
 せっかく愛理お休みなんだし、マイちゃんが帰ってきたら舞美ちゃんにもちょっと休憩してもらってさ、
 久しぶりにみんなで花火でもして、写真も撮ろうよ」

早貴が、千聖の意見を少し修正して愛理に提案した。
愛理は、座っているダイニングテーブルから、リビングのガラス戸越しに外を見る。

大きなガラスの向こうにある庭は、外界からの視線を遮るための塀で囲まれている。
住宅地であり、庭の向こうの隣家とは、猫が散歩に使う隙間がある程度だが、
人が通ろうと思えば通れるし、潜める。

「……でも、ほら、五人で写真に入ろうとしたら撮る人がいないじゃん。
 写真は、今度で……なっきぃが三脚を買ってからでいいよ」
「今度、で……!?」

いぶかしがる千聖の表情に気付いた愛理が、話題を変えるように、

「……そういえば、マイちゃん昨日の花火も行かなかったんだ?」

画面に目を戻して、写真の中に不在のマイについて訊ねた。

「ううん、その先見ててみ?」

早貴に促されて、愛理がクリックを続けていると、

「……あ、これマイちゃん?」
221愛理の休日 14:2014/11/24(月) 19:36:55.47 ID:rb0NTYnt0
画面に、マイが友達と二人で写っている写真が現れた。

「マイちゃんはその友達と二人で来ててさ、それは花火大会の会場で会ったから撮ったげたの」
「へええ、じゃあ会場で偶然会えたんだ、スゴイね」

愛理が感心したように言うと、

「偶然じゃないよ!」

千聖が苦い表情を見せて言った。

「……ケータイで今どこにいるか訊かれてさあ、待ち伏せされて、いろいろ奢らされたんだから!」

千聖が言うと同時に、愛理がマウスをクリックすると、両手の指いっぱいに
屋台のりんご飴やチョコバナナなどを挟み、満面の笑みを浮かべたマイの姿が現れた。
(マイちゃんらしいな)と、愛理は思わず笑ってしまう。

「……で、マイちゃんそのまま、夜はこの子の家に泊まりに行ったんだ」

早貴に言われて、愛理はあらためてマイの横に立っている友達に注目してみた。
……この子が、わたしと天秤にかけてマイちゃんが選んだ方かあ。どれどれ?
そんな、品定めをするような、ちょっぴり意地悪な気持ちがあったが、
その第一印象は素直に(あ、可愛いな!)だった。

黒髪で、真面目そうな雰囲気は、少し派手目な私服のマイとは何だか不釣り合いに見えて、不思議な感じがした。
マイとは、どういう友達なんだろう?という素朴な疑問と同時に、この女の子が、
画面のこちら側に向けている視線を受けて、愛理の頭には全く別の疑問が浮かんだ。

(あれ?この子、どこかで見たことあるような……)
222ねぇ、名乗って:2014/11/25(火) 20:10:51.76 ID:o/xvBZ0z0
あら乙です
223愛理の休日 15:2014/11/30(日) 19:23:37.14 ID:FHjXOZsK0
誰だっけ、どこで見たんだっけ?……それを思い出そうと、記憶を辿り始めた愛理の思考は、

「これだけ写真撮ってたらさあ、もう新しいアルバムが作れるんじゃない?」

ベーグルサンドをすっかり食べ終えて、愛理の横でパソコン画面を眺めていた千聖の言葉で遮ぎられた。

「アルバム?」

早貴が訊き返す。

「この前、遊園地に行ったときもたくさん写真撮ったじゃん。前から撮ってたやつもあるし、
 もうアルバムが一冊分くらいあるんじゃないかなって」
「そうだねー。最近作ってなかったから、もう大分貯まったかも」

早貴が、愛理の方を向いて言った。
愛理はパソコンに保存されている『思い出』と名付けられたフォルダをクリックした。
中は、いくつものフォルダが、それぞれ日付やイベント名で分けられていて、
早貴がデジカメを購入する以前、みんなが携帯でそれぞれ撮影した記念写真などのデータも
ここにまとめられている。愛理は、その中のいくつかを無造作に開いて、中の画像を眺めてみた。

「……うん。これ全部プリントアウトしたら、アルバム一冊作れるかも」

愛理が言った。
……自分の写真が少ない気がしたが、今回のようにお仕事で別行動が多かったので、まあ仕方ないかなと思う。

「アルバム作れるよって言ったら、舞美ちゃん喜びそうだよね」

千聖がいかにも可笑しそうに表情を崩して言った。
早貴と愛理も、何かを思い出したように微笑み、「うんうん」と頷きあった。
アルバム作りに、一番に情熱を燃やすのは舞美なのを知っているからだ。
224愛理の休日 16:2014/11/30(日) 19:24:50.79 ID:FHjXOZsK0
写真が貯まったときに、それを貼ってアルバムを作るのは、昔から姉妹の共同作業だったが、
続けているうちに、舞美の意外な得意分野が明らかになった。

写真を選び、レイアウトを工夫して、手描きのイラストや描き文字を加え、
デコレーションを施してアルバムを可愛く仕上げる。
そういった作業に、舞美は格段のセンスと集中力を発揮しだした。
以来、コラージュは舞美の趣味となり、アルバム制作の場は舞美の独壇場となった。

思えば、パパとママがいるとき、二人はアルバム作りにこだわった。
パパがたくさん写真を撮り、ママが隅々にまで凝った、素敵なアルバムとして仕上げる。
それは、偶然の寄せ集めで家族を名乗ることになったわたしたちのために、
あらたな家族としての歴史を一から刻むこと、それを形に残していくことを、
とても大切に考えてくれていたのかもしれない。
そんな二人の気持ちを、今はそれぞれ早貴と舞美が引き継いでくれていると愛理は思えた。

パパとママが作ってくれたもの。栞菜とえりかがいて、誰からか「七姉妹だね」なんて呼ばれてた頃の思い出。
そして今、わたしたちが五人になってからのもの。
いずれのアルバムも愛理の、いや、この家のみんなで共有する宝物だ。

「でもさ……」

早貴が口を開いた。

「今日は、舞美ちゃんがあの調子じゃ無理かもねー」

早貴が、先ほど舞美が姿を消した戸口を向いて言った。
先ほど、丸めた台本が頭上へ振ってきたときの事を思い出し「あー、たしかに」と愛理が答える。
あの様子では、今日はもう他の事は頭に入らないだろう。

「ああ、それに、マイちゃんがいないときに始めると、『何でマイがいないときに作るのさ!』って、
 帰ってきたときにまた怒って拗ねちゃうかも……」
225愛理の休日 17:2014/11/30(日) 19:26:32.71 ID:FHjXOZsK0
千聖が、わざわざマイの口調を真似て言った。たしかに、それもあるかもと愛理は頷いた。

「……じゃあ、アルバム作るとしたら、また今度だね」

早貴が残念そうに言うと、

「その代わり、今日は久しぶりに昔のアルバムでも見てみない?話してたら、懐かしくなっちゃって」

今度は愛理が提案をした。今日は外へ出ないのだから、家の中で何かすることが欲しかったというのもある。
「あ、いいね!」「久しぶりに見てみようよ」早貴と千聖の同意を得て、
「じゃあ持ってくるね」と愛理は立ち上がった。
リビングへ移動すると、壁際の収納扉を開いた。ここに、これまでのアルバムは大切に仕舞われているはずだ。

「……あれ!?」
「どしたの愛理」
「アルバム、無いよ?……なっきぃ置き場所、変えた?」
「うそ、そこにあるはずだよ?」

早貴が来て、一緒に探してもらうが、やはりアルバムは見当たらない。
千聖にも訊いてみるが「知らないよ」と首を横に振る。

「……舞美ちゃんかマイが、自分の部屋に持っていってるんじゃない?」

早貴が言った。でも、そうだろうか。今日の愛理のように、アルバムを見返したいなと思うときは、
思い出を共有している誰かと一緒にと考えると思う。それに、愛理の頭は、全く別の事を考えていた。

……もしかして……知らない間に、家の中にまで入り込まれて盗まれたのでは?
まさか、と思う。少し冷静になって考えれば、そんな訳が無い。
ずっと、つまらない事にとらわれていたせいだ。きっとそうだ。
愛理が、バカな妄想を頭から追い払おうとしていると、突然『ガチャン!』というガラスが割れる音と、
「きゃあああ!」と叫ぶ舞美の悲鳴が聞こえてきた。
226ねぇ、名乗って:2014/12/03(水) 11:47:59.75 ID:QXDMoJdq0
矢島舞美ちゃんが彼氏と帰っていきました
http://dubai.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1261750958/
227ねぇ、名乗って:2015/03/01(日) 01:02:34.41 ID:4fC+FLPC0
てすと。
228ねぇ、名乗って:2015/03/11(水) 22:04:37.92 ID:CDoEnh/q0
今さら何だよと思われるかもしれませんが、次に書きたい話ができてしまったので
今作何とか完結させてしまいたいと思います。
次作は、今使ってる専ブラの対応次第では、2ちゃんを離れるかもしれないけど、またどこかでです。
229愛理の休日 18:2015/03/11(水) 22:05:58.21 ID:CDoEnh/q0
早貴と千聖が、「何、なに……!?」と立ち上がり、音のした方へと慌てて走っていった。
愛理は……。


「ちょっと舞美ちゃん、何やってんの!」

駆けつけた舞美の部屋で、早貴が声を上げた。千聖が「あー……」とあきれた顔を見せた。
床には、割れた花瓶のガラス片が散らばっていた。

「ごめーん、台詞を覚えるのに動きも付けてたら、本格的にやりたくなっちゃって、つい……」

舞美の手には、かつて舞台で使用した竹光が握られていた。

「もう、刀振るときは、部屋の中でやらないで、外でやってって前から言ってたでしょ!」

早貴が叱ると、

「……うん、ごめんなさぁい」

舞美は、竹光を持っていない方の手で頭を撫でながら、子供のように素直に謝った。
そのいじらしい姿に、早貴の表情は我が子を見つめる保護者のように自然と緩み、

「ああ、舞美ちゃん危ないから動かないで。今、ほうきとチリトリ持ってくるから」
「はーい」
「あ、細かい破片が飛び散ってるかもしれないから、掃除機も」

千聖も言うと、舞美と一緒に、三人で手分けをして、割れた花瓶の破片を綺麗に片付けた。

「もう、舞美ちゃんまた部屋で刀振って花瓶割っちゃったよ。……あれ、愛理?」

早貴と千聖が、リビングダイニングへ戻ってきたとき、愛理の姿がどこにも見当たらなかった。
230愛理の休日 19:2015/03/11(水) 22:08:34.98 ID:CDoEnh/q0
「……愛理ー?」

早貴が呼ぶと、リビングからガタンと音がした。早貴と千聖がそちらの方を向くと、
さっきまでアルバムを探していた収納の隙間に無理やり身を潜めていた愛理が、
扉の間から頭だけを外へ覗かせて、

「……舞美ちゃんが、花瓶?」

怖々とした表情を浮かべながら訊いた。

「そうだよ。だけど愛理、どうしたのそんな所で!?」
「……何でもない、急に大きな音がして、ちょっとびっくりしただけだから」

愛理は、早貴に血の気が引いたであろう青白い顔で答えた。

「ねえ愛理、その顔、本当に大丈夫なの?」
「うん。ごめんごめん、全然、大丈夫だから」

そう言って、愛理は無理やり、ぎこちない笑顔を浮かべてみせた。
そんな、二人のやりとりを黙って聞いていた千聖が、

「……もう、大丈夫な訳ないじゃん。理由、知ってるんだから!」

痺れを切らせたように言うと、テーブル上のパソコンに手を伸ばした。

「あ、ばか千聖!」

早貴が慌てて止めようとしたが、千聖の手は止まらなかった。
インターネットブラウザで、素早く検索をして、画面にあるサイトを表示させる。

「ほら、これだろ?」
231愛理の休日 20:2015/03/11(水) 22:11:03.77 ID:CDoEnh/q0
沢山の画像が並んだ、そのサイトを表示させたディスプレイを愛理の方に向けて、
千聖は言葉の尻に怒気を含ませた荒い口調で言い放った。

「愛理のストーカー写真、また増えてるんだから!」

愛理がしゃがんでいたリビングから、テーブル上のパソコン画面はよく確認できなくても、
そこに何が写っているのか、愛理にはもうわかっていた。
そこに表示されているのは、以前に撮られたのとは別の、休日に出掛けた先で隠し撮りされた、私服姿の自分。
登下校の途中であろう、通学路で撮られた制服姿の自分。
そして、自宅の玄関前で、扉を開いて出掛けようとしている自分――。
それは、自宅をすでに知られているということで、その事こそ愛理が、何よりも怖いと思っていることだった。


リビングでは落ち着かないだろうという早貴の配慮で、三人はノートパソコンを持って早貴の部屋へ移動した。

「愛理、この方がいいんでしょ?」

早貴が、部屋のカーテンを閉めてから、床に敷かれたカーペットに腰を下ろした。

「うん。ごめんね、なっきぃ」

愛理と千聖は、ノートパソコンを小さなテーブルの上に置いて、やはり床にペタンと座りこんでいる。

「……愛理、自分の部屋だって、もうずっとカーテン閉めっぱなしなんでしょ?」

早貴が、心配そうに訊くと、

「うん。何か、常に見られてるみたいな気がして、落ち着かなくて……。
でも、リビングは昼間からカーテン閉め切る訳にもいかなかったしね……」

愛理が答えた。
232ねぇ、名乗って
何となく覗いたら更新されてたーーーーー
嬉しすぎる!