初めのころここを通してますます℃が好きになったという思い出深いスレ
なのでいつまでもあってほしいです
61 :
一号の人:2009/12/06(日) 00:07:48 ID:wi1MXi0a0
>>60 モチべ復活!スレがある限り自分は書いていきたいと思ってます。
ただ書く暇が追いつかないんですよね・・・
五人℃-ute一発目のネタもある
そのあとは愛理×早貴の関係も書きたい
でもその前に書かなきゃいけないえりか離脱のアイディアが実は浮かんでません
モデル転進はもうお話として書いちゃったし弱ってます
何かいいアイディアないかな・・・
>>50 「ねえ、栞菜……」
愛理が口を開きかけたとき、
「……手が動いてないんなら、先にご飯食べちゃいな、ほら!」
栞菜はコンビニの袋を愛理に押し付け、愛理がそれを受け取るとプイと正面を向いてしまった。
(むぅ……)
きっかけを逃した愛理が、口を尖らせる。
横を見ると、栞菜は、すでに袋から出したパンにかぶりついている。
キッと前を向いた、その険しい表情は、今朝からずっと変わりがない。
……弱ったな、敵はそうとう手強いぞ。
もう、あたしが一生懸命話しかけようとしてるのに、いつまで怒ってるんだ。この、頑固モノめ!
愛理の表情も、おもわず険しくなる。
いや待て。ここで、あたしまで怒っても仕方がない。
愛理は、膝の上のスケッチブックに目を落とす。絵は、ちょうど下描きが終わったところだ。
ということは、あとはこの絵に色を塗り、完成させるだけだ。それまでに、何とか仲直りを
しなければいけない。もう時間はあまり無い。
どうしようか、と愛理は考えを巡らせる。
栞菜のことを、よく考える。気分屋で、ふくれていることもあるけれど、みんなでいるときは
基本的に笑顔だ。人一倍の笑い上戸で、いつもケラケラと声をあげて笑っている。
そして思いつく。そうだ、“笑い”だ。
この緊張状態を緩和させるのには、きっと笑わせるのがいい。
名案だ!と頭の中で手を叩いた愛理は、(……笑い、かあ)と同時に頭を抱えた。
63 :
ねぇ、名乗って:2009/12/07(月) 12:43:04 ID:u/fcyp1pO
昨日は小春の卒コンに参戦してきたんですが、梅さんの時と待遇が全然違いましたね。この差は一体…。
64 :
一号の人:2009/12/07(月) 20:53:37 ID:U/t7zu8l0
「℃はもともと見捨てられていた子たちのユニット、
だからファンの感情移入度も、メンバーとファンの『負けるか』って意識も高い」
が自分の認識、扱いに腐らずメンバー(と℃スタッフ)のために応援していきたいですね
今年ずーっと腐っていた自分が言うのもなんですが・・・
笑いって、あたしが一番苦手なジャンルじゃないかあ……。
ギャグや駄洒落は嫌いじゃないけど、愛理がそれを披露すると、いつも場の雰囲気が微妙になる。
何か面白いことを言おうとすればするほど、その場の空気が凍ってしまう。
栞菜は、いつも表情を変えずに「愛理それつまんない」と冷たく言うだけだ。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。
こんなときに、つまらないギャグでも言ったら、ますます空気がおかしくなってしまう。
愛理は再び考えを巡らせる。
ああ、あたしにえりかちゃんほどの人を笑わせられる才能があれば……。
そして愛理は(そうだ!)と思いつく。
去年のクリスマス、歌いながらみんなで廻したプレゼント交換で、
ちょうど愛理の前で止まったえりかのプレゼント。
その中に、まるで愛理のために用意していたかのようにあった“お笑い辞典”という一冊の本。
愛理は頭の中で本のページをめくる。この状況に合ったギャグがないかを必死で思い出す。
(……あった!)
思わず、心の中でにんまりと笑う。(ありがとう、えりかちゃ〜ん!!)愛理は感謝をする。
そして、かばんの中の、絵の具を入れた袋から筆を一本取り出す。その筆の先を、両手の指先で摘む。
それを『ご、めーーん!!』と言って、剣道の面のように相手の頭に打ち下ろすというギャグだ。
愛理は栞菜の方を向く。栞菜が笑おうと笑うまいと関係ない。とにかく何かきっかけを、と思う。
「ねえ栞菜、ご……」
「……何?」
「……ご、ご、ご、ごはん買ってきてくれてありがとう。い……いただきます!」
「まだ食べてなかったの!?もう何やってんの。さっさと食べちゃいな!」
「……はい」
駄目だあ、と愛理は下を向く。
いつも以上に冷たい目で射抜かれ、とてもギャグを言うどころじゃなかった。
これは、先が思いやられるな……と愛理は思う。
それに……よく考えると、あたしから「ごめん」っていうのもちょっと違うな。
昨日のあたしは悪くない。けっして間違っていないはずだ。
やっぱり、「ごめん」なんて言わなくてよかったんだ。……そうだ、そういうことにしておこう。
実は、頑固さでは栞菜にけっして引けをとらない愛理が、そう自分を納得させて、
あらためてスケッチブックの上に置いたコンビニの袋を見る。
そういえば、お腹も空いたな。栞菜の言うとおり、お昼ごはんを食べてしまおう。
愛理は、栞菜が買ってきてくれた袋の中をさぐり、卵のサンドイッチを取り出す。
たっぷりの卵とマヨネーズが合わさってパンが大きく膨らんでいる。
包装を剥き、その二等辺三角形の尖った先を口にする。端まで詰まった卵の味が口の中に広がる。
――んふ、
美味しい。
続けて、すぐに二口目にかぶりつく。軟らかい卵を口の中でしばらく味わったあと、
最初に渡された缶の紅茶を開く。甘い紅茶で、それを胃に流しこむ。
あーーー、生きていて一番の幸せを感じる瞬間だあ。
愛理は思わず笑顔になる。こんなときに……とも思ったけど、でも、仕方がない。
だってお腹が空いたときに、美味しいものを食べられる。その最初の味わいに、
幸せを感じない人なんていないと思うから。
そのとき、愛理は栞菜がジッとこっちを見つめているのに気が付く。
「やっと食べたの……」
栞菜が表情を変えずに口を開く。思わず愛理は、また何か怒られるんじゃないかと身構える。
しかし、後に続く栞菜の言葉は違った。
「……もう、絵を描き始めると、いっつも夢中になってごはんを食べるのも忘れるんだから。
で、後で『お腹空いたあ〜』って大騒ぎして倒れそうになるんだもん。心配で見てらんないって」
栞菜は、それだけを言うと、またプイと正面を向いてしまった。
しかし、その表情の柔らかい変化を、愛理は見逃さなかった。
(……あは、何だ、結構あたしのことを心配してくれてんじゃん!)
そうかあ、ずっと怒っていたわけじゃないんだ。愛理は、安心してサンドイッチの続きを味わう。
心なしか、その味がさっきよりも美味しく感じられる。サンドイッチと、袋の中にあった二つ目の
パンを綺麗に食べ終えると、愛理はスケッチブックに目を落とす。
それを手に取り、描いているスケッチの頁をめくる。以前に描いた、完成した風景画がある。
さらに、その下をペラペラとめくってみると、やはり沢山の風景画が出てくる。
全部、栞菜といっしょにスケッチに出掛けて描いたものだ。
そういえば、二人でいろいろな所に行ったんだな、と愛理は思い出す。
絵も描かないのに、愛理に付き合ってくれる栞菜。「退屈しない?」と気を使う愛理に
「お喋りしてたら退屈じゃないから大丈夫だよ」と言う。そして、ついスケッチに集中してしまう
愛理の世話を、いつもかいがいしく焼いてくれる。
さっきの栞菜の言葉を思い出す。
そして、ずいぶん気が付かないところで心配かけてたんだな、と反省をする。
(やっぱり、何としても仲直りをしなくちゃ。……でも、笑わせるのはあたしには無理だし、
どうしようか……)
スケッチブックを見つめ、少し考えて、愛理は思いつく。
(たしか……!?)とさらに頁をめくって、『それ』を見つける。
(やっぱりあった!!)愛理は思わず笑顔になる。
68 :
ねぇ、名乗って:2009/12/22(火) 01:18:17 ID:01/V9+0mO
68ナリ!
69 :
一号の人:2009/12/23(水) 14:40:56 ID:TikiGNw40
>>68 意味わかんねっす!
で、エピソード途中ですがすいません。
クリスマスには、どうしてもクリスマスネタがやりたくて、中篇ですが始めます。
なので頑張って、クリスマス中に完結すればいいな、と思ってます。
℃姉妹は、一話完結の読み切り連作シリーズだと思ってるのですが
これは続編……ってか、前に書いた話の完全な後日譚になります。
そのため、糞長い前エピソードを読んでないと意味が通じないところがあるかもしれませんが
まあたまにはいいでしょう、ということで。どうせ読んでる人がいるかどうかもわかんないし。
クレヨンは、これ↓が終わってから完結させます。
12月24日、時間はお昼を少し回ったころ――、
「あー、マイちゃんあっちあっち、あのチキンも美味しそうだよ!」
「待ってよ千聖、まだこっちはお菓子見てるんだってば!」
クリスマス用の装飾で彩られた、地元の駅前にある小さなショッピングセンターの食品売り場。
親子連れなど、たくさんの買い物客で混み合う人波の中に、千聖とマイの二人はいた。
――今日は、クリスマスイブ。
家では、舞美と愛理が今晩のパーティーのために、協力して手作りのケーキを制作中だ。
そのため、千聖とマイともう一人(?)が、今年はパーティー用の買い出しを任されている。
「ねえ、ちっさー、今日はチキンはいらないって!」
カートを押し、二人の後を少し遅れて歩いていた早貴が声を掛ける。
「えー!?だってこれ美味しそうだよ?」
「でも、向こうでも準備はしてるって言ってたじゃん、たしかチキンも用意してくれるって」
「そっかあ」
千聖が少し不満そうに言う。
今年のクリスマスイブは、去年に続いて、千聖たち姉妹が縁のある児童養護施設へ遊びに行き、
そこでみんなでパーティーを開くことになっていた。
早貴が話を続ける。
「……それに、ちっさーちょっと買いすぎ!もうカートがいっぱいじゃん」
「違うよ、これはマイちゃんがいっぱい入れたんだってば!」
「千聖だよ!」
千聖に追いついたマイが声を荒げる。
「マイちゃん!!」
「千聖!!」
「どっちでも一緒!!……ああ、やっぱりついてきてよかったよ」
早貴が大きくため息をついてみせる。
とにかく気前のいい千聖と、人のお財布からお金を出させるのが得意なおねだり上手のマイ。
そんな二人にお財布を任せると、いつも相乗効果で無駄遣いが加速してしまう。
そのため、お目付け役として早貴が必要なのだ。
「でもさ、人数だっていっぱいいるし、やっぱりお菓子とかたくさんあったほうがいいじゃん」
千聖が言った。
今年は、千聖や早貴たち姉妹が五人、訪れる施設には、友達になったユウちゃんという名の、
千聖や愛理と同じ年齢の女の子と、他に五人の子供たち。三人の先生たちの計十四人がいる。
「大丈夫、これだけあれば充分足りるよ。舞美ちゃんと愛理も待ってるし、レジへいこ」
「ちぇ、はーい」
千聖とマイが声を合わせて答えると、早貴がカートをレジ前の長い列の最後尾に着ける。
「混んでるから、あっちで待ってるね」
混雑するレジを早貴とマイに任せて、その場を離れた千聖は、
(でも、仕方がないんだよなあ、……だって、お買い物は楽しいんだもん)
と、心の中で少しの言い訳をしてみる。
そうだよ、それに自分のお買い物は、基本的に誰かを喜ばせたいからなんだよな。
そのために使うお金は、別に無駄遣いなんかじゃないと思う。
レジを見る。
列は長く、並んでいる人のカートの中身も多いため、早貴たちのレジ打ちはまだ済まない。
少し退屈になった千聖は、ぼーっと辺りを見回してみる。
そして、
「あ!」
横一列に並んだレジの向こうに、赤と緑と白い綿で飾られた特別なコーナーを見つけた。
そこへ歩いていき、千聖は並んでいたお菓子入りのサンタクロースの赤いブーツを手に取った。
「……うわ!これ、懐かしい!!」
思わず声を出してしまう。それを手にしただけで、何だかテンションが上がってしまったみたいだ。
白くて細かい網に包まれたお菓子が、ブーツの口の遥か上にまで溢れている。見えているのは、
普段も買えるようなお菓子ばかりなのに、この赤いブーツに入っているだけで、何でこんなに
特別なものに見えるんだろう。見ているだけで、すごくわくわくしてしまう。
まるでクリスマスの魔法みたいだ。
(……そうだ。だって、これ、小さいときに欲しくてしかたがなかったんだ)
千聖は、ずっと昔のことを思い出した。
お買い物に来て、お菓子の入った赤いブーツを、ずっと見上げていた小さいころの自分。
それでも“こんなもの”すらも買ってもらえず、怒声に近いがなり声に急き立てられて、
ときには頭を叩かれて、その場を離れるしかなかったあのときのクリスマス――。
「千聖!」「ちっさー、お待たせ!」
レジを終え、両手に買い物袋を下げたマイと早貴が声を掛けてきた。
「……もう二人とも、遅いってば!」怒る千聖に
「混んでたんだから仕方ないじゃん!」マイが言い返す。
しかし、強気な言葉と裏腹に、悲しい思い出に捕らわれて涙が出そうになったときに、
救いの声を掛けられたようで、千聖は少しほっとする。
「ごめんごめん。さ、行こ!」
早貴が二人を促し、その場を後にしようとする。
すると、
「ちょっと待って」
千聖が言い、後ろを振り向く。「……千聖さあ、実はこのブーツも買いたいんだ」
お菓子入りのブーツが並んだ棚を指差す。
「ええ?」
「まだ買うの?」
「うん……お願い、千聖が自分のおこずかいで買ってもいいから!」
千聖の哀願するような目に、マイが「……しゃーない」と答える。
早貴が「うん、じゃあ……いって来(き)!」笑顔で答える。
「……ありがとー、じゃあ待ってて!」
千聖が、ブーツを六つ両手で抱えると、そのままレジへ向かった。
無駄遣いは、決して自分のためじゃない“他人思い”の千聖を、実は知るマイと早貴がそれを見守る。
少しして、
「えへへへへ、買ってきちゃった。みんな、喜んでくれるかなあ?」
施設で待つ子供たちの数である、六つのブーツを入れた大きな袋を下げて千聖が戻ってきた。
「さ、今度こそ行こ」
早貴が言い、千聖も満足げに頷く。
帰ろうと、赤いブーツが並んだ売り場の横を再び通りかかったとき、千聖はその子とすれ違った。
幼稚園くらいの年齢だろうか、この季節には、もう寒いんじゃないかと思える、薄くて、たけが短い、
いかにも着古したような上着姿の女の子が、お菓子の入った赤いブーツをじっと見つめている。
千聖は立ち止まり、そして、目を奪われた。
(……あのときの、千聖みたいだ)
千聖は、いたたまれない気持ちになって女の子を見つめる。「……千聖?」早貴とマイが、
立ち止まっている千聖を振り返る。しかし、千聖の様子を見て、それ以上の声が掛けられない。
そのまま、ほんの少しの時間が過ぎた。
そこに、小学校の中学年くらいだろうか、やはり上等とはいえない洋服を身に纏った男の子が
やってきた。女の子を見つけて「……行くぞ」とぶっきらぼうに声を掛けて、その手を握った。
手を引かれて、その場を去ろうとしている女の子が、振り返ってずっとブーツを見つめている。
「……ねえ、ちょっと待って」
いきなり声を掛けられた男の子と女の子が、怪訝そうな顔で千聖を見上げる。
「これさあ、よかったらあげるよ」
千聖が、下げていた袋から赤いブーツを一つ取り出し、それを女の子の前に差し出す。
ブーツを受け取った女の子が驚きの表情でそれを見ている。「……でも」男の子が口を開きかける。
「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」
千聖が笑顔で男の子にもブーツを渡すと、とまどっていた女の子も千聖を見て笑顔になる。
その顔を見て(あはは、よかった!)と千聖は嬉しくなった。
しかし、次に険しい表情で男の子が口を開くと、その言葉に、千聖の気持ちが一気に打ちひしがれた。
クリスマスイブの楽しい気分が、一瞬で吹き飛ばされてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま……」
玄関を開ける、千聖の声が力無く響く。
「おかえり、ちっさー!」
「ねえ、また買いすぎちゃったりしてないでしょうね?」
リビングへ入ってきた千聖を出迎えた愛理と舞美が、手に何も持っていない千聖に「え……!?」と
驚きの声を上げる。
「……ねえ舞美ちゃん、千聖は今日パーティーに行かない」
「えええ……!?」
「……千聖は、今年はプレゼントも何もいらないから……」
千聖は、そういうとリビングを出て、どたどたと音を立てて二階への階段を駆け上がっていった。
「待ってよ、ちっさー!!」
いっしょに帰ってきていたマイが、抱えていた大きな荷物をどんっとテーブルに置き、
千聖に続いて二階へ上がっていった。
ちっさーってほんとにこんなことしそうな心優しさがありますよね
77 :
一号の人:2009/12/24(木) 21:46:10 ID:c7GJepPz0
>>76 もちろんディフォルメさせてる部分とかあるけど、それでも作中キャラが
ちゃんと本人のイメージ通りだと思ってもらえるのが一番嬉しいですね
どうやらクリスマス中での完結は間に合わないっぽいす・・
それでも書けるだけ書きます
「え、え、え、ちょっと!?」愛理が戸惑い、「ねえ、ちっさー、どうしちゃったの!?」
舞美が心配気に、千聖がいる二階の天井を見上げた。
「実はね……」
舞美と愛理の横に、サンタクロースのブーツが六つ入った袋を抱えた早貴が立っていた。
早貴は、さっき横で見ていた千聖と男の子の様子を二人に話しはじめた――。
「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」
そう言って千聖が男の子にブーツを手渡したとき、男の子が口を開いた。
「いいです、いりません。すいません……ありがとうございました」
男の子は、自分がもらったブーツを千聖に返すと、深く頭を下げた。そして、
女の子が持っていたブーツを「ほら!」と取り上げて、それを千聖に差し出した。
「え!?……ねえ、遠慮しなくてもいいよ」
千聖が、少し戸惑いながらも笑顔を作り、女の子に再びブーツを渡そうとする。
しかし女の子は、下から千聖と男の子の表情を見比べて、それに手が出せないでいる。
「いいよお、あげるってば」千聖の言葉に、男の子は「いえ」と首を横に振る。
その頑なな態度に、千聖が少し困った顔になる。しばらく軽い押し問答が続いたあと、
「もう、いらないって言ってるじゃん!……オレらが、貧乏だからって……バカにすんなよな!!」
「ええ……!?」
男の子が怒気を含んだ荒い口調で言うと、女の子の手を強引に引いて、足早にその場を
去っていってしまった。「ちっさー……」早貴とマイが、ポツンと立ちつくす千聖に近寄る。
千聖の、笑顔の消えた表情が、少し青ざめて見えた。
「そんなことがあったんだ……」
早貴の話を、神妙な顔で聞いていた舞美が言う。
「でね、マイちゃんと二人で励ましながら帰ってきたんだけど、ちっさー、
ずーっと俯いたままで、何にも喋んないんだもん……」
「……で、帰ってきて、落ち込んでアレかあ」
舞美が、再び天井を見上げる。
「でも、ちっさーは親切で言ったんでしょ?それなのにさあ、バカにすんなは言い過ぎだよ!」
ずっと心配そうな顔で話を聞いていた愛理が、次には我が事のように憤ってみせる。
「……そうだよね、千聖は悪くないんだし、元気出してもらわなきゃ。
だって今日は、せっかくのパーティーなんだし」
舞美が、テーブルの上のケーキと、たくさんのお菓子に目を向けて言った。
「ねえ、ちっさー、そんなに落ち込まないで元気出してよ」
舞美が、二階の自室のベッドに潜り込み、布団の中で膝を抱えて横になっていた千聖に話しかける。
傍らに座る早貴と愛理とマイが「そうだよ!」「ちっさー!」と思い思いに声を掛ける。
「ちっさーは、もちろん悪気があった訳じゃないんでしょ?そんなに気にすることないって」
「……うん」
布団の中から、小さな声が返ってくる。
「じゃあ、いっしょにパーティーに行こうよ。……ほら、今年はえりも栞菜もいないのに、
千聖までいなかったらホームの子供たちが寂しがるよ?」
「うん。……そうだね」
被っていた布団をめくり、千聖が顔を出した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
お出かけの準備を終えた、午後三時近く――。
千聖たち五人は、手作りのケーキと、用意したパーティーグッズやたくさんのお菓子、
六つのサンタのブーツを持ってバスに乗った。
バスの中では、みんなが努めて明るく振る舞い、接してくれてるのが千聖にはわかった。
みんなに、気を使わせているのは悪いと思う。いつものように明るく笑おうとする。
それでも、会話と会話の、ほんの隙間にも千聖の表情は沈んでしまう。
昼間の男の子の言葉が、頭から離れてくれない。
どうやら、そんなに簡単に気持ちは切り替えられないようだ。
「おお、みんな、よく来てくれたなあ」
バスを降りた五人を、白い頭の年配の男性と、千聖と同じ年頃の女の子が出迎えてくれた。
千聖たちが“おとうさん”と呼び慕う人、小さかった千聖たちを預かり、“姉妹”として
育ててくれた虹沢と、彼が現在営むホームの“長女”であるユウちゃんだ。
「おとうさん!ユウちゃん!」
思わぬ出迎えに、みんなが笑顔になる。「みんな、いらっしゃい!」ユウが両手を振って答える。
去年、初めて訪れてから、何度か遊びにきていて、ユウちゃんとはすっかり仲良くなった。
「ごめんね、寒いのに待っててくれたんだ?」
舞美が訊くと、
「ううん、お買い物のついでに、そろそろ来るんじゃないかってバス停に寄ってみたの。
そしたらちょうど」
ユウは、小脇に雑誌が入った大きさの書店の包みを挟んでいた。
「さあ、行こうか」虹沢が笑顔で言う。「他の子たちも、みんな楽しみに待ってるんだぞ」」
促されて、みんなも笑顔でうなずく。そのまま、みんなで歩いていると、
「……ねえ、千聖ちゃん、今日はどうかしたの?」
千聖の方を向き、ユウが訊いた。
「え……、どうかしたって、何で!?」
「だって……いつももっと馬鹿みたいに元気に笑ってるのに」
「ちょ、……馬鹿みたいにって」
「あ、ごめんね、つい本音を」
ユウが、悪戯っぽい笑顔を見せた。
大人しそうに見えたユウちゃんは、仲良くなっていくにつれ、その可愛い外見とは裏腹に
言葉に遠慮が無くなっていった。それでも、許されるキャラをユウちゃんはしている。
「別に、何もないって」
遠慮をする仲ではなくなったことで、やはり千聖もぶっきらぼうに答える。
そこで始めてユウも「そう……」と真面目な顔になる。その顔に、少し千聖の心が痛む。
でも、仕方ない。せっかくの楽しいイブに、こんなことをユウちゃんに言うつもりはない。
ユウちゃんの気持ちまで暗くしてしまう。
ユウさんとほんっと同意見
あの笑顔がないと思うだけでさみしいよ
ちっさーを馬鹿みたいに元気にしてくれるのは誰かな
ユウちゃんには、日をあらためて話して謝ろう、と千聖は思った。
少し歩いて、ホームに着いた。民家を利用した、グループホームと呼ばれる児童養護施設だ。
「みんな、来たぞお」
玄関を開け虹沢が声を掛けると、「わああ!」という歓声とともに小学生の男の子が三人、
先頭を争うように飛び出してきた。そのあとを、小学生の女の子が一人、中学生の女の子が一人、
ゆっくりと歩いてきた。
「いらっしゃい!」と笑顔で言う女の子たちの丁寧な言葉を、
「千聖だあ!」「遊ぼう!」
千聖を見つけた男の子たちの大きな声がかき消した。
「ちょっと……お前ら、年上を呼び捨てにすんなよお」
千聖の言葉を、男の子たちは気にする様子もなく、ニコニコと笑っている。
……まったく、ユウちゃんといい、どうしてここの子供たちはみんな遠慮がないんだ。
でも、千聖は許してやることにした。だって自分も、言葉とは裏腹に、今はすごく笑っているから。
ひとまずの笑顔を見せた千聖は、昼間に出会った男の子と同じくらいの年頃の、この子たちの
屈託のない笑顔に感謝した。
それから千聖たちは、パーティー会場になっている広間へ通された。
去年と同じようにツリーが置かれ、クリスマスらしい飾りつけで部屋が彩られている。
長方形の低いテーブルを縦に繋げ、その上にたくさんのお菓子やパーティートイが用意してある。
ここでも「いらっしゃい」と、準備をしていた男女の先生に迎えられた。
「じゃあ、みんなが揃ったから、今年もメリークリスマスだ」
みんなでテーブルを囲むと、虹沢が嬉しそうに言った。
「待って待って、実は……ケーキを作ったの」
ユウと女の子たちがキッチンへ行き、手作りのケーキを手に戻ってきた。
「あたしたちも。はい、ケーキ、今年も作ってきたの」
舞美がケーキをテーブルに並べる。「今年は普通のケーキだけどね」虹沢を見て悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、あれは今年はやらんのか?……ほら、去年のハンドベル」
「あ……ごめんね。今年は、愛理が何だか忙しくなっちゃって、練習ができなくて……」
舞美が言い、横で愛理が申し訳なさそうな顔をした。すると、
「知ってる!愛理ちゃん今度デビューするんでしょ?」
ホームの小学生の女の子が瞳を輝かせて言い、みんなが歓声を上げた。
歌手を目指していた愛理は、あえて普段着で、ある歌手オーディションに挑戦した。
結果はグランプリこそ逃したものの、愛理は最終選考まで残ることができた。そして、
研修生としてレッスンを受けることになった。現在、愛理を含む十数名がデビュー候補生として、
レッスンに励む日々が続いている。
「いやあ〜、そんなそんな……わたしなんて、まだまだだってば!」
照れて、手をバタバタさせて答える愛理を、さらにみんなで「ひゅー」と冷やかす。
そして、愛理をはやし立てる声が一段落したとき、
「……ハンドベル、本当はねえ、舞美ちゃんが無くしちゃったから今年はできないんだよ」
「ちょっと、マイっ……!?」
マイが、舞美の隠していたことをバラした。ホームのみんなが「えー!?」と声を揃えた。
「……ねえ舞美ちゃん、どうするの?あれ大事なハンドベルなんだよ!?」
さらに早貴が意地悪に問いつめる。
「帰ったら、もう一回ちゃんと探すってば。……でも、おかしいなあ!?
たしかに、あそこに片付けたと思ったのにさあ……」
「舞美ちゃん、ドンマイ!」
舞美のミスをバラした張本人のマイが白々しく励ます。その口の端が、ひくひくと上がっている。
(ダメだよ、笑っちゃあ……)とマイを見て千聖は思う。
でも、そういう千聖にも、マイの気持ちが痛いほどわかってしまう。
(……もう、笑ったらバレちゃうでしょう!)
早貴と愛理も、虹沢とホームの子供たちも、理由を知っているみんなの顔が少し笑っている。
狼狽している舞美ちゃんは可哀想だけど、ホントのことを伝えるのはまだ先みたいだ。
「いいじゃない。今年は、わたしがピアノを弾くから、『きよしこの夜』みんなで歌おう」
ユウの提案にみんなが賛成して、ユウが部屋の隅にあるピアノに向かう。
用意してあった小さなろうそくをケーキに立てて、火を灯してから、部屋の明かりを消す。
ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が、みんなの顔をほのかに浮かび上がらせる。
厳かな雰囲気の中、ユウのピアノに乗せて、みんなの歌声が重なる。そして、
「メリー・クリスマス!!」
部屋の明かりが点くと、みんなで一斉にクラッカーを鳴らし、パーティーが始まった。
「いっぱい食べてね」と、サンタの帽子を被った舞美がユウと協力してケーキを切り分ける。
「お菓子もいっぱいあるからサ」早貴と愛理が菓子の袋を開けて並べる。マイに「千聖!」と
肘でつつかれ、「……これも、あるんだ」千聖が、サンタのブーツをそっと出す。
うわー舞美ちゃん可哀想!でも舞美ちゃんの可哀想なとこってなぜか笑えますねw
一気に楽しそうな雰囲気になってきた!
87 :
一号の人:2010/01/04(月) 19:57:53 ID:9rYjdExR0
調子こいて
>ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が、みんなの顔をほのかに浮かび上がらせる。
なんて描写入れたはいいけど、その前に時間経過の描写(辺りが暗くなること)入れるの忘れてますね・・・
恥ずいから直そうかな
で、読んでる人がいたらすいません
野暮用が続いてしまって、続きは明日以降で・・・
一気にまとめに入ります
「うわあ!」「ありがとー!」「可愛い!」と、みんなが喜んで受け取ってくれる。
「ほら千聖、よかったじゃん」マイがこっそりと言い、「うん」と千聖が小さく頷く。
たくさんのチキンピースと、オードブル料理を盛り付けた大きな皿がいくつも運ばれてきて、
ケーキの横に並べられる。「わあ、美味しそう!」と、みんなが手を伸ばす。
「……ちょっと、君たちは千聖と遊ぶんでしょ?」
千聖が、ケーキをほお張っていた男の子たちに声を掛ける。
「あ、あれやろうよ!」千聖が置いてあったジェンガを指さす。「あたしもやりたい!」と、
小学生の女の子も加わり、みんなでテーブルの端にジェンガを積み上げる。
「負けた子はさあ、罰ゲームありだからね」千聖が嬉しそうに言い、子供たちが「えー!?」と
声を上げる。
「うはははは!!」ジェンガが崩れる音に続き、千聖の明るい笑い声が部屋に響く。
早貴と愛理が千聖の方を見て、ほっとしたように微笑んだのがわかった。
(今日は心配かけちゃってごめんね)と千聖は思う。これで、みんなはもう安心しただろう。
――でも、自分のこの気持ちはいつ晴れるんだろう。
嘘でも、こうして笑っていないと思い出してしまう。そして、落ち込んでしまうんだ。
再び、暗い気持ちに陥りそうになった千聖は、また無理に声を上げて笑ってみせた。
「ねえ、千聖ちゃん」
「ん……?」
パーティーが始まって、しばらく経ったころ、ユウが声を掛けてきた。
千聖と遊んでいた子供たちは、今はテーブルのご馳走やお菓子に夢中になり、それぞれが
散りぢりになっている。ユウは、千聖が一人になるタイミングを見計らっていたようだ。
「今日、元気が無かった訳、マイちゃんから聞いた」
……あの、おしゃべりめ。千聖が目で追う。視線に気付いたマイが、とぼけて顔を逸らせる。
「ああ、ごめんねさっきは。でも、もう大丈夫だから」
「うそ!」
「え……!?」きっぱりと言い切るユウに、千聖がたじろぐ。
「ねえ、何でそんな言い切れちゃうのさ?」
「だって、千聖ちゃんだけ、さっきからケーキもお料理も何も食べてない」
「えええ!?……何で、そんなとこ見てるのさ」
「手作りケーキだもん。食べて、美味しいって言ってもらえるかどうか気になるじゃない?
なのに、見てたら千聖ちゃんだけ食べてくれなかった。ケーキも、それからお料理も」
そうか。見られてたんだ。千聖は、少し驚いた顔でユウを見る。
ユウが続ける。
「ねえ、千聖ちゃんらしくないよ?そんなにいつまでも落ち込まなくてもいいじゃん。
千聖ちゃんは、その子たちのことを思って『あげるね』って言ったんでしょ?
だったらもういいじゃない。その男の子だって、きっといつかわかってくれるよ」
「ううん、そうじゃないの」
「え……!?」
「千聖が落ち込んでるのは……その男の子のことじゃないんだ」
「え、そうなの!?」
今度は、ユウが驚く。
「じゃあ、どうして?」
「もちろん、その男の子がきっかけなんだけどね…………」
千聖は、少し黙ったあと、(ユウちゃんになら、言ってもいいか)と口を開く。
「……ねえ、ユウちゃんは、サンタクロースって信じてる?」
「サンタクロース……?」
「そう、サンタクロース」
「うん……信じてる。きっと、いると思うよ」
突然の質問に戸惑いながらも、ユウは真剣に答えてくれる。
「千聖ちゃんは……」そして、今度は千聖が訊かれる。「信じてないの?」
「千聖はねえ、信じてるよ。ずっと小さい頃から」
「うん」
「でもねえ、サンタさんって不公平なんだよ」
「え、どうして?」
「だってさあ、小さい頃ね、千聖の家にはサンタクロースが来てくれなかったんだ。
……お友達の家には、みんな来るのに、千聖のお家にだけ来てくれなかったんだ」
「…………」
「それはねえ、きっと千聖が悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ったんだ」
「ええ!?そんなことないよ!」
「ううん、違うの。でね、ある年のクリスマスに、悔しくって、お友達と喧嘩しちゃったんだ。
『サンタなんかいないんだ』って。そしたら、家に帰って、いっぱい叱られたの。
『お前は悪い子だ』って」
けっして、思い出したくない昔のこと。千聖の胸の奥が痛くなる。
でも、ユウが黙って話を聴いてくれている。千聖は血を吐くように言葉を続ける。
「ごめんなさい、いい子になりますって謝っても許してくれなくて、いっぱいいっぱい
叱られて……」
「千聖ちゃん……」
「それから少しして、千聖は虹沢のおとうさんの家で暮らすことになったんだけど……」
千聖は、チラリと向こうにいる虹沢を見る。ユウには説明しなくてもわかるだろう。
現在、虹沢が営む養護施設に暮らすのがユウを含む子供たちだ。
「そしたら、千聖にもサンタさんが来てくれるようになったんだ」
「そう……よかったじゃない千聖ちゃん」
「うん。でね、舞美ちゃんや、なっきぃや、みんながいて、毎日もすごく楽しくなって」
それまで辛そうだった千聖の顔に少しの笑みが戻る。「うん」ユウもつられて笑顔で頷く。
「……でもさあ、やっぱりサンタさんは不公平だと思ったんだ」
「どうして?」
「だって千聖はさ、いい子になったわけじゃないんだよ?
みんながいると楽しくって、つい調子にのっちゃって、いっつもマイちゃんと喧嘩したり、
悪戯して愛理を泣かせちゃったりして、ちっともいい子になってないのに、サンタさんが
来てくれるんだよ?」
「それは……関係ないよ」
「ううん、千聖はさあ、ずっと悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ってたの。
それなのに、いい子じゃないのに、サンタさんが来てくれるんだよ?やっぱり不公平だって」
「……いいじゃない。許してあげなよ。サンタさんだってきっと忙しかったんだよ。
それに、千聖ちゃんは悪い子じゃないよ。だって、それまでずっと我慢してきたんでしょ?
サンタさんは、そんな千聖ちゃんを見つけて、助けてくれたんだよ」
「ううん、違う。それじゃ、やっぱり不公平だよ!」
千聖の声が強くなり、ユウが驚く。
そのまま下を向いた千聖が、次の言葉を小さく捻り出す。
「じゃあ、何で千聖ばっかり?」
「え?」
「千聖ばっかり助けてくれて、他の子は助けてくれないんだろうって思ったの」
千聖の頭に、昼間に出会った兄妹が浮かぶ。小さかった自分を思い出す。
「千聖にはさあ、サンタさんも来てくれるようになって、優しいみんながいつも助けてくれて、
欲しかったお菓子のブーツだって、何も考えずにいっぱい買えるようになって……」
「千聖ちゃん……」
「でも、日本にはまだサンタさんが来てくれない子って、きっといると思うんだ。
ううん、それだけじゃなくって、欲しいものも買ってもらえなくて……もしかしたら
ご飯も食べられないっていう子だって、いっぱいいるかもしれないんだ……」
日本の、いや世界のどこかに、小さい頃の千聖のように苦しんでる子がいるかもしれない。
それを想像するだけで、千聖の胸が苦しくなる。
「……それなのにさあ、千聖だけが助けてもらって、パーティーなんていって楽しんじゃ
いけないって思ったんだ」
目をつぶると、涙が滲む。いけないと思って、すぐに手の甲で拭う。
周りを見渡す。舞美と早貴が、虹沢のおとうさんと笑いながら話をしている。愛理とマイと
子供たちが、きゃあきゃあ言いながらプラスチックの小さな樽に剣を刺して遊んでいる。
みんなが楽しそうでよかったと思う。でも、自分は今日は楽しまないと決めた。
テーブルの上の料理を見る。でも今日だけは我慢しようと、ぎゅっと口を結ぶ。
ユウが、そんな千聖を見て口を開く。
「千聖ちゃん……マリア様みたい」
感心したように言うユウに、千聖は疑問をぶつける。
「え、誰それ?歌手?」
「えええ、知らないの!?」
「えええって、ねえそんなに可笑しい!?」
「だって、クリスマスなのに」
「クリスマスだろうと知らないものは知らないじゃん!ねえそれ誰よ!?」
千聖の声が大きくなると同時に、お腹の音がぐぅと鳴った。
「ぷっ……あはははは!!」と、二人が同時に笑い声を上げる。
「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」
そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。
「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」
少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。
「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」
くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑って続ける。
「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したよ?」
「去年?」
「うん。七人の可愛いサンタさんが、突然やってきたんだ」
ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。
「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
94 :
ねぇ、名乗って:2010/01/12(火) 21:45:20 ID:MSYC4LOv0
ごめんなさい
↑貼った早々ですが、思いついちゃったのでちょっと直したのを貼り直します↓
読んでる人なんかいるのかな?完結近いです
「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」
そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。
「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」
少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。
「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」
くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑い、
そして付け足す。「……感動とか」
「感動……!?」
「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したんだ。
すごく可愛い七人のサンタさんが突然やってきて」
ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。
「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
ユウが、みんなの方を向いて言う。テーブルの上で、黒ひげ人形が樽から飛び出し、
キャアと言う歓声が上がる。それを合図にしたかのように、
「ユウちゃん」
テーブルの向こうの虹沢から声が掛かる。「そろそろ、やろうか?」
ユウが「うん!」と頷き、「じゃあ、見ててね」と千聖に言って立ち上がる。
同時に、テーブルを囲んでいたホームの子供たちが立ち上がる。「えへへ」「じゃあね」と
悪戯っぽく笑い、この部屋と隣室を隔てるふすまを小さく開けて、その暗い隙間へと消えていく。
「え……なに!?なに!?」
ユウを含む子供たちが全員隣室へ消え、閉じられたふすまを見て舞美が声を出す。
そんな舞美を、早貴と愛理とマイがニヤニヤしながら見守っている。事情を知っているのは、
千聖も同じだ。「いいから、見てなさい」と虹沢が舞美に言う。少しの時間が経って、
「じゃーん!」
男の子の声と同時に、勢いよくふすまが両側に開く。部屋が、明かりの点いた隣室と繋がる。
視界に、真っ赤なクロスで覆われた横長のテーブルが飛び込んでくる。テーブルの上には、
ハンドベルが横一列に整列をするように置かれ、その後ろにはユウたち六人の子供が並んでいる。
「今年は、去年のお返しに、わたしたちがハンドベルを演奏したいと思います」
代表してユウが言う。みんな、サンタの帽子を被り白い手袋をはめている。
「え!?え!?え!?……うわあ!」
事態を呑みこんだ舞美が驚きの声を上げる。そして「ねえねえねえねえ……あ、あれ!?」
周りを見渡して、驚いているのが自分だけなのに気付く。「……何で!?」
「早貴たちは知ってたもん。ねー」早貴が言い、愛理が「うんうん」と頷く。
「でも、どうして知ってるの?」不思議そうな顔で舞美が訊く。
「だって、あれ、ウチのハンドベルだもん」
マイが、ハンドベルを指で差して答える。
「どういうこと?だってあれ、わたしが無くしちゃったって……」
「ううん、舞美ちゃんが片付けたのを、こっそり貸してあげてたの」
「ええ!?じゃあ……」
「うん、舞美ちゃんは無くしてなんかいないよ」
マイが愉快そうに言い、舞美と千聖を除くみんなが悪戯っぽく微笑む。
「えええ!?ねえ、ひどいひどいひどいひどい!!」
ようやく事態を把握した舞美が声を上げると、
「去年のクリスマスには、驚かされたからな。仕返しだ」
その意地悪な言葉とは裏腹に、虹沢の温和な顔が優しくほころぶ。そして、
「ごめんね舞美ちゃん、わたしがみんなにお願いしたの。去年、舞美ちゃんたちのサンタと
ハンドベルに感動しちゃって、今年はどうしても自分たちがサンタになってお返しをしたくて」
ユウの言葉に、舞美が「え、そんなそんな……」と少し照れて答える。
「……ね、嬉しいじゃん舞美ちゃん」早貴が舞美の顔を覗きこむ。舞美の顔に笑みが戻ったのを
確認して、ユウに目で合図をする。ユウが、小さく頷いて口を開く。
「去年の感動を伝えたくて、この曲を選んでみんなで練習しました。
『サンタが街にやってきた』聴いてください」
ユウの声をきっかけに、子供たちの演奏が始まった。ハンドベルの、澄んだ綺麗な音色が
部屋の中に響く。やっぱりハンドベルの音はいいな、と千聖は思う。
千聖は目をつぶり、メロディに聴き入る。歌詞が、自然と頭に浮かぶ。
『――さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス
サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
昼間、出会った兄妹を再び思い出す。
今夜、あの子たちの家に、ちゃんとサンタさんは来てくれるのかな?
『――ねぇ 聞こえてくるでしょ 鈴の音がすぐそこに
サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
あの子たちだけじゃない。きっと世界中にいる、様々な問題を抱えて悩んでいるような
子供たちのところにも、サンタさんは公平に来てくれるのかな?
『――待ちきれないで おやすみした子に きっとすばらしいプレゼントもって
さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス 』
ううん。サンタさんは来てくれても、もしかしたら問題は解決しないのかもしれない。
さんざん悩んでみたけれど、自分にしてあげられることもありそうに無い。
それでも……、
『――サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
それでも、
いつか、みんなが幸せになって、笑って過ごせる日がくるといいな、と千聖は願う。
演奏が終わり、変わりにみんなの拍手と歓声が鳴り響く。部屋が、温かい雰囲気で包まれる。
千聖も、いつの間にかこぼれていた涙を拭って思い切りの拍手をする。
無事に演奏を終えられた子供たちが、拍手を受けて満足気な笑みを見せている。
代表して「ありがとう」と答えたユウが、「……舞美ちゃん、ごめんね。ハンドベル、
帰るときには持って帰ってね」と舞美に頭を下げる。「ううん、こちらこそありがとう」と、
舞美が素敵な演奏へのお礼を返す。そして、
「えへへへ、どうだった?」
ユウが千聖の横へ戻ってきて訊いた。「なんかさあ、素晴らしかった。なんか、感動しちゃった」
うまく言葉にできないのがもどかしいけど、千聖は感じたままを口にする。
「うん。音楽っていいよね。人を感動させられて、元気にしてあげられて。
……ねえ千聖ちゃん。まだ元気が出ない?落ち込んだまま?」
ユウの質問に、少し考えて、「ううん」と首を横に振る。「でも……」さっき、ユウが言った
言葉を思い出す。「自分にできることなんて、やっぱりわからないよ」
そのとき――、
「じゃあさあ、今年も去年みたいに、みんなでカラオケやろうよ!」
演奏の余韻で高揚した気分そのままに、早貴が声を上げた。
「待ってて、新しいのを買ってもらったんだ!」と中学生の女の子が、部屋にあるテレビ台の
下から、コードに繋がった新しいマイク型カラオケを引っ張り出す。
「去年は、楽しかったからなあ。今年は、もっと何でも歌えないかと思って買ったんだ」
そして「奮発したんだぞ」と虹沢が自慢げに言う。
「わたし、愛理ちゃんの歌が聴きたい!」
パーティー前に愛理のデビューを訪ねた女の子が、手を上げて言った。「いやいやいやいや、
ちょっとちょっと……」マイクを握らされた愛理が「じゃあ、順番だよ」と照れながら言う。
「ねえ千聖ちゃん」
こちらでは、ユウが千聖に話しかける。
「……前にね、愛理ちゃんの夢の話を聞いたとき、すごいって思ったの」
「歌手に、なりたいってこと?」
「うん。それで、歌で世界中の人を感動させられるようになるといいなあって」
何だそれ、初めて聞いたぞ。
愛理は、ユウちゃんに、そんな話をしていたのか。
自分には何も言ってくれなかったことに少し腹が立ったが、すぐに思い直した。
きっと自分が、ユウちゃんにしか落ち込んでいる理由を言えなかったのと同じだ。
近すぎると、恥ずかしくて言えないことがあるんだ。
「わたしも、愛理ちゃんみたいになりたいなあって思ったんだ」
そういえば、去年カラオケで聴いたユウちゃんの歌も上手かったなあと千聖は思い出す。
テレビから愛理が選んだ曲が流れ出した。二人で拍手をする。愛理の歌が始まった。
「……もしさあ、そんなことができたら、すごいと思わない?」
歌を聴きながら、ユウが千聖の耳元で言う。「そんなこと?」聞き返す千聖の声が、
カラオケに音に負けないように少し大きくなる。
「ほら、あったじゃない。自分でもできること!」
「え……!?」
「歌を届けて、世界中の人を感動させられるんだよ?それって、本当のサンタクロース
みたいじゃない!!」
「ああ!!」
101 :
一号の人:2010/01/20(水) 21:10:04 ID:jRHZGHdu0
しまったあ誤字がある
けどいいや・・・
あと2回で本当に終わります
ユウの話を聞き、目の前で歌う愛理の姿を見て、千聖は気が付いた。
歌を届けて、人を感動させる。音楽は、人の気持ちを癒し、救うことができる。
今日の自分が、救われたように。
「ありがとうユウちゃん、自分ができること見つかったわ!」
「うん!」
「愛理を、応援すればいいんだね!」
「え……!?」
愛理の歌が間奏に入った。千聖は大きな声で「よお、愛理ィ!!」と拍手をする。
「やだ、ちょっと千聖!!」愛理がしきりに照れている。でも構わない。
今は自分たちの前だけでも、愛理ならきっと日本中、いや世界中にその歌を届けられるはず。
自分は、家族としてそれを、ずっと応援していってやろうと思う。
急に心のもやが晴れた気がした。テーブルの上を見る。オードブルの残りが、自分を呼んでいる
気がした。「……お腹、空いたあ!!」千聖は、残りの全てをたいらげる勢いで手を伸ばした。
「……じゃあ次、ちっさあーー!!」
チキンにかぶりついていた千聖を、歌い終えた愛理がマイクで指名した。
「えええ!?今、せっかく食べてるのにい!」
「ダメだよ、早く早く!」
愛理が「さっきの仕返しだよ」というような嬉しそうな顔で手招きをする。
周りのみんなの拍手と歓声にも急き立てられ、千聖は仕方なく席を立った。
ユウにマイクの操作を教えてもらい、歌いたい曲をテレビ画面で探して決める。
「あ、もうちょっとエコーを効かせた方がいいかも」
ユウが、何かマイクのボタンを操作して千聖に渡す。
「あーあーあー、ねえ別にそんな変わらないよ?」
「いいからいいから」
ユウが満足そうにテーブルの向こうの席に戻る。千聖が選んだ曲のイントロが流れ始める。
その、ほんの少しの間に千聖は考える。
(結局は、愛理頼みなのかあ……、自分は、応援だけしかできないのか……)
「千聖ちゃん、ピース!!」
今度はユウが、携帯電話のカメラを千聖に向けた。こんなときでも、思わず笑顔でピースサインを
返してしまう自分が情けない。カシャッと音がしてフラッシュが光った。
応援するだけの自分、かあ……でも仕方がないのか。それが、ほんの少しだけ悔しくなった。
(じゃあ、せめて今日だけは、この歌だけは愛理に負けないように歌ってやろう!)
千聖は気合を入れて、マイクを口もとへと運んだ。
「千聖ちゃん、もう一枚、ピース!!」
ユウは、千聖に携帯のカメラを向けて二枚目の写真を撮った。
「全身写真と、バストアップはこれでよし、と」
千聖が握るマイクを見る。録音状態を示す赤いランプがちゃんと点いているのを確認する。
テーブルの下に置いていた書店の包みから、夕方買ってきた一冊の雑誌を取り出す。
女性アイドルが表紙を飾るオーディション雑誌の、応募用紙が綴じられている頁を開く。
(わたしからのプレゼント。千聖ちゃんなら、きっと大丈夫だよ)
去年、カラオケでみんなの歌を聴いたときから思っていたこと。
そして今、千聖の歌を聴いて“やっぱり”と確信を持つ――。
(歌でみんなを感動させられるのは、きっと愛理ちゃんだけじゃないよ)
ユウは、応募用紙の名前欄に“千聖”とその名前を書き込んだ。
(……でも、来年は、きっとみんなライバルなんだからね)
頁を一枚めくり、二枚目の応募用紙に向かう。そこに、今度は“憂佳”と自分の名前を書き込み、
ユウは……憂佳は悪戯っぽく笑った。
105 :
名無し募集中。。。:2010/01/24(日) 00:38:14 ID:JeVcatNr0
この子だったのかヨシカワさんの方かと思ってたw
お疲れ様でした!
最初はシリアス路線かと思ってたんですけど最後にほんわかクリスマスが来て良かった!
長いクリスマスプレゼントをありがとう!いっぱい楽しまさせていただきました
106 :
一号の人:2010/01/24(日) 19:57:38 ID:g+xVPSfE0
よかった読んでくれてる人がいた!まずはお礼、ありがとうございます。
そうだ、ハロプロには吉川さんがいたんだ。忘れてたってか気が付かなかった
確かにユウちゃんは紛らわしいすね・・・
千聖にはドラマの中とはいえ辛い役を割り振っちゃったので
次は能天気に明るい話が書きたいです
・そろそろマイマイ主役回(マイと千聖のお買い物)
・舞美と愛理の二人旅(列車の四人掛けシートに並んで座って
のんびりしたおしゃべりだけで進むような穏やかな話)
みたいの書こうと思ってます。
(『赤色のクレヨン』は先にぶっちゃけちゃうと栞菜サヨナラ話なので、また後回しにしちゃうかも)
話の大枠だけ完成したら、また細部は連載形式の行き当たりばったりで始めたいと思うので
自分はそのときまでノシです
107 :
ねぇ、名乗って:2010/01/29(金) 00:01:44 ID:3eQwheAjO
楽しく、そしてちょっとせつなく読ませていただきました。
一号さんの文才がうらやましいっす!
108 :
名無し募集中。。。:2010/01/29(金) 00:04:04 ID:KO/aJ9AP0
もう大学一年のときから読んでるけど大好きだ
社会人になってからも読みたい
109 :
一号の人:
やべえレスが付いてる 早く次書かなきゃとプレッシャー
とりあえずありがとうございます
梅さん卒コンのDVD観ました。
すごくいいライブでまだ軽い興奮状態す
で、お話としての時系列はバラバラになっちゃうけど、長女えりかが家を出た直後の
家族会議の模様とかネタにならないかなあと思って急に考えたりしてます
期待はしないで待ってて下さいな