1 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :
2 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:03:36 ID:HBVN9sP10
第1話「宇宙一強いプロレスラーより」
第2話「なつみかん」
第3話「陽の当たる場所に」
第4話「高橋愛vs紺野あさ美」
第5話「本当の優勝者」
第6話「亜依の望み、希美の愛」
第7話「ターゲットの名」
第8話「激闘!メロン」
第9話「枠」
第10話「お前か!」
第11話「東の光、西の闇」
第12話「プロレスの神様」
第13話「抽選会」
第14話「来ないで」
第15話「開幕」
第16話「もっとも恐れる者」
第17話「主人公じゃない」
第18話「七秒」
第19話「夢失いし娘の見た光景」
第20話「高橋愛vs辻希美」
第21話「藤本美貴vs矢口真里」
第22話「携帯に出ない女」
3 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:15:02 ID:JsCejkw+0
第23話「終わりの始まり」
第24話「頂上が見えた日」
第25話「エリの遊び」
安倍なつみ・番外編「なっちのみち」
第26話「最強チーム完成!」
第27話「恐るべき少女たち」
第28話「天使は羽ばたく」
第29話「戦いは終わらない」
松浦亜弥・番外編「戦場の女神」
第30話「アイ」
第31話「二人の夢はいつまでも」
第32話「プロジェクトKの子供達」
後藤真希・番外編「黄金時間」
第33話「野生」
第34話「宣戦布告」
第35話「プッチ公園の落日」
第36話「すべての道がひとつに繋がる」
4 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:16:08 ID:JsCejkw+0
第37話「バトル・サバイバル開幕」
第38話「序盤戦」
第39話「加護亜依vs辻希美」
第40話「魔の饗宴」
第41話「小川麻琴vs石川梨華」
第42話「もっとも出会ってはいけない人物」
第43話「矢口真里、怒る」
第44話「高橋愛vs飯田圭織」
第45話「闇の罠」
第46話「純潔のフリージア」
第47話「これが決勝戦」
第48話「地獄のタッグマッチ」
第49話「さよならあいぼん」
5 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:17:32 ID:JsCejkw+0
バトル・サバイバル生存者(残り8名)
『太陽の拳』安倍なつみ
『奇跡の拳』辻希美
『黄金時間』後藤真希
『ロード・オブ・エース』高橋愛
『死神殺し』松浦亜弥
『狂気の満月(フルムーン)』藤本美貴
『地上ちゃいこー』亀井絵里
『不死人形(アンデッド・ドール)』石川梨華
6 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:19:16 ID:JsCejkw+0
第50話「なっち皆殺し」
目が覚めると、見覚えの無い天井が視界に入る。
(ここは…?)
起き上がろうとすると全身に強い痛みが走った。
「ウグッ!」
思わず声を漏らしてしまう。体が自分の物じゃないみたい。
「気が付いたか、紺野」
すると隣から声がした。
ほとんど面識はないが、よく知っている声であった。
紺野は声の主に首だけで会釈する。
「ここは何処ですか?飯田さん」
飯田圭織は、ベッドの上に座っていた。
よく見ると周りにもずら〜っとベッドが並んでいる。
「医療施設の様だ。島の地下辺りか。どうやら敗者はここに運ばれるらしい」
「敗者?まさか?あなたも負けたんですか!?」
「とっくにな」
紺野はずっと意識を失っていたから、その後の状況を知らない。
7 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:20:35 ID:JsCejkw+0
「だ、誰にですか?」
「高橋愛」
「えっ!!!!」
驚きのあまり、紺野はベッドから跳ね起きる。
その衝動で痛みが全身を駆け巡り、しばらくもだえることとなった。
(あの愛が…飯田さんに…凄い…)
落ち着いてくると、部屋を見渡す余裕が出てくる。
ベッドは何十台とあった。今やそのほとんどが埋まっている。
「あと何人くらい残っているんですか?」
「奥に小さなテレビがある。そこで簡単に状況を見れる」
飯田の言葉に、紺野はテレビを探す。それはすぐに見つかった。
「残り9人」と表示されている。かなり終盤であった。
地下で闘う松浦・藤本・辻・加護の姿が映る。
森の中を走る安倍の姿が映る。
その後ものすごいスピードの激闘が映った。どうやら後藤と石川の様だ。
「愛は…?」
「まだ残っている。そのうち出てくるだろう」
画面が切り替わった。
久しぶりに見る、成長した高橋愛の顔が映った。
その対面に…残り一人の顔が映る。
瞬間、失っていた恐怖の記憶が紺野の脳裏に蘇る!!
8 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:21:49 ID:JsCejkw+0
「ダメーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
紺野の叫び声が、広い部屋の中に響き渡る。
何人かはそれで目を覚ました様だ。
「どうした?落ち着け!」
突然くるった様に泣き叫び出した紺野に、飯田は驚いた。
常に冷静で感情を乱さない。紺野に対してそういう印象をもっていた。
(アイツが紺野に…?)
その娘は飯田もよぅく知っている。
ハロープロレスに乗り込んで大暴れをし、
5vs5戦では自分でも決着をつけることのできなかった因縁の女。
それでも、紺野のこの怯えぶりは尋常でない。
(何を見たんだ?)
紺野が敗北したとき、突然その場のモニターが落ちた。
そのせいでソレを知るのは世界で紺野ただ一人なのである。
真の恐怖。
テレビの中で、亀井絵里は殺意剥きだしの表情を浮かべていた。
「フン。俺に勝った奴が、負ける訳ねーだろう」
飯田圭織は自信に満ちた目で、モニターに映る高橋愛の背中を見つめた。
9 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:23:11 ID:JsCejkw+0
時間は少しだけ遡る。
亀井絵里は田中れいなと道重さゆみの敵を討つため、嗣永桃子と熊井友理奈に挑んだ。
しかし圧倒的力を有する二人の前に、なすすべなく倒されてしまう。
「死ね」
とどめをさす桃子の腕が、地面に倒れる絵里に迫った。
その瞬間「それ」は目覚めた。
迫り来る桃子の腕を掴み取ると、物凄い腕力で桃子を吹き飛ばす。
そのままムクリと起き上がる。
「何なの…?」
熊井が言葉を失う。
ついさっきまで亀井絵里というのは華奢な娘だった。
ところが今、腕の太さが自分達の倍以上ある。
足の太さに至っては倍どころでは済まない。
全身が筋肉の塊の様な体つきになっていた。
「どうせ見かけ倒しでしょ」
熊井は素早いミドルキックを放った。
でかくなった分、スピードが落ちている。そう思った。
バチン
当たった。熊井は眉をしかめる。激痛が足を走る。
亀井は何の反応もない。よく見ると、折れているのは自分の脚だった。
10 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:24:37 ID:JsCejkw+0
熊井友理奈には手足を自在に伸縮する『特別世代』という能力がある。
それと同じような能力かと思った。
だがまったく違うものだということにすぐに気付かされた。
硬質な肉の塊が飛び込んでくる。
殴る。蹴る。ということすらしない。
ただ、ぶつかってくる。自分の体をぶつけてくる。
ありえないくらい単純すぎて、ガードも対策も何も、意味がない。
気が付けば全身の骨がボロボロに崩されている。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
声にならない悲鳴をあげた。
殺される。
「殺される」という言葉があまりにリアルすぎた。
「てめぇ!!」
声が聞こえた。桃子さんの声だ。
いけない。だめ。殺される。
亀井絵里は…いや亀位絵里だった塊は、声のした方へぶつかっていった。
熊井は目を閉じた。
とても直視できない様な残酷な音が、すぐそばから聞こえてきた。
ボテッと何かが落ちる音がした。
今すぐこの大会を止めるべきだ、と熊井は思った。
11 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/14(日) 22:26:51 ID:JsCejkw+0
人格が違った。
喜怒哀楽の「楽」の感情しかもたぬ娘が、今は「怒」のみ。
戦い方が違った。
戦いを遊びと捉えていた娘が、今はまったくムダがない。
なにより体つきが違った。
クネクネしていたあの体が、今は鋼の塊に様になっている。
『勝負あり!!』
『敗者!!嗣永桃子!熊井友理奈!』
『勝者!!亀井絵里!』
『残り9名!!』
スピーカーからマスターの声が聞こえた。
(助かった)
どこか安堵している自分に気付いた。
ところが、重い足音がまだ自分にむかって近付いてくる。
(終わったんじゃないの?)
目を開けた。桃子がいたはずの場所に真っ赤なボロ雑巾が転がっていた。
そして殺意の感情だけのバケモノが近付いてくる。
大会や勝負の決着なんて関係がないという顔。
恐怖以外のなにものでもなかった。
そのとき、向こうから別の声がした。
「ちょっと〜。相手はこっちやよ〜」
高橋愛だった。
おまたせしました。
これが最後のスレになる予定です。
最後までおつきあいください。
乙です!なっちが松浦高橋藤本皆殺し期待!
皆殺しファンとしてはうれしいかぎりです。ってまあそうはならないんだろうな・・
14 :
ねぇ、名乗って:2006/05/15(月) 00:11:19 ID:Yr3qFPip0
乙です。
「なっち皆殺し」って、なっち出てませんやんw
15 :
ねぇ、名乗って:2006/05/15(月) 01:31:46 ID:DPvQHjiV0
なっち(を)皆(で)、だったらどうしよう・・・
16 :
ねえ、名乗って:2006/05/15(月) 01:55:42 ID:yPV2Vjld0
17 :
ねぇ、名乗って:2006/05/15(月) 12:13:41 ID:rm5C2LV80
まだ第50話は終わっていない。あせらず待つべし。
18 :
名無し募集中。。。:2006/05/15(月) 20:35:37 ID:RsDyoPkR0
19 :
ねぇ、名乗って:2006/05/15(月) 23:14:33 ID:nXlfBXRX0
なんかなっちを皆でってことになりそうで・・・
まあ負けるならそれで負けたほうがいいのかも
20 :
ねぇ、名乗って:2006/05/16(火) 01:16:29 ID:CrZtOcA80
まぁ、双璧とうたわれた飯田もサックリ負けたし
21 :
名無し募集中。。。:2006/05/18(木) 23:51:24 ID:ajpEu1fI0
梅まくって最後にしないってのはどうだろう?
22 :
ねぇ、名乗って:2006/05/20(土) 08:34:04 ID:VxhR2liQ0
まあ話の流れから言って安倍が一番強そうなんだがどうなんだ?
23 :
名無し募集中。。。:2006/05/20(土) 17:39:29 ID:ClCf3Ahc0
今日はなしかな
24 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/20(土) 19:48:52 ID:UBbw5yGL0
ドゴォ!!!!!!
愛の声を無視して、亀井絵里は熊井友理奈に突っ込んでいった。
目の前で、全身がコナゴナに砕かれる音。
もう勝負はついたというのに…。そこにあるのは「怒」の感情のみ。
「お前、もう許さんでの〜」
その非道さを前に、愛にも火がついた。
もう別人と化した絵里が、ようやく愛の方を見る。
高橋愛vs亀井絵里
さっきと同じ、あまりにも単純にぶつかってくる絵里。
待ち受ける愛の集中力は、今までにないくらい研ぎ澄まされていた。
物凄い轟音と共に地面に激突する絵里。
愛はギリギリで身をかわしていた。その顔には焦りも恐怖もない。
起き上がり、また突進する絵里。
しかし何度つっこんでも愛を捕らえることができない。
「当たり前だ」
テレビでこの戦いを見ているジョンソン飯田が呟く。
高橋愛のスピード・反射神経・柔軟性は人間の限界近くに達している。
また野生のジャングルで常に猛獣の恐怖から晒される経験もある。
「レベルが違う。あんな筋肉ダルマにやられんのは、経験未熟なガキだけだろ」
25 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/20(土) 19:51:54 ID:UBbw5yGL0
しかし隣の紺野はまだ怯えている。
「違います…」
「おっと、お前もあいつにやられたんだったな」
「違うんです。私が見たのはあれじゃない…」
「何?」
気が付くと、画面から亀井絵里の姿が消えていた。
「あれ?どこいった?」
愛が辺りを見渡して呟く。
何度目か、岩壁につっこませた後だった。
あれだけ肥大化していた亀井絵里の姿が忽然と見えなくなった。
「ちょっとー、嘘やろぉ…もぅ」
ドンッ!!
そのときだ。気配もなしに後ろからいきなり攻撃。
愛は前に飛ばされたが、すぐに側転して振り返った。
一瞬だけ視界に入る。さっきまでとは正反対の亀井絵里。
おそろしく細身で華奢な体つき。そして死にそうなほど悲し気な表情。
「一体なんなんやー?」
喜怒哀楽でたとえるならば「哀」。
26 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/20(土) 19:53:48 ID:UBbw5yGL0
哀しみの絵里はモノとモノの隙間がお気に入り。また姿を消す。
気配すらも消している。
(落ち着くんや、こういう場面はジャングルでもいっぱいあったやろ)
愛は自分に言い聞かす。
辺りで一番高い木を探して、スルスルと登っていった。
そうして手ごろな枝に乗ると下を見下ろした。
こうすれば、見えない相手だろうが死角をとられることがない。
野戦において、愛は絶対の自信をもっていた。
果たしてそのとおり、闘いは膠着状態となる。
(いつまで隙間に隠れてるんや…悪いけど根競べなら負けんよ)
テレビで見ていた飯田はゴロリとベッドに転がる。
観ている方としては退屈な展開といえた。
「なぁ紺野、お前はこいつにやられたのか」
「違います…」
「なんだって?」
「神の拳は、どんな相手でも倒す、究極の奥義でした」
「じゃあ誰に負けたんだ?」
「本当に恐ろしいのは…楽でも怒でも哀でもありません」
今までの亀井絵里は不完全な状態。
どっちのキャラに進めばいいのか迷っている様なもの。
もうすぐ出てくる。
(愛ちゃん…ダメ。今のうちに倒しておかないと…大変なことに)
真の亀井絵里。
27 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/20(土) 19:55:06 ID:UBbw5yGL0
『勝負あり!!』
膠着状態が続く愛のところに、スピーカーから勝敗宣言が聞こえてきた。
『敗者!!加護亜依!』
『勝者!!松浦亜弥!』
『残り8名!!』
(亜弥!加護ちゃんに勝ったんか!?)
二人の因縁を知る愛は、思わず気持ちが高ぶってしまう。
18歳以下トーナメントの準決勝で激突し、両者反則負けとなった二人。
もしどちらかが勝ちあがっていたら、自分が優勝できていたかは分からない。
それほど強烈な二人だった。
「亜弥…やっぱり強くなってる。負けてられんわ」
残り8人…亜弥と頂点で戦う約束。
それも手の届くところまできている。
(こんな所でてこずってられんわ。一気に片を付ける!)
息巻いた愛が飛び出そうとしたそのときだった。
『勝負あり!!』
また、あの声が聞こえてきたのである。
さっきの決着からまだほんの数十秒しか経っていない。
そしてその驚きの内容が、島中に響き渡る。
28 :
名無し募集中。。。:2006/05/20(土) 20:03:22 ID:ClCf3Ahc0
ののたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああん
29 :
ねぇ、名乗って:2006/05/20(土) 20:10:56 ID:n+QgXisb0
キターッ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!
30 :
ねぇ、名乗って:2006/05/21(日) 17:36:17 ID:uA0KAgMu0
つんくは懐刀のキッズが全滅したのになぜ平然とアナウンスしてるんだ
31 :
ねぇ、名乗って:2006/05/21(日) 18:33:36 ID:DQZ3yqFo0
亀井もつんく側だからだろう
いちおうはね
32 :
ねぇ、名乗って:2006/05/21(日) 18:43:24 ID:RDCAhpy50
part4スレってもう見れませんか?
33 :
ねぇ、名乗って:2006/05/22(月) 09:11:40 ID:Voxatffh0
>>30 つんくが最強と考えている石川がまだ残ってるからじゃないか?
石川さえいれば誰が出て来ようと問題ないと思っているはず
34 :
ねぇ、名乗って:2006/05/22(月) 20:52:54 ID:x8oMI0rw0
35 :
ねぇ、名乗って:2006/05/23(火) 10:13:04 ID:6sRGMBTfO
このまま打撃世界一決定戦にするならなっち皆殺し賛成!
また打撃君か
37 :
ねぇ、名乗って:2006/05/23(火) 18:10:07 ID:sq36805E0
技術うんぬんナシにして一撃の破壊力って誰が一番強いんだろうな
パンチングマシーンみたいなので測定したとして
38 :
ねぇ、名乗って:2006/05/23(火) 22:01:17 ID:7TxXCIAX0
いいらさん
39 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 18:47:23 ID:bGrBwabk0
振り返った藤本美貴が見たものは…冷徹な顔の松浦亜弥。
そしてその腕は自分の背中を貫いている。
すべてを貫く槍・グングニル。
「ミキたんには隙がなくて…」
何を言ってやがる?
「この一瞬しかなかったんだよ」
「ミキたんが同胞の辻希美に手をかける、この一瞬」
ああ、そうか。
全部このためだったのか。松浦。
タッグマッチだっていっても、美貴はお前のこと少しも信用しちゃいなかった。
だから辻や加護とやりながらも、ずっとお前のことは警戒していた。
だけど松浦、お前はずっと美貴を狙っていたのか。
加護亜依を倒すためでもない。
辻希美を倒すためでもない。
この2対2のタッグマッチはすべて…。
美貴を倒すために、お前が仕向けたものだったのか。
グブッ
口から血が出てきた。
手足に力が入らない。終わるのか?終わっちゃうのか?
40 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 18:49:00 ID:bGrBwabk0
「バイバイ」
あっさりと松浦は美貴の体から腕を抜いた。
まるでそれが日常のごくありふれた行為みたいに、あっさりと抜いた。
こうやって何人を倒してきたんだお前?
ガクン。
膝が地面についた。
お腹と背中と口からの血が止まらない。
目の前に辻がいた。
美貴なんて、こいつ一人のとどめを刺すことさえも、できなかったのに…。
「ミキティ?」
辻はまだ何が起きたかわからない顔をしている。
タッグを組んでいた者が裏切りあうなんて、お前にゃ分からねぇだろうな。
「ダメらよ、ミキティ」
ダメじゃねぇよ。
松浦がやんなきゃ、美貴はお前にとどめをさしていたんだぜ。
くそ…。
結局、美貴は甘いままかよ。
辻を殺すことにムリヤリ頭をいっぱいにして、このザマかよ。
くそぅ…。
41 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 18:50:08 ID:bGrBwabk0
冷たい壁がいきなり右頬に張り付いてきた。
違う、美貴の頭が落ちたのだ。
もう感覚すらもねぇのか。
『勝負あり!!』
いつものあのコールが、やけに遠くから聞こえた。
待てよ。ちょっと待てよ。まさかそれって…
『敗者!藤本美貴!』
冗談じゃねぇぞ。
勝手にそんなこと決めてんじゃねぇよ。
美貴はまだ何もしていねえぞ。
美貴がここへ何をしにきたか知らねえだろ、てめぇ。
『勝者!松浦亜弥!』
安倍なつみだ。
あいつを倒すためにここへきたんだよ。
どれだけつらい修行をしてきたと思う?
ぜんぶ捨てたんだぞ。仲間も。男も。夏美会館も。安倍なつみの隣も。
こんなとこで…終わって…。やめろ。
『残り7名!!』
やめろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!
42 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 18:51:12 ID:bGrBwabk0
地上へ昇る2台のエレベータ。
その内の一つに松浦は乗り込む。
「せっかく生き延びたんだ。上がってこいよ」
松浦は呆然と座り込む辻に声をかけた。しかし反応はない。
「お前には感謝してる。おかげで厄介な二人を片付けられた」
「…」
「このままここで生き埋めか、上で私に殺されるか、好きな方を選ばせてやるよ」
そう言い残して、松浦亜弥は地上へと昇っていった。
瀕死の加護亜依と藤本美貴の前で、辻はなすすべなく泣き崩れる。
(のんのせいで…あいぼんも…ミキティも…)
「…いけ」
声が聞こえた。藤本の声だ。
辻は顔をあげる。
「お前なら…やれる……行け」
全身に鳥肌が立つ。
藤本美貴の目から涙が零れ落ちていたのだ。
43 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 18:53:20 ID:bGrBwabk0
エレベータが地上へ。上の空気がやけに久しぶりに感じる。
いつのまにか夜も明けていた。
(残り7人か…)
ジョンソン飯田もいない。加護亜依もいない。藤本美貴もいない。
もう面倒な相手は大体消えた。
高橋愛は残っている。
決戦の時も近い。そういう気がした。
「!?」
そのとき、足音が聞こえた。
まっすぐこちらに向かってくる。
やがてその姿が肉眼でもとらえられる距離になった。
「あぁ、いたね。いっちばん面倒なのが」
早朝の心地よい風が吹いた。
距離をおいて、足音が止まる。
「松浦…。あんた藤本を…」
亜弥は黙って、目の前の女の姿を見つめた。
日本中の誰もが認める格闘技界の頂点に立つ女。
そいつが目の前にいる。自分を睨んでいる。最高のシチュエーション。
「次はお前だ。安倍なつみ」
44 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/24(水) 19:01:10 ID:bGrBwabk0
こはー
いるの忘れてた
キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
47 :
ねぇ、名乗って:2006/05/24(水) 23:19:30 ID:AIXZKhaQ0
これはさらに盛り上がる展開になってきたな
藤本は消えたが藤本が希望を託した辻が地上に上がってくるし
頂上決戦安倍対松浦だしな松浦の完全な本気が見れる
そして松浦が辻の前で安倍を倒すようなことにでもなると…
48 :
ねぇ、名乗って:2006/05/25(木) 01:02:28 ID:rd304ZEqO
紺野の神の拳(だったか?)で亀井に少しでも傷をつけてたら
高橋はそこから突破口…そんなゆでたまご漫画にありがちな妄想はやめとくかw
49 :
ねぇ、名乗って:2006/05/25(木) 16:12:25 ID:UsGuRWPi0
辻豆さんはゆでより構成力あるぞ
50 :
ねぇ、名乗って:2006/05/26(金) 01:19:10 ID:lAsm8ZThO
安部がグングニルをヌッチしたら最強になるな
だからこの勝負は流れる気がする
まだ早いよ
微妙
52 :
ねぇ、名乗って:2006/05/27(土) 04:33:37 ID:OZ8j8ab3O
53 :
ねぇ、名乗って:2006/05/27(土) 10:54:33 ID:3gYQIxwB0
なっち皆殺しを俺はずっと待ってるんだーーーーーーーーーーーーー
54 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:05:47 ID:RRWJQ/uC0
まったく違う生き方をしてきた。
安倍なつみはいつもみんなの中心にいた。そして最強だった。
松浦亜弥はいつも一人だった。
たまに人の輪に属することもあったが、心は一人だった。そして最強だった。
「次はお前?何のことだべ?」
「殺すってことだ」
「おーおー、ずいぶんな口を聞くようになったもんだねぇ」
「まぁな」
なっちは目を細める。
松浦は小刻みに震えていた。
えらそうな口聞いてもまだまだガキ…と思ったが、
よくみると自分の足もわずかだが震えていた。
もう怖いものなんて何も無い。安倍も松浦もそう思っていた。
二人とも自分自身の震えに驚く。
「嬉しいよ。よくぞここまで昇ってきた」
なっちは太陽の笑みを浮かべる。
(すげえな)
亜弥は単純にそう感じた。
この状況でこんな風に笑うことができるのか、と。
そして一体この女に勝てたら自分はどれだけすごくなるのだろうか?
そう思うとガラにも無く嬉しくなってきてしまう。
(…勝つ)
55 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:06:55 ID:RRWJQ/uC0
「ストップ」
いきかけた瞬間、うまいタイミングで安倍に止められた。
「松浦、ケガしてるだろう。加護か?それとも美貴か?」
「関係ねーよ」
「なっちにはある。それじゃなっちが心から楽しめない」
「呆れるくらいわがままな奴だな」
安倍はさっき松浦が昇ってきたエレベータを見た。
「たしか…昇りのエレベータはあと一人分だったっけ?」
「何を考えてんだ?」
「ちょっとだけ休んでなさい。条件を合わせてくるべさ」
安倍は松浦の使用したエレベータの前まで歩くと、それを一気に撃ち抜いた。
鉄製のエレベータの床にいともたやすく穴が空く。
亜弥は表情を変えず、穴の大きさを確認した。
「おい」
亜弥が呼び止めるのも無視し、安倍は勝手に飛び降りた。
あの地獄の地下空間に…
あと一人しか生き残れない死地に…
辻希美と瀕死の加護亜依、そして瀕死の藤本美貴がいるあの場所へ…
今、安倍なつみが降り立った。
56 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:08:40 ID:RRWJQ/uC0
いつもそうだった。
どうしようもないピンチには、この人が助けてくれる。
この人がきっと何とかしてくれる。
辻希美の脳裏にはずっとその想いがあった。
だからこのときも、辻は久方ぶりの笑みを見せた。
「なちみ!」
突然のなっち登場に大喜びで飛び起きる辻。なっちも満面の笑みを浮かべる。
「のの…。よかった生きてる」
「来てくれると信じてたのれす。ミキティとあいぼんが大変で…」
「美貴も、加護ちゃんも、みんなまだ生きてるね。よかった」
「よくないのれす!早く助けないと死んじゃうのれす!」
「そっか。それは急がないとダメだね」
「そーれす!急いで上にあがる方法を…」
「急いで殺さないと…」
「ふぇ?」
見上げると、なっちはまだ満面の笑みを浮かべていた。
次の瞬間、強烈な裏拳が飛んできて辻は顔面からぶっ飛ばされる。
何かの間違いだと思った。
信じたくはなかったが、その裏拳は安倍なつみの右腕に繋がっていた。
―――――どうしようもないピンチには、この人が助けてくれる。
―――――この人がきっと何とかしてくれる。
(なちみ?)
殴られた頬の何百倍もの痛みが辻の胸を打ち抜いた。
57 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:09:48 ID:RRWJQ/uC0
「上でね、松浦亜弥と向かい合ったんだべさ」
なっちは笑みを浮かべたまま、誰にとでもなくしゃべり始めた。
「強くなってるわアイツ。たぶんギリギリの戦いになる。紙一重のね。
人を殺した経験があるかどうか?最後にその差が紙一重を分けるべさ。
そして、なっちは人を殺したことがない…今はまだね」
ギリギリ…
歯を剥き出しにしながら瀕死の餓狼が起き上がる。
「ゴホゥ…ヒュ…ヒュー…安倍ぇ……」
「元気そうじゃん美貴」
「ミ、ミキティ」
「辻逃げろっ!!これがこいつの本性だ!!!」
叫ぶ藤本美貴。叫んだ口から大量の血と胃液がこぼれ落ちる。
「人聞きが悪いべさ。本性とか。」
「ゲホッ…ゴホゴォ…」
「なっちの心にあるのは地上最強になること。それだけだよ昔から」
夢をみている。辻はまだそう思っていた。
頬をつねってみても殴られた衝撃で感覚が無い。
(ほら、痛く無いのれす。これは夢なのれす)
(夢じゃなきゃいけなのれす)
58 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:11:13 ID:RRWJQ/uC0
「もともと夏美会館は、なっちが最強になるための手足としてつくったもの」
安倍なつみは、美貴と希美の顔を交互に見ながら訴えた。
「あなた達には、なっちが最強になる為、身を捧げる義務があるのよ」
「…ざけん…ガホッ」
「ののはわかるよね?ののはなっちの味方でしょう」
「ふぇ?み、みかたれすよ…でも…」
でも…。その後の言葉が続かなかった。
変わりに美貴が吼えた。
「行けっつってんだ辻!!こいつは美貴がぶっころす!!」
「行かさないよ。再び地上に上がれるのは一人だけなんだから」
安倍なつみが構える。何度となく見慣れた夏美会館流の構え。
そして藤本美貴、加護亜依、最後に辻希美を見つめた。
「ここで3人も殺せば松浦との条件も合うでしょう。なっちの為よ」
なっちの顔から笑みが消える。代わりに現れたのはまぎれもない殺意。
辻は今まで安倍のそんな顔を見たことがなかった。
(なちみ…)
「皆殺しだべさ」
第50話「なっち皆殺し」終わり
59 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:14:27 ID:RRWJQ/uC0
次回予告
「ごっちん」
「梨華ちゃん」
「私は…」
熾烈を極める戦列の中
ついにあの女が目を覚ます!!
「誰が止めても行く。私が行かなきゃいけないんだ!」
To be continued
60 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/05/28(日) 12:17:24 ID:RRWJQ/uC0
バトル・サバイバル生存者(残り7名)
『太陽の拳』安倍なつみ
『奇跡の拳』辻希美
『黄金時間』後藤真希
『ロード・オブ・エース』高橋愛
『死神殺し』松浦亜弥
『地上ちゃいこー』亀井絵里
『不死人形(アンデッド・ドール)』石川梨華
61 :
名無し募集中。。。:2006/05/28(日) 12:59:06 ID:Qy1PeaUS0
なっち死ね遠慮泣くしね
62 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 14:17:06 ID:kFZZlJcs0
乙です!
あの笑みで「急いで殺さないと…」って、なっちこわ〜。
ドラマとかでやらないかな。
63 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 14:32:01 ID:Z4K8ULErO
いいかげん辻の甘さがウザ〜イw
早く覚醒してカタルシスを得させて下さい><
ミキティはホントうかばれないなぁ
64 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 14:47:52 ID:nEOnJqOJ0
皆殺し推進したのが仇となったか・・・・
こういう形だと萎え・・
もう言いません
65 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 17:14:14 ID:v7+75xdv0
そう?俺はこういう形でホッとしたんだけど・・・
ここまでキャラ揃えて皆殺しなんてされたら、それこそ萎えちゃうよ
66 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 19:50:28 ID:7UAbch0m0
うん、まあこれで安倍を殺しやすくなったね、作者は
67 :
ねぇ、名乗って:2006/05/28(日) 20:51:52 ID:1XIj2u+a0
安倍さん死んでください♪
68 :
ねぇ、名乗って:2006/05/29(月) 02:22:56 ID:FtLxDc3zO
なっちさんそのまま氏んでください
69 :
ねぇ、名乗って:2006/05/29(月) 08:47:16 ID:0jrB8D4HO
狂気の満月がこのまま終わるはずはない
ただ太陽の光があっての月光だしな…
70 :
ねぇ、名乗って:2006/05/29(月) 17:40:48 ID:hfVAzdQ5O
異名の話をする度に亀井の存在が…いや何でもない
71 :
ねぇ、名乗って:2006/06/03(土) 14:45:27 ID:+lmUVCU50
いままでの作品見るかぎりもともと作者はあんまりなっち好きじゃないみたいだしな
72 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 16:51:39 ID:JIWOklu60
第51話「石川梨華vs後藤真希」
安倍なつみの皆殺し宣言に、
島の外で戦況を見守る者たち、モニター観戦する敗北者たち、
すべての者たちの注目がそそがれた。
ただ一人だけ。
そんなことには耳も貸さず、
ずっとある戦いだけを見つめ続ける女がいた。
「………」
女は車椅子に座っている。
その視線の先に映る二人の「最強」。
後藤真希と石川梨華。
73 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 16:53:26 ID:JIWOklu60
もう何十分。こうして殴り合っているんだろう。
あのときに似ている。
あのときもこうだった。黒いマスクと白いマスク。
私達は一瞬も気を抜かず、互いを潰しあった。
そしてあの結末…
後藤真希は気付いているのかな?
私には少しもダメージがないってこと。
…バババッ!!!
しかし、とんでもないスピードだよ。
気が付いたときにはもう殴られている。
痛みはないけれどあまりいい気はしない。
これがよっすぃーがライバルと認めたただ一人の人。後藤真希。
ちっとも勝てる気がしない。
もちろん負ける気もしないけれど。
バコォ。
ストレートで顔面を殴られた。
ジャブより速いストレートなんて反則だ。
この人はボクシングでも頂点に立てたのではないのだろうか?
いやボクシングにはよっすぃーがいた。
どっちが勝つかやってみないと分からない。
永遠に実現しないことだけど。
それも私のせいで。
74 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 16:55:11 ID:JIWOklu60
私は永遠に幸せになってはいけない女。
犯した罪があまりにも重すぎる。
未来ある何人もの娘の夢を奪ってきた。
後藤真希は集中的に顔面を狙ってくる。気持ちがいいほど容赦ない。
せめて、よっすぃーだけは…。
植物人間となったよっすぃーの意識を取り戻す方法は一つ。
あのときと同じ、いやそれ以上の死闘を見せ付けること!!
私も殴り返す。見事によけられる。当たるのは10発に1発程度だ。
後藤真希は戦いが美しすぎる。
こんな汚くない闘いでは、よっすぃーは目覚めない。
落とさなければいけない。汚れきった最悪の死闘になるまで。
殴ってくる後藤真希の掌に目掛けて私は指を伸ばした。
ブシュッ!
指が後藤真希の掌を貫通する。
「無痛」と並ぶ私の最大の武器「指力」。
初めて、彼女の顔が歪む。私は思わず微笑んだ。
(その顔だよ)
その歪んだ顔を、もっとよっすぃーに見せてあげるんだ。
そしてできるならば私の顔も歪ませてみせて。
貴女ならば…いや貴女にしか…できないことよ。
75 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 16:56:55 ID:JIWOklu60
私は、十本の指を解き放った。
普通の相手ならば一本で戦意を喪失させることができる。
だけど相手は後藤真希だ。全力で!
「わかった」
指をかわしながら後藤真希が呟いた。
「何が?」
攻めながら私は聞き返した。
「お前の殺し方」
「無理よ」
「そうでもない」
すると後藤真希の髪が金色に輝き始めた。
『黄金時間』
噂には聞くが、見るのは初めてだった。
いや違う。これを見て五体満足で生き残っている奴は存在しない。
二度目はない。
そういう類のものだった。
(矛盾ね)
絶対に勝つ『黄金時間』
絶対に負けない『不死人形』
きっと矛盾でもなければ、あの死闘は再現できないのだろう。
76 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 17:03:34 ID:JIWOklu60
消えた。
違う、消えたと思うくらいの速さだった。
ザッ!!
閃光が体を撃つ。
あの信じられないスピードのさらに上。
(人間じゃない!!)
そう思って私はおかしくなった。
昔から自分が幾度となく他人に言われてきた言葉だったから。
しかしこれでは完全に一方的な闘いになってしまう。
負けないけれども何もできない。
これじゃいけない。
なんとかしなきゃいけない。
とにかく、捕まえることだ。
捕まえればスピードを封じることができる。
打撃じゃムリ。グラウンドにもちこむしかない。
しかし速い。
どうすればグラウンドにもちこめるのか?
いや簡単だ。自分から倒れればいい。
痛みがないからダウンするという行為そのものを忘れていた。
大人しく立っている必要はない。ダメージがなくてもちょっと倒れてみよう。
バコォ!
テンプルを思いっきり打ち抜かれた。
普通の人なら気絶する。ちょうどいい。ここで倒れよう。ドタッ。
77 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 17:07:23 ID:JIWOklu60
黄金のスピードで、後藤真希が上に乗っかってくる。
かかった!
私はすぐさま体を反転して、彼女を下に返す。
はっきりいってグラウンドは得意だった。
地下闘技場で闇の王と呼ばれた時代も、何人もの組み技名人を相手してきた。
痛みの感じない私は間接技でも無敗であった。
スルスルッと両足を後藤真希の胴体にひっかけ…
ヒュン…
後藤真希の胴体が超速で、私の裏側にまわりこんだ。
後ろから彼女の右腕が私の首に絡み付いてくる。
私は慌てて抵抗する。
黄金のスピードで私の腕と首の隙間に自分の腕を滑り込ませる。
(嘘!?)
「悪いけど…こっちが本職なんだよね」
市井流柔術!!
忘れていた。後藤真希といえば神速の打撃というイメージがあった。
もともとは柔術の女だ。しかもただの柔術家ではなく稀代の天才柔術家。
しかも「黄金時間」で人間離れした速度のグラウンドテクニック。
勝てるはずがなかった。
(わかった。お前の殺し方)
罠に誘ったのは私ではなく彼女の方だったのだ。
78 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/03(土) 17:12:05 ID:JIWOklu60
すごい力で後ろから一気に首を締め付けられた。
もちろん痛みはない。呼吸が妨げられて苦しいということもない。
私は絶対にギブアップすることはない。
だが後藤真希にもそういう生やさしい発想は無いみたいだ。
首の骨をへし折る。
いや、首から上を胴体からもぎとる。
それくらいの力を込めている。
「うううぅぅぅ!!!!」
初めて声が漏れた。
いかに不死身といえど、私も人間だ。
首が離れては生きてはいけない。
後藤真希の腕を首から剥ぎ取ろうとするが、
彼女は右腕を左腕でがっちり押さえ込んでいる。
だからどれだけ力を込めても離れない。
後藤真希はスピードだけじゃなくパワーも最高クラスだった。
どうして神様は人にこれだけの才能を与えてしまったのか。
泣きたくなるほど不公平だ。
私に与えたのは不死身という汚らしい異常体質。
人前に出たらバケモノ扱い。闇の中でしか許されない能力。
「ううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!!」
それなのに、負けてしまうというの?
79 :
ねぇ、名乗って:2006/06/04(日) 02:50:17 ID:A0COuNln0
最近更新増えて嬉しいな♪
辻豆さん他も忙しいだろうけどクライマックスに向けて一気に駆け抜けて欲しいな
80 :
名無し募集中。。。:2006/06/04(日) 12:35:12 ID:+xUudz8+0
ののたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああん
81 :
名無し募集中。。:2006/06/05(月) 08:15:08 ID:d7uamQyEO
亀井の「そこはお楽しみでしょ」と三好岡田の最強タッグ希望
82 :
ねぇ、名乗って:2006/06/06(火) 00:27:18 ID:X4k5tlA00
そしてみんないなくなった。
83 :
名無し募集中。。。:2006/06/07(水) 18:04:58 ID:ZDkBSo2f0
wktk
84 :
BUK98:2006/06/07(水) 18:09:58 ID:hgGw5AxJ0
藤本「俺は無我の境地を使いこなせる奴を三人知っている」
石川「!」
藤本「我がモーニング娘。リーダーの吉澤ひとみ、九州の田中れいな、そして・・・俺だ!」
石川「!」
石川も無我の境地発動。
85 :
ねぇ、名乗って:2006/06/07(水) 21:35:21 ID:y5CwebsN0
藤本は負けたよ
と、マジレスしてみるw
86 :
ねぇ、名乗って:2006/06/07(水) 21:51:32 ID:74cxnpuH0
そいや、ミキティの切り札出てなくね?
87 :
ねぇ、名乗って:2006/06/08(木) 16:48:12 ID:QCl53njp0
有り余る潜在能力を秘めながら
本領発揮の舞台も無く消えていく
有る意味藤本らしい
88 :
ねぇ、名乗って:2006/06/09(金) 04:01:33 ID:y6pYDstxO
藤本はまだ諦めてねぇ!
藤本はまだ死んでねぇ!
89 :
ねぇ、名乗って:2006/06/09(金) 06:43:06 ID:Gh0Uv7PDO
ここ2日のオリコンデイリーから妄想
後藤「AKBを倒すにはこれしかない! 奥技“当たり券封入”!!」
説明しよう。この技は大幅に攻撃力を高めるが、同時にアーティスト生命を縮める両刃の剣なのだ。
AKB「馬鹿め。その技は初日だけで2日目以降は…な、なにー! 更に順位が上がってる!?」
後藤「まっつー、仇はとったよ。でも、あたしももうだめ…みた…い‥」
90 :
ねぇ、名乗って:2006/06/10(土) 11:15:13 ID:XxoWfXVn0
↑ 面白いとでも思ってんのかね?
91 :
ねぇ、名乗って:2006/06/10(土) 14:17:01 ID:XSMbzT2K0
前々から疑問だったんだけど
「痛みを感じない」って弱さの要素にしかならないんじゃないか?
92 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 14:33:20 ID:K8cH8GOf0
ヤバイ。
これはヤバイ。
もしかして生まれて初めてかもしれない。この感覚。
これが殺されるということなの?
(よっすぃー)
イヤだ!
死にたくない!!
両腕も後ろから後藤真希の足に挟みこまれて動かすことができない。
だが指だけならば動く。これしかなかった。
ブスッ
右の親指を後藤真希のわき腹の位置に突き刺す。
首から伝わる彼女の腕の感触に、微妙な変化が見れた。
しかし彼女はさらに強い力で締め付けようとする。
痛みはない。痛みはないが、気を抜いたら気絶しそうだった。
ブスッ
左の親指を反対側のわき腹に突き刺した。
両腕を挟み込む足の力も増した。
彼女の体に届くのは、右と左の親指2本のみ。
この2本が私の生命線。
指をグリグリとかきまわす。そんな抵抗しかできない。
果たして後藤真希には効いているのだろうか?
効いていると信じるしかない。
私が先か?彼女が先か?
こんなにも過酷な戦いは経験したことなかった。
93 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 14:34:38 ID:K8cH8GOf0
「このままでは二人とも死ぬぞ」
いつのまにか試合を凝視していた市井紗耶香が呟く。
気が付くとほとんどの者が、石川梨華と後藤真希の死闘を映すモニター前に集まっていた。
高橋愛と亀井絵里の戦いは、互いに身を潜め合い膠着状態が続いている。
そして安倍なつみも意外に慎重だった。
瀕死の藤本美貴が只ならぬ戦気を発しており、迂闊に手を出しづらくはあるが、
もしかすると何かを狙っているのかもしれない。
という訳で次に決着がつきそうなのが、この死闘であったのだ。
「石川にはもう脱出する術がない」
「後藤だって死んでもアレを外さんだろう」
戦況を分析する声が聞こえる。
互いにどうしようもない状況だった。
もし自分がどちらかの立場だったらどうするか?
考えても答えは出なかった。
耐えるしかない。
耐え抜いた方の勝ちだ。
気持ちの戦い。
それが一番きついことを格闘家であった市井は分かる。
(後藤…)
後藤がどれだけ吉澤ひとみとの勝負を渇望していたか、市井は痛いほど知っている。
それを奪われた怒りの気持ちは尋常ではない。
二人分の想いを込め戦う後藤。気持ちで負けるはずがない。
94 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 14:35:46 ID:K8cH8GOf0
(だが、石川梨華…)
市井は彼女についてはそれほど詳しくは知らない。
この戦いにどれほどの気持ちを持っているかも。
ただ並々ならぬということは用意に察することができる。
なにしろあの後藤真希をここまで本気にさせているのだ。
「バケモノたちめ…」
市井は自嘲気味に呟いた。
ふと横に目がいく。
「吉澤…?」
吉澤ひとみが車椅子から立ち上がっていたのだ。
その視線に熱いものがたぎっている。
「お前、まさか…?」
彼女の腕が物凄い勢いで震え出した。
そして震えは肩口から徐々に降りてゆき、二つの拳へ。
世界を獲った拳から、熱い血がポタッポタッと零れ落ちる。
【究極の死闘で眠りについた吉澤ひとみを目覚めさせる唯一のものは究極の死闘のみ】
市井は感動を堪えて、拳から血を流す彼女に尋ねた。
「名前、言えるか?」
95 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 14:38:08 ID:K8cH8GOf0
長い闇の中にいた。
両腕両足にイバラが巻きついていた。
何度も叫んだ。叫んでも何も返ってこなかった。
何秒。何分。何時間。何日。何週間。何ヶ月。何年。…。
どれだけの時が過ぎたのかわからなかった。
気の遠くなる時間を闇の中でもがき続けた。
そのうち何もわからなくなってきた。
自分が誰なのかも。どうしてこうやってもがいているのかも。
もがくのを止めてみた。
少し楽になったが、さらに何もわからなくなってきた。
そうしてまた気の遠くなる時間が過ぎていった。
どれだけ闇の中で大人しくしていただろうか?
はるか彼方に小さな光が二つ、見えた。
遠い昔に見覚えのある様な光だった。二つともだ。
「ごっちん」
「梨華ちゃん」
口が勝手に呟いた。
その瞬間、全身が燃える様に熱くなった。
手足を縛っていたイバラが焼け落ち、二つの光がこちらに迫って来る!
完全なる光の中で立っている自分の姿。
「私は…」
96 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 14:39:43 ID:K8cH8GOf0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
「名前、言えるか?」
「私は…」
拳を見る。血に染まった掌。
梨華ちゃんを殴り続けた拳。
ごっちんと約束した拳。
世界一の称号を手にしたその拳。私は…。
「吉澤ひとみです…」
吉澤ひとみは泣いていた。
市井紗耶香は問答無用で彼女を抱きしめた。
「遅えよバカ!」
「すんません」
「世界一の戦いに遅れてどうすんだ!」
吉澤ひとみの復活に、保田・石黒・福田など周りの者も驚きを見せる。
誰よりも驚いたのはつんくだ。
策謀による石川梨華との殺し合いで確実に仕留めたはずだったのに。
「市井さん。どうしてごっちんと梨華ちゃんが戦ってんすか?」
「バカ!お前のせいだ!」
「…ですよね」
97 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 15:08:16 ID:K8cH8GOf0
吉澤はモニターに映る後藤真希と石川梨華を見て、表情を歪める。
そして海に浮かぶバトルコロシアムの島を見つめる。
「感じるよ。あの島だ」
呟くと吉澤は無造作に海へ向かって歩き始めた。
それを見たつんくが吼える。
「待て!何処へ行く気や!もう参加者は締め切っとんねん!」
「そんなの知らねっすよ。寝てたんで」
つんくが側近のアヤカに「止めろ」と視線を向ける。
相手はずっと寝たきりだった病み上がりである。
しかし、アヤカは吉澤と視線を合わせてすぐに察した。
「マスター、申し訳ありません。あの目は…」
「誰が止めても行く。私が行かなきゃいけないんだ!」
そう吼えると吉澤は海へ向かって走り出した。
「あの目は…今も島に残る‘最強’たちと同じ部類です。
私では、いやここにいる誰にも…歯が立ちません」
「フン!だがもう船は残ってへん。どうせ島に行くことはできん」
ところが吉澤は船など考えもしなかったのか、体一つで迷わず海へ飛び込んだ。
病み上がりとは思えないスピードで、島へ向かって泳いでいく。
98 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/10(土) 15:10:10 ID:K8cH8GOf0
(アホが!間に合う訳あらへんやろ!)
つんくは慌てて叫ぼうとしたが、心の中で止めておいた。
もし吉澤を見たら石川がどうなるか?
わからない。わからないから少し戸惑った。
(まぁええわ)
吉澤ひとみが今さら目覚めようが、
間に合おうが、間に合わなかろうが、もはや関係ない。
石川梨華には多少期待していたが、それももういい。
このバトル・サバイバルの最終的な計画は、何一つ狂わない。
つんくは冷静に、生き残る娘達の顔を眺めた。
安倍なつみ、辻希美、藤本美貴…
松浦亜弥…
高橋愛、亀井絵里…
後藤真希、石川梨華、そして吉澤ひとみ…
(どうせ最期にはお前ら全員、俺にひれ伏すんことになるんや)
99 :
名無し募集中。。。:2006/06/10(土) 16:30:55 ID:rTSiLm2t0
よっす復活した(゚∀゚)
100 :
名無し募集中。。。:2006/06/10(土) 20:19:24 ID:mmCIS1mF0
いまさら
なんだかな・・・
このまま吉澤が藤本の方へ向かったら面白いかも
最後はつんくが皆殺しで終了がいい!
104 :
名無し募集中。。。:2006/06/11(日) 01:06:00 ID:FibIlcF+O
まだミラクルがいる
105 :
名無し募集中。。。:2006/06/11(日) 01:58:21 ID:BBnl6XB70
言わないで・・・・
辻豆さん乙です
よっすぃ実に二年ぶりの復活じゃね?
長かったな
にしてもつんく♂がまだ切り札隠し持って余裕こいてんのが気にくわねw
108 :
名無し募集中。。。:2006/06/11(日) 03:02:24 ID:FLWFdrBQO
まさか…いやそんなはずはない…つんくが結婚なんてあるわけが…
切り札がメガネの子ならやばいなー
>>107 マジで2年ぶりだ
時が経つのは早いなぁ
娘切草の頃から追っかけてるけどあれからもう4年半以上か
>>108 何でいまさらかと思ったけどさ…
いくら何でもそれはありえれいなw
冨樫なんて今の章何年やっているんだ・・・
こっちの作者と違ってプロなのに
りしゃこは結局何だったんだろ?
大方の人間がりしゃこがKに潜む化け物だと予想していたのだが
ただのフェイクだったようだ
フェイクというより誰にやられたかが気になる
え…
いまさらミラクルを絡ませる隙間はないから梨沙子は昼寝していた、という事にしとこう
ミラクルがありならもう1人有原栞菜がいるじゃん
と思ったんだが三好と岡田も可能性あるな
月島きらり
120 :
名無し募集中。。。:2006/06/15(木) 21:48:07 ID:Zh5ZBCQ7O
ここにきて新ユニットGAMがくると見た!!!って藤本はもぅ失格か…
前スレはどこでよめるの?
122 :
名無し募集中。。。:2006/06/17(土) 00:25:18 ID:3yp8uoNI0
●
124 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:36:13 ID:4MsjiSYT0
「…っ!!」
意識が途切れていた様だ。
一体どれくらい?
わからない。1秒か…もしかしたら1時間かも。
わかることは自分がまだ生きているということ。
(すごいなぁ)
自分自身に対して素直にそう感じた。
首の半分くらいに後藤真希の腕がめりこんでいる。
もはや指先を動かす力も残っていない。
それでもまだ石川梨華は生きている。
痛みもないし、苦しみもないし、ダメージもない。
だけど体は死へと向かいつつある。
そしてそれを抗う術もない。
唯一の生き延びる道は後藤真希が締めを外すことだったが、それも無いだろう。
私はよっすぃーの仇なのだから。
(けっきょく私は後藤真希に勝てなかった)
悔しさよりも尊敬の念の方が上にあった。
心から尊敬できる。
生まれて初めて死ぬことの恐怖を教えてくれた。
本当に強かった。
後悔は無い。
後藤真希という史上最高の娘と命を懸けた死闘を演じることができたのだ。
無いよ…。
125 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:41:35 ID:4MsjiSYT0
「…っ!!」
また意識が飛んだみたいだ。
やはりどれくらいの時間が過ぎたか分からない。
(生きてる…まだ)
あいかわらずそれしか分からない。
死ぬ前には思い出が走馬灯の様に浮かぶというが、ちっとも浮かんできやしない。
もともとロクな思い出なんかありはしないのだ。
人を傷つけるだけの人生だった。
他に何にもなかった。
なんにも…
「キャ!」
「うわっ!」
「ご、ごめん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。こちらこそすいませんでした」
「じゃ、急いでいるから、ごめん」
「吉澤ひとみさん…ですよね。これ」
「あ!私の!」
「君が拾って?まさか、わざわざ私を探してくれたの?」
「うん。絶対困ってるって思ったから」
「あ、ありがと」
「それじゃ」
他になんにも…
126 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:43:05 ID:4MsjiSYT0
「行くよ」
「はい」
「あいつらビビって追ってこねえみたいだ、アハハ…」
「ウフフ…本当ね」
「助けてくれてありがとう。私、石川梨華って言います」
「まぁ財布の恩人だし、この程度じゃまだ恩を返したって思えないかな」
「いいですよ、そんなつもりじゃ」
「まぁ私の問題だから気にしないで。それよりさ、あいつら何者?」
「え、ええっと…」
「言いたくないならいいよ。でも危ないぜ、警察行ったら?」
「…は、はい」
「やっべー!始まってる」
「プロレスですか?」
「見たことないの?じゃあ一緒に見ようか。チケットちょうど2枚あるし」
「うん」
この世でたった一人だけ…
「石川さん?」
「…!あっ!吉澤さん!」
「大丈夫?」
「本当に来てくれたんだ。嬉しい」
「ねえ、どうしてメロンのボスが倒れているの?」
「分からない。突然やって来て、勝手に転んで倒れちゃったみたいだけど…」
「そっか。バカな奴で助かった」
「うん!助けに来てくれてありがとう吉澤さん」
127 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:44:51 ID:4MsjiSYT0
「松浦亜弥。やっぱ強えな〜」
「もう一人の小さい子も凄かったね」
「お、梨華ちゃんもそろそろ格闘技がわかってきた」
「わかんないけど…でも、よっしーならきっと誰にも負けないよ」
「当ったり前!約束するぜ、ぜったい日本一になる!」
「うん、ファイ!」
一字一句思い出せる。
あなたとの思い出だけは…。まるで昨日のことの様に。
「まだ梨華ちゃんに言ってないことがあったな〜」
「なぁ〜に?」
「あーもう、恥ずかしくて言えねえって!」
「なんだよ〜ヨッスィー」
「言うから耳閉じてて」
「それじゃ聞こえないよ、もぅ」
「梨華ちゃんが大好……」
もう一度戻れるのなら
遠い遠いあの日々に
もう一度だけでも戻れるのなら
「おかえり」
後悔してないなんて言わないから
…死にたくないよぅ
128 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:46:27 ID:4MsjiSYT0
「やめろ!」
…声。
「もう勝負はついてる!」
…あの人の声。そんなはずない。
「終わったから!もう全部!だから…やめてくれ!」
嘘よね。助けに来てくれてるの?
「やめろ梨華ちゃん!!」
え、私?
129 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:47:51 ID:4MsjiSYT0
意識が360°行き渡る。
目の前で険しい顔を浮かべる人。
それはまぎれもなくヨッスィーだった。
ヨッスィーが私の首から、強烈に締め続ける後藤真希の腕を外す。
私は久しぶりの空気を思いっきり全身に吸い込んだ。
「やりすぎだよ、梨華ちゃん」
やられていたのはこっちだよぉ?
…という言葉を飲み込んで、私は視線を下に向けた。
「ヒッ!!!」
気が付くと、辺り一面が血の海。
その中で身動き一つせず横たわる後藤真希があった。
ヨッスィーは自分の服を脱ぐと、すぐに彼女の腹部に巻き始める。
両脇腹がメチャクチャにほじくり回されて、酷いことになっていた。
誰がやったかなんて、考えるまでもない。
「凄ぇだろ、梨華ちゃん。私の親友は」
「…ぇ」
「意識なんてとっくになくなってんのに、ずっと攻め続けたんだぜ」
私は呆然とその場にへたりこんだ。
凄いなんてものじゃない。
「とても、勝てないよぉ」
130 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:49:50 ID:4MsjiSYT0
「何言ってんだ。勝ったくせに」
ヨッスィーは私に背中を向けて、後藤さんの手当てをしながら言った。
「吉澤ひとみと後藤真希。この二人に勝った奴なんて世界中でお前一人だぜ」
「ヨッスィー。ごめんなさい!ずっと、ずっと謝ろうと思っていたの…私」
「謝る必要なんかねぇよ。悪いのは弱ぇ私の方だ」
「そんなこと…」
「強くなるからさ。私も、ごっちんも。もっともっと強く。」
「う、うん」
「そしたら、もう一回挑戦すっから」
「うん」
「それまで誰にも負けんじゃねーぞ。梨華ちゃん」
振り返るヨッスィーは微笑んでいた。
こんな私に微笑んでくれた。
私はどうやっても溢れ出る涙を堪えることができなかった。
「ぅ、ぅん…」
後悔なんてしてない。だって…
「ヨ、ヨッスィー」
「ん?」
だって私はまだ、笑うことができる。
「おかえり」
131 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/06/17(土) 01:56:48 ID:4MsjiSYT0
『勝負あり!!』
『敗者!後藤真希!!』
『勝者!石川梨華!!』
『残り6名!!』
勝利宣言のスピーカーが聞こえると、吉澤は抱きしめる手を離した。
「やっべ。そ〜いやこれ見られてんだった」
横たわる後藤の体を担ぐと、立ち上がる。
「じゃ、行くわ」
「…うん」
「優勝だぜ優勝」
「もう心配いらないよ。今の私は無敵だから」
「元々不死身だろ」
「もっと無敵になったのよ」
「へへっ、そっか」
本当に無敵になった気がする。
あの後藤真希を相手に生き延びた自信。
そして何より、自分は1人じゃないという想い。
もう怯えも迷いも無い。
地上最強への階段、無敵の石川梨華がその頂上に手をかけた。
第51話「石川梨華vs後藤真希」終わり
132 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 01:58:49 ID:4MsjiSYT0
次回予告
「ミキティーーー!!!」
一方的な皆殺しの時間。
「あ、あいぼん…」
絶望という言葉が相応しい圧倒的な力の差。
「せいぜい奇跡でも起こして、なっちの足元くらいにはきてほしいべさ」
安倍なつみを止めることは誰にもできないのか!?
「これは…あなたに教わった技なのれす!!」
To be continued
133 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 02:00:31 ID:4MsjiSYT0
バトル・サバイバル生存者(残り6名)
『太陽の拳』安倍なつみ
『奇跡の拳』辻希美
『ロード・オブ・エース』高橋愛
『死神殺し』松浦亜弥
『地上ちゃいこー』亀井絵里
『不死人形(アンデッド・ドール)』石川梨華
134 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/06/17(土) 02:05:23 ID:4MsjiSYT0
そして今年もまたこの日がやってくる。
【辻希美】6月17日【聖誕祭】
おめでとー!!!
もちろん更新します。
気が付けばののたんも19歳か…。
このままののたんがお婆ちゃんになっても好きでいそう。
辻の誕生日だから張ってたカイがあったぜ!
辻豆さん乙です!
136 :
名無し募集中。。。:2006/06/17(土) 08:49:50 ID:TNDg+OCv0
ごっちっぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃっぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんn
次は安倍がやられちゃうんだね
今、戦わないで余ってるのは石川と松浦か
次はこの2人かな?
139 :
ねぇ、名乗って:2006/06/17(土) 20:41:27 ID:idKeaICG0
のーn
れいにゃーずから来て読むの4日かかったけど
こっちもおもしれえなあ
クライマックス楽しみに読ませてもらいます
羊にヒサブリに来たら4日書き込みなくても落ちなくなったんだにゃあ
ミラクル待ち保全
たまには保全役を。
143 :
名無し募集中。。。:2006/06/29(木) 13:48:35 ID:Yc43tjly0
ほ
144 :
名無し募集中。。。:2006/07/01(土) 13:33:55 ID:jzxyfhsl0
こないねぇ
ほ
まだだ…まだ終わらんよっ!!
早く続きが見てえのれす
148 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/15(土) 22:39:29 ID:pcjUa1WT0
【娘小説とは旅であり 旅とは娘小説である】
俺が「娘小説」という旅に出てからおよそ5年の月日が経った。
この旅がこんなに長くなるとは俺自身思いも寄らなかった。
サウンドノベルから僕とトメコ、ジブンのみち、そしてれいにゃーずへ。
娘小説はどんなときも俺の心の中心にあった。
半年ほど前からこの娘小説界から引退しようを決めていた。
何か特別な出来事があったからではない。その理由もひとつではない。
今言えることは、娘小説という旅から卒業し“新たな自分”探しの旅に出たい。
そう思ったからだった。
何も伝えられないまま娘小説そしてハロプロから離れる、というのは
とても辛いことだと感じていた。しかし、俺の気持ちを分かってくれている“みんな”が
きっと次の娘小説、モーオタ。そしてハロオタの将来を支えてくれると信じている。
だから今、俺は、安心して旅立つことができる。
今後、娘小説家として書き込むことはないけれど、
辻オタをやめることは絶対にないだろう。
これまで書いてきたモーニング娘。のみんな、関わってきてくれたすべての人々、
そして最後まで信じ応援し続けてくれたみんなに、心の底から一言を。
“ありがとう”
偽者乙
150 :
名無し募集中。。。:2006/07/16(日) 01:53:34 ID:m4Sc45VG0
マジで!?
えええええええええええええええええええええええええええええ!?
トリを見ろトリを
153 :
名無し募集中。。。:2006/07/16(日) 02:12:38 ID:m4Sc45VG0
92から鳥変わってたのかスマソw
こことれいにゃーずは完結させて引退してくれよ
長編未完は勘弁
思いっきり中田パクっとるわなwww
全然まともな説明になってないし
156 :
名無し募集中。。。:2006/07/16(日) 02:40:46 ID:m4Sc45VG0
マジかよ(´・ω・`)
157 :
名無し募集中。。。:2006/07/16(日) 16:25:40 ID:m4Sc45VG0
むう…
今年は俺のお気に入りがことごとく消えてくな
風呂敷広げっぱなしで終わりか
160 :
名無し募集中。。。:2006/07/17(月) 01:26:12 ID:TdPr/9Tm0
終わりって伝えてくれるのは非常にありがたいけどね
お疲れ様でした
でもそれでも辻の最期まではきちんと書いていってくれると信じてる
161 :
名無し募集中。。。:2006/07/17(月) 07:10:16 ID:HUh3uwEf0
今までもまともに終わったほうが少ないから
そういうやつなんだよ
辻豆さんは成長しなかったんだね
決勝が誰の予定だったのかだけ教えてくださいorz
こっちは放置なのかね
164 :
名無し募集中。。。:2006/07/17(月) 17:42:03 ID:R1KX706j0
165 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/17(月) 20:58:27 ID:+v2RhUTs0
ジブンのみち
ダイジェスト書いてもいいですか?
>>165 お願いします
勝敗だけ、とかはご勘弁を…あっちのダイジェストより濃いめで
>>165 濃い目とは言わないけど、無理のない範囲でお願いします。
>>165 良かった…こっちは放置かと思った
お願いします!
170 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/17(月) 22:37:56 ID:+v2RhUTs0
第52話「安倍なつみvs辻希美」ダイジェスト
藤本の切り札「頭突き」も、亀井の「クネクネ」で回避したなっち。
とどめは皮肉をこめて「ヤグ嵐」。パーフェクトピッチの安倍なつみは圧倒的だった。
しかし未だ煮え切らない辻に、なっちは気絶する加護への攻撃を始める。
その光景にとうとうブチ切れる辻。だが力任せの攻撃は全く通用しない。
一方的な戦い。フラフラになった辻が最後にとった構えは…。
「これは…あなたに教わった技なのれす!!」
なっち直伝の正拳突き。しかしそれすらもなっちには通用しなかった。
「ちげーよバカ。よく見とけ」
瀕死の藤本美貴が再び立ち上がる。なっちの正拳突きに到達したもう一人の存在。
太陽と月の最期の激突。完全に撃ち抜かれる狂気の満月。しかしその姿はスッポンに。
そして奇跡が起きる。辻希美の拳がとうとう安倍なつみのガードを破壊した。
「生まれて初めて…心の底から本気にしたべさ。辻希美」
本気の瞳で立ち上がるなっち。それはあまりにも巨大すぎる絶望だった。
黄金に輝く髪。あのとき安倍なつみは見ていたのだ。後藤真希の『黄金時間』を!!
後藤真希の能力を得た安倍なつみ。この瞬間、全員が安倍の優勝を確信した。
超高速で繰り出されるなっちの打撃。もはや辻になすすべはなかった。
意識を失いかけた辻の脳裏にあいぼんが現れる。
(うん、あと一回だけ、やってみるのれす)
死の間際に放たれた辻の拳。その瞬間、なっちは辻の後ろに加護の姿を見た。
【3倍の奇跡】
崩れ落ちた安倍なつみの顔はこれまでで一番の太陽の笑顔だった。
勝者辻希美。残り5名。
勝ち残った辻だったが、安倍・藤本・加護を残して地上に上がることを拒む。
時間切れ。地下の天井が崩れ落ちてくる。脱出できぬまま辻達は生き埋めに…。
171 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/17(月) 23:17:25 ID:+v2RhUTs0
第53話「高橋愛vs亀井絵里」ダイジェスト
楽・怒・哀。亀井の3つ目の感情をうちやぶる高橋愛。
そしてとうとう姿を見せる真の恐怖、『喜』の亀井絵里。盛り上がる股間!?
「嬉しいな、高橋さん。ボクを起こしたのが貴女みたいな美人で」
紺野あさ美が恐怖したというその姿。愛もまた絶叫する。
逃げ出す愛。逃がさない絵里。真の恐怖。
パワーもスピードも股間も何もかもが違っていた。まさにラスボス。
そのとき愛の耳に、辻希美が安倍なつみを倒したという放送が届く。
忘れかけていた大切なことを思い出す。
相手が誰であろうと、どんなバケモノでも、どんな変態でも、二度と負けない!
あいつにリベンジするまでは!!勝ち続ける!!
冷静さを獲り戻す愛。圧倒的な身体能力で襲い掛かる絵里。
ギリギリの死闘。だがそれが愛に今までの戦いの記憶を蘇らせる。
「獣の相手は慣れたもんやよ」
高橋流柔術の奥義を駆使して、ついに絵里を締め上げる。
勝敗を分けたのは純粋なる『技』。
意識を失うまで絶対にギブアップしない絵里。構わず愛は締め落とす。
勝者高橋愛。残り4名。
「やっばいなー、惚れたかも」
あおむけで地面に転がりながら、意識を取り戻した絵里は小声でそう呟いた。
172 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/17(月) 23:19:00 ID:+v2RhUTs0
今日はここまで。
残りはまた後日。
乙でした!
少し間が空いてもいいから決勝だけは力入れて書いて欲しい
それだけが最後の希望です
盛り上がる股間でちょっと吹いた
>>173 始めはダイジェストで良いっつってたくせに、いざダイジェストが書かれると次はもっと詳しくか
どんだけお坊ちゃま君なのお前
つーかこんなにポンポン出せるならとっくに完結できたんじゃ
>>175 このダイジェストはあくまで予定だったもの
作者は見せ場など文章に肉付けさせていくうちに
ストーリーが変わったりしていく
辻豆氏はその見せ場を作るのが上手だったと思う
お疲れ様でした
私はここまでのダイジェストで十分です
ありがとうございました
亀井wwwwwwwww
>>174 俺は向こうでも書いたけど決勝だけはちゃんと書いて欲しいって
ダイジェスト書かれる前から思ってたよ
勝手に脳内変換しないでくれる?
思ってたといわれても知らんがな
だから知らんならケンカ売ってくんなよ
辻豆氏は向こうのスレ見てたろうから俺が決勝だけは
ちゃんと書いて欲しいって思ってたの知ってると思うよ
辻豆氏
最後の場なのにスレ汚しちゃってごめん
この後は書かずにROMります
今までありがとう乙でした。
184 :
ねぇ、名乗って:2006/07/18(火) 07:31:24 ID:1oQ5qeNJO
つまり最後まで書け辻豆のバカクズゴミ野郎って意味だろ
アレだ、エヴァンゲリオンの最後と同じで、
「お前ら、いつまでも娘小説なんかに入れ込んでんじゃねえよ。早く外に出て働け」
っていう辻豆のメッセージなんだよこれは
なっち皆殺し厨がウザいだけの小説だったな
187 :
ねぇ、名乗って:2006/07/18(火) 15:14:54 ID:mZ+18jcT0
石川は結局大昔のネガティブのまま終了か・・・
これ、亀井が敗退しちゃったけど、この時点で負けるんじゃ、あのプロローグで
書かれた思わせぶりな話につながらないと思うんだが
大会が泥沼のアヒャ状態になるんじゃね?
そもそも普通に優勝してめでたしめでたしってのは無いと思う
残りは高橋、松浦、石川、辻の四人か
先の展開が読めてしまうのは俺だけか?
辻豆さんよ、少しは捻ってくれよ
>>188 別に問題ないだろ
ただ優勝は高橋ってことになるんだろうけど
192 :
名無し募集中。。。:2006/07/18(火) 23:31:17 ID:rH+FlrUe0
やっぱり羊は痛いな
辻豆結婚か?
この4人で打撃世界一が決まるわけだ
おまいらは続きが読みたいのか?
それとも格闘系なら何でもいいのか?
とりあえず辻豆書かんなら俺書くぞ?
それでもいいのかー!?
よし任せた
取りあえず短めのを書いてみてよ
ちゃんとレスするよ
そういや昔、高橋vs飯田の話が良くないっつって勝手に話を付け足そうとした馬鹿がいたな
200 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/21(金) 21:29:16 ID:MuytVeqP0
第54話「敗北」ダイジェスト
辻希美は生きていた。
地下が崩れ落ちる間際、隠し扉の様な所から突然現れた少女によって。
「素敵なミラクル、見せてもらいましたー。ぜーったい生き残ってくださいね☆」
地上に戻った辻希美の前に、松浦亜弥が現れた。
同時刻、高橋愛は石川梨華と遭遇する。
決勝戦へのキップを賭けた二つの戦いが始まる。
圧倒的な戦闘力で攻め続ける松浦。耐える辻の後ろに加護を感じる。
一方、亀井との死闘で愛の体力はもうほとんど残っていなかった。
最後の力を振り絞る愛。しかし不死身の石川は最後の最後まで倒れなかった。
全てを出し切り崩れ落ちる愛。人生二度目の敗北。勝者石川梨華。
同時刻、100の攻撃に耐え抜いた辻の1の攻撃。
込められた加護の想いと共に放つ拳。倒される松浦。
しかし終わらない、地獄を生き抜いた精神力で立ち上がろうとする。
そのとき松浦の耳に聞こえたのは、ずっと約束していた親友の敗北。
その瞬間、松浦の張り詰めていた糸が切れ落ちる。
落ちる死神。勝者辻希美。
こうして二つの敗北と共に、長かったバトル・サバイバルは幕を閉じた。
決勝戦に勝ち残ったのはこの二人。
石川梨華。
辻希美。
201 :
辻っ子のお豆さん ◆h290g0zVy2 :2006/07/21(金) 21:54:42 ID:MuytVeqP0
第55話「決勝戦と…」ダイジェスト
一夜明けて。
島の中央に作られた巨大ドームにて行なわれる決勝戦。
出場した全選手、そして応援にきた仲間達、
みんなが見守るなか、最強を決める戦いは始まった。
辻希美vs石川梨華
「始まったみてぇだな」
「じゃ、こっちも始めよっか」
ドーム外、誰も見ていないただの原っぱに立つ二人。
松浦亜弥と高橋愛。
そしてなぜかその場にいる亀井絵里。
「三位決定戦ですか〜?」「何してんやお前」「ウエヘヘヘ。こっちのが気になるんで〜」
言っても聞かない亀井はほっておくことにし、構える愛と亜弥。
物語はこの二人の因縁から始まったのだ。
「やっとやの」「ああやっとだ」「宇宙一じゃないけどの」「うるせえよ」
それは物凄い戦いであった。
見ていた絵里の体に鳥肌が立つ。
(二人とも、この力出してたら、楽に決勝いけたんじゃないですか〜?)
互いの最高の力を引き出しあう相手。そんな相手にはなかなか巡りあえない。
愛は笑っていた。亜弥も笑っていた。そして気付いたこと。
最強よりも松浦亜弥に勝ちたい。最強よりも高橋愛に勝ちたい。
歴史に語り継がれることのない最高の戦いは続く。
みたかったなあ
どうしても気になることがあるんだけど
亀井対紺野の時って紺野は何を見たんだ?
亀井を知ってる感じだったよな
>203『喜』の亀井絵里 じゃないの?
206 :
名無し募集中。。。:2006/07/22(土) 10:39:47 ID:Zce56rk/0
ダイジェストも途中で投げ出すよ
むしろ始めからこのくらいのテンポでやって欲しかった
石川勝てばつんく大もうけか
今の流れからどう最初のエピローグにつなげるのかな
亀井的には三位決定戦>>>>決勝戦みたいだけど
この人に勝ってみたいな
↑
高橋に対する発言じゃないんだな
>右足関節三角靭帯損傷で全治約3週間という医師の診断
回復力も3倍の奇跡で石川を上回り早く治るといいな
>>211みて思ったけど松浦は100回攻撃する余裕あるなら
4回の関節技で四肢破壊した方が確実に勝てたんじゃね
>>212 辻に間接技は通用しない。だから高橋も勝てなかった。
214 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/23(日) 12:16:00 ID:AA4dJlHD0
第56話「優勝!そして…」ダイジェスト
壮絶な決勝戦だった。
技術もない。知恵もない。あるのはこの体のみ。それしかない。
辻希美は吼えた。撃ち合う。殴る。殴る。蹴る。殴る。ぶつかる。
究極の攻撃力に石川梨華は真っ向からぶつかる。華麗さも美しさも無い、潰しあい。
石川は不死身だ。このまま辻のスタミナが無くなった瞬間、石川の勝利は確定する。
辻もそれはわかっていた。だからといって他に術は無い。自分には攻めるしかない。
色んな人に出会った。色んな人に教わった。色んな人と戦った。それを全て吐き出す。
全てを吐き出すまで止まることは許されない。限界の奥のさらに限界を超えていく!
止まれないのは石川も同様。一度でも負けたら自分の存在価値は無くなる。
気が付くと観客も皆、立ち上がって声を張り上げていた。
実際に辻の一撃を受けた安倍は苦笑する。それを何十何百と受けて立っている怪物石川に。
そして一瞬も休むことなく攻め続ける辻に。(まいったな、とんでもねえ二人だべさ)
もうムリ。いやまだイケル。心のせめぎ合い。気持ちが折れた瞬間に負ける。
辻の心の戦いであった。死んでもいい。自分は一度死んでいる。辻はまた吼えた。
∞の攻撃だった。石川はそれに耐え切った。なのに辻はまた∞の攻撃をしかける。
あの小さな体のどこにそんな力が…?ううん、それも耐え切る。石川も吼えた。
そして∞の次の∞も石川は乗り越えた。意識の途切れる辻。勝った!石川が前に出る。
意識の底で目覚める意識。限界のさらに限界の底で、さらに湧き起こる力。
辻の拳がうなる。∞も三倍!!!ドォン!!!!全てを貫く究極最強の一撃!!!
痛かった。信じられない激痛だった。これが痛み?生まれて感じるそれに叫ぶ石川。
痛みを知った石川が狂った様に攻め続ける。辻はもう力を使い果たしていた。
泣きながら、笑いながら、攻めながら、痛みという幸せを噛み締めながら…
石川梨華の体が徐々に沈んでゆく。その体を抱きとめる辻。この瞬間、決着。
表彰式に沸く娘たち。そのとき轟音を上げてドームが揺れる。つんくの笑い声と共に…。
215 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/23(日) 12:18:09 ID:AA4dJlHD0
第57話「すべてはミラクルに」ダイジェスト
そもそも全てがつんくの仕掛けた罠だったのだ。
どこからか現れた無数の少女がドームを囲む。
「格闘家の遺伝子をもった卵たち、プロジェクト・エッグや」
エッグが一斉に選手やその仲間に襲い掛かる。
決勝戦でボロボロの辻と石川を囲んで対抗する娘たち。
安倍・飯田・中澤・石黒・福田・矢口・保田・市井・後藤
吉澤・加護・小川・新垣・紺野・田中・道重・藤本
「マスター!私達を見捨てる気か!!」嗣永らKの娘たちも抵抗する。
「なんで俺まで」アミーゴやあさ美や特別招待選手も手を貸す。
なっちやジョンソン飯田を中心に力をみせつける娘たち。
暴れ足りない吉澤や保田。やはり強い後藤や藤本。今度は辻を守る加護。
だが圧倒的数の差。一人また一人と倒れていく娘たち。
倒れた娘の力が吸収される。実はこのドームは巨大な吸収装置となっていた。
その吸い込まれた力がすべて一人の少女の中に。
ミラクル・久住小春。
「待たせたのぅ秘密兵器。お前が勝手に抜け出たときは驚いたで」
すべての娘の力を吸収した久住小春。
真の最強を自らの手で生み出す。これがつんくの真の目的。それが達成された。
最強を目指した娘たちは全員ドームの中で倒れている。
もはやつんくの野望を止める者は誰もいない。高笑いをあげるつんく。
その頃、ドームの外で異変に気付いた娘が若干3名ほど残っていた。
>>212 だから地上最強のストライカーを決める戦い
いや100歩譲ってこの世界自体が
打撃>間接>投げ
なんだからそれは仕方ないと思えよ
217 :
名無し募集中。。。:2006/07/23(日) 14:02:56 ID:FJeVRUBG0
KOFみたいな感じだなw
やっぱ小春は全知全能なのかな
ダイジェストでもワクワクするな…
藤本体に風穴開いてるのに元気だなw
最後みんなで(インフレについていけなかった面子も含む)戦うってのに燃えた。
少年漫画大好き俺。
やっぱ最後はドラゴンボールってな感じでいいな
エッグって20人くらいしかいないよな
一人二殺で十分なんじゃ?
>>223 確か40人以上いた気がする
しかも低学年の子は所属していてもオフィシャルに名前を載せないらしいから、実数は更に多い?
松浦は遠距離攻撃で辻ぐらいは普通に殺せたと思う
>>226 もし見切られても「許して、辻ちゃん」→辻油断する→グングニルで終わりだよな
松浦は3倍拳の対策も知ってたし
228 :
ねぇ、名乗って:2006/07/24(月) 16:11:02 ID:IhqakeUw0
>>227 油断することはないだろ
安倍に裏切られたばっかだしな
226には同感
プロレススーパスターウォーズのラストを思い出した
さらりと話を説明すれば日本侵攻を目論むアメプロ相手に
最後は日本のプロレスラーが団結して守り切るって話なんだがw
230 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/26(水) 22:01:19 ID:kq1ukGv/0
第58話「最後の戦い」ダイジェスト
ドームに駆けつけた高橋・松浦・亀井の前に、史上最強の久住小春が立ちはだかる。
この3人がかりでも子供扱い。信じたくはないが圧倒的な強さだった。
小春がドームの吸収装置で力を得たことに気付く亜弥。
愛は捨て身で小春に飛び掛る。「ここは任せて!行って亜弥!!」
装置を破壊する為に亜弥は走り出す。愛を潰しにかかる小春。
超破壊力を持った打撃から愛を救ったのは絵里だった。
肉が裂け、骨が砕かれ、ボロボロになりながら小春にしがみつく絵里。
生まれて初めてだった。『好きな誰かのために戦う』そんな気持ち。
彼女に出会わなければ自分は一生フラフラと生きていたかもしれない。
彼女が教えてくれた。彼女が変えてくれた。命を賭けて守りたいって気持ち。
「亀井ちゃん!!」愛が飛び掛る。しかし小春に片腕で弾き飛ばされる。
絶体絶命。そのときであった。ドームが再び大きく揺れ動く。
亜弥のグングニルが吸収装置を破壊したのだ。小春から力が抜けていく。
慌てふためくつんく。その前に死神の形相の松浦亜弥が立つ…。
ザシュ!!
力の抜けた小春。それでも元々菅谷を倒す程の実力者である。
ボロボロの愛にとどめをさそうとする。「まーだ5年ほど早いわ」
力がわずかでも相手を組み伏せる技術をもつ、それが高橋流柔術。
「ごめんなさ〜い」負けて泣き出す小春。本当はまだまだ子供だった。
ドーム内の娘たちにも力が戻ってきて起き上がりだす。
こうして戦いは終わった…
仰向けでピクリとも動けない重症の絵里に、愛が笑顔で手を差し伸べた。
「ありがと」
231 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/26(水) 22:02:59 ID:kq1ukGv/0
ありがとう。
そんな言葉は言ったことも、言われたこともない。
今までの絵里の人生で無縁の言葉だった。
絵里は天を見上げたまま答えた。
「どういう意味すかソレ?」
「意味?あんた、ありがとうも知らんのか?」
「知らん」
「感謝してるんやよ。助けてくれて、守ってくれて、嬉しかったの、分かる?」
殴られすぎたせいか、頬が熱を帯びてきたみたいだ。
いやこれは殴られたせいじゃない。
だけどこの想いはまだ伝えられない。最低でも貴女より強くなるまでは。
「なぁ」
「んー」
「メアド教えて」
「はぁ!?何で?」
「高橋流柔術を教わりたくなるかもしんないし」
「ほんとか!それならいつでもOKやよ!じゃー住所書いて手紙出すわ」
(手紙かよ)
突っ込みながらも、嬉しくて顔がニヤけてきそうだった。
「そや!小春ちゃんもおいでや!私が鍛えなおしてあげるわ!」
…ちょっと待て。
232 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/26(水) 22:04:22 ID:kq1ukGv/0
【エピローグ】
亀井絵里の元に一通の手紙が届いたのは、それから二週間後のことであった。
送り主の名前を見て、絵里は屈託の無い笑顔を覗かせた。
彼女にとって人生そのものを変えてくれた恩人である。
手紙の内容はその人物からの催促であった。
「まだ入院中だっつーの」
ベットの脇に手紙を放り投げると絵里は悪態をついた。
本当に懲りない人だと絵里は溜息をつく。
テレビの横には一本だけビデオテープが置いてある。
さゆみが持って来てくれた、伝説となったあの決勝戦のテープだ。
何となく再生してみた。もう何十回と見た光景がそこにある。
地上最強の称号を掲げキラキラと輝く者。
(この人に勝ってみたいな)
絵里は投げ捨てた手紙を拾い直した。
保田圭に相談しようか迷ったが止めることにした。あの人も望まないだろう。
(自分の道は自分で決めろ…これが私の道かな?)
その日、絵里は医師に退院を申し出た。
検査の結果、全治三ヶ月の重症がすでにほぼ完治していたことに医師達は感嘆したという。
「ありがとうございました」
絵里はお礼を言って病院を後にした。行き先はもう決まっている。
【完】
233 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/07/26(水) 22:06:04 ID:kq1ukGv/0
『あとがき』
ダイジェストも終わりです。
エピローグとはこの様に繋がる予定でした。5年越しの伏線消化。
手紙の送り主は高橋愛。絵里の人生を変えてくれた恩人。
地上最強の称号を掲げキラキラと輝く者は辻希美。
つまり僕が書くとどうしても辻が優勝してしまうということですw
行き先は愛の所です。
その他の娘たちがどうなったかについては書きません。
引退する者。戦い続ける者。それぞれです。読者のご想像にお任せします。
新たに8期が現れて、愛の元で成長した絵里や小春と戦うとか、
きっと色々な物語がその後もあることと思います。
続編・番外編、書いてみたい人がいたらご自由に。
それでは。
本当に長い間、ご愛読ありがとうございました。
辻っ子のお豆さん
とにかくお疲れ。
楽しかった。
なぜに最後は亀井に中心に焦点が。。。w
ストーリー的にはめちゃくちゃ面白かったよ
惜しまれるのは最後がダイジェストになってしまったことかなぁ
とりあえず長い間お疲れ様
ここからは結論の出ない強さ格付け論が始まります
乙でした
長い間楽しませていただきました
とにかくお疲れさま
最後まで主人公っぽくない奴が主人公でしたなぁ
そこが彼女の課題点なのか
それと久住が泣き出す様子は先日の代々木コンの模様を取り入れたのでしょうか?
相変わらずそこらへんは柔軟ですばやくていいですね
239 :
ねぇ、名乗って:2006/07/28(金) 06:36:02 ID:A2HcNbHKO
結局書いたじゃん
これなら省かずにもちょっと詳しくちゃんと書けただろうが
がっかり
いままでいろんな作者が面白い娘小説を
完結しないまま放置していった事を考えると
もう気力もないのにあらすじだけでも完結させていったことは
律儀な作者だと思う 本当に乙でした
個人的には辻さんは有り余る潜在能力を秘めながら
表だった結果は敢えて残さない
記録より記憶に残るタイプだと思ってるので
そこだけは違和感有りました
さっそく文句ばっかりwwwwww
テラワロスwwwwwwwwwwww
石川、吉澤、後藤、そして市井、小川のその後の人間関係が気になるな
このスレが終ったら娘。系スレのお気に入り登録全てなくなるな。
とにかくこれで完結なんですね
お疲れさんです
連載初期から更新追ってたけど矢口対藤本の試合が一番面白くて興奮したなぁ
245 :
名無し募集中。。。:2006/08/01(火) 01:17:09 ID:n7t/SsXE0
さて辻豆の意思を受け継いで次は俺が書くか!
246 :
ねぇ、名乗って:2006/08/05(土) 14:28:17 ID:C/0mwvrIO
やぐ嵐ってつまりさ 単なる背負い投げだよね?
柔道ならともかく空手の藤本が柔道技のしかも投げにひっかかるなんてよくわかんね
247 :
ねぇ、名乗って:2006/08/05(土) 14:39:09 ID:yBUY0exJ0
マジレスすっとやぐ参加時点で対応しようとするのが普通じゃね?
藤本の設定上空手一筋っていうより最強を求めてる感じだしさ
藤本は組み技(サンボ)も持ってるからある程度対応は出来ると思う
>>246 こういう場合は
相手に技を仕掛けられた時に
その技に敢えて向かって行くことによって
逃げるよりも危険度が半減するというプロレス理論が適用されると思ってる
250 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:33:49 ID:i8ohYX2c0
おひさしぶりです。
書き始めたけど公にはしなかった未発表小説が2つ程あります。
・僕とトメコの続編
・ロードオブザリングの影響で書き始めたファンタジーもの
どちらも3,4年前に書き溜めた未完作。
もう続きを書くことはないけれど、
消す前にせっかくだから公開しとこうと思います。
251 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:35:56 ID:i8ohYX2c0
小説「僕とえりと…」
【プロローグ】
拝啓M・E殿
実験被体1 コードネーム:E・R・I
初期段階での実験では多大なる効果を発揮するも、度重なる連続使用と許容オーバーにより不完全のまま機能停止。これ以上の使用は不可と判断致しました。
尚、被体2に尽きましては、引き続き調査を継続致します。
252 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:37:41 ID:i8ohYX2c0
第一話「さゆ」
30日早朝、A区T町の交差点で、通学途中の高校生○○さん(16)が大型トラックには
ねられた。○○さんは頭などを強く打ち、緊急病院に運ばれるも、約6時間後に死亡した。
地元警察署の調べでは、現場は直線の下り坂であり、雨で濡れた路面でトラックがスピン
して衝突したとみて、事故の状況や原因を調べている。
253 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:39:30 ID:i8ohYX2c0
気が付くと、僕は知らない場所で横になっていた。
「目が覚めたかね」
緑色の滅菌衣と帽子をかぶった男の人が、僕を見下ろしていた。
帽子の隙間から不似合いな金髪が顔を覗かせている。
(ここはどこ?)
声に出そうとしたが、喉の奥が変な感じで言葉にならなかった。
《研究所みたいね》
「立てるかい?」
僕は横になったまま首を傾けた。
声が二つ聞こえた。女の子の声と、男の人の声。
男の人の声は、目の前で僕を見下ろす金髪の人の声で間違いない。
(どこかに女の子もいるの?)
僕は首だけ動かし、部屋を見渡した。
テレビ等で見たことのある手術室みたいな部屋だった。
上下四方が青み掛かった白で統一され、あるのは僕が横になっているベッドだけ。
そして、風変わりな金髪の男の人以外には誰もいない。
《ここにいるけど》
僕は跳ね起きた。確かに聞こえた。女の子の声。
254 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:40:43 ID:i8ohYX2c0
「うん。どうやら自分の力で起きられるみたいだね」
「あのぅ…女の子は?」
「?」
「えっと、その…」
「質問なら後でいくらでも受けよう。とりあえず服を着たまえ。君の足元に用意してある」
金髪の男は、それだけ言うと回れ右して部屋を出て行った。
そこでようやく、シーツの下は何も身に付けていないことに気付いた。
(あの人には、聞こえてないのか)
用意されていたのは、手術を受けた患者が身につける様な無地の寝着だった。
何も分からなかった。どうして自分がここにいるのかも。
言われた通りに動き、与えられた衣類を着用するしか術がない状況だ。
(よーく考えろ。思い出せ、思い出せ。昨日何してたっけ?)
(いつもどおり学校に行って、それから…え〜と、学校に…行ったっけ?)
《覚えてないんだね》
「う〜ん、何か覚えてないっていうかぁ?…………あっ!また!」
また女の子の声が聞こえた。この部屋にはもう間違いなく僕以外の誰もいないのに。
しかも彼女は、声に出していない僕の考えたことに、返事をしている。
「誰だ!何処にいる!」
《シーッ!静かにして!私にもよくわからないの!》
255 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:50:42 ID:i8ohYX2c0
試しに僕は声を出さずに、問いかけてみた。
(わからない?わからないのは僕の方だ。ちっともわからない)
《とりあえず、さっきの人に聞いてみましょう。質問は受けるって言っていたし》
やっぱり、彼女には僕の心の声を聞こえている。
そして、彼女の声は僕以外には聞こえないみたいだ。
まだわからないことだらけだが、ここは彼女の言うとおりにするしかないだろう。
僕は与えられた衣類を身に付けると、さっきの人が出て行った扉を開けた。
隣の部屋はまるでテレビに出てくる様な、見事に設備の整った研究室になっていた。
生まれてこの方、まるで縁の無い場所に身を置き、僕は妙な気分に侵された。
「サイズはちょうどかい」
さっきの金髪男が声を掛けてきた。僕は首を縦に振って答えた。
この部屋にはもう一人知らない人が待っていた。白衣の女性だ。20代半ばであろうか。
「あら、かわいい子」
白衣の女性は僕を見て、そう微笑んだ。
僕は少しドキッとした。
そうしていると金髪の男が僕に椅子を与え、自分は立ったまま話し始めた。
「申し遅れたね。私の名前は寺田。ここの責任者ということになっている。
それから彼女は平家。しばらくの間、君の世話をしてもらう」
寺田と名乗った金髪の男は、唐突にそう告げた。
突然紹介された平家という女性は「よろしくね」と、また微笑んだ。
256 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:52:24 ID:i8ohYX2c0
「あのぉ、話が見えてこなくて…」
「今から説明する。まずこれを見てくれ」
すると寺田は新聞の切り抜きを僕に渡した。
(30日早朝、A区T町の交差点で…うちの近所じゃん)
《へぇ〜そうなんだ》
「トラックにはねられて…死亡した」
「君のことだよ」
「へぇ〜そうなん……えっ?」
寺田があんまり淡々と言うので、僕は一瞬納得しかけた。
僕がトラックにはねられて死んだって?何を馬鹿なことを。
《あなたって幽霊?》
「僕は生きてる!」
頭の中に響く女の子の声と、目の前の寺田の両方に向けて僕は叫んだ。
「違うな。我々が生き返らせたのだよ」
「う、嘘だぁ。そんなことできる訳ないじゃん…」
「世間に公表されている技術だけでは確かに不可能だ。でもここは違う」
「…」
僕は言葉に詰まった。同時に自分の体を確かめた。
(僕は僕だ!死んでなんかない!何も変わってない!何も…)
そこでハッと気付く。さっきから頭の中に響く少女の声。どうしてそんなものが聞こえる?
257 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:53:27 ID:i8ohYX2c0
「道重さゆみ。この名前に聞き覚えはあるかい?」
「…いいえ」
「蘇生させる際、体の方は問題無かった、だが脳と臓器の一部が破損していた」
手足から体全体が一気に震え上がった。まさか…。
「同じ頃、別の地方で君と同世代の女の子が一人、やはり事故で亡くなった。
こちらの方は遺体の破損も酷く、外見で被害者を判断できなかったそうだよ」
《…っ!》
頭の中で、息を飲み込む声が聞こえた。
まさか、まさか、まさかその女の子っていうのは…。
「君を蘇生させる際、脳の一部にその少女の脳を加えた」
「嘘だ!!」
《嫌っ!!》
僕等は同時に叫んだ。
そのとき、部屋の電球がパリンと割れた。
寺田は平家に指で合図して、割れた電球の片付けと取り替えを命じた。
僕は両腕で体を締め付ける様にして、その場にうずくまった。
(君は、君は道重さゆみなのか?)
《ヤダ!ヤダ!ヤダ!そんなの信じない!!》
258 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:54:37 ID:i8ohYX2c0
僕だって信じたくない。だけど現にこうしてもう一人の声が頭に響く。
道重さゆみという全く知らない別人格の声が頭に響いているのだから。
「寺田博士。やはりいきなり話すにはショックが強すぎます」
「そうだな平家。少し休ませることにしよう」
「ま、待って下さい!続きを聞かせて下さい!」
「いや、少し休憩だ。何か飲み物を持って来よう」
そう言うと寺田は部屋を出ていった。
平家という女性は、さっき壊れた電球の片付けをしている。
僕は彼女に聞こえない様に、もう一度頭の中で女の子に問い掛けた。
(君は道重さゆみなのか?)
《……》
(答えて!君は…?)
《そうよ!お願い!私の声が聞こえること、あの人達には言わないで!》
どうして…と問いかけたが、考えればすぐに理由は分かった。
一つの脳に、二つの意志。
人が人としてあってはならない存在の様に思えたんだ。
意志と肉体がある僕より、意志だけの存在となった道重さゆみがどれだけ辛いか。
(わかってる。僕も言いたくない)
道重さゆみからの返事はなかった。
ただ、深淵よりも深い悲しみだけが、なんとなく伝わってきた。
259 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 17:56:07 ID:i8ohYX2c0
僕は死んだ。
道重さゆみも死んだ。
受け入れ難いどうしようもない現実。僕はまた震えてきた。
(どうしてこんなことしてまで僕を生き返らせたんだ?)
(この人達、一体何者かな?)
(家に帰りたい…いつ家に帰れるんだろう?)
頭が冷えてくると、次々と疑問が浮かび上がってきた。
さっき質問は受けると言った。聞きたいことは山ほどある。
「落ち着いた?」
電球の取り替えを終えた平家という女性が、軽い口調で声をかけてきた。
落ち着く訳がない。自分が死んで生き返ったなんて話だぞ。
だけど、あっけらと微笑を浮かべる彼女を見ていると、少し気が楽になった気がする。
「少し…」
「そう、それは良かった。あぁ、博士が戻ってきたわね」
彼女の言う通り、寺田が缶のジュースを持って戻って来た。
「アップルとオレンジ、どっちがいい?」
「……オレンジ」
喉が渇いていた僕は、寺田から缶ジュースを受け取るとすぐに飲み干した。
(おいしい。今までと何も変わらない。普通に飲んでいる)
僕が空き缶を返すと、寺田は説明の続きを切り出した。
260 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:09:33 ID:i8ohYX2c0
「違和感はないね。君は生きている。私や他の人となんら変わり無い人間だよ。
ただ一つを除いて」
「ただ一つ?」
「それもここで過ごす内、直にわかってくる」
「ここで過ごす…って、家にはいつ帰れるんですか」
「君にはすまないが、しばらくは我々の調査に付き合って頂きたい。なにしろ完全な蘇生
というのも例が少なく、本当に大丈夫だとわかるまで外へ出す訳にもいかないので」
「ま、退院までのリハビリだと思えばいいのよ」
平家さんが笑いながら口を挟んだ。
僕は半分納得、半分附に落ちないといった感じで唇を噛んだ。
「ここまでで、何か質問はあるかい?」
寺田が尋ねてきた。聞きたいことは山ほどあったはずなのに。
いざ聞かれると頭が回らなくなった。
(道重さゆみは何か質問ある?)
頭の中の女の子に尋ねたが返事はなかった。
さっきから全然しゃべらない。当たり前だがショックが大きいのだろう。
「…ありません」
「そうか。では、ちょっと場所を変えようか」
寺田は立ち上がり、僕を連れて部屋を出た。平家も後に続いた。
扉の外は長い廊下になっていた。どうやらかなり大きな建物みたいだ。
左右に伸びる廊下を寺田は右に進んだ。僕は黙って後に続く。
261 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:11:57 ID:i8ohYX2c0
「うーうぅーうぁー」
ひとつ隣の扉の前に差し掛かった所で、僕は妙な物音を聞いた。
「今の音…声?何ですか?」
「気にしなくていいのよ。ほら、行きましょう」
苦笑いを浮かべ平家は僕を促したが、僕はそれに答えず寺田の背中を見つめた。
寺田は振り返った。ずっと平静を保っていた彼の顔が少し曇っているのに少し驚いた。
「寺田博士…」
「まぁ仕方無いだろう。いずれ見せるつもりだったものだ」
彼が頷くと、僕は扉をそっと開けて中を覗いてみた。
さっきの部屋とよく似てはいたが、この部屋は壁の一面が透明のガラス張りになっていた。
そのガラスの向こうにナニカがいた。
「うぅー…あっあぁー…うー」
ガラスの向こう側は完全密閉されていて濃いガスに包まれている。
中央に寝台らしき物があり、包帯で乱雑に巻かれた(縛られた?)ナニカが、
寝台に横たわっていた。声は其処から漏れている。
ふと下を見るとガラスと床の付根にネームプレートが張られていた。
其処に記された三つのアルファベット。
【ERI】
262 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:13:04 ID:i8ohYX2c0
「あれは、えりと…そう呼ばれていたモノだ」
僕がガラスの内部を凝視していると、後ろから寺田がそう呟いた。
「…ていた?」
「今はもう何でもない。ただの失敗作だよ」
「失敗作…」
「君はダイジョウブだ。私が保証する。すでに兆候も見えた」
そう言って寺田は僕の肩に手を置いた。
(失敗作って…?君は大丈夫だって…?兆候?どういう意味だよ?)
《私たちも使えなければ、こんな風になるってことよ》
突き放す様な道重さゆみの声が内側から響いた。
(なんだよそれ…。使えないとか失敗とか。まるでモルモットじゃん)
《当たり前じゃない!今頃気付いたの?顔に違わず鈍いのね!》
(なっ…!)
《ちょっと考えれば分かるでしょ!善意で見知らぬ死人を生き返らせると思う?》
道重さゆみの言葉は衝撃であった。
ちょっと考えればわかる。全くその通りだ。
一度死んだ人間が生き返ってどうなろうと誰も気にしない。公的に存在しないのだから。
寺田と平家が優しい態度で接してくれていた為、僕は疑いもしなかった。
263 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:14:50 ID:i8ohYX2c0
(何の為に僕を生き返らせた?何の為に僕と道重さゆみの脳を組み合わせた?)
考えるだけで頭がズキズキと痛くなり、僕はその場にしゃがみこんだ。
「おいっ!どうした?」
「ほら、やっぱり。いきなりはショックが強すぎたのよ」
「仕方無いな。今日予定していた検査は明日にまわそう」
「はい。寝室に案内していいですね?」
頭上から聞こえる寺田と平家の会話が、否応無く耳に入り込んでくる。
僕はもう一度、ガラス張りの向こうで横たわるソレを見た。
「うあっ…うぁううぅー…あぁぁぁ…」
(E・R・I。イー、アール、アイ。えり…)
「え」「り」
その二文字を頭に描いたとき突然、不思議な感覚が脳を覆いつくしてきた。
遠い、何処か遠い場所から呼び掛けてくる様な記憶の欠片。
(どうして?どうしてだろ?僕はえりという名前を知っている)
《何言ってんの。えりなんてありふれた名前じゃない》
(違う!えりは…わからない…えり…一体、いつ、どこで…)
強烈な痛みが脳を支配し、僕はまた頭を抱えた。
平家の呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、僕の意識はそのまま闇へと落ちていってしまった。
264 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:16:38 ID:i8ohYX2c0
くらい…。
まっくらだ。
僕は…どうしちゃったんだろう…?
あぁそうだ。
学校に行く所だったな。
そういえば今朝、母さんが結婚記念日だって騒いでいたっけ?
こりゃ今夜の夕食は期待できそうだ。
しょうがない、今日くらいまっすぐ帰ってやるか。
…。
学校ってこんなに遠かったっけ?
いつになったら着くんだろう。
くらい。
いつまで経っても何も見えやしない。
おかしい!何かおかしいぞ!どうなってんだ!
誰か!誰か助けて!!こっから出してくれよ!!
オーイ!聞こえないの?
ここは何処!?僕は誰!?
えっ…
【ボ・ク・ハ・ダ・レ?】
265 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:33:23 ID:i8ohYX2c0
空気洗浄器のブゥゥゥンという音だけが聞こえる静かな部屋にいた。
上半身を起こして辺りを伺う。
薄明かりの蛍光灯に照らされた部屋は、学校の保健室を思わせた。
絶対的に違う点は、校庭が一望できる窓が無いこと。
窓の無い寝室。
(道重さゆみ…いる?)
またベットに横になると、僕は心の中の少女に問いかけた。
一寸の間をおいて、彼女の声は僕の内側から聞こえてきた。
《なによ?あんたが急に意識を失うからこっちまで…》
(僕は誰だろう…?)
《ハァ〜?そんなのさゆが知る訳ないじゃない!あんた記憶喪失にでもなっ…》
ハッと言う声と共に道重さゆみの返事は途切れる。
僕は二つの掌で、自分の顔を確かめる様に何度も撫で回した。
(母さんの顔は覚えている。父さんの顔も覚えている。友達の顔も!先生の顔も!)
(みんな、みんな覚えている!なのに自分の顔だけがどうしても浮かび上がってこない!)
(自分の名前がわからない!僕は誰なんだ…!)
《泣いているの?》
(泣いてなんかない!)
嘘だ。強がりだ。眼を覆う僕の掌が冷たい液体に濡れた。
「蘇生させる際、体の方は問題無かった、だが脳と臓器の一部が破損していた」
失われた僕の脳の一部…自分に関する記憶。たまらず僕は激昂した。
266 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:34:44 ID:i8ohYX2c0
(こんなことってあるかよ!)
(他の事は全部覚えているのに、自分のことだけが思い出せないなんて…)
涙が止まらない。あまりにも悔しかった。
(僕は自分が誰かも分からずに生き返ったのか)
行き場の無い怒り。人類史上未だかつて誰一人体験したことが無いであろう苦悶。
(普通に死んだ方がマシだった…)
《ちょっと!いいかげんにしなよ!》
(…?)
《なによ自分一人だけ悲劇ぶって!あんたなんか全然マシじゃない!》
道重さゆみの声が内側から強く共振する。
(なんだよ!お前に僕の苦しみの何が分かる!)
《わからないわ!わからないけど、あんただって私の苦しみわからないでしょ!》
(…っ!)
《私なんか!どんなに辛くても!もう泣くこともできないんだからね!!》
文字通り、胸に響いた。
ああ僕は人類史上ただ一人なんかじゃ無い。
すぐそば、ほんとうにすぐそばに同じ…それ以上の苦しみを抱く相手がいたこと。
そんな単純すぎるくらい単純な、忘れちゃいけないことを忘れていた。
267 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:37:53 ID:i8ohYX2c0
(ごめん!道重さゆみ…君の気持ち考えないで、自分のことばっかり)
後悔した。彼女の前で、死んだ方がマシだなんて思ってしまって…。
自分がわからないのが何だ!僕にはこの手も、足も、目も、口だってある!
それだけで十分すぎるくらい…生きてゆけるじゃないか。
そのとき――トントンとノックの音がした。
「はい」
「平家よ。入ってもいいかしら?」
「…どうぞ」
扉を開けて入ってきたのは、返事の通りさっきのお姉さんだった。
僕は泣いていたことを思い出し咄嗟に顔を背ける。
「心配したわよ。急に倒れるんだから」
「もう大丈夫です」
《さっきまであんなに泣いていたくせに》
(うるさい)
「今夜はもう、大事をとって休息時間にあててもらったから、ゆっくりしてていいわよ」
「はい…」
「お腹がすいたのなら食事にするけど?食堂は通路を出て角を右に…」
「…食欲無いです」
「あらそう?ダメよ、ご飯はちゃんと食べないと。ま、無理にとは言わないけど」
268 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:40:30 ID:i8ohYX2c0
まるでお母さんだ。
平家という女性の真意が読めない。僕をだましているとは思えない。
本当に僕を心配して、世話を焼いてくれている様に見える。
「明日は朝一でこの施設を案内するわね。そうそう、ここはあなた用の寝室だから」
「僕の…」
「何かあったら壁の黄色いボタン押して。それじゃごゆっくり、おやすみ」
疑いたくない優しい微笑みは、小さく手を振って出て行った。
すぐに僕は部屋を見渡す。
壁には透明の四角いカプセルに包まれた黄色いボタンが備え付けられている。
(ねぇ、さゆ。提案があるんだけど…)
《ちょっと待った!さゆって何よ》
(いちいち道重さゆみって呼ぶの面倒くさいだろ。だからさゆ)
《あなたって本当に失礼な人ね。まぁいいわ、提案をどうぞ》
(僕は何とかしてこの施設を抜け出したいと思う。ここで行われていることを確かめてね)
(そして外の世界にここのことを発表してやるんだ。でも一人じゃ難しいと思う。だから)
(協力してくれるかな)
《いいわよ》
「ほんと!」
269 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/12(土) 18:41:58 ID:i8ohYX2c0
さゆが驚くほどあっさり承諾してくれたので、僕は思わず声に出して叫んでいた。
自然と笑みがこぼれてくる。
《しょうがないでしょ。私とあんたは一心同体になっちゃったんだし》
(エヘヘ…それじゃあ、改めまして、よろしく頼むよ、さゆ)
《さっき泣いてたくせに、都合のいい人ね。ま、よろしく》
僕は右の手を握手の形で前においた。
そして左手をビラビラとさゆに示す(さゆの目線がどうなっているのか分からないが)
二人が握手する様な形で、右手と左手を組み合わせた。
知らない人が見たら一人で何やってるんだって目で見られるかもしれないけれど。
僕とさゆの握手だ。
翌日から検査が始まった。
寺田と共に担当研究者の所を回り、健康状態のチェックや運動能力テストなどをこなす。
健康状態、運動能力、学力、すべて平均的で問題なしと呼ばれた。
いろいろな質問もされたが、さゆのことだけは口に出さぬよう気をつけた。
昼食は食堂にて、平家と共に食べた。
「どう?検査は」
「検査は別に。ただ、担当の人たちが…みんな僕を珍獣みたいな目で見るのが嫌でした」
「初日だから。そのうち慣れてくるわ、彼らも、君も」
別に慣れたい訳じゃない、と心の中で思った。
もちろん表情には出さない。しばらくはいい子ちゃんを演じよう。
脱出の機会が来るその時まで。
270 :
ねぇ、名乗って:2006/08/12(土) 21:03:15 ID:08O/SEDG0
おおなんか来てる
271 :
名無し募集中。。。:2006/08/13(日) 03:58:32 ID:8MyPokLL0
トメ子続編か・・・
272 :
名無し募集中。。。:2006/08/13(日) 10:12:16 ID:KXEOy03j0
さっさと成仏しろ
未完作品か。
続きが見られないなら、続きが気になるこの状況になるなら・・・
発表せず封印していたほうが良かったかも。
未完だって宣言して書き出してるんだから読者の方で選択しろよ
はじめからゼロなら期待も何もないけど
未完とか言って小出しされると続きが気になるもの
辻豆は釣り師にでもなるつもりか?
276 :
ねぇ、名乗って:2006/08/14(月) 00:18:48 ID:/OGmHCu3O
え?これがぼくトメとどう繋がってんの?
今更期待させられるような書き方されてもな…
このまま封印するか
ストック分一気に放出するか
いつか復活するか
のどれかにしてくれよ
そもそも何故辞めたんだ?
あと、これが今後どんな展開になるのかダイジェストもな。
279 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 11:35:33 ID:bfPvoqRN0
冒険ファンタジー小説「れじぇんど」
――――語り継がれる伝説がある。
「いつか私達が物語の主人公になるかもね」
――――傷つき、それでも必死に生き抜いた娘たちがいる。
「ひとりじゃないよ。少なくとも私は、お前と一緒に行く」
――――生存確率0%の冒険へ、望んで挑んだ者たち。
「本当にバカだ。本当にバカでどうしようもない…最高の仲間達だ!」
――――世界の命運は彼女達の手に預けられた
「死なせない!私が言うのだから間違いない!お前は絶対に死なせない!」
『Legend of M』のページが今開かれる。
280 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 11:42:18 ID:bfPvoqRN0
【登場人物】
カオリ=イーダ 召喚剣士(カオリンナイト)
ナツミ=アヴェ プリンセスロード
ケイ=ホッター 賢者石の主
マリー=ヤグティ 大魔導師
リカ=イシカルワ 星振りの盗賊・自称大陸一の弓使い
ヒトミ=ヨスィザー 百人斬りの傭兵
ノゾミ=ツージィ 神官戦士
アイ=カボ 魔法使い
アイ=タカハシ 古代魔術師
マコト=オグァ 賢者
アサミ=コンノベルト 空手家・学者
リサ=ニイニイ ジュマペール国皇女
マキ=ゴトー 暗黒騎士
ユウコ=ザナカム 帝王
サヤカ=イチー 隻腕の魔法剣士
アヤ=クロエ 帝国最強の戦士
アスカ=フック 海賊
アヤヤ=マトゥーラ 魔女
ミキ=フズィモ バーサーカー
タカコ=イナヴァ 蛮族王
マユミ=ナトゥ 魔法学院教師
トゥンク 魔法学院長
リンネ・アサミ・マイ アヴェ王国騎士団
アユミ・マサオ・ヒトミ・メグミ ロメン公国騎士
ミチヨ=ヘーケン 聖王国女王
281 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 11:46:21 ID:bfPvoqRN0
【世界】
魔法教会ロプロハ「不可侵の楽園」
アヴェ王国「砂漠の王国」
帝国ザナカム「山岳の黄金」
ジュマペール王国「雪の国」
ロメン公国「草原の国」
ヘーケン王国「聖王国」
ダルニーア国「荒れつ国」
最果ての地「未知の秘境」
282 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 11:48:01 ID:bfPvoqRN0
【プロローグ】
人類未踏とされる秘境のさらに奥に『最果ての地』と呼ばれる場所がある。そこでは
何千何万年の長きにおいて根付きし大木達が、濃緑の葉を所狭しと茂らせていた。その
木々の中でも一際目を引く大木がある。その幹の太きこと、人の腕百でも囲みきれぬ程。
その幹の高きこと、天にも届くのでは思わせる程。かつてその大木は尊厳を込めてこう
呼ばれていた。『聖樹ユグドラシル』と。
聖樹はその懐に小さくて白い繭を抱え込んでいた。何時の時代からそうしていたかは、
今となっては伺い知ることはできない。定めしその刻まで悠久の間、聖樹は繭を守り続
けてきたのだ。そしてその『刻』は来た。
繭に異変が生じる。光が溢れ出る。繭が音を立てて割れ始めた。聖樹は物言わずその
光景を見守り続けていた。永き役目の終りに感慨深くしているのかもしれない。やがて
繭の中から一つのモノが姿を見せた。それは一糸まとわぬ娘の形をしていた。
283 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 11:49:21 ID:bfPvoqRN0
【第一話 砂漠の勇者】
日の照り付ける砂漠の上を二頭の馬が駆ける。アヴェ王国の第一王女ナツミと近衛騎士
のアサミであった。その表情には焦りの色が見てとれる。
「古の墓に向かう。確かに父上はそう言ったのね?」
「お願いです。ナツミ姫、城に戻りましょう」
「嫌よ!あの墓守の脅え方は尋常じゃなかったわ!じっとしてなんかいられない!」
大陸で最も長き歴史を誇るアヴェ王国には、ピラミッドと呼ばれる過去の王族達の墓が
いくつも存在する。その中でも一際異彩を放つ巨大な建造物が『古の墓ベーサ』である。
王国にはベーサを見守り続けるという慣習があった。膨大な黄金が眠るとも、魔界の王が
眠るとも伝えられてきた。今では真相を知る者はいないが、ベーサを守り続けるという習
慣だけは、長き歴史において廃れずに受け継がれてきたのだ。そんなベーサの墓守の一人
が血相を変えてアヴェ王城の門を叩いたのは、今朝の出来事であった。
284 :
。・゚*姫*゚・。:2006/08/18(金) 12:16:31 ID:AqkZGRwAO
タカコて誰???
285 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 14:43:17 ID:rZ28mbr80
「バケモノ!でっけえバケモノ!あんな恐ろしいもん見たことねえ!」
アヴェ王国の王であるナツミの父は、墓守の話を聞くやすぐに騎士団出向を命じた。娘
のナツミが何事か訪ねても口を固く結んで答えようとしない。そして準備ができるとすぐ
馬にまたがり、少数の騎士を連れて城を出ていってしまった。
「おとぎ話だとばかり思っていた」
前方を行くナツミの言葉に相づちを打つアサミ。古の墓に魔王とそのシモベが封じられ
ているという伝承である。二人だけではない、王国の誰もが寓話だと信じ込んでいる。
「私は今もそう思っています。あの墓守の狂言であると信じたい」
「だとしたら、彼は相当の名役者ね。ムダキの舞台に立てるわ」
アサミは軽く笑みを浮かべた。ムダキとは大陸一の劇場を有する街の名である。やがて
二人の視界に目的の場所が見えてきた。広大な砂漠に浮かぶ巨大な三角形、古の墓ベーサ
である。入り口の前に墓守の一人が傷を負って座り込んでいた。馬を下りたナツミは、す
ぐにその男の元へ駆け寄る。護衛役のアサミも後に続く。
「何があったのです?」
「姫様!ここは危険です。お逃げ下さい。」
「危険?どういうこと?」
「封印が解かれたのです。邪悪な魔物達が墓の奥から次々と…。」
耳をすますと墓の入り口から剣劇や叫び声が聞こえる。騎士団が魔物達と闘っているの
だ。父の身を案じたナツミの顔に不安の影が横切る。それを察知したアサミが優しくナツ
ミの肩に手を置く。
286 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 14:44:37 ID:rZ28mbr80
「御安心を。勇猛なる我が騎士団は魔物ごときに遅れはとりませぬ!」
「そ、そうね。あの父上に勝てる者などいやしない。行こう!」
「分かりました。もう止めません。しかし私のそばを決して離れないで下さい」
愛用の剣を抜いたアサミが前に出て入り口へ進む。そのすぐ後ろを腰のレイピアに手を
当てたナツミが進む。古の墓ベーサの内部は戦闘の跡がそこかしこに見られた。見たこと
も無い異形の生物の死体がアチコチに転がっている。また傷付いたアヴェ国騎士の姿もあ
った。ナツミは通りすがり騎士達に声を掛けていく。傷付いた騎士達にとっては、国が誇
る美しき第一王女に声を掛けられただけで、それは癒しの魔法に等しき効果を持つ。
「ナツミ姫。国王は団長を伴い最深部へと向かわれました」
騎士団長リンネの名を聞き、ナツミとアサミは少し胸をなで下ろした。国一番と二番の
使い手が一緒ならば、相手がどれほどの怪物でも遅れを取るとは思えないからだ。アサミ
はナツミと顔を見合わせ頷く。アサミはもう口に出さなくても王女の考えは理解できた。
そしてそれを止めることができないのも。二人は最深部へと足を急がせた。どうやら魔物
達は騎士団によりあらかた退治されている様で、ナツミ達は何にも邪魔されることなく進
むことができた。もっとも騎士団の方も無傷では済んでいない様であったが。傷ついた騎士を見るたびにナツミは胸を痛め、怒りをその内に秘めていった。
(いったい誰がこんなことを…?)
最深部【封印の間】の扉を開けると、そこには驚愕の光景が広がっていた。牛の顔を持
ち全身を黒い毛で覆った身の丈が人の倍はあるバケモノ2匹が、国王と騎士団長の前で吠
えているのだ。さらにその後ろでは闇よりも暗い空間が渦巻いていた。それが現世と魔界
を繋ぐモノであるとナツミは人目で察知した。
287 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 14:46:12 ID:rZ28mbr80
「父上ぇー!」
「ナツミ!」
突然の娘の来訪にアヴェ王は驚きを露わにする。しかし今は咎めている暇はない。王女
付き近衛騎士の姿も見とめた王は、すぐさまリンネとアサミに指示を促す。
「一匹はワシが引きうける!お前達はナツミを守りながらもう一匹を倒せ!」
「了解!」
「はいっ!」
指示を受けたリンネとアサミは、黒き魔物を囲む様に陣を取る。アヴェ国王は一人でこ
のバケモノと対峙する気でいた。
(私だって闘える!)
当然この指示にナツミが納得するはずがない。守られる気なんてさらさらなかった。と
はいえ自分の実力がやや劣ることは理解している。ナツミは自分にできる範囲で最大限の
支援をすることを心に決めた。
(まずはリンネとアサミを後方から補助して、片方を倒す)
(その後に全員でお父様を支援し、残りの一匹を片付ける)
(書庫で見たことがある。この牛頭は多分ミノタウロスだ。それなら…)
作戦は決まった。ナツミはレイピアを鞘に収め詠唱を始める。リンネとアサミは苦戦し
ていた。破壊力が段違いなのだ。ミノタウロスの一振りはそれだけで致命傷になる。完全
なる隙を突いて攻めるしかない。騎士団長リンネが得意の長槍で正面からミノタウロスを
牽制する。その間にアサミが背後に周り込もうとするのだが、巨体に似合わず敵の動きは
するどい。なかなか隙を見せてはくれない。そのとき、アサミは部屋の入り口付近で起き
た変化に気付いた。
288 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 14:48:03 ID:rZ28mbr80
「イ・タシ・ラチキ・マヲネ・タ・ノイア…」
魔法を持ちいる際に使用する古代語が発せられるにつれ、ナツミの合わせた手と手から、
青白い光が漏れ出す。光に気付いたアサミがリンネに合図を送る。二人が同時に動く。
「矢なる光!アレイ!」
ナツミの手から光がミノタウロスに向けて矢の様に放たれる。光の初歩魔法アレイであ
る。敵の苦手とする属性を瞬時に導き出した所に、ナツミの才が非凡であることが伺える。
とはいえ威力自体は大したものではない。むしろ光の輝きにより敵の視界を一瞬奪ったこ
とが重要であった。その一瞬の隙を二人は逃がさない。リンネの槍がミノタウロスの胸を
貫く。アサミの剣が首筋を切裂く。地底から響く様な低い悲鳴が起きる。さらに一撃二撃
と加えてゆく。やがてミノタウロスは完全に絶命した。それを確認した三人はすぐにもう
一匹の方へ振り返る。だがその強張った顔はすぐに和らぐこととなった。ナツミとリンネ
とアサミが三人がかりで片付けるよりも先に、アヴェ王はたった一人でミノタウロスを成
敗していたのだ。
「御見事です。砂漠の勇者の御名は伊達ではありませんね」
そんなリンネの言葉もアヴェ王を喜ばせるには至らなかった。彼は眉を寄せ、目の前で
うずまく黒き空間を睨み続けている。ミノタウロスを倒しただけで解決した訳でもない。
魔界の入り口がすでに開いてしまっているのだ。その奥にはミノタウロス等及びも付かな
いバケモノがゴロゴロしているに違いない。
「信じられぬ。本当に封印が解かれるとは…」
「お父様、もう一度封印することはできないの?」
「分からぬ。ナツミよ、私は何も分からぬのだ。封印の仕方も解き方すらも!」
「そんな…」
「私だけではない。我が国の賢者もロプロハの司祭でも、誰一人知る者はおらぬ!」
289 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 14:50:43 ID:rZ28mbr80
アヴェ王の知る限り、大陸の何処にもベーサの封印の解除法を知る者はいなかった。そ
れで封印が解けるはずはないと安心しきっていた。事実、何千年もの間この古の墓は何人
にも侵されることなく守られてきたのだ。それこそ封印など存在しない、誤った言い伝え
なのではと囁かれる程にである。
「じゃあ誰が封印を解いたの?誰も知らない解除法で?」
「分からぬ。だが我々は国の総力をあげて犯人を見つけ出さねばならない」
「そっか。解除法を知る犯人ならばきっと封印の方法も知ってるはずよね」
「ウム。だがその前にこいつを何とかせねばな」
アヴェ王とナツミは再び魔界の入り口を見つめた。騎士団の活躍により、とりあえず魔
族の第一陣は葬り去った。しかし入り口をこのまましておけばすぐに、新たな魔族どもが
無限に湧き出てくるであろう。それは世界の終わりを意味する。
「城の宝物庫にある聖護符を用いてはどうでしょう?」
言葉に詰まる王と王女に見かねたアサミが進言する。アヴェ王城の宝物庫には、古の墓
と同時代から収められた宝がいくつかある。その多くはこれまで使い道のなかったいわゆ
るガラクタ同然のものばかりであった。だが封印が解かれた今となっては話が別である。
「成る程。書物によればアレは闇の増長を防ぐとある。試す価値はあるな」
「ではただちに城へ伝言を送り、ありったけの護符を運ばせます」
それから数刻の後、城より運ばれし聖護符の力によって一時的に闇の渦巻きはその役割
を失うことになる。だがそれも束の間の安息に過ぎない。
「いつまでもつかは分からぬか…」
「お父様。すぐに他国へ伝達を送り、大陸中で指名手配しましょう」
290 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 15:04:15 ID:rZ28mbr80
封印を解きし者が許せないナツミは当然の意見を口にした。しかし父であるアヴェ王の
反応は、娘であるナツミが想像したものとはまるで異なっていた。
「ならぬ!他国にこの事実を知られる訳にはゆかぬ!」
「どうしてですかお父様?一刻を争う事態ですよ!」
「そんな話を聞き付ければ、ザナカムの帝王やヘーケンの聖王は必ず我が国を訴える!
魔族退治を口実に軍を動かし、この国を侵略し尽くすであろう。それだけは避けねば!」
「世界の危機かもしれないのですよ?国同士の問題なんて言ってる場合じゃない!」
ナツミは声を荒げた。尊敬する父親に反抗するのはこれが初めてのことだった。しかし
事が事である。引き下がる訳にはいかない。だがアヴェ王は首を振ろうとはしない。
「聞きなさいナツミよ。これが私個人の問題ならば私もそうするであろう。しかし私は王
なのだよ。この手に何万という民を預かっているのだ。国王として民を確実に危険に晒
す選択はできないのだ。わかってくれるか?」
「しかし…」
「我々の選ぶべき道は一つ。我々の手だけで犯人を見つけ出し捕らえること」
そう述べる父の顔は、間違いなく『砂漠の勇者』と称される英雄のものであった。この
決断を誰よりも苦渋に思っていることが窺い知れた。ナツミにはそれ以上、父の決断を批
判することができなかった。そして封印を解きし者への怒りが、さらに大きく膨れ上がっ
ていったのである。ナツミ16歳の出来事であった。
…聖護符の効力が消え、再び魔界の扉が開くのはこれより3年後のことである。
そして封印を解きし者は未だ見つかっていない。
【第一話 砂漠の勇者 終わり】
291 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 15:13:55 ID:rZ28mbr80
【第二話 ケイ=ホッターと賢者の石 前編】
魔法学園ロプロハには毎年、魔法使いを目指す大陸中の子供たちが集まってくる。その
資質を認められ、厳しい試験を合格した数少ない者達だけが見事、壮厳なロプロハの門を
くぐることを許されるのである。3年の教育を終えた生徒達は卒業の後、大陸の各地で神
官や宮廷魔導師となり重宝されるのである。そういう訳あって、大陸の中央に位置するこ
の小国ロプロハは不可侵の楽園とされてきた。
「もう春やなぁ。毎年この時期になると寂しい気持ちになるで」
「最高司祭様は毎年そう言っていますね。いや、今回は私も少し感慨深いです」
「そうかナトゥ先生。君が手塩に掛けたあのケイ=ホッターも今年で卒業やったな」
「ええ、手塩に掛けたというより世話を焼かされたという方が正解ですが」
学園の一室で二人の男女がそう会話を交わしていた。男の名はトゥンク、魔法学園の学
長にして、小国ロプロハの長でもある最高司祭だ。彼の影響力は学園のみならず大陸中に
広まっている。一方女の名はナトゥ、魔法学園の優秀な教師である。これまで何人もの高
名な賢者や僧侶が彼女の手によって育てられてきた。
そんな二人が話題に上げているのは、現在卒業を間近に控えた一人の生徒のことである。
といってもそのホッターという生徒は普通の生徒とは訳が違う。『学園創立以来の天才』
なのであった。その素質にはトゥンクやナトゥも舌を巻く程である。それだけならば喜ば
しいことなのだが、同じ年に『学園創立以来の問題児』が在籍してしまったのである。
「手を焼かされたのはマリー=ヤグティやろ。あれもおもろい奴やからな」
「ええ、最初の一年は気を休める暇もなかったですよ。あの頃はイチーもいましたし…」
「なつかしい名前や。サヤカ=イチー。彼女の中退はえらく残念やった」
「私は少しホッしましたよ。悪餓鬼が一人減ったと。それに彼女は…」
292 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 15:15:06 ID:rZ28mbr80
言いかけてナトゥは言葉を止めた。続く言葉が教師にあるまじき言葉と気付いたからだ。
そして話題をケイ=ホッターとマリー=ヤグティのことに戻した。今度の卒業試験はこの
二人がメインになるからだ。ロプロハの卒業試験には各国の代表や名だたる冒険者達が足
を運ぶ。そして気に入った魔法使いを指名し雇うのだ。そうやって卒業生達の進路は決ま
っていく。多数の指名がある場合の最終判断は本人に委ねる決まりとなっている。しかし
当のケイは未だ、卒業後の進路については黙したままなのである。
「彼女の進路先によっては、一気に各国の軍事情勢が変わることもある」
「いずれ大陸一の賢者となるであろうホッターには、大袈裟な表現ではありませんね」
「それとヤグティ。彼女はある意味ホッターより危険や」
「それは確かに…」
「噂では、ザナカムのユーコ女帝も目を付けとるらしいで。あくまで噂やけどな」
「それは噂であってほしいですね。危険すぎます」
あらゆる魔法にその素質を発揮するケイ=ホッターに対して、親友のマリー=ヤグティ
はこと攻撃魔法のみにその素質全てが注がれていた。その圧倒的な魔力たるや、すでに大
陸一なのではとの声もある。そんな学園史に残る二人が、偶然にも同じ年に入園し出遭っ
てしまったのだ。
「同じ年に二つの巨星、まるで運命が巡り合わせたようや」
「何かよくない事が起こる前触れだとでも?」
「いやいやワシの考えすぎや、何でもあらへん。それよりどや、あの二人最近は?」
「ええ、今年はもうほとんど事件も起こしてません。問題児も成長したみたいで」
「そりゃええこっちゃ。もうどこ出しても恥ずかしないやろ」
トゥンクとナトゥは勘違いしていた。実は卒業を間近に控えた今も、ケイとマリーはイ
タズラを重ねていたのである。ただ、そのイタズラが誰にもバレないくらい、二人の魔術
が上達していたのだ。そして今夜も…
293 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/08/18(金) 15:17:40 ID:rZ28mbr80
「ケイちゃん、準備OK?もう引き返せないよん」
「本当にやるのマリー?流石にこれはマズイと思うんだけど」
「なぁに言ってんだよ。もうすぐ卒業だぜ。今見なきゃ一生見れないって」
「でも賢者の石はトゥンク校長の宝だよ。バレたら退学かも」
「バレなきゃ良んだよ。第一ケイちゃんも見たいって言ってたじゃん」
数多くの秘宝を有する魔法学園ロプロハにおいて、その最高峰とされる物こそ、今二人
の会話に出た『賢者の石』である。「賢者の石は手にし物に無限の魔力を与うる」と色々
な書物に語られている。魔法学園内にある秘密の部屋の奥深くに、厳重な守りで保管され
ているのだ。それこそが今夜の二人のターゲット。
「卒業記念、ラストを飾るにはもってこいの一品じゃん!」
「あーもう結局3年間、マリーに振り回された訳か。おかげで私まで悪餓鬼扱いよ」
文句を言いつつも、ケイはマリーの後を足早に進んでいく。正直な所彼女自信、賢者の
石には興味深々であった。そしてこの日の為に前もって何日も準備をしてきていた。目的
の場所までの仕掛け対策は万全である。
「空間の歪みよ我等が身を包め。メゥイト!」
小声でケイが唱えると、二人の姿は忽然と消えてなくなった。他人の視界から姿を消す
魔法である。ケイがこの魔法を修得してからというもの、二人の行動範囲は格段に広がっ
た。二人は足音を立てないように学園の廊下をひた走った。教師も生徒も誰も気付かない。
月明かりでも二人の影を照らすことはない。何にも邪魔されることなくケイとマリーは秘
密の部屋の前にまで辿り着けた。
「へへん。ちょろいちょろい」
「シー。マリー、本番はこれからよ」
「わーってるって。ワァオ、部屋の中からすんごいイビキが聞こえる」
「校長の番犬ケルベロスね。ったくどこでこんなの拾ってきたのかしら?」
「さすがのおいらもこんなバケモノは相手にしたくないぜぃ」
いや、だから中途半端にするなら書くなって。
ダイジェストとはいえジブンのみちもれいじゃーずも終って引退、
せっかく去り際きれいだったのに。
295 :
名無し募集中。。。:2006/08/18(金) 20:40:31 ID:fpdf3IPb0
>>辻豆
わざわざ小出ししなくていいから
書いてあるところまでzipでくれ
中途半端にするなら書くのは辞めてくれ
今の辻豆に昔の名作作家の面影は無いな
あなたはもう終わった人間なんだ
記憶の中で大人しくしていてくれよ
こ、こんな叩かんでも……
引退宣言したのに、中途半端になるのがわかってる作品放出するのはどうかと。
ジャンプの打ち切り作品ばかり見せられてる気分。
と無脳読者が吠えております^^
はいはいちんこまんこ
辻豆が叩かれるのは当然のこと
こんなのうpするヒマがあるならジブンのみちとれいにゃーずをきちんと書ききれ
と言いたい
もう完結する作品が来る事は無いんだから
ハギレ読みたくない人はここに来る意味自体無いと思うんだけど
叩きたいから来てるってこと?
意外に誰か外伝とか書かないかなと思って 保
あんたが・・・あんたが続けるっていうから・・・
夏の終わり。スレの終わり。
アク禁解除
308 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 14:48:45 ID:BV0MmLoW0
秘密の部屋の中では、体長5mはあるであろう三つ首の巨大なモンスターが、先への扉
を塞いで眠りこけていた。二人は静かに扉を開け中に入る。ケイは姿を消す魔法メゥイト
を解除すると、すぐさま次の魔法の詠唱を始めた。その間マリーはケイの前に立ち咄嗟の
状況に備える。もしケルベロスが目を覚まし襲ってきた場合、すぐに攻撃魔法を放つつも
りだ。倒すことはできなくても逃げる時間を稼ぐだけの魔法なら、詠唱なしですぐに放つ
力がマリーにはある。そんなマリーを信頼しているから、ケイは安心して高度な魔法の詠
唱に臨めるのだ。
「大地よ床石よ我が意に応じよ。ムーブン!」
詠唱を終えると、なんとケルベロスの巨体がじわじわと先への扉から引き離されていっ
た。さすがにケルベロスに直接魔法を掛けるのは危険すぎる。ケイが唱えたのは、その下
の床石を移動させる特殊な魔法であった。ケルベロスを目覚めさせない様、慎重に慎重を
重ね、ようやく30cm程度の隙間ができた。天才と呼ばれるケイの魔力をもってしても、
今の力ではそれが限界である。構えを解いたときには全身が汗だくになっていた。マリー
は大役を果たした親友の背中をぽんと叩いた。
「おつかれ、でもグズグズしている暇はないよ。大丈夫、あとはおいらに任せな」
ケルベロスの部屋を越えると、下へと続く長い螺旋階段があった。地の底まで続くので
はと感じるくらい長い長い階段であった。ようやく最下層まで辿り着くと、左右に二つの
扉があった。まずマリーは左の扉を開けた。部屋には眩しいくらいの金銀財宝が保管され
ていた。思わずマリーの頬がほころぶ。
「ひょえー!校長の裏金かな?」
「駄目!マリー!罠よ!」
部屋に踏み込んだマリーの右靴は当てを失い落下を始めた。途端に先程まで光り輝いて
いた財宝は霞の様に消え失せた。底無し部屋だったのだ。咄嗟に扉とケイの腕にしがみ付
いたおかげで、マリーは全身まるごと落下を免れた。もしケイが注意してくれなければ、
今頃どうなっていたか分からない。マリーの背筋はゾクッと冷えた。
309 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 14:49:59 ID:BV0MmLoW0
「助かったよ。ケイちゃん。しっかしトゥンクの野郎、殺す気かよ!」
「これだけ本格的な罠を仕掛けるなんて。よっぽど例の物が凄いってことね」
「くっそー、痛い所つきやがって。アーア、オキニの靴片方無くしちゃった」
「命を無くさなかっただけ喜びなさい。どうする?もうやめる?」
「やめない!行く!」
今度はケイが右の扉を開けると、奇妙な空間が広がっていた。地面が碁盤状に広がって
おり、手前に白い円板が奥に黒い円板が詰まれている。先へと進む扉は黒い円板の後ろに
見えたが、何かの力で閉ざされていて開きそうにない。
「何かの仕掛けみたいだけど。見当もつかないわ」
「うーん。おいらどっかでこんなの見た気がすんだけど……あっ!もしかして!」
何かを思い付いたマリーが白い円を二つ部屋の中央に並べる。すると黒い円も自動的に
白い円と交差して並んだ。マリーがさらに白い円を置くと、間に挟まれた黒い円が裏返り、
白い円にと変化した。
「ほら!見たケイちゃん?これオセロだよ!これが扉を開ける鍵だ!」
「どうやらそうみたいね…。これも校長の趣味かしら」
「そうと分かればこっちのもん!ケイちゃんはそこで見てて、おいらに任せて!」
「ちょっとぉ、マリー、あんた大丈夫なの?」
「フフフン。昔はオセロのヤグティと言われたこともあったけ。」
(……不安だ)
30分後、床は黒一色に染まっていた。ケイの冷たい視線がマリーを突き刺す。頭をポリ
ポリ掻きながら、苦笑いを浮かべたマリーがそっと振り返った。
「あっれー?おっかしいなー?調子悪いのかなぁ?」
「何がオセロのヤグティだボケェ!私がやった方がずいぶんマシだったわよ!」
「だってぇー。ていうか負けたらどうなるんだろ?」
「え?」
310 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 14:51:11 ID:BV0MmLoW0
二人が前方を見やると黒い玉が流動を始めていた。そして何処からともなく無気味な声
が響き渡る。『敗者には死を!』すると、黒い玉だったものが盛り上り悪魔の様な形にと
変化してゆく。計64個の悪魔像が、マリーとケイの前に立ちはだかった。
「あんたのせいだかんね」
「だから責任とるってばぁ。てかむしろこれの方がいいや」
そう言うとマリーの全身から熱い炎が吹き上がった。ケイはすでに部屋の外へと避難し
ている。マリーは満面の笑みで悪魔像に向けて、その手をかざした。爆音が部屋中に響き
渡る。あれだけの数の悪魔像が一瞬にして全て灰と化した。同時に扉にも穴が空いた。オ
セロの部屋を抜けると、くねくねとした迷路道が続いていた。文句あり気なケイとは対称
的にマリーはご機嫌で進んでいる。
「ねえねえ、どうどう、おいらの特大魔法の破壊力は?」
「あんたねー!あんな馬鹿デカイ音出してバレたらどうすんのよ!」
「えーだってぇーしょうがないじゃーん。あーほらまた扉だ!」
「ちょっと、ごまかさな…」
そのときケイは何か不思議な感覚を覚え立ち止まった。自分はこの先へは進んではいけ
ない様な、なぜかそんな気がしたのだ。この先へ進めば、もう戻れなくなる様な…
「どったのケイちゃん?急にボーっとしちゃってさ。あ、そんなに怒ってるの?」
「え、あ、ううん。ねえマリーこの先…」
「ケイちゃんも気付いた。扉から伝わる波動が普通じゃないよね。どうやらここみたい」
そう言うとマリーは喜び勇んで走り出した。ケイは止めようと言いかけて口に出せない
自分に気付いた。まるで知らない内に不思議な魔力に捕らわれてしまったみたいに。マリ
ーが扉を開く。賢者の石はそこにあった。
【第二話 ケイ=ホッターと賢者の石 前編 終わり】
311 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 14:53:06 ID:BV0MmLoW0
【第三話 ケイ=ホッターと賢者の石 後編】
薄墨色の台座の上に拳大くらいのデコボコした石が置いてあった。それは無色にも透明
にも、それでいて多彩な色を持つ様にも見えた。ケイとマリーはじっと、その不思議な光
を放っている『賢者の石』をみつめた。
「ふえー、これが賢者の石かぁ。触ってもいいのかなぁ。ねぇケイちゃん」
「……」
「ケイちゃんってば!見取れすぎ!」
「えっ、何?」
マリーの声に驚いてケイは振りかぶった。呆れたマリーは返事も待たずに賢者の石に指
を乗せた。大丈夫とわかると、マリーはさらに手の平ごと触れてみせた。
「どう?平気?マリー」
「別になんともない。ただのキレイな石じゃないのこれ?」
「ほんとに?」
がっかり顔のマリーが石から手を放すと、次はケイがその手を石に被せた。その瞬間、
石から物凄い量の光が八方に溢れかえる。驚いたケイが慌てて手を放すと、瞬く間に光は
消え失せた。マリーは背を向けていて今の出来事に気付いていない。
「マリー!ちょっと見て!凄いわよ!」
「へぇ?何が?」
「いいから見ていて」
ケイはもう一度石の上に手を被せた。ところが今度は何の反応も無い。そんなはずはな
いと何度も触れてみるケイだったが、一向に変化は現れなかった。マリーはため息を一つ
吐き、再びくるりと向きを変えて歩き始めた。
312 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 15:23:08 ID:BV0MmLoW0
「あーあやっぱり、デマだったんだよ。苦労して損した。帰ろ」
このとき、ケイの思考に異変が起きていたことをマリーは気付かなかった。ケイはポケ
ットからただの石を取り出すと、魔法で色形を賢者の石そっくりに変え、本物とそれを入
れ替えて、本物の賢者の石をポケットにしまい込んだのだ。そして何食わぬ顔でマリーの
後に続いて帰路に就いた。
賢者の石見学ツアーも無事見つかることなく、ケイとマリーの卒業の日は刻一刻と近づ
いてきた。卒業試験も済み、ケイの同級生達は次々と進路を決定していった。もちろんケ
イの元にも、本当にたくさんの誘いが来たのだが、彼女はそれら全てを一瞥しただけで断
った。一方、マリーは帝国ザナカムの誘いに一瞬迷いをみせるも、とある冒険者のパーテ
ィーに加入することを選んだのである。ナトゥ先生が理由をそれぞれ尋ねたところ、二人
はこう答えたそうだ。
「私はしばらく魔術研究をしたいと思っています。だからまだ働くはありません」
「お城勤めは性に合わないもん。冒険の旅がおいらを呼んでるんだい!」
これを聞いたナトゥはむしろ安堵したという。二人が自分の意志をちゃんと持っていた
からだ。彼女達の力は何処かに属するにはあまりに強大すぎる。できることならば国家間
の戦争や駆け引きには使われて欲しくないと思っていた。そして二人は気付いてか気付か
ずか知らないが、そうなることを拒んだのだ。ナトゥは笑みを浮かべ、問題児二人に卒業
の言葉を贈った。
「いい、何が起きても自分を見失わないこと。本当に困ったらいつでも相談に来な」
313 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 15:24:59 ID:BV0MmLoW0
魔法学園ロプロハの桜木は満開に咲き誇っていた。卒業の日、ケイはこれまで勉学を共
にしてきた同級生や慕ってきた後輩達に別れを告げて回った。このロプロハに在籍する者
で『学園創立以来の天才』ケイ=ホッターの名を知らない者はいない。彼女の卒業を、本
当に多くのものが寂しがり、そして祝った。
「ホッター先輩、ボタン下さい」
「アイか。ほらよ」
「わぁ、ありがとうございます。魔法研究がんばって下さい」
「人のこと言える成績か。お前こそがんばれよ」
「はい。いつか先輩くらいの魔導師になってみせるでの」
「そりゃ無理だ」
偉大なるケイ=ホッターの第二ボタンをゲットしたのは、今度二年生になるアイ=タカ
ハシという娘であった。彼女は大陸外の出身らしく、その国独特の訛りが未だ直っていな
い。魔力も弱く、ケイと違っていわゆる落ちこぼれという奴である。しかし持ち前の明る
さと、一風変わった言動をケイは気に入り、少し目をかけていたのだ。アイ以外にも本当
にたくさんの生徒がケイの元に詰め寄り、ある者は泣き、ある者は笑い、それは日が暮れ
るまで続いた。ようやく解放されたケイを、マリーは校門の前で待っていた。マリーが卒
業証書を持った手を挙げると、ケイも応じて腕を挙げた。三年間苦楽を共にした親友とも
ここでお別れである。
「キャハハ、その様子だとケイちゃんもモミクチャか」
「まあ最後なんだし、仕方ないけどね」
「故郷のロメンに戻るんだっけ?」
「うん。マリーは旅に出るんだよね。仲間達は何処?」
「下街の酒場で落ち合う約束。ちょっとくらい遅れても平気だよ」
「ロメン公国の北の端にあるダーシャって小さな村。たまには遊びに来て」
「うん、行く。絶対行く」
314 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 15:26:38 ID:BV0MmLoW0
そのときである。校門で話すケイとマリーにぶつかる女の子がいた。小さな体に似合わ
ぬ大きなバックを抱え、よろけた様である。
「あわわ〜ごめんらさい。遅刻しちゃうよ〜!」
女の子は二人の存在に気が付くとペコリとおじぎして、また駆け出していった。
「なんだありゃ?」
「そっか、卒業式の後すぐ入学式だ。多分、新入生の子じゃない?」
「入学式か、なつかしいな〜。うちらにもそんな頃あったけ」
ケイとマリーは三年前の自分達を思い出し笑いあった。そして二人は同じことを考え、
顔を見合わせた。
「いっちょ覗いてっか。かわいい後輩どものツラを」
「悪くないわね」
二人は並んで学舎の方へ戻った。窓から入学式のパーティー会場を覗き込む。活気ある
若々しい顔があちらこちらに見られた。そんな顔達を見ていると自然に、この3年間の色々
な思い出が次々と頭をよぎる。ケイとサヤカとの出逢い、三人でしたイタズラの数々、サ
ヤカとの別れ、そんな事が思い出されマリーはふと目頭を熱くした。ケイはそんなマリー
を優しく見守った。マリーは涙を拭いて照れ隠しする様に言った。
「へへっ、生意気そうな奴がそろってら。こりゃナトゥ先生もまだ当分苦労しそうだね」
中の声を聞こうとケイが少し窓を開けると、一番近いテーブルに並ぶ新入生二人組の会
話が聞こえてきた。
315 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 15:29:19 ID:BV0MmLoW0
「あの生意気そうな子、あれが名門カボ家の長女ね。とりあえずライバル候補」
「ンン〜、もぐもぐ、ムシャムシャ」
「他には特にたいした子はいなそうだわ…って、聞いてるのアサミ!?」
「うん。このビーフンとってもデリシャス♪」
この二人、ヘーケンの片田舎から出てきた幼なじみ同士である。先程から同級生の顔を
鋭い眼光で見定めている娘がマコト=オグァ。そしてその横でパーティーのご馳走に鋭い
眼光を向けているのがアサミ=コンノベルトであった。
「あんたねぇ。飯食う為にわざわざヘーケンのド田舎から出てきたんじゃないでしょ」
「わかってるよマコト。大陸一の武道家になる為だもの」
「ここ魔法学園なんだけど…話聞いてた?」
「え?嘘?」
ケイは笑いを堪えそっと窓を閉めた。それからマリーと顔を見合わせ微笑みあった。
「キャハハ、おもしろそうな奴等いんじゃん」
「うん。笑えるけど今の子達、結構見込みはありそうだったわ」
「それはおいらも感じた。特にあのマコトって方、相当デキルね」
「ところで奥にいるあの子には気付いた?マリー」
「気付かねえ訳あるか!あんだけ挑戦的な魔力放ってる奴。あのガキ」
「入学式の時点でこれだけの魔力、末恐ろしいわね。」
「ま、おいらには敵わないだろうけど〜」
今、ケイとマリーが話題に上げていた娘こそ、二人の卒業後に『学園創立以来の天才』
と『学園創立以来の問題児』の異名を一手に引き受けることになるアイ=カボであった。
二人が彼女の実力を知るのは、まだ少し先の話になる。
316 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 15:30:57 ID:BV0MmLoW0
ケイとマリーは学舎を離れ、再び校門へと戻っていった。今度こそ、本当に別れの時で
ある。二人は互いに右手を差し出し固い握手を交わした。
「ダーシャ村だったね。旅の途中で近くに来たら絶対行くよ」
「待ってるわ。いつになるかわからなそうだけど…」
「それじゃ。元気でね」
「あなたも…って言わなくても元気過ぎるか」
心地よい風び桜の花びらが舞う。マリーはクルッと後ろを向いて駆け出していった。
「バイバーイ!ケイちゃーん!」
「またね!待ってるよマリー!」
校門の下でケイは親友の背が見えなくなるまで手を振り続けた。そして見えなくなると
ケイも故郷の方角へと向きを変え足を踏み出した。ふいにケイはポケットの中にあるモノ
に触れたい欲望に襲われた。欲求のままケイはポケットの中に潜めた石を握り締めた。す
ると不思議な感覚がケイを包み込んだ。
317 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 16:16:03 ID:BV0MmLoW0
(誰……!)
額に玉の様な汗を浮かべ、ケイは後ろを振り返った。もうその手は『賢者の石』から離
れている。誰かが自分を見ている様な気がした。だが辺りを見渡しても誰もいない。ケイ
はもう一度『賢者の石』を握り締めた。しかし今度は何も感じない。
ドクンドクン…。
静かな穏やかな春の夕暮れ。聞こえるのは自分の鼓動だけである。ケイは深呼吸を一つ
して冷静さを取り戻す。間違いなく異質な視線を感じたのだ。ヒトのものとは思えない何
か異質な存在の。もう一度念入りに辺りを見渡す。だが何も怪しいものは見当たらない。
(何なのこれは?ロプロハに何がいるというの?)
(賢者の石?ううん、誰にも気付かれてはいないはずよ。マリーにさえも)
(じゃあ一体誰が見て…?)
しかしケイには、もはやそれが誰なのかを知る術はなかった。
【第三話 ケイ=ホッターと賢者の石 後編 終わり】
318 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 16:18:26 ID:BV0MmLoW0
【第四話 召喚剣士】
剣と剣の打ち合う音が響き渡る。ここは帝都ザナカム。現在、都の中央に聳え立つ闘技
場において、毎年恒例のお祭りとなった闘技大会の真っ最中である。この祭りの主催者は
ザナカムの女帝ユウコ。彼女は派手なもの、そして強き者を非常に好み、これを良しとし
ていた。そして今日も彼女は満足気な笑みを浮かべ、勇猛なる戦士達の勝負を見下ろして
いた。
「腕がうずいておるのではないか?アヤよ」
ユウコの傍らには、静かな表情を浮かべた女性が腰を下ろしていた。例年ならば今頃、
このアヤと呼ばれた女性も剣を握り大暴れし、そして圧倒的な強さにて勝利を手にし、栄
光と絶賛に包まれるはず、今年もその予定であった。ところが、ここ数年連続優勝を収め
ているザナカム最強の戦士アヤ=クロエの名が今年は無かった。彼女には出場できない理
由があったのだ。
「ご冗談を、ユウコ様。うずくのは腹だけで十分です」
アヤは妊娠していた。それが連続優勝記録を断念せざる負えない理由だった。もっとも
彼女に言わせれば「この状態でも誰にも後れを取る気はない」そうだ。その科白が単なる
強がりとは思えないくらい、彼女の実力はずば抜けていた。もっともそれは他の出場者に
実力がないからではない。大陸一と称されるザナカム黄金騎士団の猛者達がこぞって名を
連ねるのである。それだけでも大会のレベルが並でないことが伺える。さらに他国からも
名声を得ようと腕自慢どもが集まってくるのだ。そんな闘技大会において連続優勝するく
らいアヤ=クロエの剛勇は圧倒的だった。
「今年はお前が欠場すると知って、皆奮起しておる」
「そうですか」
「特に新参の出場者が多い。果たして誰が優勝を手にするか。ほんま楽しみやわ」
319 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 16:20:08 ID:BV0MmLoW0
ご機嫌の女帝ユウコと前年度優勝者アヤが見下ろす中、大会は進行していった。数々の
激闘が繰り広げられ、そして勝ち残った決勝は誰も予想だにしないカードとなった。髪を
短く切り揃えた傭兵風の娘と、全身を蒼い鎧で包み込んだ長剣長髪の女剣士。共に初出場
の二人だった。
決勝戦は大会史に残る名勝負となった。息も付かせぬ攻防で互いに一歩も譲らない。特
に長髪の女剣士の太刀捌きは、見る者の目を奪う華麗さに満ちていた。一方、短髪の女傭
兵も負けず劣らぬ実力でこれに対抗している。女帝ユウコは片時も目を離すことなく試合
に集中していた。そして隣のアヤに感想を述べる。
「世の中は広いな、アヤよ。まだこの様な猛者が隠れているとは」
「ですね。しかも両者ともまだ何かを隠している」
「それが勝敗を分ける鍵となるか」
「おそらくは」
隠し持っている何かを先に見せたのは、短髪の女傭兵であった。剣を構えた右手とは反
対の左手を前方に向ける。そして唇が僅かに動く。長髪の女剣士が呪文の詠唱だと気付い
たときには、すでに遅かった。炎の玉が長髪の剣士に向けて放たれる。同時に短髪の傭兵
は剣を水平に振りかぶる。剣と魔法の同時攻撃には、さしもの女剣士も防ぎきることがで
きなかった。剣攻撃は己の剣でなんとか受けるものの魔法攻撃は回避不能、正面から炎の
玉をもらい女剣士は後方へ弾け飛んだ。閲覧席から驚嘆の拍手が巻き起こる。
「何者だ。あの傭兵は?剣と魔法の同時使用等、普通できんぞ!」
「普通ではない…ということでしょう。非常におもしろい」
帝国最強の戦士アヤ=クロエの冷静な表情に笑みが浮かぶ。強者が強者を認めたときの
笑みである。また女帝ユウコにも笑みが浮かんでいた。アヤとは異なる意味での笑みだ。
彼女は立ち上がり、優勝者の名を高らかに宣言しようと口を開いた。が、そこで動きが止
まる。空気の変化を感じた。まるで何処か別世界の空気。
320 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/02(土) 16:21:38 ID:BV0MmLoW0
「アヤ、これは何だ?」
「どうやら、奴はさらに普通ではない様です。ユウコ様」
すでにアヤ=クロエの顔からも笑みは消えている。見ると、魔法攻撃にて弾き飛ばされ
た長髪の女剣士が無防備に立ち尽くしていた。ただ意識が無いかの様に、どこか虚ろな眼
をしている。短髪の女傭兵は再び構え直し、相手の様子をじっと見続けた。しばらくする
と女剣士の黒い長髪が鮮やかな銀色に染まってゆく。足元が吹き出す風により、その長き
銀髪が雄々しく舞う。今やその姿は先程までと一変していた。
「何の大道芸だそりゃあ!」
怖じ気ずくまいと声を荒げた女傭兵が再び、剣と魔法の同時攻撃を敢行する。しかしそ
れよりも速く銀髪の剣士は飛び、傭兵の左腕を一刀両断してみせた。大きな悲鳴と血しぶ
きが闘技場を染める。試合は終わった。気が付くと女剣士は元の黒髪に戻っていた。
「風の噂で聞いたことがあります」
「何だアヤ?」
「精霊界と交信し、その力を己が身に宿らせることができる剣士がいると…」
「なるほど、奴が」
ユウコは鋭い視線で闘技場に立ち尽くす勝者を見下ろした。それは先ほどまでに見せた
どの顔とも違う女帝の顔であった。ユウコは大きく腕を挙げると、今度こそ大声で大会優
勝者の名を宣言した。いずれ自らの最大の敵となりうる存在の名を。
“召喚剣士 カオリ=イーダ”
321 :
ねぇ、名乗って:2006/09/03(日) 02:57:29 ID:jlGaFIYG0
ジブンノミチ終わってから初めてきた。
なんかスレが進んでるから来てみたんだけどさあ・・・
普通に面白いんだけど?
続きが気に鳴るじゃん!どうしてくれんの?
>>321 最後はまたダイジェストで書いてくれるよ
保田とホッターをかけたのか
324 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 14:37:43 ID:LDd8CVEQ0
翌日の午後、ユーコはザナカム皇城玉座の間に大会優勝者を呼び出した。昨日と同じ鎧
姿でイーダは姿を見せた。ユーコが人払いを命じたので、部屋にはユーコと側近のアヤ、
そしてカオリ=イーダの3人のみがいる形となった。一言も口を開くことなく憮然とした
態度のカオリに、アヤは顔をしかめた。
「皇帝の御前だぞ。頭を下げぬか!」
「呼んだのはそっちでしょ。それにカオリはあんたの部下じゃない」
「死にたいのか貴様?」
「挑発はやめて。カオリは赤ちゃんを斬る趣味はないから」
ユウコが止めなければ、もうすぐでアヤの手が腰に差した刀に伸びるところだった。豪
華な金銀で飾られた玉座に腰を下ろすユウコは、余裕の笑みで召喚剣士を眺めていた。や
がて大袈裟な身振りを交えた口調で語り始めた。
「まずは優勝おめでとう。カオリ=イーダ君」
「帝国最強の戦士様が出場していないのだもの。大した価値もないわ」
「フフ、たいした自信だ。嫌いではないぞ、そうゆう娘は」
「で、用件は何?祝いの言葉を言う為に呼んだ訳ではないでしょう」
「まぁそうだ。いくつか聞きたいことがあってな。答えたくないならそれで構わない。
カオリ=イーダよ、あの召喚という秘技を何処で得た?」
「覚えてないわ。気が付いたら出来る様になっていたから」
「そうか、では我が闘技大会に出場した目的はあるか?」
「強い者と闘いたかった。そこの戦士さんの様なね。残念ながら叶わなかったけれど」
今度はカオリがアヤを挑発したが、アヤは眉一つ動かすことなく、じっと二人の会話を
聞くに及んでいる。ユウコはさらに質問を続けた。
325 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 14:39:15 ID:LDd8CVEQ0
「何故に強き者を求める?」
「強くなりたいからよ。誰よりも。一番強く。それがカオリの夢」
「なるほど。確かにお前は強い。それも人並外れて…だが、その夢は叶わないな」
「どうして?」
「頂点に立つのはお前の様な者ではない。このユウコ=ザナカムこそ相応しい」
「そう、貴方も同じ夢を見ている訳。でも理由はあるの?」
「気付かぬか。私とお前の決定的な違いが」
玉座の間に緊張が走る。すでにカオリはいつでも剣を抜ける態勢をとっている。ユウコ
は玉座に腰を下ろしたままである。アヤはあれから一言も発さず、じっと成り行きを見守
っている。
「言っておくがカオリは、王室育ちの年増に負ける気はないよ」
「カオリ君。ええ子の君に教えたる。ミソジ、年増、ババア、以上の言葉はこの帝国では
禁句になっている。次に口にしたときは死刑になると覚えておいてくれ」
口調とは裏腹に物凄い威圧感を女帝は発していた。ただのミソジじゃないって訳かとカ
オリは心の中で思った。とはいえ実力で劣っているとは思わない。
「どうしてカオリが頂点に立てないって言うの?私と貴方の違いは?」
「まだ分からないのか。お前の周りを見てみい」
「周りって?何も無いわよ」
「そうだ。何も無い。誰もいない。お前には誰も付いてこない。だが私は違う。
アヤを始め何千という騎士、何十万という国民が私を慕っている」
「フン、それがどうした?頂点に立つのはカオリ一人だ。仲間なんて必要ない!」
孤高の召喚剣士カオリ=イーダと帝国の主ユウコ=ザナカムのにらみ合いはしばらく続
いた。やがてユウコの方がため息と共に目をそらした。
326 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 14:40:26 ID:LDd8CVEQ0
「話しても無駄か。良ければお前を帝国の将軍として迎えようと思っていたのだが…」
「悪いけどカオリは誰の下にも付く気はないし、仲間もいらない」
「いずれ分かる。頂点に立ち世界を導くに相応しいのはどちらか、その答えが」
女帝のその言葉を背に受け、カオリは皇城を去っていった。召喚剣士の去った部屋にて、
じっと押し黙っていたアヤがようやくユウコに口を開く。
「良いのですか?あのまま行かせて。奴はいずれ必ず我らの敵となりましょう」
「ほうっておけばよい。召喚剣士がどれだけ強かろうが恐るるに足らん。
所詮奴は一人。たった一人で頂点に立てる程、この世界は甘くない」
「その通りです」
「まぁもし奴の考えを改めさせる…そんな人物が奴の前に現れたとしたら…。
そのときは敵として認めてやってもよい。もっとも、そんな人物がいればの話だが」
ザナカム皇城から少し離れた森の片隅にカオリ=イーダはいた。他人から見れば、木に
寄りかかり立ったまま眠っている様に見えるだろう。実はカオリの前に、彼女だけが見え
る精霊が存在していたのだ。
「昨日はありがとね、ヴァルちゃん。またよろしく」
カオリが最も好んで力を借りる精霊、戦乙女ヴァルキリーはその銀色の髪を揺らしなが
ら微笑み消えていった。交信を終えたカオリは地に下ろした荷物を背負い、再び歩き始め
る。彼女の前には広大な大地が広がっている。大陸にはまだまだ強い奴がいっぱいいるの
だろう。地上最強になるその日まで、カオリ=イーダの旅は終わらない。
【第四話 召喚剣士 終わり】
327 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 14:41:40 ID:LDd8CVEQ0
【第五話 荒れつ国 前編】
大陸の南東部に位置するダルニーア国は、岩山や砂地ばかりの荒涼とした大地が広がっ
ている。『荒れつ国』と呼ばれ他国から蔑られているのだが、そう呼ばれる理由は何も自
然環境の為だけではない。山賊、蛮族、傭兵、浪人、俗に言うならず者達の吹きだまりな
のだ。罪を犯し国を追われた者、職を捨て盗賊に身を落とし者、腕試しの為望んで争いに
加わる者。理由は人それぞれだが、この地ではそんな荒れくれどもが日夜暴れ回っていた。
規律や礼儀の無いこの国において、唯一のルールは『強さ』である。王の無いこの国では
一番強い奴が王なのだ。騎士制の発達したザナカムやヘーケンで決して出世することのな
いであろう一介の貧乏山賊が、一夜にして一国の主になることができる国。ここはそんな
荒くれどものパラダイスなのであった。もう何百年も、この国はそんな意味無き戦を繰り
返してきていた。無数の抗争の後、その中で最も強き者を中心としたいくつかの集団が生
まれる。集団同士が幾度も争い、弱き集団は強き集団へと飲み込まれていく。そうしたこ
とを何年も何十年も掛けて繰り返していく。だが決して『荒れつ国』が一つにまとまるこ
とはなかった。この地に平穏が訪れることはない。今日もまた山脈の麓で、河川の浅瀬で、
砂丘の丘で、至る所で争いは起こっていた。
328 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 14:42:59 ID:LDd8CVEQ0
「どけよ!」
「なぁんだぁ?このガキ。ここは蛮族王イナヴァさんの土地だぜ」
「知るか!勝手に王とか名乗ってんじゃねえ!」
「よく相手を見てものを言えガキ。死にてえのか?」
「おっさんに用はねえ。ルルって奴を出せ!」
「ガハハ聞いたかおまいら。シスコムの隊長殿を出せってよ」
「てめえみてえなガキが軽々しく口にしていい人じゃねえんだぜ、おい」
「関係ねえっつってんだろ。あいつはダチの仇なんだ!」
数人の男どもを相手に、たった一人で威勢を張る娘がいた。彼女の友人レファが昨晩、
ルル率いる野党に理由もなくリンチを受け、看病をするも空しく今朝方息を引き取ったの
だ。この様な出来事は荒れつ国では日常茶飯事である。相手がダルニーアで今もっとも力
を持つイナヴァ一味の者であっては、逆らうこともなかなかできない。しかし彼女はキレ
た。裏切りが横行する国にいて彼女は、友情を最も大事にする珍しい娘だった。腰に大降
りの剣を一本差し、動きやすそうな鎖帷子に身を包んだこの娘の名はヒトミ=ヨスィザー。
この日、彼女は伝説を作る。男どもを退けたヒトミはこの後、たった一人でルルの住み処
に押し入り、その部下ともども全員を打ち倒していった。その数およそ100人。噂は瞬く
間に国中に広がる。『百人斬りの傭兵ヨスィザー』と。
329 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 15:27:29 ID:LDd8CVEQ0
「ただいまぁ」
百の男どもを斬り裂いた後とは思えない程の屈託の無い笑みで、ヒトミは帰路に就いた。
ここは彼女を含め、争いによって身寄りを無くした孤児たちが集まって暮らしている場所
である。ヒトミとレファもそんな中の一人だった。ヒトミの顔を見て、一番年長者の娘が
頬を膨らませて詰め寄る。
「ヒトミ!あんたまさか本当にやった訳!」
「おう!みんな喜べ!レファ姉ちゃんの仇は討ったぞ!」
ヒトミが傷ついた腕を天に向けて振り上げると、子供たちから歓声が沸き上がった。力
の無い子供たちにとって、ヒトミはヒーローであった。誰より強い彼女のおかげで、自分
達は暴力に屈せず生きていけるのだから。しかし年長者の娘は素直に喜べない。
「ルルはイナヴァの側近よ。絶対にあいつ等怒るわ」
「アヤカ姉ちゃんは心配性だなあ。大丈夫、そしたら俺が返り討ちにしてやる!」
「もう…ヒトミったら」
孤児達の年長者であるアヤカもそれ以上は言及しなかった。ヒトミは言っても聞かない
だろうし、何より本当は彼女もレファの仇を討てたことが嬉しかったからだ。
「ちょっと待ってヒトミ。今薬箱もってくるから」
「おう、アヤカ姉ちゃんは気が利くね。実は体中痛くて痛くて」
「そんな無茶するんだから当然よ。当分安静にしてなさい」
「わーってるって。流石に疲れ…って、ちょっと、うわ、染みる!待って待って!」
「もう、これくらい我慢しなさい」
「山賊の攻撃より、アヤカ姉ちゃんの薬の方がよっぽど痛えや」
330 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 15:28:43 ID:LDd8CVEQ0
治療を終えたヒトミが、リビングに戻って腰を下ろすと、騒ぐ子供の内の一人がヒトミ
の膝に飛び乗ってきた。
「ヒトミ姉ちゃん大好き♪私大きくなったら姉ちゃんの御嫁さんになる」
「あーモモちゃんずるい!御嫁さんはマイだもーん!」
そんな感じで次々と子供たちが膝に飛び乗ってきたので、百人斬りの傭兵は潰れて横に
なった。どうやら当分安静にはできなさそうだ。
百人斬りの噂は瞬く間に国中に広がり、これを聞きつけた多くの者がヒトミの下に馳せ
参じた。イナヴァを嫌っていた者やヒトミの勇猛に惚れ込んだ者、その数は総勢数百に及
び、ヒトミを中止とした集団『ムンライ』は一躍『荒れつ国』の新興勢力と化した。一方
その頃ダルニーアの別の地域でも、急激に勢力を拡大する集団があった。狂戦士ミキ=フ
ズィモを中心とする『ロマウカ』である。ロマウカは悪名高きダルニーアの荒くれでさえ
恐れを見せる程の最恐最悪の集団であった。いつしか『荒れつ国』ダルニーアは3大勢力
の睨み合う三すくみの形となっていった。
蛮族王イナヴァの『シスコム』
百人斬りヒトミ=ヨスィザーの『ムンライ』
狂戦士ミキ=フズィモの『ロマウカ』
ダルニーアにひしめく何百の弱小勢力は、それぞれが対立を繰り返しやがて、この3組
の何処かに属する様になっていった。かつて誰も為し得ることのなかった荒れつ国統一を、
実現させるのは果たしてイナヴァか?ヒトミか?ミキか?ダルニーアに生きる者誰もに、
この難解な選択が迫られる事態へとなっていった。
331 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 15:31:27 ID:LDd8CVEQ0
「ミカ。お前はイナヴァとヨスィザー、どっちが上だと思う?」
『ロマウカ』本拠地の一室、大きなベットに腰を下ろす狂戦士ミキが、右腕として用い
る策士ミカに尋ねた。手持ちの資料の整理を続けたまま、ミカは淡々と答えた。ダルニー
ア最恐と評されるミキに臆すること無く意見を言えるのは、猛者多き『ロマウカ』でも彼
女くらいである。
「個の力として判断するならば、百人斬りが脅威ですね。あれ程の腕の持ち主は大陸広し
と言えど、そう目には掛かれない。まぁ私の前にいる人物を除いての話ですが」
「じゃあムンライが最大の敵か?」
「いいえ、最大の敵はシスコムです。戦争は個では勝てません」
「ふうん」
「それは我々にとっても同様。今のロマウカではシスコムには勝てない」
「正直な野郎だぜ」
「貴方が嘘を好まないから申したまで」
「それじゃあ軍師殿、なにか必勝の策はあるかい?」
「ええ、ありますよ」
ミキの意地悪な質問にミカはすまし顔で返答した。
「地上最強の戦士ミキ=フズィモ様が全ての敵を駆逐なさることです。例えどの様な困難
な状況でも、どれだけの敵を相手にしても、貴方ならば必ず生き残る。もっともその時
には味方も敵も全て生き絶えていることになるでしょうが…」
「そりゃ困る。手下のいねえ王なんざまっぴらだ」
「これが荒れつ国なんですよミキ様。どれだけの強さを持ってしても統一は叶わない」
「やれやれ…」
332 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 15:33:03 ID:LDd8CVEQ0
ため息を一つ吐き、ミキはベットに体を倒した。ミカに言われた通り、ここ数年の争い
でミキも感じていたのだ。どれだけ敵を倒しても、どれだけ勝利を収めても、ダルニーア
統一が一向に近づく気がしない。戦場では猛々しく暴れ回り弱さの欠片も見せない狂戦士
をすら悩ませる程、荒れつ国統一というのは難解な事であった。
(あいつを呼ぶしかねえか…気は進まねえが)
このとき狂戦士ミキがある決断をしたこと、側近のミカですら気付いてはなかった。
刻同じくして、ダルニーア南方に位置する蛮族王イナヴァの居城でも、ある会議が成さ
れていた。シスコムのトップ3、参謀トコミナと傭兵隊長ノダシが顔を揃えていた。会議
の内容は当然、『ムンライ』と『ロマウカ』についてである。確かに『シスコム』は荒れ
つ国最大の兵力と資産を誇ってはいるが、二つの勢力を滅ぼす程の力はない。仮にどちら
か一方に攻めたとすれば、戦力が減じた隙に残す一方の勢力が攻めてきてしまうのである。
「くそっ!ムンライとロマウカが潰しあってくれればよいのだが」
「ノダシ殿。その様な事は他軍も含め誰もが思っていますよ」
参謀トコミナの言う通りであった。否応無しに状況は、先に攻めた国が滅び、残る国が
勝利を掴むという、覆すことのない所にまで来ていた。この様な会議が何の意味も成さな
い事をトコミナは人一倍理解していたのだ。トコミナは主君であるイナヴァの表情を伺っ
た。かつては豪胆にて誇らし気に映りしその面も、長く続く戦乱のせいか最近では苦痛と
焦りの色しか伺えない。事実イナヴァは焦っていたのだ。ヒトミやミキより早く世に出て
きた彼女としては、すぐにでもダルニーア統一王となり外つ国々と渡り合うつもりでいた。
イナヴァの眼には未だ帝国ザナカムや聖王国ヘーケンが映っている。ところが現状は大陸
統一どころかダルニーア統一すら覚束ない。イナヴァは若く猛々しいヒトミとミキが憎く
らしくて仕方なかった。
333 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 15:34:13 ID:LDd8CVEQ0
イナヴァのかく想いはトコミナにも十分理解できた。優れた軍師である彼女にはかつて
二人の教え子がいた。その二人は今袂を分かち、それぞれ敵勢力の軍師として立ちはだか
っている。彼女にとってもこれは負けられない戦なのである。
(アヤカ…ミカ…、お前達には譲れない)
「イナヴァ様、私めに案がございます」
停滞した会議の流れを変えたのは、決意を秘めた天才軍師トコミナの一声であった。
(動くのは今しかない)
(時が経てば経つ程ムンライとロマウカはより力を付けてくる)
ここでトコミナは驚嘆に値する策を述べた。イナヴァ、ノダシ他一同全員が息を飲む。
「成功の確率は?」
「ヒトミとミキ。あの二人の性格ならば必ずや動くと思われます」
「よかろう!その策を許可する!トコミナよ、直ちに行動を始めよ!」
「御意!」
ロプロハ暦1999年。ついにダルニーア大戦乱の幕が開ける。
【第五話 荒れつ国 前編 終わり】
334 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 16:15:33 ID:LDd8CVEQ0
【第六話 荒れつ国 後編】
『ヒトミ=ヨスィザー
貴様の大事な軍師アヤカは預かった。
今すぐ一人で底吹の丘に来い。
こちらも俺一人で待つ。決着を着けよう。
ミキ=フズィモ』
荒れつ国三大勢力の一つ『ムンライ』の首領であるヒトミは手紙を握り潰すと、大声で
軍師の名を叫び家々を走り回った。だが仲間の誰もアヤカの居場所は知らないという。ヒ
トミは戦士達の居住地を離れ、女子供が生活を営む住宅街へと馬を走らせた。そこにはム
ンライ立ち上げ以前から生活を共にしてきた孤児達もいる。三大勢力と誇られる様になっ
た今でも、ヒトミは子供たちのことを忘れたことはない。暇を見てはアヤカと共に疲れを
癒しに戻っている。きっとアヤカはそこに入るに違いない。ヒトミは苦渋の表情で馬から
飛び降りた。部屋には孤児達の中でも、昔から最も自分を慕っている者の一人モモコがい
た。憧れの人のいつもと違う表情に、モモコは驚きを隠せずにいた。
「アヤカ姉ちゃんは?アヤカ姉ちゃんを知らないか?」
「えっ?えっと。古い知り合いの所へ出かけるって今朝言ってたけど…」
「…!」
ヒトミは歯軋りし表へ飛び出した。百人斬り時代から共に戦ってきた剣の柄を握り締める。
(許さねえ!ミキ=フズィモ!!ぶっとばす!!)
向かう先はもちろん底吹の丘。
335 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 16:18:31 ID:LDd8CVEQ0
『ミキ=フズィモ
貴様の大事な軍師ミカは預かった。
今すぐ一人で底吹の丘に来い。
こちらも俺一人で待つ。決着を着けよう。
ヒトミ=ヨスィザー』
巨大なベッドに寝そべり、手紙を眺めるミキ。その顔にはわずかな笑みも垣間見えた。
ミキは手紙をベッド後方の誰もいない空間に放り投げる。すると手紙は空中で見えない何
かに掴まれて止まった。
「どう思う?」
「罠じゃん」
「…だろうな」
「こんなの引っかかるのはバカだけだよ〜」
「ちなみにヨスィザーってのは筋金入りのバカらしい。バカだがセコイ真似はしねえ。
こういうやり口はシスコムの奴等だ。フン」
しかし罠と知りつつも、ミキは立ち上がった。
「そんなに大切なの?ミカって軍師ちゃん」
「アホゥ。ヨスィザーとサシでやれるチャンスを逃す手はねえだろ」
「邪魔されるんじゃない?」
「そんなときの為にお前を呼んだんだろうが」
ミキが部屋を出ると、誰もいなかった空間に桃色のマントがひるがえる。世界の何にも
属さない魔女・アヤヤ=マトゥーラの唇が笑みを浮かべる。
「狂戦士vs百人斬りか…。こんなワクワクは何百年ぶりかな♪」
336 :
辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :2006/09/03(日) 16:27:55 ID:LDd8CVEQ0
書き溜めた未発表小説、以上です。
これで書き込むものは本当に何もなくなりました。
最後までお付き合いください、ありがとうございました。
さようなら
続き書かないなら書き込むなって何度言われれば判るんだ?
最後の最後に汚点だらけだな。
こんな26、7歳がいるようじゃ羊も終わりだな。
uruse-baka
sineyowww
卒業旅行で石川が行方不明になったままなんだが
340 :
ねぇ、名乗って:2006/09/04(月) 00:37:04 ID:0ivwL8/O0
誰かこの続きを書いてくれる神はおらぬか?
341 :
ねぇ、名乗って:2006/09/07(木) 22:34:24 ID:OHMdLjrvO
ダイジェストでいいから書けよバカ
342 :
名無し募集中。。。:2006/09/08(金) 02:42:59 ID:tY7noSGe0
竜頭蛇尾
343 :
ねぇ、名乗って:2006/09/13(水) 21:43:33 ID:aDrKCOUC0
誰か続き書いて保全
344 :
ねぇ、名乗って:2006/09/27(水) 19:19:04 ID:WFth2LrO0
ほ
流石に誰も書かないか
346 :
ミヤビイワナ:2006/10/12(木) 20:10:07 ID:+dYb0Mza0
まだ全部読んでないけど
時間くれるなら書くよ
.,.-‐┬――‐-、
./ .| ヽ、
./ .,..┴、 \
/ .| 十 |.__ `、
./ / |ヽlノ.| `:::-、 ヽ
| ./ `ー" `ヽ \
.| .l. ======(ニ)-、. `Tー‐--'
.| .〈l/ ////_,.-‐'^、ニ〔| 艦長が死んだ
| <__,.-;‐'"´ .キ | 本当に悲しい
`ヽ.ljイー・ ! ┬‐,、_ i | 寒い時代だと思わないか
f |  ̄´ / ``ー=´ ` |/^l
.`l ´ ;ヽ、 `、 !ι|
.| .j`T´
:、 ` ̄ ̄` / .|_
`、 ゙゙゙ / /|
ヽ____/ /
なんもおこらんな
348 :
ねぇ、名乗って:2006/11/14(火) 23:29:22 ID:U2y2v8v90
349 :
名無し募集中。。。:2006/11/25(土) 06:07:38 ID:GMdhmXdJ0
まだか?
350 :
名無し募集中。。。:2006/11/26(日) 21:48:49 ID:v5ROvRAa0
タイムア〜〜っプ
351 :
名無し募集中。。。:2006/12/08(金) 22:32:40 ID:zUjtO22K0
今更だけどやすすの技が毒手ってのが納得いかない
やすすなら酔拳だよなやっぱり
353 :
名無し募集中。。。:2006/12/24(日) 07:29:21 ID:XJ6BpBR90
やすす最強厨のオレとしては
無技で単純に強いってのが理想だった
ほ
ho
356 :
ねぇ、名乗って:2007/03/19(月) 20:15:38 ID:ZmbkGHYv0
保全age
Q.O.Fトーナメント決勝
石川梨華VS藤本美貴
358 :
ねぇ、名乗って:2007/04/06(金) 19:59:28 ID:YTAnQkIq0
中国からの刺客!!
359 :
ねぇ、名乗って:2007/04/09(月) 02:27:30 ID:fU4PK+ghO
勝者は王者・後藤真希との対戦が決まる。
そして、この日亀井、田中、道重
360 :
なんちゃって:2007/04/09(月) 02:36:01 ID:fU4PK+ghO
勝者は王者・後藤真希との対戦権を獲得。
そして、この日は亀井絵里、田中れいな、道重さゆみの三人のアマゾネスがデビューした。
圧倒的な強さを見せ、勝ち上がってきた総合格闘技界の女王・藤本美貴。
一回戦でエース・安倍なつみを破り、決勝まで上がってきた石川梨華。
ネットによるアンケートでは6:4で藤本有利と予想。
果たして、団体の栄誉を石川は守る事が出来るか。
それとも藤本が後藤との対戦を実現できるか――。
新垣里沙(14分11秒 逆片エビ固め)亀井絵里
一番手として出てきたのは、亀井絵里。
対戦相手の新垣と同い年である。今まで追う立場の人間だった新垣が
追われる立場となり、どのような試合を見せるかが注目であった。
試合序盤は新人の亀井が新人離れしたテクニックとスピードで会場を沸かす。
特に色々な角度から繰り出される特殊の関節技(ジャベ)に
見ている観客の反応は上々であり、このまま亀井が勝つのではと言う空気になりつつあった。
しかし、徐々に亀井の動きが鈍くなっていくにつれて新垣ペースへと変わってゆく。
経験の差がハッキリと現れる。肩で息し必死な形相の亀井に対して、
表情一つ変えず、亀井を叱咤激励しながら試合を進める新垣。
終盤、亀井が完璧なフォームのムーンサルトプレスを決めて
会場を沸かすも新垣の顔色を変える事は最後まで出来ず、逆片エビ固めにて屈する。
小川麻琴(6分32秒 逆エビ固め)道重さゆみ
藤本美貴とのトーナメント2回戦で藤本戦での怪我により欠場した
高橋の分までと奮闘を見せた小川が道重と対戦。
亀井のような派手な動きこそないがしっかりとした基本の動きを見せる。
亀井の技を受けて、相手の長所を見せた新垣に対して、小川は新人としてで無く
一人のレスラーとして道重に応対する。
厳しい技に顔に似合わない根性を見せた道重だが最後はエグい角度の逆エビ固めで決着。
加護亜依(9分22秒 エビ固め)田中れいな
※I-bomb(ライガーボム)
未来のエースとして期待される田中が現エース・後藤真希の妹分である加護と対戦。
ゴングと同時に仕掛けたのは田中。加護に張り手を見舞う。
張られた加護ではあるが笑みを見せ、余裕を見せる。
するとドロップキックの連発。この行為には田中に対してブーイングがとぶ。
しかし、そんな事など気にもせずに田中は顔面への蹴りやパンチをなどで
加護を攻め立てる。試合するのに必死だった亀井、道重に対して勝つ為には手段を選ばない田中。
怪我を恐れぬダイブやキレのあるスープレックス等で加護を追い詰める。
しかし、勝負を賭けたフロッグスプラッシュを迎撃されるや加護がたたみかけ
最後はダイビングセントーンから駄目押しのI-bomb。
試合後、アイボンコールが鳴り響く中、自力で立てない田中に対して
手を差し伸べ握手を交わすと奮闘を見せた田中を讃えた。
364 :
名無し募集中。。。:2007/06/15(金) 23:27:37 ID:yQqHRh+AO
ほ
365 :
保守:2007/07/20(金) 15:37:16 ID:8ranvzUAO
初代王者決定トーナメント1回戦 Aブロック
ミカ(8分 首固め)加護亜依
矢口真里(14分8秒 ウラカン・ラナ)大谷雅恵
柴田あゆみ(24分11秒 飛龍原爆固め)吉澤ひとみ
石川梨華(18分11秒 体固め)あさみ
※シャイニングウィザード
366 :
保守:2007/07/20(金) 15:38:40 ID:8ranvzUAO
初代王者決定トーナメント1回戦 Bブロック
飯田圭織(17分11秒 体固め)斎藤瞳
※チョークスラム
松浦亜弥(8分2秒 スクールボーイ)中澤裕子
りんね(11分23秒 体固め)稲葉貴子
※旋回式垂直落下ブレーンバスター
後藤真希(25分55秒 片エビ固め)安倍なつみ
※GOTO sleep(ロックボトム)→GJ(スーパースターエルボー)
『僕とエリ』 …
368 :
ねぇ、名乗って:2007/08/15(水) 17:32:21 ID:ZUNki4he0
そして光井の物語が始まる
369 :
ねぇ、名乗って:2007/10/24(水) 23:49:43 ID:YX4BcqG2O
落ちると読み返せなくなる保
370 :
ねぇ、名乗って:2007/11/09(金) 15:55:04 ID:qexXn/hmO
辻豆さんどーしてるかな。連載のお礼、言いそびれちゃったなぁ。
371 :
ちざほむ:2007/11/24(土) 21:44:48 ID:K7rpPNEo0
あれから3年・・・
格闘技界の中心には、久住小春という娘がいた。
372 :
ちざほむ:2007/11/24(土) 21:45:50 ID:K7rpPNEo0
『こはるん☆レボリューション』
そんな恥ずかしい見出しの雑誌が、空港の売店に並んでいる。
表紙を飾るのはまだあどけない少女だ。
「フン、まるでアイドルだな」
帰国したばかりの藤本美貴はその雑誌を手にとると、パラパラとページをめくった。
『夏美会館18歳以下オープントーナメント2年連続優勝!!』
『もう誰にも止められない』
『地上最強・ミラクル・久住小春』
その文を見た藤本の目つきが変わる。
「何やってんだ、あのバカ館長は」
373 :
ちざほむ:2007/11/24(土) 21:46:44 ID:K7rpPNEo0
夏美会館。
創立者安倍なつみが引退後も、日本トップの地位を維持する空手団体である。
実に数年ぶりに藤本はその門をくぐった。
安倍の後を継いだ新館長から、しつこい連絡を受けた為である。
「ミキティ!!ひさしびりなのれす!!」
大手を振って騒ぐこの娘こそ夏美会館二代目館長、
3年前のあの戦いで頂点に立った最強の娘・辻希美である。
「ひさしぶりじゃねぇ。んだよこのザマは!」
藤本は空港で購入した雑誌を、辻に叩きつける。
「ふぇ?」
「ふぇじゃねぇ!いつのまに地上最強がこんなクソガキになってんだ」
「それは雑誌が勝手に書いただけれすよ」
「書かれる理由があんだろ」
藤本は相変わらず鋭い。
彼女を呼び出したのはまさにその理由であった。
館長となって以来の多忙で、辻は戦いの場から離れつつあった。
その間に連戦連勝を重ねてスターとなったのが久住である。
374 :
ちざほむ:2007/11/24(土) 21:48:24 ID:K7rpPNEo0
あの戦いの後、久住小春は亀井絵里と共に高橋流柔術門下に入った。
それからの格闘技界における高橋流の勢いは、留まることを知らない。
今や夏美会館の地位をも脅かす存在となっている。
「のんは色々と対策を考えたのれす」
「お前が考えるのかよ」
思えば、紺野が大学受験のため夏美会館を辞めたのは、その実力以上に痛かった。
頭で辻を補佐できる存在がいなくなったのだ。
「でも何も浮かばなくて…」
「自分で潰せばいいじゃん」
「ダメれす。そう簡単に出れねーのれす。館長のメンツがあるのれす。」
「面倒くせえな」
「若手が育たなきゃいけねーのれす。でも小春ちゃんクラスはなかなか…」
「そりゃそうだ」
「でも、今年の新人に変な子が1人いたのれす」
「ふーん。どんな奴?」
「よく分からないんれす。凄いのか凄くないのか?だからミキティに見てほしくて…」
「わざわざ呼んだってのか。やれやれ。で、そいつの名前は?」
「光井愛佳」
375 :
ただの名無し:2007/11/25(日) 18:59:08 ID:ckuf7jpM0
ちざほむ氏、期待してるぜ。
無理せずがんばって。
ヤス━━━━━━━━(`.∀´)━━━━━━━━!!!!
いやキタ(ryだった
頑張ってください!!
377 :
ちざほむ:2007/11/28(水) 00:06:07 ID:y0KZoWcf0
「ゼェ…ゼェ…」
翌日の夕方であった。
藤本美貴が練習で息を切らして倒れるのを、辻は初めて見た。
いや…たとえ試合でもこれほどは無かったかもしれない。
「てめぇ…完全にド素人じゃねぇか、ありゃ」
「その素人より先に息があがってるのはミキティれすよ」
「チッ」
舌打ちする藤本の顔が歪む。
1000回戦えば1000回自分が勝つ。相手は本当に素人なのだ。しかし…。
「光井愛佳…」
昨日からぶっ続けでしごいているのに、まだけだるそうな顔をしている。
休憩をとりながら指導する自分の方が先にへばってしまった。
「熱消費量が…少ないそうれす。常人の約62%とか」
「おい辻、こいつ借りていいか」
「もちろん、そのつもりでミキティを呼んだのれす」
「お似合いの師匠を思いついた。よく見るとあのクソヤローに面影があるじゃねぇか」
378 :
ちざほむ:2007/11/28(水) 00:07:04 ID:y0KZoWcf0
それからさらに数ヵ月後…
辻希美が新たな大会の開催を発表した。
題して「久住小春包囲網」
連戦連勝する格闘技界の新エース・久住小春と
その打倒を目論む7人の新世代格闘家によるトーナメントである。
379 :
ちざほむ:2007/12/01(土) 18:00:38 ID:QKh0ITa20
「これが今決まっている出場者のリストれす」
久住小春(高橋流柔術)
田中れいな(フリー)
マイマイ(C-ute)
光井愛佳(夏美会館)
「知らん名前もあるの」
久住小春の代理人である高橋愛が、リストを見て言った。
辻は1人1人について出場資格と経緯を説明する。
かつて激闘を繰り広げた二人がこうして、大会開催の打ち合わせで顔を合わせる。
何とも妙な感じであった。
「マイマイって、あの荻原舞?」
「小学生の部で優勝。小春ちゃんに次ぐ若手と云われてる子れす」
「若すぎない?大丈夫?」
「本人は久住小春なんか鼻をプーンだって言ってたから大丈夫れしょう」
「ふーん。それで。おたくの光井って子はどうなのよ?」
「それは当日のお楽しみれす」
「ケチ」
実は辻にもよく分かっていない。
藤本が連れていったきり消息不明なのだ。
大会までに戻ってくる約束ではあったが果たして。
380 :
ちざほむ:2007/12/01(土) 18:01:20 ID:QKh0ITa20
「れいなって…オーバーエイジな気もするけど、まぁいいか」
「やる気マンマンで一番に名乗りでたのれす」
そのとき辻の携帯が鳴った。
チーム・ベリーズからである。
「ちょっとごめんね、愛ちゃん」
高橋は手でどうぞと示す。
「はい、もしもし、のんれす」
電話の内容を受けた辻は、小さく笑みを浮かべる。
辻は高橋愛に言った。
「出場者、もう一人がたった今決まったのれす」
ペンで紙に書き足す。
菅谷梨沙子(チーム・ベリーズ)
天才の覚醒。
2強と呼ばれていた嗣永と熊井を打ち破っての出場。
誰よりも久住に借りのある娘の参戦が決まる。
381 :
ちざほむ:2007/12/01(土) 18:03:41 ID:QKh0ITa20
「話は代わるけど。福田さん、知ってるよね。中国にいるあの」
高橋愛の顔つきが変わる。
「平和に日本で暇をもてあましているお前らにプレゼントを贈るって…」
「なんれすか?」
「うちらも知らない真の中国拳法継承者を二人、日本へよこすって」
中国拳法と聞いて、辻はある娘を思い出す。
(・・・いぼん)
「おもしろいじゃないれすか。ぜひトーナメントに出すのれす!」
「優勝、準優勝、もってかれたらどうするの?」
「そんときはのんと愛ちゃんでぶっつぶせばいいのれす」
「なるほど」
これで7名の出場者が決まった。
残り1名の館長推薦枠ということで、この日の話は終わった。
そして物語は大会当日へ・・・。
382 :
カカ ◆e5vr4cQRQ6 :2007/12/05(水) 00:36:05 ID:0Auek5LE0
辻によって久住小春包囲網が敷かれる中、
朽ち果てた闇のコロシアムで、もう一つの決戦が始まろうとしていた。
「君も教える立場に立ってもいいんじゃないか」
「いやぁ、道場の子からプレゼントもらってさぁ!」
「目が・・・、見えねぇ」
「アニキは何処に行った!」
「私はただ、歴史の生き証人になりたいだけ」
「これで決着をつける」
「もう・・・、た、戦え、ない、かも、し、れない、から」
短編小説『ジブンの道外伝 −光の射す方へ−』
近日公開!
383 :
カカ ◆e5vr4cQRQ6 :2007/12/09(日) 01:59:34 ID:3OZMpz+B0
『ジブンのみち外伝 −光の射す方へ−』
あの地獄絵図にも似た激闘が終わってから、吉澤ひとみは多忙を極める。
石川と後藤を助けに行ったのが映像に流れたのがいけなかった。
ベルトを管理するコミッショナーから、メディアを通じて1本の電話。
「すぐにアメリカに戻って防衛戦をしなさい。さもなければベルトを剥奪する」
やっべー!自分が王者であることをすっかり忘れていた。面倒臭いとも思ったが、
「闇での闘いで植物状態になって、何年も寝てた」
と言い訳したところで納得してくれないだろう。五体満足の自分がいるのだ。
吉澤はパートナーと共に一路、アメリカに戻ることにする。
「これからはいつでも一緒だよ」
「かっけーとこ見せてやるぜ、梨華ちゃん」
384 :
カカ ◆e5vr4cQRQ6 :2007/12/09(日) 02:01:27 ID:3OZMpz+B0
防衛戦はねぇ、楽だった。ベルト取った時より強くなった感じ。
死にかけた人間って強いし、なんせ、最強のパートナーがそばにいるんだから。
それよりも、マスコミがさぁ、私のことをすっかり忘れてた方がびっくりしたねぇ。
記者が私の足を見て「死んでませんよね?」って(笑)。
まぁ、トーナメントをブッチしてから音沙汰ないんだから、しゃあねぇか、って。
でも1Rで伸ばしてやったらそいつらさぁ、裏返したように賛美の嵐。現金な奴らだよねー。
それで、あの人に出会えたから結果オーライかな。
385 :
ちざほむ:2007/12/12(水) 23:43:03 ID:ZxG76JJI0
┌─ 久住小春
┌─┤
| └─ マイマイ
┌─┤
│ | ┌─ ジュンジュン
│ └─┤
│ └─ 田中れいな
┤
│ ┌─ 菅谷梨沙子
│ ┌─┤
│ | └─ アテナ
└─┤
│ ┌─ リンリン
└─┤
└─ 光井愛佳
386 :
ちざほむ:2007/12/12(水) 23:43:58 ID:ZxG76JJI0
「わーい、ひっさびさの東京だぁ〜。どこ行こう〜」
「小春の応援やろ」
「ブー」
東京駅に降りたった高橋愛と亀井絵里。
同じ道場の久住小春の応援に来たのだが…。
「つまんなーい。どうせまた小春の圧勝でしょ」
「凄いじゃない」
「どうせなら小春が苦戦するくらいの相手がいてほしい〜」
そこへ目を吊り上げた娘が現れる。
「え〜り〜〜〜。誰か忘れとらんか〜〜〜」
「あ、れいな」
「あ、れいなじゃなか!うちも出場しとー!何が小春の圧勝たい!」
「きゃー!助けてー!」
東京に着いて早々、凶暴なノラネコに襲われる絵里。
「大会前だってのに余裕やね。れいなちゃん」
「あ、愛さん。当然たい。こげん大会、余裕っちゃ余裕!」
不敵に笑うれいな。その自信が過言で無いことは発するオーラから分かる。
(相当腕を上げてきたみたいやの。小春マジでピンチかも)
387 :
ちざほむ:2007/12/12(水) 23:44:56 ID:ZxG76JJI0
久住小春は調整の為、一足先に現地入りしていた。
入念な準備運動。ストレッチ。精神集中。
チャンピオンとなってからも欠かすこと無い様に、師匠の愛にきつく言われている。
(うん、今日も体調はバッチリ☆)
「選手の皆さん、お集まりください。開会式を始めます」
ところが集まっているのは5人しかいない。
どうやら中国の二人と光井愛佳が遅刻しているらしい。
「遅刻とはどーゆーことばい!完全になめてるっちゃね!」
ギリギリ5分前に会場入りしたれいなが激怒する。
菅谷梨沙子はずっと無言で小春を睨んでいる。
残り2人。アテナとマイマイという選手は覆面をかぶっていた。
怪しいのは荻原舞のはずのマイマイ選手が明らかに長身でデカイことだ。
(ま、どーでもいいや☆)
相手が荻原舞であろうが、覆面だろうが、誰であろうが、関係ない。
小春にとってはいつもの通過点の一つに過ぎないのだから。
小春はよくても、大会運営側は黙っていない。
覆面マイマイの周りに集まって問い詰める。
しかし覆面マイマイはてこでも動かない。困る運営陣。
館長の判断を仰ごうとするが、肝心の辻館長が何処にもいない。
時間と迫り、仕方ないから覆面マイマイのまま開会式を行なうことに。
こうして大会は開始前から問題と波乱含みでスタートした。
388 :
ねぇ、名乗って:2007/12/16(日) 03:04:35 ID:2ayqvZ/B0
久しぶりにスレ見たら別作者のが始まってるーっ!
ちざほむさん乙です
389 :
ちざほむ:2007/12/16(日) 22:49:07 ID:IcMjr4Ai0
【1回戦第1試合 久住小春 vs マイマイ】
「決勝まで、負けたら許さない」
控え室を出たところで、すれ違った菅谷がそう呟いた。
なぜ彼女が自分に因縁を持つか小春は覚えていない。
なにしろ因縁など星の数ほど持たれている。
「小春は、あなたが負けても許すよ☆」
スマイルで答える小春。
そういう言動に菅谷らライバルはさらに逆上するのだ。
だが小春に悪気はない。
自分以外の戦いで誰が勝とうが負けようが、関係ないと思っている。
大歓声が聞こえる。
いつしかこの歓声を受けるのが当たり前となっていた。
マイマイという長身覆面選手はすでに舞台の中央に立っていた。
荻原舞とのキラキラピカピカな対決を期待してたファンからブーイングが飛んでいる。
小さい子供を倒すより、大きい人を倒す方がかっこいい。
そう思う小春にとって好都合であった。
相並ぶ両者。
歓声もブーイングも静まる。
開始の合図。
390 :
ちざほむ:2007/12/16(日) 22:49:58 ID:IcMjr4Ai0
「覆面とらないんですか☆」
構えながらそう聞くと、覆面マイマイは意外な返答をした。
「実はとりたい。暑くてむせてるんだ」
おもしろい人だ。小春はそう思った。
「とってもいいですよ☆」
「嫌だ。取ろうとしている隙に攻撃するだろ」
「はい☆」
「正直なバカだな」
「多分あなたの方がバカですよ☆」
言うやいなや、小春は流水のごとき動きで前に躍り出た。
その流れのまま右足から刃の様な蹴りが放たれる。
ザシュ。
その動きに反応できたのは、会場でもごく数名に限られる。
ほとんどの者が何か起きたかわからず、気が付くと覆面が真っ二つに切れていた。
「よけないんですか☆」
「君が覆面だけを狙っていたからな」
覆面の剥がれたマイマイ…里田まいが笑った。
「ほら、やっぱりバカだ☆」
391 :
ちざほむ:2007/12/19(水) 00:09:36 ID:lJSePDqR0
「里田やー!」
ざわめく観客達。そして運営する夏美会館陣営。
里田まいはかつて怪物として恐れられた夏美会館の王者であった。
藤本・紺野・辻らの台頭により、いつしかその名も薄れ掛けていたのだが…。
「空手の人ですね。立ち技で相手しましょうか☆」
小春の提案に、里田は薄く笑みを浮かべて答えた。
「お前…ヘキサゴンって知ってるか?」
里田が動く。早い!
打撃ではない、身をかがめてのタックル。
虚を付かれて対応がワンテンポ遅れる小春。
(倒される。グラウンド?いいよ☆)
高橋流柔術に籍を置く小春。むしろ好都合とばかりにガードポジションをとる。
ズドン。
二人の体が折り重なる様に倒れこむ。上になっているのは里田だ。
小春ファンが悲鳴をあげた。
パウンドの嵐。一撃一撃が半端じゃない。空手のそれである。
両腕で頭をガードする小春。だがガードしても両腕にダメージが蓄積されていく。
「勝った…」
会場の隅に立つ二人の女が言った。
里田と共に新たな格闘技団体を立ち上げた者達だ。
オォー! 続編キテるー!
作者さん乙〜
今後の展開に Wktk
393 :
ちざほむ:2007/12/19(水) 00:10:51 ID:lJSePDqR0
最強の総合格闘技を銘打った団体ヘキサゴン。
打撃とグラウンドの融合。知性より本能を重視したスタイル。
(久住小春。お前はヘキサゴン旗揚げの礎になってもらう!)
その為に里田は荻原舞を強襲し、強引にでもこの場へやってきたのだ!
止まる事の無い里田のパウンド攻撃。小春の腕が真っ赤に腫れあがってきていた。
(いけない、いけない☆)
ペロッと舌を出して笑う小春。
(どの技で倒すか考えすぎちゃった。いつものアレがお客さんも喜ぶカナ☆)
クルン。
ほんの一瞬だった。里田が呼吸の為わずかに上体の浮いた一瞬。
その一瞬で小春と里田の体が上下入れ替わった。
(えっ?)
里田は理解していない。
理解していないまま答えを求める様に拳を突き出した。
その腕に両足を絡める小春。
「さぁ、みなさん、ご一緒にぃー☆」
「バラ」里田の腕ごと体を後ろに倒す。
「ライ」遠心力により里田を持ち上げて一回点。
「カ!!」脳天から叩き落すと同時に腕を決める。
湧き起こる「わーーー!!」という大歓声。
ミラクル・チャンピオンがいつもの必殺技でいつもの様に勝利を収めた。
394 :
ちざほむ:2007/12/19(水) 00:14:06 ID:lJSePDqR0
「強かったよ、チャンピオン」
試合後、里田が気持ちの良い笑みで握手を求めてきた。
小春はそれを満面の笑みで返す。
「あなたも。昔の里田さんより全然凄かったです」
「決められた枠じゃなく、自分の道を行く。今の方が性に合っているみたいだ」
手を離すと、里田は待っている仲間たちの元へ去っていった。
(自分の道か・・・☆)
あまり考えたことは無かった。いつかは高橋愛の下を離れる日が来るのだろうか?
「えらくなったもんやね」
試合場を出たところ、廊下の壁に田中れいなが待っていた。
「ずいぶんと気の抜けた内容、チャンピオンの余裕なん?」
「そんなこと無いですよ☆」
「うちとの試合は、一瞬でも気を抜いたら死ぬと思っとくばい」
トンと壁を叩いて、小春の横を通り過ぎるれいな。
小春はムスッとしてれいなの背中を睨む。
次の瞬間、さっきれいなが軽く叩いた箇所がボコンと破裂する。
目を丸くする小春。
「怒られますよ〜☆」
395 :
ちざほむ:2007/12/21(金) 19:37:25 ID:+1HtEXnn0
紺野あさ美は驚嘆していた。
さっきの試合…久住小春が里田まいとの体を入れ替えた、針の穴を通す様なタイミング。
どれだけの人がその凄さに気付いているのだろう。
『天才』なんて軽い言葉では済まされない。
「あ、紺ちゃ〜ん。観に来てくれたんれすね〜。てへてへ」
「のん…辻館長!何処へ行ってたんですか!」
「ふぇ、トイレれす。昨日たべすぎてお腹こわしちゃって・・・」
「館長のあなたがいないおかげで、なぜか私が開会の挨拶することになったんですから!」
「紺ちゃんのが上手そうだから結果オーライなのれす」
この人は『バカ』なんて軽い言葉では済まされない、と紺野は思った。
紺野はすでに夏美会館空手から引退している。
今日は藤本や高橋など懐かしい面々が集うということで、辻に呼ばれていたのだ。
「知らなかった。里田さんも夏美会館を辞めていたなんて」
「うん。そうなんれすよ」
「人ごとみたいに…夏美会館は大丈夫なんですか?」
「いちおー、秘密兵器は用意してるのれす」
秘密兵器。またロクデモナイことじゃ無いかと心配になる。
今の夏美会館に辻館長の暴走を止められる人物がいると思えない。
そのとき後方から若い女性の声がした。
「失礼」
396 :
ちざほむ:2007/12/21(金) 19:38:39 ID:+1HtEXnn0
振り返ると、ポニーテルの若い娘がすぐ後ろに立っていた。
気配も足跡もまったく感じられなかった。
(だいぶ鈍っているみたい…私)
「中国から来たリンリン言います。今日、大会があると聞いていたです」
「おー!待ってたのれす!大会はもう始まってるよ!」
辻がリンリンと名乗る娘を見て、笑みを浮かべる。
「よかった。出番いつですか」
「すぐなのれす!あ、準備運動の時間を用意しようか?」
「準備運動?意味がよく分かりませんが…必要ない思います」
「そう?あっ、もう一人の子は何処れすか?」
リンリンは笑顔のまま、辻と紺野の後ろを指差した。振り返る二人。
さっきまで誰もいなかった空間に、ショートカットの娘が背を向けて立っていた。
(違う!鈍っているんじゃない・・・)
紺野は背すじに寒気を覚えた。
「ジュンジュンはまだ日本語しゃべれないので、私が通訳します」
「へい。次はジュンジュンさんと田中れいなって子の試合なのれす。すぐに下へ」
リンリンはニッコリ笑い、ジュンジュンと呼んだ娘を伴って、下へ向かった。
紺野の耳に、辻の小さな呟きが聞こえた。
(おもしれーのれす)
397 :
ねぇ、名乗って:2007/12/25(火) 00:09:33 ID:vlHVCR7HO
おもしれ〜のれす
続きキボンヌ
398 :
カカ ◆e5vr4cQRQ6 :2007/12/27(木) 00:51:09 ID:C+XHN1Y40
ちざほむさん、そして、このスレを読んでいただいている皆様、こんばんわ。
違うスレでネタを書いている、カカと申します。
吉澤を使って、短編小説を書こうと思っています。年内には完成させます。
邪魔なら遠慮無く言って下さい。
とりあえず、今から小説をレスするので、これを読んで判断して下さい。
よろしくお願いします。
399 :
カカ ◆e5vr4cQRQ6 :2007/12/27(木) 01:07:28 ID:C+XHN1Y40
>>384の続きです。
あの人。
その人とは、防衛戦後、対談と言う形で出会った人。
「はじめまして、北澤と申します」
「たしか、サッカーやってた人ですよね?」
「はい、ヴェルディという日本のクラブチームで」
(頂点に立てば、色んな人と出会えるなぁ)
漠然とした感想。時間を受け流す空気を引き裂く、キタザワの一言。
「ところで、君は将来、何がしたいの?」
思ってもいなかった不意打ち。
「女性アスリートの寿命は短い。引退後のことは考えてたりする?」
(現役チャンピオンの前で、よくそんなことが言えるよな)
吉澤は内から湧き出る怒りを抱きながら、睨むように、小さなおっちゃんを見る。
「もし、何も浮かばないのであれば、指導者という立場を考えてみてもいいんじゃないか」
握手をし、対談は終了。北澤の手は熱かったが、吉澤の手には戸惑いだけが残った。
400?
401 :
ちざほむ:2007/12/29(土) 18:42:40 ID:ZSzfTQPU0
【1回戦第2試合 ジュンジュン vs 田中れいな】
その戦いは5秒で決着がついた。
最初の2秒でれいなが間合いを詰めた。
右足を踏み込み、右肩から気の塊をぶつける。
(発勁?)
まだ構えすらとっていなかったジュンジュンは、咄嗟に体を斜めに傾ける。
その傾きによって気の塊を操作する。右から左へ、そして反射。
この間わずか0.5秒。
れいなの動物的本能が危険を察知する。
(発勁の気を反射するなんて、出来る訳なか!)
という思考よりも先に体が飛んだ。
飛ばなければこの時点でれいなの体は吹き飛んでいただろう。
目の前でクルッと前宙返りをされてジュンジュンは目を丸くした。
驚異的な反射神経。
(猫?)
回転の勢いそのまま、猫の指が跳んできた。
それすらもジュンジュンはかわす。
わずかに爪先がジュンジュンの手の甲をかすめる。
刹那、巨大な虎の爪が目の前をかすめる錯覚に襲われる。
(死!?)
思わずジュンジュンは咆哮をあげた。
402 :
ちざほむ:2007/12/29(土) 18:43:32 ID:ZSzfTQPU0
ドォン!という音がした。
隣で観戦していた絵里が「れいな!」と叫んで立ち上がる。
愛も叫びそうになった。
試合場では、れいながうつ伏せに潰されていた。意識も無い。
ジュンジュンがその手前で息を切らしている。
深呼吸で息を戻すと、彼女は逃げる様に試合場を降りていった。
固まっていた審判も慌てて、勝敗をくだす。
勝者ジュンジュン。
たちまち驚嘆と感嘆と動揺の音が会場内を埋め尽くす。
その戦いは5秒で決着がついた。
「見えた?」
愛は立ち尽くす絵里に尋ねた。
「見えたよ。見えたけどわからなかった」
愛も同じ答えだった。
5秒…いやほんの2,3秒の攻防であろう。二人とも尋常なスピードでは無かった。
高橋愛と亀井絵里をしてギリギリ視覚できるレベル。
だが二人をしても最後の瞬間は、判断がつかなかった。
(どうやってれいなが倒されたのか?)
分かっているのは、彼女が久住小春の次の対戦相手であるということだ。
403 :
ちざほむ:2007/12/29(土) 18:44:29 ID:ZSzfTQPU0
「(どうしたの?本気なんか出しちゃって)」
会場を出ると、待っていたリンリンが中国語で呼びかける。
ジュンジュンは呼吸も表情も、すでに平静を取り戻していた。
「(今の相手は日本で一番か?)」
「(さぁ?どうだろ)」
「(見たことない動きだった。まるで動物みたい)」
「(蟷螂拳みたいなもの?さしずめ猫拳?)」
「(猫が瞬間的に虎へ変わった。一瞬で指先にすべての気を込めていたんだ)」
「(ふーん)」
れいなの指先がかすめた手の甲から、血が吹き出している。
それをぺロリとなめるジュンジュン。
「(日本をなめていたかもしれない)」
リンリンは驚いた。
あのジュンジュンの口からそんな言葉を聞くことになるとは。
はたして田中れいなという娘が特別だったのか?
それとも本当に日本格闘技のレベルが?
「(いいよ。次、私が確かめる)」
「・・・」
「(最初から、本気でね)」
404 :
ちざほむ:2007/12/31(月) 16:09:42 ID:ti7q4mov0
【1回戦第3試合 菅谷梨沙子 vs アテナ】
興奮冷めやらぬ会場に、菅谷梨沙子が姿をみせる。
強豪揃いのチーム・ベリーズから堂々の出場である。
観客席には嗣永、熊井、夏焼といった主要メンバーも応援にきている。
「おいーす」
そこへ亀井絵里がやってきた。ベリーズ勢の顔色が変わる。
れいなの様子を見に行った医務室で騒ぎすぎ、「うるさい」と追い出され、
ムシャクシャしてちょっかいを出しにきたのである。
「あれ〜、あんたら二強じゃなかったの?」
嗣永と熊井への嫌み。二人は黙るしかない。
バトル・サバイバル以降、この亀井絵里だけには逆らえないのだ。
「梨沙子は努力したの」
代わりに夏焼が応じた。
「久住小春のせいよ。天才に努力をさせた。誰も適わないわ」
「へ〜、言うじゃん」
「今から始まる試合を見れば分かりますわ」
405 :
ちざほむ:2007/12/31(月) 16:10:39 ID:ti7q4mov0
ドタドタドタと走りながら、覆面選手アテナが会場に駆け込んできた。
悠々と待ち構える菅谷梨沙子とは対称的である。
「準備はいいの?」
ハアハア息をしながら、何度も頷くアテナ。
試合開始の合図。
「その覆面、とったら?」
微笑を浮かべる菅谷、流水の動きで前に出る。
そのなめらかな動作に誰もが気付く。
(久住小春と同じことを!)
右足から刃のような蹴りが放たれる。
「ふぎゃー!!」
バチコォンッ!!!!!
無駄に慌てまくるアテナの頭に、菅谷の蹴りがクリーンヒット。
覆面だけを切り裂くつもりだった菅谷があっけにとられる。
(自分から動いてぶつかって・・・)
(こいつバカ?)
頭を抑えながらのたうちまわるアテナ。完全に隙だらけ。
(なんでこんなバカが大会に出てるの。みっともない)
菅谷はとっとと終わらせるつもりで、前に出た。
406 :
ちざほむ:2007/12/31(月) 16:11:33 ID:ti7q4mov0
「ふぃ〜、間に合ったか」
「あ、藤本さん!お久しぶりです」
「おう紺野じゃねぇか」
試合観戦していた紺野の所に、藤本美貴がやってきた。
ラフな格好、着の身着のまま駆けつけたという感じである。
「バカ館長は何処だ。光井を連れてきたぞ」
「それが、さっきまでいたんですけど、またお腹が痛いってお手洗いへ」
「あの鋼鉄の胃袋が腹イタ?嘘くせぇ〜な」
「たしかに・・・」
「光井はいま更衣室で着替えさせてるから、出番きたら教えてくれよ」
「今、3試合目で光井さんの出番は次です」
「それはちょうどい・・・」
藤本は試合場を見た。
あやしい覆面選手が頭を抱えてもだえている。
それを見た途端、藤本の表情がこわばる。
「いま嫌な予感がしたのは美貴だけか」
「いいえ、私はさっきからずっと」
407 :
ちざほむ:2007/12/31(月) 16:12:30 ID:ti7q4mov0
ラッシュをかける菅谷。試合は一方的な展開に・・・
「い、い、い、い、い・・・」
めったうちのアテナの覆面から奇妙な声が漏れるのを菅谷は聞いた。
それがこの日の最後の記憶となる。
「いてーのれす!!!」
アテナがムリヤリ手を伸ばした裏拳が、ちょこんと菅谷の頬に当たった。
観客はそんな風にしか見えていなかった。
すると菅谷が膝を折りたたんで崩れ落ち、そのままピクリとも動かなくなった。
「え?」
観客どころか審判までもがボーゼンとなる。
嗣永・熊井・夏焼や絵里の頭上にも「?」マークが浮かぶ。
覆面を抱えたままムクリと起き上がるアテナ。
そのまま両腕を突き上げて勝利のポーズ。
「勝者!!!アテナーー!!!」
勝利コールに湧き起こる歓声とブーイングの嵐。
手を振りながら退場するアテナ。覆面の下の表情は誰にもわからない。
若干三名、藤本と紺野、それから高橋愛のみが顔を歪めていた。
(あの背丈で、あのパワー。世界に一人しかいねーだろ)
408 :
ちざほむ:2008/01/02(水) 12:19:58 ID:jk46xajp0
【1回戦第4試合 リンリン vs 光井愛佳】
ポニーテルが舞う。
顔、胸、腹、それぞれに打ち込まれる拳。
後ろに倒れそうな光井の後頭部に向けて、回し蹴り。
今度は前に崩れる光井の爪先を、リンリンはかかとで押さえつける。
膝蹴りをアゴに叩き込む。上を向いた顔面にひじ鉄。
グシャリと鼻がひしゃげる音。
とどめのハイキックは二段仕込み。
右を打ち込んで、落ちてきた頭を今度は左足で蹴り飛ばす。
ゴトンと光井愛佳の頭が床に落ちた。
試合開始からものの数秒の出来事であった。
(弱い!弱すぎるじゃない!)
リンリンは不満気な顔をし、セコンドに立つジュンジュンを見下ろした。
日本をなめていたかも・・・というから本気を出したのに。
会場は静まっている。
夏美会館代表の選手が、手も足も出ず異国の娘に倒される。
しかもそのレベルの差が圧倒的すぎた。文句の付けようのない差。
黙り込むしかなかったが・・・。
審判が勝利宣言をしようとすると、光井はムクリと起き上がった。
「おおっ!」とあちことから沸く歓声。
リンリンは目を細める。
(生意気ね)
409 :
ちざほむ:2008/01/02(水) 12:20:56 ID:jk46xajp0
リンリンとジュンジュンは中国の奥地で育った。
中国武術の中でも類まれなる素質を持つ者だけが入門を許される聖地がある。
四千年の歴史の中でも、十代の娘で聖地入りが叶ったのはわずかに二人。
それがこのジュンジュンとリンリンであった。
『気孔の天才』ジュンジュンに対し、
リンリンは『体術の天才』と呼ばれた。
その小さな体に、四千年の武術が宿っている。
「破!」
高橋流柔術を極めた愛ですら、思わず息を呑む。
見事としかいい様のない連続攻撃。
(悔しいけど勉強になる)
光井愛佳、二度目のダウン。
誰の目から見てもレベルが違いすぎた。
もう何十の打撃がクリーンヒットしたことか。
それに対しリンリンはかすり傷一つもらっていない。
「まだやる気?」
ムクムクッと起き上がってくる光井愛佳。まるでゾンビだ。
リンリンは冷酷な瞳で光井を指差す。
「次、死ぬよ」
ほ
411 :
ちざほむ:2008/01/09(水) 19:40:19 ID:rqOSh9d+0
光井はキョトンした顔でリンリンを見た。
あまりにレベルが違いすぎて、おかしくなってしまったか。
「お前程度、指一本で充分ね」
リンリンは人差し指を立てる。
むかってくる光井。あまりに単調な攻撃。造作もなくかわすリンリン。
かわすと同時に、一本の指でこめかみを打った。
すると光井の口・鼻・目・耳、至るところから血が吹き出す。
「キャー」
会場のアチコチから悲鳴があがる。
「ひ、酷い!もう止めるべきです!」
紺野が藤本に叫ぶ。
しかし藤本はのん気にあくびをしていた。
「はぁ?酷いってどこが?」
舞台の上では、真っ赤な血に染まった光井が、けだるい顔でいた。
おもむろに両手をあげると、
「ふあ〜あ」と大きくあくびをする。
(たいくつやなぁ)
412 :
ちざほむ:2008/01/09(水) 19:40:57 ID:rqOSh9d+0
それを見たリンリンの顔つきが変わる。
(勝っているのは自分だ。まちがいなく自分だ)
(なのになぜこの日本人はこんな顔している)
「貴様、武術を始めて何年になる?」
「ん〜?え、えーと」
「私は4千年だ。4千年の結晶がこの体に満ちて・・・」
「3ヶ月くらい」
リンリンと光井愛佳。
天才とド素人。
4千年と3ヶ月。
二人の間に無言の空気が流れる。
「殺す」
打・打・打・打・打・打・打・打・打・打・打・打!!!!!!
「嘘だな」
光井愛佳をボコボコに打ちのめすリンリンを、藤本美貴はせつなく見つめる。
「死ぬだの、殺すだの、ぜんぶ虚言だ。奴は殺し合いなんてしたことねぇ」
「武術においては4千年の差があるかもしれねえが・・・」
「光井は格闘技が3ヶ月じゃなく、殺し合いが3ヶ月」
「3ヶ月とド素人・・・結果はみえてる」
413 :
ちざほむ:2008/01/09(水) 19:41:42 ID:rqOSh9d+0
崩れ落ちる光井の右手がリンリンの足首を掴む。
「離せ!」と蹴りを何発も入れるリンリン。
どんなに叩かれても、どんなに蹴られても、
殺すまでもう二度と離さない。
リンリンの表情に鬼気迫る。
二本指を光井の両目に向けて放った!!
光井は後ろに下がるでも、横に顔をそむけるでもない。
自分から顔を前に出してきた。
「ヒッ!!」
これに驚いたのはリンリンの方。
距離感がズレて二本指が光井の眉間にささる。
それでも光井は顔を押し出すことをやめない。
光井は額から、自分の頭部をリンリンの顔面に向けて叩き込んだ。
ガチィン!!!
二人の間に血飛沫が舞う。
鼻がつぶれ、悲鳴をあげて倒れるリンリン。
光井はまだけだるい顔で立っていた。足首を握る手はもちろん離していない。
逆の手で人差し指と中指を立てると、嬉しそうに笑った。
「これ・・・ありなんや」
鼻を抑え涙ぐむリンリンの瞳に、二本指を向けた。
その瞬間、4千年のプライドは崩壊する。
414 :
ちざほむ:2008/01/14(月) 00:25:31 ID:on1FeBpc0
決着はついた。
泣き叫んで命乞いをする天才児に、光井は興味を失う。
(つまらん)
(もっとおもしろい奴いないのかなー)
勝利宣言を受けるまでもなく光井は舞台を降りていった。
「どんな育て方したんれすか?」
気が付くと、藤本の後ろに辻希美が立っていた。
藤本は振り向きもせずに答える。
「何だよ。美貴に預けたのは館長、あんただぜ」
「あんな戦い方。夏美会館じゃねーのれす。なっちしゃんの残した夏美会館じゃ・・・」
「そうか?よっぽど安部なつみらしいと思うがな」
二人の間に険悪な空気が流れる。
「なっちしゃんの悪口は、ミキティと言えど聞き逃せねーのれす」
「これでも誉めたつもりだけどな」
「きっと準決勝でアテナ選手にやられるのれす」
「フフ、あんな平和ボケした覆面じゃ、荷が重いかもな」
「上等れす!特上れす!やってやるのれす!」
どちらの肩をもつでもなく、紺野が呟く。
(夏美会館同士で潰しあってる場合じゃ無いと思うけどなー)
415 :
ちざほむ:2008/01/14(月) 00:26:18 ID:on1FeBpc0
同時刻、ハロープロレス練習場。
本番さながらの攻防で汗を流す二人の娘がいた。
現ハロープロレス社長、新垣里沙。
そしてあの戦い以後、ハロープロレスにスカウトされ、
いまや名実ともにエースとなっている道重さゆみである。
凶器を使用しても許されるからというのがスカウトを承諾した理由らしい。
練習を終えた二人が、ベンチに座り、ドリンクを飲む。
「さゆ、準備はいいな?」
「もちろんなの」
「夏美会館のトーナメント決勝戦に乱入する」
「そして決勝進出者の二人をぶっ倒すの」
「ハロープロレス最強を見せつけ、夏美会館、高橋流柔術と戦争の始まりだ!」
恐ろしい作戦を考えていた。新垣が高笑いをあげる。
さゆも一緒になって笑う。
「さぁ、そうと決まったら明日に備えて今日はグッスリ寝とくぞ!」
「はい!今日は爆睡なの!」
二人はトーナメントの日にちを間違えていた。
416 :
ちざほむ:2008/01/14(月) 00:27:09 ID:on1FeBpc0
ハロープロレスの乱入も無く、トーナメントは進む。
┌─ 久住小春
┌─┤
│ └─ ジュンジュン
┤
│ ┌─ アテナ
└─┤
└─ 光井愛佳
おもしろ杉
418 :
ちざほむ:2008/01/19(土) 11:23:31 ID:o7mE8y5y0
「う〜〜〜〜ん☆」
久住小春が大きく伸びをする。
自分の試合が終わってから、控え室でずっと眠りこけていたのだ。
「起きたか」
愛が控え室に来ていた。
小春は自分の出番の前になると、自然と目が覚める不思議な習性を持つ。
「次の相手は中国拳法だ。強力な気の使い手」
「え!?れいなさん負けたんですか☆」
「秒殺やよ」
「へ〜。後でからかってやろ〜っと☆」
ピョンと飛び起きる小春。
控え室の外で、絵里が不機嫌そうにしている。
「小春」
「あ、絵里さん☆」
「負けんなよ」
小春はピースサインを作って、会場へと走り出した。
試合前にあの二人が、揃ってあんな顔していることなんて今まで無かった。
中国拳法はそれほどの相手ということか?
(楽しみっ☆)
419 :
ちざほむ:2008/01/19(土) 11:24:18 ID:o7mE8y5y0
「(総本山に連絡をいれた)」
無表情のジュンジュンが言う。
「(破門だそうだ)」
頭を抱えてうな垂れるリンリンの肩がビクッと揺れる。
当然である。こんな小っぽけな島国で、あんな無様な負け方。
「(いいわけはある?)」
ブンブンと首を横に振るリンリン。
いいわけなんてできるはずがない。
「(あなたが地に貶めた中国拳法の権威なら心配いらない)」
心配などしていない。彼女一人で中国拳法最強を見せつけられるだろう。
この大会の優勝者はジュンジュンだと始めから決まっている。
自分には準優勝が限界。
今まで何百回と戦ったが、ジュンジュンに勝てたことはただの一度もない。
他の誰も勝てない。彼女こそが本当の天才である。
「(それじゃ)」
自分が負けても、ジュンジュンは怒りも哀しみもしない。いつも通り。
背中を向けて遠ざかってゆく。
ほ
421 :
ちざほむ:2008/02/03(日) 11:52:05 ID:nZoH7NK60
【準決勝第1試合 久住小春 vs ジュンジュン】
中国が生んだ天才と日本が生んだ天才。両雄が並び立つ。
開始の合図と共にしかけたのは小春。
まずは様子見のローキック。
それでも凡人には見えぬスピードであった。
ジュンジュンは一歩後ろに下がって、それを寸前でかわした。
ローが過ぎると同時に、下げた足をスッと前に戻す。
その前の足が踏み込んだ足が地に着く前に、小春は慌てて後ろへ飛んだ。
感じるものだけが感じ取った。
瞬間、二人の間に異様な気の塊が落ちたのを。
もし小春があのままあの位置にいたら、試合は終わっていたかもしれない。
(うっわ〜、これは強いや☆)
小春は複雑な笑みを浮かべる。
その笑みには強い敵と戦える喜びと、その底が見えない恐怖が混じっていた。
ステップを踏む。小春はジュンジュンの周りを軽快に回り始めた。
そうしながら策を考える。どう倒すか?
(小春に勝機があるとすれば、倒して寝技に持ち込むくらいか)
(だが近付いたら、あの気でやられる・・・)
師匠の愛は、その力関係を冷静に分析していた。
はっきり言って分は悪い。あのジュンジュンという娘は恐らく自分でもてこずる。
(さぁ〜どうする?小春)
422 :
ちざほむ:2008/02/03(日) 11:52:51 ID:nZoH7NK60
ステップを止めた小春は、体を低く構えた。
ジュンジュンが間合いを詰めてくる。
迎え撃つ小春、低空姿勢のままタックル。あまりに安直な攻撃。
(やられる!!)
誰もがそう思った。
ジュンジュンの気の餌食に…
ピタッ!
そのとき止まったのは小春のタックルだけではない。
二人の空間、二人の時間、試合の流れそのものを小春は止めた。
タイミングを外された、見えない気の塊が床に沈む。
それを感じ取った針の穴を通す程のタイミングで、再び小春の体が風を切る!
ズドォォン!!
二人の体が折り重なって倒れこむ音。
上になっているのが小春。下になっているのがジュンジュン。
「うわおおおおおおおおお」という歓声が津波になって会場を襲う。
高橋愛、亀井絵里、辻希美、紺野あさ美、藤本美貴といった歴戦の猛者ですら、
その一迅のタックルに思わず見とれた。
(チャンス☆)
これしかないという方法で、圧倒的不利な状況をひっくり返した。
小春は勝負を一気に決めにかかる。
423 :
ちざほむ:2008/02/03(日) 11:53:40 ID:nZoH7NK60
絶対無敵の必殺技!!!
「バラ」ジュンジュンの腕ごと体を後ろに倒す。
「ライ」遠心力によりジュンジュンを持ち上げて一回点。
そして脳天から叩き落と…
「破ッ!!!!!!!」
そのとき小春は何も無い空間に爆発を感じた。
衝撃で二人のバランスが崩れる。
その隙を突いて、頭から落ちるはずのジュンジュンが床に手を付き、危機を脱する。
「ハアハアハアハア」と大きく息を乱すジュンジュン。
自分の体内の気を一瞬ですべて外に発し、爆発を起こす。
これがれいなを一瞬で倒した技の正体であった。
技を解かれた小春は、かろうじて起き上がる。
爆発の衝撃でまだ全身が痺れているのだ。
今のは床に向けて爆発させただけ。
もしあの爆発が自分に向けられていたら・・・?
小春は知らないが、あの爆発を受けたれいなは未だ意識を取り戻していない。
小春の額に嫌な汗が浮かんだ。
バラライカを返されたのは初めての経験であり、今の自分にそれ以上の必殺技は無い。
そしてあの気の爆発の対抗策も、まるで思いつかない。
ジュンジュンの息の乱れは徐々に落ち着いてきている。
424 :
ちざほむ:2008/02/10(日) 11:01:03 ID:eekVhdPy0
そこからしばらくは膠着状態が続いた。
小春は安全な位置で、ヒットアンドアウェイを繰り返すのみ。
その間にもジュンジュンは気を戻しつつある。
時間が経過すればするほど、不利になるのは小春。
本人も分かっているが、まだ対策が思いつかない。
「この程度ですかぁ?久住小春って」
藤本美貴の横に、光井愛佳が戻ってきた。
さきほどの怪我は医務室で治療を済ませてきたらしい。
死神の地獄を生き抜いてきた光井にとって、あんなのはかすり傷に等しい。
「お前ならどうする?」
「分かりません。でも、あの場所に立てば、何とかします」
そういうものだ。
実際に向き合って戦う中で、咄嗟に普段の自分では思いつかない戦法をとれる。
それこそが極限の戦場で生き延びるのに必要な事項。
藤本美貴にとっても、久住小春の戦いを見るのは初めてのこと。
さっき見せたタックルで、その資質が超一流であることは分かった。
だがその先にいけるか?
ルールに守られた試合ではなく、命を賭けた死合いで通用するか?
おそらくそれがこの戦いの命運を分ける。
そのとき、久住小春の顔つきが変わった。
425 :
ちざほむ:2008/02/10(日) 11:02:01 ID:eekVhdPy0
「しょうがないや☆」
常に浮かんでいた口元の笑みが消える。
「きれいな勝ち方にこだわるのはヤメ☆」
小春は左腕をまっすぐ前に伸ばすと、その腕以外はタックルの構えをとる。
そのまま有無を言わさずつっかけた。
(どうするか)
ジュンジュンの思考に一瞬の迷いが生じる。
左腕を対処するか、タックルを対処するか?それとも奴には別の狙いが?
この思考は一瞬で止まる。焦りはしない。
ひとつひとつ片付ける。それだけのこと。
(まずは左腕・・・)
小春の左腕は無防備に伸びたまま、ガードの気配もない。
(左腕を捨てる気か?)
ジュンジュンの思考がそれに気付く。
奴は左腕を捨ててでも、タックルをとりたいのだ。
その瞬間0.1秒、ジュンジュンは左腕を破壊することを選ぶ。
たとえタックルをとられても負けはしない。
すでに気は戻りつつある。
両手に気の塊を作る。それで小春の左腕を挟んだ。
ボキィという鈍い音が聞こえた。
(折れた)
ジュンジュンは倒されながら、その感触を得た。
426 :
ちざほむ:2008/02/10(日) 11:02:59 ID:eekVhdPy0
寝技の攻防が始まる。もつれる二人の体。
激痛に歪む小春の顔。
しかしタックルは成功したのだ。この機を逃す訳にはいかない。
痛がるのは勝利宣言を受けた後でいい。
左腕は消えた。
それでも右腕と右足と左足と胴体と頭。使えるところはいくらでもある。
それが高橋流柔術だが、その技術に関して、小春はまだ未熟であった。
他の技はバラライカほどに成熟されていない。
レベルが下のもの相手ならば良いが、このレベルの相手には通用しない。
ということは決めるにはやはりバラライカしかない。
だがバラライカは一度防がれている。
小春の集中力が、これまでないほどに高まってゆく。
そして小春は自分のミラクルを信じた。
「バラ」ジュンジュンの腕ごと体を後ろに倒す。
「ライ」遠心力によりジュンジュンを持ち上げて一回点。
「カ」「破ッ!!!!!!!」
さっきのリプレイを見ている様であった。
決めの所でジュンジュンが気を爆発させて、技が解かれ・・・。
「バラ」技が解かれていない。小春はさらに技を続けようとしている。
「バラ」逃げようとするジュンジュンの腕を再びもぎとった。
「イカ」二人の体がもつれあって一回転する。
必死の表情の小春。必死の表情のジュンジュン。
才能と才能ではない、意地と意地のぶつかりあいだ。
427 :
ちざほむ:2008/02/10(日) 11:03:35 ID:eekVhdPy0
「バラ」右腕と胸でジュンジュンの腕を抱え込む。
そのまま倒す。しかし決めきれない。まだ粘る。
「ライラ」両足でジュンジュンの肩から胴体を挟み込み捻る。
もう気も無くなっているのに、ジュンジュンは気合で抵抗する。
「カイ!」小春が叫んだ。締めながら腰を浮かして大きく一回点。
脳天から落ちる所を、無理に体をひねって避けたジュンジュン。
(負けられない…負ける訳には・・・)
「カイ!」間を置かずもう一度回転する小春。
ジュンジュンにもう力は残されていなかった。
(日本の…久住小春…強…)
締め上げられたまま脳天から落ちる。
中国の生んだ天才娘は、そのままバタリと動かなくなった。
「勝者!久住小春!」
観客席にまきおこる大歓声。
「小春やった!」と亀井絵里もガッツポーズを作っている。
しかし当の本人の顔は浮かない。
緊張の糸がほどけると同時に骨折の激痛が襲ってきたのだ。
小春は涙をこらえながら、試合場を逃げるように飛び出していった。
戦いの中で技が進化する。久住小春がさらに強くなっていった証。
中国4000年の生みし天才すらも撃破した。
しかし勝利に払った代償もまた大きい。優勝まで残りひとつ。その相手は・・・。
428 :
ねぇ、名乗って:2008/02/10(日) 23:56:37 ID:qjLNGmIB0
ノリo´ゥ`リ
429 :
ちざほむ:2008/02/11(月) 15:58:02 ID:7U/fr/Oj0
【準決勝第2試合 アテナ vs 光井愛佳】
「これが事実上の決勝戦って訳ですね」
ストレッチをしながら光井愛佳が言った。
片腕を失った久住小春は、もはや敵ではないと云いたいのだ。
それを聞いた藤本は首を捻って答える。
「何だお前、決勝のことなんざ考えていたのか」
「へ?」
「それよりよっぽど価値ある・・・世界最強への挑戦権をもってるくせによ」
「え?」
「そいつは美貴やあの高橋愛ですら、喉から手が出るほど欲しいキップだぞ」
光井愛佳の顔色が青ざめてゆく。
まだガキだが、その辺の理解はできる様だ。
「藤本さん。あのアテナって覆面は・・・」
「幸運に感謝するんだな。格闘歴わずか3ヶ月でその位置へ辿り着いた幸運に」
「・・・嘘・・・ですよね」
「久住の様に腕一本で済むと思うな。死んでこい」
それだけ云うと、藤本美貴は控え室を出て行った。
一人残された光井愛佳。
全身がガタガタと震えだす。
430 :
ちざほむ:2008/02/11(月) 15:59:10 ID:7U/fr/Oj0
時間です。
まるで死刑宣告みたいに告げられる。
何も考えられない。ただ立ち上がって言われるがまま道を進む。
光が見えた。死刑台・・・いや試合場・・・いや代わりないか。
すでに試合場の上ではアテナが待っている。
おかしい。足取りが重い。ちっとも進んでくれない。
体が、本能が、拒んでいるのだ。先へ進むのを。
そんなはずはない。これまでだって自分は地獄をこえてきたではないか。
違うな・・・師匠は私なんかに本気で敵意を向けてはくれなかった。
だが今、あのアテナは私だけを見ている。
これが一対一の恐怖。
「愛佳」
藤本さんの声だ。
入場しても、ちっとも動かない自分に声を掛けてくれたのだ。
(死んでこい)
そうだ。やるしかないんだ。ようやく足が前に出た。
一歩、一歩、近付いてくる。試合場への階段に踏み入れる。
ゾワッ!背筋が凍りつく。なんて威圧感。たかが私なんかの為に。
そうかこれが地上最強か。
口元にムリヤリ笑みを作ってやった。
「光栄だ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そこから記憶が飛んだ。
気が付くと闘技場の下に座っていた。
431 :
ちざほむ:2008/02/14(木) 20:16:27 ID:jXLCJUek0
混乱する光井愛佳を、藤本美貴は遠めで見ていた。
「声を掛けにいかないの?お弟子さんの」
「あれは美貴の弟子じゃねぇよ」
高橋愛だった。口調とは裏腹に険しい顔をしている。
「久しぶりです。藤本さん」
「ああ」
初めて見たときはまだ田舎まるだしのガキだった。
今やすっかり格闘技界をひっぱるリーダーの顔になってやがる。
「辻さんを威嚇したのは貴女でしょ」
「悪かったな。あいつは甘すぎるからよ」
「おかげでトンデモナイものが見れましたけど」
現在、試合は中断している。
試合開始と同時にアテナの放った拳が、光井をそれて地面に当たった。
その結果、石造りの闘技場に巨大な亀裂が入ってしまったのだ。
「あれが安倍さんと亜弥と梨華さんを倒した、∞の拳」
「まさかマジで本気でくるとはな」
0.1%くらいあった油断という可能性も消えた。
光井が棄権すると言っても仕方ない気と思えてきた。
432 :
ちざほむ:2008/02/14(木) 20:17:27 ID:jXLCJUek0
「試合再開します!!」
闘技場の一時的な修復が終わり、再びあいまみえる光井とアテナ。
逃げ出さずに上がってきた。それだけでも光井を誉めたい。
(でも、つぎの一発でおわりれす)
アテナの拳に無限大の力が宿る。
ザワッ
そのとき会場がざわめいた。光井が両手を前に重ねて構えたのだ。
(やる気れすね。でも、てかげんはしねーのれす)
「あの子、受け止める気?アレを!?」
高橋愛ですら驚いている。
気が付くと藤本美貴の腕に鳥肌が立っている。
「光井愛佳の熱消費量は常人のおよそ62%」
「なんやそれ」
「あいつなら∞を62%に抑えられるかもしれない」
「・・・計算できないんやけど」
「ああ。だから計算できない何かが起きるかもしれねーんだよ」
安倍なつみにも。
松浦亜弥にも。
石川梨華にも。
誰にもやぶれなかった地上最強の拳だが、あの光井愛佳ならば。
ドンッ!!!!!!!!!!!!!!
433 :
ちざほむ:2008/02/17(日) 11:47:36 ID:MgH7VWJL0
ぶつかる二人。やはり場外まで吹き飛んだのは光井愛佳だった。
アテナは拳を突き出したまま、固まっている。
覆面でその表情は読み取れない。
審判が「勝負あり」のコールをしようとしたそのとき、光井の叫び声が聞こえた。
「まだぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
フラフラと立ち上がり、試合場へ上がってくる。
そしてアテナを見てニィ〜と笑った。
「まだ、うちはやれる!!」
アテナも覆面の下で微笑んだ気がした。
湧き起こる歓声。
再び構えるアテナと光井。
「信じられんわ。あれをくらって起きてくるなんて。もしかしたら奇跡が・・・」
「起きねーよ!」
高橋の声を藤本が遮った。
「光井の全身の骨にヒビが入った。いま立っているのがやっとのはずだ」
「嘘。止めないの?」
「お前は止めれるか。目の前の勝負に命掛けよーとしてる奴を・・・」
誰にも止めることはできない。当事者の二人以外には。
突進するアテナ。待ち受ける光井愛佳。
拳と両手が重なる!!
434 :
ちざほむ:2008/02/17(日) 11:48:31 ID:MgH7VWJL0
寸前。拳が止まった。
「のんのまけれす」
今度はたしかに、覆面のしたが微笑んだ。
お腹を抱えて崩れ落ちるアテナ。
死ぬ気で構えたまま、動くことのできない光井。
審判も混乱しているが、勝敗を宣言するしかない。
「勝者!光井愛佳!!!」
緊張がとけた途端、光井は立つこともできず、気絶した。
タンカで運び出される両者。
最初の激突で両者ボロボロだったという後付け解説が発表された。
だが真相は―――
「妊娠っ!!!!」
アテナ=辻希美の運ばれた病院からの連絡に、全員が度肝をぬかす。
「そういえばお腹痛いって何度もトイレに行ってましたね」と紺野。
「やけにお腹が出てるのも、ただの食いすぎやと思ってた」と高橋。
「てゆうか、そんな状態でずっと戦ってたんですかー!?」と亀井。
「バカなんだよ」と藤本。
主催者のおめでた。決勝進出者2名も重症。
という訳で決勝戦のみ延期という形で、大会は幕を閉じた。
435 :
ちざほむ:2008/02/17(日) 11:49:21 ID:MgH7VWJL0
それから数ヶ月後
怪我の完治した二人により、
決勝戦がはじまる
久住小春 VS 光井愛佳
ho
437 :
ねぇ、名乗って:2008/03/15(土) 21:16:46 ID:dBCUjLdG0
続きが見たい
438 :
ちざほむ:2008/03/19(水) 21:19:26 ID:sgJtqkpw0
その日の朝、空港に立つ藤本美貴。
「まさか、あんたがわざわざ来るとはね」
皮肉まじりの美貴のセリフに、サングラスの下の目がギラつく。
「相手の久住は、愛の弟子なんでしょ」
「あぁ」
「おもしろいじゃん」
そう、亜弥にとってはたとえ弟子の話であろうと許せないのだ。
高橋愛に負けるということは。
サングラスを外す桃色の死神。
久しぶりの日本に、目を細める。
「愛佳に伝えといて。負けたら殺すって」
こいつの「殺す」は冗談じゃない。
藤本美貴はよく知っている。
「直接言えよ。師匠はお前だろ」
松浦亜弥、凱旋!
439 :
ちざほむ:2008/03/19(水) 21:21:00 ID:sgJtqkpw0
「日にちを間違えるなんて、最低なの」
「さゆー!まーた人のせいにしてぇー!!」
「だって新垣さんのせいだもん」
運転席と助手席で騒ぐ二人。
ハロープロレスの新垣と道重だ。
「ゴホン」
そして咳払い一つでそれを止める女。
久しぶりに帰ってきたハロープロレスの元社長。
もはや貫禄が違う。
「決勝は今日なんだ。まだ間に合うだろう」
「は、はい!」
「あばれてやるの」
三人を乗せた車は一路、決勝戦会場へ。
その女は後部座席の中央に大きく陣取って、微笑を浮かべている。
「フフ、楽しみね」
飯田圭織、出陣!
440 :
ちざほむ:2008/03/23(日) 10:56:51 ID:qzTbpruk0
石川梨華にその気はなかった。
今さら格闘技の観戦という柄でもない。
しかしあの子にああ言われては、顔を出さない訳にはいかない。
「次に強い人でもいなきゃ、のんの首を狙いにくる人達に申し訳が立たねーのれす」
出産直後の体で病院からわざわざの電話。
最強・辻希美に最も近い女が、軽やかに立ち上がる。
向かった先はボクシングジム。
「デートに行かない?」
振り返る女。微笑む女。
「ボディーガードの間違いだろ」
「バレた。悪い虫がいっぱい寄ってくるの」
「魅力的だからな」
「私、よっすぃー以上の人しか相手にしたくないから」
「多分誰もいないぜ、それ」
吉澤ひとみが拳を振るうと、サンドバッグは破裂した。
石川梨華、参戦!
吉澤ひとみ、参戦!
441 :
ちざほむ:2008/03/23(日) 10:57:46 ID:qzTbpruk0
久住小春の代理として、夏美会館より呼ばれた高橋愛。
今、その眼前に意外すぎる女が立っていた。
「辻希美不在時の館長代理、あなた以外に務まる者はいないでしょうけど・・・」
「やめてよ、こう見えてもいい年なんだから」
「十分、現役でいけますよ」
「まぁね。新しい子たちがドンドンでてきている。
ベリーズやC-uteなんかも力をつけてきている。
それでもまだまだ負けてられないって思っちゃう訳だ」
「生涯現役」
「そうね。私も、あなたも」
「噂では今日、なつかいしい人がいっぱい集まるみたいで」
「ああ、そいつらも」
「久しぶりに、楽しい祭りになりそうです」
「楽しい祭りにしてみせるよ。館長代理の名に恥じない程度にね」
太陽の微笑み。
高橋愛は久々に背筋が凍る気を受けた。
これが安倍なつみである。
「さぁ、開場の時間だ!」
安倍なつみの祭りの始まり!
楽しみ
443 :
ねぇ、名乗って:2008/03/30(日) 19:20:41 ID:0/SeX7WF0
俺も
444 :
ちざほむ:2008/04/05(土) 22:34:51 ID:NZYIdN2H0
会場は満員御礼。
もちろん久住小春と光井愛佳だけでこれだけの客を集めた訳ではない。
安倍なつみの館長代理の件と共に、噂が噂を呼んだのだ。
今や伝説となった娘たちが集うという噂。
「久住のセコンドが高橋。光井のセコンドが松浦。こりゃ絶対何かあるぞ」
「しかも今日はあの不死身の石川梨華が来るらしいぜ」
「いや今や実力的にはよっすぃーが上じゃないか?」
「ハロープロレスのジョンソン飯田も黙っちゃいねぇだろう」
「なっち皆殺しだ!!」
「ヤスス!ヤスス!」
試合前から会場の興奮は最高潮となっている。
「みんな〜!ひさしぶり〜!」
そして開会の挨拶。
館長代理・安倍なつみの登場と共に轟く「なっちコール」
この人が笑うだけで世界は空気を変える。
445 :
ちざほむ:2008/04/05(土) 22:36:03 ID:NZYIdN2H0
「うっわ。やりずらそ〜」
開場を下見に行っていた亀井絵里がペロッと舌を出して、控え室に戻ってきた。
せっせと柔軟運動をする小春の肩をポンと叩く。
「誰もあんたと光井ちゃんの話してないよ」
「ゴングが鳴ったらすぐ分からせますよ。誰が今日の主役かってね☆」
「言うじゃん」
高橋愛がまっすぐに小春の目を見て言う。
「光井愛佳ははっきり言って素人やよ。でもそこが落とし穴」
「わかってます。油断なんてしませんから☆」
「準決勝で辻ちゃんの一撃を止めてる。何をしでかすか分からない」
「厄介なタイプですよね」
「しかもそのバックにはあの亜弥がついている。おそらく殺す気でくるはず」
「怖いです☆」
笑顔で応じる小春。言葉とは裏腹に怯えも慢心もない。最高の状態。
くしゃくしゃと頭をなでる高橋愛。
二人のやりとりを微笑みながら見守る亀井絵里。
師匠と弟子。二人のこれまでのがんばりを絵里はよく知っている。負けるはずがない。
最後に愛は小春を抱きしめて言った。
「勝つよ。あんたが主役だ」
「はいっ☆」
446 :
ちざほむ:2008/04/05(土) 22:36:29 ID:NZYIdN2H0
光井愛佳の控え室は、扉の前に立つ藤本美貴により完全閉鎖されていた。
スタッフの証言では試合直前まで悲痛な叫び声が漏れていたという。
「3分間」
藤本は松浦からそう聞いていた。
中は師匠と弟子。松浦亜弥と光井愛佳だけの密室である。
松浦亜弥直々による3分間ウォーミングアップ。
「本気でいく」
松浦亜弥の言う本気とは「殺しにいく」ということ。
わずか3分でテンションを生死の極限にもっていく。
この3分を生き延びれたときだけ、今日の試合に出ることを許される。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ひいぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
背中から聞こえてくる絶叫の嵐を、藤本美貴は顔色一つ変えず聞き流す。
そして地獄の3分が終わった。絶叫が止む。
控え室から松浦亜弥が一人で出てきた。
「生き延びたよ、あいつ」
美貴が中を覗くと、控え室の隅っこで血まみれの光井愛佳が白い歯を見せて微笑んだ。
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448 :
ねぇ、名乗って:2008/04/25(金) 01:04:36 ID:f6/6fCWb0
早く続きがみたい
449 :
ちざほむ:2008/04/26(土) 00:56:31 ID:VXm3BKlX0
光が見える。
光の向こうから大勢の人の気配が、振動となって伝わってくる。
いくつになっても、この感触はたまらない。
『久住小春選手の入場です!!!!』
マイクパフォーマンス。大歓声。ひときわ大きくなった振動。
小さくて大きな小春の背中が揺れた。
「さぁ、行こう」
小さくて大きな背中をポンと叩く。
そして小春は元気よく走り出した。
絵里も笑いながら続く。
そのまま私達3人は光の中へと駆け出していった。
ザワ・・・
空気が違っていた。
この会場の空気はこれまでの・・・1回戦、2回戦の会場の空気とはまるで異質。
その理由はすぐにわかった。
リングで待つ小春の対戦相手の姿だ。
血まみれの光井愛佳がそこにいた。
闇が見える。
450 :
ちざほむ:2008/04/26(土) 00:57:23 ID:VXm3BKlX0
リングサイドに辿り着いて、反対側のサイドを睨みつける。
(どうせお前の仕業やろ)
松浦亜弥もこっちも睨んでいた。
互いの弟子同士の戦い。まさかこんな形で決着をつける日がこようとは。
「よぅ」
さっきまで亜弥の隣にいた藤本美貴が、こっちのサイドまで来ていた。
「何の用ですか?」
「忠告に来てやった」
「どんな?」
「あまり奴を挑発しない方がいい。色々とたまってるみたいだ」
私が答える前に絵里が答えた。
「おもしろ〜い。じゃあどやって挑発しよっかな」
「おい絵里」
「はい?」
「ほどほどにしとけよ。たまってんのはあいつだけじゃねぇんだぜ」
藤本美貴がクールに笑う。
亀井絵里がニヤニヤ笑う。
やれやれ、危ないのは亜弥と、この私だけじゃないみたいだ。
451 :
ちざほむ:2008/04/26(土) 00:58:02 ID:VXm3BKlX0
それだけ言うと、美貴は元の場所へ帰っていく。
背中は見せるが隙は見せていない。
私は小春を呼んだ。
「何です愛さん。最後のアドバイスかな☆」
普段あまりこういうことは言わない性分(タチ)だが、今日は別だ。
私は小春の耳元で、小さくこう呟いた。
「秒殺しろ」
小春は少し驚いた顔を見せ、相手の状態を振り返り、そして頷いた。
「できます多分☆」
リング上に小春を送り出し、少し下がると、
やりとりが聞こえていたのか、絵里がクネクネ喜んでいた。
「よく言うね〜。どっちも」
「あんた程じゃない」
リングの反対側、血まみれの光井愛佳はうつろな瞳で対戦相手を見ていた。
ずっと見ていた。ずっと見ている内に一つの結論が導き出されていた。
(・・・怖くない)
そしてゴングが鳴った。
452 :
ちざほむ:2008/04/27(日) 14:54:50 ID:CRyrOUBk0
その少し前、大声で騒ぎながら会場入口へ向かう二人がいた。
「やっべー遅刻だー!」
「よっすぃーが寝坊するから」
「いや梨華ちゃんの化粧が遅いせいだ」
「だって久しぶりの晴れ舞台なんだよ」
石川梨華と吉澤ひとみだ。
試合開始ギリギリの時間に会場の入口をくぐる。
すでにほとんどの客は席に着いているため、もう入口に人の気配はほとんど無い。
「ど、どっから入ればいいのかな」
「何処でもいいよ。とにかく行こうぜ」
そのとき、ヒト気のない通路の脇から、聞き覚えのある声がした。
「2階にVIP席を用意してあるべさ」
「いや〜うちら別にVIPって程でも・・・って」
「あ!」
「久しぶり。あいかわらずの痴話喧嘩、聞かせてもらったよ」
梨華とひとみの顔がほころぶ。
「お久しぶりです!安倍さん!」
安倍なつみも笑みを浮かべる。戦士達の久しぶりの再会。
453 :
名無し募集中。。。:2008/04/28(月) 05:25:52 ID:/GlhTQluO
一年ぶりぐらいにのぞいてみたら
新しい作者さんが来てて驚いた
454 :
ねぇ、名乗って:2008/04/28(月) 05:27:48 ID:rprSRBeN0
これどんな話なの?
455 :
名無し募集中。。。:2008/04/28(月) 05:46:48 ID:/GlhTQluO
>>454 ざっと読んだが続きのようだ
しかも結構面白いと思う
つ・・続きを
458 :
ちざほむ:2008/05/10(土) 18:18:53 ID:qYLlGv0H0
「ののから聞いていたけど、館長代理って本当だったんですね」
「こんな所で何してるんすか!?試合は?」
「館長代理だから、ここにいるんだ。ちょっとお客さんがいるもんで」
お客さんという安倍なつみの表情にうっすら怖いものを覚えた。
吉澤は少し嬉しくなった。この人もあいかわらず、あの頃のままだ。
「それ、うちら…じゃないっすよね。じゃVIP席、使わせてもらいます」
「どうぞ」
「それじゃ、失礼します。安倍さん」
急ぎ足で階段を上がる梨華とひとみ。
その背中に声が聞こえた。
「あ、言い忘れてた」
「はい?」
「二人とも。今日生きて帰れたら、遊ぼうね」
遊ぼう。安倍なつみの指す「遊び」が、もちろん子供のそれなはずは無い。
いやそれよりも「今日生きて帰れたら」とは?
「はーい。ぜひ遊びましょう」
隣で陽気に答える梨華ちゃん。
どっちの「遊び」と理解しているのか分からない返答。
いや、この場合はそれが正しいのかもしれない。
459 :
ちざほむ:2008/05/10(土) 18:19:40 ID:qYLlGv0H0
石川梨華と吉澤ひとみが2階に上がったあと、入口前には他に誰もいなくなった。
安倍なつみはこの時間、わざと人払いをさせていたのだ。
余計な犠牲を出さない為に。
(久住と光井。若い二人の戦いもちょっと見たかったけど)
優先すべき仕事は、この大会を守ること。
迫り来る脅威から・・・。
「やれやれ。館長代理も大変だべさ」
会場の前に停まる黒いリムジン。
ガチャリと開く扉。
その女が姿を見せた瞬間、不思議と周囲の空気が重くなる。
「お客様のご到着、か」
太陽が黒く笑った。
460 :
ちざほむ:2008/05/10(土) 18:20:12 ID:qYLlGv0H0
「あったよ!VIP席の入口!」
梨華の呼ぶ声に、ひとみが応じたそのとき、中からゴングの音が聞こえた。
「やっべ。始まっちゃった」
「まだ大丈夫だって。よっすぃー。はやくはやく」
「おぅ、ギリギリだったなぁ」
試合開始直後には着けた安堵感で、二人は油断していた。
両開きのドアを開ける。
その瞬間、その油断の意識へものすごい衝撃の波が押し寄せてきた。
『ダウン!!ダウウゥゥゥン!!!!!』
『ワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!』
「え?」
確かさっきゴングが鳴ったばかりのはず。
二人は目を丸くする。
『起き上がれない!!秒殺だぁぁ!!!!!』
梨華とひとみは互いに見詰め合って、リングに視線を移す。
「どっちが!?」
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462 :
ちざほむ:2008/05/17(土) 02:00:54 ID:r4Ff5b530
絶対王者が両手を天に掲げる。
『勝者!!久住小春!!!!!』
鳴り止まない大歓声。誰もが仰天の眼差しで彼女を見つめていた。
「愛さん!小春の奴、マジでやっちゃったよ!秒殺!」
「弟子ながら・・・ほんとに恐ろしい子ね」
絵里と愛も、もう何も言うべきことが無いその試合運び。
ゴングと同時に光井に向かって飛び込んだ小春。
ほんの一瞬、視線だけのフェイント。
つられた光井がうつろな瞳を一瞬動かす。
次の瞬間、小春の閃光の如きハイキックが光井の頭部を直撃。
意識ごと地べたに崩れ落ちて、試合は終わった。
それは努力や経験で補える類のものではない。いうなれば天武の才。
「・・・強い」
菅谷梨沙子らが絶望まじりの声を漏らす。
1回戦からその戦いぶりを見てきたベリーズやC-uteは、改めて思い知らされる。
久住小春の圧倒的な強さである。
しかもあの中国の天才と戦い、さらにその強さが増している。
同世代に生まれたことを悔いるしかない桁違いの強さ。
「久住小春包囲網」と冠付けられたこの大会も、結局は彼女の為でしか無かったのか。
リング上の、笑顔でファンに手を振って回る久住小春が、
どうしようもない程、遠く見えた。
463 :
ちざほむ:2008/05/17(土) 02:01:43 ID:r4Ff5b530
そのときは誰も気付いていなかった。松浦と藤本の二人を除いて。
小春を近くで見ているリング上の這いつくばった存在に。
ナニヲワラッテイル?
オワッテナイゾ。
マダワタシハシンデナイゾ。
ナゼセヲムケテイル?
朦朧とした意識の中、その娘には何も聞こえていなかった。
歓声も。決着の声も。何も。
リングに頬を付けたまま、ゆっくり視線を動かす。
血まみれの、うつろな瞳が、絶対的存在である師匠を捉えた。
死神は微笑を浮かべて頷いた。
ホラ、オワッテナイ。
アノヒトガミトメテクレタ。
オワッテナイ。
娘はゆっくりと起き上がった。
審判らしき人物が何か言ってきたが、何も聞こえない。
あいつは・・・久住小春は・・・笑っている。
まだ私が生きているのに。戦いは終わっていないというのに。
あいつは私に背を向けて何処かに手を振っている。
マヌケめ。
死神の弟子が飛んだ。
464 :
ちざほむ:2008/05/17(土) 02:02:24 ID:r4Ff5b530
最初に聞こえたのは誰かの悲鳴。
高橋愛が振り返ったときには、久住小春の視線は宙を泳いでいた。
小春の膝が崩れ落ちる後ろから現れた顔は・・・血まみれの亜弥?
違う。それは光井愛佳であった。
しかし一瞬、亜弥と認識した愛の体は考える前にリング上に飛んでいた。
不意打ちで意識が飛び倒れこむ小春の上に、馬乗りになる光井。
無抵抗の小春に向けて拳の連打。
ところが、4発か5発目の途中で突然、視界が反転した。
ズドッ!
どんな技かすらも分からない。
気付く間もなく脳天から叩き落とされて、誰にやられたかも分からず光井は意識を失った。
会場は一気に騒然となった。
試合終了後、敗者の光井がいきなり勝者の小春に飛び掛り、倒してしまう。
その光井を小春セコンドの高橋愛が倒してしまった。
つまり、本日の主役2人がリング上で意識を失ってしまったのだ。
立ち尽くす愛を、リング外から嬉しそうに睨む松浦亜弥。
あるいは最初からこうなることを計算していたような・・・。
「最初に手を出したのはそっちだよ、愛」
「亜弥・・・」
一触即発。
465 :
ちざほむ:2008/05/17(土) 02:03:09 ID:r4Ff5b530
愛の待つリングに歩を進めようとした亜弥。
そこへものすごい勢いの蹴りが飛び込んでくる。
ガードしてカウンターを放つ亜弥。
それをクネッと避ける女。
「そうか。愛のトコにはお前もいたんだっけ」
怒りの形相の亀井絵里が松浦亜弥の前に立ち塞がった。
「どうせあんたの差し向けだろっ!」
「おい。まさかお前まで試合が終わったから卑怯だなんて言うのか、亀井」
「そうだよ!」
「甘くなっちまったな。愛の所になどいるから」
「うるさい!愛さんの悪口は許さない!」
「いいぜ。相手してやるよ」
亜弥と絵里のやりとりを見ていた愛が、割って入ろうとする。
そこへ立ち塞がるのは・・・やはり。
「言っただろう。たまってんのは亜弥だけじゃねぇって」
「どいて下さい」
「どかしてみろよ」
不敵に笑う藤本美貴。
愛と美貴。思えば因縁深きこの二人も、直接対決は未だ実現していない。
二つのバトル勃発に会場はさらに混乱を深める。
そして混乱は会場の外でも・・・!!!
466 :
ちざほむ:2008/05/25(日) 11:27:07 ID:zFLPotCp0
安倍なつみの前に立つジョンソン飯田。
未だ直接対決の実現していない因縁深き二人といえば、これ以上の組み合わせは無い。
「よぉ安倍」
「変わってないね・・・」
「まさか館長自らお出迎えとは」
「元・館長だよ」
「どっちでもいいさ。安部なつみならば」
会話の間にも、ビリビリ・・・と戦気が揺れる。
「今日は何の御用かしら?ハロープロレス元社長さん」
「知ってるくせに」
ジョンソン飯田の気が変わる。戦闘モードのそれだ。
「潰しにきたぜ!」
「知ってるよ」
安倍なつみの気もそれに変わる。
ジョンソン飯田が指を鳴らす。すると車からさらに二人が降りてくる。
「出番なの」
「お、いい相手じゃないっすか」
新垣里沙と道重さゆみ。すでに出番を待ちくたびれている。
「さぁ困ったな安倍。3対1だ」
467 :
ちざほむ:2008/05/25(日) 11:27:43 ID:zFLPotCp0
タイマンにこだわる。
飯田圭織がそんな優しい女でないことは百も承知。
「なっちもね、まともな相手ならば、一人で待ってるさ」
「ん?」
「このジョンソン飯田を相手に、何の準備もしてないと思った?」
安倍なつみが右手を挙げると、後ろの柱から二人の娘が現れた。
「こいつら・・・」
中国武術の天才娘。ジュンジュンとリンリンである。
「敗北し、破門の身となった我々を安倍さんは拾ってくれた」
「この敵を倒して、正式に夏美会館の門下として認めてもらう」
新垣里沙と道重さゆみを指差すジュンジュン。
「さぁ3対3だ。てごわいよ、この子達」
安倍なつみが微笑む。その実力はこのトーナメントで証明済み。
田中れいなを一撃で葬った試合を、さゆも後にテレビで見ていた。
「上等なの」
「手加減なしです」
ハロープロレスと夏美会館の場外乱闘戦のはじまり。
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469 :
ちざほむ:2008/06/07(土) 09:04:20 ID:auITnQ6Z0
セコンド同士の乱闘さわぎに、会場はパニック状態となっていた。
逃げ出す者、喜んで騒ぎ立てる者、反応はそれぞれである。
ただし止めようとする者は皆無である。
高橋愛、亀井絵里、藤本美貴、松浦亜弥。
その強さ、止められるはずがないことは誰もがよく知っている。
・・・いや、いた。
「やべーぞ!止めなきゃ!」
「よっすぃー!!」
もちろん吉澤ひとみである。
「誰かが止めなきゃ死人が出るって!」
「よっすぃー。本音は私も混ぜろでしょ」
「う、バレてる」
「もういいよ、行けば」
「おっし。ちょっくら行ってくるわ」
よっすぃーは嬉しそうに、乱闘騒ぎをおこす者たちの方へ駆け出していった。
一人残された梨華は「しょうがないんだから」という顔で、その背中を見送る。
リング上、高橋と藤本はまだ睨みあっているだけだが、
場外の松浦と亀井はすでにビシバシやりあっている。
(よし、あっちだな)
吉澤は拳を握り締め、松浦と亀井の間に飛び込んだ。
470 :
ちざほむ:2008/06/07(土) 09:05:10 ID:auITnQ6Z0
「お前ら、やめろっ!!」
吉澤が呼びかけるが、松浦も亀井もまるで聞く耳もたない。
(いい度胸してるじゃねぇの、嬉しいぜ)
笑みを浮かべた吉澤ひとみが両の拳を構える。
次の瞬間、周りの者達は不思議な光景を見ることになる。
何もしていないのに、あの松浦亜弥と亀井絵里の体がくの字に折れ曲がったのだ。
「うわ!」
「ごほっ!」
「やめろっつってんだよ」
もちろん何もしていないのではない。
見えない程に早いジャブを、吉澤は二人同時に打ち込んでいたのだ。
そして彼女のジャブは通常のボクサーのストレートを凌ぐ威力をもつ。
「フーン」
何事もなかったかの様に起き上がった松浦亜弥が、吉澤ひとみを睨む。
そうして辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「どこ見てんだ?」
「あんたがいるってことはあいつも来てるんだろ。あの石川って女も」
死神の口からその名前が出た途端、吉澤の形相が変わる。
それを見た松浦亜弥は邪悪な笑みを浮かべる。
471 :
ちざほむ:2008/06/07(土) 09:06:19 ID:auITnQ6Z0
「わかりやすいねぇ」
「てめえには指一本ふれさせねえよ」
松浦と吉澤の間に、炎が満ちる。
そんな中、亀井絵里の姿はすでにどこかへ消えていた。
一方、リング上の高橋愛と藤本美貴。
互いにまだ手は出していない。いや、うかつに出せないというべきか。
だが二人の間ではすでに無数の見えない攻防が繰り広げられていた。
わずかでも隙を見せたら瞬く間に食いつかれる。
そういえば、と愛は思い出す。
その昔、トーナメント準決勝で矢口さんと藤本さんがやりあったときも、
たしか同じであったと聞いていた。
藤本美貴という猛者を相手にすると、そうなってしまうのかもしれない。
「へへ」
小さく笑った。
なんだか楽しくなってきている自分に気付く。
弟子をやられた怒りもすでに飛んでいる。
亜弥と絵里のところに吉澤ひとみが乱入しているのも見えていない。
周りで騒ぎ立てるスタッフや観客の声も耳に入らない。
五感が藤本美貴のみを感じている。
嗚呼、これも似ている。
「楽しいねぇ」
口が思わず呟いていた。
もう一つの準決勝。辻希美を全身で感じたあの戦いの感覚と、似ているのだ。
472 :
ちざほむ:2008/06/07(土) 09:15:16 ID:auITnQ6Z0
愛が動いた。突きと蹴りの連続攻撃。
美貴は腕でガードしつつカウンターを繰り出す。
しゃがんで避けた愛がそのまま美貴の胴体に組み付こうとする。
それを美貴は力でねじ伏せて、膝蹴りを放つ。愛は咄嗟に後ろに飛んで避けた。
また二人の間に空間が生まれる。
恐ろしい緊張感。そして恐ろしく楽しいひととき。
「なぁ」
美貴が口を開いた。愛は視線で応じる。
「お前を初めて見た日のこと、美貴はまだ覚えてるんだよ」
その口から意外な話がこぼれてきた。
「ガキ同士のトーナメントなんて興味ねぇ。そんな軽い気持ちで見ていたんだ。
そこにお前がいた。いやお前だけじゃない。紺野、加護、それから松浦も」
「なつかしい話ね」
「そのベスト4を見たときにな、不思議な感覚になったんだ」
「不思議な感覚?」
「いつかこの4人の誰かと、マジでやりあう様な・・・そんな感覚さ」
「へぇ」
「結局、加護とはサバイバルでやった。松浦とも同じときに。紺野とは何度か道場で。
だけどただ一人、お前とだけは何故か今まで一度も縁がなかったんだ」
「トーナメントや五対五マッチやサバイバル、チャンスは何度もあったのにね」
「今、なのかもな。あのときのあの感覚が教えてくれた時間は・・・」
微笑む二人。
そして、二人はどちらからとなく、間の空間を縮めていった。
473 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 00:39:48 ID:RFyA3v1e0
「絵里はラッキーだ」
目の前に石川梨華がいる。
「伝説となった決勝戦。何度も、何度も、見返した」
(この人に勝ってみたいな)
ずっとずっとそう思っていた。
そして高橋愛の元に弟子入りし、技を磨いた。
吉澤ひとみに殴られた瞬間に、目が覚めたんだ。
瞬く間に彼女の姿を見つけた。
松浦亜弥ではない、本当に自分が戦いたかった相手を。
辻希美と地上最強の戦いを繰り広げた女を。
「知ってるよ。亀井絵里ちゃん」
ゾクリと背中が音を立てる。
あの女が自分の名前を呼んだと思うだけで、震えが起きる。
「よっすぃーも勝手に行っちゃったし、しょうがないよね」
笑っている。あの女が自分をみて笑っている。
そして指をクイッと動かして、こう言った。
「いいよ」
長く夢見たジブンの道。
この瞬間、絵里はとうとうのその最後の敵に到達した。
474 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 00:40:24 ID:RFyA3v1e0
次々と始まる夢のバトル。
そして、誰も気付かないところで、真の悪が登場する!
「フハハハハハハハ!!!保田圭、参上!!お前ら皆殺しだぁ!!!」
シーン。
しかし、みんな自分の戦いに夢中で。本当に誰も気付いてなかった。
「ちょ、ちょっと、だ、誰か・・・オーイ」
「圭ちゃ〜ん。だからおいら嫌だって言ったのに・・・」
保田にムリヤリつき合わされた矢口が愚痴をこぼす。
「真打ちは遅れて登場する」と保田にしつこくせがまれたのだが。
「う、うるさい!気づかれないのはアンタが小っちゃすぎるからよ!」
「うわヒデー。言っちゃいけないことを!原因は圭ちゃんのオーラの無さっしょ!」
「なんだとぉ〜〜〜」
「やるか〜〜〜」
ひっそりと。
また一つ夢(?)のバトルが始まった。
475 :
ねぇ、名乗って:2008/06/17(火) 01:10:43 ID:cy0YwuPT0
わくわく
476 :
ねぇ、名乗って:2008/06/17(火) 15:37:07 ID:oxRiK9fyO
「まさか…まんぐり返し」
477 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 21:56:29 ID:drYwm0fR0
「どーなってるの☆」
どれくらいの時間が経ったであろうか。
リング上、目を覚ました久住小春は、周りの景色に息を呑んだ。
高橋愛vs藤本美貴
松浦亜弥vs吉澤ひとみ
亀井絵里vs石川梨華
安倍なつみvs飯田圭織
新垣里沙vsリンリン
道重さゆみvsジュンジュン
保田圭vs矢口真里
歴戦の猛者たちが、あちらこちらで夢の対決を繰り広げているのだ。
「勝手な先輩たちだよ」
振り向くと、隣で光井愛佳も意識を取り戻していた。
「今日の主役は私たちでしょ☆」
「結局みんな、自分が暴れたかったってことだ」
小春はもう一度、辺りを見渡した。
久々のバトルにみんな生き生きとした顔をしている。
「ねぇ、私達もやろーよ☆」
「ん?」
「もう邪魔は入らない。先輩方を見習って、ちゃんと決着をつけようよ☆」
それを聞いた愛佳は、小さく笑みをこぼして立ち上がった。
「フン、しょうがねーな」
478 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 21:57:16 ID:drYwm0fR0
歴史は終わらない
彼女達の戦いは
いつまでもいつまでも
続いていくのだ
〜特別番外編『その後のジブンの道』終わり〜
〜しかし娘達の道はいつまでも続く〜
479 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 21:58:20 ID:drYwm0fR0
【特別番外編『その後のジブンの道』エピローグ】
「みんなバカっちゃね〜」
病院の一室で、田中れいなは笑っていた。
テレビの中では夢のバトルの数々が、乱れ様に映し出されている。
だが本当の夢はそこにはいない。
「こ・れ・で・一番おいしい所はれいなのもんたい」
忍び足で病室を抜け出す。
向かう先はひとつ。
目指す病室の前に張られた名札には『辻希美』の文字。
思わず舌なめずりをする。
(やっぱ、どうせやるならNo.1じゃなかダメたい)
ギュウと熱き拳を握り締める。
「いざ!勝負っちゃ!!」
ガラガラっと扉を開けて、吼えるれいな。
その目に映った光景は・・・。
「テヘヘテヘヘ・・・」
480 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 21:59:09 ID:drYwm0fR0
母親がいた。
ベッドの上、両腕で赤ちゃんを大事そうに抱きしめた母親。
親子であの戦いの様子をテレビ観戦みている。
母親も笑っている。
赤ちゃんも笑っている。
「あ〜。れいな〜。いいところにきたのれす」
母親がこっちを見て手を振った。
「これおもしれーれすよ。圭バアちゃんとヤグっつぁんのどつき合い」
もうその時点で・・・
「ていうか、安倍しゃんもいいらさんもマジになってるのれす。すごーい」
勝負とかそんな以前に、負けていた。
「ん、どーしたんれすか?れいな、テレビおもしろ・・・」
「くそっ!!」
「ふぇ?」
「のんさん!!次は絶対れいなが主役なったるけんね!!」
そう宣言すると、れいなは廊下へ飛び出していった。
(あーもう何だか叫びたか!!そうだ!ロックンロールっちゃ!!)
481 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 21:59:40 ID:drYwm0fR0
残された母子はポカンと顔を見合わせる。
「変な子れすねぇ?」
母親・・・辻希美は、その両腕で我が子を抱き上げた。
テレビの中ではみんなが、楽しそうな顔をしていた。
高橋愛、藤本美貴、松浦亜弥、吉澤ひとみ、石川梨華、亀井絵里、
安倍なつみ、飯田圭織、新垣里沙、道重さゆみ、ジュンジュン、リンリン、
矢口真里、保田圭、久住小春、光井愛佳。
みんなが。
この他にも、なつかしい友人からの知らせもあった。
―――――黄金の娘はロスにいる。
現在はトレーニングの毎日を送り、すでに復帰の目処も付けている。
彼女を越えない限り、本当の頂点に立ったとは呼べやしない。
―――――永遠の相棒は上海にいる。
格闘家生命も危ぶまれた絶望の日々からの復帰のため。
三倍の力は研ぎ澄まされて、きっとまた変わらぬ笑顔を魅せてくれるだろう。
みんな、みんな・・・ジブンの道で、がんばっている。
482 :
ちざほむ:2008/06/17(火) 22:33:22 ID:drYwm0fR0
「テヘヘテヘヘ」
娘の笑い声に、希美は頬を緩めた。
「へんな笑い方れすねぇ、この娘は・・・誰に似たんだか」
病室の窓からは、丘と町並みと、太陽と空が見える。
どこまでもどこまでも広がる青い空。
「テヘヘテヘヘ」
この娘にもきっとジブンの道があり、
そしてきっとその先には、
希望の空が待っていることだろう。
「あなたにもママみたいに素敵な友達がいっぱいできますよーに」
希美は両腕いっぱいのキセキを空に掲げて願った。
「ねぇ、希空」
【完】
乙
ho
れいにゃーずのダイジェストって過去スレでしか読めないのかな?
ノノ*^‐^)< ホッ!
久しぶりに読み返してみた
辻豆さんの小説はホントに面白いわ
ほ
椎名めぐみ
納得
エロい
493 :
名無し募集中。。。:2009/11/28(土) 03:32:09 ID:HpRXAblh0
ラスボスだった新加入小春もこの度卒業
オーディションやらないまでも、キッズから新メン補充とかしないのかな?保全