寝る子は℃-uteの後日談(中島早貴スレ100ヶ所目からのコピペ)
かえりみち
夏休みも終わりかけ平日の午後、私と三歌は二人で電車に揺られてる。
向かい合わせに座った私達は、ガタン、ゴトンと規則正しく聞こえる音を、
耳にしながらボンヤリと窓の向こうを眺めてた。
「ねっ、三歌、いろいろあったけど、楽しかったね。」
「ん?、うん、そうだね。司」
「でもさぁ、司、来夏も来夏だよねェ。」
そう言って、三歌がズイっと顔がくっつく位に身を乗り出してきた。
「(私は、この子達と一緒に行くから二人は電車で、じゃ後はヨロシク)って
どぉ思う、司」
「まぁまぁ、三歌、落ち着いて。」
事の顛末は、こんな感じ。
夏美ちゃんの事があった二日後、心配になった来夏のお母さんが様子を見に来て、
みんなで話し合った結果、一日早く帰る事になったんだけど。
車には全員乗れなくて、誰か二人は電車で帰るって事になったの。
三歌は最後まで、じゃんけんで決めようって言い張ってたけど。
来夏が、私と三歌は帰る方向が一緒だからって強引に決めちゃって
結局、私と三歌が電車で帰る事になったの。
「三歌、近いよぉ。顔」
「でもさ、でもさ、司 じゃんけんの方が絶対公平だよね。」
さらに、三歌が身を乗り出してきた、今度は鼻がくっつく位。
「近いってば三歌ぁ、でも則松さんに駅まで送ってもらったからいいじゃん。」
「でもさ、でもさ、軽トラだよ。軽トラ!、しかも荷台だし。」
そう言って三歌は、背もたれに身を投げ出してプイって窓の方に向いてしまった。
「私はオープンカーみたいで、楽しかったよ。」
「ナニ言ってんの、司、荷台だよ、荷台!、オシリ痛くなるし。」
「まぁ、確かにオシリは痛かったけどぉ。」
「それに、司、直射日光だよ!、紫外線だよ!、SPFいくつあっても足りないつうのっ。」
三歌が、私の方に向き直り空を指差しながら力説する。
「海で、あんなにはしゃいでたのに、」
今度は私が窓の方を向き、こっそりと呟いてみた。
「なんか言った?、司」
「んっ、何でもないよ、ほら、それより則松さんにもらったお弁当食べよ。」
私は慌てて話を変えると、カバンから小さな包みを取り出した。
「そうだね、なんかお腹空いちゃったし。」
三歌も、ゴソゴソと包みを探し始める。
「あれェ、司ぁ、私のお弁当無いよぉ。」
「なんで、こっちのカバンじゃないの、三歌」
「私のお弁当ちゃん、良い子だから出ておいで。」
三歌が、カバンに首を突っ込む様に探してる。
「あっ、いたいた、お弁当ちゃん。会いたかったよぉ。」
ようやく見つけた包みを、三歌が大切そうにカバンから取り出す。
竹の皮に包まれた小さな包み、則松さんが別れ際に渡してくれたの。
(私と、私の部下が作った弁当です。)って、
中には、不揃いのおにぎりが三つ、まるであの三人みたい。
きれいな三角のおにぎり、これは則松さんかな。
まるくて小さめのおにぎり、彩ちゃんかな。
一番大きくてなんだか良く解らない形のおにぎり、奏ちゃんだよね。
なんだか、食べるの勿体無くなちゃったな。
「お茶買ってくれば良かったね、三歌」
「へへぇん、それは波戸三歌様におまかせぇ。」
そう言うと三歌はまた、カバンの中をゴソゴソと探り始めた。
「じゃぁん、むぎ茶でぇす。途中で欲しくなると思って彩ちゃんに頼んどいたの。」
自慢げに小さなペットボトルを二つ取り出し、見せびらかす三歌。
「凍らせておいてもらったから、冷え冷えだよ。」
「三歌、すごぉい、気がきくぅ、大人だね。」
「司、むぎ茶欲しい?」
「うんっ!」
「冷え冷えのむぎ茶欲しい?」
「うんっ うんっ!」
「どうしっよかなぁ、司、さっき海がどうとか言ってたしぃ。」
三歌は、微笑みながら焦らす。
「もぉ、三歌ったら、イジワル。」
今度は、私が拗ねてみる。
「ウソ、ウソ、司、ほら。」
手渡されたペットボトルを受け取った私は、早速口を付けた。
「どぉ、司、冷え冷えでしょ。」
「うんっ、冷え冷えだね。」
ガタン、ゴトンと優しく揺れる電車の中で、
私達二人は、はしゃぎながらおにぎりを食べた。
冷たいむぎ茶は夏の味、そんな気がした。
お腹のふくれた私達は、アレコレと他愛のない話をしてた。
「だからぁ、この場合はじゃんけんが絶対公平なんだって。」
さっきから三歌が拳を固めながら、じゃんけんの公平性を力説してる。
「まぁまぁ、三歌、落ち着いて。」
「でもさ、でもさ、やっぱりさ、司」
未だに納得してない三歌は、私に強引に同意を求める。
「じゃあ、この事は今度みんなで話そうよ、ねっ三歌」
「司がそう言うなら・・・」
渋々納得する三歌に、私は胸を撫で下ろした。
「ところで司、それ片付けないの?」
三歌が、茅奈の浮き輪を指差しながら言った。
「えっ、コレ? な、なんとなくね。」
茅奈が忘れていった浮き輪、奏ちゃんが見つけて持ってきてくれたの。
中途半端に空気が抜けてて。
でも、なんとなく片付けられなかった浮き輪。
片付けちゃったら、全部片付けちゃったら、
みんな思い出になっちゃう。
海で遊んだ事、雨の日にオジさん達と遊んだ事、
勉強を教えてもらった事、火事になっちゃった事、
来夏が無事で泣いちゃった事、
そして、そして、夏美さんに出会ったこと
いろんな事が思い出になっちゃう、そんな、そんな気がしてたの。
「そうだよ、司、茅奈のだもん、茅奈に片付けさせよう。」
「あっ、う、うんそうだね。三歌」
「それ、貸して。司」
「コレを?」
三歌は浮き輪を受け取ると、自分の荷物の上に乗せタオルを掛けた。
「ほら、クッションみたいでしょ。」
浮き輪に身を預けながら、自慢げにポンポンとたたく。
「ふふっ、三歌ったら。」
「なぁんか、おなかもふくれたし眠くなっちゃったなぁ。」
「そうだね、三歌」
「麻由もさ・・ちゃっかりしてるよねぇ・・・私達は年下だからとかさ・・・」
そう呟きながら三歌は、眠ってしまった。
窓の向こうの流れていく景色を眺めていると、時間が過ぎ去っていくみたいで、
夏美さんの事を考えちゃう。
夏美さんは鏡の中から一人でずっと、過ぎてく時間を眺めていたの?
一人でずっと、ずっと一人ぼっちで。
何年も、何年も一人ぼっちで居たの?
自分が居なくなっちゃった事も思い出せない位、何年も、何年も。
過ぎてく時間は、止める事も戻る事もできない。
そんな事は解ってるつもり、だけど、だけど夏美さんがずっと一人ぼっちで居た事を、
考えちゃうと寂しくて、辛くて、悲しくて、悲しくて。
「どぉしたの、司、一人で溜息なんてついてさ。」
突然話しかける三歌に、私は慌てて涙を拭う。
「三歌、いつから起きてたの?」
「司ちゃんが、つぶらな瞳に涙を浮かべてる辺りからかなぁ。」
「もう、三歌ったら起きてたなら声かけてよ。」
「司ちゃんは、何考えてたのかな、ナニ、ナニ。」
そう言って三歌は、私のほっぺを突いた。
「なんでもないよぉ。」
「誰か、好きになっちゃって離れるのが寂しいとかかな?」
「そんなんじゃないってば。三歌」
「またまたぁ、正直に言わないと波戸三歌様が、チューしちゃうぞ。」
茶化してくれる三歌の気持ちが、なんだかうれしい。
「ど〜ぞ。」
私は、三歌に向かって瞳を閉じ唇をつきだして見せた。
「おっ、そう返してきたか。司」
「えへへ、ワタクシもヒトツオトナにナッタのデスよ。」
棒読みの台詞のように、三歌に返した。
「そっか、じゃ遠慮なく。」
三歌は、そう言うと私の荷物をどかして隣に座り、肩に手を廻してきた。
「ちょっ、ちょっと三歌、冗談だから。」
「まぁ、まぁ、遠慮なさらずに。」
さらに、三歌は私を抱きかかえる。
「ホントに冗談だから、三歌、三歌ってば。」
「・・・」
三歌は何も言ってくれない。
「三歌?」
「司、大丈夫だよ、大丈夫だから。」
少しうわずった声で、三歌が呟く。
「えっ、何?」
「司、夏美ちゃんは、幸せになれたんだよ。幸せになれたから空に還ったんだよ。」
「だから、だから司は、心配しなくても良いんだよ。」
涙声で、三歌が言ってくれる。
その言葉に、私は涙が溢れてきた。
我慢してた分が、一気に溢れてきて、頷くことしかできなかった。
三歌が同じ気持ちでいてくれた事が、うれしかったの。
ここに居ないみんなだって、きっと同んなじ気持ちのはず。
夏美さんとの事を、一緒に体験したみんなが。
夜空を見上げた時に、思い出して泣いちゃうかもしれないけど。
一人でいる時に、思い出して寂しくなっちゃうかもしれないけど。
夏美さんは幸せになったんだよね、幸せになれたんだよね。
ねっ、夏美さん。
「なんか、泣いちゃったね。三歌」
「わたしは、泣いてませんけどぉ。」
鼻をすすりながら、三歌がそっぽを向く。
「眼、赤いじゃん。三歌」
「なんか言った? 司」
三歌が、笑いながら振り向く。
「でも、他にお客さんいなくてよかったね。」
「そりゃあ、平日で夏休みも、もうすぐ終わりだし・・・」
ティッシュで眼頭を押えながら、三歌が固まってしまった。
「あっ。・・・」
わたしもハンカチで鼻を押えながら、固まる。
二人とも同時に、大事な事を思い出した。
見つめ合う、私と三歌。
三歌の口が、金魚みたいにパクパクしてる。
私の口も、パクパクしてる。
「「しゅくだい!!」」
「「全然おわってないぃ」」
私達の、夏休みはまだ終わらない。
うぅうん、終われない。