【小説】リア消だったら誰に告ってた 新章【キッズ】

このエントリーをはてなブックマークに追加
286ウィードクラウン
*

彼、光太郎くんのアンチ・サイの能力は
僕らが持つ超能力を無効化してしまう力だ。
人に触れることで、その対象の特異な力を抑え込んでしまう。
この能力が成長すれば相手の能力を完全に消してしまうことも可能だ。
舞や僕、そして意図せず能力者になってしまった桃子や熊井さんから
その能力を取り除いてしまうことが出来るというわけだ。
それはつまり、僕らを助けるという事に繋がってくる。

「それがアンチ・サイですか…」
説明をしたものの、光太郎くんはいまいち飲み込めていないようだった。
なにしろこんなに実感が沸かない能力も他に無いから仕方がない。
「僕らが待ち望んでいたチカラなんだよ」
「え、じゃあ俺がこの場でみんなの能力を消しちゃえばいいんですか?」
「まぁ…それが簡単に出来れば苦労しないんだけどね」
「へ? だって今出来るって…」
「能力が成長すればの話。 君はそのやり方を知らないよね」
彼はきょとんとしている。
「いやいや、先輩のその"バランス"の能力で、友理奈にしたみたいに
 俺の力を調整してもらえばすぐに出来るんじゃないんですか?」
そう、それが出来れば簡単なのだけど、彼の場合は特別だ。
「だから君の能力は僕の能力を打ち消してしまうんだよ…」
「あっ…、そうか…」
気づいた彼はがっくりと肩を落とした。
「んー、私は別にこのままでもいいんだけどねー。 迷惑な力でもないし」
桃子が呑気そうにいう。
「桃子、僕が最初に言ったこと忘れたの?」
「うぅ…」
287ウィードクラウン:2005/07/10(日) 19:17:12 ID:Sus4MMVd0
>>286
「光太郎くん、君が成長していくには精神的なトレーニングが必要になる。
 それについては僕が教えるけど、その前に君に頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「舞を、外に遊びに連れて行って欲しいんだよ」
「遊びに?」
「さっきも少し話したけど、舞はその能力のせいで外で遊んだ事がほとんど無い。
 人の少ない場所や時間を選んでしか外に連れ出せないからね。
 だから普通の子供みたいに遊んだことがないんだよ」
「あっ、だから俺が舞ちゃんと一緒に外に出ればいいってことかぁ」
「そう。 頼んでもいい?」
「そういうことなら、任せてくださいよ!」
彼はガッツポーズを見せてくれた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。 舞、本当にお外で遊んでもいいの?」
舞が心配そうな顔でたずねる。
「うん。 光太郎くんと一緒にいれば大丈夫だよ」
「やったぁ〜!! おそと♪ おそと♪」
舞は飛び跳ねて喜んだ。
「じゃあ今度の日曜日はどう? 空いてる?」
「大丈夫です、空いてますよ」
「よかった。 じゃあ桃子と熊井さんも一緒に着いて行ってくれる?」
「はい、もちろん!」
熊井さんは笑顔で快諾してくれた。
けれど、桃子は「うぅ〜ん」と何か考えている。
288ウィードクラウン:2005/07/10(日) 19:17:29 ID:Sus4MMVd0
>>287
「どうかした?」
「なんか、その口ぶりだと、信彦くんは行かないみたいに聞こえるんだけど…」
桃子が言う。
「うん、僕はちょっと行くところがあって」
「え? お兄ちゃんもいっしょに遊ばないの?」
さっきまではしゃいでいた舞が一変、また心配そうな顔に戻った。
「ごめん。 でもみんないるから大丈夫だろ?」
「でもぉ…」
「大事な用事なんだ。 次は一緒に遊ぼう」
「うん、わかった」
「いい子だね」
僕は舞の髪を撫でてあげた。
「じゃあさ、信彦くん!」
桃子が急に立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
「私は信彦くんに着いてくね!」
「えぇ!?」
「いいでしょ?」
「でも、別に楽しい事なんてないよ? 人に会いに行くだけだし…」
「用事ってこの能力に関係することなんでしょ? だったら私だって
 もっとこの力のこと知りたいし、知る権利はあるはずよね〜?」
「そうだけど…」
「じゃあいいよね? ね?」
目をくりくりさせて僕の顔を覗き込んでくる。
「わ、わかったよ…」
と、情けなくも僕はその勢いと眼力に押されてしまった。
桃子にはヒーリング以外にも催眠能力とかがあるのではと疑ってしまう。
289ウィードクラウン:2005/07/10(日) 19:17:44 ID:Sus4MMVd0
>>288
みんなで夕飯を食べた後、その日は解散になった。
「じゃあとりあえずみんな、日曜の10時にここに集合ということで」
「りょーかい!」
桃子が元気よく言った。
「こうちゃん、10時だよ。 寝坊しないようにね」
「わかってるよ!」
熊井さんに言われて、光太郎くんは少し膨れている。
「それじゃあみんな、また!」
「はぁーい、おやすみなさ〜い」
「お邪魔しましたー」
それぞれみんな帰っていく中、舞が急に玄関から飛び出した。
「待って、こうたろ兄ちゃん!」
「ん?」
光太郎くんが振り向くと舞は彼にむぎゅっとしがみついた。
「わわ、ど、どうしたの舞ちゃん!?」
「だって舞がおそとに遊びにいけるのはこうたろ兄ちゃんのおかげだもーん!」
「え、あ、うん」
「日曜日、い〜っぱい遊ぼうね! こうたろ兄ちゃんっ」
「うん、そうだね。 いっぱい遊ぼう!」
光太郎くんは舞を両手で持ち上げて抱っこした。
舞は今度は彼の首に手を回し、頬を擦り合わせてニコニコと笑っている。
今まで僕以外とのスキンシップの経験がほとんど無かったから
能力がまったく影響しない彼は、舞にとって遠慮せずに甘えられる初めての他人だ。
舞はすっかり彼のことが気に入ったようだ。
兄として嫉妬を感じないわけでもないけど…、でも喜ぶべきことだ。

「……」
その隣で熊井さんがなにやら浮かない顔をしていた。
光太郎くんと、彼に抱っこされている舞を交互に見ては俯いたりしている。
ああ、さては熊井さんはもしかして…
でもそれはそれで日曜日は面白そうなことになりそうだ…。