仮面ライダーののクウガ

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64ナナシマン
 それから数日後のある日のこと。師走の夢ヶ丘商店街に、少女たちの
和やかな笑い声が響いていた。斉藤瞳から斡旋されたペット探偵の仕事
が思いがけない報酬を生んだことで、中澤家の財政難がいくらか解消
されたためだ。最近少女たちの仕事ぶりが少しずつではあるが周囲に
口コミで広まりだしたので、以前のような粗食に耐える生活からは脱却
しつつあった。ただ、何でも屋としての少女たちの姿はあくまでも仮の
姿。その正体は、人ならぬ力を駆使して正義のために戦う戦士なのだ。

 「のんちゃん、今日あと何買えばよかったっけ?」

 「今日はすき焼きらから、牛さん買うのれす」

 纏め買いの大きな紙袋をものともしない長身の女性。美しい黒髪を
晩秋の風がなでる。買出し当番の飯田圭織と、彼女に連れられたもう
一人の少女は辻希美。二人の真の姿が、悪の組織と戦う改造人間で
あることは誰も知らない。

 「あのね・・・のんちゃん、すき焼きは牛さんじゃなくて豚さんで
作るんだよ?」 

 「違うよ、牛さんらって。牛肉らよ」

北海道生まれの圭織にとって、すき焼きといえば牛肉ではなく豚肉で
作るものだと思っていた。全国的には牛肉でつくるのがすき焼きなの
だが、彼女の知る限りにおいて北海道ではそうなのだ。しかし、希美
には今ひとつピンとこない。
65ナナシマン:04/12/04 19:11:36 ID:DmsgbsRK
 「でもうちでも豚肉で作ってましたよ、すき焼き。あれ北海道だけ
なんですか?」

圭織と同じく北海道生まれの紺野あさ美が二人の会話に口を挟む。
二人がかりで言われると、希美もなんとなくそうなのかな、と思い
始めていた。

 「えぇ・・・そうらったっけ?」

たまたま通りがかった肉屋の店先、希美は小首をかしげて二人の言葉
を反芻していた。と、その時だ。

 「食べながら砂糖やしょうゆで調味するのが関西風、割り下を作って
食べるのが関東風だ・・・覚えておくといい」

 少女たちの目の前に現れたのはサングラスをかけ、黒いスーツに身を
包んだ一人の男。彼は突然少女たちの前に現れてすき焼きの薀蓄を披露
すると、怪しげな笑みを浮かべる。

 「そうなんですか・・・すき焼き詳しいんですね」

圭織のとんちんかんな受け答えに、男の口から失笑の笑みが漏れる。
そして謎の紳士は更に言葉を続けた。

 「すき焼きだけではない。君たちのことにも詳しいつもりだ。君は
飯田圭織、その隣の君が紺野あさ美。そして君が・・・辻希美だ。
どうだ、当たっているだろう?」

少女たちを順番に指差しながら、男は一人ずつ名前を言い当てていく。
そんな男の言葉に少女たちの表情が一気にこわばる。顔を見ただけで
名前を言い当てるほど、自分たちの素性を知っている者となれば答えは
二つに一つだ。
66ナナシマン:04/12/04 19:13:22 ID:DmsgbsRK
 「ただのすき焼き名人じゃないみたいね」

 「あなたは一体・・・誰なんですか!」

圭織とあさ美の声が人気のない路地裏に響く。商店街での遭遇から舞台を
移し、対峙する少女たちと謎の紳士。手刀を切って男をにらみつけるのは
圭織とあさ美。そして希美も拳を握って男と視線を絡ませる。

 「今日は安倍なつみ・・・ストロンガーはいないようだな。俺の獲物
はあくまであの小娘。お前たちではない」

謎の紳士はそう言うや、またもにやりと不敵な笑みを浮かべる。相手の
正体、この瞬間に目測はついた。

 「って事はゼティマの改造人間?!」

 「フフフフフ。いかにも。俺はあの小娘に煮え湯を飲まされて以来、
今日まで復讐の機会をうかがってきた。残念ながら今日はまだその時では
ないらしいがな」

そう言って謎の紳士は笑う。目の前にいるのが三人の仮面ライダーで
あることを知りながらもなお、自分の目的はストロンガーであると言う
彼の言葉に、圭織は敵の並ならぬ執念を感じ取る。なつみだけを執念
深く付けねらう敵の執念。人通りの途絶えた路地裏に一陣の風が吹き抜ける。

 「なっちが相手するまでもないよ。圭織が今ここでやっつけてやる!」

 「安倍さんには指一本触れさせませんから!」

二人はジャケットのジッパーに手をかけて勢いよく引きおろすと、装着
していたベルトを露出させる。希美も遅れを取るまいと身構え、三人は
臨戦態勢に入った。
67ナナシマン:04/12/04 19:14:10 ID:DmsgbsRK
今日はここまでです。続きは月曜日に。
68ナナシマン:04/12/04 19:20:39 ID:DmsgbsRK
>>66

 ×なつみだけを執念深く付けねらう敵の執念。
 ○なつみだけを執拗にねらう敵の執念。

の間違いです。失礼しました。