124 :
ナナシマン:
「これは・・・一体」
棺の中を見ていぶかしがるシャドウ。眉間がピクリと動き、さらにその
光景を凝視する。暫しの沈黙の後、彼はその光景の意味を理解した。
「・・・なるほど。三神官め、タイタンに秘術をかけたわけだな」
シャドウは一人呟くと、再び棺のふたを閉めてその場を立ち去った。後に
残された棺、そしてシャドウの言う「秘術」。これが全て打倒ストロンガー
に向けて用意されたものであることは間違いの無いところだ。しかし、
彼が棺の中に見たのは一体なんだったのだろうか。
−そして今、なつみも同じ光景を目の当たりにしようとしている。不気味
な棺に歩み寄ると、ふたに手をかけて一気に引き剥がした。と、そこには
サングラスをかけたまま身を横たえた怪紳士・・・タイタンの姿。全く生気
の感じられない彼の表情は、まるで屍のようでさえあった。そして、さらに
なつみの目を引いたのは彼の体を包み込むように手向けられた花々だった。
「薔薇の花みたいね」
しかし、ゼティマ幹部に手向けられたそれは彼女の知るそれとは明らかに
異なっていた。その異変に気づくのに、時間はかからなかった。
「何これ、目玉・・・?!」
薔薇のような花弁の中心には大きな目玉のようなものが一つ、異様な存在感を
放ち存在していた。そしてその一つ一つは全て異なる方向に向いているのが
判る。
125 :
ナナシマン:05/01/15 23:46:09 ID:VPIAjg3Y
「何なんだろ、これ」
なつみは暫しくまなく棺の中を覗いていたが、その正体を知ろうと花々の
うちの一本を掴むべく手を伸ばす。選んだのはタイタンの顔のすぐそばにある
一本。しかし彼女の指はあまりにも無用心にこの花に触れてしまった。
指先が触れたその時、なつみの指に痛みが走る。
「つっ・・・!」
すぐさまなつみは手袋の中指の辺りを軽く噛むと、口で脱ぎ捨てた。コイルに
覆われた手首があらわになったが、そこには血が滴っている。そして、滴り
落ちた彼女の血、その一滴がタイタンの唇の上に落ちた。その直後、先ほど
まで屍のようであったタイタンの口元に突如として不気味な笑みが浮かぶと、
うっすらと開いた口元から赤い舌がのぞき、その血を舐め取った。とたんに
タイタンの肌に赤みが差し生気がよみがえる。
「タイタンっ!生きていたの?!」
目の前の光景に思わず声を挙げるなつみ。しかし、これは恐るべき秘術の
序章でしかなかった。次の瞬間、タイタンの周りに生けられていた不気味な
花々の目が、一斉にに同じ方向を睨み付けたではないか。無数の花々の目と
なつみの視線が交錯する。
「うそ、花の目が動いた?!」
やがてなつみを睨み付けていた無数の目は、棺を埋め尽くしていた無数の花
もろともタイタンの方へと引き込まれていく。それはまるで、タイタンの体
が花々を引き寄せて体内に取り入れているようにも見えた。そして数分の
後には、花々はすっかりタイタンの体内へと引き込まれたかのように消失
していた。
126 :
ナナシマン:05/01/15 23:46:55 ID:VPIAjg3Y
そして服の上からでも見て取れる謎の蠕動がタイタンの体を駆けていく。
球状のこぶが次々と、タイタンの頭部を目指して走る。そしてひとしきり
蠕動が終わると、一瞬彼の顔が不気味に光ったかに見えた。なつみはその
光景にただ目を奪われていたが、この一瞬の光が彼女の警戒心を呼び
起こしたか、なつみは再び身構える。と、その時。
『これぞ「ゼティマ呪いの棺」・・・秘術は安倍なつみ、お前の生き血に
よって完成したのだ』
地獄が原に響く謎の声。それは彼女たちが最終的に打倒しなければならない
相手。地の底から響くかのごときその声の主こそ、ゼティマ首領その人だ。
「一体誰なの?呪いの棺って何?」
『冥土の土産に教えよう。憎き相手の生き血を得て、強大な力を得て死から
蘇る儀式なのだ』
「なっちの血が、タイタンをパワーアップさせたのね?!」
ゼティマ首領の声になつみが叫ぶ。しかし彼女の背後には棺から立ち上がった
者の姿があった。誰あろうタイタンだ。彼は自分の存在をしばし忘れて首領
の姿を求めるなつみに言う。
「かいつまんで言えばそういうことだな。俺は今までとは違うぞ」
そしてタイタンは不敵な笑みを浮かべながら、サングラスのつるに指を添えると
なつみに言い放った。
「見せてやる。百目、変身!!」
127 :
ナナシマン:05/01/15 23:48:29 ID:VPIAjg3Y
今日の分は以上です。続きは月曜日に。