34 :
L.O.D:
その日は昼から事務所で取材で、加護が街で買い物をして向かうと
30分近く早く着いてしまった・・・・・・
すれ違うスタッフに挨拶しながら、マネージャーを探すと
自分を見つけたマネージャーがすまなそうに手を合わせた。
「ごめんっ!急にキャンセルになった!」
「えぇ〜、ほんとですかぁ」
「その後の3時からのはやるんだけど」
「そかぁ、うちお昼食べてないんだよなー」
「なんか取る?」
「てんやものはいいわー・・・・」
「っと、ごめん。電話だっ、三時から取材だからねっ」
「あーい」
突然、用事がなくなったものの
買い物も済ませてしまって
また外へ出る理由もなく
廊下をブラブラしてると
目の前に石川を見つけた。
「梨華ちゃ〜ん!」
「あ、あいぼんだっ!元気〜?」
「なにしてんの、取材?」
「うん、私はこれから」
「あさ美ちゃんいる?」
「もう終わったかな?」
35 :
L.O.D:04/11/16 12:19:03 ID:mwgB49Ha
控え室を覗くと、ちょうど終わったらしく
少し疲れた顔の紺野が座っていたが
加護を見つけると立ち上がって
笑顔でぎゅぅっと抱きしめてきた。
「あいぼ〜ん」
「あさ美ちゃぁ〜ん」
「あいぼんはお仕事?」
「それがなー、キャンセルになって3時まで空いてんの」
「お昼は?食べた?」
「まだだけど」
「美味しい店見つけたの!」
「取材は?」
「私はもう終わったよ〜、この後はー・・・6時からリハ」
「じゃ、行っちゃおか!」
「行こう、行こう!」
そこへ別々に取材を受けてたメンバーも帰ってくる。
その中の小川を見て、紺野がなにかを思い出したようだ。
「あっ、ね、まこっちゃん!」
「ほぇぁ?」
「今からあいぼんとご飯行くんだけどね
そこのかぼちゃケーキがすっごいおいっしいの!
まこっちゃんに食べさせてあげたいと思ってたんだよー!!」
36 :
L.O.D:04/11/16 12:44:37 ID:mwgB49Ha
「いいな、いいなぁ!」
「まこっちゃんも行こうぜぃ!」
「いやっほー!!」
「キャァ〜〜〜〜!」
なにやらハイテンションになった3人が小躍りしながら
楽屋を出ていった後、吉澤がフッとテーブルを見ると
小川の携帯が置かれたまんまになっていた。
「あっちゃー、あいつら、もう行っちゃったよ・・・・」
「紺野がいるから大丈夫でしょ」
「そだねー・・・・」
と、そのまま携帯を戻した・・・・・
37 :
L.O.D:04/11/16 12:56:13 ID:mwgB49Ha
「えぇぇえ〜!キャンセルですかぁっ」
『ごめんなー』
「もうタクシー乗っちゃいましたよー」
『3時からの取材はそのままやるから』
「はい、分かりましたぁ・・・事務所行きますー」
『よろしく』
マネージャーからの電話を切った辻は深くため息をつく。
まったくついてない。
家を出る前に言ってくれれば
読みかけだった漫画を全部読めたのかもしれないのに。
携帯を見る、正午を少し回っている。
出かける前に食べてきたから、お腹は空いてない。
事務所に行ったら誰かいるかもしれないから
遊んでもらえばいい。
「そういや・・・娘。も取材だったような・・・・」
確認のために小川の携帯にメールをしてみる。
返信はない、取材中なのだろう。
行けば会えるだろうから
そのまま鞄に携帯を放り込んで
辻は外の風景を眺めていた。
38 :
L.O.D:04/11/17 22:22:04 ID:K0ScqbLx
午後2時を少し過ぎたくらいだったろうか。
加護は二人と食事を終えて、事務所に戻ってきた。
紺野が見つけたお店は本当に美味しくて
値段はそこそこだけど、ランチセットなら十分だ。
加護と紺野は美味しいものには目がない。
なにか見つけたら、お互いに情報交換し
時間が合う時にはこうやって一緒に食べにいく。
紺野が本人を目の前にして話す小川の最新列伝は
どれもこれも作られたように馬鹿馬鹿しく
面白い話ばかりで、すごく楽しかった。
これから取材用のメイクをしなければならず
まだまだ二人と一緒にいたかったけど
廊下の曲り角で別れようとした時だった。
「まことっ!」
「?」
廊下の向こうから一際大きく響いた辻の声。
加護も紺野も小川も何事かと振り向いた。
辻は走ってくると、小川の携帯を投げ付けてくる。
「なんで携帯持ってないのさっ!」
「そうそう、忘れちゃってさぁ・・・・」
「のの、取材キャンセルになってヒマだったのに!!」
「ごめんよぉ、3人でご飯食べに行ってたから・・・・」
39 :
L.O.D:04/11/17 22:23:48 ID:K0ScqbLx
その言葉に、今にも泣きそうに顔を歪めると
辻はバタバタッ!と走り去ってしまう・・・・
事の重大さに気付いた小川の顔は青ざめ
それよりも、紺野が気まずさを通り越してオロオロし
加護は自分のしたことを後悔してた。
だけど、いつものことだ。
数時間もしたら、機嫌は直る。
分かってる、あの子とは長い付き合いだ。
辻はああ見えて嫉妬深い。
負けず嫌いという以上に、そっちの方が強い気がする。
自分が吉澤や石川とかと話してると、近付いてくる。
最初はその理由も分からなかったが
それに気付いてからは、辻にゆずってあげたりもした。
いつものこと。
小川がいなかったこと、三人でご飯を食べにいったこと・・・・・
彼女にとって他の誰かじゃダメなのだ。
「あ、あ、あいぼん、どーしよ・・・・・」
「のんちゃん怒ってたよー・・・・」
「あー、もう、しゃーないなー・・・・・
放っておけば、どうせ直るけどなぁ・・・・・」
「わ、わたし、みんなにどんな風だったか聞いてくるっ!」
「あいぼん、ごめん!ほんとごめん!!」
「謝るなよー、勝手に怒ってるのはののなんだからさー」
「だって、この後、取材もあるしょやぁ・・・・」
「ちょっとそれが心配・・・・」
「うち・・・・行かない方がいいよね」
「そだね・・・機嫌直ったら連絡するよー」
「ほんとごめんっ!お願いするよぉ・・・・」
別れる時、小川まで泣きそうな顔していた。
40 :
L.O.D:04/11/17 22:34:59 ID:K0ScqbLx
「困った奴・・・・」
慣れてしまった。
自分がなにかしたがると、真似したがり
自分がほめられると、対抗しようとする。
そういう風に出来ているのだ。
Wの控え室に入ってみると
すっかり怒ってる辻がいた。
「なんで、のの置いてったの・・・・・」
「だって、来てなかったし・・・・」
「誘ってくれればよかったじゃん・・・・
仕事なくなったのは同じじゃん・・・・」
「そうだけど、急だったから・・・・」
「こんこんと二人で行けばいいのに・・・・・」
「いや、そこな、かぼちゃケーキが・・・・」
「いいもん!のの、仲間はずれにして・・・・」
「・・・・・はぁー」
あまりのいじけっぷりに腹が立ってきた。
さっきはあたかも自分が辻の考えを先読みして
引くところは引いているように言ったものの
こうなってくると話は違う。
加護の中で押さえきれぬものが溢れ出しそうになる。
41 :
L.O.D:04/11/17 22:48:41 ID:K0ScqbLx
「携帯置いてくとか、ほんとありえない・・・・
いっぱい連絡したのに・・・・」
「なぁ、のの、うちやあさ美ちゃんおったんやから
連絡してくれればよかったんやないのっ?」
「・・・・・・・・・・」
「みんな、うちらと一緒にいるって教えてくれたんやろ
それをまこっちゃんがいないのとか
うちらが勝手にご飯食べに行ったみたいに言うて
どっちがわがまま言うてるんか分かっとんのかっ」
「・・・・・だって」
「だってもクソもあるかいな!
あんたのワガママで一気に冷めたわ!!
ほんま腹立つわ、こいつ!!」
「うっさーーーい!!なんだよっ、その言い方!
ののも腹立ったんだよっ!!」
ガタァアアアアンッ!!
立ち上がって、椅子を蹴り飛ばした辻が加護を押し倒して、上から殴りつける
加護もこのあとの仕事のことなんか忘れて、辻の顔を殴り飛ばした。
マネージャーがこの騒動を聞き付けて、飛び込んできた時には
控え室どころか、二人がひどいことになっていた・・・・・・
42 :
L.O.D:04/11/17 22:51:54 ID:K0ScqbLx
数時間に渡り、マネージャーに説教された辻が家に帰ってきたのは9時過ぎ。
それでも、気持ちが収まらず、まず母親に一言言われた。
遅い夕ご飯を食べるも、食事を取るという行為に
自分の怒りの元をオーバーラップさせてしまい
早々にやめて、部屋に閉じこもった。
居間のテレビの音が漏れ聞こえてくる。
落ち着かず、音楽をかけてみるも気分に合わない。
やり場のない怒り。
いや、怒りなのかどうか分からない。
だけど、辻の心を裏切られたという気持ちでいっぱいだった。
「一緒に遊びたかったのに」
加護の顔が浮かぶ。
ああなったらダメだ。
どうしてもぶつかってしまう。
その度に後悔するのも分かってる。
だけど、止められない。
まるで、ビリヤードの最初のショットのように
考えや理性が吹き飛んで、言い合いが始まる。
だけど、こんな喧嘩は久しぶりだった。