122 :
L.O.D:
『steal 〜 song for you 〜』
「わたしが・・・・・のこと・・・・・・
・・・・・ないよと・・・・・・ほしい・・・・・」
それは歌にもならない小さな呟き。
自分の中で噛み砕くように、何度も何度も繰り返す言葉。
バッグの中に荷物を詰め終わり、忘れ物はないか確認する。
「・・・・・おわれば・・・・ように・・・・
どんどん・・・・・・・・っと、消さなきゃ」
無意識に口づさんでいたメロディで
かけっぱなしだったCDを止めるのを忘れてたのを思い出した。
履きかけた靴を脱ぎ、かわいらしい青の小さなCDデッキのスイッチを押す。
一人暮らしの部屋。
比較的、きれいな方であり、自分のための空間である。
「今日もがんばりますか。」
123 :
L.O.D:04/12/10 01:38:22 ID:rR8vk172
自分で自分に言い聞かせる。
いつの間にかクセになっていた。
どんなに良い楽器でもメンテナンスされていなければ
良い音を鳴らしてはくれない。
自分の心の弦を張るのは自分の仕事で
今はもう、なにかあったからってフォローしてくれる人はいない。
だから、自分で元気を出すために言葉をかける。
側にいるみんなが声をかけてくれる気がして。
ガチャ・・・・・・
安倍なつみがモーニング娘。を卒業して、半年が過ぎた。
アルバムを出した、ミュージカルをやった、ツアーもやった。
毎日が緊張の中で、新たなことを教わった。
自分の考えや、自分の思いを伝えたいという気持ちが
どんどんと溢れ出してくるのが分かる。
それは日一日と強くなっていく。
今の自分を突き動かしてるものを強く感じている。
また新しい日が始まる。
124 :
L.O.D:04/12/10 01:41:18 ID:rR8vk172
「安倍、新曲のレコーディングスケジュール出たから」
「あ、はい」
マネージャーから手渡された紙には
スケジュールが並んでいる。
また新しい歌を届けれる、そう思うと、笑みがこぼれた。
しかし、フッと気付き、顔を上げる。
「あれ?MDは?」
「まだ届いてないんだよ。今日中に持ってきてもらえると思うけど」
「そっか・・・・・・・」
最近、気掛かりなことがある。
つんく♂のことだ。
昔ならいつだってレコーディングには立ち会った。
時にはブースの中へ入ってきて
歌い方を指導してくれて
一つ一つ、ヴォーカリストとしての在り方を
その場で教わってきたような気がしていた。
だけど、この頃、誰のレコーディングにも立ち会っていないらしい。
125 :
L.O.D:04/12/10 01:51:12 ID:rR8vk172
それは、一人のアーティストとして認めてくれて
立ち会うことなくとも、安倍は安倍の考えで歌えばよい
ということなのかもしれない、と
ポジティブに考えるようにし続けていた。
だけど、心の中で引っかかる何かを払拭することは出来ず
かといって、誰かに聞くわけにもいかずにいた。
スケジュール表をそっとしまい
バッグからiPodのリモコンを引っ張り出す。
いらない考えが浮かぶ時は
何も考えないように歌うだけだ。
どんな時だって歌えればいい。
気持ちを落ち着けるのも、高揚させるのも
自分には音楽がいい薬になるのは分かってる。
車はゆっくりと混雑した街を通り抜けていく。
エンジン音の隙間隙間に、聞こえてくる音。
窓の向こうに見える歩いている人。
手をつなぐカップル
子供とお母さん・・・・・・・
126 :
L.O.D:04/12/10 01:57:29 ID:rR8vk172
窓の外を見ると、まだ窓の外はさんさんと太陽が降り注いでいる。
自分が生まれた季節だからだろうか。
時折、太陽を浴びたくて、散歩する。
ショッピングがてら街を歩く時もあるし
普通に川岸の道を歩いてみる時もある。
逆に、外に出たくなくて、家でゆっくりDVD観てる時もある。
今日は代官山の辺りでもプラプラと歩くには
良さげな天気だと思っていた。
マネージャーが置いていったMDをしまい
局の玄関からタクシーに乗る。
昔なら、ワゴンやミニバスが止まっていて
みんなガヤガヤと乗り込んだものだ。
大きな橋から見える街の風景はいつもと変わらぬ姿で
夜に見るよりかは寂しげには見えなかった。
今はこの大きな街にいるどれだけの人に
自分の姿を見てもらえているかを
純粋に楽しめている気がする。
昔はどこか顔の見えぬ誰か、例えそれがファンを名乗る人でも
怖い、と感じてしまった時代もあった。
心ない言葉や風評に揺さぶられ、自分の中のバランスを保てずにいた。
今は大丈夫、前を見てられる。