灼熱のアスガン

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137書いた人


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「しょうらいのゆめ」 1ねん1くみ   こんのあさみ

 わたしのしょうらいのゆめは、とってもえらいかがくしゃになることです。
 かがくしゃになって、わたしはじかんをとびこえるきかいをつくってみたいです。
 なぜわたしがかがくしゃになりたいかというと、
きょねん、わたしがだいすきだった犬のバレンタインがしんでしまったからです。
 バレンタインがかかったびょうきは、おいしゃさんがなおすことはできないびょうきでした。
 でも、いまのおいしゃさんはむりでも、もっとみらいのおいしゃさんだったら、バレンタインをなおせるかもしれません。
 だから、わたしはじかんをとびこえるきかいでみらいへ行って、バレンタインをなおせるおくすりをもらってきます。
 それを、きょねんのわたしに、あげたいと思います。
 そうすれば、バレンタインは、きっといまも生きてると思うのです。
 わたしは、そんなことができるきかいを、きっときっと、つくろうと思います。


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138書いた人:04/11/24 22:45:59 ID:EOUnTHei

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作文を読んだ私を、同級生たちは笑っていた。
ゆびを指して私を笑うみんな。
それを真っ赤になって怒りながら、制しようと必死の先生。
全てが懐かしい、あの日。

私は嘲笑するクラスメートを見て、何とも思わなかった。
だって…自分の言ってることは、至極真っ当なことだと信じていたから。
それにひとりだけ、両手で頬を包んで、眩しげに私に笑いかけてくれていたから。
139書いた人:04/11/24 22:47:26 ID:EOUnTHei


…夢を見ていた。
途中で気付いた。

しっかし…どういう夢なのよ、これ。
人生で一回もこんな将来の夢、描いたこと無いのに。
こんな発表会だって記憶に無いもの。

この繰り返しの中で、よく見るようになったおかしな夢。
いつも疲れる夢。
いつもは夢から覚めた後、さっさと忘れちゃって、ただ疲れるそれに腹が立つけど。

でも…なにか、こう、今夜の夢は…暖かかった。
夢から覚めても、覚えていたいと思った。
140書いた人:04/11/24 22:48:35 ID:EOUnTHei

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「ねぇ、あさ美…大丈夫なの?」
「え? あぁぁ…と、うん、大丈夫」

コンサート前のリハーサル、いつものようにふらふらと踊る私に、愛ちゃんが首を傾げる。
いつものようにふらふらと、なんだけど…確かに今日は、ちょっぴり足元が覚束ない。
そこ、いつものことだとか言わないように。

「はい、それでは次に…MC終わった後の立ち位置、ご確認お願いしまーす」

会場内に響くマイクの声。
ちょっぴり頭にガンガンと響く。

「ほら、あさ美…」
「?」
141書いた人:04/11/24 22:50:01 ID:EOUnTHei

愛ちゃんが差し伸べた手がダブって見えた。
アハハ、ダメだなぁ…私って……
愛ちゃんの顔がおかしな向きになっていく。

ビタン!

って思ったら、ほっぺが思いっきりステージにぶつかった。
みんなの叫び声が響く。
駆け寄ってくる足音が、ダイレクトにステージを通じて頬に伝わる。
いやいや、みんな痛いからさ。

「マネージャーッッ!! 紺野が倒れたッ!!」
「ちょっと…早く!」

矢口さんも石川さんも…相変わらず五月蝿いなぁ。
この五月蝿さのデュエットを聴けるのも、あと少しかぁ。
142書いた人:04/11/24 22:51:44 ID:EOUnTHei

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「つーかさぁ…あんたが行く必要あんの?」
「バカだなぁ…」
「馬鹿とか言わないでよ。
確かにあんたよりあたしは馬鹿だから、そー言われると余計に悲しいでしょ!」
「いや、世間的に…全世界的に見れば、全然天才の部類だよ」
「うっさい、それが余計にむかつく。でも…なんで?」
「え? だってさぁ、エジソンだってグラハム・ベルだって…
世界の発明家で、自分の発明を最初に自分で使ったことが無い人なんていないよ?」
「そうだけどさぁ」
「それにさ、私が行った方が、色々と改良点もたくさん見つかっていいかな、って」
「…そっか。そうだよね…あんたが何であれを作ったか、その理由忘れてたわ。
応援するよ。どう? 成功祈願に食事でもしよ?」
「いいねぇ…」
「涎出てる、涎」

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143書いた人:04/11/24 22:53:16 ID:EOUnTHei

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目が覚めたとき、ホテルのベッドの上に居た。
豆電球だけ点いてるから、ホテルだって事は分かるんだけど、暗くてよく分かんない。
エアコンのせいで空気の冷たさも分からないから、今が何時かも。
えっと…枕元に照明のスイッチが…
パサッ…と音を立てて、おでこから何かが落ちたような気がした。

点いた電気に一瞬目を細める。
ちょっと目やにがついていたので、慌てて指でそれをこすった。
枕の横には、私のおでこから落ちたであろう、濡れタオルが転がっている。

そっか…私、リハーサルで倒れて…
慌てて携帯をとって時間を見た。
22時28分か………私、今日のコンサート休んじゃったんだ。
144書いた人:04/11/24 22:55:42 ID:EOUnTHei

「…んと…あ、紺野…起きたんだね?」
「石川さん!」

声のする方に慌てて顔を向ける。
全然気がつかなかった。
ベッドの横で顔を伏せて、石川さんが眠っていたらしい。
私…もうちょっと注意深く生きようよ。

「看病してあげてたのに寝ちゃった。ごめんねぇ。
過労だってさ。紺野、分かってる? 疲れてんのよ」
「ハァ…そうですか」

疲れてるはずですよ。今まで身体に出てこなかったのが却って不思議ですもん。
心配そうに、でも「過労」って言う原因がちょっと安心できたのか、それでも笑顔を絶やさずに、石川さんはへにゃっと笑った。
コンサートのお化粧がまだ微かに落ちきっていないみたいで、肌の上にキラキラしたのが見える。

なにかこう、その笑顔と相俟って、とても綺麗だった。