朝娘市は隣接する市町村…
いや日本とは『奇異な地割れ』によって隔離されている。
その地割れは一辺が20キロメートル程の六角形の形を形成していて 、朝娘市を囲むように出来ていた。
地割れの幅は50メートル〜100メートル、深さは測定不能…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………‥‥
その地割れから、響く魔界の轟音に誘われ、ゾンビの群れは朝娘市に向かって歩く…
その数は徐々に膨れ上がり、朝娘市を無数の死人が取り囲む…
そして、次々と地割れに落ちていく…
まるで、魔界に導かれるように…
落ちるゾンビの数だけ、魔界の瘴気は膨れ上がり、
どの位深いのか分らない真っ黒な地割れの底が、せり上がってきていた…
朝娘市市議会議事堂。
議会席の前席に座る 中澤と石黒は、議長席に座り偉そうに葉巻を燻らしている
つんくを見るでもなく眺めてた。
「遅いわねぇ、いつになったら始めるのよ」
かれこれ1時間ぐらいは、この状態で待っている。
石黒は背伸びをしながら議事堂を見渡した。
ざっと見て、100人は集まっているだろうか、見た事があるような物騒な連中も来ている。
と言うか、集まっている人間の半分以上は、明らかに普通の人間ではない。
「あっ!」
席の後ろのほうに松浦と吉澤、石川、藤本を見つけてガタンと席を立つ石黒。
「これ、もうちょっと落ち着いておれ」
中澤に咎められ、ふて腐れたように座る石黒は、ニヤニヤしながら自分の手を見ている中澤に気が付いた。
「どうしたのよ?ニヤニヤして」
「気付かんか?」
中澤はホッホッホと笑いながら、今度は手鏡を取り出して自分の顔ををウットリと見ている。
「昨日から若返ってきてのぅ。90歳代に戻ってるわい」
「ハァ?」
200歳が90歳に戻っても、余り変わらないような気がする。
石黒は半ば呆れ顔で、ニヤつく中澤を見詰めた。
「おい、人造舎の魔人連中が全員いるじゃねえか」
「それぐらい切羽詰っているという事じゃありませんの?」
「いよいよ、ヤバイところまできたって感じだよね」
「お店、どうなるのかなぁ?」
後ろの席の一角に陣取った吉澤、藤本、松浦、石川は朝娘市議会に呼ばれた訳ではない、
藤本に誘われて、興味半分に着いて来ただけだ。
副議長席に座っているハロー製薬の藤本専務が、自分の娘の存在に気付いて、
苦虫を噛み潰したような表情で、こちらを見ている。
KEIの事件以来、父親の言う事を聞かなくなった娘は、夜な夜な出歩き、
今では親子の会話も無くなり、半分諦められていた。
「おっ、やっぱり呼ばれていたか…」
フッと吉澤が笑って、手招きをする。
分厚いドアを開けて入ってきた飯田と福田が、最後のようだ。
2人は吉澤達を見付け、小さく手を振りながら近付き、吉澤達の隣の席に座った。
(大阪国際空港から福田は財前の鞄を使って、戻ってきていた)
飯田と福田が入ってきたのを確認して、つんくがようやく立ち上がり、マイクを取って、
一通りの挨拶を済ませた。
「さっそくですが、こちらをご覧頂きたい」
大型スクリーンに映し出されるのは、朝娘橋からの中継だ。
万の数を優に超えるゾンビの大群が、魔界街を目指し押し寄せ、
次々と地割れに落ちていく映像が映し出されている。
「そういう事かい」
自分が若返り、魔力も強くなっていく理由が解り、中澤はカッカッカと笑う。
「どういう事?」
石黒も分ってはいたが、あえて聞いてみた。
「魔界はゾンビを餌に、膨れ上がっているという事じゃ。
ワシが若返っていくのは魔界の魔力が増大している証拠じゃ。
そして、遅かれ早かれ、魔界街は真の魔界に飲み込まれる…じゃろ?」
不適に笑って、つんくを見据える中澤。
「そういう事だ」
中澤の話しを聞いていた つんくは、あっさりと認めた。
「皆さん、ご覧のように魔界はゾンビを惹き付けて地割れに誘い込み、
それを糧にして魔界そのものを この世に溢れ出そうとしている。
そのエネルギーは莫大で、我々の計算では、後 一週間程で朝娘市は人の住めない環境に陥る。
つまり、このままでは全員が死ぬという事だ」
スピーカーから響く、つんくの声に議場がザワつく。
「そこで我々は、ある決断を下した。
その計画を、今発表する。
異論の有る者は席を立って頂いて結構だ」
シーンと静まり返る議事堂。
計画は次のように発表された。
:5日後に朝娘市全市民は朝娘市を放棄し、新転地を目指す。
新転地に行くかは個人の判断に任せる。
行く場合は全権を朝娘市に委ねる。
移動について、市民は自家用車を使用。車の改造は自由。
車を持っていない者は相乗りするか、朝娘市が用意するバスを使用する。
移動に当たっては適所に武装したパトカー及び白バイまたは装甲車を当て、
警官の指示に従い行動する。
自衛の為のゾンビ殺害は許可する。
:新転地は東京都新宿区。
:明日、先遣隊を派遣し、全市民の受け入れ準備を進める。
先遣隊は、今議場に集まって貰った人間からゾンビ討伐隊として50人程を選出、
その他、作業をするものを含め、総勢500人程の編隊にする。
第一陣は精鋭50名程で明日朝出立。
国道から東京に抜ける高速道路を確保するのが任務。
道が事故車等で塞がれている可能性が大なので、
邪魔な車両は撤去しつつ最低二車線は確保する。
それを2日間で完遂し、繋がれば携帯か無線機で朝娘市に連絡。
第二陣は3日後、新宿区画確保作業要員約400名から500名が出立。
新宿到着後、第一陣と合流、ある程度の範囲、
つまり市民約40万人が入れる区画を確保。
ビルとビルの間にバリケードを築き、ゾンビの進入を防ぐ。
バリケードを築いた後、区画内にいるゾンビの掃討。
第三陣は本隊、つまり朝娘市全市民の大移動である。
これは第二陣の作業の遅れなど関係なく実行する。
作業が遅れていた場合は、市民全員で事に当たる。
市民入植後、バリケードを広げ居住地を確保する。
「これが、第一段階。絶対に失敗は許されない。以降、第二段階に計画を移す」
つんくがモニターに映し出された計画書を指しながら、説明に入る。
:市民全員入植した後、新政府を樹立、インフラ整備を行なう。
:道を確保しながら原発を確保。原発の整備にはハロー製薬研究員を当てる。
:横浜にある政府備蓄米200万トンと缶詰等食料の確保。
:同様にしてダム(水源)の確保。
:他の生き残っている人間の保護。
テレビ局を確保し、自衛隊への呼びかけ、協力要請、情報提供をする。
:他の原発を停止(メルトダウン防止)するための別働隊を組織し当たらせる。
:農地を造り入植を進める。
:文明維持のため、生活の基盤が出来るまで貨幣の価値を下げない。
「以上は概要だが、臨機応変に対応していく。
とりあえず、ダムの確保までは一年以内に実施したいと思っている。
…質問はあるか?」
人造舎の魔人の一人が魔人を代表して恐る恐る手を上げた。
飯田に寝返った新垣に呼び出され来てみたが、(魔人達は新垣が寝返った事を知らない)
こんな事になってるとは思ってもいなかったのだ。
「あのぅ、俺等、指名手配されてる者も含め、全員犯罪者なんだけど」
「罪は問わない」
「じゃあ、無罪?」
「ああ、そうだ」
イヤッホォウ!と歓声を上げる犯罪者達。
「今、君達に犯罪を問うて何になる…
今、必要なのはなんだ?」
つんくにビシリと指差された魔人は答えに窮した。
「今、必要なのは力だ。
今、必要なのは団結力だ。
今、必要なのは困難を乗り越える精神なのだ!」
つんくはコップの水を口に含むと、一気に まくし立てる
「諸君!今、我々は人類存亡の危機に直面している。
この未曾有の危機を打開する為に、我々は絶対に勝利しなければならない。
それには ここに集まって貰った君達の力が必要なのだ。
全ては君達の肩に掛かっていると言っても過言ではない!
今まで我々朝娘市の市民は世界から ある時は羨ましがれ、そしてある時は疎まれ、
特殊な目で見られながらも、逞しく生きてきた誇りがある!
それに君達には、12年前に魔震によって破壊された街をたったの5年で再興させたという自負があるはずだ。
その誇りを胸に、全力でぶつからねばならない時が来たのだ!
いいか!もう一度言う!これは我々朝娘市市民、いや、人間の尊厳を掛けた闘いなのである!
絶対に勝利しなければならない!
我々の未来は我々自身の手で掴み取らねばならんのだ!」
つんくの熱弁にウオォォオオオ!!と咆哮で答える魔人達。
席を立って議場を出る者は一人も出ず、満場一致の拍手が議事堂に木霊した。
『スナック梨華』に帰ってきた石川、吉澤、藤本の3人。
店は3日前から開けてはいないが、何故かココに集まってしまう。
「先遣隊、どうするの?」
石川が誰に聞くともなく聞いた。
「俺はパス」
「私もですわ」
「やっぱりね…ってか、あの会場の雰囲気は異様だったよ、
しまいには、ジークつんく!なんて訳の分んない事を言い出すバカも出てきたし」
石川は議場の盛り上がりを思い出し、ウエーっと舌を出して小馬鹿にする。
あれから つんくの演説は更にヒートアップし、うんざりした吉澤達は途中で退席してきたのだ。
「先遣隊は決まったよ」
カランカランとドアを開けて入ってきた飯田が、カウンターに座って水割りを注文した。
「店、やってないんですが…」
言いながら、石川がカウンターに入って水割りを作って飯田に出す。
人造舎所属の魔人達は、つんくの演説に絆されて全員先遣隊に志願した。
今まで人の役に立った事が無い連中が、この危急の事態に至って
初めて見せた人間らしさだった。
「飯田さんは?」
水割りの おかわりを作りながら石川。
「私もパス。麻琴とお爺ちゃん、あと のんちゃん達も心配だからな。
それに、私が行かなくても、福田が行くって言ってたから大丈夫だろ」
「あの拳法使いの坊さんと孫の2人なら、素手でもゾンビぐらいは平気だろ」
吉澤も水割りを作って貰って、グラスを傾ける。
「ハハハ、ゾンビだけならね」
「どういう意味?」
石川に、あれこれ指示しながらカクテルを作らせて、藤本が聞いた。
「5日後に脱出だろ?5日後にはどうなってるか分らないって事…」
ハァと溜息をつく飯田は、以前に麻琴から聞いた、魔界の化け物が出てくるのを案じていたのだ。
「だったら、全員で新宿に先乗りするか?」
吉澤が冗談交じりで言ったが、飯田は少し考えてから
「…いいねぇ、グッドアイディアだよ」
と、手を打った。
「どうせ、住居を割り当てられるんなら、私達で良い所を先に取っちゃおうぜ」
その話しに石川が、すぐに乗った。
「新宿なんて言わないで、六本木ヒルズにしようよ。
あそこの高層マンションを一棟ごと全部押さえるってのはどう?」
石川の大胆な発言に「それだ!」と、指を鳴らす飯田。
「朝娘市民には悪いが、そっちの方が面白そうだな…
そうだ、マンションなんて言わずにショッピングモールも押さえようぜ。
ビルに入って内側から鍵を掛ければ、ゾンビなんて進入できないしな。
あっ、のんちゃん達も誘わないと…
ちょっと待って、今、メンバーを決めるから」
指折り、メンバーを数え始めた飯田は、途中で面倒くさくなったのか、数えるのを止め、
「と、とにかく、私達は私達で行こうぜ!
新宿に出来る新生魔界街とは友好関係と行こうじゃない」
と、石川に滅多に飲まないビールを持ってこさせた。
何かを吹っ切った感じで石川と乾杯をする飯田。
吉澤と藤本は顔を見合わせ、首を振った。
「どう思う?」
「色々と悩みすぎて、何かがキレたんでしょ。冷静な判断とは言えませんわ」
「…だな」
そう言いながらも、考え始める吉澤。
「どうしましたの?」
「いや…俺達なら出来るんじゃないかな…と、思ったりしてな…」
藤本の冷ややかな目に、鼻の頭を掻いて少し自嘲気味に照れる吉澤は、
「おっ、そう言えば、つんくの演説が始まる頃だろ」
そう言って話題を変えつつ、テレビのスイッチを入れた。
テレビに映った つんくは顔を真っ赤にしながら演説していた…
訝しがる吉澤と藤本を説得し、
MAHO堂に飯田達が現れたのは、中澤が安倍達に説明している時だった。
石黒と松浦も来ていて今後どうするか相談中だったようだ。
「ふーん、ここがMAHO堂ねぇ、ちゃっちぃね♪」
「汚らしい店ですわね」
「オマエ等、シーッ」
石川と藤本が店内を見回して本音を漏らし、
安倍達にギロリと睨まれのを見た吉澤が諌(いさ)める。
「なんじゃい、オマエ等は?」
中澤に睨まれ、首をすくめる飯田は、
「ちょっと、大事な相談があるのよ」
と、中澤を押しのけて、皆の前に陣取った。
「なんじゃ?相談って?」
「ちょっと待って、あと2人、お爺ちゃんと麻琴も呼び出したから」
時計をチラリと見た飯田は、
「じゃあ、それまで ご歓談を」
と、言って辻を手招きし、チョコチョコと寄ってきた辻の頭を撫で撫でした。
憮然とする中澤を無視し、それぞれ勝手に話し始めた娘達は
魔界街の幕が閉じる事もあいまって、思い出話しに花を咲かせる。
MAHO堂の前に霊柩車が止まった。
出てきたのは小川龍拳と孫の麻琴。
「なんで、神社に霊柩車が有るんだよ」
店に入ってきた龍拳に突っ込んだのは孫の飯田だ。
「ワシの所は、そっちの方も兼業しとるんじゃ」
「そっちの方って、どっちの方だよ」
「フン、呼び出しておいて、その言い草はなんじゃ、バカタレ!オマエには、金はやらんぞ」
「金…?」
「そうじゃ、霊柩車の中には600億円が入っておる、貨幣の価値は下げんのじゃろ?ひっひっひ」
飯田と龍拳のやりとりを聞いていた娘達は、600億の言葉に一斉に
「600億!!!!」
と、大金持ちの藤本を除き、全員で突っ込んだ。
「話しは、だいだい聞いておる。新宿に先乗りして一等地を確保するんじゃろ?
ワシ等はその話しに乗る事にする」
「お爺様、まだ決まった訳では…」
「うるさい麻琴。新生小川神社を造るには、600億の金と土地が必要なんじゃ!
その為には、ワシは何でもするつもりじゃ!」
カッカッカと笑う龍拳は、呆然としている中澤と目が合い、一瞬固まる。
「こ、これはお美しい…いや、お初にお目にかかる。
ワシ‥いや、拙僧は小川龍拳と申します。
いつぞやは孫の麻琴の命をお助け頂いたようで、
いつかは、お礼を言おうと思っていたところですじゃ」
ギュッと中澤の手を握る龍拳の瞳は、中澤を真っ直ぐにキリリと見詰める。
「ま、まぁ、美しいだなんて、イヤですじゃわ」
ポッと、乙女のように顔を赤く染める中澤の反応に、ゲーッと顔を見合わせる娘達。
「いや、本当の事ですじゃ。どうです、拙僧と ちと小川神社のお話しでも…」
「ええ、喜んで…」
龍拳に手を取られ、店の奥に消える老人2人…
「キ、キモ…」
「バカやよ」
「有り得ないです」
「何やってんだ、こんな時に…」
「アホは、ほっとこうや」
「痴呆が始まったようですわ」
「お、お爺様…」
「で、でもほら、なんか良さげな2人だべさ」
「そうなのです。お似合いなカップルなのです」
言いたい放題の娘達。
「ウホン」
と、咳払いをして「そんな事より」と、続けたのは石黒だ。
「話しの筋は、だいたい見えたわ。興味があるわ。詳しく説明して貰おうじゃない」
腕組みをしながら、飯田に向き直った石黒も、朝娘市とは一線を画したかったのだ。
話し合いは深夜まで続いた…
朝6時…
朝娘橋のゲート前には、十数台の武装改造車が集結していた。
先頭には分厚い鉄板を菱形に取り付けたローラー車と
火炎放射器とバルカン砲を前面に出した装甲車。
続いて装甲を頑丈にしたユンボ。
魔人達や、腕に自信を持つ猛者達を乗せた武装改造車と続き、
最後部に飯田のコルベット、龍拳の霊柩車、藤本の高級リムジン、
ドカティST4S ABSに跨る吉澤をルーフに乗せた石黒の大型ワゴン車が陣取っている。
朝方、急に現れた飯田達に朝娘市側は難色を示したが、
飯田のお墨付きの実力を持った者達と分ると、あっさりと認められた。
なお、安倍達、家族が居る者には、後で家族を呼び寄せ、
六本木ヒルズの条件の良い住居に住まわせると条件をつけて納得して貰っていた。
飯田のコルベットには、麻琴と辻と加護。
「わぁぁあ、そろそろ出発なのです!」
「なんや、ワクワクするやんけ。なあ?」
「私は不安ですよ」
「ハハハ、私がいるから大丈夫!大船に乗ったつもちでいな!」
力瘤を作って見せる飯田は豪快に笑った。
龍拳の霊柩車には寄り添うように中澤が乗る。
「龍健様、ワシみたいな者でよろしいのかのぅ?」
「はっはっは、拙僧には勿体ない位のお人じゃよ、貴女は」
中澤は後3日待てば、20代まで若返る筈だったが、
龍拳が一目惚れしたように、中澤もまた端正な顔付きの龍拳に想いを寄せたのだ。
こんな気分になったのは何十年ぶりかも分らない。
中澤は、のぼせ上っていたのだ。
ブタのような新たな運転手が運転する藤本のリムジンには、
「なんで私が!」と文句を言いつつ石川が同乗。
「…ちょっとぉ…まだ出ないの?」
「…(無視)」
ここの車内は冷たい空気が流れていた。
真矢の運転する石黒のワゴンには安倍、矢口、紺野、高橋、松浦が乗り込んでいる。
「はぁ、なんでこんな事になっちゃんたんだべ?」
「なっちん家は、部長だからなぁ。うちの親なんか感謝してたよ」
安倍の頭を撫でて慰める矢口。
「街を出るのは初めてです。ちょっぴり怖いです」
「ハハ、あさ美ちゃんは初めてか…でも、こんな事で出るなんてね」
不安気な紺野とは対照的に高橋は、ピクニック気分だ。
「…アイドルの仕事…どうなるんだろ?ねえ社長?」
呆としながら、松浦は仕事の不安を訴える。
「それそれ、それよ。私に良い考えがあるのよ」
助手席に乗る石黒が身を乗り出し、松浦と高橋以外の3人をニーッと見詰める。
「よく見ると、あんた達と他の車に乗ってる連中…いい顔してるわぁ♪」
「?」と顔を見合わせる、安倍達。
「新生魔界街に売り込む算段はついてるのよ」
ニッと笑って、助手席に座り直す石黒は、窓の外に見える、
忙しそうに側近と話し込む つんくに向かってバイバイと手を振り。
そして、ワゴンの上のバイクに一人跨る吉澤は「まだか…」と、寂しそうに呟いた…
車列の中心に位置する重武装に包まれた装甲車の内部で
ブツブツ文句を言っているのは、新垣里沙 だ。
「なんで、私が派遣隊の第一陣に乗り込まなきゃいけないのよ!」
「アンタは魔人達の連絡係なんだから当たり前だよ」
「そうだよ!仕事しろよ」
「アンタは私達が守ってあげるから感謝するんだよ」
六鬼聖も乗り込む派遣部隊第一陣。
橋の向こう側からは、死人達の怨嗟の呻きが、鉛のように大地に響く…
その地獄の声を苦々しく聞きながら、ハンドルを握る運転手達の手が震えた…
そして、見送りにきた つんくの号令で、朝娘橋ゲートは開こうとしていた…