小川神社近くの駐車場に飯田のコルベットと松浦のワゴンが止めてある。
石川、安倍、矢口の3人は、松浦のワゴンの中でお菓子を食べながら
飯田達が帰るのを待っていた。
結界が破壊されたのは分かったから後は結果を待つのみ。
「ちょっと見てよ、アレ」
スモークガラス越しに石川が指差すのは、
口喧嘩をしながら、駐車場を横切ろうとしている初老の2人だ。
小川流拳法の胴着を着ている事から魔人と分かったが、
何故喧嘩しているのか分からない。
「ちょっと何よアンタ!臭いわねぇ!」
「アナタこそ凄く匂うじゃない!不潔よ!」
お互いに指を差し、罵り合いながらワゴンに近づく。
唖然と2人の やりとりを見る車内の3人。
「オカマじゃん」
矢口がニヤニヤ笑いながら毒づく。
「双子のオカマ魔人よ…」
訳知り顔の石川は平家の記憶に有る、2人の魔人を思い出し、
安倍はプッと吹き出した。
しかし、耳の良いオカマ魔人は、キッとワゴンを睨み付けた。
「ちょっと!私は地獄耳なのよ!」
「なんなのよ!あなた達!出てらっしゃい!」
矢口がスモークガラスを少しだけ開けて、更に毒づいた。
見た目は怖そうだが、オカマに負ける気がしなかったのだ。
「うっさいオカマ!」
そう言ってピシャリと窓を閉める。
「まー!悔しい!」
「キー!許さないわよ!出てらっしゃい!」
ドンドンとドアを叩いて、凄い形相で車内を見る2人のオカマ。
「ちょっと、ヤバいわよ。仮にも魔人なんだから」
石川が矢口の背中に隠れた。
「大丈夫だって、おいらと なっちの連携技が有れば一発でギャフンよ!」
「ギャフンって…」
死語に近い言葉に安倍が呆れるが、それでも今朝方サカナ君を殺した
(実際に殺したのは松浦)自信が言葉になって表れた。
「オカマって言われたくなかったら、名を名乗れべさ!」
「ちょちょちょちょちょっと、あんた達本当に大丈夫なの?」
挑発しすぎだと、安倍と矢口を咎める石川。
「大丈夫、大丈夫!」
「へっちゃらだべ!」
どこからそんな自信が来るのか、2人の魔女見習いはベーッと舌を出して
更に挑発した。
「キーッ!」
「悔しいわ!」
歯噛みして悔しがるオカマ魔人は それでも、
「お杉です!」
「P子です!」
と、窓越しに名乗る。
安倍と矢口は堪えきれずゲラゲラと笑い出した。
2人が強気になっている理由、つまり、徹夜でハイになっている事を知らない石川も
釣られてゲラゲラと笑い出す。
プチンと頭の血管がキレた双子のオカマの表情が
みるみる変わっていく その面は、まるで大魔神か金剛力士像だ。
「ひっ!」
「怖いべ!」
「だから言ったでしょ!」
ワラワラと車内の奥に逃げる3人に、これ以上の逃げ道は無い。
そこに…
ドーン!という鋭い音と共に青い落雷が、お杉とP子の頭に落ちた。
プスプスと煙を上げながら真っ黒く爛れ死ぬ2人のオカマ…
呆然としている3人の後部ドアをコンコンと誰かが叩いた。
「私の会社の車に乗ってる貴女達は誰?」
稲妻を発した杖を持つ、鷲っ鼻の魔女は怪訝そうに車内を覗いている。
「あっ!あの鼻!」
「ほ、本物の魔女だべ!」
「誰が!鷲ッ鼻じゃ!ぼけ!」
誰も鷲ッ鼻なんて言ってないが、石黒は気にしているのだろう、
その恥ずかしいツッコミに自ら気付いた魔女は「ウホン」と咳払いしながら、
車外に3人を手招きして降ろす。
「私は松浦亜弥の事務所の社長よ。貴女達は?」
「ぁゃゃのお友達の安倍です」
「同じく矢口です」
「よっすぃ の恋人の石川です」
ペコリと頭を下げる3人。
「マネージャーが居たはずだけど?」
「…逃げました」
石川の逃げたとの答えに、石黒はチッと舌打ちをし、何やら独り言をブツブツ愚痴った。
「あの…なんで社長さんがここに?」
オズオズと安倍が聞く。
「ちょっと、心配になってね。
それより、私が来なかったら貴女達、オカマに殺されてたわよ」
ハハハと乾いた笑いで顔を見合わせる3人と、
フウッと溜息を漏らす石黒。
石黒が駆け付けた理由は勿論、結界が消えた事を知ったから。
そして急遽 杖に乗り、飛んできたのだ。
「まぁ、いいわ。今までの事、話して頂戴」
「は、はい…」
「〜〜〜と、言う訳だべさ」
今日の出来事を石黒に促されるまま、手短に話す安倍と石川。
「そう、貴女達が松浦の助手をしてたのね」
石黒も安倍と石川の説明を聞いていて思い出した。
中澤の所の糞生意気な魔女見習いの事を…
多分ホウキを持つ2人が中澤の弟子で、
もう一人が松浦が言っていた情報屋の小娘なのだろう。
「神社の方はどうなってるのか分りますか?」
心配そうに石川が聞く。
「私も今来たばかり。でも、さっき 使い魔のカラスを飛ばしたから…」
石黒が話していると、タイミング良くギャーギャーと鳴きながら
使い魔のカラスが報告しに飛んできた。
肩に乗ったカラスを撫でながら、使い魔のクチバシに
耳を傾けていた石黒の表情が一変する。
「そ、そんな…」
愕然と肩を落とす石黒。
石川、安倍、矢口の3人に嫌な胸騒ぎが去来する。
「死んだわ…松浦と吉澤君が…」
その言葉を聞き終えずに石川は走り出した…