18:35
「おいし〜い!!!」
亜弥が思わず叫ぶ。圭の顔もほころぶ。
「あぁ〜、ちょっと感動してますぅ!あーどうしよ涙出てきた」
「そんなおおげさな…(笑)」
まんざらでもない圭。本当に料理が好きな娘だ。
「パパの家のご飯よりもおいしい!すごいです!」
「パパの家のご飯…って宮廷料理ッ!?」
「今度あの人たちにぜひ料理を教えてやってください、食材はいいものを
使っているはずなんだけどどうも殺しちゃうみたいで…」
「はぁ、光栄です…機会があったら是非お邪魔させてください!」
麻琴が飛び上がる。
「やった!すごいよ大フィーチャーだよ圭さん!おめでとう!」
「ありがとぉ!」
抱き合う二人。
「よっしゃ、今日は宴会だ!」
18:43
「おねぇちゃん、この太巻きってやつおいしいよ!」
大口を開けて待っているあさ美。すかさず太巻きを一切れ丸ごと押し込む里沙。
あさ美の大きな目がさらに大きく見開かれる。
18:46
やっとすべてを飲み込めたあさ美。
「里沙ッ!危うく死ぬところだったじゃない!待ちなさい!」
パウンドケーキを持って里沙を追いかける。
「あのケーキはムリっしょ…あいぼんならあの太巻きは大丈夫かもしれないけどあのケーキは…」
愛の言葉に、希美が部屋を見回す。
「そういや、あいぼんは?」
18:55
オレンジジュースの入ったグラスにポッキーを山ほど挿して、希美はふらふらと部屋を歩いていた。
さっきから亜依の姿が見えないので探している。
梨華に訊いてみる。
「あの、あいぼん見てませんか?」
「うーん、みてないねぇ…」
梨華は亜弥から視線をはずさずに答える。さっきから亜弥は麻琴に取られっぱなしだ。
あさ美と里沙は口に入りきらない食べ物の応酬を繰り返している。
愛はテーブルの周りをまわって、食べ物を物色している。
仕方ないので、奥の椅子に座っているなつみと圭の所へ行った。
「あの、あいぼん知りませんか?さっきから見てないんですけど…」
腰を浮かして部屋を見回すなつみ。
「そういえば、イベント終わってから見てないかも。変だね…」
19:00
希美とあさ美となつみと圭は、部屋から部屋へと亜依を探して歩いていた。
梨華は亜弥をじっと見つめたままである。麻琴はまだ亜弥を占領している。
愛は皿に山盛りになった食べ物をずっと食べている。
里沙はペットボトルの紅茶をラッパ飲みしている。喉通りが悪いものを食べ過ぎた。
「おねぇちゃん何してるの?」
「あいぼんがいなくなっちゃったの。探して?」
19:08
もはやパーティーに参加している人は一人もいず、全員が亜依の名前を呼んで探していた。
終わってすぐに見たという証言はあったが、それ以降は所在がまるで分からなかった。
部屋の隅で荷物を調べていたあさ美が突然振り返り、おびえた顔をして叫んだ。
「あいぼんの…荷物が…ない」
更新乙です。あぁあいぼんさんはいずこに…。そして風が強い&夏休みが終わる。
19:27
『留守番電話センターです』
麻琴はケータイを耳に当てたまま絶望したように首を振る。一層空気が張りつめる。
梨華が突然叫ぶ。
「誘拐…私警察に連絡します!日本は110番ですよね!?」
ケータイを勢い良く開く梨華。日本の怖さはインターネットでさんざん学んできた。
そこへ圭が歩み寄り、梨華の手を押さえて、ゆっくりとケータイを閉じる。
驚いた顔をする梨華。
「梨華ちゃん、警察沙汰になると人が騒ぐからダメだよ」
「でもあいぼんが誘拐されちゃったんですよ?助けてもらわないと!ウチらじゃ無理ですよ!」
梨華の肩に手を乗せて落ち着かせようとする。
「警察は確かに亜依ちゃんを助けてくれるかもしれない。でもね、それはいずれ全部マスコミに
バレちゃうんだ。もちろん誘拐事件なら捜査中は報道管制が敷かれるけどね。まだ誘拐か
どうかさえ分かってないでしょ?自分で出て行ったのかもしれないし荷物は違うところに
置いたのかもしれないし。それにウチらは一般人じゃない。梨華ちゃんなら分かるでしょ?
ウチらが必要以上に取り乱してるのを人が見たらきっと不安になる」
梨華の目に怒りの色が浮かぶ。そして圭の手を強く振り払った。
「何役人みたいな事言ってるんですか!誘拐されたあいぼんにもし何かあったら責任
取れないでしょ!一般人の前では普通に振舞えばいいし、バレちゃったら公開捜査で協力してもらえるでしょ!」
「梨華さんッ!」
希美が机をドンと叩いて今にも梨華に向かっていきそうな勢いで叫ぶ。
なつみがその腕をつかむ。
「ののちゃん、梨華ちゃんが正しいよ。圭ちゃんの言うことももっともだけど、
私たちは別に単なるCMの出演者でしかないわけだから。あいぼんならすぐ見つかる。
大丈夫だから、今日はもう、みんなホテルに戻ろ?梨華ちゃんは通報してくれる?」
「ハイ!」
ベッドサイドの間接照明が、希美とあさ美の横顔を浮かび上がらせる。
「…あいぼん、本当に誘拐されたんだと思う?」
「なんか違う気がする。梨華さんの行動がベストだったとは思えないな。あさ美ちゃんはどう思うの?」
「私も誘拐なんかされてないと思う」
「なんで?」
「誘拐なら、誘拐されるときにもっと騒ぎが起こるでしょ。あいぼんがそんなに遠くにいたとは
思えないし。それに荷物もなくなってる。電話が繋がらなかったのもおかしい」
「電源、切られてたんじゃないの?」
「そう、そうなんだけど、人に気づかれずにあいぼんを連れ去るってことは、少人数の犯行
でないとできないと思うの。でも少人数なら暴れるあいぼんを押さえるので精一杯になる
はず。すぐに電源を切るなんて芸当はできないはず」
「あいぼんああ見えて力あるからねぇ…ってことは、あいぼんは誘拐されてないってこと?」
「うん、そう考えるほうが自然。自分から出て行ったんだと思う」
「どこ行ったんだろ…」
カーテンを開けて、夜景を眺める希美。
なんとなくテレビをつけてみたりするあさ美。
『…本日のゲストは浜崎あゆみさんです!…』
「あ、ののちゃん、あゆだよ!新曲だって!」
ベッドに座ってテレビを見る二人。
『出身が福岡なんで、この前ライブで福岡に泊まった夜にはスタッフさんと街を歩いて
ましたねー、懐かしかった』
はっと息をのむあさ美。
「街…歩く…ふるさと…!!!」
「どうしたの?」
「あいぼん、真希さんと東京見物するって言ってた!きっとそれだよ!」
「!!!…そういやいとこにも会うんだ、って楽しみにしてた!」
パァっと二人の表情が明るくなる。ベッドの上で手をつなぎながら飛び跳ねる。
「「明日、真希さんに電話してみよう!!」」