日本へ「来日」する前夜、三宅島のホテルで亜依と希美は同じ部屋になった。
十二時間後には、自分たちは有名人になっている…
実感が湧かない二人。亜依は都会に行ける喜びを、希美は人前で歌う恥ずかしさを感じるのみだった。
「のの、東京だよ、明日は東京だよ!」
ませていた亜依は、大都会で遊ぶ女子高生を自分の理想にしていた。
「真希ちゃんと一緒に渋谷で買い物するんだよ!」
仕事よりも空き時間の方に気が行っている。
「そっかぁ、後藤さんは東京のじょしこーせーだったねぇ…」
「そうなの、今度家に泊めてもらうんだ!おばさんとか、いとことかとヒサブリに会うんだよ…
何年ぶりだろう…五年?」
「五年も前じゃあ顔忘れちゃってたりして。でも、国の外に知り合いがいるなんてすごいなぁ…」
その後も亜依の親戚ショーは続き、夜は更けていった…
…午前一時…
ベッドの上には静かな寝息を立てる希美と、スナックを片手に、東京の自宅に戻った麻衣と
メールをしている亜依の姿があった。
「えぇ?麻衣ちゃんしってるの?」
「うん、たぶん亜依cの言ってる人と同一人物だと思う。小学校の時に一緒だった。
でもけっこうな有名人だよ…今も。」
「マジで?デジ(略)有名人かぁ…すっごい会うの楽しみになってきた!五年ぶりの感動の
再会だよ(笑)あ、ゴメンね、こんな夜遅くまで…じゃあまた今度!おやすみ☆」
ケータイを放り投げて眠りに就く亜依…麻衣の返信に気づかなかった。
「でも油断しちゃダメだよ、きっと亜依cが思ってる性格じゃなくなってるから。
問題児ってヤツだね」
…午前四時…
ノド渇いた。しかもトイレにも行きたい。
自分、イミわかんない。矛盾してんじゃん。
ボーっとした頭でそんな事を考えながら希美は起き上がった。
トイレを済ませ、部屋を見回すと、眠りこける亜依のベッドサイドに飲み残しのジュースの
ボトルがあるのに気がついた。
一口ぐらいバレないでしょ。とボトルを手に取り、キャップを開ける。
その時、亜依が急に寝返りを打った。
慌てて布団にもぐる希美…キャップもしないで置いたボトルが、倒れるのを止められなかった。
ジュースがこぼれ出し…亜依のケータイを沈めた…
夜は明けていった…
翌朝、飛行機の中でメンバーは最終確認を行った。
この飛行機が着陸したらそこはもうライブ会場。
綺麗に着飾って、緊張して椅子にうずくまるメンバー。はしゃぎまわるメンバー。
そんななか、亜依だけはふてくされていた。
なつみが諭す。
「あいぼんさぁ…しょうがないっしょ?慣れない所で寝たからきっと落ち着かなかったんだよ。
なっちだって枕が変わるとなかなか寝られなくて寝返りばっか打ってるもん。寝相だって
悪くなるよ。なっちの寝相の悪さったらないよ〜。あいぼんみたいにベッドの周りをちょっと
触るだけじゃ済まないんだよね、ハハ。廊下まで出てっちゃったり。ね?しょうがないしょう
がない!渋谷で新しくヒョウ柄の携帯買えばいいんだよ!」
麻琴とはしゃいでいた希美は、その光景をちらちらと見ては心を塞いでいく罪悪感に人知れず苛まれていた。