プリッツアイランドはポッキーアイランドより小さい。
島は一面草に覆われていて、ところどころに町がある程度だ。
プリッツを作っているのは島とほぼ同じ面積の地下工場。
全自動化されているので、人々の暮らしは楽で、豊かだ。
そしてここには、ポッキーアイランドやプリッツアイランドなどが属しているプレッツェル諸島の、
引退した前国王が住んでいる。
そして前国王の近所に暮らしているのが現国王の娘、亜弥だ。
両親はプレッツェル諸島で最近開発されたフランアイランドに城を構えている。
一人娘をよい環境で育てたいという国王が、自分の父親に亜弥を託したのだ。
そのおかげで亜弥は育ちもよく、多芸多才で、人と自然の両方を愛し、島の産業への興味も深く、
去年から新フレーバーの開発に携わっている。
そんな亜弥のために設置された研究室には、半年前からある少女が通ってきている。
ポッキーアイランドでチョコレートなどのコーティングをマスターしてきたtova-Mikiteaだ。
Mikiteaの方が年上なのだが、人懐っこい亜弥の性格とどことなくアイドル的な一面を持つMikiteaの
性格の相性がよく、すぐに対等な関係になるまでに仲良くなった。
今は二人で新しいプリッツのフレーバー作りに取り組んでいる。
ところがある日、亜弥に父親である国王から電話がかかってきた。
「なぁ亜弥、日本に行きたくないかい?」
今年のプリッツの宣伝のために、グリコがプリッツアイランドから一人若い女の子を募集して
いるという連絡が王の耳に入ったのはつい先ほどのことだった。
公募をしようかと初めは思った。しかしちょうどいい身内の人間がいる。
王室の人間が直々に宣伝に行けば、プリッツアイランド、ひいては国のイメージアップにもなるはずだ。
批判はされないだろう、と島民を信頼して、王は娘に電話をかけた。
「ホントに!?…うんうん!…」
「…ぇ、一人で?一人じゃなきゃだめなの?」
「…ぅんわかった。準備する。ありがと。」
受話器を置きながら、途中で亜弥の様子がすこし落ち込み気味になったのを気にしていた。
王は娘を幸せから遠ざけておくような父親ではない。十分後にはすでに空の上にいた。
ヘリが草原の島に降り立ったのはそのまた十分後。すぐに亜弥の自宅に向かった。
ドアを開けた亜弥はかなりびっくりしていた。亜弥が悲しそうな声をしたから心配になって
駆けつけたと言うと、亜弥は弱く笑った。そして奥に通された。
リビングには前に数回会った少女が座っていた。ポッキーアイランドからやってきた娘だ。
彼女も突然の国王の来訪に驚いている。そんな二人の間で説明を始める亜弥。
「日本に行く話はとってもうれしかったんだけど、なんだか、みきたんを差し置いて私だけ
行くのはどうかなぁって…」
この数ヶ月の間に「みきたん」と亜弥との間が急速に密接になった事を考えていなかった。
友人との関係を第一とするこの年頃の女の子に対してこれは「仕打ち」に等しいものだった
のかもしれない。
「そうか、気づかなかった。亜弥の気持ちに気づけなかった父さんが悪かった。
PRアイドルは一般公募に…」
急に王の言葉をMikiteaが遮った。
「いや、私の事はいいから。日本でプリッツの宣伝してきてよ。…そのかわり、失敗しないでよ、
あと、お土産よろしく♪分かるかなぁ、魚を加工した食べ物でね、鮭とばっていうんだけど
きっとコンビニの酒の売り場にあるから、忘れないでね!」
戸惑う亜弥。
「いや、でも私が日本に行っちゃったらみきたんひとりぼっ…」
「んもう、あのさ、映画とか見ないの?恋人たちは一度離れ離れになって、それでもお互いを
想い続けて…そして感動の再会!ってなるからドラマになるんじゃない。亜弥ちゃんがいつも
言ってる「刺激のある人生」のためにはきっと離別も必要なんだよ。亜弥ちゃんがいない間に
一つ味作っとくから。う〜んと辛いやつ!だから鮭とばよろしく♪じゃね♪」
家を出て、バイクにまたがって去っていくMikitea。ノーヘルである。
親友の心遣いに感動するあまり涙を流す亜弥。ほっと安心する王。
せっかく顔をあわせたのだからと、分かる限りの詳しい話を伝えて、王はプリッツアイランドを後にした。
心に迷いの無くなった亜弥はMikiteaに言われたとおり、失敗しないように猛練習を重ねた。
何が起こっても、誰と会っても笑顔でいる練習。発声練習。体力をつけるためにマラソンもしたし、
時差ぼけを起こさないようにと生活時間も日本時間に合わせた。
そして出発当日。父への挨拶を済ませて、空軍から借りた練習機のF22の前で亜弥とMikiteaは誓いあった。
「絶対に日本で最高のプロモーションをしてくるから。期待してて。あ、鮭とばもね!」
「じゃ、亜弥ちゃんが帰ってくるまでに、食べたら飛んでっちゃうくらい辛いプリッツ作っとくから。鮭とばよろしくぅ!
ビールとプリッツ用意して待ってるぞ!帰ったら宴会だぁぁぁぁ!!」
慌ててMikiteaの口をふさぐ亜弥。プリンセスが未成年で飲酒など、スキャンダルの枠にも収まりきらない。
幸い、周りの人間は彼女が何を叫んだのかは聞き取れなかったようだ。
そして、轟音とともにプリッツアイランドを飛び立つ亜弥であった。