『先ほど、頂いた絵と同じような服装をした若い女性が同い年くらいの男性と二人で来店されました』
「まだいますか!?」
『はい、まだ店内にいらっしゃいます』
「お願いです、何とか引き止めておいてください!」
『…それは保証いたしかねます、従業員も多忙ですので』
希美は電話しながら立ち上がり、駅の方角へと駆け出した。麻衣とあさ美もすぐに駆け出した。
全力疾走しながら、希美はケータイに叫んだ。
「その女の子は男に連れまわされてるんです!!そこ出たら、もう一生行方不明かもしれないんです!!
プラダが、最後の手がかりなんです!!!」
三人は肩で息をしながら、Suicaを目黒駅の改札機に押し付けた。
───―――――――――――
「いらっしゃいませ」
―――秋の新作はどこですか?
「あちらのに2002年秋の新作を揃えておりますので、ぜひどうぞ」
―――わぁ…ねぇ、トシくん行ってみようよ!
―――…あ、これだよこれ!ちょっとチェックしてたの!カワイくない?
「こちら他にバリエーションを二つほどご用意しております」
―――んん?こっちのほうがいいかな?トシくんどっちがいいと思う?え、こっち?
「そうですね、こちらの方が若い方に人気がありますね。財布の中でも特に人気上位になっております」
―――へぇ〜いいなぁ…ほかにもいろいろ見てまわっていいんですか?
「ええ、どうぞごゆっくりお楽しみください」
―――――――――――――――――――――
表参道駅前の交差点が見えてきた。
あと一息。
ここを右に曲がれば、あいぼんに逢える。
この信号が青になれば、あいぼんを取り戻せる。
三人は髪を乱したまま、汗を拭くこともせずに、放心したように信号を見つめていた。
早く変われ。早く変われ。俊樹があいぼんと逃げないうちに。
そして――ついに青信号が点り、少女達は必死に駆け出した。
―――――――――――――――――――――
「三階と四階が女性向けで、五階は下着類とコスメやイベントスペースなどがあります」
―――地下はないんですか?
「地下一階にはスポーツラインを揃えております、ぜひお立ち寄りください」
―――スポーツ!きっとトシくんに似合うの何かあるよ!行ってみよ?
―――――――――――――――――――――
入り口の店員が、希美たちの姿に気づいた。
三人が息を整えている間に、店員が数人集まってきた。
「…まだ…フゥ…いますか」
「地下一階にいますよ」
「……ちか…」
幅の狭い階段。
白い内装。
限りない無機質感。
速い呼吸。
目配せ。
――――ラック越しに、見慣れた、今では懐かしい少女が、若い男に、笑顔で話し掛けているのが、見えた。