三人がやってきたのは、ごく普通の日本の民家だった。
麻衣がインターホンを押す。表札は「中西」とあった。
『はい』
「須尭ですけど、俊樹君はいますか」
声が止まった。
『ごめんなさい、もう許してやってください…』
「違うんです、ちょっと用件はカブってますけど、その話じゃないです…それにもう過ぎた
ことだから、気にしないで下さいお母さん」
麻衣から少し離れた所でやりとりを聞いていた二人は、よく話を理解できずに顔を見合わせていた。
「お母さん」と呼ばれた女性が玄関のドアを開く。
麻衣がそこに駆け寄る。何となく二人もそれに続いた。
「俊樹君はいらっしゃらない…ですか?」
「はぁ、実は…」
「もしかして…」
「…二日前から帰ってないんです」
後ろの二人の頭上に大きな「!」が浮かんだ。
「なんとか連絡つきませんか?」
「電話しかつてが無いもので…」
「どこに行かれた、とかは」
「まるで見当も…」
「…そうですか、分かりました。ありがとうございました」
きびすを返して足早に敷地を出る麻衣に、慌てて付いていく二人。
まだ九月というのに寒気がして、あさ美の足に鳥肌が立った。
近くの公園に三人は座り込んだ。
「麻衣ちゃん…?」
「…話すね。全部。洗いざらい」
「中西俊樹。中学校時代に同じクラスだったの。後藤祐樹とはまぁソリが合いそうなヤツで、
ちょっとワルい感じの人だった。…んで中三の頃に、その俊樹と私は…付き合ったわけ。
…んで、夏、そう中三の夏に、俊樹に遊びに行こう、って言われて。自転車でね、逃げる
俊樹を追いかけてたら、…途中で何度も帰ろうよって叫んだんだけど、聞かなくって。
ほっとくわけにも行かないでしょ?だから付いていった。そしたら、いつの間にか道に迷っちゃって、
んで日も暮れてきて公園のベンチで野宿したの。次の日になったらアイツまた喜んじゃって、
見失わないようにするので精一杯で、また夕方になって海に着いたから、てっきり東京湾だと
思ったの。でも甘かった。そこは銚子だったの」
「ちょうし?千葉県のですか?」
「そう、まさかそんな所まで来てるとは思ってなくて、かなり焦った。アイツが懲りずに
また南に行こうとしたから、流石にキレて…んで帰ることになったんだけど、またすぐに
野宿するのもヤだったから夜じゅうずっと走ったのね、そしたら、利根川沿いを走ってる
ときに私転んじゃって、唇切って血だらけになりながら、次の日の昼過ぎにやっと家に帰れて。
まぁその後は…想像できるよね?私とアイツも別れたし。それっきりだったんだけど」
「つまり、二日半連れまわされてしかも怪我もさせられた、と」
「…亜依ちゃんの話とよく似てたから、もしかしたらと思ったら…」
「高校はどちらに?」
「日出学園ってトコ」
希美の背中にも鳥肌が立った。
「…祐樹と同じだ」
その鳥肌が収まらないうちに、昼前に電源を入れた希美のケータイが鳴り響いた。
音と振動にたまげて、軽く悲鳴をあげてしまう。
「の、ののちゃん電源切ってなかったの!?」
慌てて画面を確認すると、見たことも無い番号からだった。
「…ぜろさん…?へんな番号」
麻衣が口をはさむ。
「03は東京の番号だよ」
「…なんで東京の人が知ってるんだろう…」
希美のすぐ隣に座っていたあさ美が突然素っ頓狂な声をあげた。
「ああ〜あ!!ののちゃん!プラダだよプラダ!!!」
「おわぁ忘れてた!!!」