正門脇の歩道のふちに腰掛けて待っていると、麻衣が自転車でやって来て、
二人の前に横付けて、あさ美の隣に座った。麻衣の自転車によって車道側からの視線は遮られ、
大事な話をするシチュエーションが出来上がった。
「んで、どうしたの?今日オフ?」
「ええ、そうなんですけど、ちょっと困った事になってしまって…」
麻衣が首をかしげて続きを促す。あさ美は息を吸い込んだ。
「後藤祐樹って人と仲のいい友人を探さないといけないんです」
「あ、祐樹と…?うーん…ちょっと分かんないや…」
「後藤祐樹知ってるんですか?」
あさ美の声が上ずって、少し早口になる。
「うん、亜依ちゃんから聞いてない?小学校の頃一緒だったの。」
「そうなんですか…この前五反田であったイベントに後藤祐樹と一緒に来てた友人なんですが、
分からないですか…?」
「ああ、何か一人連れて行くってアイツ言ってたね、そういえば。
でも誰だかは教えてもらってないんだ、ゴメン!」
黙って聞いていた希美が不思議そうな顔をする。
「え、じゃあ麻衣ちゃん最近祐樹と話したの?」
「うん、亜依ちゃんが祐樹に会いたいって言ってたから伝えたの。後藤家ってケータイ禁止でしょ?
だから家の電話で連絡取ったんだ」
「あ、いとこに会うって祐樹の事だったのか!…でもじゃあなんでステイしに来てたお姉ちゃんに
言わなかったんだろ」
「私もそれ気になってアイツに聞いてみたんだけど、何か家じゃ仲悪いみたい。
灰皿で殴り合いとかするらしいよ」
「「怖ッ!」」
「…まとにかく、イベントに行く前までしか私は関わってないから、後のことはわかんないや、
ホントゴメン…亜依ちゃんは何も知らないって?」
二人が顔を見合わせる。希美が頷く。そしてあさ美は初めてこの事件を他人に漏らした。
「コレ絶対に他言しないで下さいね…その…亜依ちゃんはおそらくその友人と一緒にどこかへ
行ってしまって、音信不通でもう3日目なんです。警察も動いてます」
あさ美の言葉を聞いた麻衣の表情が変わった。小さい声で「まさか…」とつぶやいている。
希美がそれに気づいた。
「麻衣ちゃんどうしたの?」
麻衣は黙ったまま急いでケータイを取り出し、素早くボタンを押して電話を掛け始めた。
よく分からないまま、二人はそれを見守る。
しばらくして、麻衣は舌打ちをしながら「切」ボタンを押し、二人に向き直った。
「ちょっと…ついて来てくれる?」