「あー腹へったー腹へったー」
ファストフード店で、ベーグルセットを前に希美は目を輝かせる。
あさ美は財布を覗き込んで、渋い顔をしている。
「お金、足りるかなぁ…この調子じゃあと二日だよ」
「食べ物は仕方ないから、どうしようもないよね…無駄遣いしてないし。
っていうか何なのあのカラオケ屋は!朝まで980円とか言っておきながら追加料金取って!」
返事に窮するあさ美。あれから目が冴えてしまって、二時間ずっと寝顔を眺めていたと言う訳にはいかない。
鑑賞料として希美の分まで延長料金を払ってあげてもよかったか。いやそんなことは無いか。
そんな事を考えているうちに、全部食べ終わってしまった。
「…で、今日どうする?」
あさ美の推理が始まった。
「まず一度ホテルに電話して、あいぼんが戻ってないかどうか訊いてみよう。
で、いなかったら、あいぼんはどこかで泊まったわけだから、今日もどこかに出かけるはず。
あいぼんの出かけそうな所ってどんな所かなぁ?」
希美が考え込む。その間に、あさ美はホテルにいる麻琴に電話を掛けた。
「もしもし?」
『あさ美ちゃん!?今どこ?ののちゃんは?あいぼんは見つかったの?』
「あいぼんはまだ戻ってないの?」
『え?うん、まだ何にも。で今どこにい…』
「私とののちゃんなら無事だから。あいぼん見つかったらまた連絡するね、じゃ」
すぐに電源を切る。
「だれ?」
「麻琴」
「何て言ってた?」
「まだ、だってさ。ののちゃんも電源入れちゃダメだよ!」
「うん、切りっぱ。でさ、思いついたよ!」
「ホント?どこ行きそう?」
「プラダの売ってるお店。たしか青山って所にあるんだって」
「あ、そっか、あいぼんプラダ好きだったよね」
「日本に行ったら後藤さんと一緒にプラダ行くんだ、って喜んでた」
「でも昨日行ってるかもよ?」
「その時は話だけでも聞こうよ。とにかく行ってみない?」
「そうだね、まずはガイドブックと地図見て場所を探さないと」
開店したばかりの本屋に入り、ガイドブックを調べた。
「プラダ ブティック青山店、エピセンターストア。…あ住所あった」
希美が地図の本をぐるぐる回して調べる。
「…この辺り?」
指差したところは、ホテルから逃げるときにタクシーを降りた所や、ハーモニープロモーションの事務所から近かった。
「表参道の近くか…気をつけないとね、JRの最寄り駅は渋谷駅だね」
表参道駅の交差点を右折すると、前方に異様な光景が見えてきた。
住宅街の一角に突然そびえ建っている総ガラス張りの妙な建物。完成したばかりのブティック青山店だ。
中に入ると、ガラス越しに外の光が入ってきて、まるで氷の宮殿にいるような気分になる。
希美がさっそく入り口脇に立っていた店員らしき人物を見つけ、話し掛ける。
「カップルが来てませんか?若い男と、私達くらいの女の子の」
店員は困った顔をする。
「当店は非常に多くのお客様にお越しいただいているので、ちょっとわかりません」
途方にくれた顔をしながら、とりあえず店内を探してみる。しかし見当たらない。
店外のベンチに座りながら、希美は考え込んだ。あさ美は背を向けて何かをしている。
「うーん…そうだ!ねぇあさ美ちゃん、あいぼんの絵を描いて、入り口の店員さんに渡しておけば分か…」
「できたー!!」
希美に振り返るあさ美。手には紙を持っている。
「うん、私もそう思ったからあいぼんの絵を描いた」
顔はだいぶデフォルメされてはいるものの、イベントの日に着ていた服装とよく似た絵だった。
「そう!これこれ!あさ美ちゃんよく覚えてたね、っていうか絵がうまいね、っていうか…
やっぱりこれ思いついたんだ」
「うん…でもののちゃん、二人が別々に考えて同じ物を思いついたんだよ?
すごいコンビじゃない?あいぼんもきっと見つけられるよ」
少し元気をなくしていた希美だが、この言葉に励まされ、紙を持って先ほどの店員に渡して戻ってきた。
「連絡先も教えておいたから完璧!」
はっと気づくあさ美。
「そっか!連絡先か!私バカだ!」
二人はすっかり楽しい気分になった。