鳩時計の鳩が一回鳴き、時計は午後八時半を指していた。
その時、遠くでドアの開く音が聞こえた。
「お、帰ってきた」
真希の言葉にソファで身を硬くする二人。
しばらくすると足音が近づいてきて、リビングのドアから祐樹が顔をのぞかせた。
「ただいま」
「祐樹お客さん」
立ち上がって一応お辞儀をする。祐樹は無防備に向かい側に座った。
そろえた太ももの両脇にさりげなく拳を置き、スカートの裾の開口部を塞ぐあさ美。
希美が身を乗り出した。
「昨日、ポッキーのイベントが終わった後、Kago-po-亜依ちゃんと会いませんでしたか?」
「会ってないけど」
さらりと答える祐樹。しかし、真希は弟が身を硬くしたのを感じた。
「嘘だ。私見たもん」
祐樹は緊張した面持ちで真希を見、それからうつむいた。
驚いた顔でこちらを見ている二人に、真希はにやけながら首を振った。
「…会ったけど、何」
姉の謀略に引っかかった祐樹の不機嫌そうな声に、希美は小さくガッツポーズをした。
あさ美も身を乗り出した。
「で、その後どうされましたか?」
「そこでいろいろ話をして、それから俺は帰った」
「嘘だ」
「嘘じゃない!大体姉貴が帰ってきたときにはもう家にいたじゃねぇか」
「部屋にかくまってたんでしょ」
「んなわけねぇだろ!俺はあの後すぐに帰った。何もしてない。本人に訊けば分かる!」
「あいぼんは昨日からホテルに戻ってないんです」
少し驚いた顔をするが、すぐに下を向いてふっと笑う祐樹。
真希が祐樹に向き直る。
「あいぼんの命に関わる事かもしれないんだから、真面目に答えなさい!」
祐樹が呆れたような声を出す。
「んな事言ったって、ホントにそこから先は知らないし…」
数秒の沈黙の後、あさ美はさっきから抱いていた疑問を口にした。
「さっき、『俺は』帰った、って言いましたよね、お友達の方はどうされたんですか?
その場に残られたとか?」
祐樹が顔を上げた。
「友達?俺はずっと一人だったけど」
「和田さんにお聞きしましたが」
あさ美をちらと見、小さく舌打ちをする。
「祐樹話しなさい」
「知らない人だよ。そこで会っただけで」
「嘘ばっかついてんじゃねーよ!」
真希が怒鳴ると、祐樹は立ち上がった。
「いいじゃねぇかよあいつが何しようと!」
そう叫ぶと、リビングを出て行こうとした。
あさ美は慌てて立ち上がり、祐樹に頼んだ。
「せめてそのお友達の名前でも…」
ドアを開いたまま、祐樹が立ち止まり振りかえる。
場の空気が急に止まった。
祐樹は黙ったままあさ美を見つめていた。
男と女。
一対三。
祐樹の値踏みするような視線に最初に気づいたのは姉だった。
「…祐樹何考えてるの?」
次いで気づいたのはあさ美本人だった。
舐め回されている。
全身に鳥肌が立った。
もう、二度と、ミニなんて穿くもんか。…というか、今、どうしよう…
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.:04/10/18 02:30:08 ID:KMbo71TK
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祐樹の顔に汚い笑顔が浮かんだ。
「教えて…やらないことも…無いが?」
剥き出しの脚から寒気が一気に背中に上ってくる。
その時、あさ美の視界が急にさえぎられた。
希美だった。肩が震えている。
ゆっくり、しかしはっきりと希美は言った。
「いいです…お断りします。自分たちで探します。
…あんた達が関わってるって事は、今ので充分分かりましたから!」