あさ美はリュックを開けて、書類の束を取り出した。
ポッキーガールズになってからもらった書類のほとんどがそこにあった。
「えっと、グリコの本社、グリコの本社…」
何度もページを彷徨っていた人差し指が一点に止まる。
「江崎グリコ東京芝浦事務所。東京都港区芝浦、アクアシティ芝浦三階。JR田町駅から徒歩約十八分。」
「そこが本社?」
「いや、本社は大阪だった。東京で一番えらい所がここっぽい」
「よし行こう!」
スターバックスコーヒーを出て一目散に渋谷駅に向かう二人。
しかし突然希美が不安な顔をする。路線図を確認していたあさ美に訊く。
「どうやって、電車、乗るの?」
「…六駅か。え?電車は…ののちゃんお財布持ってきた?」
「持ってきたよ!」
差し出す財布にはキャラクターの絵がプリントされている。
「五井駅で、梨華さんに買ってもらったカード、入ってる?」
開けて中を探る希美。緑と銀の模様をしたカードはすぐに出てきた。
「思い出した?」
「…思い出した!」
改札に向かう二人。カードを持つ手が少し震えている。
そして、改札機の隙間に入り、カードをセンサーにかざす。
「ピッ」
道をふさいでいた小さな扉が開き、あさ美は無事に改札を抜けた。
ところが、すぐ背後で軽い悲鳴が上がるのと同時に、エラー音があたりに響く。
慌てて振り返るあさ美。
「大丈夫?」
希美は閉じた扉の向こうで泣きそうになっていた。
「あさ美ちゃんの後に続いただけなのに…」
「ちゃんとカード使った?」
「ふぇ?あさ美ちゃんが使ってドア開けてくれたから、大丈夫だと思って…」
「ののちゃん、私もののちゃんも一人ずつのお客さんなの。だからお客さんとして、きちんとカード使えば入れるよ?」
言われたとおりにする。今度は扉が開いた。
ほっと胸をなでおろす希美。やっぱりこのひとは私が守らなくちゃ…とほほえむあさ美。
「友達だってことくらい気づかないのかなあ、あのバカ自動改札!」
「機械には人の心は読み取れないよ!」
ハハハと笑う。私たちの結束が、目標が、機械に読み取れるはずがない。ののちゃんの友達は、機械じゃなくて、私だ。
あさ美はなぜか嬉しくなって、小走りに階段を駆け上る。
ちょうど山手線がホームに入ってきたところだった。