しばらくモーヲタやっている間に・・・

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10う〜み〜写真集 ◆toRomonInU
久しぶりに小説書きます。よかったら読んでいってください。
あと、ネタが古いんですけどその辺りは勘弁してください。
しばらくモーヲタやっている間に、時が流れてしまったようです。
11う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/18 18:36 ID:iXJOfJhs





          「ひと夏のポッキーガールズ」




12う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/18 18:59 ID:iXJOfJhs

水平線から金色の太陽が顔を出す――頃には、もう起きて牛の世話をしていた。
牧場の朝は早い。眠い年頃の希美にはきつい生活だ。
搾乳装置がうなりをあげるそばで、干草に寝そべって一休み。日課だ。
そしてそれが一休み程度では終わらないこともいつものことである。

牛舎の高窓から朝日がじかに希美の顔に照りつける。
飛び起きる希美。また大目玉だ。自分にうんざりしながら小走りで家に戻る。
こういうときに限って姉の文子が無断外泊をしてたりする。親の怒りは全て希美に注がれる。
いつもより一段とまずい朝食を済ませた希美は、いつもより一時間も早く学校に出かけた。



希美が家を出る頃、やっと起き出す姉妹がいる。
一通りの支度を終え、一家揃って食卓に着く。
「今日もイチゴさんに感謝して過ごしましょう!」
里沙が本心でそう言っているのかどうかわからないまま、アスパラのバター炒めに箸を
伸ばすあさ美。イチゴ農家の娘としては致命的なことに、イチゴが嫌いなのだ。
13う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/18 19:01 ID:iXJOfJhs

自営業といっても、第三次産業の家に生まれて本当によかったと最近思う。
同級生の希美やあさ美、先輩の愛などの話を聞いていると逃げ出したくなる。
自分は恵まれている。贔屓目だけどいい店だと思うし、店員も客も最高。手伝うのが楽しい。
幸せ、というか満ち足りた感覚を覚える。来年は高校生。店を手伝ったらお金がもらえるようになる。
そのお金で、母親に食器洗い乾燥機を買ってあげるんだ。

朝食の卵を割ったら、黄身が二つ入っていた。
「ああっ!黄身が二つあるじゃない!一つ使わなくて済むわ〜ありがとねー麻琴」
人とものを分かち合うことの喜びを麻琴は知っている。今日はラッキーデイだ。



島には会社員も住んでいる。亜依の父親はその一人だ。
ポッキー作りが島の大きな産業になっているが、亜依の父親は運送業者である。
住民の荷物を運ぶこともあるし、出来上がったポッキーを日本に出荷するのも亜依の父親の仕事である。
亜依も口に出しては言わないが、結構な美男である。日本人の母親が惚れて、結婚したのも分からなくはない。
また、亜依の叔父はグリコの社員である。今は作業の進捗状況を確認にわざわざ日本からやってきている。
叔父の娘である真希は日本の高校生。今は夏休みだそうで、亜依の家に親子そろってステイしている。
真希はまだ寝ている。気楽なものだ。
ここでの真希の日常といえば、昼頃に起きて散歩をして、圭織のカフェに遊びに行くことくらいだからだ。

早く卒業して、暇が増えるといわれる高校生になりたい。
昔からませていた亜依だが、年齢と学力以外はすでに高校生に見えるのだった。

14う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/18 19:04 ID:iXJOfJhs

島の中学校は小さい。
生徒も少ないため、アットホームなまったりとした校風が自然と受け継がれている。
全学年一クラス。一年が八人、里沙のいる二年が七人、三年に至っては希美とあさ美と
亜依と麻琴の四人だけだ。派閥も何もありはしない。
放課後は、四人揃って麻琴の家のカフェで何時間も粘る。麻琴以外の三人は早く家に
帰りたくはないと思っているので、理想的な時間の過ごし方となる。

麻琴の家のカフェ「acp」は様々なものを取り扱っているが、若向けのフレーバーが充実し
ているので、店内は若者が多い。
三人はベンチシートに滑り込み、麻琴がいつものキャラメルカプチーノを持ってくるのを待つ。
そして、何時間も話し込むのだ。
しばらくすると、同じような年頃の女の子が一人やってくる。日本人だ。
「あー麻衣ちゃん!こっちこっち!」
須尭麻衣。亜依の一才年上で、メル友である。今、日本は夏休みなので、メル友に会いにきたというわけだ。
麻衣も加わって、おしゃべりに花が咲く。じきに手伝いで途中退席していた麻琴も戻ってきて、
いつもの大騒ぎとなる。

六時を回り、皆喋りつかれると圭の出番である。「acp」のもう一人の従業員だ。
バイトとはいえ、圭の出す軽食は定評がある。これで五人はすっかり満足し、四人は店を後にする。

翌日も、そのまた翌日も、同じ事を繰り返す。そしてだんだん大人になっていく。

15う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/18 19:14 ID:iXJOfJhs

 川c・-・)<みなさんお久しぶりです。誰も覚えてねぇか。う〜み〜写真集といいます。
       前作「特殊能力」が終了してからすぐに書き始めたのがこの小説です。
       ファイルの作成日時を見ると、一昨年の11月。長々と何やってるんだか。
       始めは「The Pocky Island」というタイトルで、小説作者養成塾にも何度か
       宣伝まがいの行為をしてきましたが、ちょっと問題があってタイトルを変え
       ての連載開始となりました。2年近くかけましたが500レスもいかないので、
       軽い気持ちで読んでください。どうぞよろしく。
16ねぇ、名乗って:04/07/18 21:55 ID:vsnmll9k
うざい
17う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/19 18:27 ID:17EZi3iV

夏休みが始まって一週間、四人は高校受験のための補習を終えて、急ぎ足でカフェへ向かっていた。
四時を回って、公園の道を歩いていくと、向かいから手を振ってくる女性が見えてきた。
四人にとってはカフェと同じくらい楽しい時間を提供してくれるお姉さん。すぐに駆け寄っていった。

なつみの日課は、犬のメロンを散歩させること。他には特にない。公園の丘のてっぺんで犬と寝そべって
太陽を感じて過ごしている。家に帰ればポッキーをかじってそれで音楽を作る作業に取り掛かる。今日は
いい暇つぶしに出会ったと思った。
歓声をあげながら犬にとびつく四人。すぐにあさ美が立ち上がって、自分のバッグから箱を取り出して
なつみに手渡した。
「日ごろの感謝です!」
胸に抱いてちょうどいい位の軽めの箱が、白い包装紙と赤いリボンで飾られている。開けてみるとかわいい
犬のイラストが顔をのぞかせた。
「ドッグフード!わぁありがとう!」
些細な親切でも大げさに喜んでくれるので、なつみの人の良さはこの辺りでは結構な評判になっている。
あさ美も笑顔になった。

しばらく箱を眺めていたなつみは、何かを思いついたような声をあげてどこかへ消えて行った。
四人はメロンに夢中でそれに気づかなかった。

18う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/19 18:28 ID:17EZi3iV

なつみがいなくなったことに気づいた四人は慌てて公園中を捜し歩いた。しかしメロンは
公園では探偵犬としては役に立てなかった。どこに行ってもなつみの匂いがするからだ。

落ち込んだまま四人と一匹が道を歩いていると、後ろから特徴ある声が聞こえてきた。
「Hey!どうした中三ガールたち!相談だったら乗ったるぜぃ!」

ポッキー島のたった一人のセグウェイ乗り、梨華が颯爽と滑ってくる。
彼女の家は「ビターホワイト研究所」と言って、ポッキーの要となるチョコレート部分の味
の研究をしている。といっても住人は梨華と、仲良しのひとみだけだが。
梨華は味にうるさい。それに詳しい。匂いをかいだだけでどの種別のポッキーか当てるこ
とができる。それに日々新しいフレーバーの開発に試行錯誤している。それゆえ梨華の
研究所からは時折、または毎日、非常に特殊な匂いが漂ってくる。パソコンと通信環境を
持っている事が自慢で、今日のように暇なときはセグウェイに乗って島中を散歩する。
テンションも無駄に高いので、変人としか言いようがない。
「いや、いいです…」以外のリアクションをすることは非常に難しい。

「ノリが悪いな、どんな相談でもこのセクシーでビターなオンナにおまかせよ♪なんてっ
 たってパソコン持ってるんだから。世界は広いよー」
ここまで言われると相談しないわけにもいかなくなる。
「なるほど。キミたちがあんまりメロンばかり可愛がるから、なっちゃんがふてくされてどっか
 いっちゃったってわけか。よし、任せなさい!このトゥインクル号で島中を探して見せるわ!」
最高速で去っていく梨華の姿を眺めながら、四人は出会う前と全く変わらないため息をついた。

しばらくして、希美がつぶやいた。
「家…じゃないのかな、」

19う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/19 18:31 ID:17EZi3iV

白くてこじんまりとした家の前に着いた四人は、中から騒々しい音が聞こえてくるのに怖気づいた。
そしてなつみの悲鳴と何かが崩落する音。
あさ美は思わず家に飛び込んだ。

部屋を見回すと、膨大な量のCDケースに埋まっているなつみが見えた。
みんなで引っ張り出す。
「ありがとう、なっちテンパッちゃってこけちゃったよー」
「あ、あの、ごめんなさい!」
なつみは乱れた髪のまま、ポカンとした表情をする。あさ美がつっかえながら謝りだすと、急に笑い出した。
「違うの。なっちあさ美ちゃんにプレゼントもらったからお返ししようと思って、急いで帰って
 CD焼いてたの。ほら、これ!」
差し出すCDのレーベルには笑顔のなつみが印刷されている。
「これね、なっちのソロシングル。ポッキー演奏家だよ!自分で作ったの♪」

四人は興味津々で再生ボタンを押す。すると、とても食べ物が出す音とは思えない、素朴ながらも
美しいメロディとハーモニーが部屋中に響いた。
驚きと感動で言葉が出ない四人。こんなにすごい人が身近にいるのが信じられないくらいだ。
「どう?どうよどうよ?」
「すごすぎます!売ってください!」
「感動しました!」
「お店でかけさせてください!」
「芸術です!」
とてもうれしそうな顔をするなつみ。アーティスト冥利に尽きるという感じだ。

20う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/19 18:32 ID:17EZi3iV

それぞれ一枚ずつCDを貰って家路に着く途中、あさ美がふと漏らした。
「なち姉もパソコン持ってたんだ…」
「あ…」
タイミングよく、前方に泣きながら掃除機のようなものを引きずっているピンク色の女が見えてきた。
四人の顔を見ると、泣き声は一段と大きくなった。
「あのね、なっちゃんを探してね、島をぐるぐる廻ったのね、それでも見つからなかったのね、
 …たぶんもう、戻ってこないんじゃないかな、って思ったらね、…トゥインクル号のね、電池
 がね、なくなっちゃっだの…ふえ〜ん…」
「梨華さん、なち姉なら家にいましたよ」
「え……よ、よがっだぁあぁ〜ひーん…」
四人は何事もなかったかのように梨華を通り過ぎた。

21ねぇ、名乗って:04/07/20 01:03 ID:rOwA/UKF
うざい
22う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/21 18:38 ID:OZMEvNK5

島にはもう一軒、カフェがある。圭織が作った店だ。
圭織は二十一歳。遠くの島の短大から帰ってきて、このカフェを開いた。
大人がリラックスできるような、最高の空間づくりを目指している。
そのため、開店して間もないながらも常連の客というものがあった。
大人ばかりのなかで、カウンターで雰囲気と一つになるのが圭織の至福の時だ。

でも、まったりと過ごしたいのは大人だけではない。
ひとみは十七歳。梨華と同い年で、仲はいい。
ただ嗜好が少し彼女とは異っているので、四六時中一緒にいることはひとみにとっては少し疲れる。
ひとみにとっても、このカフェが大事な場所であることは変わりないのだ。
この店が出来てから、自宅での味の研究も「この店で出すにふさわしい味」というテーマに変わった。
試作品を持ってきては圭織に食べさせる毎日を過ごしている。

23う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/21 18:40 ID:OZMEvNK5

ひとみが朝からここにやってくるのに対して、昼過ぎにやってくるのが亜依のいとこの真希だ。
島に初めてやってきた二週間前、亜依に連れられて島を散歩したことがあった。
そのとき心を惹かれたのが、圭織のカフェだった。
「ヴィーナスムース」
高級そうな響きがした。ただそれだけだった。
最初は入りにくかった。小さな島のカフェ。仲間意識が渦巻いているところだと思った。
ところが、小さく開けたドアの隙間越しに、ひとみと目が合った。
彼女もまた、このカフェには似合っていないような気がした。ほとんどの客が忙しそうにしている
大人か、騒いでいる新物好きそうなおばちゃん達である中、若い女が一人カウンターに腰掛けて
いるのは部外者の真希にとっては変に見えた。
そろそろと中に足を踏み入れ、ひとみと一つ間を空けて席を取った。

長い間、二人とも話をしなかった。ひとみは空気と一つになっていたから。
次第に真希も気分が落ち着いてきて、つい寝てしまう。
閉店時間になって、やっと起こしてくれたのがひとみだった。
夜の公園で少しおしゃべりをした。話が合うコだと思った。

それから、真希は暇なときはこのカフェに行くようになった。

24う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/21 18:41 ID:OZMEvNK5

日本からこの島の取材に来た女性がいる。矢口真里だ。
親の反対を押し切って、フリーのライターになった。仕事を続けていくうちに、日本の会社の
ために働いているこの島が気になり出した。
取材を続けていくうちに現地の女の子たちとすっかり仲良くなってしまい、もう島に来て一年
を過ぎてしまっている。自宅もあるし、父親が自動車販売店勤務なので小さな車も持って来ている。
何一つ変化のない普通の生活だが、まだまだ新参者な矢口にとっては、それが逆に新鮮に思えるのだった。

最近は圭織のカフェの特集記事を書こうと、取材に毎日通っている。
「体で感じないといい文は書けない」というのが矢口の考えで、ひとみと同じように何もせずに
ゆっくりと時を贅沢に過ごしている。そのためか、自然とひとみとも仲良くなり、ひとみがカフェを
語る時使う抽象的な形容詞語を理解して、それを記事にしたりしている。

この日も、矢口は圭織のカフェを出て、ひとみを自宅研究所に車で送りながらおしゃべりをしていた。
公園のわき道を走っていると、突然矢口の車をカフェ「acp」の車が猛スピードで蛇行しながら追い抜いていった。

25名無し募集中。。。:04/07/22 19:52 ID:7cukNM2e
とりあえず期待
26名無し募集中。。。:04/07/23 22:45 ID:Z9cfsn/z
とりあえずおかえりう〜み〜
27う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/24 00:58 ID:rj4cUDj3

「acp」の存在理由は、カフェだけではない。グリコのポッキーアイランド支部を兼ねている。
毎年この時期になると、本社から連絡がある。
日本での宣伝のために、生産地の誰かを日本に呼び寄せるのだ。

…去年はなち姉やかおりんだった。今年は誰だろう?
麻琴は亜依の叔父が電話で話している後ろでわくわくしていた。
「…と…と…と…多いですね、今年は…」
「星ですか?それはガールズの方だけ…はい…わかりました。では一週間後に戻ります。失礼します」
亜依の叔父は麻琴に向き直った。
「マコちゃん、今年は人数が多いから、放送で呼び出そう」

28う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/24 01:00 ID:rj4cUDj3

「acp」には車がある。圭が働きに来る前、tova-Mikiteaという少女がバイトをしていたのだが、
出前に必ずタクシーを使うので出費がバカにならなかったため、耐えかねた麻琴の父が購入したものだ。
今Mikiteaはポッキーのプレッツェル部分の研究をするために隣のプリッツアイランドの女性に師事しているということだ。

今その車を圭が運転している。先々月に免許を取ったばかりだが。
激しく蛇行する車。車高が高いため、同乗者は寿命を縮める。
「あぁもうトロい電気自動車ウザい!」
圭は一流のドライバー気分だ。タイムを削ることと滑らかに運転することは相容れないものだと思っている。
しかもロールというものを全く感じない人間らしい。
恐ろしいスキール音をたてながら、矢口の車を追い抜く。
後部座席の麻琴と亜依の叔父はさっきから悲鳴を上げっぱなしだ。

やっと公園の事務所に到着し、係員に頼み込んで放送を使わせてもらう。
そしてそのマイクの前で、アナウンスを任された麻琴は初めて原稿を目にすることとなった。
そして放送が始まった。


29う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/24 01:01 ID:rj4cUDj3

「え〜、ただいまから2002年江崎グリコCMキャンペーンに起用された人の名前を読み上げます。
 読み上げられた人はすぐにカフェ「acp」に集合してくださぃ」

「Abe-po-なつみ」
「Meshi-po-圭織」
「Yasu-po-圭」
「Yoshi-po-ひとみ」
「Ishi-po-梨華」
「Taka-po-愛」
「Tsuji-po-希美」
「Kago-po-亜依」
「Kon-po-あさ美」
「Nii-po-里沙」
「矢口真里」
「後藤真希」

「それから…Oga-po-麻琴。」
「合計十三人です。すぐに集合してください。いじょぅ。」

麻琴は自分の目と自分の声が信じられなかった。


30う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/24 01:07 ID:rj4cUDj3
 川c・-・)<>>25さん、とりあえずよろしくお願いします。
       >>26さん、とりあえずお久しぶりです。ありがとうございます。

       登場人物のフルネーム紹介です。圭織さんはハム太郎のメシハムから取りました。
       このあたりから少々公式設定との差異が発生してきますが、どうぞご了承ください。
31ねぇ、名乗って:04/07/24 08:05 ID:VoQAhmnX
32ねぇ、名乗って:04/07/28 18:17 ID:raFu7rit
33う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/28 23:20 ID:0RK8RR+t

公園から遠く、はるか彼方のポッキーフィールドで、びっくり顔をさらに驚かせている少女がいた。

自宅が島の中心部から大分離れている上に、ぴったり同じ年の女子がいなかったため、あまり
人付き合いをせずに育ってきた愛にとって、CMの話は完全にひと事だった。
中学生の頃はまだ後輩のみんなと過ごせたからよかった。卒業してからは、進学せずにずっと
自宅のアーモンド作りを手伝うようになったため、ほとんど他人と会う機会もなくなってしまっていた。
それだけに、家族の喜びは大きかった。
舞い上がった妹と両親にバンバン叩かれながら、愛は出かける準備をした。

たしかマコっちゃんたちも呼ばれてたはずだ。みんなといれば怖くないさ。
島の反対側にあるカフェに向けて、母親の電動自転車を飛ばした。

34う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/28 23:22 ID:0RK8RR+t

「acp」は大騒ぎになっていた。
前代未聞の十三人出演。しかも部外者である真希と矢口まで入っている。

はじめての日本行きに興奮する中三の四人と愛と里沙。
日本の経験がある梨華とひとみ。
勝手知ったるなつみと圭織。圭もまたその一人である。
戸惑う矢口。
意味が分からない真希。

そうこうしているうちに、亜依の叔父が出てきて詳しい説明を始めた。
「皆さんは二つのグループに分かれます。普通のポッキーシリーズを担当する『ポッキー
 ガールズ』とムースポッキーを担当する『ヴィーナスムース』です。メンバーは『ヴィーナ
 スムース』が圭織さん、矢口さん、ひとみさん、それから真希です。残りの皆さんが『ポッ
 キーガールズ』となります。」
「『ポッキーガールズ』のメンバーの名前は、本名のうちローマ字の部分を名乗ってください。
 それと「Po」の前に星のマークをつけます。つまりなつみさんなら「Abe★Po」となるわけです。
 『ヴィーナスムース』の方は下の名前のみをカタカナで名乗ります。マリ、マキ、ヒトミ、カオリ
 となります。…」
「…以上です。出発は一週間後です。空港の飛行機に乗っていてください。」

一瞬の静寂の後、「acp」は再び騒がしくなった。
初参加組はひとかたまりになっておどおどしていた。
「歌にダンスに、ライブにポスターと一日駅長…」
不安の中での日本行きだった。

35う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/28 23:23 ID:0RK8RR+t

翌日「acp」に詳細を記したファックスが届いた。
ポッキーガールズにはそれぞれ担当の「味」が割り当てられていた。
「Abe★Po」はオリジナルのポッキーチョコレート。
「Ishi★Po」は緑のメンズポッキー。
「Taka★Po」は黄土色のアーモンドポッキー。
「Tsuji★Po」は青のみるくポッキー。
「Kago★Po」は赤いいちごポッキー。
「Yasu★Po」はこげ茶色のアーモンドクラッシュポッキー『カフェオレ』。
「Oga★Po」は明るいクリーム色のアーモンドクラッシュポッキー『マイルドショコラ』。
「Kon★Po」と「Nii★Po」はピンクのポッキー『つぶつぶいちご』。

割り当て表を見て、あさ美は自分が一生イチゴにつきまとわれ続けると確信した。
逃げられない。梨華にかぼちゃポッキーの製作でも頼もうかとため息をついた。

36う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/07/28 23:32 ID:0RK8RR+t

 川c・-・)<巡回してくださってるみなさんありがとうございます。
        最近コンサ参戦が続いています。メロンの「ボーナス!」、それから7/31代々木昼夜、
        8/10W市原夜ですか。こう妄想の世界にばかりいても良くないですしね。
        以上、この小説に関するHP(プを製作中の作者でした。洗車しなきゃ。
37名無し募集中。。。:04/07/29 06:40 ID:Mla2oGrS
38ねぇ、名乗って:04/07/29 09:22 ID:mIdT1HXo
更新乙。これからどうなっていくのか楽しみです。
39う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/02 19:10 ID:9auckY6c

一週間後…


それぞれの両親に留守番を頼んで、飛行機は飛び立った。
日本から遊びにきていた麻衣は、これをいい機会にと一緒に日本に帰ることになった。

機内でも説明があった。
一度こっそり入国してレコーディング他を済ませて、それから着飾ってもう一度飛行機に乗って「来日」する。
11月11日の宣伝のためにプリッツアイランドから来るtova-Mikiteaの師匠と共演する。
ポッキーガールズは他に、「到着」した飛行機の前で突然ライブを行ったり、一日駅長を
したりする。ヴィーナスムースは期間限定で日本にカフェの支店を開く。
入国から「来日」までの猶予は一週間。
その間に素人がダンスをマスターし、歌を録り、カフェを開かなくてはならない。
また、「来日」キャンペーンの期間中に二学期が始まってしまうため、真希は途中で抜けることも伝えられた。

今も日本ではみんなのために準備をしてくれている人たちがいるんだよ、と語る亜依の叔父。
そうしているうちに、窓の外に日本が見えてきた。

40う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/02 19:12 ID:9auckY6c

翌日からハードな日程が始まった。
ダンスレッスンでは初参加の若手たちが悲鳴をあげる。
なつみや圭は慣れたものだ。
「…1,2,3,Hey!そう!…1,2,3…」

「ヴィーナスムース」日本支店は横浜のベイサイドエリアの繁華街の中に作られ、規模こそ
拡大されたものの、内装などはほぼ完全に島の店と同じにできている。
十五人の臨時従業員に手順を教える圭織。矢口は島での記事を出版社に売り込みに行った。
ひとみは真希に連れられてちょっとした食材を探しに街に出た。

翌日もそのまた翌日も十三人は忙しく動いた。
もちろんその裏にはもっと多くの人が働いているのは言うまでもないが。

「来日」する前日の夜、全ての準備を整えて、人目につかないように派手な飛行機が停めてある
三宅島のホテルに泊まったポッキーガールズ。
日本人役なのでカフェの近くに泊まるヴィーナスムース。



そして、太平洋上空には、自信に満ちた表情でF22を飛ばすプリッツアイランドのプリンセスがいた。

41う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/02 19:20 ID:9auckY6c

 川c・-・)<>>38さん、ありがとうございます。今回は前作で指摘された「起承転結」に気をつけて
       書いておりますので、どうなっていくかも分かりやすいかと思います。

       代々木はなかなかでした。キッズは好きじゃないのですが、市原のことを考えると
       曲ぐらいは聴いておいたほうがいいのかな、とか。もうハロコンは行かないでしょうけど。
       来春おとめが四人でコンサしたら考えますw

       さて、私のコテは「紺野さんの写真集を心待ちにしているヲタです」という意味です。
       一昨年からのコテです。今は感慨無量です。
42名無し募集中。。。:04/08/04 14:43 ID:5tXa4BCj
 
43う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/06 01:01 ID:zzYIoCnE

プリッツアイランドはポッキーアイランドより小さい。
島は一面草に覆われていて、ところどころに町がある程度だ。
プリッツを作っているのは島とほぼ同じ面積の地下工場。
全自動化されているので、人々の暮らしは楽で、豊かだ。
そしてここには、ポッキーアイランドやプリッツアイランドなどが属しているプレッツェル諸島の、
引退した前国王が住んでいる。
そして前国王の近所に暮らしているのが現国王の娘、亜弥だ。
両親はプレッツェル諸島で最近開発されたフランアイランドに城を構えている。
一人娘をよい環境で育てたいという国王が、自分の父親に亜弥を託したのだ。
そのおかげで亜弥は育ちもよく、多芸多才で、人と自然の両方を愛し、島の産業への興味も深く、
去年から新フレーバーの開発に携わっている。

そんな亜弥のために設置された研究室には、半年前からある少女が通ってきている。
ポッキーアイランドでチョコレートなどのコーティングをマスターしてきたtova-Mikiteaだ。
Mikiteaの方が年上なのだが、人懐っこい亜弥の性格とどことなくアイドル的な一面を持つMikiteaの
性格の相性がよく、すぐに対等な関係になるまでに仲良くなった。
今は二人で新しいプリッツのフレーバー作りに取り組んでいる。

ところがある日、亜弥に父親である国王から電話がかかってきた。

「なぁ亜弥、日本に行きたくないかい?」

44う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/06 01:03 ID:zzYIoCnE

今年のプリッツの宣伝のために、グリコがプリッツアイランドから一人若い女の子を募集して
いるという連絡が王の耳に入ったのはつい先ほどのことだった。
公募をしようかと初めは思った。しかしちょうどいい身内の人間がいる。
王室の人間が直々に宣伝に行けば、プリッツアイランド、ひいては国のイメージアップにもなるはずだ。
批判はされないだろう、と島民を信頼して、王は娘に電話をかけた。
「ホントに!?…うんうん!…」
「…ぇ、一人で?一人じゃなきゃだめなの?」
「…ぅんわかった。準備する。ありがと。」
受話器を置きながら、途中で亜弥の様子がすこし落ち込み気味になったのを気にしていた。
王は娘を幸せから遠ざけておくような父親ではない。十分後にはすでに空の上にいた。

ヘリが草原の島に降り立ったのはそのまた十分後。すぐに亜弥の自宅に向かった。
ドアを開けた亜弥はかなりびっくりしていた。亜弥が悲しそうな声をしたから心配になって
駆けつけたと言うと、亜弥は弱く笑った。そして奥に通された。
リビングには前に数回会った少女が座っていた。ポッキーアイランドからやってきた娘だ。
彼女も突然の国王の来訪に驚いている。そんな二人の間で説明を始める亜弥。
「日本に行く話はとってもうれしかったんだけど、なんだか、みきたんを差し置いて私だけ
 行くのはどうかなぁって…」
この数ヶ月の間に「みきたん」と亜弥との間が急速に密接になった事を考えていなかった。
友人との関係を第一とするこの年頃の女の子に対してこれは「仕打ち」に等しいものだった
のかもしれない。
「そうか、気づかなかった。亜弥の気持ちに気づけなかった父さんが悪かった。
 PRアイドルは一般公募に…」
急に王の言葉をMikiteaが遮った。

45う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/06 01:06 ID:zzYIoCnE

「いや、私の事はいいから。日本でプリッツの宣伝してきてよ。…そのかわり、失敗しないでよ、
 あと、お土産よろしく♪分かるかなぁ、魚を加工した食べ物でね、鮭とばっていうんだけど
 きっとコンビニの酒の売り場にあるから、忘れないでね!」
戸惑う亜弥。
「いや、でも私が日本に行っちゃったらみきたんひとりぼっ…」
「んもう、あのさ、映画とか見ないの?恋人たちは一度離れ離れになって、それでもお互いを
 想い続けて…そして感動の再会!ってなるからドラマになるんじゃない。亜弥ちゃんがいつも
 言ってる「刺激のある人生」のためにはきっと離別も必要なんだよ。亜弥ちゃんがいない間に
 一つ味作っとくから。う〜んと辛いやつ!だから鮭とばよろしく♪じゃね♪」
家を出て、バイクにまたがって去っていくMikitea。ノーヘルである。
親友の心遣いに感動するあまり涙を流す亜弥。ほっと安心する王。
せっかく顔をあわせたのだからと、分かる限りの詳しい話を伝えて、王はプリッツアイランドを後にした。

心に迷いの無くなった亜弥はMikiteaに言われたとおり、失敗しないように猛練習を重ねた。
何が起こっても、誰と会っても笑顔でいる練習。発声練習。体力をつけるためにマラソンもしたし、
時差ぼけを起こさないようにと生活時間も日本時間に合わせた。

そして出発当日。父への挨拶を済ませて、空軍から借りた練習機のF22の前で亜弥とMikiteaは誓いあった。
「絶対に日本で最高のプロモーションをしてくるから。期待してて。あ、鮭とばもね!」
「じゃ、亜弥ちゃんが帰ってくるまでに、食べたら飛んでっちゃうくらい辛いプリッツ作っとくから。鮭とばよろしくぅ!
 ビールとプリッツ用意して待ってるぞ!帰ったら宴会だぁぁぁぁ!!」
慌ててMikiteaの口をふさぐ亜弥。プリンセスが未成年で飲酒など、スキャンダルの枠にも収まりきらない。
幸い、周りの人間は彼女が何を叫んだのかは聞き取れなかったようだ。

そして、轟音とともにプリッツアイランドを飛び立つ亜弥であった。


46ねぇ、名乗って:04/08/06 09:14 ID:NJmtQtwp
更新乙。やっぱう〜み〜さんの文章力はすごいね。情景が目に浮かびます。
47う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/09 18:25 ID:UYuWXLOo

日本へ「来日」する前夜、三宅島のホテルで亜依と希美は同じ部屋になった。
十二時間後には、自分たちは有名人になっている…
実感が湧かない二人。亜依は都会に行ける喜びを、希美は人前で歌う恥ずかしさを感じるのみだった。

「のの、東京だよ、明日は東京だよ!」
ませていた亜依は、大都会で遊ぶ女子高生を自分の理想にしていた。
「真希ちゃんと一緒に渋谷で買い物するんだよ!」
仕事よりも空き時間の方に気が行っている。
「そっかぁ、後藤さんは東京のじょしこーせーだったねぇ…」
「そうなの、今度家に泊めてもらうんだ!おばさんとか、いとことかとヒサブリに会うんだよ…
 何年ぶりだろう…五年?」
「五年も前じゃあ顔忘れちゃってたりして。でも、国の外に知り合いがいるなんてすごいなぁ…」
その後も亜依の親戚ショーは続き、夜は更けていった…

48う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/09 19:06 ID:UYuWXLOo

…午前一時…

ベッドの上には静かな寝息を立てる希美と、スナックを片手に、東京の自宅に戻った麻衣と
メールをしている亜依の姿があった。
「えぇ?麻衣ちゃんしってるの?」
「うん、たぶん亜依cの言ってる人と同一人物だと思う。小学校の時に一緒だった。
 でもけっこうな有名人だよ…今も。」
「マジで?デジ(略)有名人かぁ…すっごい会うの楽しみになってきた!五年ぶりの感動の
 再会だよ(笑)あ、ゴメンね、こんな夜遅くまで…じゃあまた今度!おやすみ☆」

ケータイを放り投げて眠りに就く亜依…麻衣の返信に気づかなかった。


「でも油断しちゃダメだよ、きっと亜依cが思ってる性格じゃなくなってるから。
 問題児ってヤツだね」

49う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/09 19:07 ID:UYuWXLOo

…午前四時…

ノド渇いた。しかもトイレにも行きたい。
自分、イミわかんない。矛盾してんじゃん。
ボーっとした頭でそんな事を考えながら希美は起き上がった。
トイレを済ませ、部屋を見回すと、眠りこける亜依のベッドサイドに飲み残しのジュースの
ボトルがあるのに気がついた。
一口ぐらいバレないでしょ。とボトルを手に取り、キャップを開ける。

その時、亜依が急に寝返りを打った。
慌てて布団にもぐる希美…キャップもしないで置いたボトルが、倒れるのを止められなかった。

ジュースがこぼれ出し…亜依のケータイを沈めた…

夜は明けていった…

50う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/09 19:09 ID:UYuWXLOo

翌朝、飛行機の中でメンバーは最終確認を行った。
この飛行機が着陸したらそこはもうライブ会場。
綺麗に着飾って、緊張して椅子にうずくまるメンバー。はしゃぎまわるメンバー。
そんななか、亜依だけはふてくされていた。

なつみが諭す。
「あいぼんさぁ…しょうがないっしょ?慣れない所で寝たからきっと落ち着かなかったんだよ。
 なっちだって枕が変わるとなかなか寝られなくて寝返りばっか打ってるもん。寝相だって
 悪くなるよ。なっちの寝相の悪さったらないよ〜。あいぼんみたいにベッドの周りをちょっと
 触るだけじゃ済まないんだよね、ハハ。廊下まで出てっちゃったり。ね?しょうがないしょう
 がない!渋谷で新しくヒョウ柄の携帯買えばいいんだよ!」

麻琴とはしゃいでいた希美は、その光景をちらちらと見ては心を塞いでいく罪悪感に人知れず苛まれていた。
51う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/09 19:23 ID:UYuWXLOo

 川c・-・)<>>46さん、ありがとうございます。描写は養成塾でもいろいろ指摘された所なので
       そう言っていただけると嬉しいです。

       http://home.att.ne.jp/theta/gakko/po/index.html
       この小説に関するHP(プ です。タグ打ちの練習やWEBデザインの練習wとして
       頑張って構築しました。良かったら覗いてみてください。

       以上、Wベリ市原参戦を翌日に控えた作者でした。
52ねぇ、名乗って:04/08/11 11:40 ID:NxKfSULl
更新乙。見ましたよ。ホムペいやはや登場人物のことがいろいろわかって、物語がますます楽しめそうです。 (漏れはもっとひねった感想を書けないものか…_| ̄|○
53う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/15 12:58 ID:axN6Tuzo

羽田国際空港の駐機スポットは、今や747の収容人数でも納まらないくらいに混雑していた。
最前列には報道陣、残りはどこからか話を聞きつけたファンが詰めている。
その多くは空を見上げ、見慣れない飛行機が飛んでこないかと目を凝らしていた。

青空にターボプロップ特有のエンジン音が聞こえ始め、白地に赤のストライプをまとった中型機が
現れると歓声が上がった。
飛行機はみるみる近くなり、無事にタッチダウンを果たすと拍手が沸き起こった。
「いよいよ今年のポッキーガールズが来日です!今年は期間中、どのようなパフォーマンスで私
 たちを楽しませてくれるのでしょうか?」

飛行機がスポットに近づいてくる。どこからともなくタラップ車が駆け寄ってくる。
そして、観客の目の前に、斜めに飛行機が止まった。
タラップ車が横付ける。しかしドアはなかなか開かない。
待ちきれないファンが前進しようとしたが、例年とは違って、五メートルほどの地点に厳重な警備がある。
報道陣もファンも、今年のポッキーガールズが誰なのかも何人なのかも、飛行機の前で歌を歌うことさえも知らない。

しばらくすると、黒いバンが三台と、電源車が走ってきた。
電源ケーブルが黒いバンのそれぞれに延ばされる。
三台がテールゲートを開く。中には荷室を塞ぐほどに大きなスピーカーが並んでいた。
スタンドマイクが並べられ始めると、群集も何が意図されているのか判ってきた。
「どうやらここで歌を歌うようです!人数は…九人です。マイクが九本並んでいます。」

そして、油圧ダンパーのすべる音とともに、飛行機のハッチが開いた。

54う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/15 13:00 ID:axN6Tuzo

大きな歓声の中、九人が次々にタラップを降りてくる。
それぞれ白を基調として、各々が宣伝するポッキーの種類の色をしたアクセントがついて
いる衣装だ。首には中世の貴族のような、―ないしはシャンプーハットかエリマキトカゲか―
襟巻きをしている。
キャンペーンの常連、なつみや圭がタラップに現れると、歓声は一段と大きくなった。
笑顔で手を振りながらそれぞれの立ち位置に着く九人。全員が引き締まった表情でまっすぐ
前を見つめると、観客も自然と静まる。
そして、このキャンペーンのために作られた曲が流れだした。とたんに九人は不自然なくらいにハジケた笑顔になった。
「YES! POCKY GIRLS」
手足を大きく伸ばして振り回す、リズム感にあふれるダンス。元気いっぱいのユニゾン。楽しい歌詞に明るい曲。
2002年のポッキーガールズはいきなり周囲を圧倒した。

ゴキゲンなパフォーマンスが終わって、続いて空港の会議室で会見が行われた。
「メンズポッキー担当のIshi★Poです!島ではチョコレートの新しい味を研究してます!」
「アーモンドポッキー担当のTaka★Poです!自宅がアーモンド農場です!」
「「つぶつぶいちごポッキー担当のKon★PoとNii★Poです!えっと、自営業で、その、イチゴ農家です!」」
「『ふつうの』いちごポッキー担当のKago★Poです!日本でいろんな事がしてみたいです!」
「みるくポッキー担当のTsuji★Poです!島の牛乳はおいしいですよ!一度飲んでみてください!」
「アーモンドクラッシュポッキーのマイルドショコラ味の担当のOga★Poです!カフェの一人娘です!」
「アーモンドクラッシュポッキーのカフェオレ味担当のYasu★Poです!今年はさらにおいしくなりました!」
「ポッキーチョコレート担当のAbe★Poです!今年もみんなでがんばりますのでよろしくお願いします!」
そして、一日駅長をする事や、11月11日はポッキー&プリッツの日で、それに先立って
イベントを行うことなどが発表された。
会見が終わって部屋を出る時、なつみが急に立ち止まって報道陣に叫んだ。

「そうだ、横浜のヴィーナスムース、本日開店です!」

55う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/15 13:03 ID:axN6Tuzo


広告の甲斐あってか、横浜のヴィーナスムース日本支店前は、開店前からまるでアイドルの
コンサートでもあるかのように人でごった返していた。

朝の十時、あまりの客の多さに圭織が急きょ店の屋上に登って、仁王立ちになって拡声器で叫ぶ。
「みなさん、今日はヴィーナスムースのオープニングに来てくださってありがとうございます!
 えーヴィーナスムースですね、ポッキーアイランドの本店と同じく作ってありますので、島の
 雰囲気を少しでも味わってもらえたらと思います。それからムースポッキーの新商品
 『ブラック&ラテ』と新型『ホワイト』、よろしくお願いします!下にいるヒトミちゃんが開発しました!」
あわててひとみが頭を下げる。何ヶ月もかけて開発して、ついにいくつかの味を完成させたのだ。

従来のムースチョコレートの上に、縞模様になるように少し味の違うチョコレートをクロスさせる。
見た目にも豪華になり、味も深みが出るようになった。圭織が「なるほど。」と言うのを聞いて、これはいけると思った。
量は充分に用意してある。日本の人の口にも合うはずだ。
「期待してるよ、ヒトミちゃん。」
ファンの言葉に、やる気が出た。
島に帰ったら、次は新しいプロジェクトだ。プレッツェルにこだわった新作のためにビターな味を作ろう。
たしか「ポッキーG」とかいう名前だったっけ。

ひとみが振り返ると、ちょうど圭織が降りてきたところだった。
いよいよテープカット。はさみを手にして、気分を引き締める。今までとは違った忙しい日々が始まる。
「三、二、一、開店です!」

56う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/15 13:05 ID:axN6Tuzo



さっきからずっとあさ美は部屋の隅でぶつぶつ言っている。
「イチゴちゃんでーす!新登場の、イチゴちゃんでーす!新発売の、イチゴちゃんでーす!」
亜依はベッドの上で大の字になったまま、あさ美の間抜けなコメントの繰り返しにうんざりしていた。

「もーうるさいうるさい!あさ美ちゃん黙る!ホテルの中ぐらい仕事忘れなさい!」
「でも、明日CM撮影でしょ?あいぼんは練習しなくて大丈夫なの?」
「どええええええええええええええええええええ!って言ってりゃいいから大丈夫なの!
 ったくあたしはこんなことをするために日本に来たんじゃないんだから…」
「…じゃあ何しに来たの?」
「…何でもいいでしょ!真希ちゃんと東京見物したくて来たの。そんなことより、どええええええ
 えええええええってあさ美ちゃんもやるんじゃなかったの?練習しなくて大丈夫?」
「ど、どうぇうぇうぇふぇふぇげふんげふん…」
「ぅ、ぅ〜ん…ちょっと真希ちゃんの部屋に行ってくる…練習がんばって…」

亜依はよたつきながら部屋を出て行った。一人部屋に取り残されるあさ美。
「んもう、あたしだって好きで『イチゴちゃんでーす』なんて言うわけないじゃんイチゴ嫌いなんだから」
早くオフの日にならないかなぁ…東京見物に連れて行ってもらおうかな。
ぼーっとそんな事を考えながら「どええええ」の練習をするあさ美だった。


57う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/15 13:29 ID:axN6Tuzo

 川c・-・)<イチゴちゃんですが何か?
        >>52さん、ありがとうございます。また時々見てみてくださいな。
        ひねった感想は私も思いつかないので大丈夫ですよw自スレでしかデカイ顔
        できない構ってクンなので、レスを下さるだけでとても嬉しいです。

        以上、ハロモニを見逃した作者でした。みんななまず買おうね!写真集もね!
58ねぇ、名乗って:04/08/16 11:26 ID:4LS8Ogta
更新乙です。ついに活動開始ですか。いつもCMを思い出しながら読んでます。
59う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/19 22:07 ID:7Al9AC4V

千葉県の市原市にある、小湊鉄道五井駅。JR内房線の快速停車駅でもある。
普段はこの昼下がりの時間帯は空いているのだが、今日は気動車(非電化路線!)もホームも人で一杯だ。

「旅のお供にぃ、ポキポキポッキー、旅のお供にー、ポキポキポッキー!」
「ポッキーガールズ★一日駅長。」の大きな看板の下で、なつみが叫ぶ。
被っている制帽の上には拡声器のスピーカーが取り付けてある。
すかさず残りのメンバーが立ち上がり「ポー!」と奇声を上げる。汽笛のイメージらしい。

里沙のすぐ後ろに立っているあさ美はさっきからまたもごもごとつぶやいている。
「…絶対おかしい。ぜえったい何か間違ってる。ポー!おかしい。明らかに違う」
「もう、何!?」
里沙がこっそり訊く。
「…大体何なの?この乗り物は?」

九人は商店街の店先によくある、十円で前後に動く動物や乗り物の形をした遊具に立っている。
しかもあさ美と里沙、圭と麻琴は二人で一台だ。
「楽しいじゃん!」
里沙は本当に楽しそうに言う。姉妹でもこんなに違うのはウチくらいのものだろうとため息をつくあさ美。
「…駅長なのになんでポッキーの売り子してんの?」
「小湊は人件費を節約したいんでしょ!」
「…なるほど。さすが里沙。」
ボケているのは姉妹の共通点である。あさ美はすっかり機嫌を直した。

60う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/19 23:02 ID:7Al9AC4V

ひとしきり叫び終わって、そのシーンの撮影も終わると、小さな駅の中でメンバーは一日駅
長のたすきを貰って自由行動となった。
自分のポッキーでの演奏をBGMに流してもらうなつみ。「キハ200…」とつぶやきながら
運転席を覗き込む梨華。ホームの端から端まで歩き回って風景を楽しむ亜依。
あとはみなギャラリーと握手していたりする。希美とあさ美は反対側の内房線の電車に手を振っている。
島から出たことのない娘たちは初めて電車というものに接して興味を示している。

希美とあさ美の横に、梨華がやってきた。
「う〜んE217…そっかJR五井は快速停車駅か…」
それが目の前の銀色の電車の名前だと勘付いたあさ美が訊いた。
「梨華さんは電車に詳しいんですか?」
「ううん全然。ちょっと興味がある程度だよ。」
「梨華さん電車の乗り方を教えてください!」
希美が目を輝かせる。
61う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/19 23:03 ID:7Al9AC4V

「う〜ん、電車ってのはね、まず行き先の駅までのきっぷを買うの。でも最近はこの辺り
 だとSuicaって言うカードを買うと、きっぷを買わなくても乗れるの。買うときにたくさんお
 金を払うとたくさん乗れるようにできてるの。んできっぷかそれを持って、改札を通るの」
「かいさつって、さっき通ったあの狭い隙間?」
「そうその狭い隙間、そこの機械にきっぷを入れたり、Suicaをかざしたりすると、その隙間
 を通り過ぎることができるの。そうしたら行きたいところに向かう方向のホームに行くと、
 しばらくしたら電車がくるから乗るの。降りるときも同じようにすると改札を出られるの。わかった?」
「うぅ〜ん…きっぷ買うの難しそう…」
「初めてじゃ難しいかもね、でもSuicaなら簡単だよ……ようしお姉さんに電車のことを訊いて
 くれたごほうびに二人にSuicaを買ってあげよう!」
「やったぁ!」
いいみやげができたと大喜びする二人。すかさず釘を刺す梨華。
「でも勝手にどっか行っちゃだめだよ!」

三人はJRの券売機でSuicaイオカードを買い、改札機の前でそれを使う人を観察した。
そのせいで改札はその三人を見るギャラリーで塞がれてしまった。
駅員に怒られて小湊のホームに戻ると、全員が集合して最後の挨拶をするところだった。

「…ということで今日はとても楽しかったです!ありがとうございました!それでは皆さん!
 ポッキーをよろしく!SEE YOU!!」

希美とあさ美は新しい世界を手に入れた気分ではしゃぎながらホテルに戻った。

その後三日間はオフの日と称して皆で各地を見物して回った。
最後の大仕事は、1800人のファンの前でライブを行い、11月11日の「ポッキー&プリッツの日」
に向けてのキャンペーンを行うことだった。

62う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/19 23:18 ID:7Al9AC4V

イベント前日の夜、亜依の新しいケータイに麻衣から写真メールが届いた。
「はい、今はこんな感じだよ。外見は、すごいファッションとかに気をつかう人。どう?」
女の子といっぱい遊んでそうな顔の男の子。亜依はこういうカッコイイ系に弱い。
思わずため息をもらす。
「五年前はちっちゃくてかわいい男の子だったのに、すごい!モテそうだぁ…」
「パッと見カッコイイから釣られる女の子も多いよ。」
「二人で街を歩いたらカップルに見えるかな?(笑)」
「亜依cカワイイからきっとお似合いだよ、でもホントに付き合わないよ〜に!」
「わかってるって、そりゃまずいよ(笑)」
「本人も亜依cに会いたがってるみたいだけど、いつ会えそう?」
「そうだねぇ、明日ホールでイベントするから、お姉ちゃんと見に来たら?って伝えてくれる?」
「あ、そうか!もうヴィーナスムースやめちゃったんだったね…わかった!伝えとくよ。」
「ありがとう!よろしく!」
ケータイを放り、ジュースのボトルを空にすると、亜依は布団にもぐりこんだ。

しばらくして、またケータイが震えた。
「今伝えたら、お友達連れて行くって!誰だかは聞いてないけど、きっと亜依cの好み
 なんじゃないかなぁ?お楽しみに!んじゃ♪」
眠そうな顔に笑みが浮かぶ。電源を切って、亜依は短い睡眠に入った。

63う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/19 23:35 ID:7Al9AC4V

 川c・-・)<>>58さん、ありがとうございます。といっても、もう活動終了なんですね〜すみません。
       さてここからどうやって500レス近くまで持っていくのか…というか届くのか?
       あ、ちなみに目処はちゃんとついてますのできちんと物語を完成させられる事はお約束します。

       以上、紺野写真集の表紙に「非常にテツヤらしいがもうちょっとなんとかならんのか」
       との思いを抱いた作者でした。なまず買いましたよ。
64ねぇ、名乗って:04/08/20 00:24 ID:Y5UHtxCh
更新乙です。紺野さんのキャラなんかいいですね。
65う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 22:56 ID:5ZGGQ6lN



翌日の昼すぎ、東京は五反田のゆうぽうと簡易保険ホール。
客席はエキストラで出演するファンたちで埋まっている。全員黄色のTシャツでそろえている。
ステージ近くの席には真希の抜けたヴィーナスムースも座っている。CMで一瞬出演するためだ。
その前の通路は打ち合わせに忙しいグリコの社員などでごった返している。
しばらくすると照明も落ち、社員たちも持ち場につく。

そして、ステージにポッキーガールズと亜弥が現れた。



66う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 22:59 ID:5ZGGQ6lN


東京は五反田のゆうぽうと簡易保険ホール。
楽屋代わりの大部屋では、ポッキーガールズと亜弥が初めて顔を合わせていた。

同い年の愛は、まさに「完璧な」亜弥にあこがれていたのではしゃいでいる。
希美やあさ美や亜依は、亜弥が年上であるため、というか凄く年が離れているような印象を
亜弥から受けていて、おとなしい。美術品を見ているかのように遠くから眺めるだけである。
梨華は、チョコレートコーティングの研究をしているだけあって、生粋のプレッツェル人間である
亜弥とよりよい商品作りについて語ろうと待ち構えている。
麻琴は、昔自分の店でバイトしていたMikiteaが気になっていた。
「亜弥さん、Mikiteaさんはお元気ですか?むかし、私の家の店で働いていたんですよ〜」
「あ、そうなの?うん!みきたんは元気だよー!なんていうか、プリッツアイランドに来た頃は
 凄くおとなしい子だったのに、今はすごく明るい子になって、多分今も新しいプリッツ創ってると思うよ!」
「そうですか!それはよかった〜、あ、亜弥さんもうMikiteaさんの料理食べられました?」
「食べた食べた!おいしいよねぇ!」
「そう!うちカフェで軽食も出してるんですけど、Mikiteaさんの料理とってもおいしくて!
 亜弥さんも幸せ者だなぁ…あいぼんもすっごくお気に入りだったんですよ、ね!あいぼん!……あれ?いない…」
そういえば、と気づいた顔をする希美。部屋を見回しても亜依は見当たらない。
「まぁトイレにでも行ったんでしょ、んでね亜弥さん、Mikiteaさんの後に来た、あそこの圭さんって
 言うんですけど、あの人の料理もすっごくおいしいんですよ!今度食べてみてください!」
「そうなんだ!じゃぁ今度ぜひ!お願いします!」
圭のほうを向いて礼をする亜弥。プリンセスも年頃の娘。食べ物には目がない。

「じゃそろそろ本番でーす!よろしくお願いします!」
スタッフの声が響く。一同はステージに向かった。

67う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 23:01 ID:5ZGGQ6lN



亜依はトイレに座ったまま、ケータイをぼんやりと眺めていた。

時折、「切」ボタンを押す。バックライトが消えないように。

薄暗い個室の中、明るく輝く液晶。

その待ち受け画面には、真希とそっくりな若い男の甘いFACEが映っていた。



68う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 23:05 ID:5ZGGQ6lN


───―――――――――――

『ポッキーガールズでーす!』

―――どこにいるんだろう…

『アヤッツでぇーす!』

―――前の方しか見えないよ…コンタクトの度が弱すぎる…

『11月11日はー、』

―――せめて真希ちゃんだけでも見つけないと…

『ポッキーアンドー、』

―――…私に手を振っている男がいる…

『プリッツの日ぃ!』

―――…!!やっぱりそうだ!本物だ!

69う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 23:06 ID:5ZGGQ6lN

『ポッキーアンドー、』

―――隣にいるのは…友達?

『プリッツの日!』

―――カ、カッコいい…

『ポッキー、ポポポ!』

―――早く、早く終われ!

『プリッツ、プププ!』

―――すぐ、行くから、待ってて!



『みんなありがとう、ポッキーガールズと、アヤッツでしたぁー!』

――――――――――――――――


70う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/25 23:13 ID:5ZGGQ6lN

 川c・-・)<>>64さん、ありがとうございます。全編を通じて同じキャラをキープできるように
       頑張りたいですね。

       『起』、『承』…今だ!『転』!

       以上、紺野写真集はもちろんフラゲの作者(ののこんまこヲタ+ガキさん崇拝+6期DD)でした。
       写真集コンプしそうな勢いです。
71う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/30 21:57 ID:2a2VcWMB

18:35

「おいし〜い!!!」
亜弥が思わず叫ぶ。圭の顔もほころぶ。
「あぁ〜、ちょっと感動してますぅ!あーどうしよ涙出てきた」
「そんなおおげさな…(笑)」
まんざらでもない圭。本当に料理が好きな娘だ。
「パパの家のご飯よりもおいしい!すごいです!」
「パパの家のご飯…って宮廷料理ッ!?」
「今度あの人たちにぜひ料理を教えてやってください、食材はいいものを
 使っているはずなんだけどどうも殺しちゃうみたいで…」
「はぁ、光栄です…機会があったら是非お邪魔させてください!」
麻琴が飛び上がる。
「やった!すごいよ大フィーチャーだよ圭さん!おめでとう!」
「ありがとぉ!」
抱き合う二人。
「よっしゃ、今日は宴会だ!」


72う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/30 21:58 ID:2a2VcWMB


18:43

「おねぇちゃん、この太巻きってやつおいしいよ!」
大口を開けて待っているあさ美。すかさず太巻きを一切れ丸ごと押し込む里沙。
あさ美の大きな目がさらに大きく見開かれる。


18:46

やっとすべてを飲み込めたあさ美。
「里沙ッ!危うく死ぬところだったじゃない!待ちなさい!」
パウンドケーキを持って里沙を追いかける。
「あのケーキはムリっしょ…あいぼんならあの太巻きは大丈夫かもしれないけどあのケーキは…」
愛の言葉に、希美が部屋を見回す。

「そういや、あいぼんは?」


73う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/30 21:59 ID:2a2VcWMB


18:55

オレンジジュースの入ったグラスにポッキーを山ほど挿して、希美はふらふらと部屋を歩いていた。
さっきから亜依の姿が見えないので探している。

梨華に訊いてみる。
「あの、あいぼん見てませんか?」
「うーん、みてないねぇ…」
梨華は亜弥から視線をはずさずに答える。さっきから亜弥は麻琴に取られっぱなしだ。

あさ美と里沙は口に入りきらない食べ物の応酬を繰り返している。
愛はテーブルの周りをまわって、食べ物を物色している。

仕方ないので、奥の椅子に座っているなつみと圭の所へ行った。
「あの、あいぼん知りませんか?さっきから見てないんですけど…」
腰を浮かして部屋を見回すなつみ。
「そういえば、イベント終わってから見てないかも。変だね…」


74う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/30 21:59 ID:2a2VcWMB



19:00

希美とあさ美となつみと圭は、部屋から部屋へと亜依を探して歩いていた。
梨華は亜弥をじっと見つめたままである。麻琴はまだ亜弥を占領している。
愛は皿に山盛りになった食べ物をずっと食べている。

里沙はペットボトルの紅茶をラッパ飲みしている。喉通りが悪いものを食べ過ぎた。
「おねぇちゃん何してるの?」
「あいぼんがいなくなっちゃったの。探して?」



75う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/08/30 22:00 ID:2a2VcWMB



19:08

もはやパーティーに参加している人は一人もいず、全員が亜依の名前を呼んで探していた。
終わってすぐに見たという証言はあったが、それ以降は所在がまるで分からなかった。


部屋の隅で荷物を調べていたあさ美が突然振り返り、おびえた顔をして叫んだ。





「あいぼんの…荷物が…ない」




76ねぇ、名乗って:04/08/31 03:54 ID:U/zp7o0R
更新乙です。あぁあいぼんさんはいずこに…。そして風が強い&夏休みが終わる。
77う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/04 01:40 ID:fK/hXIbl

19:27

『留守番電話センターです』
麻琴はケータイを耳に当てたまま絶望したように首を振る。一層空気が張りつめる。

梨華が突然叫ぶ。
「誘拐…私警察に連絡します!日本は110番ですよね!?」
ケータイを勢い良く開く梨華。日本の怖さはインターネットでさんざん学んできた。

そこへ圭が歩み寄り、梨華の手を押さえて、ゆっくりとケータイを閉じる。
驚いた顔をする梨華。
「梨華ちゃん、警察沙汰になると人が騒ぐからダメだよ」
「でもあいぼんが誘拐されちゃったんですよ?助けてもらわないと!ウチらじゃ無理ですよ!」
梨華の肩に手を乗せて落ち着かせようとする。
「警察は確かに亜依ちゃんを助けてくれるかもしれない。でもね、それはいずれ全部マスコミに
 バレちゃうんだ。もちろん誘拐事件なら捜査中は報道管制が敷かれるけどね。まだ誘拐か
 どうかさえ分かってないでしょ?自分で出て行ったのかもしれないし荷物は違うところに
 置いたのかもしれないし。それにウチらは一般人じゃない。梨華ちゃんなら分かるでしょ?
 ウチらが必要以上に取り乱してるのを人が見たらきっと不安になる」

梨華の目に怒りの色が浮かぶ。そして圭の手を強く振り払った。
「何役人みたいな事言ってるんですか!誘拐されたあいぼんにもし何かあったら責任
 取れないでしょ!一般人の前では普通に振舞えばいいし、バレちゃったら公開捜査で協力してもらえるでしょ!」
「梨華さんッ!」
希美が机をドンと叩いて今にも梨華に向かっていきそうな勢いで叫ぶ。
なつみがその腕をつかむ。
「ののちゃん、梨華ちゃんが正しいよ。圭ちゃんの言うことももっともだけど、
 私たちは別に単なるCMの出演者でしかないわけだから。あいぼんならすぐ見つかる。
 大丈夫だから、今日はもう、みんなホテルに戻ろ?梨華ちゃんは通報してくれる?」
「ハイ!」
78う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/04 01:43 ID:fK/hXIbl

ベッドサイドの間接照明が、希美とあさ美の横顔を浮かび上がらせる。
「…あいぼん、本当に誘拐されたんだと思う?」
「なんか違う気がする。梨華さんの行動がベストだったとは思えないな。あさ美ちゃんはどう思うの?」
「私も誘拐なんかされてないと思う」
「なんで?」
「誘拐なら、誘拐されるときにもっと騒ぎが起こるでしょ。あいぼんがそんなに遠くにいたとは
 思えないし。それに荷物もなくなってる。電話が繋がらなかったのもおかしい」
「電源、切られてたんじゃないの?」
「そう、そうなんだけど、人に気づかれずにあいぼんを連れ去るってことは、少人数の犯行
 でないとできないと思うの。でも少人数なら暴れるあいぼんを押さえるので精一杯になる
 はず。すぐに電源を切るなんて芸当はできないはず」
「あいぼんああ見えて力あるからねぇ…ってことは、あいぼんは誘拐されてないってこと?」
「うん、そう考えるほうが自然。自分から出て行ったんだと思う」
「どこ行ったんだろ…」

カーテンを開けて、夜景を眺める希美。
なんとなくテレビをつけてみたりするあさ美。
『…本日のゲストは浜崎あゆみさんです!…』
「あ、ののちゃん、あゆだよ!新曲だって!」
ベッドに座ってテレビを見る二人。
『出身が福岡なんで、この前ライブで福岡に泊まった夜にはスタッフさんと街を歩いて
 ましたねー、懐かしかった』

はっと息をのむあさ美。
「街…歩く…ふるさと…!!!」
「どうしたの?」
「あいぼん、真希さんと東京見物するって言ってた!きっとそれだよ!」
「!!!…そういやいとこにも会うんだ、って楽しみにしてた!」

パァっと二人の表情が明るくなる。ベッドの上で手をつなぎながら飛び跳ねる。
「「明日、真希さんに電話してみよう!!」」
79う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/04 01:50 ID:fK/hXIbl

 川c・-・)<>>76さん、ありがとうございます。いよいよ秋でございます。リリースラッシュとメロンアルバムに大期待。
       あいぼんさんが東京に紛れてしまった…
       タイトルを「The Pocky Island」にしなかった理由はここにあります。シマニイナインダモン

       以上、「7期は頼むからゴロッキよりも年上を入れてくれ」と叶わぬ願いを思う作者でした。I WISHですな。
80ねぇ、名乗って:04/09/05 12:35 ID:Abn7em0J
更新乙です。あいぼんさ〜ん。って(^▽^)さんこわいです。関係ないけど7期メンは高校生以上でちと安心。
81名無し募集中。。。:04/09/06 22:04 ID:OEJmBYEa
てst
82名無し募集中。。。:04/09/07 20:59 ID:HMD7YMRT
てst
83う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/09 22:43 ID:FpBIjDLM

翌朝、ホテルのロビーには刑事と警備員があふれていた。
朝食の席で、捜査状況が伝えられた。まだ配備が始まったという程度だった。
「今日から三日間は本来オフの日ですが、外出は一切禁止とします」
スタッフの言葉にあさ美は心底がっかりしたような表情を見せた。

部屋に戻って、真希に電話をかけようとした。
ところが、あさ美の機種には電波が届かない。
「なっ…圏外!?」
慌てて自分のケータイを見る希美。画面の左上には圏外の赤い文字が浮かんでいた。
「私のも圏外…」
やりきれなさに、ベッドにケータイを叩きつけるあさ美。
「何で繋がんないんだよ!東京でしょ?」
二人きりの部屋に、あさ美の荒い息が響く。

突然希美が立ち上がる。
「外で、掛けるしかない」
「出ちゃダメって言われたじゃん!聞いてなかったの!?」

希美は大きく息を吸って、声を限りに叫んだ。


「出 か け る ん だ よ ! ! !」


はっとする。希美の言っている事がやっと飲み込めた。口が勝手に動く。
「人が…作った壁は…人が…破れる?」

頼もしげにウインクする希美に、女ながらホレそうになった。
84う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/09 22:44 ID:FpBIjDLM

十分後、必要なものをすべて装備した二人は、ゆっくりと部屋のドアを開けた。
廊下を音を立てずに歩く。希美の後にあさ美が続く。
エレベーターホールには、警備員が三人ほど立っていた。
「ダメダメ、出ちゃダメだよ!」
「ロビーにお土産屋さんがあったんですよ、日本のお土産見たいんです!お願いします!」
希美が三人と話している隙にエレベーターのボタンを押すあさ美。
そして、光るボタンを背で隠す。ボタンの矢印は上を向いていた。
「まぁ、売店なら別にいいか」
警備員が無線連絡を始める。
「メンバーが二人、売店に行きます。警護お願いします」
しまったという顔をしてあさ美を見る希美。だがあさ美はニヤニヤしている。
静かにドアが開き、二人は滑り込む。
「「ありがとうございます!」」

ドアが閉まると同時にあさ美は一つ上の階のボタンを押す。希美が泣き付く。
「警備、どうしよう…」
エレベーターが上に動き始める。頷くあさ美と驚く希美。
「ふぇ、なんで上なの?」
「下に行くわけにはいかないから」
「え…?」
「まぁ見てなって!」

85う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/09 22:46 ID:FpBIjDLM

すぐに上階に止まり、あさ美は希美の手を引いて降りた。
降り際に一階のボタンを押す事も忘れなかった。
「これで乗り間違えたように見える、と」
そして廊下を進むあさ美。希美は混乱している。
「ねぇどういうこと?」
「間違えて上に行ってしまった。そしてあわてて下に切り換えた。っていう風に見せたかったの」
「なんでそんな面倒な事をするの?」
「ロビーにはたくさん警備員がいる。だからいないかも知れないところから出る」
「どこ?」

廊下の突き当たりに大きなリネン倉庫が見えてきた。
そしてその脇には業務用エレベーターの扉があった。
「この…エレベーターは?」
「シーツ専用の業務用エレベーター。地下一階の搬入口までどこにも止まらないの」
思わず立ち止まってあさ美の顔をまじまじと見つめる希美。
「な…なんでそんなこと知ってるの?」
「秘密!」

大きなエレベーターに乗り込む小さな二人。
「今ごろ一階じゃ騒ぎになってる…ハハ」


一階で二人を待っていた警備員は慌てて無線で上に連絡していた。
「…誰も乗っていませんが」

宿泊フロアの警備員は怪しんですぐに一つ上の階を捜索した。
二人の姿はどこにも見えなかった。


『館内の全警備員に告ぐ、緊急封鎖態勢を取れ。
 ポッキーガールズのメンバー二名が失踪。出入り口を全て封鎖して下さい』
86う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/09 23:00 ID:FpBIjDLM

 川c・-・)<>>80さん、ありがとうございます。果たして( ^▽^)の行動は正しかったのか!?
        7期は中卒以上でよかったよかった。ま、あんま女として出来てくると三好のような
        問題も出てきますからね。そのあたりが難しいところでしょう、そう考えると男いても
        無傷な後藤がいかにいいポジにいたか。清純派のスキャンダルはまさに命取りですな。
        なに熱弁振るってるんだか。
        >>81-82さん、てst結果はどうですか?

        以上、駅前に路上駐輪して買い物行ってたら放置自転車扱いで回収(2000円)
        されていて欝極まりない作者でした。オレノアルサス…
87ねぇ、名乗って:04/09/10 00:38 ID:lqYxLPRY
更新乙です。コンコンすげー何故そんなことまでしっているのか。
88名無し募集中。。。:04/09/11 15:28:35 ID:QodCWj18
てst
89う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:35:05 ID:Fi4Nw+gg

地下のリネン専用搬入口。
チーンという音と共に扉が開いた。警備員が怪訝そうに振り向く。
「あ、ダメだよこんなところ来ちゃ」
得意の「ごめんなさい」の顔をして頭を掻く希美。
「へへ、すみませーん」
あさ美もフォローする。
「じゃあ表の正面玄関から戻りますーすみません」
しかたないという顔をする警備員の脇をすり抜けようとした瞬間、無線が叫んだ。
『緊急…ポッキーガールズのメンバー二名が失踪…』
はっとした表情をして駆け出す二人。
「おいちょっと待て!」

広くて薄暗い地下駐車場の網目を、三つの足音が駆け回る。
ドアミラーにぶつかって咳き込む希美。
車止めにつまずいてたたらを踏むあさ美。
迫り来る警備員。

大きな通路に出ると、前方に明るい光が差し込むスロープがあった。
地上出口のゲート脇にいた警備員が一人、両手を広げて道を塞ぐ。後ろの足音もすぐ近くだ。
スロープを全力で駆け上がりながら、一瞬顔を見合わせて、軽くうなずく二人。

あさ美の左手が、希美の右手が堅く拳となる。
そして二つの拳は、音を立てて、仲良く並んで、初老の警備員の腹部に打ち込まれた。
警備員がしりもちをつき、激しく咳き込む。
二人は立ち止まって、警備員の背中を二、三回さすってからまた逃げ出した。
「「ごめんなさぁぁぁぁい!!!」」

90う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:36:23 ID:Fi4Nw+gg

横道から正面の道路に出る。タクシーが流れてくる。
玄関の警備員が二人に気づき、大声を出した。
慌ててタクシーを呼びとめ、飛び込む。
「と、とりあえず逃げてください!」
玄関から刑事が飛び出てくる。急発進するタクシー。
追いつけなかった刑事が、後ろの警備員に叫ぶ。
「誘拐じゃない!脱走だ!」

タクシーが大通りに入ると、二人はほっとため息をついた。
あさ美は地図とにらめっこをし出した。やがて運転手に言った。
「表参道駅までお願いします」
タクシーは八幡通りを進み、山手線を越え、東横線をくぐり、首都高速をまたいで、
突き当たりに青山劇場が見え始めた。
あさ美は地図を閉じ、「よし」とつぶやいて車が右折するのを待った。
「お客さん、もうすぐですからねー」

91う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:37:25 ID:Fi4Nw+gg

すると突然、あさ美が後ろを振り返って叫んだ。
「わああ!追ってきてる!ここで降ろしてください!あとは表参道駅まで歩いていきます!」
希美も慌てて後ろを見るが、特に追っ手は見当たらない。不思議そうな顔をしてあさ美を見ると、
人差し指を口に当てて「静かに」のポーズをしていた。そしてまたあさ美が口を開く。
「あ…追われてきたからお財布、取られたままだ…」
運転手は少し困った顔をする。
「うーん、緊急の用みたいだったから、助けられて良かったとは思うけど、やっぱり運賃は払ってもらえたら…」
あさ美が今思いついたように答える。
「そうだ、申し訳ありませんけど、お金は私たちが乗ったホテルの中にいる警備員さんに払って
 もらってください!話はすぐに通じますから」
「そうか、わかった。女の子が危ない目に遭ってるのは本当に残念だな…頑張ってな」
「「ありがとうございました!」」


Uターンして去ってゆくタクシーを見送りながら、希美は尋ねた。
「今度は何を?」
「隙だらけの行動をしている、と思わせるかく乱だよ、さぁ行こう!」
「ほんっと意味わかんないんだけど。説明してよ!」
「ごめんごめん、あのね、さっき運転手さんに『表参道に行く』って言ったでしょ?…」

92う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:38:32 ID:Fi4Nw+gg



   二人を降ろしたタクシーが、ホテルに戻ってきた。
   運転手が入り口の警備員に話し掛ける。
   「あの、中学生くらいの女の子二人を乗せたのですが、運賃を…」
   「なに!?あのタクシーか?」
   慌てて無線連絡をする警備員。しばらくすると、刑事が数人出てきた。
   「運賃?運賃なら、分かった。払おう。…で、二人は何処で降りた?」
   「えっと…表参道駅の手前ですけ…」
   刑事が振り向いて叫ぶ。
   「表参道駅に行った!沿線の所轄は緊急配備!」



93う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:39:54 ID:Fi4Nw+gg



「…だから、そうすると、刑事さんたちは表参道駅に慌てて行くわけ」
「んー、すごいね、すごいけど、…じゃぁ表参道駅に行けなくなっちゃうじゃん!」
「うん、だから行かない。反対側に行く」
反対側を向いてあさ美が歩き出す。慌ててついて行く希美。道路標識が目に入った。

『JR渋谷駅』


94う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/14 00:48:47 ID:Fi4Nw+gg

 川c・-・)<>>87さん、ありがとうございます。この辺りのシーンはそんな紺野さんを書くのに
       大分頭を絞りました。
       >>88さん、もし良かったら私の文章でも読んでいってくださいな。

       以上、非東京人の作者でした。
95う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/18 21:00:02 ID:qBd81F7o


渋谷駅まで歩いて行く途中で、あさ美は電波状態を確かめた後、真希の自宅に電話を掛けた。
『もしもし、こちら後藤です』
「あもしもし、後藤真希さんですか?Kon-po-あさ美です!」
『あ、あさ美ちゃん?あ、久しぶりーお元気で?』
「あ、私の方はおかげさまで何事もなくここまで来られました」
『そっかーそれは良かったですなぁ!あ、そうだ近くにあいぼんいる?
今度あいぼんに東京を案内するんだけど、その話がしたいなぁ、なんて思って』

ケータイを取り落としそうになるあさ美。思わず立ち止まる。
周囲の雑踏が一瞬にして無音になる。
「…え?あいぼん、まだ真希さんとは会ってないということですか?」
『んー、そうだよ。近くにいないのならいいや、忙しいから切るね』
「あ、どうもありがとうございました!失礼します!」

ゆっくりとケータイを耳から離す。呆然とした表情をしている。
横で聞いていた希美の表情も曇る。
「…じゃぁ何処に行ったんだよ…」
「うーん…あさ美ちゃん、立ってても仕方ないから、どこかカフェか何か入らない?それから考えよ?」


96う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/18 21:01:01 ID:qBd81F7o

駅の反対側にあるスターバックスコーヒーに二人は座っていた。
テーブルには小さなパイとキャラメルフラペチーノのLが二つずつ。
テーブルに肘をついて考え込んでいる二人。
「真希さんじゃなかったら…じゃぁ日本に来てから知り合った人の近くにいるのかなぁ」
「ああ見えて、一人じゃ出かけられないタチだもんね…まして異国の地で一人旅なんて考えられない」

あさ美はのんびりとパイを口に運ぶ。希美の視線に気づく。
「あ、こっちも食べてみる?これはね、えっとはちみつハニーパイだって。そっちは?」
「ミニストロベリーパイだったかな?じゃ一口!ありがと」
食べている間は静かになる。

しばらくして、二人はまた考え込んでいた。
「ウチら日本に来てから、一般人と触れ合う機会なんてあった?」
「いっつも一緒にいたから、他には考えられないよね…」
「一日駅長の時…は?」
「普通だったよね。握手してたくらいで」
「あとは、最後のライブの時?」
ふと目を上げる希美。不思議そうにしているあさ美の顔をじっと見つめながら、懸命に思い出そうとしている。

十秒、二十秒。あさ美の顔の向こうに行っていた希美の目の焦点が、突然戻った。
「そういえば、あいぼんずっとうわのそらだった。なんかずっと同じ所ばっかり見てた」
「同じ所?」
「客席の誰かだったと思う。角度的に」
「じゃあ、その時だ!あいぼんって即断即決がモットーだからきっと…」
「でも、客席の誰か、って1800人もいるよ?どうやって特定するの?」
途端に詰まるあさ美。希美の表情は絶望の色を隠しきれない。
97う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/18 21:06:12 ID:qBd81F7o

三十分後、二人とも考える気力を失って、ただ漫然と椅子に座っている。
テーブルの上には空になったカップと袋。
二人とも出るのはため息ばかりで、虚空を見つめたまま何をするわけでもない。
隣の席に座った女子高生たちが騒いでいるのを見て、あいぼんはこういう人間になりたかった
のかな、と思ったりする二人。
その女子高生の一人のケータイが鳴り、着メロが響いた。
「あ…あゆの新曲だ…」
「あーあ、あゆのコンサートでも行って楽しく過ごしたいなぁ…」
「うん…」

だるそうに返事をした希美。梨華から聞いた話を思い出した。
「そういえば、あゆが前にコンサートで、足が不自由な女の子が前のほうにいて、
 座って見てたんだけど、それを見て『座ってるよ、感じ悪いね』って言ったんだってね」
「ふーん…」

返事をしてから暫くして、あさ美があっと声を上げて立ち上がった。
「どうしたの?」
あさ美は満面に笑みを浮かべて、喜びに震えていた。
「それ、…それだよののちゃん!」
「どういうこと?あゆのコンサート行くの?」
「違う、その話!たしか、その話を聞いたファンが怒って抗議をしたときに、事務所が、
 『最前列にはスタッフが座っていた、そのスタッフを盛り上げるためにそう言ったのが
 誤解されている』って言う声明を出した、っていうのも聞いたことがあるの」
「…だから?」
あさ美はすっかり興奮して机をがたがた揺らす。隣の女子高生たちが二人を見る。
「あいぼんは目が悪い!近くの席しか見えない!!そして最前列は関係者!!!」
希美も机を叩いて立ち上がる。
「そっか!グリコの人だ!」
98ねぇ、名乗って:04/09/19 01:08:20 ID:eE18kzRr
更新乙です。いやぁ、あゆの話しからつなげていくのはすげぇと思いました。これからどうやってあいぼんさんの居場所を突き止めるのか今後に期待です。
99名無し募集中。。。:04/09/23 20:09:51 ID:W1bMbeoG
100う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/24 23:23:58 ID:IGIOqGQy

あさ美はリュックを開けて、書類の束を取り出した。
ポッキーガールズになってからもらった書類のほとんどがそこにあった。
「えっと、グリコの本社、グリコの本社…」
何度もページを彷徨っていた人差し指が一点に止まる。
「江崎グリコ東京芝浦事務所。東京都港区芝浦、アクアシティ芝浦三階。JR田町駅から徒歩約十八分。」
「そこが本社?」
「いや、本社は大阪だった。東京で一番えらい所がここっぽい」
「よし行こう!」

スターバックスコーヒーを出て一目散に渋谷駅に向かう二人。
しかし突然希美が不安な顔をする。路線図を確認していたあさ美に訊く。
「どうやって、電車、乗るの?」
「…六駅か。え?電車は…ののちゃんお財布持ってきた?」
「持ってきたよ!」
差し出す財布にはキャラクターの絵がプリントされている。
「五井駅で、梨華さんに買ってもらったカード、入ってる?」
開けて中を探る希美。緑と銀の模様をしたカードはすぐに出てきた。
「思い出した?」
「…思い出した!」
101う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/24 23:24:36 ID:IGIOqGQy

改札に向かう二人。カードを持つ手が少し震えている。
そして、改札機の隙間に入り、カードをセンサーにかざす。
「ピッ」
道をふさいでいた小さな扉が開き、あさ美は無事に改札を抜けた。
ところが、すぐ背後で軽い悲鳴が上がるのと同時に、エラー音があたりに響く。
慌てて振り返るあさ美。
「大丈夫?」
希美は閉じた扉の向こうで泣きそうになっていた。
「あさ美ちゃんの後に続いただけなのに…」
「ちゃんとカード使った?」
「ふぇ?あさ美ちゃんが使ってドア開けてくれたから、大丈夫だと思って…」
「ののちゃん、私もののちゃんも一人ずつのお客さんなの。だからお客さんとして、きちんとカード使えば入れるよ?」
言われたとおりにする。今度は扉が開いた。
ほっと胸をなでおろす希美。やっぱりこのひとは私が守らなくちゃ…とほほえむあさ美。

「友達だってことくらい気づかないのかなあ、あのバカ自動改札!」
「機械には人の心は読み取れないよ!」
ハハハと笑う。私たちの結束が、目標が、機械に読み取れるはずがない。ののちゃんの友達は、機械じゃなくて、私だ。
あさ美はなぜか嬉しくなって、小走りに階段を駆け上る。
ちょうど山手線がホームに入ってきたところだった。

102う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/24 23:32:22 ID:IGIOqGQy

 川c・-・)<>>98さん、ありがとうございます。推理小説と呼べるほどに仕上がってくるといいのですがw
        >>99さん、更新が遅れてすみません。

       以上、希美と同様、一人で電車に乗れない作者でした。   …ごめんなさい嘘つきました。
103ねぇ、名乗って:04/09/25 20:17:29 ID:7mIK+zhO
104名無し募集中。。。:04/09/27 20:55:48 ID:a1x1VZ9p
てst
105ねぇ、名乗って:04/09/28 02:29:32 ID:YAVNxp32
106ねぇ、名乗って:04/09/28 02:30:32 ID:YAVNxp32
107ねぇ、名乗って:04/09/30 01:05:14 ID:+HFIxO/G
テスト
108ねぇ、名乗って :04/09/30 01:11:11 ID:LOzV85no
test
109う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/30 03:46:56 ID:2qq5QTXr

田町駅を出た二人、一抹の不安を抱えていた。
もし、逃げた事が社員に知れていたら。
事件はまったく解決しないで、大目玉を食らうだけになる。
事務所に向かう足取りも遅くなる。

気がつくと二人とも、公園のベンチに座っていた。
「行きたくないけど、でも仕方ないよね」
「駐車場の時みたいにブチ破れれば…」
「じゃぁ逃げる計画を立てとこう!少しは気休めになるでしょ」
考え始めるあさ美。希美はシャドウボクシングの真似をしている。

しばらくして、希美が叫んだ。
「あさ美ちゃあん、そのバット貸して!」
見回すと、ベンチの下に銀色の金属バットが落ちているのが目に入った。

手にとって、じっと見つめる。
ふと脳裏に、オフィスの中で大人たちに向かってこれを振り回す自分たちが浮かんだ。
誰かが一生懸命作ったものを叩き壊しながら。
頑張って生きてきた誰かを傷つけながら。
慌ててイメージを振り払う。

110う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/09/30 03:48:26 ID:2qq5QTXr

「どうしたの?」
希美が隣に座る。
「これで、人を殴っちゃいけない、って思ったの」
「そうだね…」
二人でじっとバットを見つめる。

しばらくして、希美が苦しそうに口を開いた。
「…でも、あいぼん、探さないと。他の誰にもできないことをやらないと。
 せっかくここまで来たんだから。…脅かすだけだったら、誰も傷つかないから、それ持って、行こ?」
少し考えるあさ美。希美の言うことはもっともだと思った。ではその場合は…
「その場合は…じゃあ、追いかけられたら二手に分かれよう。三階だから
 エレベーターで降りる人と、階段で降りる人。んでバットは一階に置いておいて、
 捕まらなかった方がそれで相棒を取り返す、と」
すかさず希美が口をはさむ。
「じゃエレベーターの人やる〜!」
公平に決めようと思っていたあさ美だが、そう言われては仕方がない。
「うん、いいよ私階段で降りる」
「よし、じゃ行こう!あいぼんのために勇気を出して!」
首をかしげながらも希美について行くあさ美だった。

111う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/01 21:51:04 ID:aLNG7sEk



「うーん、確かに前列の方にはわが社の社員もおりましたが、まぁ社員ですので若いといっても
 二十二歳以上かと…」
「そうですか…」
希美がため息をつく。あさ美はさらに質問する。
「他に…御社の社員の方の他に誰がいたか分かりませんか?」
事務所の受付の女性も困った顔をする。
「うーん…じゃぁちょっと待っててくれる?その日にいた人に聞いてみるから」

女性が奥に入っていった後、希美が大きく伸びをする。
「…なんか私たちのこと、情報伝わってないみたいだね」
「不思議だよね、もうイベント何もないから、グリコ関係なくなったのかな?」
「たぶん、あいぼんの事だけしか聞いてないんじゃない?一気に三人も消えたなんて言ったら
 現地の担当はリストラだよ」
「あ、そっか。ののちゃん頭イイ」
112う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/01 21:51:35 ID:aLNG7sEk

奥から先ほどの女性とスーツのCMに出てきそうな男性が出てきた。
「そうですね、おそらくハーモニーの関係者である可能性が高いかと思われます。
 確かマネージャーの方と若い男性が二、三人いらっしゃいました」
「ハーモニー?」
二人はカウンターに身を乗り出す。
「ええ、ハーモニープロモーションと言って、昨年までポッキーの宣伝ガールの日本での
 広報活動をバックアップしていた芸能プロダクションです」
「それはどこですか?」
男性は上着から財布を取り出し、一枚の名刺を取り出した。
「この方ですね。和田薫さん」
名刺には「代表取締役 和田 薫」と、事務所の住所と電話番号があった。
「もしよかったら、電話をお貸ししましょうか?」
メモをとっていたあさ美が慌てて首を振る。こんなところで聞かれて、話が漏れてはコトだ。
「いえ、直接出向いてお話を。あ、どうもありがとうございました!とても助かりました」

帰り際に、エレベーターホールに隠しておいたバットを拾って建物を出る二人。
先ほどの公園に戻り、バットを元の位置に戻した。
ベンチに座って一息つく。
和田に会うためには、また電車に乗らなくてはならない。もう二時半だった。


113電脳プリオン:04/10/03 11:27:10 ID:Bif39Iml
両方興味がない。
114ねぇ、名乗って:04/10/04 18:40:25 ID:DQ3FW5je
h
115ねぇ、名乗って:04/10/04 23:23:44 ID:pTmPaurR
H
116ねぇ、名乗って:04/10/05 23:51:03 ID:jMw9nt8T
更新乙。ってかバットって。びつくりだよ。
117う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/07 00:22:23 ID:ziuH2BO6

「和田さん、和田さーん!」
「おう、どうしたソニン」
「かわいいお客様です」
「お?どれどれ…」
和田が二人を見る。慌ててお辞儀をする二人。

「で、どうしたのかな?」
「あの、昨日のポッキーの日の広報イベントの時に若い男の人と一緒にいらっしゃいませんでしたか?」
「あぁ、確か祐樹君が行きたがって、連れて行ったんだよ…友達も一緒だったか。
 十六歳くらいでいいのならいたよ」
あっさりと答えが出て少々拍子が抜ける二人。疲れがどっと出てくる。
「ええと、その方とは終わったあとどうされましたか?」
「終わったと思ったらその友達と一緒にすぐにいなくなっちゃって探したよ。
 結局夜には家に戻ったみたいだったけど」
「…ビンゴ」
希美がつぶやき、すかさず質問を重ねた。
「その男はどこの誰ですか?」
「祐樹、後藤祐樹。知り合いの息子さんだよ。家は白金台だったかな、おーいソニン!
 後藤主任の家ってどこだっけ」
ソニンと呼ばれた女性がファイルを持ってくる。
「ここです」
「ありがとう。ほら、ここだよ」
メモをとるあさ美。名簿の写真にはキャリアウーマン風を吹かした女性が写っていた。

118う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/07 00:30:19 ID:ziuH2BO6

 川c・-・)<>>113さん、ありがとうございます。そうですか。残念です。
       >>116さん、ありがとうございます。二人の強力なポテンシャルとそれを制御する柔らかい性格。
       各国のお偉いさんたちにもこうあって欲しいです。

       話の流れ上1レスというひどい更新になってしまいました。すみません。以上作者でした。
119ねぇ、名乗って:04/10/09 04:20:11 ID:w5I+Cp8A
      / ̄珍米 ̄\  
     (  人____)
      |ミ/  ー◎-◎-)
     (6     (_ _) )
      |/ ∴ ノ  3 ノ
      \_____ノ
   |\/ ̄ ̄ ̄|    ⌒.\               / ̄ ̄ヽ
     \モー娘の|       /⌒⌒ヽ        /      \
      \悶え.|・  | \ (   人  )     /        ヽ
        \_| /     ゝ    ヽ    /          |
         \.        |;;    | \ /    |       |
           \   _l  |;;  ;;;  | _/      |      |
            \   ―|;;  ;;;  |-/        |       |
              \   |;;  ;;;  |/         |     |
               \  |;;   | |/          |     |
                 | |;   ;; ;;|          /|    |
120ねぇ、名乗って:04/10/11 00:41:20 ID:K4JMQPXz
更新乙。ついに見つかるのか!?見つかったあとはどうなるのか!?
121う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:35:53 ID:0tWuphJy

もう夕暮れ時だった。二人はついに白金台にある新しめの家の前にやってきた。
「後藤」
日本中のどこにでもある姓。二人もその程度のことは分かっていた。単なる一般人。
だが、二人にとっては重要な人物だ。
親友をたぶらかして失踪させたのはこの男だ。
もしかしたらこの建物の中にあいぼんがいるのかもしれない。
二人は意を決して、玄関の呼び鈴を押した。

スピーカー越しに応対に出た声は女子高生のもののようだった。しかし亜依とは違う。
「後藤祐樹さんはいらっしゃいますか」
あさ美が刑事のような声で尋ねる。

122う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:36:27 ID:0tWuphJy

数秒の沈黙の後、声は答えた。
「出かけてるみたいですけど」
しかしここで帰るわけには行かない。あさ美は強気で言った。
「ではお帰りになるまでここでお待ちしてもよろしいでしょうか」
少し驚いた様子で、声は返事をした。
「いいけど…なら中入って待ってたら?今開けますから」

緊張した面持ちで門を開ける希美。十五メートルほど離れた家の玄関も今開こうとしている。
そして敷地に入って二,三歩進んだところで、二人は棒立ちになった。

家から出て、向かいからやってくる人物。見覚えのある姿。
まさしく、それはヴィーナスムースの元メンバーの姿。

昼前に亜依とは会っていないことを表明したはずの、後藤真希の姿だった。

123う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:37:35 ID:0tWuphJy

「…そんなバカな」
あさ美が呆然とした声でつぶやく。完成しかかったパズルを、額の後ろから叩かれた気分だった。
真希は更に近づいて、来訪者の正体が分かると驚いた顔で駆け寄ってきた。
「どうしたの二人で?祐樹が何かしちゃった?っていうか何で祐樹を知ってるの?」
開いた口をひくつかせているあさ美を見て、希美が代わりに話す。
「後藤さん…と祐樹……さんってもしかして…」
「うん、祐樹は弟だよ?」
「え、でもさっきあいぼんとは会ってない、って…」
真希は少し考える仕草をする。だんだんと先が読めてきた。
「うん、会ってない。今も会ってない。…さては祐樹が…亜依ちゃんに何かしたんでしょ、だから祐樹を追ってきた」
「あいぼんが昨日のステージ中に見つけた人について行っちゃった可能性が高いんです」
「あぁ、祐樹はそういや何か友達と一緒に和田さんの所にいたねぇ」
あさ美が身を乗り出す。
「それから、どうでした?」
首を振る真希。
「私はよっすぃと話してたから、分からない。別々に帰ったし。まぁ上がってよ。リビングで話しましょ」

124う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:39:22 ID:0tWuphJy

二人がリビングのソファに腰を落ち着けると、真希は冷蔵庫から飲み物を持ってきて、向かいに座った。
「これでいいかな、フラダンス味はお嫌い?」
「いえ、ありがとうございます」
一口飲むと、真希は背もたれに反り返って大きく息を吐いた。
「祐樹は夜私が帰ったときには普通に家に戻ってたから、部屋に隠れてなければ、あいぼんは
 この家にはいなかったと思う」
あさ美はそろえた膝の上に肘をついて、頬づえをつきながら考え込んだ。
日本で履くために恥ずかしいのを我慢して買ったミニスカート。
後藤家のふかふかのソファでは「防ぐ」のも難しい。

「…となると部屋にいたか、友達の所にいたか、まるで見当違いか、のどれかですね」
突然真希が立ち上がる。
「部屋みてみる?」

125う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:41:49 ID:0tWuphJy

祐樹の部屋は、綺麗とも汚いとも言えないものだった。ただ、乱雑ではあった。
真希は遠慮せず入ってゆく。二人もそれに倣った。

周りを見回して、亜依の持ち物が残っていないか探す二人。
真希はベッドの枕あたりを探していた。
「長い髪の毛もないし、乱れ方も普通…普通ってその、一人分ね…」
言ってから少し顔を赤らめる真希。ちゅ、中三には早いか。
健全な二人は真希の様子には気づかず、ため息をついた。
「No Hitですね…」
「そろそろ祐樹帰ってくるかもしれないから、リビング戻ろっか」
跡を残さないように部屋を出る三人。

「そういえば、祐樹さんは今日はどちらへ?」
「ん?ガッコ。っていうか部活」
「高校生なんですか?」
「そう、日出学園ってトコね」
なるほどと頷きながらスカートを押さえるあさ美。
階段って意外にアレなんだ…とその時初めて気がついた。

126う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:43:22 ID:0tWuphJy


六時半過ぎに、真希の母親が帰ってきた。ハーモニープロモーションで見かけた写真の女性だった。
「祐樹は外泊の時はちゃんと連絡してくるから、まぁ遅くてもそれまでには帰ってくると思うから、
 ゆっくりしていってね。今何か作るから」

希美は自分の口が脳とあまり完全には繋がっていないことに気づいた。
「あ、どうぞおかまいなく、遅くまでお邪魔してすみません」と言おうとしたのに。
そう言うべきだったのに。

「あ、何でもいいんで、ありがとうございますすみません」
これじゃ誤解されちゃうよ。まぁ本心だけど。口は理性よりも物を言うってか。
あさ美ちゃんもそんな顔しないでよ。おなか鳴ってるくせに。バレバレだよ。
スカート短いし。足細いっていいね、まったく。

127う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:44:37 ID:0tWuphJy

昼から何も食べていなかった分、二人はよく食べた。
実際、何日放浪するかも分からないし、お土産用の日本円も充分とは言えない。
食べられるときに食べないと、面倒なことになる。そして真希もよく食べる。

結局少女たちの食事は、食べ終わった皿を重ねなくてはならない状況にまで膨らんだ。
しばらくしてそれに気がついてからというものの、二人は妙に椅子にかしこまったまま黙っていた。

128う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/13 02:51:40 ID:0tWuphJy

 川c・-・)<>>120さん、ありがとうございます。どうなるのかは…次回に持越しですw

       前回の反動で(?)やたら長い更新になりました。毎回このような量の更新を
       なさい、かつ複数スレに渡るほどの長編…他の作者さんにはただ感服するばかりです。

       以上、飼育の短編集にちょっと興味を持った作者でした。
129ねぇ、名乗って:04/10/16 02:23:57 ID:/yiGgJT5
130う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:20:20 ID:16DU2JKK

鳩時計の鳩が一回鳴き、時計は午後八時半を指していた。
その時、遠くでドアの開く音が聞こえた。
「お、帰ってきた」
真希の言葉にソファで身を硬くする二人。
しばらくすると足音が近づいてきて、リビングのドアから祐樹が顔をのぞかせた。
「ただいま」
「祐樹お客さん」
立ち上がって一応お辞儀をする。祐樹は無防備に向かい側に座った。
そろえた太ももの両脇にさりげなく拳を置き、スカートの裾の開口部を塞ぐあさ美。
希美が身を乗り出した。

131う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:20:57 ID:16DU2JKK

「昨日、ポッキーのイベントが終わった後、Kago-po-亜依ちゃんと会いませんでしたか?」
「会ってないけど」
さらりと答える祐樹。しかし、真希は弟が身を硬くしたのを感じた。
「嘘だ。私見たもん」
祐樹は緊張した面持ちで真希を見、それからうつむいた。
驚いた顔でこちらを見ている二人に、真希はにやけながら首を振った。
「…会ったけど、何」
姉の謀略に引っかかった祐樹の不機嫌そうな声に、希美は小さくガッツポーズをした。
あさ美も身を乗り出した。
「で、その後どうされましたか?」
「そこでいろいろ話をして、それから俺は帰った」
「嘘だ」
「嘘じゃない!大体姉貴が帰ってきたときにはもう家にいたじゃねぇか」
「部屋にかくまってたんでしょ」
「んなわけねぇだろ!俺はあの後すぐに帰った。何もしてない。本人に訊けば分かる!」
「あいぼんは昨日からホテルに戻ってないんです」
少し驚いた顔をするが、すぐに下を向いてふっと笑う祐樹。

真希が祐樹に向き直る。
「あいぼんの命に関わる事かもしれないんだから、真面目に答えなさい!」
祐樹が呆れたような声を出す。
「んな事言ったって、ホントにそこから先は知らないし…」

132う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:22:17 ID:16DU2JKK

数秒の沈黙の後、あさ美はさっきから抱いていた疑問を口にした。
「さっき、『俺は』帰った、って言いましたよね、お友達の方はどうされたんですか?
 その場に残られたとか?」
祐樹が顔を上げた。
「友達?俺はずっと一人だったけど」
「和田さんにお聞きしましたが」

あさ美をちらと見、小さく舌打ちをする。
「祐樹話しなさい」
「知らない人だよ。そこで会っただけで」
「嘘ばっかついてんじゃねーよ!」
真希が怒鳴ると、祐樹は立ち上がった。
「いいじゃねぇかよあいつが何しようと!」
そう叫ぶと、リビングを出て行こうとした。
あさ美は慌てて立ち上がり、祐樹に頼んだ。
「せめてそのお友達の名前でも…」

133う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:22:51 ID:16DU2JKK


ドアを開いたまま、祐樹が立ち止まり振りかえる。
場の空気が急に止まった。

134う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:23:48 ID:16DU2JKK


祐樹は黙ったままあさ美を見つめていた。

男と女。

一対三。

祐樹の値踏みするような視線に最初に気づいたのは姉だった。
「…祐樹何考えてるの?」

次いで気づいたのはあさ美本人だった。
舐め回されている。
全身に鳥肌が立った。

もう、二度と、ミニなんて穿くもんか。…というか、今、どうしよう…


135.:04/10/18 02:30:08 ID:KMbo71TK
.
136う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:30:53 ID:16DU2JKK


祐樹の顔に汚い笑顔が浮かんだ。
「教えて…やらないことも…無いが?」
剥き出しの脚から寒気が一気に背中に上ってくる。

その時、あさ美の視界が急にさえぎられた。
希美だった。肩が震えている。

ゆっくり、しかしはっきりと希美は言った。

「いいです…お断りします。自分たちで探します。
 …あんた達が関わってるって事は、今ので充分分かりましたから!」

137う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/18 02:33:45 ID:16DU2JKK

 川c・-・)<…連投規制キツ過ぎ。135は携帯から支援レスをしたものですのでお気になさらずに。
        まったく涙が止まらないわ。
138ねぇ、名乗って:04/10/22 00:11:40 ID:0k+1hCup
更新乙。いや〜読んでる間は現実を忘れられて幸せだ。
139う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:33:04 ID:3L1aEH3+

後藤家から五十メートルほど離れた所で、あさ美は道路にへなへなと座り込んでしまった。
「…の…ん…ちゃん…怖かった…」
手を引っ張られて、希美もしゃがむ。
「もう大丈夫だから。安心しな?…その友達探せばイイだけだし。ね?がんばろ?」
誰も通らない、ひんやりとしたその道の空気が、次第にあさ美の心を落ち着けていった。

あさ美が小さく「うん」と返事をして顔を上げると、希美は言いたくてたまらなかった言葉を口にした。
「…っていうか、パンツ見えてるよ?」
慌てて股間に手を当てるあさ美。その動作がなんだかおかしくて、二人は思わず吹き出した。

ひとしきり笑い転げて、白線だけで区切られた歩道の上にそれぞれ大の字になる。
星もまばらな夜空が、二人の地球を包んでいた。

140う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:33:38 ID:3L1aEH3+

「どっか泊まろっか」
希美の言葉で、あさ美は「何も考えない」物思いから引き戻された。
駅前に戻り、あたりを見回すとホテルを名乗る看板がいくつか目に入った。
「どれにする?」
「ののちゃんお金残ってる?」
「あ、そっか」
財布を探ると、残金は二千円を切っていた。
あさ美がため息をつく。
「確か日本のホテルって一泊二万円とかするんだよね?」
「えぇー!?もっと安いところ探そうよ!」
「安そうなところ…」
もう一度あたりを見回す。すると…
希美が一点を指差した。
「あれ安っぽい!」

コントのセットにでも使うような、ちゃちな作りの「お城」があった。
壁面には光り輝くネオンサイン。名前は、
「Hotel シンデレラキャッスル」
とあった。
141う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:35:09 ID:3L1aEH3+

近づいてみると、変に静かで、妙な雰囲気が二人を包んだ。
少し入ったところに、料金表が点っていた。
「あああさ美ちゃん見てきてよ!」
「や、やだよなんか怖いよ」
結局、二人手をつないで恐る恐る覗きに行った。
料金表にはどうも不可解なことが書いてあった。あさ美が首をかしげる。
「…ご休憩?」
その時、背後で男の声がした。二人は飛び上がった。
「あぁ、休憩だよ。サラリーマンのおじさんがな、仕事で疲れるから、ちょっと楽しみたいと
 思ったときに来るんだよ。若い女の子を連れてね」
「女の子?」
中年男は後ろにいた女性を指した。
「そう、マッサージをしてもらってね、リラックスするんだ。だからここは子供の来るところ
 じゃないぞ、家に帰りなさい」
そう言って、男はとても楽しそうに笑った。
二人は素直に敷地から出て、中に入っていく男と若い女を見送った。

「…日本人は大変なんだね、マッサージが必要なんて」
「世界で一番働いてるんでしょ?」
「いや、本当はアメリカ人の方がたくさん働いてるんだって。休日が少ないのは日本なんだって」
「へぇ…じゃぁ日本人から見たらプリッツアイランドの人たちとか楽園だろうね」
「あそこは…異常だよ。とにかく駅に戻ろっか」

142う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:35:45 ID:3L1aEH3+

二人が魅力的な看板を見つけたのは、駅に戻る道の途中だった。
「カラオケ うたパーク」
「終電を逃した方に!オールナイト(朝5時まで)お一人様980円」
希美がはしゃぐ。
「そうだよ、カラオケでいいじゃん!」


通された個室は、三畳程度の最小個室だった。充満するタバコの匂い。小さな椅子。ガラス張りのドア。
寝室に適しているとは言えないが、無いよりははるかにマシだ。
歌本をめくっても、殆どのページが知らない歌で埋まっている。
数曲浜崎などを歌って、その後はすることが何も無くなってしまった。

一人の欠伸がもう一人に伝染し、それを繰り返して…

お互いよりかかりながら、二人は眠りに落ちていった。

143う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:36:53 ID:3L1aEH3+


あさ美は突然ベッドから落ちる感覚で目を覚ました。
「人」の形の支えになっていた希美がいつのまにか消えていて、
あさ美は硬いソファの座面に崩れ落ちていた。
部屋を見回すと、希美はすぐ足元の床にL字型になって眠っていた。

時計は午前五時前を指していた。まだ早い、もう一度寝よう、と横になった瞬間、
けたたましく電話のベルが鳴った。
『お時間のほうあと五分となっておりますが、どうされますか』
気づかずに眠っている希美の様子を伺いながら答えた。
「七時まで延長します」

144う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/10/25 03:45:12 ID:3L1aEH3+

 川c・-・)<>>138さん、ありがとうございます。そうですね、私も他の作品を読んでいる間は色んな
       不満や要望などを忘れることができます。娘。小説がここまで発展したのもそういう面が
       あると思います。狼でもよく小説を語るスレが建ちますしね。修行が足りないせいか私の
       名前は一切出てきませんが楽しく読ませてもらっています。

       以上、ガキさん写真集を探し求めて日々書店を徘徊する作者でした。
145う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/01 01:43:08 ID:2tG8ajqr

「あー腹へったー腹へったー」
ファストフード店で、ベーグルセットを前に希美は目を輝かせる。
あさ美は財布を覗き込んで、渋い顔をしている。
「お金、足りるかなぁ…この調子じゃあと二日だよ」
「食べ物は仕方ないから、どうしようもないよね…無駄遣いしてないし。
 っていうか何なのあのカラオケ屋は!朝まで980円とか言っておきながら追加料金取って!」
返事に窮するあさ美。あれから目が冴えてしまって、二時間ずっと寝顔を眺めていたと言う訳にはいかない。
鑑賞料として希美の分まで延長料金を払ってあげてもよかったか。いやそんなことは無いか。
そんな事を考えているうちに、全部食べ終わってしまった。

「…で、今日どうする?」
あさ美の推理が始まった。
「まず一度ホテルに電話して、あいぼんが戻ってないかどうか訊いてみよう。
 で、いなかったら、あいぼんはどこかで泊まったわけだから、今日もどこかに出かけるはず。
 あいぼんの出かけそうな所ってどんな所かなぁ?」
希美が考え込む。その間に、あさ美はホテルにいる麻琴に電話を掛けた。

146う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/01 01:45:56 ID:2tG8ajqr

「もしもし?」
『あさ美ちゃん!?今どこ?ののちゃんは?あいぼんは見つかったの?』
「あいぼんはまだ戻ってないの?」
『え?うん、まだ何にも。で今どこにい…』
「私とののちゃんなら無事だから。あいぼん見つかったらまた連絡するね、じゃ」
すぐに電源を切る。

「だれ?」
「麻琴」
「何て言ってた?」
「まだ、だってさ。ののちゃんも電源入れちゃダメだよ!」
「うん、切りっぱ。でさ、思いついたよ!」
「ホント?どこ行きそう?」
「プラダの売ってるお店。たしか青山って所にあるんだって」
「あ、そっか、あいぼんプラダ好きだったよね」
「日本に行ったら後藤さんと一緒にプラダ行くんだ、って喜んでた」
「でも昨日行ってるかもよ?」
「その時は話だけでも聞こうよ。とにかく行ってみない?」
「そうだね、まずはガイドブックと地図見て場所を探さないと」

147う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/01 01:54:45 ID:2tG8ajqr

開店したばかりの本屋に入り、ガイドブックを調べた。
「プラダ ブティック青山店、エピセンターストア。…あ住所あった」
希美が地図の本をぐるぐる回して調べる。
「…この辺り?」
指差したところは、ホテルから逃げるときにタクシーを降りた所や、ハーモニープロモーションの事務所から近かった。
「表参道の近くか…気をつけないとね、JRの最寄り駅は渋谷駅だね」

148う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/01 01:56:56 ID:2tG8ajqr


表参道駅の交差点を右折すると、前方に異様な光景が見えてきた。
住宅街の一角に突然そびえ建っている総ガラス張りの妙な建物。完成したばかりのブティック青山店だ。
中に入ると、ガラス越しに外の光が入ってきて、まるで氷の宮殿にいるような気分になる。

希美がさっそく入り口脇に立っていた店員らしき人物を見つけ、話し掛ける。
「カップルが来てませんか?若い男と、私達くらいの女の子の」
店員は困った顔をする。
「当店は非常に多くのお客様にお越しいただいているので、ちょっとわかりません」
途方にくれた顔をしながら、とりあえず店内を探してみる。しかし見当たらない。

149う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/01 02:00:04 ID:2tG8ajqr

店外のベンチに座りながら、希美は考え込んだ。あさ美は背を向けて何かをしている。
「うーん…そうだ!ねぇあさ美ちゃん、あいぼんの絵を描いて、入り口の店員さんに渡しておけば分か…」
「できたー!!」
希美に振り返るあさ美。手には紙を持っている。
「うん、私もそう思ったからあいぼんの絵を描いた」
顔はだいぶデフォルメされてはいるものの、イベントの日に着ていた服装とよく似た絵だった。
「そう!これこれ!あさ美ちゃんよく覚えてたね、っていうか絵がうまいね、っていうか…
 やっぱりこれ思いついたんだ」
「うん…でもののちゃん、二人が別々に考えて同じ物を思いついたんだよ?
 すごいコンビじゃない?あいぼんもきっと見つけられるよ」

少し元気をなくしていた希美だが、この言葉に励まされ、紙を持って先ほどの店員に渡して戻ってきた。
「連絡先も教えておいたから完璧!」
はっと気づくあさ美。
「そっか!連絡先か!私バカだ!」
二人はすっかり楽しい気分になった。
150う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/07 06:25:43 ID:cXmdjzD/

ずっと店員の連絡を待っているわけにも行かない。ベンチに座って次の案を考えることにした。
「別ルートから攻めるには、やっぱり祐樹の友達を探した方がいいね」
「友達かぁ…近くに住んでるといいんだけど」
「一コ上だから高校生か…でも、仲いいんだったら中学生の頃からの友達じゃないか、と踏んでみる」
「高校一緒かどうかわからなくなるよね、そうすると。まぁイイか!よしあさ美ちゃん、地元の中学校に行ってみよう!」
「でも、中学校なんか行って何か手がかりあるかな?」
希美が立ち上がる。
「元担任に話を聞けるかもしれないし、少なくとも全員の進学先まではわかるじゃん?
 高校はその後じゃないと探すの大変でしょ」

あさ美が感心して言葉を漏らす。
「…ののちゃん頭良くなった?」
希美がにやけながら振り返る。
「元から」

151う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/07 06:27:29 ID:cXmdjzD/

後藤家から近い中学校は二つあった。まず、駅から近いほうの中学校へと二人は向かった。
「港区立夢が丘中学校」

受付の事務室前で、二人は説教をされていた。
「いきなり卒業アルバムを見せろと言われても無理です。最近は物騒だから注意しなくてはいけないので」
「卒業生でもないのに何でそんなものが見たいんだ?言ってみなさい」
「身分を証明できるものがあれば一番いいんだけどね、あとは親御さんの電話とかさ」
事情を話すわけにも行かないので、二人はすごすごと引き下がって、正門の前でうなだれていた。
「これじゃもう一個の方行っても同じだよ…どうしよ」

校庭から、ランニングと思しき掛け声がそろって近づいてきた。正門から外周へと出るのだろうか。
一群が二人の横を通るとき、二人は思わず嘆願するような目でランナーたちを見つめてしまう。
するとランナーの一人が素っ頓狂な声を上げた。
「ポッキーガールズだ!」
先頭を走っていた少年が速度を緩めずに怒鳴った。
「大神、あんまり面白くないぞ!」
大神と呼ばれた少年が反論しようとした時、紺野が「ホントですよー!」と怒鳴り返した。
少年達がばらばらと立ち止まり、二人を取り囲む。すぐに辺りは様々な叫び声で満ち溢れた。
二人にとっては今までで一番「有名になって良かった」と感じた瞬間だった。
すぐさまアイドルになり、声をかける。
「あの、困ってるんです助けてください!」
体育会系の野太い声で、頼もしい言葉が一斉に返ってきた。

少年達は事務員に、二人が怪しい人間ではないことをとても熱心に説明してくれた。
そして、二人は昨年の卒業アルバムを見ることを許可された。


152う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/07 06:28:29 ID:cXmdjzD/

卒業生氏名一覧の男子を一通り眺めるが、後藤祐樹の名前は見つからなかった。
念のため写真を探してみたが、やはりいない。
「もう一つの学校だね…または私立中学?はぁ…」
希美はそれに答えずにアルバムをパラパラマンガのようにめくっている。
「もう一つの学校でも、こんなにうまく行くのかなぁ…」
希美は黙ったままアルバムを裏返し、同じ方法で反対側のページを眺めている。
あさ美は次第に頭が混乱して、苛ついてきた。
「ののちゃん、遊んでないで何か解決策を考えてよ!私ばかりに押し付けないで!」
それに対してもしばらく希美は黙ったままだったが、やがて笑顔でアルバムの一頁を開いて
あさ美に押しやった。
三年二組の顔写真集。楽しそうな笑顔が並んでいる。
希美は一人の少女を指した。
「これ解決策」

希美の指の下で、見覚えのある顔が笑っていた。
「16番 須 尭  麻 衣」

153う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/07 06:29:21 ID:cXmdjzD/



「…あもしもし?お久しぶりです!ちょっと聞きたいことがあるんですけど、何処かで
 お会いできませんか?…今は夢が丘中学校の前にいます。…はい分かりました、待ってます!」
電話を切って、あさ美が口を開いた。
「…さっきはごめんね?私、ホント…」
希美は怒らず、首を振る。
「頭悪いから、次どうしようその次どうしようとか、あんまり難しいコト分かんないの。
 …たまたま、めくってたら麻衣ちゃんと目があった、てだけ。偶然だよ何も凄くない」
「…ごめん」
「いいって!謝ってないで麻衣ちゃんに訊くこと考えるぞ!頼むぞあさ美!」
あさ美はなおさら自分のした事に後悔した。

154名無し募集中。。。:04/11/10 22:43:02 ID:oUHOUPU3
155う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/14 00:27:32 ID:sSgDuAas

正門脇の歩道のふちに腰掛けて待っていると、麻衣が自転車でやって来て、
二人の前に横付けて、あさ美の隣に座った。麻衣の自転車によって車道側からの視線は遮られ、
大事な話をするシチュエーションが出来上がった。

「んで、どうしたの?今日オフ?」
「ええ、そうなんですけど、ちょっと困った事になってしまって…」
麻衣が首をかしげて続きを促す。あさ美は息を吸い込んだ。
「後藤祐樹って人と仲のいい友人を探さないといけないんです」
「あ、祐樹と…?うーん…ちょっと分かんないや…」
「後藤祐樹知ってるんですか?」
あさ美の声が上ずって、少し早口になる。

156う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/14 00:29:07 ID:sSgDuAas

「うん、亜依ちゃんから聞いてない?小学校の頃一緒だったの。」
「そうなんですか…この前五反田であったイベントに後藤祐樹と一緒に来てた友人なんですが、
 分からないですか…?」
「ああ、何か一人連れて行くってアイツ言ってたね、そういえば。
 でも誰だかは教えてもらってないんだ、ゴメン!」
黙って聞いていた希美が不思議そうな顔をする。
「え、じゃあ麻衣ちゃん最近祐樹と話したの?」
「うん、亜依ちゃんが祐樹に会いたいって言ってたから伝えたの。後藤家ってケータイ禁止でしょ?
 だから家の電話で連絡取ったんだ」
「あ、いとこに会うって祐樹の事だったのか!…でもじゃあなんでステイしに来てたお姉ちゃんに
 言わなかったんだろ」
「私もそれ気になってアイツに聞いてみたんだけど、何か家じゃ仲悪いみたい。
 灰皿で殴り合いとかするらしいよ」
「「怖ッ!」」


157う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/14 00:29:49 ID:sSgDuAas

「…まとにかく、イベントに行く前までしか私は関わってないから、後のことはわかんないや、
 ホントゴメン…亜依ちゃんは何も知らないって?」
二人が顔を見合わせる。希美が頷く。そしてあさ美は初めてこの事件を他人に漏らした。

「コレ絶対に他言しないで下さいね…その…亜依ちゃんはおそらくその友人と一緒にどこかへ
 行ってしまって、音信不通でもう3日目なんです。警察も動いてます」

あさ美の言葉を聞いた麻衣の表情が変わった。小さい声で「まさか…」とつぶやいている。
希美がそれに気づいた。
「麻衣ちゃんどうしたの?」
麻衣は黙ったまま急いでケータイを取り出し、素早くボタンを押して電話を掛け始めた。
よく分からないまま、二人はそれを見守る。
しばらくして、麻衣は舌打ちをしながら「切」ボタンを押し、二人に向き直った。
「ちょっと…ついて来てくれる?」


158ねぇ、名乗って:04/11/24 00:47:53 ID:S+qwVS62
亀レスだけど更新乙です。灰皿で殴り合う後藤兄弟…恐すぎる。
159う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/28 21:38:31 ID:Dxd1y6rP

三人がやってきたのは、ごく普通の日本の民家だった。
麻衣がインターホンを押す。表札は「中西」とあった。
『はい』
「須尭ですけど、俊樹君はいますか」
声が止まった。
『ごめんなさい、もう許してやってください…』
「違うんです、ちょっと用件はカブってますけど、その話じゃないです…それにもう過ぎた
ことだから、気にしないで下さいお母さん」
麻衣から少し離れた所でやりとりを聞いていた二人は、よく話を理解できずに顔を見合わせていた。

「お母さん」と呼ばれた女性が玄関のドアを開く。
麻衣がそこに駆け寄る。何となく二人もそれに続いた。
「俊樹君はいらっしゃらない…ですか?」
「はぁ、実は…」
「もしかして…」

「…二日前から帰ってないんです」

後ろの二人の頭上に大きな「!」が浮かんだ。


160う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/28 21:39:00 ID:Dxd1y6rP

「なんとか連絡つきませんか?」
「電話しかつてが無いもので…」
「どこに行かれた、とかは」
「まるで見当も…」
「…そうですか、分かりました。ありがとうございました」
きびすを返して足早に敷地を出る麻衣に、慌てて付いていく二人。
まだ九月というのに寒気がして、あさ美の足に鳥肌が立った。

近くの公園に三人は座り込んだ。
「麻衣ちゃん…?」

「…話すね。全部。洗いざらい」

161う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/28 21:41:21 ID:Dxd1y6rP

「中西俊樹。中学校時代に同じクラスだったの。後藤祐樹とはまぁソリが合いそうなヤツで、
 ちょっとワルい感じの人だった。…んで中三の頃に、その俊樹と私は…付き合ったわけ。
 …んで、夏、そう中三の夏に、俊樹に遊びに行こう、って言われて。自転車でね、逃げる
 俊樹を追いかけてたら、…途中で何度も帰ろうよって叫んだんだけど、聞かなくって。
 ほっとくわけにも行かないでしょ?だから付いていった。そしたら、いつの間にか道に迷っちゃって、
 んで日も暮れてきて公園のベンチで野宿したの。次の日になったらアイツまた喜んじゃって、
 見失わないようにするので精一杯で、また夕方になって海に着いたから、てっきり東京湾だと
 思ったの。でも甘かった。そこは銚子だったの」

「ちょうし?千葉県のですか?」

「そう、まさかそんな所まで来てるとは思ってなくて、かなり焦った。アイツが懲りずに
 また南に行こうとしたから、流石にキレて…んで帰ることになったんだけど、またすぐに
 野宿するのもヤだったから夜じゅうずっと走ったのね、そしたら、利根川沿いを走ってる
 ときに私転んじゃって、唇切って血だらけになりながら、次の日の昼過ぎにやっと家に帰れて。
 まぁその後は…想像できるよね?私とアイツも別れたし。それっきりだったんだけど」

「つまり、二日半連れまわされてしかも怪我もさせられた、と」
「…亜依ちゃんの話とよく似てたから、もしかしたらと思ったら…」
「高校はどちらに?」
「日出学園ってトコ」
希美の背中にも鳥肌が立った。
「…祐樹と同じだ」

162う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/28 21:41:58 ID:Dxd1y6rP

その鳥肌が収まらないうちに、昼前に電源を入れた希美のケータイが鳴り響いた。
音と振動にたまげて、軽く悲鳴をあげてしまう。
「の、ののちゃん電源切ってなかったの!?」
慌てて画面を確認すると、見たことも無い番号からだった。
「…ぜろさん…?へんな番号」
麻衣が口をはさむ。
「03は東京の番号だよ」
「…なんで東京の人が知ってるんだろう…」
希美のすぐ隣に座っていたあさ美が突然素っ頓狂な声をあげた。
「ああ〜あ!!ののちゃん!プラダだよプラダ!!!」
「おわぁ忘れてた!!!」

163う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/11/28 21:52:11 ID:Dxd1y6rP

 川o・-・)<更新が遅れてしまい申し訳ありません。             リアル
        >>158さん、ありがとうございます。御存知かもしれませんが現実にそうらしいですね。

        中西俊樹はこの小説の中で名前を与えられたキャラとしては唯一モデルがいない人物です。
        ちなみに私の周りにもそのような名前の人はいないので詮索は無駄です(w

        いよいよ最終章です。最後までお付き合いいただければ、と思います。
        誰ですか500レスとか大ボラ吹いたのは。これでホントに2年かかるとは…
        以上、フレッツでよかったと実感している作者でした。集合だから光引けないんですけどね。
164名無し募集中。。。:04/12/01 17:21:35 ID:ciYqb9kj
( ^▽^)<この程度のスレにはこの程度の保全がお似合いだ ハッハッハ
165う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/04 00:29:27 ID:6a5bLNxx

『先ほど、頂いた絵と同じような服装をした若い女性が同い年くらいの男性と二人で来店されました』
「まだいますか!?」
『はい、まだ店内にいらっしゃいます』
「お願いです、何とか引き止めておいてください!」
『…それは保証いたしかねます、従業員も多忙ですので』
希美は電話しながら立ち上がり、駅の方角へと駆け出した。麻衣とあさ美もすぐに駆け出した。
全力疾走しながら、希美はケータイに叫んだ。
「その女の子は男に連れまわされてるんです!!そこ出たら、もう一生行方不明かもしれないんです!!
 プラダが、最後の手がかりなんです!!!」



三人は肩で息をしながら、Suicaを目黒駅の改札機に押し付けた。

166う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/04 00:30:02 ID:6a5bLNxx



───―――――――――――

「いらっしゃいませ」

―――秋の新作はどこですか?

「あちらのに2002年秋の新作を揃えておりますので、ぜひどうぞ」

―――わぁ…ねぇ、トシくん行ってみようよ!

―――…あ、これだよこれ!ちょっとチェックしてたの!カワイくない?

「こちら他にバリエーションを二つほどご用意しております」

―――んん?こっちのほうがいいかな?トシくんどっちがいいと思う?え、こっち?

「そうですね、こちらの方が若い方に人気がありますね。財布の中でも特に人気上位になっております」

―――へぇ〜いいなぁ…ほかにもいろいろ見てまわっていいんですか?

「ええ、どうぞごゆっくりお楽しみください」


―――――――――――――――――――――



167う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/04 00:31:10 ID:6a5bLNxx


表参道駅前の交差点が見えてきた。
あと一息。
ここを右に曲がれば、あいぼんに逢える。
この信号が青になれば、あいぼんを取り戻せる。
三人は髪を乱したまま、汗を拭くこともせずに、放心したように信号を見つめていた。

早く変われ。早く変われ。俊樹があいぼんと逃げないうちに。

そして――ついに青信号が点り、少女達は必死に駆け出した。


168う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/04 00:31:45 ID:6a5bLNxx


―――――――――――――――――――――


「三階と四階が女性向けで、五階は下着類とコスメやイベントスペースなどがあります」

―――地下はないんですか?

「地下一階にはスポーツラインを揃えております、ぜひお立ち寄りください」

―――スポーツ!きっとトシくんに似合うの何かあるよ!行ってみよ?



―――――――――――――――――――――

169う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/04 00:32:21 ID:6a5bLNxx


入り口の店員が、希美たちの姿に気づいた。
三人が息を整えている間に、店員が数人集まってきた。
「…まだ…フゥ…いますか」
「地下一階にいますよ」
「……ちか…」


幅の狭い階段。
白い内装。
限りない無機質感。
速い呼吸。
目配せ。






――――ラック越しに、見慣れた、今では懐かしい少女が、若い男に、笑顔で話し掛けているのが、見えた。
170う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/10 03:07:16 ID:zRUljbqf
「あいぼん!!!」
希美が駆け寄り、亜依にしがみつく。
「探し…探したんだよ?…大丈夫だった?」
足の力が抜けていく。亜依の足にすがりついたまま、希美は座り込んだ。
亜依がしゃがむ。
「のの!!…何も連絡しないでゴメン。でも…連絡したら、連れ戻されると思ったから」
泣きそうな表情で、希美が顔を上げる。
「なんでこんな男と一緒にいるのが楽しいの…?」

171う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/10 03:08:07 ID:zRUljbqf

麻衣は手首を強くつかんだ。
「やっぱりオマエだったか」
俊樹が驚いた顔をする。
「何で麻衣がいるんだよ…」
「懲りてないみたいね、相手も幾分かグレードアップしたみたいだし」
「ただ一緒にいたい、ってそれだけの話だから、麻衣と同じだって。妬くなよ」
麻衣の目が大きく見開かれ、俊樹の手首を離れた右手は、次の瞬間には俊樹の左の頬を捉えていた。
「…馬鹿じゃないの!?どんな騒ぎになってるか想像できないの?
 亜依ちゃんは私みたいな怪我しても死んでも構わないような一般人とは違うんだよ!!!」

あさ美は四人の様子を見て、ケータイの電源を入れた。
ボタンを二、三押して耳に当てる。
「…あ麻琴?なち姉に代わってくれる?」

172う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/18 01:57:03 ID:7FjtvK/0

プラダの特徴的な建物の前には、「プラザ」と呼ばれる広場がある。あさ美はここで亜依の絵を描いた。
昼前に二人が座っていたベンチには、いま少女三人と少年一人が座っている。
あさ美は落ち着きなくその四人の周りを歩き回っている。

「トシくんと一緒にいると、とっても楽しいんだ。たぶん気が合うんだと思う」
亜依ののんきな発言に希美が突っかかる。
「じゃあ俊樹と一緒にいますって連絡すればいいじゃんか!」
亜依が立ち上がり、希美もそれにつられる。
「私…日本にホームステイする」
「ハァ?」

173う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/18 01:57:42 ID:7FjtvK/0

「真希ちゃんのところに泊めてもらうつもりなんだ」
「それならそれで普通に頼めばいいじゃん、かってに出ていくからすごい心配したんだよ、警察もたくさん動いてるし」
「それは…」
「それにさ、後藤さんの家には行ってないんでしょ?ホームステイしてないじゃん!」
「…トシくんにいろんな場所見せてもらってるから戻る暇なんてなかったんだよ」
「あいぼん何のためにホームステイしたいのさ」
「それは…日本が好きになったからでしょ」
希美が一段と声を張り上げる。
「ウソだ!俊樹と一緒にいたいからでしょ!!だから島の仲間なんてどうでもよくなったんだ!!!」
「ののッ!!……。ののが何を言っても、私は…帰らない。…だって、私はトシくんが好きだから!!!」
「あいぼん!目を覚まして!!!」

174う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/18 01:58:31 ID:7FjtvK/0

互いにもはや余計なことなど考えられず、目の前にいる相手だけを説き伏せようとしていた。
俊樹は次第に冷静になってきて、黙ったまま二人を見ていた。
麻衣はあさ美が沿道に走っていくのを、横目で見ていた。

あさ美が二人から少し離れた定位置に戻ってきたのにも、叫びあう二人は気づかなかった。
互いの背後に、覆い被さるような影がそれぞれ現れたのにも、すぐには気づかなかった。

二人の間に、第三の影が現れて言った。

「二人とも、そこまで」

175う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/18 01:59:25 ID:7FjtvK/0

「「なち姉!!」」
驚いて後ずさりすると、背中で人とぶつかった。
「…かおりん」
「け、圭さん」

なつみはゆっくりとあさ美の隣に近寄り、圭織と圭に目配せをして、
ポケットから取り出したトランシーバに言った。

「午後四時三十八分、不明者三名保護しました」

それと同時に、圭織は希美を、圭は亜依を、なつみはあさ美を後ろから強く抱きかかえた。
「帰ろっか」

176う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/18 02:00:06 ID:7FjtvK/0

亜依が叫んだり、暴れたりして激しく抵抗する。

亜依に逃げられては見つけた意味がない。希美は圭織を引きずりながら亜依を押さえにかかる。

「希美!大人しくしなさい!!」
「らってあいぼん逃げたら意味ないじゃん!!」
「放せ!放せ!!まだ買い物終わってない!!!」

二人が圭織と圭の拘束を逃れたのは同時だった。すぐに二対一対一の構図になって間合いを取る。
三角の形に緊張が張りつめた。
その様子を見ていたなつみは、あさ美の胴を締めていた腕を放した。
あさ美は軽く咳こんで、四人の動きに注目した。

亜依が口を開いた。
「勝手にいなくなってごめんなさい。…でもやっぱ私日本にホームステイしたいんです」

圭織と圭が同時に「ホームステイ?」と呟く。
なつみがあさ美の脇を抜けて一歩前へ出た。
「とりあえず、じゃあ今まで何してたか説明してくれるかな?」

177ねぇ、名乗って:04/12/20 16:09:15 ID:cTb0bFGb
更新乙
178名無し募集中。。。:04/12/20 22:38:09 ID:IBiq5HUL
179う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/21 17:49:33 ID:1nJkgD64

「ポッキー&プリッツの日のイベントに、いとこの後藤祐樹くんが来てくれるっていうから、
 終わったあと客席に会いに行って…誰か友達も連れてくるとも聞いてたから、
 誰かなと思ってたらトシくんだったんです」
亜依が俊樹をちらと見る。
「知ってる人?」
「知らない人でした。でもとっても優しくしてくれたし、話もとっても面白かったから、
 祐樹くんが途中で帰ったあとも話が盛り上がっちゃってて…それで祐樹くんを追いかけて
 泊めてもらおう、って、あのこれは次の日休みだったし前から泊めてもらう約束だったから
 そうしようとしたんだけど、じゃあ真希ちゃんと四人でお泊まり会しようかって事になって、
 だから荷物を持って出かけました」
「何も言わないで出かけたんだ」
「…はい。後藤家に泊めてもらうって話はののとかにもしてたんで、別に問題ないかな…って思いました」
「…まあいいや。それでどうしたの?」
「後藤家に行こうとしたんだけど、私もトシくんも五反田からの帰り道が分からなくって…
 どこかの公園でずっと話したりちょっと寝たりで朝になって、その日はそのまま東京をいろいろ
 まわって見せてくれたり、おいしいお店に連れて行ってくれたりして一日過ごしてから、
 カラオケに行って食べたり歌ったりでまた朝になったから…プラダに行きたいって言って連れてきてもらいました」
「んで二人と麻衣ちゃんに見つかった、と」
「…そうです」


180う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/21 17:50:27 ID:1nJkgD64

「でもいつまでも逃げているわけにも行かなかったんじゃない?
 二人とも人に迷惑をかけてるって事は思わなかったの?」
「駆け落ち、とかじゃなくてホームステイなら別にいいかなって思って」
「駆け落ち、って」
圭が軽く吹き出す。
「ホームステイなら堂々と言えばイイじゃない」
圭織も顔を上げる。
「まあ何にしてもとにかくこのことはカタをつけなくちゃいけないから、とにかく戻らないと」
その言葉に、亜依が後ずさりする。

「帰ったら、ホテルに閉じ込めるんでしょ、島に連れて帰るんでしょ。そんなのイヤだ」


プラザに出てきてから、初めて俊樹が口を開いた。

「亜依さぁ、…もうやめにしない?」
全員が一斉に俊樹に振り返った。


181名無し募集中。。。:04/12/23 11:38:37 ID:LlMAXvfH
なっちは天使。(●`ー´●)。天使降臨。蘇生するだべー
182う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/23 20:40:10 ID:1pC05bny

「俺は亜依ちゃんのコト好きだよ、ずっと一緒にいたいって思う。
 …だけどさ、好きだから、こそ、みんなに認められるような付き合い方をしていきたいって思ってる」
麻衣が呆れた顔をして俊樹を見上げる。
希美も思わず口を開こうとしたが、圭織の表情を見てからとどまった。
(のんちゃん、まずはとにかく連れて帰るのが先)
「夏休みだし亜依ちゃんも休みだって言うから、いろいろ一緒に行ったけど、やっぱ去年の反省も
 あるし危険なことはしないようにしてたんだけど…」
俊樹の発言に亜依は露骨に戸惑っていた。
「違う、それは、私が勝手に出かけたのがいけないだけで、トシくんは何にも悪くないの!
 抜けても大丈夫って言ったけど大丈夫じゃなかっただけで」
「じゃそれダメじゃん」
「トシくん…」


183う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/23 20:41:12 ID:1pC05bny

「何度も言うけど、俺は、今も亜依ちゃんが好き。見放そうとして言ってるんじゃないんだ。
 去年ね、麻衣をいきなり呼び出して、同じコトをしてケガさせちゃって…。何日も帰らないのは
 別にいいじゃんって思うんだけど、誘拐みたいなマネはもうしないって決めてたんだ。
 でも何かスゴい騒ぎになってるみたいだから…一旦、戻ったほうがいいんじゃない?
 …失踪させといて言えるセリフじゃないけどさ」
「…………」
希美が亜依に近寄る。
「ね?一旦帰ろ?」
周りの五人も口々に同じ言葉を投げかける。
亜依が目を上げて――潤んだ目で、ベンチに座る俊樹を見て、下を向いてまばたきをしてから顔を上げた。
「………………わかりました。かえります」

184う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:04:38 ID:sOfrVR5U

なつみたち三人が乗ってきたワンボックス車のドアが開かれる。
「…ケータイ、アドレス変えないから。メールしようね…また日本に来るコトがあったら、会おうよ」
「うん…絶対、連絡する…」
「泣くなよ、もう二度と会えなくなるわけじゃないんだからさ…三日間、とっても楽しかったよ。
 ホントありがとう」
「…ありがと」
亜依がステップを上り、スモークガラスの向こうに消えていく。俊樹はうつむいていた。


185う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:05:12 ID:sOfrVR5U

希美とあさ美は、麻衣と向き合っていた。
「私は俊樹を連れて帰るね。五反田でさえ迷ったみたいだから、ここも心配だし。
 亜依ちゃん見つかって、よかったね!」
満面の笑みで頷く。
「麻衣さん、いろいろ本当にありがとうございました!!」
「うん!じゃあ、またいつか!」
「「はい!」」

186う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:05:52 ID:sOfrVR5U

スライドドアが閉められ、黒いガラスに麻衣と俊樹の顔が映った。
見えないガラスの向こうに手を振る。
白いバンが視界から消えたところで、麻衣が大きく息をつく。
「…帰るぞ、迷子少年」

187う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:06:24 ID:sOfrVR5U

亜依はずっとリアウインドーに張り付いて、流れ離れていく向こうを見つめていた。
希美とあさ美は時間が経つに連れて少し亜依の気持ちが分かった気がしていた。
しかし感傷に浸るのも長くは続かなかった。
「たまたまあいぼんが見つかったからよかったものの、勝手に出て行ったりして…。
 何かあったらどうするつもりだったの!」
「たまたまじゃないもん!すごい推理したんだもん!」
「そうですよ!私達は見つけるべくして見つけたんです!」
助手席のなつみが振り返る。
「な〜にカミそうなコトバ言ってるんだか!まあいいっしょ、みんな無事に戻ってきたんだし!
 …絞られるのはこれからだしねぇ〜」
その言葉に圭織と圭が笑い出した。
「ま、そうだよねー」
「え〜ホントちょっと待ってよキッツイよぉ」
頭を抱えた希美の言葉に、車内がまた笑い出す。
亜依もいつのまにか前を向いて、同じように笑っていた。
それを見て、なつみは笑顔で大きく二、三度頷いた。


188う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:07:26 ID:sOfrVR5U


六人がホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間、待っていた仲間が一斉に駆けてきた。
途端に辺りは喜び、そして安堵によって引き起こされた怒りの声などで満たされる。
次第に刑事が寄ってきて、三人にとっては苦しい時間がやってきた。
事情聴取と長い説教が続いた。
結局どのような理由があれ失踪した訳であって、多くの人に多大な迷惑をかけたということで、
三人は仲間や刑事、警備員などに謝罪を繰り返した。
一段落したときになつみが「ま、もういいでしょ、結果オーライってことにしても!」と叫び、
皆はそれに同意して夕食の時間となった。



189う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 03:08:03 ID:sOfrVR5U


夜になり、寝室のあるフロアのラウンジに三人は集まっていた。
黙ったまま、窓からの夜景に目をやったり、軽くコーラをあおってみたりしている。
やがて亜依が口を開いた。
「…二人とも、いろいろ、本当にごめんなさい」
希美が紙コップを片手に、下を向いたまま首を振る。
「私は、あいぼんがむしろスゴイと思ったな」
「どうして?」
「なんか…そんなに、人を好きになれるって、ちょっとカッコいいかな、とか」
「人に迷惑かけてるようじゃ、ダメだけどね…でも、今でも好き」
夜景を見ていたあさ美が振り返る。
「また、会いにくればいいじゃん!本当にホームステイって手続きしてさ」
「うん、そうしたい。そうする。じゃもう眠いし、また明日って事で!」
「「じゃね!また明日!」」

数歩ののち、亜依が振り返って言った。
「ホント、ののとあさ美ちゃんはいいコンビだよ。見つけてくれて、ありがと!」
二人は顔を見合わせて、笑った。
「お互い、ホントにお疲れ様でした!!」

190う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 22:32:45 ID:sOfrVR5U


翌日の午後、家に帰った真希を除く十二人が荷物を手にロビーへ集まった。
「ポッキーガールズというのは、派手に来日して、いつの間にか帰ってしまっているというのが
 例年の慣わしですので、こっそり帰りましょう」
笑い声が上がる。前日の朝と違い、皆が晴れ晴れとした顔をしている。
「じゃあ表のバスに乗ってください、羽田からチャーター機が出ます」

191う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 22:33:18 ID:sOfrVR5U

バスの中で、あさ美は梨華の隣になった。
「梨華さん、…あの、あいぼんを探すのに、梨華さんが買って下さったSuicaがとっても役に立ちました!
 本当にありがとうございました」
「使った!?何ていう電車に乗ったの?」
「山手線です。渋谷、田町、原宿、目黒だけですけど」
「へぇ〜、あー羨ましいなぁ、そんなに乗ったんだ…お金足りたの?」
「はい、残金は550円です」
「よく知ってるね」
「自動改札機に金額が出たのを覚えてました」
「そっかぁ…」
それきり黙った梨華だったが、しばらくしてあさ美に話し掛けた。
「…あのさ、結局あいぼん誘拐されてないんだよね?」
「そうですね、自分から着いて行っちゃった、みたいな」
梨華がため息をつく。
「やっぱ間違いないか…よっすぃに昨日怒られちゃってさ、『圭さんの言うとおりになったじゃないか、
 警察は何の成果も上げなかったし』って」
「圭さんとののちゃんは、最初から何だかおかしいって感づいてたのかもしれませんね」
「ハァ、またドジばっか…」
「みんな戻ってきたんだし、いいじゃないですか、気にしない方がいいですよ」
その後もあさ美は梨華を慰め続け、バスは羽田国際空港に到着した。


192う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/26 22:34:20 ID:sOfrVR5U


ジェットエンジンが音階を上げ、体がシートに押し付けられる。
亜依は急に悲しくなった。涙がぽろぽろとこぼれる。
次にトシくんに会えるのは…いつだろ…
そう思うと、急に絶望がこみ上げてくる。
上昇する飛行機のまるでバスのような振動に、涙がいつもより早く流れる。
隣の希美は、横目でちらとそんな亜依を見、目を瞑ってその心境に思いを馳せた。
そしてそのまま眠りに落ちていった。

しばらくして目を覚ました希美は、ふと亜依を見た。
亜依は遠い目をして、雲の世界を見つめていた。そして、小さく、しかし力強く一人で頷いていた。
希美は心に平穏が戻ったのを感じ、そしてまた目を閉じた。
193う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/27 23:10:45 ID:Tjf1d7hN

ポッキーアイランドの小さな空港に、家族が集まり始めた。
三人の事件が島に伝えられたのは、総てが解決した後、十二人が空港を発った頃だった。
事後報告になったことについて関係者に詰め寄る保護者もいたが、
多くは娘たちの無事の帰還を祈っていた。
彼方の雲から飛行機が現れ、みるみるうちに大きくなりそして着陸を果たす。
タラップ車が横付けると、家族はばらばらと飛行機に向かっていった。
「ただいま帰りましたァ!」
なつみを先頭に、十二人が階段を下りてくる。

194う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/27 23:11:44 ID:Tjf1d7hN

喜びの声と抱き合う姿。安堵で涙する者もいる。
「あさ美!里沙!」
「「お母さん!ただいま…!」」

「希美!また何かやらかしたんだって?」
「おねぇちゃん…」
「あさ美ちゃんが一緒にいてくれたから戻ってこれたんだよ、感謝しなさいよ」
「お母さん…東京ごときに迷うような私じゃないもんね!」
「バカッ…!心配したんだぞ!よく…よくぞ無事だった…!」
「お父さん…」

「亜依ッ!」
「た、ただいま…」
「…話なら、後で反省会の時に、ね。まずは、お帰りなさい」
「はっ、反省会?」

195う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/27 23:12:22 ID:Tjf1d7hN


十二人、その家族、そしてその友人が押し寄せ、いまや「acp」は出発前よりも混雑していた。
反省会の始めに、亜依の叔父が全体の行動経緯と成果を報告し、次になつみが感謝の言葉を述べる。
そしてその次に、三人が皆の前に歩み出た。
「みなさん、ご心配ご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい」
頭を下げる三人に、様々な質問が降り注ぐ。
亜依は「プラザ」で話した行動経緯を再び報告した。
しかしその声はあの時よりも大きく、はっきりとしていた。
「……プラダに行きたいって言って、連れて行ってもらって中を見ているときに、この二人と、
 あと日本に帰っちゃった麻衣ちゃんと出会って、保護されました。これで全部です。
 …言い訳はしません。すみませんでした」
「…よく、帰って来てくれたね、安心したよ。じゃ、次は探偵さんたちの大冒険でもお聴きしましょうか」
亜依の叔父の言葉で場が和んだ。二人ははにかんだ笑顔で顔を見合わせ、皆の前に一歩進んだ。
「あの時にケータイが圏外だったところから…始まるんだよ、ね」
「そうだったよねぇ…」

196う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 04:26:47 ID:WQfhaZZN


ポッキーアイランドの島民の生活が元に戻り、それから二週間ほど経った土曜日…
隣のプリッツアイランドにある空港に空軍の練習機であるF22が轟音とともに着陸した。
コクピットから梯子を滑り降り、ヘルメットを取って髪を風になびかせる。
その場でフライトスーツを脱ぎ捨て、Tシャツとホットパンツにスニーカーという軽装になった亜弥は、
駆け寄ってきた隊員に叫んだ。
「メットと服と飛行機の片付け、お願いできますかあ?」
隊員が敬礼をするのを見て、手を振りながら空港を駆け足で後にする。
プレッツェル諸島の中で最も赤道に近いせいか、十月だというのに太陽の照り付けが激しい。
次第に汗で髪が顔や額、首筋にまとわりついてくるが、懐かしい、弱い海風が亜弥の心を高ぶらせる。
「やっぱホームが一番だね!」
模型飛行機で遊んでいる子供たちに手を振る。通りすがりのおばさんに頭を下げる。
島の身近なアイドルに戻って、亜弥の心は見渡す限りの草原と同じくらい広く澄み渡っていた。

197う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 04:27:27 ID:WQfhaZZN

はるかな一本道をただひたすら駆けて行くと、遠くから聞き覚えのある1600ccのエンジン音が
向かって来るのに気付いた。その場で立ち止まり、ヒッチハイクをするように片腕を横に伸ばす。
そして目の前で止まったバイクに歩み寄る。すると黒いヘルメットが放物線を描いて飛んできた。
「…メット持ってたんだ」
「バイクに付いてきた。ブカブカで意味ないから亜弥ちゃん使って」
手元から視線を上げると、いつもの馬鹿にしたようなにやけ顔があった。ムッとした顔でヘルメットを被る。
「ぴったりじゃん!あげるよそれ!」
「どおゆう意味だぁー!!」
叫びながら後ろに飛び乗り、前によりかかって細い体をきつく抱き締めた。
「ちょ、ちょっと、きついって!胸絞めないで!」
「え?胸?あ、ごめーん全然分かんなかったぁ!へーここが胸なのかぁ分かりにくいなぁ」
バイクが急発進して、亜弥が背もたれに押しつけられる。
「…ったく、せっかく迎えに来てやったのに」
後ろからまた亜弥が抱き付く。
「分かってるって、寝起きスッピンで飛んできてくれてありがと!みきたん♪」
Mikiteaは黙ったままハネた髪を押さえ付けた。

198う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 04:28:55 ID:WQfhaZZN


水道の水をコップに注いで手渡す。「特製プリッツ」のあまりの辛さに亜弥は声も出せずに突っ伏している。
亜弥が水を一息に飲み干すのを見届けてから、Mikiteaが口を開いた。
「ハバネロっていうトウガラシでね、世界一辛いんだって。
 ちなみに水を飲むと辛味成分はもっと舌の神経の奥に入って逆効果らしいよ」
「ハ〜ァ、は、はかっあな」
「謀ってないよ、亜弥ちゃんのリクに答えただけで♪」
亜弥はゆっくりと椅子から転げ落ち、丸まったまま動かなくなった。


突然電話のベルがけたたましく鳴り、亜弥は飛び起きて受話器に手を伸ばした。
『亜弥?お帰りなさい』
「ママ!」
途端に表情が明るくなる。
『パパがねぇ、もう喜んじゃって!今日は盛大に晩餐会するって騒いでてねぇ、
 だからMikiteaちゃんと一緒にいらっしゃいよ』
「行く行く!…ねーみきたん行くよねー?晩餐会!…あママ?二人で行きます!」
『よかった、じゃヘリ回しておくわね』

それなりに盛装した二人は、同じく母親からの誘いを受けた祖父母とともにヘリに乗って、
城のあるフランアイランドへと向かった。



199う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 04:31:40 ID:WQfhaZZN

四人を待っていたのは、美しい花で特別に飾られた豪華な部屋と、最高級で新鮮な食材のみを
用いて創られた芸術的なフランス料理。
祖父母はその懐かしさに目を細め、普段はにやけているか無表情かのMikiteaも心なしか頬を緩めている。
家族で談笑しながら、亜弥は日本での土産話を、Mikiteaは特製プリッツの開発ストーリーを話し、
母親は父親の心配振りをからかった。
Mikiteaは豪華な宮廷料理を褒めちぎり、亜弥も笑顔で頷く。全員が満腹になって、話題が
底をついたところで晩餐会はお開きとなった。

プリッツアイランドに戻って、Mikiteaの家で二人は引き続き再会の喜びを分かっていた。
ビール、チューハイ、ワイン、そして島の地酒。
おつまみには亜弥の強い希望により「製品化されている」プリッツシリーズと、日本土産の鮭とば。
ポッキーアイランド時代から飲み続けているMikiteaの影響で、亜弥もすっかりアルコールに
耐性がついてしまっていた。
酒宴は午前二時まで続き、亜弥はMikiteaの家に泊まった。

200う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 04:33:09 ID:WQfhaZZN


朝になり、割れそうな頭を抱えたまま、持ち帰ってきた宮廷料理のデザートをほおばる亜弥。
二、三口で顔をしかめて、Mikiteaに残りを押しやった。
「どしたの?」
「………やっぱダメだわ、あそこの料理は」
亜弥の言葉にMikiteaはデザートの残りを口に運ぶ。
「いや、充分おいしいと思うけど。昨日亜弥ちゃんも褒めてたでしょ」
わかってない、という風に首を振る亜弥。頭痛が酷くなった。
「あんなん建前だって。デザートってもんは素材を活かしてさっぱりとしてなきゃいけないの。
 上に塗装ばかりするとデザートじゃなくてスイーツになっちゃう。
 昨日の魚?ムニエル?バター煮かと思ったし」
「確かに濃かったし私はああいう風には作らないけど、あれもアリかなぁって思ったけどな」
「んあ〜…誰かあの人たちに料理教えられないかなぁ、おじいちゃんたちじゃ相手がビビッちゃうし、
 みきたんは私が離さないからなぁ…」

Mikiteaのにやけ顔がおさまった頃に、亜弥が突然顔を上げ、また激しい頭痛に襲われて
頭を抱えながら言った。
「…ポッキーアイランドの圭さんがいた…」
「圭さん?」
「そう、みきたんが前に働いてたとかいう店の今のバイトさんでね、すんげぇ料理上手なの!」
「え、『acp』?圭さん、私が働いてた頃は常連さんだったんだけど、今はそうなんだ!」
「よし、ヘッドハンティングだッ!!」
「ヘッドハンティング?」

201う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:18:44 ID:WQfhaZZN


あさ美、希美、麻琴、亜依と里沙はカフェ「acp」でいつものように騒いでいた。
隣りにある公園の鮮やかな紅葉が、大きな窓からの景色を秋色に染めている。

遠くから空気を切り裂くローター音が近付いてきて、その異常なまでの接近ぶりに五人は会話を止めた。
積もった落ち葉が窓に一斉に吹き付けられる。爆音は隣りの公園に着陸した。

店内がざわめく中、しばらくして窓の外を見ていた麻琴が大きな声を上げて店を飛び出した。
「亜弥さんとMikiteaさんだ!!」

202う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:19:20 ID:WQfhaZZN

二人はまっすぐに「acp」に歩いていく。
どこからともなく「トゥインクル号」に乗って現れた梨華が亜弥のそばに飛んでくる。
「あれ、ヘリコプター、普段はS-92に乗ってますよね、なんで今日はコマンチなんですか?」
「あ〜、ちょっと急いでたんでプリッツ基地からスグに飛べるのがこれだけだったんですよ〜、
 あっちはフラン基地の所属なんで」
まだ話しかけようとする梨華を遮って、麻琴が駆け寄ってきた。
「どうしたんですかぁ?突然」
「あ麻琴ちゃ〜ん!あのね、圭さんいる?」
「圭さんなら店にいますよ、ぜひ中にどうぞ!」
「ありがと、そうしよう!」
「わぁMikiteaさん久しぶりー逢いたかったですぅ!」
「うん、いや、重い、重い、歩けないって」

麻琴が呼ぶと、圭が調理場から出てきた。
「私に用が…?」
「そうなんです」
亜弥は店じゅうに聞こえるように声を張り上げた。

「フランアイランドで、宮廷料理人たちに料理を教えてやってくださいませんか?」

203う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:19:57 ID:WQfhaZZN

「エーッ!?」「おぉっ」
圭の驚きの声と店内の歓声が重なる。
「圭さん!!そういえばイベントのときにも誘われてたじゃん!行ってみなよ」
「あれは単なる社交辞令だと…」
Mikiteaが口をはさむ。
「圭さん、亜弥ちゃんは無意味なことを言うようには教育されてないですよ」
周りの人間が次々に圭に話しかけ、励まし、畳み掛けていく。
「亜弥さんの目に間違いはないよ、きっとうまくやって行けるって」
「普通の人にはできない体験をして、またここに戻ってきて欲しいな」
「圭さんがいない間は、残ったみんなで力を合わせるからさ」
「そうだ、新人を雇って教育すればいいんだよ!だから安心して!」

「わ、わかった、ちょっと待っててよ」
そう言って圭は麻琴の両親がいる店奥に引っ込んでしまった。


204う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:20:36 ID:WQfhaZZN

麻琴が二人に秋の新作「キャラメルマキアート」を持ってきて、Mikiteaについての思い出話に花が咲いた。
しばらくして圭がカウンターの前に出てきた。
「…どう?圭さん」
圭は亜弥に向かって頭を下げる。

「よろしくお願いします」

皆が歓喜の声を上げた。

205う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:22:21 ID:WQfhaZZN


数日後、荷物を手に圭は麻琴と別れを惜しんでいた。
「フランアイランドではどこに住むんですか?」
「お城に部屋を用意してくださるみたいだから、多分他のコックさんたちと同じような所だと思う」
「そうなんだ…」
「…」
「…店の事なら心配しないで、圭さんみたいなスゴイ人はいないけど、誰か採用するからさ」
「…うん」
「また、いつか戻ってきてよ!」
「うん」
「圭さんなら、うまくやれるから!自信を持って。車の運転はアレだけど、料理なら誰にも負けてないから!」
「うん…頑張る。…え今何て言った?車が何だって?」
「い、いや何も!圭さんは大事な人だからこれからは車の運転しないほうがいいねってコト!」
「嘘だッ!もーっ!せっかくセンチメンタルだったのに!」
「あ、ほら、ヘリ来たよ」

206う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/29 23:23:31 ID:WQfhaZZN

二人の待つ公園に、前と同じようにヘリが降下してきた。
「あーやっぱお客人を迎えるだけあってS-92だねぇ」
「梨華さん!いつの間に」
「今。圭さん、フランアイランドに行っても、ハッピーにね!ポッキーのコト忘れちゃダメですよ!」
「おぅ、分かったよ!元気でハッピーに頑張ってくる!」
「じゃあね!圭さん」
「またね麻琴ちゃん!お店を頼んだよ!」
圭の乗り込んだヘリは秋空に高く昇っていった。

「行っちゃったね…」
「うん、行っちゃったね」
「ちょっと寂しいかも」
「寂しいのはきっと圭さんも一緒だよ。ほら、しっかりカフェを支えて行くんだぞ!」
「そっか、こっちも頑張らないとね!」
「その意気だッ!」

207う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:18:52 ID:U80aXWV/

2003年3月…
あさ美、希美、麻琴、亜依は無事に中学校を卒業し、島から船で三十分のトッポアイランドにある
国立トッポ高校普通科に入学が決定した。
通う場所が変わっても四人の仲は変わらない。変わったことといえば、皆で「acp」に集まったときに
麻琴が同席しなくなった事くらいだ。

約束どおり、中学を卒業したので麻琴は店に従業員として雇われる契約になった。
時給は850円できちんと一時間働いていないと貰えないため、麻琴は暇さえあれば家に帰って
店に出るという毎日になった。
「麻琴忙しそうだね」
「圭さんいなくなってからずっとあんな調子だよね」
「誰か雇わないのかな…」
「お待たせしました、キャラメルカプチーノと愛ちゃん印の大盛りアーモンドクッキーでございます」
麻琴がやってきて、素早く配り分ける。
「どうなのよ麻琴、すごいやる気じゃない」
希美の言葉にガッツポーズをキメて、希美の分のクッキーを一枚くすねる。
「今のやる気と運動量なら絶対やせられるね」
「いや食べんなよ。道理でやせられない訳だよ」
「言うな」
「…んで誰か雇わないの?」
「なんかいい人見つかんなくってさ」

「麻琴時給いらないの〜?」
奥から声が聞こえ、「じゃね」と言い残して麻琴は去っていった。


208う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:19:29 ID:U80aXWV/

「忙しそうだけど、でも生き生きとしてるよね」
「なんか稼いだお金でお母さんに食器洗い乾燥機買ってあげるんだって」
「…それって給料の意味あんの?」
「まあいいんじゃない?…うちらも何か麻琴に負けないように、夢に向かって頑張らなきゃ」
「じゃあ私は大学行ってイチゴから逃げられるようにしっかり勉強しよっかな」
「ならお姉ちゃんの代わりに家継ぐもん。第一志望は農業高校だッ!」
「私は…夜も牛の世話でもしてあげよっかな。あいぼんは?」
「うーん…」
「まあ急いで決める事じゃないし、いいんじゃない?」
「そうだよ!でもみんなあんまり遊べなくなりそうだね…」
「たまにここに集まって話したりしようよ、息抜きにさ」
「そうしよっか、じゃあみなさん、四月からそれぞれ頑張りましょう!」
「オー!」

209う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:20:16 ID:U80aXWV/

そうして皆は四月から夢に向かってのんびりと、しかし確実に進み始めた。
あさ美は放課後遅くまで学校の図書館にこもって勉強を始め、一学期の中間考査では学年でも
トップクラスの成績を残した。
妹の里沙は年明けに迫る高校入試に向けて勉強を始めた。志望校は宣言どおり農業高校の園芸科。
少々難関だが、「高校受験は半年で何とかなる」というあさ美の言葉に励まされて、毎日机に向かっている。

麻琴は相変わらず学校が終わるとすぐに家に戻って、仕事に取り掛かる。
だいぶ忙しさにも慣れ、余裕が出てきて、常連客に「お母ちゃん」などと呼ばれては愛想良く悪態をつく日々だ。

希美は日々牛の世話をしながら、母親の家事の手伝いを始めた。
掃除、洗濯…料理はハンバーグ、肉じゃが、ビーフシチュー。中でも一番の得意料理は卵焼きだ。
だいぶ酪農家らしくなってきても家業を継ぐなどという事はあまり考えていないが、もし頼まれたら
考えてもいいかなとは感じ始めている。

210う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:21:10 ID:U80aXWV/

高校の誰もいない教室から、トッポアイランドの夕暮れを見つめる亜依。
次の船まであと一時間半もあって、麻琴も希美も新しい友達も皆帰ってしまった。
ため息をつく。
ワタシのやりたいコト…夢…
床板を目でなぞる亜依。音楽室からは合唱部の「翼をください」が聞こえてくる。
ポケットのケータイが震えた。
「…現実味のある夢なんて、焦って決めるもんじゃないと思うけどな。
 俺はまだ、自分が何をしたいのか分かんないし。もう高2だからそろそろ決めろってまわりがうっさいけどね(笑)」
微笑みながら返信して、ケータイをポケットにしまってから窓の外に目をやると、
大きな鳥が海に向かって一直線に飛んでいくのが見えた。
亜依の細まっていた目が次第に大きく見開かれていく。
「…現実味のない夢なら…思いついた」

211う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:22:07 ID:U80aXWV/


「従業員募集」
「調理・接客、10時〜17時ごろマデ、明るく元気で優しい方。運転免許所持者は優遇」
「1名を予定しています。時給応相談。履歴書持参のこと」
「カフェ『acp』」

麻琴がポスターを完成させ、内側から入り口のガラスドアに貼ろうとしたその時、外からそのドアを開ける客がいた。
「キャッ!」
「うわっ!すみませんお客様…ってあいぼん!」
「何?この紙」
「あ、従業員募集しようと思って」
麻琴の持っているポスターをしげしげと眺める。
「…あー間に合ってよかったわぁ、今この話しに来たの!」
「ゑぇ!?」
「面接しよ?」

212う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:25:45 ID:U80aXWV/

たまたま「谷間の時間」で客が誰もいなかったので、二人はテーブルで向かい合った。
「ええと、志望動機は何でしょう?」
亜依は卓の上に手を組んで、目を輝かせて言った。
「お金が欲しいんです」

期待を裏切られて、麻琴は大げさにずっこける。
「それじゃもっと待遇のいいトコに行きゃいいじゃない」
首を振る。
「この動機はマコのところでしか分かってもらえないから」
「いや、でも友達って言っても、金のためだけに働かれてもなぁ…何に使うの?」
亜依は微笑をたたえながら答えた。
「お金貯めてぇ、…もいっかい日本に行く」

213う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 04:26:54 ID:U80aXWV/


「最近みんな夢に向かって頑張ってるでしょ?何か、ないかなぁって考えてた時に、トシくんに励まされちゃってさ」
「…んでまた会いたくなったんだ」
「そう。なんか生きる目標!って感じがしたの。マコなら分かってくれると思って」
「う〜ん…ホントに頑張れる?すぐ冷めて辞めたりしない?」
「しない、絶対」

一分ほど考えた後に、麻琴が顔を上げた。
「ホントは私のいない、昼のバイトを探してたんだけど…今のあいぼんを止められる気がしないな」
「へ?それって?」
「…採用」
椅子から跳び上がる。
「ぃいやったーッ!!!」
「ま、ちょ、待て!待つのだ」
「え?」
「いい?圭さんの代わりに採用するんだからね?マジで頑張んなきゃダメだよ?
 あと時給は、最初は見習い期間、720円だからな!」
「はいッ!よろしくお願いしますお母ちゃん!」

こうして、亜依も「現実味のない夢」を叶えるべく歩み始めた。

214う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:10:47 ID:U80aXWV/


それからおよそ半年の「日常」が過ぎ、ポッキーアイランドにもクリスマスムードが漂い始めていた。

カフェ「acp」の定休日、短い冬休みに入ったばかりの麻琴は朝から店内の装飾に精を出していた。
色々な出来事、色々な感情を経験し、今ではすっかり思い出の一つとなった日本への旅。
今日はそんな思い出を共有しているメンバー達との同窓会が開かれる。

大きな窓ガラスにトナカイ、サンタなどの様々な形をしたマスキングをして、雪のスプレーで模様を浮かびあがらせる。
「これ、ポッキーには見えないよなぁ…」
首をかしげながらポッキーのようなもののマスキングテープを剥がす。
透明に残った隙間から、希美が歩いてくるのが見えた。

牧場仕事も完全に毎日の中に組み込まれ、それが当然のように働いている。
そのため授業中はうっかりの居眠りが多くてあまり成績も芳しくないが、人当たりの良い性格を
しているためか友人は多く、楽しい生活を送っている。
今日は朝早い仕事を終え、バッグに荷物を一杯に詰め込んで、喜び勇んで家を出た。

「料理は任せなッ!」
そう言ってバッグから料理本と計画表を引っ張り出した。数日前から麻琴と二人でメニューなどを
決めて材料も調達済みなので、エプロンを身につけた希美は早速取り掛かる。
「いつもお客さんに出す軽食作ってるから私にもやらせてよ」
「ダメッ!絶対ッ!」
「ちぇ〜」

215う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:11:42 ID:U80aXWV/

五分後…
野菜を洗い終わった希美が、麻琴を呼びつける。
「あのさ、…このレシピなんでか野菜の切り方書いてないの」
「ハァア?野菜の切り方載ってないレシピとかあんの?」
「見りゃ分かるって感じなのかなぁ?」
手にしたプリントを覗き込む。コピー機の設定を濃くしすぎたのか、写真は殆ど黒くつぶれていた。
「元の本は?」
希美が首を振る。
「学校の図書館のヤツ。持ち出し禁止シール貼ってあったの」
「じゃあ…仕方ないよ、適当に切ったら?」
その時、背後から声がした。
「待ちな」

「圭さん!」
振り返るとそこには、圭の姿があった。
しきりに懐かしがる二人に頷きながら店を見回して、この島も変わらないねなどと嬉しそうに呟く。
「料理なら、手伝おうか?」
希美が胸を張って答える。
「じゃあ、『私を手伝って』ください!」
「はいはい、よろしくお願いしますよ希美シェフ」
麻琴は装飾に戻り、二人は調理を始めた。野菜の切り方は圭に教えてもらった。

216う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:12:19 ID:U80aXWV/

まな板の作業も終わり、鍋が温まってきた頃、圭織となつみが揃って顔を出した。
「圭ちゃん!帰ってたの?」
「お、久しぶりー!さっき着いたんだ」
「今プリッツアイランドのお話してもらってたトコなんです」
興味津々で椅子に座る。
「へぇ、聞かせて聞かせて!」
「そう、あれは王室の外遊で船に乗ったときにね、ビスケー湾だったかなぁ、
 ひどい嵐に遭ってねぇ、その時コックさんが…」

圭がそこまで話した時、ドアが再び開いた。
「コンニチワー!!」
「どうも」
梨華とひとみだった。
お互いに軽く挨拶して、梨華は圭の話を聞きに席に着き、ひとみは麻琴にねだられて装飾の手伝いを始めた。
「今年は誰が日本に行ったの?」
「それが連絡ないんですよぉ」
「あーやっぱ中止になったのかなぁ、素人にゃ無理だ、って」
「私が言うのもなんですけど、年齢制限があったほうがいいですよね、あ、そこ外れてきちゃった」
「押さえてくる。テープは?」
テープを受け取ったひとみは、椅子に乗って苦もなく装飾の修理をした。
「ありがとうございます。あーやっぱ背高いっていいですねぇ、あこがれちゃう」
「いつも梨華ちゃんにあれ取れこれ取れって言われてるから慣れちゃったしね」

217う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:13:54 ID:U80aXWV/

装飾が完成し、料理の二人以外は手持ち無沙汰になってお互いに近況報告などをしていると、
あさ美と里沙が二人でやってきた。
「あれ、みなさんお早いんですね」
「私たち一番かと思ってましたよ」

入学してからずっと「いい大学に行ってイチゴから逃げる」を目標としてきたあさ美。
今や学年トップを争うまでになった。
目下最大の弱点は英語で、日本語と根本的に異なる構文に苦労している。
里沙にとってこの同窓会は、最後の追い込みにさしかかった受験生活の数少ない息抜きの一つだ。
習慣というものはとても大事で、里沙の場合は毎日机に向かうという習慣をつけたおかげで、
本当に半年で何とかなりそうな域まで達することができた。
残りの約二カ月も全力でやりきる気合を持っている。

「まだ一時間もあるじゃないですか、暇そうですし」
希美がのんきに返事をする。
「なーんかさ、ポッキーガールズの時に『早くしろ急げ』って言われすぎたからいけないのかもね、みんな」
「途中で逃げたヤツが何言ってるんだか」
ひとみが突っ込む。
「そうだ、その間みんなホテルで何してたの?」
「みんなそれぞれの反応だったかな」
梨華が口をはさむ。
「愛ちゃんとマコっちゃんと里沙ちゃんはなんか『私も探しに行くー!』ってずっとわめいてたよね」
「そう言う梨華ちゃんはね、ずっと部屋で泣いてたんだよ『心配だようえええええええん』って」
「そ、そんな事してないよ!」
慌てて否定する梨華に一同がどっと笑う。
「あとは、かおりんとかは普通に落ち着いてたよね、やぐっつぁんも
 『日本の警察ならたぶん大丈夫』とか言って。たぶんじゃダメだろ、って」
「なんだー?おいらの噂か?」
音もなく入ってきた矢口、その後ろには見慣れない、目の大きい黒髪の少女が立っていた。

218う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:15:56 ID:U80aXWV/

「えーと、後ろに隠れてるようで丸見えな彼女はどちらさん?」
なつみの言葉に、懸命に背伸びをしながら矢口が答える。
「あ、石原さとみちゃんです」
少女が矢口の横に出て、頭を下げる。
「はじめまして」
「日本の方?」
「そうです」
「日本でアイドルやってるんだよね。みなさん、何を隠そう、今年のポッキーの宣伝ガールは
 この娘だったんですよ」
まるで自分の娘を紹介しているかのように、嬉しそうに説明する矢口。
興味深そうにさとみを眺める「元」宣伝ガールズ。

「で、何でやぐっつぁんと組んでるの?」
「いやーさ、もういいかげんネタ無くなってきたところに『今年は日本人を起用する』なんて話が
 あったから、製品作ってるところも見せてあげたいと思って、日本から呼んできちゃったんだな。
 いい記事になりそうでしょ?」
「確かにやぐっつぁんもう二年くらいいるよね?よくこんな何も無い島で記事書けるなぁって
 感心しちゃうよ。さとみちゃんも、大丈夫?飽きてこない?」
圭織の問いかけにもさとみは笑顔で答える。
「いえ、とっても楽しいです!イブが十七才の誕生日なんで、すごいプレゼントだって思ってます」
店内にどよめきが広がる。麻琴は何を思ったのか両手を挙げて喜んだ。顔が少し前に出る。
「じゃあもうすぐハッピーバースデイじゃん!ちょっと早いけど、今日はゆっくり楽しんでいってくださいよ!」
「はい!ありがとうございます」
すっかりテンションの上がった一同は、麻琴の指示に従って準備を始めた。
「はい、コップと飲み物、あとお菓子たくさんあるから出してね」

219う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:17:29 ID:U80aXWV/

愛が「acp」に母親の電動自転車を乗り付けたのは、『圭が手伝った希美の料理』が出来上がった頃だった。
「遅れてスミマセン…」
あさ美が笑いながら、否定するように手を振る。
「まだ十二分前だから」

ポッキーガールズで得た収入で、スタンドアローンながら安いパソコンを買った。
手書きだった様々な書類や帳簿などをまとめるのに役立つ。本気で家業を継ぐ決心がついた証拠だ。
最近はトラクターや軽トラックを運転できるように、暇さえあれば教習所に通っている。

奥にひっこんでいた麻琴が戻ってきた。
「愛ちゃん!いつもおいしいアーモンドありがとう!愛ちゃん印の大盛りアーモンドクッキー、
 人気高いんだよねー」
「あらー、どうもありがと。前のシーズン採れすぎちゃったからねぇ、じゃんじゃん使ってよ」
「まかせといて。あ、なち姉もポッキーばかり齧ってないでアーモンドでも音楽作れるんじゃないですか?」
麻琴の言葉になつみの顔がぱっと明るくなる。
「そっか、それいいね!最近『ポッキーG』と『プリッツおつまみシリーズ』と『薄焼きプリッツ』の
 新しい音にハマってて、制作意欲バリバリなんだよねー」
「よっしゃ商談成立!ささ、もうみんな揃ったし、始めましょうよ!」
みな一斉に立ち上がり、乾杯の準備をする。

突然、梨華が不安そうな声を上げた。

「ねぇ、あいぼんは?」
全員の動きが一瞬、止まる。

不思議そうに梨華を見つめていた希美が、数秒経って答えた。
「…梨華さん知らないの?」



220う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:18:39 ID:U80aXWV/


成田国際空港。ゲートの向こうに、到着した乗客を待つ人々の姿。

―――どこにいるんだろう…

雑踏、ざわめきが耳を通過する。

―――近くしか見えないよ…コンタクトの度が弱すぎる…

肩から下げた、大きなプラダのバッグ。

―――…私に手を振っている男がいる…

ざわめきから一種類の声を聞き分ける。

―――…!!やっぱりそうだ!本物だ!

小走りで駆け寄ると、向こうも少し歩み出た。

「……久しぶりだね」

「…………来ちゃった」



221う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:19:30 ID:U80aXWV/


梨華は大げさに驚いた。
「で、でもそんなお金、どうやって」
「ずっとバイトしてたんだよ、ここで」
「親御さんが許してくれたの?」
「そもそも両親が国際結婚じゃん、抵抗ないんでしょ」
「…なら、私に言ってくれればネットで色々調べてあげたのに…」
希美となつみが顔を見合わせてにやける。
「梨華さん、もしかしてなち姉もパソコン持ってるって、知らなかった?」


「はいはい、フリーズしてる人は放っておいて、乾杯しましょ乾杯」
「いいぞーリーダー」
なつみが大きなクラッカーを手にする。
「それではみなさん、ちょっと早いけど、メリークリスマス!」
パパパァン!!!
『メリークリスマス!』


222う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:20:24 ID:U80aXWV/


「ずっと…会いたくって…この一年…」

「…分かってるって、俺も同じ気持ちだったもん…」

少し笑顔が戻った。

プラダが肩から落ちる。

優しく、しかししっかりと、二人は抱き合った。

「ちょっと早いけど…メリークリスマス」


223う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:21:09 ID:U80aXWV/





          Fin





224う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:21:56 ID:U80aXWV/








.
225う〜み〜写真集 ◆toRomonInU :04/12/31 23:33:55 ID:U80aXWV/

 川c・-・)<>>177さん、>>178さん、ありがとうございます。
       保全してくださった皆さんもありがとうございました。

       長々と書き続けた『ひと夏のポッキーガールズ』ですが、これにて連載終了となります。
       結局500どころか250も行きませんでしたね。でも満足です。
       諸事情により後半駆け足での連載でしたが、ここまで読んでくださった方には心から感謝
       しています。ありがとうございました。御感想や御意見などがおありでしたらなんなりと仰ってください。

       私にとって2004年は正直人生最悪の年でした。でもここまで過ごせたのも彼女達とモ板の存在が
       あったおかげです。またどこかでお会いしましょう!

       以上、作者でした。
226ねぇ、名乗って:05/01/01 04:07:30 ?# ID:???
脱稿お疲れ様でした。
最後、ハッピーエンドになってよかったです。
227名無し募集中。。。:05/01/09 04:01:18 ID:MWORWWz3
( ` ・ゝ´) 川‘〜‘)|| (〜^◇^) 川σ_σ|| ( ^▽^) 川o・-・) ( ‘д‘) ( ・e・)
228ねぇ、名乗って:05/01/23 03:35:41 ID:aH3gQg2N
変わった
229ねぇ、名乗って:05/01/26 16:29:44 ID:oN8ujFcq
ってない
230名無し募集中。。。:05/01/29 21:39:25 ID:tl9186Qa
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
231名無し募集中。。。:05/02/09 08:30:12 ID:7nYU9ykQ
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
232名無し募集中。。。:05/02/16 16:24:22 ID:ZWY6TF5i
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
233名無し募集中。。。:05/03/05 18:44:29 ID:w//fcHfu
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
234ねぇ、名乗って:05/03/17 13:54:53 ID:6shnSnXO
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
235名無し募集中。。。:娘。暦08/04/01(金) 22:35:16 ID:vXrPqgf/
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
236名無し募集中。。。:2005/04/10(日) 23:23:42 ID:5E8E2MXp
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
237名無し募集中。。。:2005/04/15(金) 21:56:06 ID:tGqwUjez
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
238名無し募集中。。。:2005/04/20(水) 22:26:51 ID:kfFc66fL BE:35202252-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
239ねぇ、名乗って:2005/04/22(金) 04:23:43 ID:zRlYZymy
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
240名無し募集中。。。:2005/04/23(土) 08:18:56 ID:huo/U5Dc BE:52803735-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
241ねぇ、名乗って:2005/04/24(日) 22:17:14 ID:tNU5R+fi
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
242ねぇ、名乗って:2005/04/25(月) 00:27:04 ID:UbjxgIgu
ヽ( ・∀・)ノ● ウンコー
243ねぇ、名乗って:2005/04/25(月) 19:27:24 ID:+PgKnbEW
19:27:30
244ねぇ、名乗って:2005/04/25(月) 19:30:51 ID:mHlasMBo
19:31:00
245ねぇ、名乗って:2005/04/29(金) 10:26:38 ID:6mzpvkPf
J太郎
246ねぇ、名乗って:2005/04/29(金) 20:07:28 ID:arkudigP
あらま
247ねぇ、名乗って:2005/04/29(金) 23:03:00 ID:x0tRUumn
掟ポルシェ
248名無し募集中。。。:2005/04/30(土) 22:39:58 ID:4qHs5k9G BE:98566447-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
249 ◆JWs/VPLu3I :2005/05/02(月) 01:16:57 ID:Q96MCEjz
ho
250名無し募集中。。。:2005/05/02(月) 16:54:57 ID:KM6e0epn
251ねぇ、名乗って:2005/05/03(火) 15:58:48 ID:QOp+9ZO2
252ねぇ、名乗って:2005/05/14(土) 11:39:05 ID:ZMgt0TiB
ワロタ
253名無し募集中。。。:2005/05/24(火) 01:41:27 ID:pN3TNyMu
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
254名無し募集中。。。:2005/05/27(金) 20:28:19 ID:PBBrZGX7
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
255名無し募集中。。。:2005/06/16(木) 17:05:30 ID:lSpmTfCE BE:172490377-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
256名無し募集中。。。:2005/06/22(水) 17:09:45 ID:eHk3szQQ BE:95046539-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
257名無し募集中。。。:2005/06/25(土) 18:45:40 ID:2zIGmVra BE:190091669-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
258名無し募集中。。。:2005/06/27(月) 01:05:13 ID:pMR//rE1 BE:168970368-
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
259名無し募集中。。。:2005/07/15(金) 00:19:04 ID:rcXL5q9F0
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
260ねぇ、名乗って:2005/07/15(金) 12:40:42 ID:lvuGyYiJ0
sage
261名無し募集中。。。:2005/07/20(水) 00:13:52 ID:QoHY+q6qP
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
262名無し募集中。。。:2005/07/25(月) 00:35:38 ID:jOgUgoqI0
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
263ねぇ、名乗って:2005/07/29(金) 10:23:43 ID:cWjcGN+D0

      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
      |  モーヲタは包茎!!!! |
      |  モーヲタは童貞!!!! |
      |  モーヲタは悪臭!!!! |
      |  モーヲタは汚物!!!! |
      |  モーヲタは粘着!!!! |
      |_________|
    二二 ∧ ∧ ||
    ≡≡(,, ゚Д゚)⊃ キモイ...
  三三〜(,   /
      | ) )
      ∪
264名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 18:33:16 ID:6z+wJx2c0
>>263
( ^▽^)<そして飯田さんは処女!
( =^▽^)<なのら〜♪
265名無し募集中。。。:2005/08/19(金) 08:13:54 ID:4VzPWQEZP
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
266名無し募集中。。。:2005/08/24(水) 22:57:00 ID:Ak/rbGOWP
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
267名無し募集中。。。:2005/09/09(金) 10:21:14 ID:fjnhQVJV0
 
268名無し募集中。。。:2005/09/23(金) 00:46:50 ID:MEw4NLHb0
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
269ねぇ、名乗って:2005/10/30(日) 00:11:52 ID:V0MMZ1+k0
川o・-・)
270ねぇ、名乗って:2005/12/01(木) 02:00:28 ID:YxD1IxF3O
(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
271ねぇ、名乗って:2005/12/28(水) 14:35:55 ID:CBRctMHc0
((((#;^▽^))));*=^▽^)=3
272A:2005/12/30(金) 16:02:05 ID:s5v1Bntt0
 【 1 - F 】 ( ・e・)リd*^ー^) 引っ越すうう?
 ̄ ̄ ̄ ̄
「でもれいなの知り合いだったなんてねー」
「でなかったら引っ越すことも知らずじまい」
「さゆみー、どっちみち会えなくなっちゃうんだったらさあ、告白しちゃえば?」
「あたしから伝えてあげようか?」
「いっ、いいのっ・・・そういうことは自分で言いたいから・・・!」
「えらいっ、さゆみっっ」
・・・と言いながらも<このさゆみにそんなことが出来るのだろうか>と、
一抹の不安を隠せない3人であった。
「あっ、ねえ、その山下君て、血液型何型?」
「ん?・・・確かA型だよ(真面目だもん)」

<どつぼである。A型の人は恋をしても、相手の反応を気にしすぎて、
なかなか行動を起こせないので、モタモタしてる間にチャンスを逃がして、
知らないうちに<全てが終っていた>ということにもなりかねない。
つまり、A型同士の場合、どちらかが思いきってガンガン行かないと・・・>

「望み薄いんじゃない」
「里沙、あんたって・・・(もうちょっと言い方ってもんが・・・)」
「だってさあ、半年間も話しかけらんなかったのに、今更急に、
しかもこのさゆみに・・・」
「あたしっ、あたし彼に話しかける・・・!どうせもう会えないんだし、
こうなったらA型の歴史塗り替えてやるわよ。死ぬ気でぶつかるわっ」
从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^) おおーっ!パチパチ そんな大袈裟なw
「あたし達に出来ることがあったら、なんでも言ってよー」
「ちなみにA型の男の子ってねえ」
273A:2005/12/30(金) 16:03:59 ID:s5v1Bntt0
『「必勝」これがA型BOYアタック法』
<真面目で責任感のあるリーダータイプ!でも好きな女の子がいても、
なかなか行動には出せないないんだよ。だから向こうからのアプローチを
当てにしては幸せはなかなかやって来ません。ただし、
こちらからアプローチする時は、あんまり派手にならないようにね。
A型BOYは真面目な常識派、まわりに知れちゃうやり方や、
押し付けがましいアタックは×。友情から恋を育てるつもりで、
ゆっくり時間をかけてソフトにアタックするのがいいみたい>

「さゆみ、こないだ彼の絵を描いてたじゃん。
あれ、学園祭に出展しちゃえば?」
「え?」あの人の絵・・・
「その絵の前なら告白せざるをえないでしょ。
踏切で告白出来なかった時の切り札よ」

・・・そうかな、そしたらあたしにも、勇気が出せるかな・・・


〓≡〓≡〓≡〓≡〓 <カンカンカン>

い・・・いくわよ、さゆみっ
「おはよう」
「お・・・おはよう ゴザイマス…」

从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^) えーっ、挨拶したー?すごーい、進展したじゃん!
274A:2005/12/30(金) 16:05:37 ID:s5v1Bntt0
【2日目】
「おはよ」
「おはよう」
从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^) 今日も挨拶だけ? まあ、初めはこんなもんよ

【3日目】
「おはよ」
「・・・おはよう」
从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^) ・・・今日も?あんたA型の歴史塗り替えるんじゃ・・・
<さゆみは死んでもA型だった>
「もう日がないのにねえ」
「さゆみもさあ、B型の里沙くらい気軽に誰とでも話せたらねえ」

彼について知ってること。黒いローファー、何時もポケットに手を入れてること、
顔と声と ―― 名前、それだけでも絵は描けるけど、
もっと色んなこといっぱい知りたいの・・・!

<A型の女の子は恋に対して慎重になりがち。そこがいいところでもあるんだけど、
時には気楽に大胆になることも大切なんだよさゆみちゃん>
275A:2005/12/30(金) 16:08:06 ID:s5v1Bntt0
〓≡〓≡〓≡〓≡〓 <カンカンカン>

今日こそ、今日こそ絶対、B型の里沙を見習って、気軽に話し掛けるのよ!

「おはよう」
「おっおは・・・」

      ∩ ノハヽヽ   どてーっ
   ((( ⊂´⌒つ・ 。.・从つ

「だ・・・大丈夫?怪我ない?」
「は・・・はい」あたしのバカーッ(><)
「・・・最近白いリボンしてこないんだね」
―― え?なん・・・で、なんでリボンの色変えたこと知ってるの・・・<いまなら>・・・
「山下君・・・あたし・・!」
「おーっす山下。何してんの、遅刻すんぞ」
「ああ、・・・じゃあ」
「あ・・・」
(・ 。.・*从! ・・・そういやお前さー、まだ告白するかどうか迷ってんだって?>
―― なんだ・・・山下君もあたしと一緒なんだ・・・臆病者のA型なのね


【美術室】 从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^) さゆみ、いるー?
   
「あれ?今日は描いてないの?」
「さゆみ、今朝から元気ないじゃない」
「・・・この絵、もういらなくなっちゃったの」
「・・・告白したの?」
「山下君、好きな人いるみたい。始めっからあたしが勇気出すことも、
こんな絵描く事も無駄だったのよ」
276A:2006/01/03(火) 13:37:31 ID:cQkeeIWu0
__________________________

============================               ガラッ
       |゚ ̄ ̄ ゚̄|       |   ______________
┌──┐   ̄ ̄ ̄~' ┌──┐ |    |┌───┐|─┐| ≡  |1-F |
│====│   □ □   │三三│ |    |│/./ . │|. . │| ≡  | ̄ ̄
│三三│   □ □   │三□│ |    |│/  /│|/│|ノハヽ
│[][]::::│   □ □   └──┘ |    |└───┘|─┘|#・e・)
└──┘      l三三!     |    |:[l         |   l]:|i<Å>⊃
============================:   |          |    |/_l_l_l_ゝ
                            |          |    | |ー|ー|
                           |          |    |(_)_)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「里沙?」
「いらなくなったんでしょ。なら、捨てちゃった方が良いじゃない」
「里沙っ」
277A:2006/01/03(火) 13:55:44 ID:cQkeeIWu0
.                 ┌┐
.                 ││
          ┌────┴┴┐
..          |   焼却炉   |
          │    [ ̄]    |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ちょっと、あんた何するつもり?」
「燃やすのよ。さゆみはねえ、いつも自分が何も出来ないことの、
言い訳ばかり探してるのよ。勇気が出せなきゃ、諦めるしかないでしょ。
こんなの無い方がさっぱりするじゃない」

「・・・や、やめてっ!」

「ほら、勇気出るじゃん。そんなに好きなら諦めるなんて言わなきゃいいのよ。
大丈夫よ、当たって砕けて、粉々のボロボロになったって、
よってたかって慰めてあげるからさっ」
「うん・・・がんばる」

ごめんね、みんな
こんなあたし心配してくれて・・・
ありがと、ほんとにあたし、がんばるから・・・
278A:2006/01/03(火) 14:00:47 ID:cQkeeIWu0
           。。。。。。。。。。。。。。。。
           |   学 園 祭   ||
           。。。。。。。。。。。。。。。。 
    `l []l[]. |  | l|  |  |ニl .|  | | 田田|  | | 田田 田田 田田 
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |  |] _|_| [二二二|  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |  |  |/         |  |   ________
               |  |  |           |  |  | ○○高等学校 |
               |  |  |           |  |    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |  |  |.────── |  |
 _______|_l/           |_|__________

【美術室】
┏━━━┓ 
┃ ノノノハ┃
┃(´∀`)┃
┗━━━┛
どうかこの笑顔が、あたしに勇気を与えてくれますように・・・
279A:2006/01/03(火) 14:10:45 ID:cQkeeIWu0
「あっ、いたいた」
「心の準備できてるー?」
「う・・・うん」(どきどき)
「何時頃来るの?」
「授業終ってからだから、もうじきじゃない?
今れいなが迎えに行って・・・」バタバタバタ
「さゆみ!」
「れいな・・・どうしたの?」
「や・・・山下君急な変更で、引っ越しが今日になっちゃったんだって!
2時22分発の電車で行っちゃうのよ!」
「さゆみ!時間が・・・」

  −=≡ oノノハヽo   
 −=≡  从*・ 。.・)彡 
−=≡   ⊂  ⊂彡
 −=≡   ( ⌒)
  −=≡  c し'

从*´ ヮ`)( ・e・)リd*^ー^)「さ・・・さゆみ!頑張れーっ」わーーーっ

お願い間に合って!
このまま会えなくなっちゃったら、
あとに残るのはただの臆病なだけのあたし
280A:2006/01/03(火) 14:15:15 ID:cQkeeIWu0
              ┃┃                    ┃┃
  ┏━━━━━┻┻━━━━━━━━━━┻┻━━━━━┓
  ┃   Track  Train   Departure   For              ┃
  ┃┌──────────────────────┐┃
  ┃│  21  R-EXP  14:30  BEHAPPY...      │┃
  ┃│  22  R-EXP  14:40  SEVENAIR       │┃
  ┃│  21  S-EXP  14:45  HAPPYSEVEN.     │┃
  ┃│                                │┃
  ┃│                                │┃
  ┃└──────────────────────┘┃
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
                /  /
                    /           ── バチが当たったんだ
                  /  / ノノハヽo∈ いつまでたっても悩んでばかりで
                /      O^ソ⌒とヽ  何もしなかったあたしに 
              /  /    (_(_ノ、_ソ  泣く資格なんてないのよ ──
281ねぇ、名乗って:2006/01/03(火) 14:24:01 ID:cQkeeIWu0
       __________
      ///////////\
    ///////////:::::\\
  /∠∠∠∠∠∠∠∠∠/::::::::::::::::\\  「行ってきまーす」
   ̄| ┌┬┐┌┬┐  |::::::::,====、::::::| ̄   バタン!

8時3分に家を出て、駅まで8分、8時11分に遮断機がおりる。

  ノノハヽ  カン カン
 ( ´∀`)      カン カン
 (    )
〓≡〓≡〓≡〓≡〓
 │││
 (_)__)

从 *・ 。.・)?

〓≡〓≡〓≡〓≡〓

(つ 。.⊂)ゴシゴシ

・・・ほんとにいないんだ・・・
なんだか不思議、いつもと同じ風景なのに、全然知らない場所みたい・・・
も ── やだやだ、昨日あれほど泣いたのにっ
きっと、そのうち、この風景に段々慣れて、当たり前になって行くん・・・
282ねぇ、名乗って:2006/01/03(火) 14:25:04 ID:cQkeeIWu0
「・・・あ・・・おはよう」
う・・・そ・・・まぼろし・・・?
「ど・・・して、昨日・・・」
「あ ── うん、引き返して来たんだ。
どうしてもこれ、君に渡したかったから・・・」
── あ・・・
┌─────────┐
│宇部市○○○      │
│山下和也.       │
│     .          │
│TEL090xxxxxxxx     │
└─────────┘
「もっと前に渡すつもりだったのに勇気なくて、
毎日ポケットに入れてたからボロボロだけど ──
オレ、入学式の日からずっと、君のこと見てたんだ・・・」
いつもポケットに手を入れてたのは、そのため・・・?

そのあと彼が、あの絵と同じ笑顔をしたので、
臆病だったあたしにも、やっと伝えることができそうです。
「リボン」と「ポケット」に同じ想いをつめ込んで、
すれ違ってたモーニングデートのことを・・・

从*´ ヮ`)               ( ・e・)               リd*^ー^)
「でもさー、なんだかんだ言って、 「だけどー、滅多に会えなくて  「さあね」
結局両想いだったんじゃない!  大丈夫なの?
そんなことならさっさと告白しちゃ あたしだったらダメだわー」
えばよかったよねー」        

<ダイジョウブ、A型の恋って、
一度火がつくとなかなか消えないんだよ>
                               Fin
283アヘンN:2006/01/03(火) 14:26:18 ID:cQkeeIWu0
柴田が私を瞑想するような目で見上げた。
そして、唇にぶら下がった煙草を一口吸うと、
片目を煙そうに細めながら言った。
「あの患者達の誰一人についても、俺達に分かった事は何か?
何一つ断言することが出来ないのだ。しいて言えば ――
例えば紺野さんの場合はどうだ?彼女のどこにもおよそ異常なところなどないのだ。
俺の知識を総動員して、ありとあらゆる兆候を当たってみても、
彼女には特に病的なところはない。
少なくとも異常と言えるような神経症の症状はないのにだ。
俺に言わせれば彼女は精神病の患者じゃない。
彼女の問題はもっと外部的な、目に見えるところにあるんだ。
いや、俺に言わせりゃ ―― 勿論患者の言動から判断すれば、だよ ――
彼女の方が正しいのさ。彼女の言う通り、小川さんが真物じゃないんだよ。
そうとでも考えなけりゃ、どうにも考えようがないんだ」
柴田はまた一口煙草を吸いこむと、吸殻を地面へポイと棄て、
片足の靴先で地面にこすりつけた。
そして、私を奇妙な目つきでまた見上げた。
「とにかく、一つの町から九人もの人間がいきなり、それも同時に、
事実上全く同じ妄想に取りつかれるなどということは、絶対不可能だ。
なあ、村田?ところがその不可能なことが、
実際こうして目の前で起こっているんだ」
284アヘンN:2006/01/03(火) 14:27:43 ID:cQkeeIWu0
村田は何も答えなかった。誰一人その瞬間、口を聞く者もなかった。
暫くして、大谷が溜息とともに言った。
「今日の午後も僕の所にまた患者が一人来た。五十前後の男で、
もう長い間僕が診ていた、よく知っている患者なんだ。
彼に二十五になる娘がいた。その娘が娘でなくなったと言うんだよ ――
全く同じケースだね」
彼は一人肩を竦めると、前部座席に向かって話しかけた。
「彼を君らの所へ送ったものだろうか?」
柴田も村田も最初、答えなかったが、やがて柴田が言った。
「どうしたものかねえ。まあ、君の思う通りにするさ。どのみち彼が他の人と同じなら、
俺には手も足も出ないんだが ―― 村田なら俺ほど無策でもないだろう」
「よこしてもいいよ、大谷」村田が言った。
「出来るだけのことはしてみよう。が、柴田の言う通りなんだよ。
あれは確かにただの精神異常ではない」
「その他のいずれのケースにも当て嵌まらないんだよ」柴田が横から言った。
「放血手術をやってみるのも一つの方法じゃないかな」私が言った。
「そうとも、そうとも。勿論一つの方法だろうよ」
285ねぇ、名乗って:2006/01/08(日) 13:21:31 ID:eQ89oI0O0
柴ちゃんはタバコなんて吸わないやい!
と、マジヲタぶってみる。
286アヘンN:2006/01/09(月) 15:11:36 ID:30WWZ8ea0
会が終ったあと、私は柴田と車のわきで立ち話をした。だが、話しはしても、
あれ以上言うべきことはもう無いのだった。やがて柴田が言い出した。
「とにかく、いつも俺と連絡を取ってくれ、斉藤。
俺達でなんとかこいつをやり遂げよう」
私はそうしようと答え、車に乗りこんで家に向かった。

あれ以来私は、今晩以外は毎晩保田さんと会っていた。
だがそれは、私と彼女の間にロマンスが芽生えていたからではない。
私の理由は彼女といる方が、一人でいるよりずっとましだったからだ。
つまり彼女は、夜の数時間を愉しく過ごすための一つの方法だった。
私は彼女にそれ以上を望まなかったし、その方が私の性にも合っていた。
土曜の夜は映画を見に行こうと約束してあった。私は家を出る前に、
その晩の当直者にそのことを話し、今夜は往診には応じないと言っておいた。
それから私は彼女と連れ立って外へ出た。

私は切符売場で指定席の切符を2枚買った。売店でポップコーンを買い、
場内に入って指定席についた途端、携帯が鳴った。
寺田からだ。今ロビーにいるから来てくれと言う。
ロビーに出た途端に、ポップコーンの売店の影から寺田が進み出た。
つかつかと歩み寄って来ながら、頬にすまないと詫びるような微笑が浮かんだ。
「悪かったな、斉藤」と寺田は言って、
詫びの中に保田さんを含めるように視線を移した。
「せっかくのお楽しみを邪魔するのは悪いと思ったんだが・・・」
「まあいいよ、寺田。何か有ったのか?」
彼は答える代わりに先に立って、
廊下に通じるロビーの扉を我々のために開けてくれた。
ロビーで話したくないことなのだ。我々は促されるままに廊下に出た。
寺田がすぐ後に続いた。だが映画館の外へ出ても、
寺田はまだ要点に触れようとしない。そして、こんなことを言い出した。
「実は誰も病気になった訳じゃないんだ。
それに・・・こんなことを非常の場合と言えるかどうかも分からない。
ただ ―― ただ、俺はどうしても今夜君に来てもらいたかったんだ」
287アヘンN:2006/01/09(月) 15:12:38 ID:30WWZ8ea0
私は寺田という男が好きだ。
寺田は作家で、それもなかなか優秀な作家だと私は思っている。
彼の小説も1冊だけなら読んだことがある。
が ―― 今夜だけは私もちょっとうんざりした。よくあることなのだ。
「なんだよ寺田。急患でなくて、明日の朝まで待てることなら、
そうしてくれりゃあ良かったじゃないか。俺は構いはしないが、
この人が ―― そういえば君らは知り合いだったよな?」
保田さんがにっこりして「はい」と言うと、寺田もあとに続いて
「当たり前じゃないか、俺の妻は飯田圭織だぞ、忘れたのか」
そう言って、彼はちょっと難しい顔をした。
歩道に立ち止まったまま、どうしようかと考えあぐむ様子だった。
それからふいと顔を上げて、私の顔から保田さんへと視線を移しながら、
保田さんと私と、二人に向かって言い出した。
「どうだろう、斉藤。保田さんを連れて俺の家に来ないか?
もし来てくれれば、妻がとても心強くなると思うんだが・・・」
と言いさして歪んだ笑顔を作った。
「家に来てくれれば見せる物があるんだ ―― 気に入るかどうかは何とも言えないが、
少なくとも映画なんかよりずっと面白いことだけは保証するよ」
保田さんの顔を見ると、彼女はこっくりと頷いた。
寺田はつまらないことに騒ぎ立てるような馬鹿ではない。
私は一切質問するのを止めた。
「分かった。俺の車で行く事にしよう。後で帰りしなに君の車の所まで送ってやるよ」

それから車を走らせる間 ―― 彼は町を丁度出た所に住んでいた ――
寺田は何も教えようとしなかった。何か言えない理由があるのだと思った。
寺田は知的な、良識と決断力に富んだ男だった。私はそれを、
私自身の経験したエピソードを通じて知っていた。
彼は決断すべき時と所を心得ている。彼が自分から話し出すまで待とう。
やがて市の境界標を過ぎたころ、寺田が前方を指した。
「その舗装されてない道を曲がってくれ。覚えてるかい、丘の上の緑の建物だよ」
私は頷いてその道に車を乗り入れた。すると寺田が声をかけた。
「ちょっと止めてくれないか。君に訊いておきたいことがあるんだ」
288アヘンN:2006/01/09(月) 15:14:01 ID:30WWZ8ea0
私は車を道路の端に寄せ、エンジンは動かしたままハンドブレーキをかけて、
寺田に振り向いた。寺田が深呼吸した。
「なあ斉藤、医者には、知った以上は必ず当局に報告しなければならないことが
いくつかあるな?」
質問とも意見とも取れる言い方だったので、私はただ頷いた。
「例えば伝染病だ」
と彼は続けた。頭の中の考えを声にしているような調子だった。
「あるいは銃創。死体を発見した場合もそうだな。斉藤、君は・・・」
彼はふと目を窓の外へ転じた。
「そんな時、いつでも絶対報告しなければならない義務があると思うかい?
場合によっては例外が ――
つまり、医者がそうした原則を破って良い場合があるとは思わないか?」
私は肩を竦めて見せた。何と答えたものか判断に困った。
「事によりけりだな」
「どんな?」
「そのものの性質によるな。それと、その医者にもよる。いったい何なんだ寺田?」
「まだ話せない。話す前に今の答えが訊きたいんだ」
窓の外を見つめながら、彼はそこでちょっと考えるようだったが、
やがて振り向いて私を見た。
「こう訊けば答えられるだろう。いいか、ここにある問題が起こったとする ――
どんな問題でもいい。仮に弾丸傷の患者があったことにしてもいい。
―― 要するにさっきの原則なり法律なり、その他諸々の規則なるものに従えば、
直ちに当局へ知らせなければならない問題が起きているとする。
もし君がそれを知っていながら報告しなかったことが見つかったら、
医者の免許を取り上げられないとも限らないんだ。さて、その場合君は、
君の医者としての体面と倫理と免許状とを賭けても、報告しない方が正しいと言う、
そういう状況の組み合わせが有り得ると思うか、どうだ?」
私はまた肩を竦めた。
「分からないな。まあ、おそらく有り得ると思うよ。
原則やルールを忘れさせるような状況だって、
そりゃ考えて考えられないことはない。もしそれが、本当に重要なことで、
俺自身がそうしなければならないと思った場合のことだが」
289アヘンN:2006/01/09(月) 15:15:55 ID:30WWZ8ea0
そこまで言って、急に私は寺田の話しの曖昧さに腹が立ってきた。
「しかし何とも言えないな。いったい、君は何を言いたいんだ?
君の言う事はあまりに漠然としてるよ。俺は何一つ約束するわけにはいかないな
―― 君の家に、俺が見て警察へ届けなきゃならないと思うような物があったら、
おそらく俺は届けるだろう。それしか俺には言えないな」
寺田は微笑した。
「よし、それでいい。ただし、おそらく君は警察に届けるのはよそうと思うだろうけどね」
彼はそう言って、家に向かうよう言った。
「それじゃ行こう」
私は車を道路の中へ返したその時、ヘッドライトが人影を捕らえた。
道路の前方50メートルあまりの所を、こっちに向かって女が歩いて来る。
エプロン姿で両手で胸を抱きしめるようにし、肘をギュッと掴んでる。
あれは・・・と見るうちに私はそれが寺田の妻飯田圭織だと気付いた。
私は低速で彼女の前まで車を走らせて止めた。
「ああ、斉藤さんね」
彼女は言うと、車の窓から中を覗き込んで、寺田に向かって話し出した。
「私、とても一人では家にいられなかったの、あなた。
我慢しようとしたけれど駄目だったの。ごめんなさい」
寺田が頷いた。
「いや、俺が悪かったんだ。君を一緒に連れて行くべきだった。
そうしなかった俺が悪い」
私は車のドアを開け、彼女を後部座席に招いた。
彼女は保田さんと久しぶりの挨拶を交わした。
そして我々は彼の家に向かって走り出した。
寺田の家は緑色に塗った木造建築で、丘の中腹に一軒だけ独立している。
ガレ−ジは地下室の一部になっていて、空のままドアが開いている。
車を降りて寺田がガレージの扉を閉めた。それから地下室に通じるドアを開けて、
地下室に足を踏み入れた。寺田は我々を追い越して室内を横切ると、
次の部屋に通じるドアの前で立ち止まった。そして、ドアノブに手をかけながら、
我々を振り返った。その部屋の中には中古だがなかなか立派な撞球台があるのを、
私は思い出した。寺田は保田さんを見つめ、ついで妻にちらりと視線を移して言った。
290アヘンN:2006/01/09(月) 15:17:45 ID:30WWZ8ea0
「しっかりするんだよ」
彼はドアを開けて部屋に入り、我々も後に続いた。この部屋の電灯には、
光線を台の表面にだけ集中するように、直角のシェードがかかっていた。
そのため撞球台以外の部屋の中も半闇に包まれている。
だから私には保田さんの顔も確かには見えなかったが、
彼女がハッと息を飲む気配を聞いた。150ワットの電灯の発する煌煌たる光りのもと、
輝くがかりに鮮やかな緑色の撞球台の上に、シートに覆われて、
見紛うべくもない明らかな人間の体が、長々と横たわっていた。
私は振り返って寺田を見つめた。と、彼が言った ――
「シートをはがして見ろ、斉藤」
私は焦燥を感じた。私は不安になり、何か恐怖さえ感じた。
それに、こんな芝居掛かったミステリーは私の性分に合わなかった。
寺田のやつ、作家根性もいいが、少し素人芝居が過ぎるぞ、と私は思った。
私はシートを握り、グイと引っ張って、台の下へ引き落とした。
緑色のフェルトの上に仰向けに横たわっていたのは、一人の男の全裸の死体だった。
背の高さは178cmほどだろうか ――
横たわってる人間の体を見下ろすと、身長を判断するのは難しいものだ。
男の皮膚は光線の下に恐ろしいほど蒼白く見えた。
ひどく非現実的な芝居掛かった感じがした。
―― が、同時にそれは、あまりにも生々しい現実なのだ。
男の年齢は年寄りでないと分かる以外の判断がつかない。
両目はカッと見開かれ、頭上の電灯を真っ直ぐ見つめている。
目に見える傷跡らしいものはどこにもなく、死因と認められるような徴候も全く無かった。
私は保田さんの傍に歩み寄って、片腕を彼女のそれに通すと、寺田を振り返った。
「これは?」
彼は頭を振って、答えを拒否した。
「よく見てくれ。もっとよく。何か変わったことに気がつかないか?」
私は撞球台の上の死体に目を戻した。ますます気が苛立ってきた。
そうなのだ、この死体には確かにどこか変な所がある。
にも拘らず私には何がどう変なのか言い表せなかった。
それが私をいっそう腹立たしくさせた。
「いい加減にしろよ、寺田」
291アヘンN:2006/01/15(日) 11:17:32 ID:l5lMNqQK0
私は彼を見つめた。
「死体があるということ以外、おかしな所も無いじゃないか。
さあ、ミステリーは止めにして話してくれ。いったいこれはどういうことだ?」
だが彼は再び首を振った。今度は訴えるように顔をしかめながら言った。
「斉藤、頼むから落ち着いてくれ。俺は君に先入観を与えたく無いんだ。
俺の受けた印象を話すと、君の感じ方に影響を与えるかもしれない。
もし、この死体におかしな所が有るとすれば、
それを君自身の目で見つけてもらいたいんだよ。
そして ―― もしおかしな所が無いんだったら ――
俺が幻覚を見ていただけなのなら、俺にそう言ってもらいたいんだ。
辛抱してくれ、斉藤」
と彼は穏やかに言った。
「それをよおく見てくれ」
私は死体をじっと見た。撞球台の周囲をゆっくり歩いて、立ち止まっては、
色々な角度から見下ろした。私が歩いてる間、寺田も保田さんも飯田さんも、
1歩退いて私に道をあけてくれた。
「分かったよ、寺田」
やがて私は言った。声が不承不承な弁解じみた調子になった。
「確かに変な所が有る。君の錯覚じゃない。でなけりゃ、
俺も君と同じ錯覚を起こしてるるんだ」
そこまで言って、私はたっぷり30秒ほど、
撞球台の上に横たわった”物”を見下ろしていた。
「例えばだ」
と私はようやく言葉を継いだ。
「こういう体は死人にしても生きた人間にしても、滅多に有るもんじゃない。
この体はよく発達した健康体の人間の体だ。筋肉の発育も悪くない。が、この体は、
生まれてからまだ一度も、サッカーをしたこともなければ野球をしたこともない、
セメントの階段で転んだことも、骨を折ったこともない、つまり、まるで・・・
使われたことがないように見える ―― 寺田、君の言うのはこのことか?」
寺田はぐっと頷いて見せた。
「そうだ。他には?」
「保田さん、大丈夫かい?」
292アヘンN:2006/01/15(日) 11:18:36 ID:l5lMNqQK0
私は撞球台越しに保田さんを見た。
「はい」
下唇を噛みながら保田さんは頷いた。私は再び寺田に向かって口を開いた。
「顔がおかしい」
言いながら、私はその顔を見据えた。その顔は白蝋のように白く、
陶器にも見紛う澄んだ目を一杯に見開いて、静かに微動だにしなかった。
「この顔は・・・」
言いさして私は言葉に詰まった。何と表現したらいいか言葉が無いのだ。
「成人の顔じゃない ―― 正確に言うと未熟なんだ。
骨格は見事に発達して大人の顔の形はしている。しかしその表情だ。
表情が・・・曖昧だ。つまりこれは・・・」
不意に寺田が遮った。
「君はメダルを作る所を見たことが有るか?」
「メダル?」
「そう、美術品のメダル ―― 浮き彫りのしてある徽章だよ」
「無い」
「無いか。あれは素晴らしい技術だよ。固い金属からメダルが出来てゆくのは。
メダル師は二つの版型を作るんだよ」
寺田は腰を据えて説明し始めて。私は何のことか、
何故そんなことを話し始めたのか、見当がつかなかった。
「まず、打ち抜きの型板で第一版をとる。無地の金属板にざっと型を打ち抜くんだ。
これに二番目の型板を押して第二版が出来る。完成したメダルのディテールは、
この第二版で初めて出てくるんだ ―― 高級なメダルの微妙な線や繊細な表現は、
全てこの時出来るんだよ。何故かと言うと、そうしたディテールを象った第二版を、
最初から平面の金属板に押すのが無理なので、こうしなければならない。
まず最初は第一版でざっと粗い型をとらなければならないんだ」
彼は言葉を切って、我々が彼の説明についてこれるかどうかを確かめるように、
保田さんから私へと視線を走らせた。
「それで?」
私は少し焦れて言った。
「顔をモデルにしたメダルは、第一版が出来あがった時見ると、
その顔はいかにも未完成な印象を与える。目も鼻も口も何もかも有る、
293アヘンN:2006/01/15(日) 11:20:39 ID:l5lMNqQK0
が、顔に表情を、個性を与えるディテールが出来てない」
彼はそこで私の顔をひたと見た。
「斉藤、この顔がまさにそれなんだ。見ろ、この顔には道具立ては全て揃ってる。
唇も有れば鼻も有り、目も有り、皮膚もその下の骨組も出来あがってる。
だが、ここには微妙な線が無い。ディテールが無い。表情が無い!
未完成なんだ。よく見てみろ!」
声が一オクターブはね上がった。
「個性の無いのっぺらぼうな顔だ。最後の仕上げを、
第二版の版型の押されるのを待ってる顔なんだ!」
その通りだった。私はこんな人間の顔を、今だ嘗て見たことは無かった。
しまりの無い顔なのでは無い。そう言っては明らかに間違いだ。
が、どことなく形が無いのだ。個性が欠けているのだ。
確かに人間の顔では無かった。”まだ”無かった。
その顔には人生と言うものの反映が無い。人生経験を完全に欠除した顔なのだ
そうだ ―― こうしか、私には言いようが無い顔だったのだ。
「これは誰なんだ?」
「分からない」
寺田は入り口へつかつかと歩いて行くと、
地下室から上へ行くための階段を顎で示した。
「その階段の下に小さな戸棚が有る。階段の下の空間を物置にしてあるんだ。
滅多に開けることも無かったんだが、ちょっと参考資料が必要になって ――
ここに有ったかなと思って探しに来た。すると”これ”がそこに ――
今君が見ているそのままの格好で横たわっていたんだ。
俺は驚いて飛びあがった。そこら中で頭をぶつけた」
彼は頭の天辺を触った。
「それから気を取り直して戻って来て、ここへ引っ張り出したんだ。
斉藤、死後硬直は死んでからどれくらい経って起きるものだ?」
「八時間から十時間だな」
「この体に触ってみろ」
私は台の上から男の手首を持ち上げてみた。柔らかく弾やかだ。
死体特有のしとっとした冷たさすら無い ―― いや冷たさは全く無い!
「死後硬直は来てないだろう?」
294アヘンN:2006/01/19(木) 11:25:20 ID:QKJWkKrv0
「来てはいない。しかし、死後硬直は必ずしも来るものとは限らないんだよ。
ある条件が揃った時は・・・」
私は口篭もって言い止めた。何と言って良いか分からなくなったのだ。
「お望みならこの体を引っくり返して見てもいいが、背中にも傷はないよ。
頭の中にもない。この男を殺した原因らしいものは、何一つないんだ」
私は躊躇った。しかし、私には法律上この体に触れる権限はない。
私はシートを拾い上げると、男の体に投げかけて隠した。
「もういい。何処へ行く?上か?」
「ああ」
寺田は頷いて出口を指した。そして、スイッチに手をかけて私達が出るまで待った。
居間に入ると、飯田さんが座るようにと我々を促した。
「飲物か何か欲しくないか?」
寺田が暫くして言った。保田さんは首を横に振ったので私も言った。
「俺も欲しくない。君らはどうぞ構わずやってくれ」
寺田もいらないと言って飯田さんを見た。飯田さんもかぶりを振った。
「俺達が君に来てもらったのはね、君が医者だからだ。しかし、それと同時に君が、
事実を事実として認める勇気のある男だからだ。
その事実がいかにも事実らしく見えない時にもだよ。
君は黒を白と言い立てるような男じゃない。」
私は肩を竦めて何も言わなかった。
「下のあれについて、まだ思ったことがあるか?」
寺田が訴えた。ニ、三秒の間私は黙ったいたが、やはり言う決心をして顔を上げた。
「ある。これは・・・これは意味をなさない言い方かもしれない・・・
全く、実に馬鹿げた言い方だろうが・・・俺は何をおいても、
あの体の解剖をやってみたいと思うんだが、その理由は・・・
君達、俺が何を発見するつもりで解剖したいのか分かるか?」
私は目を上げて居間の三人を次々と ―― 寺田、飯田さん、
それから保田さんと見回した。だが誰も答えない。
皆じっと座り込んだまま、私の言葉を待っていた。
「俺は、解剖してみても、死因は一つも発見出来ないと思ってるんだ。
いや俺は、あの体の内臓諸器官が、外側から見た体と同じように、
完璧なコンディションを持ってると思う。何もかもが完全な状態で・・・
295アヘンN:2006/01/22(日) 11:30:48 ID:CS4gQd6R0
今や動き始めようとしているのをね」
私はこの言葉を皆に考えさせるために一息入れた。それから付け加えた ――
喋りながら私は、そんなことを口にするのが、たまらなく馬鹿馬鹿しくなってきた。
だが、私の言う事の正しさを確信してもいたのだ。
「それだけじゃない。もし胃を切開したら、恐らく胃の中には何も入ってないと思う。
パン屑一欠けらも、およそ食物と名のつく物は、消化しているいないを問わず、
何一つ入ってないはずだ。生まれたばかりの赤ん坊の胃のように空っぽだ。
腸にしても同じことだ。これっぽっちの廃物もないはずだ。
要するに何もないんだ。何故か?」
私は三人の顔を再びぐるりと見回した。
「何故なら、俺は階下のあの男の死体が、死んではいないと思うからだ。
死因のないのは当たり前なんだ。何故なら、死んでいないんだから。
そして、死んでいないのも当然だ。
何故なら、あの男の体は生きていたこともないのだから」
私は肩を竦めて最後の言葉を言った。そして、長椅子の背に寄りかかった。
「以上だ。これで君のお気に召すほどオカシクなったか?」
「ああ」
寺田はゆっくりと、力を込めて頷きながら言った。
二人の女は黙りこくって、寺田と私を見守っていた。
「それでたっぷりオカシクなったよ。満足だ。俺は確かめたかったんだ」
「保田さん」
私は振り返って保田さんを見た。
「君はどう思う?」
彼女はかぶりを振って、額に八の字を寄せたが、やがて溜息をついて、
「私は・・・ただもう驚くばかり。でも、さっきの飲物、やっぱり頂きたくなりました」
みんなの顔に微笑が浮かんだ。寺田が立ち上がりかけたが、飯田さんに止められた。
「私がするわ、あなた。みんな飲みますね?」と言った。
我々は一斉に「イエス」と答えた。
飲物が渡されると、みんな一口ずつ啜った。やがて寺田が言い始めた。
「今君が言った、その通りのことを俺も考えた。妻もだ。しかも俺は妻に、
俺が感じたことを、一言も洩らさなかったんだよ。妻にアレを見せて、
今さっき君にしたと同じように、妻自身の考えを言わせてみたんだ。
296アヘンN:2006/01/22(日) 11:49:54 ID:CS4gQd6R0
実を言えば、メダルの例えは妻が言い出したことなんだ。俺達は新婚旅行の時、
ワシントンでメダルの製造を見たことがあった」
寺田は溜息をついて頭を振った。
「二人して一日中どうしようかと考えあぐねた。
その挙句、君に相談しようということになったんだ」
「すると君は誰にも話さなかったのか?」
「話してない」
「何故警察に知らせないんだ?」
「分からん」
寺田は私を見たが、口の端に微かな笑いが漂っていた。
「君なら警察を呼ぶかい?」
「いや」
「何故だ?」
ふと、私も苦笑いを洩らしていた。
「分からんよ。とにかく呼びたいとは思わないね」
「そうだろう」
寺田が我が意を得たという様子で頷いたが、それから暫くは、
四人ともじっと座ったまま、グラスの酒を啜っていた。
寺田がやがて、のろのろと言い始めた。
「俺は何か・・・これが警察を呼ぶだけで、すまされないことのような気がする。
警察に届けて、責任を彼らに押し付け、心配を他人任せにしておく時ではないような
・・・そんな気がするんだ。警察に届けて、彼らに事実上何が出来ると思う?
”あれ”はただの死体じゃない。そのことは俺達には分かっている。
あれは・・・何か恐るべき物なんだ。何かは分からない、
だが・・・俺には一つだけはっきり言えることがある・・・
どう言う物か、それだけは絶対の自信がある・・・
つまり、今ここで絶対に誤りを冒してはいけないということだ。
今それを誤ったが最後・・・何か恐ろしいことが必ず起きようとしているんだ・・・」
「それじゃあ、例えば何をすればいい?」
私は口を挟んだ。
「俺にも分からない」
寺田は顔をそむけて窓外をちらりと見た。
297アヘンN:2006/01/25(水) 21:10:09 ID:8CxUH/mD0
それから、私達を見返すと微笑を浮かべた。
「ただがむしゃらに・・・官邸に電話をかけて、総理を直接呼び出したいよ。
陸軍大臣でもいい・・・警視庁長官でも、海軍の司令官でも、誰でもいいが・・・」
彼は自ら楽しむような歪んだ笑いを浮かべて首を振ると、その笑いを消した。
「斉藤、つまり俺は、誰か当局者に来てほしいんだ。誰でもいい、出発点から、
いかにこれが深刻なことかを理解してくれる人物であればいい。
そしてその人物に・・・一刻も早く間違いを冒さず、打つべき手を打ってもらいたい。
少なくとも俺はこれが、地方警察を相手にする種類の事件でないことだけは
確信があるんだ。これは官邸に直接・・・」
同じことを繰り返しかけてるのに気付いて、寺田は肩を竦め、口をつぐんだ。
「分かるよ」
私は言った。
「俺も君と同じ気持ちだ。俺らの肩には、この問題を正しく扱ってほしいという、
世界の熱望がかかっている・・・そんな気がするよ」
医学の世界では、時折、非常に難しい問題に直面している時、不意に・・・
どこからともなく、その問題の解答か鍵が飛び出して来ることがある。
潜在意識が働くのだろう・・・私はいきなり言った。
「寺田、君は身長何センチある?」
「178cmだ」
「君は階下のあの男は、どのくらい背が有ると思った?」
「178cmくらいかな」
「君は体重はどれくらいある?」
「64kgだ」
と言って彼は頷いた。
「そうだ、階下の男と殆ど同じだよ。君の言う通りだ。背丈や体重だけじゃなく、
体付きも俺そっくりだ。ただ、顔が特に俺に似てはいないな?」
「誰にも似ていないのさ。君の所にスタンプ台はあるか?」
寺田は飯田さんの方を振り返った。
「あったかな?」
「何が?」
「スタンプ台だよ」
「ああ、あるわ」
298アヘンN:2006/01/25(水) 21:11:32 ID:8CxUH/mD0
飯田さんは立ち上がると、寺田の仕事机の方へ行った。
「確かこの辺にあったはず」
スタンプ台はすぐ見つかった。飯田さんが取り出すと、寺田が受けとり、
別の引き出しを開けて、便箋を取り出した。私は机の方へ歩いた。
保田さんも続いた。寺田は右手の指にインクを付けると、
その手を私に向かって差し出した。私はその手を取って便箋の上に乗せ、
注意深く一本一本転がすようにして押し付けた。
便箋一杯に明瞭な、鮮やかな指紋が取れた。
それから、私はスタンプ台と便箋を持って、
「君達も来るかい?」
と、女達に向かってドアを顎で示した。二人は互いに顔を見合わせた。
二人はあの撞球台のところへ、また行きたくはなかったのだろうが、
かといって、二人だけでこの部屋に取り残されて、待っているのも嫌だったのだ。
保田さんが言った。
「行きたくはないけど、でも、行きます」
そして、飯田さんを振り返ると、彼女もこくりと頷いた。
階下に下りると、寺田が撞球台の灯りを捻った。私は死体の右手首を取り上げ、
顔の方は見ずに手に視線を集中した。死体の五本の指にインキをつけると、
さっき寺田の指紋を採った紙に、死体の指紋をつけた。
紙に写った指紋を見た時、保田さんが思わず声をあげた。
みんな胸がむかついていた。”生きたことのない”死体・・・言わば、
無地の死体というものを、むろん考えていたからでもある。
だが、その考えが今、目の前で現実に証明されるのを見るのは、
考えるのとは別問題だった。それは・・・何か我々の頭脳の奥深くにある、
原始的な本能に触れられる思いだった。そこには指紋がなかったのだ。
指のあとは一点のかすれもなく、黒々とした円形を描いて、
五つくっきりとついていた。私はその指を紙で拭いてインキを拭い取った。
四人とも腰を屈め、電灯の下に集まり、インキに黒ずんだ指の先をじっと見た。
五本の指は、生まれたての赤ん坊の頬のように滑らかだった。
飯田さんが静かに呟くように言った。
「あなた・・・私、気持ちが悪くなる」
寺田が振り返って妻の体を抱き止めた。飯田さんは腰を屈めて倒れかかっていた。
299アヘンN:2006/01/25(水) 21:12:35 ID:8CxUH/mD0
寺田は妻を助けて階段を上った。
再び居間に戻って椅子に腰を下ろしながら、私は思わず頭を振っていた。
「寺田・・・君がさっき言った通りだよ。”あれ”はただの死体じゃない。
生きたことのない死体だ。まだ未完成で、しかも刻一刻と、
最後の仕上げを待っているんだ・・・」
彼は頷いた。
「どうしたらいいだろう、斉藤?君に何か知恵はあるか?」
「ある」
私はそう言ったきり、ちょっと寺田を見返して黙っていた。
「だが、これはあくまで一つの提案だよ。もし君がこの提案に従いたくなくても、
誰も君を責めはしない」
「何だ、それは?」
「単なる提案として聞いてくれよ」
私は飯田さんに振り返った。
「奥さんにも言っておきます。もし奥さんがそんなことは出来ないと思ったら、
始めからやらない方がいいんだ。分かりますね?」
私は寺田に向き直った。
「”あれ”をいまのまま階下のあの台に置いて、今夜君は寝るんだ。
俺が何か睡眠剤を処方してやる」
私はまた飯田さんを見た。
「だが、あなたは起きているんだ。一分でも寝てはいけない。そして一時間・・・
いいですか、あなたにこれが出来ればですよ・・・一時間ごとに階下へ下りて、
あの・・・”あれ”を見るんです。そしてもし、ほんの少しでもあれに変化を認めたら、
急いで寺田を起こす。そして二人ともすぐに家を離れる。そして俺の家に来るんです」
寺田は一瞬妻を見て、言った。
「もし君が耐えられないと思ったら、断るんだよ」
飯田さんはじっと座ったまま唇を噛んで、しばらく絨毯を見つめていたが、
やがて目を上げると最初私を、それから寺田を見た。
「どんなふうに・・・あれは・・・どんあふうになるの?もし変化が現れてくると」
誰も答えなかった。息詰まる一瞬ののち、飯田さんは再び目を絨毯に落とした。
そして、二度とその質問を繰り返さなかった。
「主人はすぐに起きてくれるんですか?いつでも起こしていいんですか?」
300アヘンN:2006/01/25(水) 21:15:11 ID:8CxUH/mD0
「いいですよ。なんなら頬をピシャリとやればいい。何も起きなくても、
もし奥さんがこれ以上我慢出来ないと思ったら、彼を起こしなさい。
そして二人とも俺の家に来たあとは、よかったらずっといても構わない」
飯田さんはゆっくりと頷くと、また絨毯を見つめた。やがて口を開いて言った。
「出来ると思います」
飯田さんは寺田を見上げて、苦い微笑を浮かべた。
「いつでも主人を起こしていいなら、私、出来ると思う」
「私達、圭織と一緒にいてあげたら駄目なんですか?」
保田さんが堪りかねたように言った。
「何とも言えない。いいのかもしれない・・・が、俺は何となくそれでは駄目な気がする。
何故か分からないが、ここにいるべき人はこの家の人間でなければいけない、
そうじゃないと実験の意味がない、とそんな気がする。根拠はないんだが・・・
寺田と奥さんだけがここにいなければ駄目だと思うんだ」
寺田が頷いた。そして妻の方に念を押すような視線を送ると、私に向き直った。
「やってみよう」
それからしばらく、我々はそこに座ったまま話し続けた。随分長い間話し続けた。
誰一人、今までの話題に触れようとしなかった。そして十二時頃、
町の灯がほとんど消えた頃、私と保田さんはようやくキリをつけて立ち上がった。
寺田夫婦は身支度をして、我々と一緒に寺田の車を拾いに行った。
彼らが車を下りた時、私はもう一度飯田さんにさっきの注意を繰り返し、
地下室の男の体が少しでも変化を起こしかけたら、寺田を叩き起こして、
急いで家を離れるようにと言った。そして手提鞄から数粒の睡眠剤を取り出して、
これだけ飲めばすぐに眠れると寺田に渡した。そして互いの車に乗りこんだ。
暗い人通りの絶えた街路を車は走った。保田さんの家に向かう途中、
ふと彼女が静かに言った。
「ねえ斉藤さん・・・あれは、これに関係があるんですか?
あの男の体と紺野のあれとは?」
私は素早く保田さんの顔に視線を送った。
が、彼女はフロントガラスの前方の闇の中を見つめていた。
「君はどう思う?」
私はわざと、何気なく言った。
「君は関係あると思うかい?」
301ねえ、名乗って:2006/01/25(水) 21:34:07 ID:8CxUH/mD0
で、姫よ、読めてる?義理で読んでるなら止めるけど。
なんで姫のためにここまでするんだろう、俺。
女のために横領する駄目人間みたいなんですけどw
って、boy&girlの方も改変始めてるんだけど・・・w
302ねぇ、名乗って:2006/01/26(木) 02:08:12 ID:gVuRQVJO0
月刊にすればいいと思うの。
のんびりやりましょうよ。
303ねえ、名乗って:2006/02/05(日) 11:08:08 ID:hnqVkhUj0
「はい」
彼女は私を振り返って確かめようとせず、分かりきったことと思ってる様子で、
ただ頷いた。そして少し経ってつけ加えた。
「紺野のようなことが他にもありました?」
「二つ三つあった」
だが、それきり保田さんは何の反応も示さず、何も言おうとしなかった。
車はやがて保田さんの家の近くの通りに入り、家の前の歩道の縁石に車を停めた。
その時、不意に彼女は言い始めた。
「斉藤さん・・・私、映画のあとでこれを話そうと思ってたんです・・・」
言いさして、保田さんは吐息に似た息を吐いた。
「昨日の朝から・・・」
ゆっくりした物の言い方が、気を鎮めようとする努力をうかがわせた。
「私、変な気が・・・父が・・・父がどうしても父でないような気がするんです!」
そして、我が家の暗い灯影のポーチに、恐ろしげな一瞥を投げると、
保田さんは両手で顔を覆い、声をあげて咽び泣き始めた。
私は泣き出した女の扱う経験は豊富じゃないが、ここは賢明に、
しかも思慮深く振舞うことにした。私は保田さんを抱き寄せ、
彼女の咽び泣くままに任せた。正直それ以外どうしたら良いか、
何を言ったら良いか分からなかった。今夜、寺田の家の地下室で”あれ”を見た上は、
保田さんが父親を、父親そっくりの偽者だと信じているとしても、
それをどう言い伏せる術も私にはなかったからだ。
静かな深夜の街路上に停めた車の中で、そうやって我々は暫くじっとしていた。
やがて啜り泣きに移ったのを見計らって私は言った。
「今夜は俺の所へ泊まったら?俺は長椅子か何かでも寝れるよ。
君には一部屋提供するから・・・」
「いいんです」
彼女は座り直して、震える手でハンドバッグをまさぐった。
「私は別に怖くはないんです、斉藤さん」
静かな声だった。
「ただ、堪らなく切ないだけです」
彼女はコンパクトを開いて、パフで涙のあとを直した。
「何か父が病気にかかって、正気を失っているような・・・」
304ねえ、名乗って:2006/02/05(日) 11:21:47 ID:hnqVkhUj0
彼女はそこで言葉を切って口紅を塗り、鏡で化粧の出来映えを観察した。
「さあ、お別れしなきゃ時間が・・・」
彼女は言って、コンパクトを音高く閉め、私を見上げて微笑した。と思うと、
不意に私に寄り添って、唇に強く温かい素早いキスをして・・・。
車のドアを開け道に下り立った。
「お休みなさい、斉藤さん。明日の朝、電話してください」
私は彼女の後姿を見送った。その間私は今日一晩の保田さんについて、
思い巡らしては頭を振っていた。結局彼女はただの友達ではおさまりそうもなかった。
私は苦笑いすると車を走らせた。私は彼女を好いてはいる。魅力を感じてもいる。
だがそれほど苦労することもなく、彼女を心の外に追い出すことは出来るのだ、
と私は自分に言い聞かせ、実際にそうした。
そして私は、静まり返った夜更けの町に、車を走らせながら寺田夫婦のことを考えた。
今頃寺田はもう眠っているだろう。そして飯田さんは恐らく居間にいて、
窓から町を見下ろしていることだろう。そして、そうしている居間の、
すぐ下の地下室の撞球部屋に、長々と横たわっている”あれ”の恐怖と、
必死で戦っているだろう。やがて彼女は勇気を奮い起こして地下室へ下りて行き、
電灯のスイッチを点け、目を恐る恐る、撞球台の上に横たわる、
白蝋のように蒼白い物体の上に注ぐのだ・・・。
それからニ時間ほど経って電話が鳴った時、私は深い眠りに落ちていた。
私は電話に手を伸ばしながら時計を見た。三時だった。
「もしもし」
私が言うか言わないうちに切れた。私は確か二回目のベルが鳴り止まないうちに、
受話器を取ったはずだった。
「もしもし!」
私はもう一度声を高めて言った。しかし既に切れていた。私は受話器を戻した。
私は寝台の端に腰掛けながら悪罵をついた。何もかもが面倒だった。
電話にも、騒ぎにも、不思議な事件にもうんざりしていた。
その時だ、ベルの音が響き、玄関のドアを荒々しい手が叩いた。寺田夫婦だった。
飯田さんは何かに憑かれたような目を見開き、凄く蒼白な顔で、
口をきくことも出来ない様子だった。二人は最小限の言葉で話しながら、
彼女を半ば担ぐようにして、寝室のベッドに寝かせた。
私は鎮静剤の静脈注射を一本打った。
305ねえ、名乗って:2006/02/12(日) 11:29:25 ID:HVVQNv+c0
寺田はベッドに腰掛けて、長い間妻を見下ろしていた。
おそよ三十分くらい彼は、妻の手を握ったまま目を顔から離さなかった。
私は自然な調子で言った。
「奥さんは五、六時間は眠るよ。それからお腹を空かして目を覚ます。
そうしたらもう大丈夫だよ」
寺田は頷いた。それでも何分か彼女の顔を見つめてから、ようやく立ち上がって、
ドアの方へ歩いた。私もあとに続いた。
居間で私達は互いに離れて部屋の片隅に座り、飲物を啜っていた。
やがて寺田が床に目を向けたまま話し始めた。
「妻がシャツの襟元を掴んで、俺を揺すって起こした。
そして俺の顔を思いきり叩いた。妻の声が・・・俺を呼んでいるというのじゃなく、
ただ俺を押し殺した調子で、呻いていたと言った方が良いか・・・<あなた・・・あなた・・・
あなた・・・>と言うふうに・・・」
彼は生々しい記憶を甦らせて頭を振り、手にした酒をがぶりと一口飲んだ。
「俺が目を覚ました時には、妻はヒステリックになっていた。
部屋を横切って走ったかと思うと、君の所へ電話をかけた。
そして、二秒ほど待ったが、待ちきれなくなったのか、
受話器を叩きつけるように戻すと、俺に向き直って泣き出したんだ。
それが、部屋の外に聞かれまいとするように静かにそっと泣いているんだ」
寺田はそこでまた頭を振った。
「俺は妻の手首を掴んで引っ張りながら、
ガレージに通じる地下室の階段を駆け下りだした。
すると妻は必死になって抵抗するんだ。俺の手から逃れようと手首を引き、
俺の肩を突き退けようとする顔が野獣のようだった。
もし俺が上手く交わさなかったら、俺の顔を爪で掻き毟っていただろう。
そこで已む無く玄関から出て外の階段を下りた。
ところがそうまでしても、妻は絶対にガレージに・・・
というより、地下室のそばへ寄ろうとしないんだ。
俺がガレージから車を出してくる間、妻は道路で、
それも家からかなり離れた所で待っていた。妻が何を見たのか俺ははっきり知らない。
しかし斉藤、想像は出来る。君にも出来るだろう。
とにかく俺には自分で確かめている余裕がなかった。
306ねぇ、名乗って:2006/02/15(水) 18:15:52 ID:jwi8XDqC0
まだ投票されてない方は投票お願いします
http://tv8.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1139681295/l50
307N:2006/02/26(日) 11:21:27 ID:wdkKvhnp0
なにより、妻を家から連れ出さなくてはならないと、そればかり考えた。
妻はここへ来る途中も何も言わなかった。ただ身を縮めてブルブル震えながら、
座席に縮こまっているんだ、俺にしっかりと身を寄せて・・・
妻は口の中で言い続けていた・・・<あなた・・・ああ、あなた、あなた、ああ・・・>」
しばらくの間、彼は私を暗い目で見つめていた。
「これで少なくとも実験の成果は上がったわけだ」
そう言う彼の口調には、穏やかな中に苦々しさがあった。
「実験が成功したら、今度は何をすればいいんだ?」
私には分からなかった。私は首を振って呟いた。
「それを一目見たいものだな」
「俺も見たい。しかし今は妻を一人残して行く気にはなれない。
もし途中で目を覚まして俺を呼んだ時、俺がいなくて・・・
しかも家が空っぽだったら妻は気が狂ってしまうよ」
私は答えなかった。誰にでも時折起こり得ることだが、極短い時間に、
長い思考の過程を一気にやってしまうことがある。ちょうどこの時の私がそうだった。
寺田がまだ話している間に、私はただ一人彼の家に車を走らせてから、
暗い地下室に横たわる物体に目を注ぐまでの想像をした・・・
そこまで考えて、私はそれを恥じた。私は飯田さんにさせたことを、
自分ではやりたがらないでいるのだ。いやだ、到底一人では・・・。
私は自分が行かない口実を見つけようと忙しく考えていた。
今彼の家に行っている時間はないのだと、自分に言い聞かせた。
それよりも、一刻も早く行動に移らなければならにのだ。
何か始めなければ・・・そして、私は恥の捌け口を寺田に向けていた。
「寺田・・・グズグズしている時じゃない。とにかく何か行動を始めなければいけない!
君はどうしたら良いと思う?何か考えはないのか?
俺達は何をしたら良いんだ。頼むから何か言えよ!」
私の声はヒステリックに昂ぶっていた。それは私自身分かった。
「俺には分からない」
寺田はひどくノロノロと言った。
「しかし、軽率なことは出来ないと思う。
俺達はこれが絶対に正しいと確信出来ることをしなければならない・・・」
「それは夕方にもう聞いたよ!そして俺はそれに賛成したじゃないか!
308N:2006/02/26(日) 11:58:18 ID:wdkKvhnp0
今はその正しいことが何かを考えるんだ!
このままこうして、その絶対正しいことが俺達の前に出てくるまで、
いつまでも待っていることは出来ないんだ!」
私は寺田を睨みつけて吠えていた・・・しかし、私はあることを思いついて、
ようやく自制を取り戻すことが出来た。私は急いで部屋を横切り電話をかけた。
彼の声が電話に出たので私は言った。
「柴田か?」
「そうだが・・・」
「斉藤だ。ちょっと問題が起こった。ぜひ君に相談したい。
出来る限り早く会いたいんだ。それも場所は俺の家でないと都合が悪い。
出来るだけ急いでこっちに来てくれないか。重要なことなんだ」
柴田は勘の鋭い男だった。飲み込みが早く、
相手に二度同じことを説明させたりしない。一瞬の沈黙ののち柴田が答えた。
「分かった」
私は果てしない安堵を感じながら、元の部屋へ歩いた。
部屋に戻り座ろうとしたその時だ・・・恐ろしい考えが頭に閃いた。
体全体に冷たい汗が噴出した。突然あることを思い出したのだ。
全く私はどうかしていた。これほど明瞭で恐るべき危険には、
とっくの昔に気付いていなければならなかった。恐怖に心を満たされながら、
今は一秒も無駄に出来ないと思った。行動する以外の何も省みる余裕はない。
動け、走れと心は言った。寺田のことも柴田のこともみんな忘れた。
玄関のドアを突き開け、戸外の夜の中へ走り出て、車に乗り込んだ。
そして、暗い人気のない町の街路を狂ったように走らせた。

保田さんの家に何時着いたのか、私には全く覚えがない。
とにかくその時、心臓は破れそうな動悸をしていた。
私は地下室の窓という窓を調べた。しかし窓には全部鍵がかかっていた。
仕方なくコートの裾を拳に巻き付け、窓ガラスを割った。
そして割れ目から手を差し入れ、窓の鍵をはずして窓を開いた。
地下室の床に立った時、懐中電灯を持ってきてたのを思い出しつけてみた。
弱々しい懐中電灯の光では、一、二歩先以上は照らせなかった。
私は暗い地下室の中をソロソロと進んで行った。
309ねぇ、名乗って
>>306
2ちゃんに多数決はないと何度言えば・・・