同時刻、清水佐紀・梅田えりか・村上愛・岡井千聖の4人は摩天楼にいた。
狙いはもちろんあの4人の出場資格テストである。
「おいおいガキども、ここが何処か分かっているのか?」
「あなた方が摩天楼で有名なメロン一味ですね」
ボス斉藤の脅しに少しも屈せず、清水佐紀は淡々としゃべった。
すると隣の村上愛が一言付け加える。
「…弱くて有名な」
「んだとゴラァ!!」
メロンの斉藤・大谷・村田は怒りを露にする。
摩天楼には子供だから許されるというルールは無い。
「半年後、地上最強を決する一大イベントが開催されることはもうご存知ですか。
私達はその出場資格のテストに伺ったのです。私達に勝てればテストは合格。
もちろん出る気がないのでしたらこのまま帰りますが。どうされます?」
「ごちゃごちゃうるせえ!!!」
清水の説明に構うことなく、斉藤は殴りかかってきた。
「テスト開始、と受け取ります」
と言うと清水はスッと斉藤の打撃を受け流す。
しかしその打撃はフェイント。斉藤瞳は寝技のスペシャリストである。
「ぬるいですね」
「なにぃ!!」
「寝技に自信があるようですけど、まだまだたいしたことはありません」
プロジェクトK最大派閥・嗣永派のNo2清水佐紀。
彼女は古武道の使い手である。長い歴史に培われた寝技の技術も備わっている。
大柄な斉藤を小柄な清水が完全に支配していた。
「ちなみに…私よりグラウンドを得意とする娘がKにはあと二人程いますので」
その台詞が耳に入る前に、斉藤は締め落とされて意識を失っていた。
「うらああああああああああああ!!!!」
一方、メロンきってのパワーファイター大谷雅江は激しい打ち合いを演じていた。
相手はこれまたプロジェクトKきっての打撃屋、梅田えりかである。
一見互角の打ち合いの様に見えるが、実は一方的な展開となっていた。
大谷の拳も蹴りもすべて見切られている。当たっているのは梅田の拳ばかり。
「あいつ(嗣永)に比べたら、ちっとも怖くない」
梅田の右フックがアゴをとらえ、大谷はグラッと頭が揺れる。
(ゴッ!冗談じゃねえぞ…こんなガキどもに…負けてたま…)
大谷が立ちなおそうと堪えた瞬間、渾身の左ストレートが鼻柱に入った。
負けられぬという意識も一発で飛ばされる一撃。
メロン一のパワーファイター・大谷雅恵。敗北。
メロンで一番厄介な相手。それはもしかするとこの村田めぐみかもしれない。
変則的で予測不能な戦闘スタイルは相手を混乱に陥れる。
かつて小川麻琴も苦戦を強いられた程の使い手だ。
「ニャハハハハ」
しかし少女はそれをむしろ楽しんでいた。
プロジェクトKでもっとも予測不能な少女・岡井千聖である。
村田のどんな変則技もスルリと対応してしまっている。
「ど、どうやらこの私を本気にさせてしまったみたいですわね」
「おー!次はなんだ!?」
村田はおもむろにマスクをかぶる。あのメロンマスクXが再び蘇る!!
さっきまでとはまるで別人。言動も、佇まいも、全てが異様。
さらに変態度を増した動きで敵を翻弄する…かにみえたが。
「マスクかっけー!!」
なんとXをさらに上回る動きで逆に岡井が翻弄している。
「そ、そんなバナナ…」
「あーでももう飽きちゃった。バイバイ」
岡井はXの肩を掴むと簡単に外してみせた。ひびく悲鳴。
マスクもはぎとられた村田、完全敗北。
摩天楼最強と称されたメロンの3人が、子供相手に何もできず敗れる。
もはやプロジェクトKの実力は疑いないものと証明された。
「あと一人。いないよなぁ。何処にいる?」
村上愛が地面に転がる3人に尋ねる。
始めから狙いはその女であった。あの高橋愛と拳を交えたことがあるという女。
どちらが上か?どちらが高橋へのリベンジ権を得る資格があるか?試してみたいと思った。
「クハハハハハ!」
突然、目を覚ましたメロンのボス斉藤が高笑いを上げ始めた。
「何を笑っている?」
「村田さん。もう完成しているんだよなぁ!」
「ええ」
「クハハハハハ調子にのりすぎだぜガキども。お前等もここまでだ」
斉藤の高笑いと共に正面の建物の扉が開く。
コッコッと足音を立てて一人の美しき娘が姿を見せた。
Kの子供達を見ても、その傍らで倒れている3人の仲間を見ても、顔色一つ変えない。
柴田あゆみである。
すぐに攻撃しようと思っていた村上愛はピタリと動きを止めた。
彼女の持つ異質さに気がついたのだ。
「なんだ?こいつ…」
「どうした愛?あんたがいかないなら私が頂くぜ」
「おいらも頂きっ!!」
じっと固まる村上に痺れを切らした梅田と岡井が、柴田へ向かって飛び込む。
「ちょっと待って、二人とも!」
様子が変だと感じ取った清水が声をあげるが間に合わない。
先手を取ったのはスピードもある岡井だった。変則的な動きですぐに柴田の右腕を取る。
柴田は防御どころかまだ身動きすらしていない。
「折っちゃうぞっと!」
予告どおり。岡井千聖はあっというまに柴田の右腕を逆へ捻じ曲げた。
しかし柴田はまるで反応示さない。
そこで岡井は初めて気が付いた。この感触は人の腕のそれではない。
次の瞬間、想像を絶する光景が目の前に起こる。
なんと!折れたはずの右腕がググッと180度に回転し、反動で岡井を投げ飛ばしたのだ!
投げ飛ばされてきた岡井にぶつかり梅田もその場に倒れる。
冷静な清水佐紀の額にも汗が浮かび上がっている。
ひきつった笑みを浮かべながら村上愛は言った。
「あんた、人間捨てたか」
柴田あゆみは、未だ表情の無い顔で闇の子供たちを見下ろしていた。
「サイボーグだ!あゆみはもう、私が改造した戦闘サイボーグとなった!!」
村田が高らかに声を発する。
そしてようやく柴田あゆみが自ら口を開いた。
「最強となれるならばもう、人で無くともよい」
高橋愛に敗れ、辻希美に敗れ、道重さゆみに敗れた。
極限にまで傷つけられた柴田あゆみのプライドが、彼女をこの道に歩ませた。
そして手に入れた人を超えし強さ。
「えりか!愛!千聖!ここは一旦引いた方がいいわ」
つんくや平家の指示を仰いだ方がいいと清水佐紀は判断した。
さっきまであれほど暴れていたKの少女達が、明らかに動揺している。
梅田は清水に頷いた。しかし村上は納得していない。
「敵に尻尾をまいて逃げるつもりはない!」
「愛!あなたならば敵の強さが判断できるでしょう!」
わかっている。どう低く見積もっても強い。
伝わってくる異質さが並大抵のものではない。
人間が人間のままで手にすることのできない強さを手にしてしまっている。
あるいは本当に『最強』の座をさらってゆくかもしれぬ程に。
「それでも…私は逃げない!」
一触即発となったそのとき、もう一人の少女・岡井千聖が予測不能な行動に出た。
「サイボーグ!かっけー!!」
顔を輝かせながらパッと起き上がると、懐からチケットを取り出す。
そして自分をふっとばした相手に近づくとそのチケットを差し出した。
「おいらの負けだぁ!だからサイボーグの姉ちゃんには資格があるよ」
「千聖!」
「佐紀ちゃん。おいらは間違ってないよ。強い奴を決める大会だもん」
岡井千聖はニッと笑った。
Kの少女らしからぬ笑みであった。
柴田あゆみは黙ってそのチケットを受け取った。
「やれやれ仕方ないわね。これでここでのテストは終わりよ。愛もいいわね」
「…ええ」
「ほいじゃあなサイボーグの姉ちゃん。頑張れよ」
こうして、嵐のようにKの少女達は去っていた。
テスト合格者は柴田あゆみだけ。しかしその強さ、今までの彼女とはケタが違う。
360度回転可能な肘や膝を組み込まれた彼女に関節技は通用しない。
その攻撃力も防御力も強大。無尽蔵のスタミナ。すべてが最強と呼ぶに値するもの。
…ただ、もはや人間とは呼べないが。
サイボーグしばた バトル・サバイバル出場決定!!
業界では名の知れたムエタイ道場がある。
そこに今、タイの現役チャンプが来日しているとの情報が舞い込んだ。
向かったのはもちろんムエタイ使いの嗣永桃子。
そして嗣永の腰ぎんちゃく石村舞波と、何故か最年少の荻原舞も一緒だ。
「チャンプは私がやる。お前等は周りのザコの相手でもしてろ」
「へっへーもちろんですよ桃子さん」
「ワクワクするのれしゅ」
嗣永桃子はプロジェクトK最大派閥の長。その強さには自信をもっていた。
だからムエタイチャンプを倒して、マスターの評価を高めようと画策していたのだ。
ところがその考えは思わぬ方向に転がることになる。
3人がムエタイ道場の扉を開けたとき、チャンプはリングの上にいた。
ものすごい戦気。対戦相手の顔は影になっていて見えない。
ゴングが鳴った。
ムエタイチャンプのキックがもの凄い速さで対戦相手の頭を狙う。
すると、それ以上に速いタックルで対戦相手はチャンプを倒してのけた。
次に聞こえたのは骨のくだける音とチャンプの悲鳴。
その場の誰もが声を失った。
ムエタイチャンプを秒殺できる者など…そうお目にかかれる者ではない。
振り返るその顔がKの3人に気付く。同時に彼女の名をあげるコールが響いた。
『勝者!アミーゴ・ロムコー!!』
第35話「プッチ公園の落日」終わり
次回予告
次々と名乗り出る最強候補の猛者たち。
いよいよ出揃うバトル・サバイバル全出場選手。
「生きていろ、高橋」
今、すべての道がひとつに繋がる。
To be continued