小説「ジブンのみち」part3

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6辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe.
第26話「最強チーム完成!」

夏美会館館長室に安倍なつみ、辻希美、矢口真里の3人が顔を揃えている。

「…と言う訳で5人集めることになったの」

ちょうど、なっちが矢口に昨晩の出来事を語り終えた所だ。
矢口は腕を組みながら、考え事をしている。

「…要は3勝すればいいんだろ。おいら達3人でも十分じゃん」
「そうなんだけどね。だからと言ってあとの2人が誰でもいいって訳にはいかないでしょ」
「生きて帰れる保障はないって言ってたのれす」
「フン。笑わせるじゃんか」
「本当にね」
「つーかあと2人って、普通に考えたら高橋と藤本しかいねーだろ」

もちろんなっちも、辻も、おそらく敵さんも、そのつもりである。
安倍、辻、矢口、高橋、藤本。
考えうる最強メンバーであり、負ける要素がまるでない。

「そうだね。じゃあののは高橋、矢口は藤本の説得をお願いね」
「逆の方がいいでしょ。負けた相手に直接言われたくないだろうし」
「うん。それじゃののはミキティれすね」
「高橋はおいらが引っ張ってくるよ。ところで、あんたはどうするんだ?」
「なっち?なっちは…もしもの保険に一人当たっておくよ」
7辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:00 ID:RI71w7/3
強い風が吹いている。
福井の北部を流れる九頭竜川のほとりに、高橋愛は立っていた。
突き。
蹴り。
受け。
強風の中で身体を崩すことなく、一連の動作を繰り返す。
敗北して戦いに迷う様になってからも、トレーニングを怠った日はない。
体が勝手に高橋流を求めてしまうのである。
心だけが…おろおろ不安定に揺れさ迷っている。
本当は自分がどうしたいのかわかっている。
もう一度、戦いたい。
もう一度、地上最強の夢を追いかけたい。
それが不可能であるという苦い想いが本心を遮っているのだ。
石黒彩の姿。
吉澤ひとみの姿。
最強を追い、届かなかった者の末路。
あれが自分の将来の姿なのではないか!?

「ふぅ…」

息を吐いて、愛は身体の動きを止める。
こんな気持ちのままトレーニングを続けた所で、強くなるとは思えない。
足を止め額の汗をぬぐった。
(―――!)
8辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:01 ID:RI71w7/3
そのときだ。愛は背後の草むらから強烈な気配を感じ取った。
まるで野生の狼のような気圧。
草むらの中をジワジワと近づいてくる。
愛は振り向かず、気配だけでそれを待った。
振り向いた瞬間に襲い掛かってくるように思えたのだ。
神経を張り詰める。
狼の気配は間合いのギリギリで動きを止めた。
もう一歩で、振り向きざまの蹴りがヒットする距離だ。

また、強い風が吹いた。

それに合わせて狼の気配が飛び出してきた。
愛は体を折りたたむと、後ろ回し蹴りを放つ。
狼の手と愛の蹴り足が交差して、そこだけ風に隙間ができる。
愛は地に手を付けるとそのまま体を捻って、もう一方の足も蹴り上げる。
すると狼は体勢を一瞬にして低く下げ蹴りをかわし、ぶつかってきた。
体当たりを受けた愛は、そのまま組み付かれない様に二三度バク転して距離をとる。
不思議と狼は追いかけてこない。
顔を上げて愛はそこに立つ狼の顔を見た。
そしてニィっと微笑んだ。

「タチの悪い挨拶やわ、矢口さん」
「とりあえず、トレーニングをさぼってはいないみたいね。安心したよ」

野生の狼の気を有する女――――矢口真里も微笑み返した。
9辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:05 ID:RI71w7/3
「闇のチームと5vs5…」
「そうよ」

矢口と愛はそのまま再開した堤防の草むらの上に座った。
そして矢口の口から例の話を持ち出されたのだ。

「それに私が出場するんですか」
「嫌なの?」
「…選ばれたのは光栄やけど、私はそんな強くないですし…それに」
「それに?」
「今は闘うことに迷っているんです」

風が吹いた。
愛のポニーテルが揺れる。
矢口は唇を吊り上げて、頭をかき回した。

「迷うとか、おいらわかんないけどさ。まぁいいじゃん、来てよ」
「でも私は闘え…」
「大丈夫!大丈夫!闘いたくないなら闘わなくてもオッケー。
 だっておいらと安倍なつみと辻がいるんだぜ。悪いけど出番回ってこないから」
「…見ているだけでもいいんですか?」
「むしろ、おいら的にはそっちの方がオッケー。出番とられずに済むしぃみたいな」
「それなら…わかりました」
「本当!じゃあ前日に夏美会館集合ね。キャハ!」
10辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:06 ID:RI71w7/3
なんとなく矢口の勢いに押されて返事した気がした。
だけど見るだけなら、見てもいいと思っていた。
光と闇の最強を決する試合。
あるいは今迷っていることの答えが見つかるかもしれない。

「ところでさ、高橋。腹減らない?」
「は、はい」

それから矢口の提案でソースカツ丼とおろし蕎麦を食べにいった。

「一度食べてみたかったんだよねぇ。だから高橋を選んで…」
「はぁ?」
「ああ、こっちの話」

「じゃ、待ってるから」と満足気に矢口は帰路についた。

そして約束の日、愛も一路東京へと向かう。
11辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:07 ID:RI71w7/3
「4人目、ご到着〜!」

陽気な矢口の台詞で愛は迎え入れられる。
深夜の空手道場。この広い空間にいるのは自分を含めてたったの4人だけ。
愛と矢口真里と辻希美、そして安倍なつみだ。

「悪かったね。こんな危険なことに巻き込んで」

愛は夏美会館とは少し前まで敵対していた関係だ。
何を言われるかと思ったが、安倍なつみは意外にも優しい声をかけてくれた。

「いえ、闘わなくてもいいって言われたから…」
「アハハ、おいらが言ったの。いいでしょ、なっち。高橋を5番目にすれば」
「ののはいいれすよ」
「そうね。なっちも大将でのんびりするつもりなかったし」
「決定!愛ちゃんが大将なのれす!」

大将。と言われて恥ずかしくなってきた。
これだけ凄いメンバーの中で自分が大将とは、何だか申し訳なくなってくる。

「ところでさ、藤本は?」

矢口が質問すると、途端に辻は肩を落として凹んだ。

「ごめんなしゃい。結局あえなかったのれす」
12辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/29 00:08 ID:RI71w7/3
この一瞬間、辻は何度も藤本美貴を訪ねたらしい。
けれどずっと家に戻らず、電話も繋がらなかったそうだ。

「マジで〜。どーすんの?」
「ごめんなしゃい」
「いや別に辻ちゃんを責めてはないけどさ。ねぇ、なっち」

4人しかいないのでは、話にならない。
かと言って今更そんな強い人を探すのも無理だ。

「こんなときの為に保険を用意しておいて良かった」
「あ!そういや言ってたね、そんなこと。誰よ保険て?」
「…あんまり気は進まないけど」

なっちはチラッと壁の時計を見た。
約束の時間まであと30分弱。
時間が着たらコロシアムへの案内役がこの道場に来るらしい。

「そろそろ来ると思うんだけど…」

安倍なつみがそう口にしたとき、道場の扉がガンッと開いた。
辻と高橋と矢口は驚いてそちらを見る。
そこに5人目が立っていた。