小説「ジブンのみち」part3

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404辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe.
このつんくの提案に、加護はあまり気乗りしない素振りを見せる。

「平家さんはうちらを助けてくれた。そんな人と戦いたくない」
「言い訳は止めなさい。私には勝てないことが分かっているんでしょ」

加護は物憂げな瞳で平家を見る。
二人は中国でお互いの戦いぶりを見ている。
そのときの実力差は、素人目に見ても平家が上であった。

「確かに平家さんはうちより強かったで。でも…うちには勝てへんよ」
「しばらく日本を離れていたせいで、日本語の使い方を忘れたの?矛盾してるわ」

裏格闘界の現役は退いたとはいえ、平家みちよに勝てる者が果たして何人いるか?
全盛期に表にいれば、安倍飯田石黒福田中澤にも勝ったであろうと言われる怪物である。
そしてプロジェクトKの教育係になった現在でも、まだその力は衰えていない。
つんくも絶大な信頼を寄せる闇の最強戦士だ。

「口では何とでも言える。やればわかるやろ。ほないくで」

痺れを切らしたつんくの言葉に、二人は口を閉じて見詰め合う。
研ぎ澄まされる空気。高まる緊張感。
ついに明かされる平家みちよの実力!
ついに明かされる新生加護亜依の実力!

「はじめっ!」
405辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:13 ID:kJ7jyeiv
負けたことがない。
それが平家みちよである。
ずっと闇の頂点にいた。石川梨華が台頭してきたのは平家引退のずっと後だ。
一度も負けることなく、チャンピオンのまま現役を去った。
それからずっとマスターつんくの右腕として動いている。
もう一人の側近であるアヤカよりは戦闘系の働きをこなしてきた。
逆らったコロシアム戦士や闇勢力の始末などだ。
そこでも、負けたことは一度もない。
どんな相手であろうが自分が負けることは無い。
――――――――――――――この瞬間まで、そう信じていた。

「はじめ」の合図と共に前へ出る加護亜依。
平家は右のジャブでまず牽制する。……すると加護が変化した。
変化といっても姿形が変わる訳でもない。だが他に形容のしようが無い。
とにかく、加護亜依は変わったのだ。
これまで体験したこともない程のスピードで動き、
これまで体験したこともない程のパワーで押し、
これまで体験したこともない程のテクニックで翻弄する。
人間としての能力の限界がある。その限界に最も近づける者が最強だと信じてきた。
だが目の間にいるこの娘は、間違いなくその限界を超えていた。

ドンッ!!!!!

時間にして数秒。
その数秒で平家みちよの人生観は一変することになる。
406辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:13 ID:kJ7jyeiv
中国拳法の極地。
その老人との出会いが加護の運命を変えた。
松浦亜弥に折られた腕、医師には完治不可能と言われ夢を失った。
そして逃げる様に辻の元を去った。怖かったのだ。
夢を失った自分に相棒は興味を失い、離れていってしまうのではないかと。
それくらいなら…自分の方から。そう思った加護は無言で消息を絶った。
絶対に見つからない所。加護は海を越えた、神秘の大国へ。

不思議な気で怪我を治す仙人がチベット奥地に住んでいるという噂を耳にする。
普通の人ならばそんな馬鹿げた話を真に受けて、険しい山脈を越えたりしない。
しかし加護は違った。藁にでもすがりたい。
(この腕が元に戻るんやったら!)
たった一人で地元住民も近寄らぬ険しき山脈を登った。
道と呼べる道も無くなり、食料も尽き、三日三晩が過ぎた。
それでも加護は進み続けた。そして四日目の朝、ついに彼女は見つける。

「お前は運がいいのぅ。通常ならば怒鳴って追い返す所じゃ」
「うちは通常ちがいますん?」
「ああ、胸が大きいからのぅ」

仙人なんてトンデモナイ。気孔最強説を唱え中国拳法界を追われたただのエロジジイだ。
しかしこのヘンテコ気孔ジジイとの出会いが運命を変える。
完治不可能といわれた腕が、気孔治療で治ってしまったのだ。
これに一番驚いたのは加護でもなく、あろうことかこのジジイである。

「なんで治るんじゃ?」
407辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:14 ID:kJ7jyeiv
ジジイ曰く「治るはずがない怪我」だそうだ。
それがどういう訳か完治してしまったのだから、驚くのも無理はない。
これが原因で加護亜依の特異体質に気付いたのであった。
幼少時、飛行機墜落からの死を乗り越えた限界体験が、その体質をもたらした。
世界で二人だけが持つ「奇跡」の体質。

それを知った老人は中国拳法界を追われた長年の夢を、加護に語る。
実現不可能とバカにされて諦めた究極の気孔奥義が…彼女ならばそれができる!
加護にとってもそれは望んでやまない話。
(また最強を追えるんや)

人間というのは通常使用できる能力は決まっている。
しかし気孔の発散によりそれらの全開放ができることを老師は発見する。
「火事場のクソ力」という、時に無我夢中で信じられない力を出すことだ。
但し運動神経の全開放は肉体に多大な影響を与える、偶然に一瞬だけ許される奇跡。
その力は維持できる類のものではない。
だが加護の有する奇跡の体質ならば、あるいは…その負荷に耐えうるのでは?

こうして老師と加護は共に夢へと進んだ。
一年半後、老師の仮説は現実のものとなる。
過酷な修行の末、加護亜依は見事手にしたのだ。
三倍のパワー、三倍のスピード、三倍のテクニック、三倍のディフェンス…
気孔の開放により、あらゆる能力が一時的に通常時の三倍になる奥義。

中国拳法の究極『三倍拳』
408辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:15 ID:kJ7jyeiv
平家みちよは仰向けに倒れ、天上を見上げていた。
起き上がろうとした所へ加護の拳が目の前に出現する。反応もできない。
目と鼻先で拳は止まった。完敗だ。

「まいった」

その台詞を自分が吐いているのが信じられなかった。
プロジェクトKの子供達には、あれほどギブアップするなと教えてきたにも関わらず。
腕が震えていた。足も震えていた。体中が震えているのだ。
今までどんな奴と戦ってもこんなことはなかった。本能が敗北を宣言した。
平家は震えながら、加護亜依を見た。

加護は通常時でも高橋や松浦と互角に戦える実力者である。
それが三倍になったらどうなるか?人間の限界を遥かに超えた存在だ。
つまりそれはイコール“最強”

「…みつけた」

震えたのは平家だけではない。マスターつんくも震えに立ち上がっていた。
(まさかこないとこで。ついに見つけたで…最強の娘)
最強の娘を作り上げる。それがつんくの野望。
そしてそれを実現できる娘が、ついにつんくの目の前に出現したのである。
(加護亜依…)
(手に入れたる)
(表の格闘界には渡さん!どない手を使ってでもこいつは俺が手に入れたる!)
409辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:16 ID:kJ7jyeiv
「勝負ありやね。ほな、さいなら」

震えに身動きもとれぬ平家とつんくを尻目に、加護は歩みだした。
加護が部屋を出ると、つんくは我に返り急いでもう一人の片腕アヤカに連絡する。
(どない手を使ってでも!)

建物を出ると、加護は島に来たヘリポートに向かった。
ヘリの前にはアヤカが待っていた。

「きれいなお姉さん。乗せてってもらえますぅ?」
「お帰りですね。どうぞ」
「おお、良かった。どうやって帰ろか困ってたねん」

加護は駆け足でヘリに乗り込む。しかし中にパイロットが乗っていない。
すると操縦席にはアヤカが乗り込む。

「へ〜お姉さん、操縦できるんや」
「行き先は…」
「あ、えーと、そやなぁ。とりあえず東京の…」
「…地獄でよろしいでしょうか?」

アヤカは優しい笑みを浮かべたまま、そう告げた。
放たれる殺気の渦に加護は思わずヘリの外を見渡す。
十数人の小さな子供達が、いつのまにか加護の乗ったヘリを囲んでいる。

「…やってくれるやんか、このアマ」
410辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:29 ID:kJ7jyeiv
フロントミラー越しにアヤカが加護を見る。
口元に笑みを残しているが、視線は笑っていない。

「五体満足でこの島に残りますか?それともまた…」
「…お前ら、最低やな」
「そうですね。ですがつんく様の命令は絶対ですから」
「ぶっ潰したるわ!」

加護はヘリを飛び出した。
感情を持たぬ14の顔が一斉に加護を捉える。
中国で負傷した村上愛以外のプロジェクトK全員がそろっている。

「覚悟はできとんのやろな、クソガキども」
「やってしまいなさい」

アヤカの言葉で14人の子供達が加護亜依に襲い掛かる。
前から。右から。左から。斜めから。上から。下から。後ろから。
(冗談やない!ようやくまた夢を追えるんや!)
あらゆる方向から感情を持たぬ攻撃の津波。
(こない所でやられて…やられてたまるか!)
三倍拳!しかし圧倒的な数の差は“最強”を容赦なく撃ちつける。
(うちはまだ…!黙っていなくなったこと…まだののに謝ってへんねん!)
止まること無き攻撃の渦に反撃も届かない。一方的な殺戮。
加護は吼えた。

「ののーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
411辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:30 ID:kJ7jyeiv
東京。夏美会館本部道場。
安倍なつみと組手をしていた辻希美は、突然その動きを止めた。

「ちょっとーどうしたの?いきなりボケーっとしてさ」
「えっと、今。誰か、ののを呼ばなかったれすか?」
「ボケるのは顔だけにしてよね。ここには今なっちとあんたの二人しかいないでしょ」
「あー、うん」
「まったく館長直々の組手最中に…辻さんも大物になったもんだ」
「なちみーごめん!ごめん!続きお願いします!」
「…ったく、しょーがないなぁ」
「ん、待って。今ののの顔がボケてるって言いませんれした?」
「あ、聞こえてた」
「なちみ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

(…のの、頑張っとるかぁ)
(夢は忘れてへんやろな。もちろんうちも忘れてへんで)
(二人の夢はいつまでもいつまでも一緒やもんな)
(けど、うちはやっぱりダメみたいや。頑張ったけど…ごめんな)
(代わりにののが最強になって。大丈夫。あいぼんさんが保証したるわぁ)

薄れゆく意識の中で、加護は夢を見た。
(出来るならもう一回だけ…会いたかったなぁ…)
(のの…)
それは、世界一の場所で、辻希美と二人、手をつないで、夢を叶える夢だった。

第31話「二人の夢はいつまでも」終わり
412辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/08/13 13:31 ID:kJ7jyeiv
次回予告

そして運命の歯車は、すべての道の終着点へと回り続ける…

「石川梨華。加護亜依。そして三つ目の駒は…」

To be continued