「誰だ!!ここで何をしている!!」
案の定、敵の警備がワラワラと集まってきた。言い訳する間もなく囲まれる三人組。
「どうします?」と投げやりな口調で二人に尋ねる紺野。
「あーめんどくせぇ」と自慢の眉をしかめる新垣。
「やるしかねぇじゃん」と何処か楽し気に答える小川。
三人の呼吸が合ったとき、彼女達は同時に三方へ飛び出した。
紺野は強烈な突きと蹴りで敵を粉砕し、新垣と小川の方を垣間見た。
てこずる様なら手を貸してあげようか…と思ったのだ。だがその考えは徒労に終わる。
小粋なプロレス技で敵を翻弄する新垣に、豪快な柔道で敵を投げ飛ばしてゆく小川。
(強い…)
紺野は思った。紺野だけではない。新垣も思った。小川も思った。
安倍や飯田や矢口といった怪物たちを間近で見ていた為に、気付きもしなかったのだ。
自分たちが今や、並の者では相手にならぬ程に強くなっていることを。
「何なんだ!このガキども!」
「一旦下がるんだ!あの人たちを呼べ!」
紺野達の強さに度肝を抜かれた敵のガード達は大慌てで逃げ出す。
追いかけ、エレベータルームにまで下りた所で、ちょうど下からエレベータが昇ってきた。
その中から筋骨隆々の男が三人出てくる。紺野は顔色を変えた。
(明らかに今までの奴らとは気質が違う……何なのこいつら?)
紺野の悪寒は当たる。彼らは死をも恐れぬ選ばれしコロシアム戦士だ。
「へっ」と強気に小川は笑みを浮かべる。
「3対3…ちょうどいいんじゃねえの?」
「吉澤ひとみをやったのは、お前か?」
マスタールームに、後藤真希の冷たすぎる声色が響いた。
倒してきたコロシアム戦士の返り血で彼女の体は紅く染まっている。
寺田にはその姿が本物の鬼神に見えた。
「お、お、俺やない!ちゃうで、ちゃうで!」
「じゃあ誰?」
「石川や!石川梨華!!吉澤を殺したんは石川梨華や!!!」
ピクッと後藤の顔が動く。
(イシカワリカ……)
頭の中でその名を何度も繰り返す。決して忘れぬ様に記憶にすりこむ。
「その石川梨華ってのは何処にいる?」
「し、知らん!俺は何も知らんのや!ほんまや!」
「あっそう。じゃあ殺す…」
情の欠片もない声で呟き、後藤が近づいてくる。
そのとき、寺田はズボンの後ろに隠しておいたピストルを取り出した!
「死ぬのはお前じゃボケェ!!」
パン!
見えない閃光がそのピストルを弾き飛ばした。後藤真希の光速のハイキック!
寺田は言葉も出ず、何故自分のピストルが手から落ちたのかも理解できない。
もはやかわいそうなくらい震え上がっていた。
「お前、才能ないんじゃない」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「もう一度聞くよ。イ・シ・カ・ワ・リ・カは何処だ?」」
「ち、地下や…ここのやないで。あの方の……」
その瞬間、銃弾がトンッと寺田のひたいを貫通した。
「あ、あ、あ…」と声にならぬ声を出して、そのままバタリと寺田は死んだ。
咄嗟に身を翻した後藤は銃の飛んできた方向を見抜く。
「しゃべり過ぎだ」
反対側の非常口に女が立っていた。美貌と怖さを兼ねた外見に、鋭い殺気を纏っている。
すると寺田の側近であったアヤカがその女の下へ飛ぶ。
「いいタイミングですわね。平家さん」
「本当のマスターがお呼びだ。アヤカ」
「誰だお前?」
後藤は、去ろうとする二人を追いかけようとした。
それを平家と呼ばれた女性が、銃口を突きつける形で遮る。
「心配するな。いずれ嫌でも闘うときが来るさ」
辻希美と田中れいなの激闘はまだ続いている。
まるで何か大きな流れが、その敗者の名を告げることを拒むかの如く。
「ニャンニャァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン♪」
れいにゃの四肢が一振りされる度、辻の体は爪で裂け鮮血が吹き上がる。
(ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコ…)
辻は混乱していた。猫と闘った経験なんてある訳がない。
反撃しようとわずかな力を振り絞るも、当たるどころかカスリもしない。
(えーと、えーと、ネコに勝つには…えーと)
ピコーン!
辻の脳天に豆電球が点く。
(ネコに勝つにはイヌになればいいのれす!)
思いついたら即実行。辻は四つんばいになってれいにゃと向き合った。
まさか…!味方チームに悪寒が走る。
「ワンッ!」
辻希美は期待に応える娘である。悪寒的中。
挑発と勘違いし「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーーん!!!」と余計に荒れるれいにゃ。
四つんばいでガードもできない辻は顔面を、思いっきり引っかき廻されダウンした。
頭を抱えたなっちは、愛に呟いた。
「なんとか藤本に勝ってくれ」
「……はい」
「アハハハハハハ!!あの子、おもしろ〜い♪」
めずらしく亀井が笑い転げている。
(あのバカ)
藤本は同門であることが恥ずかしくなり、顔を伏せる。
(なんで?なんで?なんでぇ〜?)
辻は顔を抑えながら逃げ回り、また必死に考える。
(なんでイヌなのにネコに負けるんれすか?)
(どーしよ?どーしよ?他に動物?えーと、えーと?)
すでに考える方向性が違っていることに気付かない所が、辻の辻たる所以でもある。
ピコーン!
そして辻の頭に再び豆電球が光る。さぁミラクルのはじまり。
(あれがあったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!)
とどめをさそうと、れいにゃが辻に飛び掛るその瞬間、辻はバッと身構えた。
「コケ〜!!!ココココココケ〜!!!コケ〜!!!ココココココケ〜!!!!」
ビクッッッ!!!!!!!!!!
言うまでも無いが、その場の全員がびっくりした。にわとり!?
特に真正面のれいにゃの驚きは計り知れない。
「あれ?うち何しとー?」
なんと、あまりの驚きに意識がひっくり返ってしまったのだ。もはや誰もつっこめない。
奇跡だ。