84 :
22話:
22.「天才」
『HEAVEN’S DRIVE』
それはあまりにも突然すぎた。
「何?!」
知っていても、やはり肉眼でそれを放っている所を見るとやはり驚く。
しかも更に驚くべき事は、スピード、車輪の大きさ共に、hydeの放つそれと
まったく劣らなかった事だ。かわしきれない、そう判断しGacktはすぐに
ガードの姿勢に入る。
ドン!!!!
ガリガリガリガリ!!!!
肉を引きちぎる音が部屋中を響く。
Gacktは苦しそうな表情をしながら、ただただ耐える。
車輪はGacktと当たる度に、車輪も摩れ、小さくなってゆく。
「!!」
どうやらGacktはガードしつつその腕から何かをしているらしい。
車輪が急激に小さくなってしまった。
しかしGacktのダメージも半端ではない。摩擦によって血が弾け飛び、
Gacktの白い肌を少し紅く染めた。同時に肉片が四方八方へと散り、
矢口は降って来たそれを「うわ!」と叫んで慌てて避ける。
85 :
22話:04/06/15 23:25 ID:mbkteFNH
全ての車輪を受けきると、Gacktの腕は少しずつ再生を始めた。
しかしそれよりも速く、高橋は次の行動に出ていた。
Gacktが体勢を整えた時には、高橋はもう目の前で腕を振り上げていた。
その手にはなんとオーラブレード。
「くそっ・・・。」
中澤を倒した時に壊すべきだったのだろう。
眉をしかめながらGacktは剣を空中から取り出し、応戦。
オーラのみの、いわば具象気体と、実態のあるが闇の込められている剣。
双方がぶつかり合うと、激しい波動が室内を波紋のように広がる。
それは中澤とGacktが戦っていた時の様に、近寄りがたい、触れがたい空気を
放っていた。高橋は三歩後退すると、高く飛び上がり、叫んだ。
86 :
22話:04/06/15 23:26 ID:mbkteFNH
『Mizerable』
それは僕の技!!
どういう事だ、僕はhydeとは違う。
技を教えてるなんて甘い事はしていない!Gacktは困惑した。
そして気がつくとGacktは自らの持ち技に、今まさに餌食となる所まで来ていた。
オーラブレードから伸びた光が天井を突き破り、天へと果てしなく伸びる。
それを開放し、一気に敵へと叩き付けるのが、『Mizerable』という技だ。
とりあえず、もうかわす時間はない。
「くっ!」
Gacktはついさっき藤本によって欠落した左腕を差し出す。
次の瞬間、驚くべき光景を見た。一瞬にして左腕が傷口から生え、
その腕には一瞬にして魔力が蓄積されていく。
高橋は大きく目を見開いて驚き、動きが空中で止まった。
87 :
22話:04/06/15 23:28 ID:mbkteFNH
『LUNA』
Gacktの腕から放たれたのは、月の光を魔弾に変化させ、放つ呪文。
光と光は互いにぶつかり合うと、新たな光がそこから生まれた。
そしてその中心から、オーラブレードも、『LUNA』も吸い込まれるように
消えてしまった。
相殺。
Gacktは息を切らしながら、生えてきたばかりの左腕を痛そうに摩った。
いくら再生させる魔力を持ってしても、それを実行するには多大な体力を要する。
Gacktは疲れた表情をそのまま出し、ピクピクと痙攣を続け、血管が浮き出しに
なっている左腕を『抱える』形で、窓際へと駆けた。
Gacktはそこで月の光を浴びながら、一息つく。
しかし高橋はそんな時間をGacktに与える気なんて、最初からなかった。
88 :
22話:04/06/15 23:28 ID:mbkteFNH
『LUNA』
『え?!』
「何っ?!」
誰もが驚いた。
なんと高橋は、ついさっきGacktが放ったばかりの呪文をそのまま見よう見まねで
打ってみせたのである。あまりに急過ぎて、Gacktは避けれない。
右腕を大きく振り上げ、
『Mirror』
完全には跳ね返しきれない。光は右へと逸れた。
「うわ!!」
矢口が依然倒れたままの藤本を抱えて逃げる。
その刹那光は壁へとぶつかり、壁にはすっぽりと大きな穴が生まれた。
穴から月の光が差し込み、改めて夜を感じさせる。
89 :
22話:04/06/15 23:29 ID:mbkteFNH
Gacktは恐怖を覚えていた。つい先日まではむしろただ小ばかにするくらいの
存在だった小娘が、今目の前で立ち塞がっている。いつもとは明らかに違う、
強い目をして。放つ気もとても同じ人間とは思えない程の差があった。
「・・・・・・。」
Gacktは高橋をにらみつけた。そしてすぐに突っ込む。
剣に邪気をため、空高く舞い上がり、ついさっき高橋がGacktに撃った様に、
Gacktは放った。
『Mizerable』
さっきとはちょうど逆の状況。
しかしGacktは驚いてスピードを緩めるような事はしない自信があった。
「(僕はそんなに甘くない。)」
Gacktは間髪入れずに決めに行く。邪気を一気に高橋めがけて、叩き付けた。
90 :
22話:04/06/15 23:30 ID:mbkteFNH
属性の差から、吸収は出来ない。
その代わり高橋は、超スピードで振ってくるGacktの剣を、あっさりと凌いでみせた。
『Mirror』
またしても見よう見まね。
しかもGacktよりも素早く準備された鏡は、見事にGacktの技を防いだ。
ただし一瞬だけ。
パリン!!!
この技は見た目よりも遥かに大量の魔力を必要とするため、中途半端な魔力では
しっかりとした鏡を作ることが出来ないのだ。
邪気はそのまま高橋の目と鼻の先へ。高橋は腹をくくった。
ガシッ。
「何?!」
なんと、高橋は『Mezerable』を素手で掴み、手繰り寄せ始める。
少しずつではあるが確実に引っ張られるGackt。
91 :
22話:04/06/15 23:31 ID:mbkteFNH
「くっ・・・・このっ・・・・ああ!!!」
いくら引っ張ってみても、高橋は掴んで離さない。
高橋は一呼吸入れ、思い切り引っ張ると、Gacktは一気に高橋の眼前にまで
連れてこられた。
高橋はGacktと目の合った瞬間、唱える。
『Baby!Knock out!!-type gun-』
「ごっちんの!!」
吉澤が声を大にする。
そう、この技は以前後藤との戦いで高橋がノックアウトを食らった、
言うならば因縁のある技。
高橋はそれを本能的に記憶から掘り起こし、放ったのだ。
威力、スピード共に申し分なく、もしかしたら後藤を超えているかもしれない程だった。
ならばGacktにそれを免れる術はない。
ドンドンドンドンドンドン!!!!
92 :
22話:04/06/15 23:32 ID:mbkteFNH
「ぐっ!!!」
Gacktは全て直撃を食らい、一瞬よろめく。
しかし、Gacktはダメージを受けながらもそのまま高橋へと突っ込む。
「!!」
その瞬間、高橋は思い出してしまった。
あの日の後藤との戦いの結末を、鮮明に。
それはあまりにもこの状況と酷似していた。あの時感じた恐怖が、再び高橋を襲う。
Gacktは少しだけ不思議そうな顔をしながら、しかし手を抜く様子はない。
『OASIS』
水の波動が、高橋へと押し寄せる。あくまで体感、存在はしない。
水に沈む、埋もれる感覚だけを相手に与えるのがこの技だ。
「高橋!!」
その時飯田が動く。何をボーっとしていたんだ、飯田は自分を叱った。
瞬間移動で高橋の前に到達。高橋を掴むとそのままもう一度瞬間移動。
二人は部屋の反対側に着地すると、飯田は激しい動悸に襲われ蹲る。
93 :
22話:04/06/15 23:34 ID:mbkteFNH
「ハァッ・・・・ハァッ・・・。」
瞬間移動による魔力、体力の浪費は凄まじい。
それを一度に2回、しかも人を連れて行ったのだから、
飯田の疲労は一瞬にして蓄積された。しかし高橋をなんとか救えたから、
よしとしよう。飯田は高橋へと視線を移す。しかしその表情は、さっきまでとは
別人のようだった。覇気がない。
「高橋?」
「・・・・・!!」
高橋は何も言えずに、ただただ震えるばかり。
この行動には全員首を傾げる。この変貌振りは一体、何だというのだろうか。
「二人のうちどっちか、ミキティを!」
矢口が小さい身体を必死に動き、なんとか飯田の側へと藤本を運ぶ。
飯田は体力に余裕がない。高橋がすぐに動き、回復呪文を唱えた。
94 :
22話:04/06/15 23:34 ID:mbkteFNH
「・・・・・・ごめんなさい、迷惑かけちゃって。」
目覚めて一言目がこれだから、逆に全員心配してしまう。
「美貴ちゃんさん、頭打っておかしくなっちゃった?」
「ないない。」
藤本はすぐに立ち上がり、身構えた。
しかし、Gacktは何故か部屋の反対側で一人、考え事をしていて動かない。
『?』
迂闊に近づくのは危険だろう。
5人はとりあえず動かず、負傷している藤本、吉澤の治療をする事にした。
95 :
22話:04/06/15 23:35 ID:mbkteFNH
Gacktは一度頭を冷やし、冷静になって分析していた。高橋愛について。
高橋ははっきり言って、戦いの天才だ。敵の魔法を吸収する才能に長け、
初見で威力までも、場合によっては超えてしまう実力は、驚愕に値する。
一度でも記憶にとどめておけばいつでも再現してしまう。どんな技でも・・・。
Gacktは少しだけ寒気がした。
別に闇の属性の呪文は吸収するだけだから問題がないにせよ・・・。
瞬時の状況判断、肉弾戦は劣るものの、それ以外の面では後藤真希を超えていると
言って間違いないだろう。
96 :
22話:04/06/15 23:37 ID:mbkteFNH
ただ、フルパワーで戦うには何かきっかけがいるらしい。
ついさっきも、マネキンの時も、とにかく突然攻撃に転じ、突然納まる。
神出鬼没。だが本人の意思ではなさそうだ。
それはさっき『OASIS』を全く避けようとしなかった所から明らか。
自分では完璧にコントロールが出来ないのだ。
おそらく感情が波打った瞬間に、いきなり爆発する・・・。
マネキンに『使えないもん』と死んだ仲間をけなされた時、
藤本をとにかく徹底的に痛めつけた時。
おそらくこの仮説は正しい。ならば。
「出る杭は打たないとね・・・。」
Gacktは不適に微笑む。
5人はそれを見ると再び身構えた。
97 :
22話:04/06/15 23:38 ID:mbkteFNH
月の明かりを浴びて、Gacktが怪しく光る。
見る見るうちに膨らんでいく邪気。これが、月の子が月の子たる由縁。
彼らは満月の夜、月の光さえ浴びれば、邪気を失うことはない。
常にフルパワーでいられる。
だから中澤と戦ったときも、常に邪気を放出し続けたし、今も邪気を放出し続けていた。
今現在、Gacktの邪気は、無限だ。
「食らえ!!そして絶望するがいい!!」
Gacktは気を溜め込んだ両手を、一気に広げて見せる。
「人間がいかに脆く、儚いかを!!」
両手の邪気が濃縮される。手を握り締めると、邪気は再び膨張した。
「違う世界へ連れて行ってやる。」
Gacktの青い瞳に、更に青みが増してゆく。
「逃げろ!!!」
矢口が叫び、5人は一斉に出口へと駆け出す。
しかしその前に、Gacktは放った。
98 :
22話:04/06/15 23:38 ID:mbkteFNH
『Another world』
『!!』
完全なる闇が全てを支配する瞬間を、5人は垣間見た。
Gacktが叫んだ瞬間、邪気がまるで津波の様に、地面から上へと弾け飛ぶ。
そしてその波は猛スピードで5人へと迫った。一気に押し寄せる閉塞感。
弱まる事を知らない闇の波動は、あっという間に5人を飲み込んでいった。
王の間の片側の壁は全て消滅。
月明かりがキレイに差込み、各フィールドの風景がよく見えた。
Gacktはなくなった壁を満足そうに確認すると、呟いた。
「・・・・終わった。」
To be continued...