モッさん最強

このエントリーをはてなブックマークに追加
8422話
 22.「天才」

 『HEAVEN’S DRIVE』

 それはあまりにも突然すぎた。

 「何?!」

 知っていても、やはり肉眼でそれを放っている所を見るとやはり驚く。
 しかも更に驚くべき事は、スピード、車輪の大きさ共に、hydeの放つそれと
 まったく劣らなかった事だ。かわしきれない、そう判断しGacktはすぐに
 ガードの姿勢に入る。

 ドン!!!!
 ガリガリガリガリ!!!!

 肉を引きちぎる音が部屋中を響く。
 Gacktは苦しそうな表情をしながら、ただただ耐える。
 車輪はGacktと当たる度に、車輪も摩れ、小さくなってゆく。

 「!!」

 どうやらGacktはガードしつつその腕から何かをしているらしい。
 車輪が急激に小さくなってしまった。
 しかしGacktのダメージも半端ではない。摩擦によって血が弾け飛び、
 Gacktの白い肌を少し紅く染めた。同時に肉片が四方八方へと散り、
 矢口は降って来たそれを「うわ!」と叫んで慌てて避ける。
8522話:04/06/15 23:25 ID:mbkteFNH


  全ての車輪を受けきると、Gacktの腕は少しずつ再生を始めた。
 しかしそれよりも速く、高橋は次の行動に出ていた。
 Gacktが体勢を整えた時には、高橋はもう目の前で腕を振り上げていた。
 その手にはなんとオーラブレード。

 「くそっ・・・。」

 中澤を倒した時に壊すべきだったのだろう。
 眉をしかめながらGacktは剣を空中から取り出し、応戦。
 オーラのみの、いわば具象気体と、実態のあるが闇の込められている剣。
 双方がぶつかり合うと、激しい波動が室内を波紋のように広がる。
 それは中澤とGacktが戦っていた時の様に、近寄りがたい、触れがたい空気を
 放っていた。高橋は三歩後退すると、高く飛び上がり、叫んだ。

8622話:04/06/15 23:26 ID:mbkteFNH


 『Mizerable』

 それは僕の技!!
 どういう事だ、僕はhydeとは違う。
 技を教えてるなんて甘い事はしていない!Gacktは困惑した。
 そして気がつくとGacktは自らの持ち技に、今まさに餌食となる所まで来ていた。

 オーラブレードから伸びた光が天井を突き破り、天へと果てしなく伸びる。
 それを開放し、一気に敵へと叩き付けるのが、『Mizerable』という技だ。
 とりあえず、もうかわす時間はない。
 
 「くっ!」

 Gacktはついさっき藤本によって欠落した左腕を差し出す。
 次の瞬間、驚くべき光景を見た。一瞬にして左腕が傷口から生え、
 その腕には一瞬にして魔力が蓄積されていく。
 高橋は大きく目を見開いて驚き、動きが空中で止まった。

8722話:04/06/15 23:28 ID:mbkteFNH


 『LUNA』

 Gacktの腕から放たれたのは、月の光を魔弾に変化させ、放つ呪文。
 光と光は互いにぶつかり合うと、新たな光がそこから生まれた。
 そしてその中心から、オーラブレードも、『LUNA』も吸い込まれるように
 消えてしまった。
 相殺。
 Gacktは息を切らしながら、生えてきたばかりの左腕を痛そうに摩った。
 いくら再生させる魔力を持ってしても、それを実行するには多大な体力を要する。
 Gacktは疲れた表情をそのまま出し、ピクピクと痙攣を続け、血管が浮き出しに
 なっている左腕を『抱える』形で、窓際へと駆けた。
 Gacktはそこで月の光を浴びながら、一息つく。
 しかし高橋はそんな時間をGacktに与える気なんて、最初からなかった。
8822話:04/06/15 23:28 ID:mbkteFNH

 『LUNA』
 『え?!』
 「何っ?!」

 誰もが驚いた。
 なんと高橋は、ついさっきGacktが放ったばかりの呪文をそのまま見よう見まねで
 打ってみせたのである。あまりに急過ぎて、Gacktは避けれない。
 右腕を大きく振り上げ、

 『Mirror』

 完全には跳ね返しきれない。光は右へと逸れた。

 「うわ!!」

 矢口が依然倒れたままの藤本を抱えて逃げる。
 その刹那光は壁へとぶつかり、壁にはすっぽりと大きな穴が生まれた。
 穴から月の光が差し込み、改めて夜を感じさせる。

8922話:04/06/15 23:29 ID:mbkteFNH

 
  Gacktは恐怖を覚えていた。つい先日まではむしろただ小ばかにするくらいの
 存在だった小娘が、今目の前で立ち塞がっている。いつもとは明らかに違う、
 強い目をして。放つ気もとても同じ人間とは思えない程の差があった。

 「・・・・・・。」

 Gacktは高橋をにらみつけた。そしてすぐに突っ込む。
 剣に邪気をため、空高く舞い上がり、ついさっき高橋がGacktに撃った様に、
 Gacktは放った。

 『Mizerable』

 さっきとはちょうど逆の状況。
 しかしGacktは驚いてスピードを緩めるような事はしない自信があった。

 「(僕はそんなに甘くない。)」

 Gacktは間髪入れずに決めに行く。邪気を一気に高橋めがけて、叩き付けた。
9022話:04/06/15 23:30 ID:mbkteFNH

  属性の差から、吸収は出来ない。
 その代わり高橋は、超スピードで振ってくるGacktの剣を、あっさりと凌いでみせた。

 『Mirror』

 またしても見よう見まね。
 しかもGacktよりも素早く準備された鏡は、見事にGacktの技を防いだ。
 ただし一瞬だけ。

 パリン!!!

 この技は見た目よりも遥かに大量の魔力を必要とするため、中途半端な魔力では
 しっかりとした鏡を作ることが出来ないのだ。
 邪気はそのまま高橋の目と鼻の先へ。高橋は腹をくくった。

 ガシッ。 

 「何?!」

 なんと、高橋は『Mezerable』を素手で掴み、手繰り寄せ始める。
 少しずつではあるが確実に引っ張られるGackt。
9122話:04/06/15 23:31 ID:mbkteFNH

 「くっ・・・・このっ・・・・ああ!!!」

 いくら引っ張ってみても、高橋は掴んで離さない。
 高橋は一呼吸入れ、思い切り引っ張ると、Gacktは一気に高橋の眼前にまで
 連れてこられた。
 高橋はGacktと目の合った瞬間、唱える。

 『Baby!Knock out!!-type gun-』
 「ごっちんの!!」

 吉澤が声を大にする。
 そう、この技は以前後藤との戦いで高橋がノックアウトを食らった、
 言うならば因縁のある技。
 高橋はそれを本能的に記憶から掘り起こし、放ったのだ。
 威力、スピード共に申し分なく、もしかしたら後藤を超えているかもしれない程だった。
 ならばGacktにそれを免れる術はない。

 ドンドンドンドンドンドン!!!!
9222話:04/06/15 23:32 ID:mbkteFNH

 「ぐっ!!!」

 Gacktは全て直撃を食らい、一瞬よろめく。
 しかし、Gacktはダメージを受けながらもそのまま高橋へと突っ込む。
 
 「!!」

 
 その瞬間、高橋は思い出してしまった。
 あの日の後藤との戦いの結末を、鮮明に。
 それはあまりにもこの状況と酷似していた。あの時感じた恐怖が、再び高橋を襲う。
 Gacktは少しだけ不思議そうな顔をしながら、しかし手を抜く様子はない。
 
 『OASIS』

 水の波動が、高橋へと押し寄せる。あくまで体感、存在はしない。
 水に沈む、埋もれる感覚だけを相手に与えるのがこの技だ。

 「高橋!!」

 その時飯田が動く。何をボーっとしていたんだ、飯田は自分を叱った。
 瞬間移動で高橋の前に到達。高橋を掴むとそのままもう一度瞬間移動。
 二人は部屋の反対側に着地すると、飯田は激しい動悸に襲われ蹲る。
9322話:04/06/15 23:34 ID:mbkteFNH

 「ハァッ・・・・ハァッ・・・。」

 瞬間移動による魔力、体力の浪費は凄まじい。
 それを一度に2回、しかも人を連れて行ったのだから、
 飯田の疲労は一瞬にして蓄積された。しかし高橋をなんとか救えたから、
 よしとしよう。飯田は高橋へと視線を移す。しかしその表情は、さっきまでとは
 別人のようだった。覇気がない。

 「高橋?」
 「・・・・・!!」

 高橋は何も言えずに、ただただ震えるばかり。
 この行動には全員首を傾げる。この変貌振りは一体、何だというのだろうか。

 「二人のうちどっちか、ミキティを!」

 矢口が小さい身体を必死に動き、なんとか飯田の側へと藤本を運ぶ。
 飯田は体力に余裕がない。高橋がすぐに動き、回復呪文を唱えた。
9422話:04/06/15 23:34 ID:mbkteFNH

 「・・・・・・ごめんなさい、迷惑かけちゃって。」

 目覚めて一言目がこれだから、逆に全員心配してしまう。

 「美貴ちゃんさん、頭打っておかしくなっちゃった?」
 「ないない。」

 藤本はすぐに立ち上がり、身構えた。
 しかし、Gacktは何故か部屋の反対側で一人、考え事をしていて動かない。

 『?』

 迂闊に近づくのは危険だろう。
 5人はとりあえず動かず、負傷している藤本、吉澤の治療をする事にした。
9522話:04/06/15 23:35 ID:mbkteFNH

  Gacktは一度頭を冷やし、冷静になって分析していた。高橋愛について。
 高橋ははっきり言って、戦いの天才だ。敵の魔法を吸収する才能に長け、
 初見で威力までも、場合によっては超えてしまう実力は、驚愕に値する。
 一度でも記憶にとどめておけばいつでも再現してしまう。どんな技でも・・・。
 Gacktは少しだけ寒気がした。
 別に闇の属性の呪文は吸収するだけだから問題がないにせよ・・・。
 瞬時の状況判断、肉弾戦は劣るものの、それ以外の面では後藤真希を超えていると
 言って間違いないだろう。

9622話:04/06/15 23:37 ID:mbkteFNH

  ただ、フルパワーで戦うには何かきっかけがいるらしい。
 ついさっきも、マネキンの時も、とにかく突然攻撃に転じ、突然納まる。
 神出鬼没。だが本人の意思ではなさそうだ。
 それはさっき『OASIS』を全く避けようとしなかった所から明らか。
 自分では完璧にコントロールが出来ないのだ。
 おそらく感情が波打った瞬間に、いきなり爆発する・・・。
 マネキンに『使えないもん』と死んだ仲間をけなされた時、
 藤本をとにかく徹底的に痛めつけた時。
 おそらくこの仮説は正しい。ならば。


 「出る杭は打たないとね・・・。」

 Gacktは不適に微笑む。
 5人はそれを見ると再び身構えた。
9722話:04/06/15 23:38 ID:mbkteFNH

  月の明かりを浴びて、Gacktが怪しく光る。
 見る見るうちに膨らんでいく邪気。これが、月の子が月の子たる由縁。
 彼らは満月の夜、月の光さえ浴びれば、邪気を失うことはない。
 常にフルパワーでいられる。
 だから中澤と戦ったときも、常に邪気を放出し続けたし、今も邪気を放出し続けていた。
 今現在、Gacktの邪気は、無限だ。

 「食らえ!!そして絶望するがいい!!」

 Gacktは気を溜め込んだ両手を、一気に広げて見せる。

 「人間がいかに脆く、儚いかを!!」

 両手の邪気が濃縮される。手を握り締めると、邪気は再び膨張した。

 「違う世界へ連れて行ってやる。」

 Gacktの青い瞳に、更に青みが増してゆく。

 「逃げろ!!!」

 矢口が叫び、5人は一斉に出口へと駆け出す。
 しかしその前に、Gacktは放った。
9822話:04/06/15 23:38 ID:mbkteFNH

 『Another world』
 『!!』

 完全なる闇が全てを支配する瞬間を、5人は垣間見た。
 Gacktが叫んだ瞬間、邪気がまるで津波の様に、地面から上へと弾け飛ぶ。
 そしてその波は猛スピードで5人へと迫った。一気に押し寄せる閉塞感。
 弱まる事を知らない闇の波動は、あっという間に5人を飲み込んでいった。



 王の間の片側の壁は全て消滅。
 月明かりがキレイに差込み、各フィールドの風景がよく見えた。
 Gacktはなくなった壁を満足そうに確認すると、呟いた。


 「・・・・終わった。」

 To be continued...