50 :
20話:
20.「protain」
全身を強く打ちつけた紺野と小川は、なんとか起き上がれたものの、
暫くの間は痛みで動くことが出来なかった。
幸い敵のほとんどは松浦と石川を追いかけて迷走中だったため、
二人を倒そうとする輩はいない。
「あさ美ちゃん・・・大丈夫?」
「・・・・なんとか・・・。」
二人は何とか起き上がると、壁に寄りかかって座った。
二人とも体の痛みであまり動けない。
「あたし回復のカードもう無いから・・・、まこっちゃんお願い。」
「分かった・・・。」
小川は乱れた呼吸のまま、詠唱した。
『Angel tail』
51 :
20話:04/06/08 00:03 ID:Qsuvl939
「ごめん、今の集中力じゃこれが限界。」
小川が出した召喚獣は回復系召喚獣の中でもかなり下等部類に属する。
しかし上級召喚獣を召喚するにはそれなりの精神力を要し、
今現在の小川の体力ではそれを出す余裕はなかった。
「ううん、大分楽になった。・・・・とりあえず動こうか。」
この二人も他の二組に漏れる事無く、ここが噂の地下牢だとすぐに気づいた。
しかし二人は他の二組の知らなかった、別の情報をしっかり握っている。
「出口は城の県内、確か化学くんのエリアに凄い近い場所だったよね。」
紺野が思い出すようにつぶやく。
「そうそう、確かそんな感じ。」
何故二人がこの事を知っているのか、その答えは意外と簡単な所にあった。
52 :
20話:04/06/08 00:04 ID:Qsuvl939
53 :
20話:04/06/08 00:04 ID:Qsuvl939
「二人とも知っとる〜?城の地下牢の話。」
「あー最近噂だよね。」
「うん。知ってるよ。」
高橋に言われて二人は普通に答える。高橋は笑いながら、
「あれの出口、どこにあるか知っとる?」
『え?』
「なんか噂では城だとか城下町だとか・・・。」
小川が悩むように言うと、
「あれ、化学くんのエリアの近くなんやよ。」
『へぇ〜。』
そう、高橋が口を滑らせて全部話してしまっていたのだ。
ついでを言うと高橋は地下牢の構造も教え、二人とも何で知っているのだろう、
と特に深く考える事無く思っていた。まさかスパイだったとは、夢にも思わずに。
54 :
20話:04/06/08 00:05 ID:Qsuvl939
55 :
20話:04/06/08 00:06 ID:Qsuvl939
二人はそれによって自分達が今どこら辺にいるのか、周りの形から判断。
分かれ道に迷う事無く、他の二組とは対照的にすんなりと進んでいった。
「愛ちゃんに感謝〜。」
「ホントホント。」
何もかも順調に進んでいるように思えた次の瞬間、
「おい!待て!行っちゃうのかよ!!!」
変な声が二人を呼び止める。
『・・・・?』
二人は後ろを振り返ると、そこに立っていたのは、なんだかよく分からないけど
やけに筋肉質な男。そして妙にハイテンション。男はなんだか自分の腕の筋肉を
見つめながら、
「おい!上腕二等筋見せちゃうのかよ!」
なにやらよく分からない事を口走っていた。
こういう変質者は相手をしないに限る、二人の意見は一致し、そのまま歩き出す。
56 :
20話:04/06/08 00:08 ID:Qsuvl939
「待てよ!!!」
男はダッシュで一瞬にして二人の前に到達。二人は目を丸くした。
「申し遅れました私中山きんにくん“です”!!」
高橋とはまた別の妙なイントネーションで自己紹介をするこの上半身裸男は、
その筋肉を見せつけながらこっちを意識している。
きんにくんはハイテンションのままよく分からない一言。
「健康のためなら死ねる!」
「ですねぇ〜。」
沈黙。
きんにくんはその後も何度もよく分からないボケをかますも、
ことごとく紺野天然にかわされ、落ち込んだ。しかしすぐに、
「筋肉で勝つ!」
男はそのまま紺野へと突っ込んで行く。
57 :
20話:04/06/08 00:09 ID:Qsuvl939
『イノキング』
しかしそれを小川の召喚獣が遮る。イノキングも肉弾戦、筋肉系の武道派。
きんにくんにとっても、イノキングにとっても、戦うにはちょうど良い相手だろう。
筋肉と筋肉はいきなり激しくぶつかった。
「グロいかも。」
小川はちょっとだけイノキングのセレクトを後悔するも、ぶつかり合いは続く。
イノキングの強烈な左ストレートを、きんにくんはそのまま受け止めてみせると、
強引に腕を持ち上げ、投げ飛ばそうとする。しかしイノキングも簡単には投げさせない。
がら空きだった脇腹にキックを放ち、きんにくんの腕を解かせた。
そしてそのままタックル。きんにくんはまたも避ける事無く、両腕でガードを固める。
きんにくんの足元にひびが入り、ミシミシと音を立てて少しずつ後退してゆく。
ある時、きんにくんの足はピタリと動かなくなった。
きんにくんはニヤリと笑うと、思い切りイノキングを投げ飛ばした!
58 :
20話:04/06/08 00:09 ID:Qsuvl939
ドン!!!
激しい激突音が、廊下中を響き渡る。
きんにくんの鮮やかなバックドロップによって、イノキングの頭は地面に
埋まり、動けなくなってしまっていた。
小川はあまりにあっさり負けたイノキングを見て、騒然として、固まる。
しばらくすると、
ポンッ。
「あさ美ちゃんタッチ。」
「え。」
タッチって?
紺野が困っていると、小川はその間にイノキングを引っ込めてしまった。
「任せた!!!」
妙なハイテンションで喜んでいるきんにくんを指差す小川。
紺野は露骨に嫌な顔をした。一方きんにくんはと言うと、
「プロテイン多めに上げちゃうぞ!!」
なにやらシェイカーで何かをかき混ぜて飲み物を造っていた。
59 :
20話:04/06/08 00:11 ID:Qsuvl939
「でもこれって、二人で同時攻撃した方がいいんじゃないの?」
紺野がそう言っても、小川は聞く耳を持たない。その気が無いのなら・・・
紺野はタロットを取り出す。
『CHARIOT』
紺野の声と共に、ケンタウルスが姿を見せる。ケンタウルスは血走った眼で、
今にも飛び出しそうな勢いだ。
『WHEEL OF FORTUNE』
高速回転する車輪達が、紺野の周り、空中に現れる。
シェイカーで飲み物を一気飲みしていたきんにくんは、
驚いて飲む事をやめた。
「同時攻撃してくれないなら・・・・。」
ケンタウルスが勢い良く駆け出し、車輪も回転をどんどん速めながら
きんにくんへと迫る。そして、
「行きます!!!」
紺野、自ら突っ込む!!
三つの物が同時に一つの敵を攻撃する。それはある意味後藤の
『スクランブル』と似ていた。
「いじめ・・・・。」
小川は紺野を見てそう呟いたと言う。
60 :
20話:04/06/08 00:11 ID:Qsuvl939
61 :
20話:04/06/08 00:12 ID:Qsuvl939
ウィーン
ジョリジョリジョリジョリ・・・・。
「まあ、俺に勝てないとガックンには勝てないと思うけどね。」
髭を剃りながら、いっくんはふと言った。まったりしていた石川と松浦も
流石にこれに賛同するわけにはいかない。
「そんな!皆必死で戦っているんです!!」
石川が珍しく強く押す。しかしいっくんは特に動じる様子も無く、ボーっと
した表情のまま、
「ふ〜ん。」
と髭を剃り続けた。髭が剃り終わると、
「でもよりによって今日はないっしょ〜。満月っすよ〜?」
『え?』
よく分からない、と言った顔をする二人を見て、
いっくんも訳が分からなくなってしまう。
「え、君達、知らないの?」
「何をですか?」
松浦に強く聞き返され、いっくんは、
「ガックンはね?」
62 :
20話:04/06/08 00:13 ID:Qsuvl939
いっくんの口から飛び出したのは、衝撃の事実。
それをなんでもない顔で言ういっくん。
「そ、それじゃあ・・・・・。」
二人はその場で崩れ落ち、絶望した。なんで・・・よりによって・・・。
眼の裏が凄く熱くなってくる。やがて二人の目からは一筋の雫が零れ落ちた。
そんな二人を見て、いっくんは肩を叩く。
「勝機はあるよ。」
『本当ですか?!』
凄い勢いで起き上がる二人。いっくん二人を見て思わず笑った。
「立ち直り早いな〜。」
いっくんは言った。
「うん。まあ出来るなら、だけどね。」
いっくんの表情が真剣になると、自然と二人の顔も締まってくる。
緊張感漂う室内。
63 :
20話:04/06/08 00:14 ID:Qsuvl939
「策は二つ。」
いっくんはジェスチャーを交えて説明を始める。
「一つ目は、『時が来るまで待つ。』でもこれは厳しい。」
二人は何も言わず、首を振ることで返事をした。
この策ははっきり言って無謀だろう。Gacktの力はあまりにも強大過ぎる。
粘るなんて、不可能だと思っていい。
「もう一つ。これを見て。」
いっくんは棚を引くと、中からは古帯びた巻物を取り出す。
それを広げ、いっくんは二人に見せた。
「これは?」
松浦はいっくんの目を見る。
「いいかい?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
いっくんが一通り説明し終えた所で、松浦は呟いた。
「だそうです、矢口さん。」
64 :
20話:04/06/08 00:15 ID:Qsuvl939
65 :
20話:04/06/08 00:16 ID:Qsuvl939
「もう気が済んだ?」
「うん。」
惨状を目の前に、小川は紺野に問いかける。
まるでストレス解消のためかのように、きんにくんは理不尽に痛みつけられまくった。
全身はボロボロで、さっきまでの筋肉美は見る影も無い。
荒みきった身体はもう戦えるものではなかった。
「すっきりした♪」
ニコニコ笑う紺野に、小川は一瞬だけ、恐怖を覚えたという。
この娘は単純な力では他の先輩に劣るものの、別の意味で恐ろしい。
タロット、武術というはちゃめちゃな組み合わせから編み出されるのは、
『何でもアリ』
これ程恐ろしいものは、この世には無いのではないだろうか。
とりあえず出口へ向け歩き出すと、もう二度と使わないと思っていた通信機から、
声が聞こえてきた。
To be continued...