モッさん最強

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3419話

 19.「青髭」



 松浦自体は充分な力を持っている。
 松浦自身も、こう言っては悪いが一緒に消えたと思われる人と比べて、
 自分は明らかにレベルが違うと自覚していた。
 それでも、松浦は『鶺鴒』の選別によって独房へと落とされた。
 これには、松浦の内面の、精神的な面が関係している。
 松浦はGacktが王の間に現れて以来、終始冷静を装いながらも、精神的には
 かなり怯え、恐怖に駆られていた。あの時、戦ったときに感じた、恐怖をそのまま引きずって。

3519話:04/06/06 00:34 ID:muGKYRS2


 『ヒヤシンス』


 そう唱え、一瞬にしてGacktのバックを取った瞬間、こいつ、大した事ない、
 と勝手に思いこんだ事が、松浦の敗因かもしれない。
 最近、主戦力として活躍して、先輩の言葉を借りるなら、
 松浦は「調子に乗っていた」といえる。
 自信が慢心に変わる瞬間、それは一番危険な時だ。
 絶望感に襲われながらもその自信からGacktへと突っ込み、
 バックを取れてしまった時点で、松浦の敗北は決定事項だったのだ。
 

 『Good bye boy』


 松浦が一番打ち慣れ、使い慣れていた呪文。
 確実に決めに行ったはずだった。
 これで決まりだろう、そう思っていた瞬間、松浦は脇腹をえぐられる様な感覚を覚える。
 何で?!
 Gacktの顔を見ると、少しだけ笑っている・・・・。
 ここで松浦の意識は途切れ、ただ恐怖だけが松浦の全身に植えつけられてしまった。
 それ故の畏縮から、松浦は落とされていったのだった。
3619話:04/06/06 00:35 ID:muGKYRS2


 「・・・・・・・・・・・。」
 「大丈夫?」

 松浦はしばし呆然と回想を続けていたため、石川が心配して松浦の方を見る。
 松浦は慌てて振り向くと、笑顔を造ってみせた。

 「大丈夫です!・・・どうします?上飛んで戻れるなら戻った方がいいかもしれませんけど。」

 松浦は天上に指を指しながら言った。
 二人は落下時意識を失っていないため、どうやってここまで来たか鮮明に
 覚えている。

 「行ってもいいけど・・・、多分戻れないと思う。」

 石川の冷静な一言に、松浦は少しびっくりした。

 「確かにこの天上は魔法仕掛けですり抜け式、でも王の間から落ちたのは
 Gacktの魔法、せきれいだっけ?
 それで落ちたから、戻るなら突き破って王の間に出るか、もしくは・・・。」
 
 石川は道が続いている方へと指を指すと、言った。

 「進む。」
3719話:04/06/06 00:36 ID:muGKYRS2


  松浦はかなり驚いていた。石川さんって、寒いだけじゃなかったんだ、
 なんて思いつつ、二人で先に進んで行く。
 部屋を横切る度に、凶悪で強大な邪気をひしひしと感じる。
 二人とも地下牢の噂は耳にしていたから、本当だったのか、と考えると同時に、
 気持ちを引き締め直していた。いつ誰かが出て来るか分からない。
 出て来られたら、戦うしかなさそうだし、一人一人強いという事も邪気から
 判断して分かる。戦わないのが無難。二人は慎重かつ迅速に移動を続けた。


 「他のみんな大丈夫かな?」

 石川が呟く。なるべく声を出さない方がいいとの判断の元だった。

 「多分みんな二人一組に分かれていると思いますよ、立ち位置からして。」

 松浦は『鶺鴒』を浴びたときの情景を思い出しながら言う。
 松浦は石川と藤本の間に挟まれていて、辻と加護、紺野と小川はセット。
 だからおそらく孤独な娘はいないはず・・・。
3819話:04/06/06 00:37 ID:muGKYRS2


 「これで連絡とれればいいんだけどね・・・。」

 石川は通信機を摘んだ。
 この通信機は中澤とのみ繋がっているため、中澤が死んでしまった今、
 経由を頼む事すら出来ない。仮に中澤の持っている通信機から声が聞こえたとしても、
 Gacktとの戦いの間で果たして返事が出来るだろうか。
 大体通信機はまだ生きているのか?


 「とりあえず、出口探すしかないですよ。」

 それしか今はもう、する事が思いつかなかった。
 二人は無言のまま、静かに一本道を進んでゆく。しかしある時不意に、

 ガチャガチャガチャガチャ!!!

 「いたぞ!!!」
 『行くぞ!!!』
 
 『・・・え?』

 なんと周りの部屋のほとんどから、部屋の住人が飛び出してきた。
3919話:04/06/06 00:39 ID:muGKYRS2


  どうやらGacktが裏に手を回したらしい。
 次々と部屋から厳つい者達が飛び出してくる。男もいれば女もいた。
 だが全員共通していたのが、とても強い気を放っている事。
 これは一筋縄ではいかない、石川がそう思っていると、松浦は既に攻撃を開始していた。
 
 敵に囲まれた状態で、松浦は舞う。
 踊るように。
 すると不思議と次々に敵が倒れてゆく。松浦は舞いながら、睡眠効果のある
 “芳香”を、魔法によって発しているのだ。石川が浴びないように、調節もしっかりとして。
 これで敵の中でも強敵の部類に入る敵以外は皆眠ってしまった。


 『奇跡の香りダンス。』

 松浦が付け加えるように呟く。
 とりあえずこれによって敵は10人弱にまで縮小された。石川も負けじと、
 
 『シャボン玉ぁ!!』
 
 パンパンパンパンパン!!!
 
 「はぁ?」

 敵はなんでもない顔をしている。

 「効かない〜!!!」
4019話:04/06/06 00:39 ID:muGKYRS2

 「だめですよ石川さん、シャボン玉ってのは・・・・。」

 松浦は掌と掌をピッタリと合わせ、魔力を蓄積してゆく。
 そして腕を一気に広げると、
 
 「こうしないと!!!」

 100単位のシャボンが敵に降り注ぐ。
 石川は悲しそうな顔をしながら、弾けてゆくシャボンを眺める。


 「まあ、見よう見まねなんですけど。」
 「弱いって悲しいね・・・。」



 さて、とりあえずこの場にいた敵は全員倒した。二人は先へと進もうとすると、

 『いたぞ!!!』
 「また来た〜!!!!!」

 敵は総力戦で来ていた。
4119話:04/06/06 00:41 ID:muGKYRS2
 

  今度はさっきのようにはいかない。いくらなんでも相手が多すぎる。
 二人は必死に走った。しかし追ってくる敵は逃げれば逃げるほど増えてゆく。
 せめてもの救いといえば、さっき来た大群は全員前の部屋から来たから、
 挟み撃ちにされる心配がないことか。
 そしてそれは出口、もしくは行き止まりが近い事を意味する。後者ならば・・・・。


 『Good bye boy』

 後ろも見ずに魔弾を力いっぱい放つ松浦。
 石川はそうしたいのは山々だがそんな器用な事が出来ない。
 というよりレベル不足で使える攻撃呪文がほとんどない。石川は辛かった。
 後輩に頼るしかない、自分の弱さが。

 「どうする?!」

 目の前には、道が二つ分かれていた。真っ直ぐ行くのか、曲がるのか。
 
 「曲がりましょう!!」

 松浦は思った。もしかしたら曲がり角でうまく撒けるかもしれないと。
4219話:04/06/06 00:42 ID:muGKYRS2

 二人は曲がると、

 ガチャッ。

 ちょっと先の部屋のドアが開く。

 『!!』

 また誰か出てくるのか!?でも後ろへ引き戻す事は出来ない。
 やばい!!
 松浦は両手に魔力を思い切り溜める。松浦の中で腹が決まった。
 前の扉を吹っ飛ばして切り抜ける!!

  扉から手だけが顔を出す。親指を自分の部屋へクイッと向けるジェスチャーをした。

 『?』

 入れ、という事なのだろうか。どうしていいか分からない二人は、かくまって
 くれるのではないかというほのかな期待を胸に、中へと急いで入った。

 バタンッ。
4319話:04/06/06 00:43 ID:muGKYRS2


  ドアは誰も触れてもいないのに勝手に閉まった。
 別に驚く事でもないので二人は何も言わない。

 ドドドドドドドドドドドド・・・・・。

 大量の足音が左から右へと流れてゆく。どうやらバレなかったようだ。

 「あの、よく分かりませんがありがとうございまし・・・・た?」

 松浦がお礼を言おうと部屋の住人に目をやると、すぐに妙な音が聞こえてきた。

 ウィ〜ン
 ジョリジョリジョリジョリ・・・・。

 「あの?」
 「は〜い?」

 間の抜けた声に二人拍子抜けした。鏡を見ながら、髭剃りで必死に髭をそっているのは・・・
 30後半くらいの男。どう見ても強そうではない。見た目で二人は拍子抜けしてしまった。
 この人も、敵国の主戦力として戦っていたというのだろうか。
4419話:04/06/06 00:43 ID:muGKYRS2

 『ありがとうございました!』

 二人はとりあえず礼を言った。

 「別に礼はいいよ。」

 男は髭剃りを終えると、

 「桃、食べる?」

 桃の缶詰を取り出した。

 『・・・・・はい?』

 とりあえず二人は断りきれずスプーンを一緒に受け取り、無言のまま食べ出す。
 なんだかよく分からないが、気まずい。
 石川はパクパクと何も考えずに食を進めているのを見て、松浦も食べる事にした。

 ・・・・・・・・・・・・。

 食べ終わった頃、男はまた髭を剃り出していた。
4519話:04/06/06 00:44 ID:muGKYRS2

 「あの〜・・・。」
 「ん〜?俺は伊藤一朗。いっくんってみんなに呼ばれてる。」

 いっくん・・・・。
 
 「あの〜・・・。」
 「髭?ごめんね、よく伸びるの。」
 「いやそうじゃなくて・・・。」

 松浦は凄く言いにくそうに、言った。

 「こういう事言うのもなんなんですが、何で助けてくれたんですか?」

 いっくんは考え込むような顔をしたまま、止まってしまった。

 ウィーン
 ジョリジョリジョリジョリ

 「また剃るのかよ!!!」

 松浦が叫んだ瞬間、石川が驚いて横を向く。松浦は慌てて口を塞ぎ、改めて、
 
 「戦ったり、しないんですか?」
4619話:04/06/06 00:46 ID:muGKYRS2
 「はっ?」

 いっくんは髭を剃るのに夢中で聞いちゃいない。松浦は考えた。
 もしここにおびき寄せたのも、今こうやっているのも全部罠だとしたら危険だ。
 ならば、今、隙だらけな今のうちに!
 松浦は先手必勝とばかりに、髭を剃るいっくんの背後へと回った。
 
 『ヒヤシンス』

 松浦がいっくんの背中に到達した瞬間、
 シュッ

 「?!」

 いっくんがその場から忽然と姿を消す。二人は辺りを見回した。
 部屋は広いが、だからと言って隠れる場所があるわけでもない。
 どこかにいるはずなのだ。

 「あのさ〜。」
 『!!!』

 二人は驚く。特に松浦に関して更に怯えた。気づくと松浦は後ろから羽交い絞めにされ、
 首元にはギターが突きつけられていた。ギターにもたっぷりと魔力が込められているのを肌で感じる。
 いっくんはその間の抜けたトーンのまま、言った。

 「俺戦意0だから、行きたきゃ行って。でもそっちが戦いたいなら、やるよ。」
 「は、はい・・・。」

 松浦は離されると慌てて後退した。
4719話:04/06/06 00:47 ID:muGKYRS2

 「あ〜、別に休む分には何時までもここいて構わないから。」
 「じゃあ、少し休んじゃおうか?」
 「え?・・・・そうですね。」

 落ち着くのに時間が必要と判断した二人は、しばらくここでおとなしくすることにした。
 いっくんは座ると、アコギで静かに旋律を奏で始める。
 二人は思わず聞き入る。それはいっくンの風貌からは想像も出来ないような、
 優しく、美しい旋律。

 

 やがていっくんは手を止めると、

 ウィーン
 ジョリジョリジョリジョリ・・・・

 『また?!』

 To be continued...