134 :
25話:
25.Underplot
「石川少ない!!」
「もう出ません!!」
さっきからそんな会話ばかりが、塔で展開していた。
石川は周りから攻められまくりもう泣きそうな状態。
六方正の原理を成功させるためには円の全員がほぼ同量の魔力を放たなければ
ならないのだ。しかもただ同じだけでは呪文は成功しない。半端ない量の
魔力を要する。しかし石川は、
「一人レベル低いから仕方ないね。」
藤本にさくっと一言言われ、石川は落ち込んだ。
石川だって必死に出せるだけの魔力を中心の書物へと送り込んでいた。
しかし周りとはレベルが違いすぎる。
周りが高すぎるし石川自身も大分低い。そんな状態では魔力を浪費するだけで、
無駄な時間を過ごすことになってしまう。
135 :
25話:04/06/23 21:54 ID:E+fMkXIF
「化学くんにさらわれてばかりいるからですよ。」
今度は紺野に言われ、石川はしゃがみこんだ。
「弱いって悲しいね・・・。」
ここまで沈黙を守り続けていた飯田は、困った表情を浮かべながら六方正を解いた。
『え?』
この行動には全員驚く。
飯田自らが六方正を崩したことにより、全員慌てて魔力の放出をストップした。
飯田は自分へと視線が集中したのを確認すると、言った。
「この際五方正で妥協しよう。その分魔力上げれば威力上がるはずだから。」
「異議なし!」
矢口が手を上げると、続々と手が上がってゆく。
136 :
25話:04/06/23 21:54 ID:E+fMkXIF
「異議なし!」
「賛成〜!」
「完璧です!」
「名案。」
「なぁんで〜・・・。」
石川は悲しそうに矢口の側へと。
飯田は面倒臭そうな顔をして、石川に告げる。
「しょうがない、愛しのよっすぃ〜の所へ行っておいで。」
「え?」
「ここにいても狭いし邪魔だから。」
石川は泣きながら塔を飛び降りた。
137 :
25話:04/06/23 21:55 ID:E+fMkXIF
吉澤の世界は急激に加速をし始めていた。
さっきとは一変、今度は何もかもがあっという間に過ぎてゆく。
闘気が放出を続け、吉澤の身体が暴走していることの表れだった。
遂さっきまでのスローモーションは、いわば交通事故やボクサーと同じ原理。
本能が死を予感した結果・・・。
自分が蹴り飛ばされ吹き飛んでいる事を吉澤は漸く理解すると、周りを見た。
目の前には森がどこまでも果てなく続いている。
「(落ちる!)」
吉澤は力を振り絞り、両腕から精一杯闘気を放った。
『!!』
辻と加護は固唾を呑んでその様子を見守っている。吉澤は反動でなんとか
王の間まで戻ったが、着地しきれずその場で崩れ落ちた。
「よっすぃ〜・・・。」
辻と加護は悲痛な表情で吉澤を見ていた。回復呪文の一つも使えずに、
目の前の仲間の死を何も出来ずに見送る苦しみ。
辻にとっては今日だけで2度目の体験。辻の目は悲しみに濡れていた。
138 :
25話:04/06/23 21:56 ID:E+fMkXIF
のの・・・・。
吉澤はそんな辻を見て、なんとか地面を這いつくばった。
あたしが・・・あたしが戦わなきゃ!吉澤は立ち上がると、また転んだ。
「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・。」
「よっすぃ〜!もうええ!!もうええ!」
「・・く・・・・・。」
吉澤は地面に掴むように思い切り地面を叩く。腕にグッと力をいれ、
腕立て伏せのように体を起こそうとするも、腕が痙攣するだけでその先へと
進めなかった。
「ぁぁ!!!ぁぁ!!」
精一杯の声を張り上げ、なんとか上半身を起こす。
しかし次の瞬間には、地面に派手に堕ちていた。
まるで、たたきつけられているかのように。
「もういいれす・・・・よっすぃ〜もう休んでてくらさい・・・。」
辻がなんとか声を出すも、吉澤には届かない。
139 :
25話:04/06/23 21:57 ID:E+fMkXIF
「無駄だ。お前の体は貫かれたはずだ。」
Gacktは静かに呟いた。
『au revoir』はこれまでGacktが使ってきた中でもかなり恐ろしい技といえる。
全体攻撃としては完全に『Another world』の方が威力は上だが、
単体攻撃としての破壊力は『au revoir』が遥かに上を行く。
この技の直撃を食らい生き残った敵はいないほどに。この技の恐ろしい所は、
2回に分けて攻撃を行う時、正確に一撃目に叩いた所の『裏』を蹴るところにある。
これによって両側の陥没から敵の胸にはぽっかりと穴が開き、貫通した形になってしまう。
身体を貫かれた敵を待つものは、死の他にない。
「ぐっ・・・・っ・・・・・!!」
しかし吉澤はなんと、立ち上がってみせた。
「何?!」
再び闘気を全て開放し攻撃を繰り出す。
140 :
25話:04/06/23 21:58 ID:E+fMkXIF
「うっ」
しかし、吉澤は1メートルも前に進む事は出来なかった。
刹那、
「ごふっ。」
吉澤は手で口を覆うと、そのまま背中から地面へと崩れた。
手を離すと、手は真っ赤に染まっている。
それを見ただけで辻と加護は気が狂いそうになった。吉澤はなんとなく
感じる欠落感を確かめるかのように、そっと胸を摩る。
「・・・・・・あれ。ある。」
「何?」
Gacktが吉澤の呟く言葉にピクリと反応する。
一撃目でかなり深いダメージを受けていたはずの傷。
陥没した感覚があったはずなのに、胸骨は確かに残っていた。
ひびが入ったような感覚はあるものの、確かに。なんで・・・?
吉澤のその疑問は、服の中を覗き込むことですぐに解決した。
141 :
25話:04/06/23 21:59 ID:E+fMkXIF
142 :
25話:04/06/23 22:00 ID:E+fMkXIF
「よっすぃ〜。」
「これは?」
「あたしの魔力たっぷり込めた、お守り。」
143 :
25話:04/06/23 22:01 ID:E+fMkXIF
「梨華ちゃん・・・。」
胸の中にあったのは、石川から貰ったペンダント。
無残に砕けてしまっているが、どうやらこれで一命を取り留めたらしい。
背中には激しい痛みを感じるが、そんな事は言っていられない。
なんだか吉澤は少しだけ活力が戻った。
石川に救ってもらったこの命で、石川達を救う。
たとえどんなに傷つき、倒れそうでも。吉澤の決意は固まった。
死を覚悟し、恐れることを忘れた人間の力は恐ろしい。
吉澤はゆっくりと立ち上がり、もう一度構えてみせた。
「っし・・・。」
しかしGacktの方へと視線を移すと、
Gacktの視線はあさっての方向へと向かっていた。
144 :
25話:04/06/23 22:02 ID:E+fMkXIF
Gacktは焦っていた。
『au revoir』をどんな形であれ、凌がれた事に。
『au revoir』はGacktが最も自信を持ち、勝負所で使っていた、使い慣れた技だった。
それをペンダントのせいとはいえ失敗した事は、Gacktの精神にショックを与えるには充分。
かわし方から見て向こうに運が来ているかもしれない。
これで向こうに勢いつく可能性は否定出来ない。
勝利を確信した所から突然の吉澤復帰で、Gacktはかなりネガティブになっていた。
そんな時、不意にGacktの視線にある物が飛び込んだ。
・・・・・なんだあれは?
・・・・・塔?
・・・・・まさか。
145 :
25話:04/06/23 22:02 ID:E+fMkXIF
「貴様ら、何をたくらんでいる!!」
塔に向かって思い切り吠えるGacktを見て、3人は焦った。
やばい、気づかれた!
そしてまさにその最悪のタイミングに、塔の方から一人の娘が降り立つ。
「よっすぃ〜どうしたの?!大丈夫??」
吉澤は思わず目を瞑った。何でこんなときに、こんな身体が動かない時に、
一番守ってあげなければならない娘が・・・。
「お前ら、何をしている!!!」
Gacktは石川へと迫る。
「え?!ちょっと!!いきなり〜?!」
緊張感のない声をあげる石川を見て、吉澤は覚悟を決めた。
146 :
25話:04/06/23 22:05 ID:E+fMkXIF
「(梨華ちゃん!)」
残った気を、全て右の拳に込める。
梨華ちゃんのおかげで救われた命。
今度はあたしが救う番だ!
「うおおおお!!!!」
吉澤は叫び声と共に、Gacktの背中に全てを叩きつけた。
『Moon light blast』
To be continued…