122 :
24話:
24.「PHANTOM」
月の光を浴びて、Gacktは薄気味笑い笑みを浮かべていた。
自分の力を確かめるかのように、両手に目をやり、ゆっくりと握り締める。
夜の空に、彼は完全に同化していた。風がなびく。髪が少しだけ揺れると
Gacktはフッと笑い、ゆっくりと王の間まで降りてきた。
「ふーっ・・・。」
何度も拳を閉じたり開いたりするGackt。己の力を噛み締めるかのように、
何度も何度も繰り返した。その姿に吉澤は物凄い不快感を覚える。
「(なんなんだよ・・・こいつ。)」
心なしかさっきよりも背が高く、より筋肉質になっている。
そして何よりも違うのは、圧倒的な邪気。
もし数値にしてこの邪気を表せるならば、天文学的数値になるのは間違いない。
それほどまでにどうしようもない、力の差を感じた。
123 :
24話:04/06/21 22:26 ID:FwTY9AUg
途方もない差。
栓が壊れたみたいにGacktの全身から溢れ続ける邪気に、吐き気がした。
「AHHHHHHH!!」
再び突然の雄たけび。
今度は至近距離だったこともあり、吉澤はあっさりと吹き飛ばされてしまった。
一気に辻加護が激突した壁に激しく接触。
「ぐっ!!」
背中を強く打った吉澤は口を手で抑えた。
その手を離すとその手には赤い液が垂れている。
辻と加護は急いで吉澤の下へと駆け寄った。
「大丈夫?!」
吉澤は辛そうな顔をしながら、2人に囁いた。
「二人とも、どのくらい残ってる?」
「ほとんど。」
「やな。」
それを聞くと吉澤は満足そうな笑みを浮かべる。
両手をそれぞれ2人に差し出し、言った。
「じゃあほとんど頂戴!」
124 :
24話:04/06/21 22:27 ID:FwTY9AUg
「え〜、あれ死ぬほどきついやん。」
「死ぬほどきついのと死ぬの、どっちがいいのかな?」
強い口調、強い目で言われた2人は、言い返せずに吉澤と手を繋いだ。
「いただきます。」
吉澤は二人に一礼すると、精神を集中。
繋いだ両手が軽く光を帯び、暗闇の中輝いた。
「?」
Gacktが3人の不審な動きに気づく。
「何をしている!!」
Gacktが一気に近づいてくる。
時間はない。
吉澤は一気に事を進めた。
『1.2.3!』
125 :
24話:04/06/21 22:28 ID:FwTY9AUg
辻と加護の気が、繋いだ手を伝って一気に吉澤へと流れてゆく。
『1.2.3!』は、繋いだ手から繋いだ相手のエネルギーを吸収する事により、
相手のエネルギーを吸った分だけ自分の闘気に足し算する技。
つまり今吉澤には、3人分の闘気が宿っている。3倍とはいかないものの、
少なくとも吉澤の闘気は倍に膨れ上がった。
「・・・・・・・。」
Gacktは吉澤の気がどんどん強くなってゆくのを、特別驚く様子も見せず、
微動だにせずにただ見ていた。
「(これだけ闘気放っても反応無しかよ。)」
吉澤は不快感をそのまま顔に出す。どんだけ底がねぇんだ、Gacktは。
自分は確かに急激に強くなっているはずなのに、何故かさっきよりも
恐怖感が高まっている。少し手も震えていた。
126 :
24話:04/06/21 22:29 ID:FwTY9AUg
「(てことは・・・・。)」
吉澤は二人の手を離し、ゆっくりと一歩、足を踏み出した。
辻と加護は疲れた表情を見せてその場に座り込む。
二人の気をギリギリにまで吸い取って、尚も吉澤の力はGacktの安全圏内。
勘弁してくれよ・・・。
吉澤は逃げ出したい気持ちを抑え、必死に分析した。
とりあえず分かる事は、Gacktの邪気はこれ以上上がる事もないし下がる事もない、
という事だ。
通常、闘気邪気関係なく普段は体内に抑え込み、外にはなるべく出さない。
というより、あんな風に流れ出ている事は意識的に出さないとありえない。
すぐに出し尽くして萎れてしまうからだ。ただ、今のGacktは満月から常に
邪気の供給を受けているから、いくら需要しても減る事はない。
だが逆に言えば抑えていないことは、現状の邪気が最大値。
月の力を浴びて進化して、更に進化するとは思えないから、この仮説は正しいはずだ。
127 :
24話:04/06/21 22:30 ID:FwTY9AUg
つまり、吉澤がGacktとまともにやりあうには、
「(あたしも栓をぶち壊さないといけないらしいね。)」
吉澤は苦笑いした。
需要供給曲線がおかしなことになっているGacktに対して、
自分は供給がないため、需要すれば需要するほど減ってゆく。
あっという間にしおれてしまうのは間違いない。
果たして何分持つか・・・。それが問題だった。
例えまともにやり合ったとして、一瞬にして使い果たしてしまっては
全く意味がない。二人からもらっている事を考慮すると、もって・・・・。
「(10分、いや5分でいい。もってくれよ、あたしの身体!)」
吉澤の目つきが変わる。
Gacktはそれを見て思わず身構えた。
128 :
24話:04/06/21 22:31 ID:FwTY9AUg
「はぁ!!」
一気に膨張を見せる吉澤の闘気。今度はGacktが吹き飛ばされた。
Gacktはギリギリ城の外へと投げ出されない辺りまで転がる。
起き上がると、既に目の前には吉澤の姿があったことにGacktは驚いた。
『Baby!Knock out』
さっきと比べ、更に破壊力を増した打撃を、Gacktを襲う。
「ぐはっ!!!」
直撃を食らったGacktの口からは血が吹き出た。
「やった!」
辻と加護はそれを見てガッツポーズ。
しかし2人の予想以上に、吉澤は全力で飛ばしていた。
間髪入れずに連続攻撃を放ってゆく。
吉澤が右フックを打つと、Gacktは左へと避ける。しかしそれは誘いだった。
「(来た!)」
避けたGacktの視界に、吉澤の左ハイが飛び込んできた。
129 :
24話:04/06/21 22:32 ID:FwTY9AUg
捉えた!
吉澤がそう確信したその時、Gacktは忽然と姿を消してしまった。
いや、正確には消えたわけではない。
「(後ろ!!)」
「遅い。」
Gacktはにやりと笑うと、右手に思い切り邪気を蓄積した。
『au revoir』
130 :
24話:04/06/21 22:33 ID:FwTY9AUg
吉澤の『Moonlight blast』と同系統の技だった。
しかし、威力は遥かに凌駕する。
吉澤は突然、世界がどうにかなってしまったのではないか?と錯覚を覚えた。
何もかもがスローモーション。近づいてくるGacktの拳、それをかわそうと
必死に身体を動かす自分。精一杯逃げようとしているのに、
身体がゆっくりにしか動かせない。ゆっくりと、確実に近づいてくる闇の拳。
そこから放たれる邪気も、ゆっくりと吉澤の肌とぶつかっていた。
1メートル、50センチ、30センチ、10センチ。
メリッ。
胸の骨が、ゆっくりと嫌な音を立てて軋む。
拳が胸の奥に食い込むような感覚。
喉の奥から、生暖かい液体が逆流してきた。そうするうちにも、拳を伝い
闇の波動が、身体の奥へ、奥へと流れて行く。
131 :
24話:04/06/21 22:34 ID:FwTY9AUg
Gacktが更にもう一押しすると、胸と拳はゆっくりと離れ、
吉澤は宙に浮かんでいるような感覚を覚えた。
現に浮いているのだから、空を飛んでいる、と言った方が適切なのかもしれない。
ゆっくり、ゆっくりと後ろへ飛んでゆく。やがて背中に硬い感覚を覚えた。
「(壁?)」
随分と冷静に分析している自分がなんだか笑えた。
しかしすぐにそれも間違いだという事に気づく。
背中の一点に、集中的に痛みを覚えたからだ。後ろを急いで振り向く。
ゆっくりと首が動き、やがて視界に現れたのは、笑っているGacktだった。
背中の感触は、先回りしていたGacktの足だったのだ。
月が笑っていた。
To be continued…