モッさん最強

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12224話
 24.「PHANTOM」

 月の光を浴びて、Gacktは薄気味笑い笑みを浮かべていた。
 自分の力を確かめるかのように、両手に目をやり、ゆっくりと握り締める。
 夜の空に、彼は完全に同化していた。風がなびく。髪が少しだけ揺れると
 Gacktはフッと笑い、ゆっくりと王の間まで降りてきた。
 
 「ふーっ・・・。」

 何度も拳を閉じたり開いたりするGackt。己の力を噛み締めるかのように、
 何度も何度も繰り返した。その姿に吉澤は物凄い不快感を覚える。

 「(なんなんだよ・・・こいつ。)」

 心なしかさっきよりも背が高く、より筋肉質になっている。
 そして何よりも違うのは、圧倒的な邪気。
 もし数値にしてこの邪気を表せるならば、天文学的数値になるのは間違いない。
 それほどまでにどうしようもない、力の差を感じた。

12324話:04/06/21 22:26 ID:FwTY9AUg

 途方もない差。
 栓が壊れたみたいにGacktの全身から溢れ続ける邪気に、吐き気がした。

 「AHHHHHHH!!」

 再び突然の雄たけび。
 今度は至近距離だったこともあり、吉澤はあっさりと吹き飛ばされてしまった。
 一気に辻加護が激突した壁に激しく接触。

 「ぐっ!!」

 背中を強く打った吉澤は口を手で抑えた。
 その手を離すとその手には赤い液が垂れている。
 辻と加護は急いで吉澤の下へと駆け寄った。

 「大丈夫?!」
 
 吉澤は辛そうな顔をしながら、2人に囁いた。

 「二人とも、どのくらい残ってる?」
 「ほとんど。」
 「やな。」

 それを聞くと吉澤は満足そうな笑みを浮かべる。
 両手をそれぞれ2人に差し出し、言った。

 「じゃあほとんど頂戴!」
12424話:04/06/21 22:27 ID:FwTY9AUg

 「え〜、あれ死ぬほどきついやん。」
 「死ぬほどきついのと死ぬの、どっちがいいのかな?」

 強い口調、強い目で言われた2人は、言い返せずに吉澤と手を繋いだ。

 「いただきます。」

 吉澤は二人に一礼すると、精神を集中。
 繋いだ両手が軽く光を帯び、暗闇の中輝いた。

 「?」

 Gacktが3人の不審な動きに気づく。

 「何をしている!!」

 Gacktが一気に近づいてくる。
 時間はない。
 吉澤は一気に事を進めた。

 『1.2.3!』
12524話:04/06/21 22:28 ID:FwTY9AUg

  辻と加護の気が、繋いだ手を伝って一気に吉澤へと流れてゆく。
 『1.2.3!』は、繋いだ手から繋いだ相手のエネルギーを吸収する事により、
 相手のエネルギーを吸った分だけ自分の闘気に足し算する技。
 つまり今吉澤には、3人分の闘気が宿っている。3倍とはいかないものの、
 少なくとも吉澤の闘気は倍に膨れ上がった。

 「・・・・・・・。」

 Gacktは吉澤の気がどんどん強くなってゆくのを、特別驚く様子も見せず、
 微動だにせずにただ見ていた。

 「(これだけ闘気放っても反応無しかよ。)」

 吉澤は不快感をそのまま顔に出す。どんだけ底がねぇんだ、Gacktは。
 自分は確かに急激に強くなっているはずなのに、何故かさっきよりも
 恐怖感が高まっている。少し手も震えていた。

12624話:04/06/21 22:29 ID:FwTY9AUg

 「(てことは・・・・。)」

 吉澤は二人の手を離し、ゆっくりと一歩、足を踏み出した。
 辻と加護は疲れた表情を見せてその場に座り込む。
 二人の気をギリギリにまで吸い取って、尚も吉澤の力はGacktの安全圏内。
 勘弁してくれよ・・・。
 吉澤は逃げ出したい気持ちを抑え、必死に分析した。

 とりあえず分かる事は、Gacktの邪気はこれ以上上がる事もないし下がる事もない、
 という事だ。
 通常、闘気邪気関係なく普段は体内に抑え込み、外にはなるべく出さない。
 というより、あんな風に流れ出ている事は意識的に出さないとありえない。
 すぐに出し尽くして萎れてしまうからだ。ただ、今のGacktは満月から常に
 邪気の供給を受けているから、いくら需要しても減る事はない。
 だが逆に言えば抑えていないことは、現状の邪気が最大値。
 月の力を浴びて進化して、更に進化するとは思えないから、この仮説は正しいはずだ。

12724話:04/06/21 22:30 ID:FwTY9AUg

 つまり、吉澤がGacktとまともにやりあうには、

 「(あたしも栓をぶち壊さないといけないらしいね。)」

 吉澤は苦笑いした。
 需要供給曲線がおかしなことになっているGacktに対して、
 自分は供給がないため、需要すれば需要するほど減ってゆく。
 あっという間にしおれてしまうのは間違いない。
 果たして何分持つか・・・。それが問題だった。
 例えまともにやり合ったとして、一瞬にして使い果たしてしまっては
 全く意味がない。二人からもらっている事を考慮すると、もって・・・・。

 「(10分、いや5分でいい。もってくれよ、あたしの身体!)」

 吉澤の目つきが変わる。 
 Gacktはそれを見て思わず身構えた。

12824話:04/06/21 22:31 ID:FwTY9AUg

 「はぁ!!」

 一気に膨張を見せる吉澤の闘気。今度はGacktが吹き飛ばされた。
 Gacktはギリギリ城の外へと投げ出されない辺りまで転がる。
 起き上がると、既に目の前には吉澤の姿があったことにGacktは驚いた。

 『Baby!Knock out』

 さっきと比べ、更に破壊力を増した打撃を、Gacktを襲う。

 「ぐはっ!!!」

 直撃を食らったGacktの口からは血が吹き出た。

 「やった!」

 辻と加護はそれを見てガッツポーズ。
 しかし2人の予想以上に、吉澤は全力で飛ばしていた。
 間髪入れずに連続攻撃を放ってゆく。

 吉澤が右フックを打つと、Gacktは左へと避ける。しかしそれは誘いだった。
 
 「(来た!)」

 避けたGacktの視界に、吉澤の左ハイが飛び込んできた。
12924話:04/06/21 22:32 ID:FwTY9AUg


 捉えた!


 吉澤がそう確信したその時、Gacktは忽然と姿を消してしまった。
 いや、正確には消えたわけではない。
 
 「(後ろ!!)」
 「遅い。」

 Gacktはにやりと笑うと、右手に思い切り邪気を蓄積した。
 
 『au revoir』

13024話:04/06/21 22:33 ID:FwTY9AUg

 吉澤の『Moonlight blast』と同系統の技だった。
 しかし、威力は遥かに凌駕する。
 
 吉澤は突然、世界がどうにかなってしまったのではないか?と錯覚を覚えた。
 何もかもがスローモーション。近づいてくるGacktの拳、それをかわそうと
 必死に身体を動かす自分。精一杯逃げようとしているのに、
 身体がゆっくりにしか動かせない。ゆっくりと、確実に近づいてくる闇の拳。
 そこから放たれる邪気も、ゆっくりと吉澤の肌とぶつかっていた。

 1メートル、50センチ、30センチ、10センチ。

 メリッ。

 胸の骨が、ゆっくりと嫌な音を立てて軋む。
 拳が胸の奥に食い込むような感覚。
 喉の奥から、生暖かい液体が逆流してきた。そうするうちにも、拳を伝い
 闇の波動が、身体の奥へ、奥へと流れて行く。
13124話:04/06/21 22:34 ID:FwTY9AUg

 Gacktが更にもう一押しすると、胸と拳はゆっくりと離れ、
 吉澤は宙に浮かんでいるような感覚を覚えた。
 現に浮いているのだから、空を飛んでいる、と言った方が適切なのかもしれない。
 ゆっくり、ゆっくりと後ろへ飛んでゆく。やがて背中に硬い感覚を覚えた。

 「(壁?)」

 随分と冷静に分析している自分がなんだか笑えた。
 しかしすぐにそれも間違いだという事に気づく。
 背中の一点に、集中的に痛みを覚えたからだ。後ろを急いで振り向く。
 ゆっくりと首が動き、やがて視界に現れたのは、笑っているGacktだった。
 背中の感触は、先回りしていたGacktの足だったのだ。

 月が笑っていた。
 
 To be continued…