102 :
23話:
23.「もう一人の天才」
「・・・・終わった。」
Gacktはもう一度だけ呟くと、自然を笑いがこみあげてきた。
頬が緩んでしょうがない。やっと、終わったのだ。
予想以上に苦戦を強いられたが、この王の間の惨状から見て全員殺しただろう。
あと残るは地下牢へと落とした面子だが、あんなレベルの奴等は問題ない。
今頃全員抹殺されている事だろう。もう終わったも同然だ。
部屋の反対側の壁は完全に消え去り、地面もほとんど抉れ、ここが遂さっきまで
王の間だったなんてまるで嘘みたいに思えてくる。降り注いで来る様に輝く星の光は、
Gacktをこの上なく上機嫌にさせた。
「AHHHHH!!!」
雄たけびを上げる。頬をもう一度緩ませ、天井へと魔弾を放った。
天井は全て吹き飛び消滅し、月がはっきりと見える。
月の光はGacktに無限の力を与えているかのように、一層輝きを増していた。
103 :
23話:04/06/18 23:51 ID:fNv/+dlX
「hyde・・・・・。」
Gacktはふと、思い出したように呟いた。
Gacktはさっきマネキン戦を見たときのように巨大モニターを出し、
hydeが藤本や辻達と戦っている映像を見る。
・・・見てすぐに後悔した。
Gacktの目に映ったのは、親友がボロボロになりながらも戦い、
粉々に切り刻まれているシーンだった。月の子言えど、
身体を粉々にされてしまっては再生のしようがない。Gacktはその瞳から
生暖かい涙が流れる事に気づくと、それをごまかすかのように床を思い切り
踏みつけた。
「くそ!!!」
床には大きなひびが入り、そこから大きな穴が出来る。
床へと不意に視線を落すと、足元に出来た大きな穴から意外な人物が現れた。
104 :
23話:04/06/18 23:52 ID:fNv/+dlX
「ちーす。」
「な?!」
ガン!!
唖然とするGacktに、吉澤はすかさず顔面に一撃。
「くっ!」
Gacktはそのまま壁まで飛び、ぶち当たった。吉澤から受けた打撃は、
さっき受けた『Moon light blast』より遥かに重く感じる。
顔を抑えながら起き上がると、吉澤はもう目の前に立っていた。半笑いで。
「ちょっと遊んでくれない?」
「他の奴等はどこだ?」
「答える必要はない。」
「どうやって『Another world』を凌いだ!!!」
Gacktが一番気に食わなかったのはそれだった。
確かに『Another world』は直撃したはず。
たとえ壁に穴を開けて飛び降りたにしても怪我所ではすまないだろうし、
飯田が瞬間移動を放つ体力もまだないだろう。
なのに何故?
105 :
23話:04/06/18 23:53 ID:fNv/+dlX
特に吉澤が一人穴から出てきたのは凄く気になった。どういうことだ?
「だから、言わないって。」
相変わらず笑っている吉澤に、Gacktは怒りを抑え込めずにはいられない。
「なら死ね!!」
邪気を一気に張り上げる。吉澤は少しだけ後退したが、特に驚いた表情を
見せることはなかった。
「好都合。でもそんなに簡単にはやられません。さっきまでは50%くらいしか
出してなかったから、ちょっとは楽しめるんじゃないかな。」
「50%?そんな嘘誰が信じるか。」
Gacktは完全にバカにしていた表情。
「バレた?」
吉澤はへらへらと笑った後、武道家の構えを取る。その瞬間吉澤の表情は
引き締まり、Gacktは今までに感じたことがないほど強大な闘気を感じて
吹き飛ばされそうになった。
106 :
23話:04/06/18 23:53 ID:fNv/+dlX
「ご名答。今までは20%さ。」
107 :
23話:04/06/18 23:54 ID:fNv/+dlX
108 :
23話:04/06/18 23:55 ID:fNv/+dlX
「痛たたた・・・・・・。」
矢口は数え切れない擦り傷を気にしながら、フラフラと紺野達がいる場所へと
3人を案内した。時間はあまりない。
吉澤が時間を稼ぐといい地面に潜り込んでいるが、一体どれくらい持つか
分からないから危険だ。
「ごめんね矢口、カオリが瞬間移動できてたらよかった。」
「ううん、しょうがないよ。
でもまさか飛び降りるとはGacktも思わないでしょ〜。」
矢口が笑顔になる。
その姿はどうも小学生くらいの子供が、喧嘩に勝って勝ち誇っているように
藤本には写った。
109 :
23話:04/06/18 23:56 ID:fNv/+dlX
『Another world』
この技が来るのを、全員が待っていた。
石川松浦がいっくんに可能性を持ちかけられた時点で、まともに倒すことは
諦めていたのだ。だがだからと言ってGacktの視線を掻い潜って抜け出し、
呪文を実行するのはかなり困難な作業。
そこでこっちがGacktの姿を見ることの出来ない、つまり向こうもこっちの
姿を確認できなくなるタイミングを待っていた。そしてやっと来たチャンス。
藤本が壁に穴を開け、吉澤は地面に穴を開けビバークの要領で潜り込み、
それぞれ分かれる。
藤本が飛び、自由落下する矢口と体力が果てかけている飯田を支えながら
地面へと降りた。しかし藤本にも限界があり、地上5メートル地点で落下。
木に引っかかった矢口は全身擦り傷だらけとなった。
「とりあえず行きましょうか。みんな待ってます。」
110 :
23話:04/06/18 23:57 ID:fNv/+dlX
矢口が集合場所に決めたのは、地下牢の出口だった。
そこならば辿り着けさえすれば誰も迷わない。
自分達はリモートしてもらい着けばいいだろう。
現地に既に到着している6人から指示を受けながら、3人はなるべく急いで進んだ。
外は予想以上に暗く、化学くんのエリアだったため森の中を進まなければならず、
藤本が剣で作ったたいまつが唯一の頼りと言う状態だった。
「あ、ここでーす!!」
甲高いアニメ声が聞こえ、3人は少し小走りになる。
到着すると紺野は既に精神を集中させていた。
彼女の役目は、タロットの『TOWER』で全員を天高くまで運ぶ事。
紺野の全身が魔力を帯びて来た時、紺野は目を開いた。
111 :
23話:04/06/18 23:58 ID:fNv/+dlX
「行きますよ・・・。」
全員の中心に立った紺野は、少し緊張した表情でタロットを取り出した。
タロットは淡い光を帯びて、暗闇を照らす。
『TOWER』
10人の足元が盛り上がる。
紺野を中心とした半径10メートル弱の円を頂上とした塔が、
地面から一気に天へと伸びてゆく。
「うわっ!」
何人かは慌てて座り込んだ。下手に立っていると振り落とされてしまう。
塔が城の頂上を追い越したところで、辻と加護は完全に開けた王の間へと
飛び移った。
「いってらっしゃーい。」
小川が軽く手を振る。塔はどんどん高くなってゆき、城の頂上の遥か上空、
月も大きく見えてしまう気がする辺りまで登り、そこで止まった。
「はぁ・・・・はぁ・・・。こんなもんでしょうか?」
「上出来。」
飯田は紺野の肩をポンと叩いた。
112 :
23話:04/06/18 23:59 ID:fNv/+dlX
「これです。」
松浦がいっくんから貰った書物を取り出すと、全員の視線が一気にそこへと集まる。
書物は埃を被っていて、何人かは一歩引いた。
「この通りに唱えるの?」
「はい。」
飯田の問いに、石川が答える。
「でも、一人の人間で起こせるのはほんのちょっとらしいです。
だから六方正の原理で魔力を一気に増幅しないと厳しいです。」
「なるほどね・・・。じゃあ美貴ここに立つ。」
藤本がとりあえず端に立ち、その向かいは石川が立った。
そのまま等間隔に左右二人ずつ入る。
並びは藤本から時計回り順に飯田、小川、石川、紺野、松浦。
矢口は中心で書物を読み上げる係だ。
そして溢れた辻加護はさっき時間を稼ぐために王の間に残った吉澤の助っ人へ。
「さて、行ってみましょうか。まず魔力放出から。」
矢口の言葉と共に全員は、一気に魔力を中心の書物へと送り込んでいった。
113 :
23話:04/06/18 23:59 ID:fNv/+dlX
スタッ。
『助っ人参上!・・・あれ?』
114 :
23話:04/06/19 00:00 ID:lmVK03t3
バキ!!ガン!!ドン!!ドコ!!ドン!
塔から飛び降りて着地した辻と加護が見たものは、Gacktが吉澤に一方的に
押されまくっているという、なんとも不可解な画。吉澤は表情一つ変えず、
と言ったら表現が間違っているかもしれないが、
終始笑顔でGacktをたたき続けていた。
「(ば、バカな・・・。さっきまでは本当に20%だったというのか?)」
Gacktが右ストレートを繰り出すと、吉澤はそれを受け止め、思い切り握りつぶす。
ミシミシミシ・・・。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
さっきとちょうど逆の構図だ。
吉澤は満足そうな笑みを浮かべると、うずくまるGacktにすかさず蹴りを放った。
ドン!
気持ちのいいくらいに音がよく響く。その度にGacktは悲鳴を上げた。
辻と加護には、もうなんだか訳が分からなかった。
115 :
23話:04/06/19 00:01 ID:lmVK03t3
「今の、ごとー達の、中で、ごとー以外.、あんたとまともに、・・・戦う力、
あるのは、もう、よっすぃと、高橋しか、いない・・・。」
116 :
23話:04/06/19 00:02 ID:lmVK03t3
後藤の台詞を、Gacktはまた思い出していた。
まともに戦う力がある所の騒ぎじゃない。半端なく強い。
格闘技だけで言えば中澤を凌ぐ力を持っている。一発一発の攻撃が重く、
そして速かった。まさか、こんなにも強いとは・・・。
ガン!!
壁のない方の部屋の端へと吹き飛ぶ。
「くっ!!」
Gacktは空中へと放り出されたが、空中で着地したようなポーズのまま静止した。
月の光を浴びて、しばし休憩を取る。吉澤は空中浮遊なんて出来ない。
だから加護に、
「あいぼんなんか投げて!」
「よし来た!!」
シュッ!
飛び出したのはブーメラン。
風をビュンビュンと斬りながら、Gacktの周りを一周して帰って来た。
117 :
23話:04/06/19 00:03 ID:lmVK03t3
「だめじゃん!」
「いや、あれ周りに膜があって当たらんようになっとるみたいやぞ。」
加護は冷静に説明をする。
そんな3人を傍観していたGacktは、漸く口を開いた。
「どうやら、本気を出さないと君には勝てないらしい。」
「は?」
吉澤は嘲笑う様に吐き捨てると、さっきGacktが吉澤に向けてした、
あの表情をした。
「今まで何%だった?20とか言わないでよ?」
「100%だよ。僕が僕でいられる中の、ね。」
嫌な匂いを嗅ぎ取った吉澤は、すぐに緩みきっていた頬を締め直す。
「hydeは残念だ。全力を出す前に負けてしまったのだからね。
月の子の真髄、思い切り味わうがいい!!」
Gacktから激しい邪気が押し寄せる。
吉澤は思い切り踏ん張りなんとか耐えるも、足は勝手に地面にめり込み、
勝手に後退してゆく。辻と加護にいたっては既に吹っ飛ばされ壁に激突していた。
「AHHHHHHH!!!」
Gacktの瞳の中には、月が浮かんでいた。
To be continued…