ネタもとは娘小説の我が闘争と
ねこみみ戦車隊、あと色々ぱくってます。
なんのこっちゃない、火薬は沢山あったのだ。
しかし、火薬だけでは爆発しなかったわけで。
誰かがそこに導火線を突っ込んで、さきっちょに火のついたマッチを擦り付けた。
火薬は、10年前の周辺国との戦争に負けて未だに払い続けている賠償金による重税とか、
此処最近の世界的な不況による失業率とか、いろいろ。
隣の色黒な少女の、甲高くてとんちんかんで調子外れの鼻歌が毎夜五月蠅くて眠れない、
なんてのも在ったに違いない。これは間違いない。
可燃物が沢山あるところへ颯爽と現れたのが、誰あろう導火線とマッチを持ち込んだ張本人だ。
彼女はいつの間にか政治の舞台に現れた。
彼女の、演説を聞いた人々、その中の一人である角の肉屋のおっちゃんは後にこう語った。
「彼女の演説を聞き終わって熱狂して家へ帰る、
仕事もしないでと文句を言いかけるかあちゃんをなだめすかして、
今日も一杯となけなしの酒をグラスについで貰う、
グイッと飲み干し勢いで今日聞いた演説の内容をかあちゃんに話そうと口を開く。
そこで気付くんですよ、あれ、彼女は今日一体全体何を話していたんだっけ。」
いつの間にか、大多数の国民が彼女を狂信的に支持した。理由もなく。
いや、理由はあった。
国民の内に溜まった外圧的な火薬。でも、それだけでは人を爆発へとは導けない。
人間はそれだけで理性を失うほど愚かではない。
彼女はもう一つの火薬に火を放った。演説の端々にそれはあった。
何と言ったらいいだろう。人は心の奥底に夢を持っている。
将来は何になるとか、これをしてみたいあれをしてみたい、
そんな夢ではなく物理的な夢ではなく。
更にもっと奥底にある、叶えたくても絶対に叶わない、解っている。
思うだけでも気恥ずかしくなる。
感情を通り越した透明で、崇高な、甘酸っぱい様な。
取りたくても取れない小さな鋭利な破片、何とはなしに見えてはいるのに。
彼女は平気でそれを皆の前で掲げて見せた。言葉で、仕草で、表情で、時には行動で。
国民全部が心酔した。
導火線に火がついて火薬に燃え移り、爆発した。
爆発した拍子に人の心の中にあった大事なモノを、ついでに吹き飛ばしていった。
爆弾の火のついた破片は、綺麗に飛び散りそこにあった大部分のモノに燃え移った。
「この国の足枷を、我々を押さえつけていた者達を順次取り払わなくてはならない。」
数年で少女から国の独裁者にまで登り詰めた女は、次の決定的な一言を吐き出す。
「隣国に対して宣戦を布告する。」
言葉は拍手と歓声で最後まで聞こえなかった。
拍手と歓声を惜しんだ数少ない人達は、次の日から忽然といなくなった。
理性を炎で焦がしきれなかった者達はいなくなった。
開戦半年で国は、隣国との戦争に勝ち併合し領土を2倍にした。
更に武力を背景に、北方に隣接する小国二つを保護国とした。
有形無形の内政干渉を行い、自国に有利な独裁政権を樹立し、衛星国家にまで仕立て上げた。
恐らくそれがいけなかった。
西にあった大国が、近年急に拡大し力をつけてきた独裁国家に懸念を持ち始めたのだ
。西の大国は国際舞台の場でやんわりとではあるが公然と、独裁国家を非難し始めた。
国際社会はこれを支持した。
国際社会はこれを支持した。
特に、世界の盟主の座を虎視眈々と狙っている強力な大国連中ほどこの意見を支持した。
どの大国も国際秩序を唱えつつ、腹の底では強力な新人ライバルを煙たがっている。
大国に追随するように、その周辺小国の一部も声を上げ始めた。
これを機会に特定の大国に姿勢を見せ有利な関係を結ぼうとする国、
自分達のことを棚に上げ他国を非難する大国連中を、この非難意見に乗ることで皮肉る国。
各国の思惑が交差しつつも、大半の小国は流れを見極める為に、中立を守った。
それでも、大国同様、小国連中も腹の底では思っていることがある。
「これ以上、残酷な御主人様には増えて貰いたくないものだ。」
国際世論は大筋ではあるが、この様に統一された。
新たな戦線が生まれてなし崩しに拡大し、戦火が世界全体を飲み込んだ頃、
とある軍需産業工場の片隅で新型の戦車が産声をあげた。
新兵器の設計から開発及び、後の生産ラインの口出しまでの権限を総統から受領した少女は、
その愛くるしいくりくりとした瞳を目一杯に開いて叫んだ。
「完璧です。」
その後ろに立ち、彼女の赤ん坊の出産に立ち会った、
それまでの戦車開発主任だった中年の男は、たしかにそうですなあ、
と一端言葉を区切り続けた。
「戦闘スペックに関しては間違い在りません。
各国のどの陸上機甲兵器も1キロ内外で正面から確実に撃破できる砲撃力、
砲撃力を確かに履行するための精度の高い光学照準機器、
只でさえ厚い装甲を最大限に利用するために傾斜させた新思想、
強力にした砲と装甲で重くなってしまった車体を軽快に動かす為の出力の高いエンジン、
これにはまだ余力がある。
その他にも無線の搭載、視界の広い索敵装置(キューポラ)、
貴女が考えつき新兵器に詰め込んだモノを数え上げればキリがない。」
男は早口に彼女への賛辞を述べて、けれどもと、最後に誰にいうでもなく呟いた。
「どこにのるんだ、にんげんは。」
誕生の産声に例えるには、余りにも五月蠅すぎる戦車のエンジン音は、
彼の呟きを完全に飲み込んでくれた。
戦場におかしな噂が流れた。
戦場に噂なんてのは付き物で、下世話なモノから、噂の様な事実まで多岐にわたる。
大抵は笑えるモノで、兵士達は特にそんなモノを好んだ。
只、前線に近くなると士気と情報の問題もあって、上官から妙な噂は慎むよう、と通達が出る。
通達が出るのは、大抵自軍に都合の悪い噂と事実であって、
ヴェテランの兵士などはそんな雰囲気で、そろそろ何か在るかもしれないな、などと察するのだ。
今回の話は前線に貼り付いている部隊によくあるモノで、新兵器に関する事柄だった。
本当によくある話だった。
軍で秘密裏に開発された兵器を装備した部隊が、数日中に駆けつけて来て、
自分達と一緒に目の前の敵を蹴散らしてくれる。
これには皆が笑い拍手をした。と、ここまでは良い、問題はその後だ。大問題はその後だ。
その部隊にいるのは全員が女らしい、と言うことだった。
これには全員が、流石に冗談だと内心思いつつも狂喜乱舞した。
所が、糧食の配給に訪れた人間がいて、
自分も些か違うがそんな話を聞いたことがある、と言った。
「俺の聞いたのは、戦車隊の話で新型のヤツらしい。
見た人間の話だと乗っていたのは確かに女は女だが、
それが何でもとんでも無く煮ても焼いても食えないような糞ガキらしいんだと。
それと、新兵器も糞ガキ達もとてつもなく無く大食らいで、
そいつらが援護に回った所は、弾薬も燃料も食料も、瞬く間に無くなってくんだと。
大食らいの名に恥じぬよう、確かに敵さんも全部食い尽くしてくれるらしいが、
そいつらのせいで援護された味方はヒョロヒョロになっちまって、
敵の弾が当たるよりも先に栄養不足で倒れてくんだって。」
真面目な顔で語りつつも、段々と目を丸くしていく前線兵士達を見て、
本当は大笑いしたくて堪らない補給部隊の男は今にも崩れそうになる顔を必死の腹筋で我慢して、
じゃあなと片手を振って帰っていった。
「おい、何だ今の話は。
女共が、総統閣下の影響と新法で、戦争に出てきてるのは国からの手紙で知ってたけど、
後方に限った話だろう。最前線になんて。」
「まったくだ、どうなってるんだ。それも子供だと、そんなに戦局はまずい状況なのか。」
兵士達が今の話で騒ぎはじめる。
なんてことだと嘆き始める奴らを、馬鹿野郎今の与太話を真面目に信じるのかと笑って慰める奴、
しかし補給の奴らの話だぞ彼奴らは何処の偉い人間よりも本当の事ををしってんだ、
と怒鳴り返す奴。
敵と戦う前に兵士達は阿鼻叫喚の様子。
どうやら、上げて落とされるとショックは何倍にもなるらしい。
最終的には一人の古参下士官の言葉で場は収まった。
「まあ、有り無えな。戦場で不思議で不可解な事は沢山在りすぎるが、今の話はとびっきりだ。」
そこまで言った所で、上官が現れて、
妙な噂で騒いでる暇があったら自分達の装備の点検でもして明日に備えろ、
と怒鳴られて場は解散となった。
狭い街道をゴロゴロと、数量の噂の新型戦車を装備した中隊が、
トラックを引き連れて移動している。
「たいちょー、お腹がすいたのれす。たいちょー、休憩してご飯にするのれす。」
車内で装填手席に座っていたツインテールの少女が、頻りに食事を主張している。
暫くすると、まったく話を聞いて貰えなかったツインテールが、
隣の砲手席に座ったお団子の少女とニヤリと目を合わせると、
車内で自分の横にズラリと置かれた戦車砲弾を、
慣れた様子の手のひらでバンバンと叩きはじめる。
次にお団子が調子を合わせるように、一緒になって地団駄し始めた。
暫くすると、遂に我慢できなくなった戦車長席に座った、
先の二人より一層小さく金髪の派手な化粧の女が、青筋を額に浮かべて怒鳴る。
「だーあ、うるせー。辻、馬鹿野郎。砲弾をバンバン叩くな。
何かあったらどーするんだ、おまえわ。それと加護、お前もだそーだそーだじゃない。
直ぐに辻の尻馬に乗って騒ぐな。」
怒られた二人は反省するどころか顔を寄せヒソヒソと、
あらいやだ女のヒスは怖いザマスあらおたくもそう思うザマスか、とマダム遊戯に興じ出す。
怒られた二人は反省するどころか顔を寄せヒソヒソと、
あらいやだ女のヒスは怖いザマスあらおたくもそう思うザマスか、とマダム遊戯に興じ出す。
「頼むからお前ら二人は移動の最中くらい静かにしてろ。
それと食事は無理だ、こんな狭い一本道を移動中に休憩なんかできるか。
敵に遭遇したら酷い目に遭うぞ。それぐらい解ってるだろう。」
たいちょーと呼ばれた女は額の青筋が一本から二本になるのを必死で堪えながら、
更に前の操縦席と無線主席にギッと目をやった。
戦車長席からは良く見えないし聞こえはしないが、
過去の経験から二人が体を震わせているのは大体わかる。
震えているのはエンジンの振動のせいではきっとない。
笑いを堪えているに違いない。
「ミカ、高橋、お前らもわかってんだぞ。
ホントは笑いたいんだろう、えーこら、畜生みんなオイラを馬鹿にしやがって、
オイラ戦車長だぞ、セクシー戦車隊長矢口様だぞ、こん中で一番偉いんだぞ。
おまえらなんか直ぐにペチャンだぞ、ペチャン。わかってっのかあああ。」
どうやら日頃から、相当腹に据えかねていたご様子な自称セクシー戦車隊長、
途中から意味不明。
しかし、余りの切れっぷりに流石に悪いと思ったのか、
車内は静まり返りエンジン音だけが猛然と響きわたる。
数分後、沈黙に耐えれなくなったのか、この中ではまだ一番他人を思いやれる女、
高橋が矢口に向かって口を開いた。
ミカが後から言うにはそれは矢口に対する慰めの言葉だったらしい。
だが、それは矢口の消えかけていた怒りの炎に、ガソリンをぶっかけてしまった。
二つだった青筋が三つに増えたのを見た加護と辻、
矢口の口が開くよりも先に耳の穴に指を突っ込んだ。
「たっっかはっしいいい、てめー言葉あーなああ、なまりすぎててえなあああ、
ちっともわっかんねえんだよおおお。
大体なんでおめーみたいな奴が無線手なんかやってんだあああああ。」
怒髪天を突き血圧が最高潮に達して矢口の意識が、ふっーと消えていく。
過去のことが走馬燈の様に駆け巡り、こりゃいかんと何とか意識を保とうと、
ちっちゃい矢口のちっちゃい脳味噌は、ちっちゃいなりに現状の把握に必死に奔走する。
あれーおいらなんでこんな狭いとこに座ってんだー。
そうそう、オイラ戦車兵になったんだけー。なんでなったんだけー。ああそうだー、
戦争になってー女にも兵士の募集があったんだっけー。
でー、オイラけっこーうまくやってー成績ゆーしゅーで機甲科になってー
この戦車に乗せられたんだっけー。君達にしか乗りこなせれないだってー、
そりゃねー、こんなに狭けりゃ大人の男は乗れねー。
ああそうだ、新型引き渡しの時に総統閣下がいてー、はじめて間近であってー
白目をむいてひっくり返りブツブツ呟いている矢口を見て、
加護が本当にやばいのだなあと察知する。
体を何とか後ろに捻って顔を寄せ、その後ろの隙間から辻が覗き込む。
「うわー、こりゃあかんわ。完全に逝ってるわ。凄い顔やな、軍法裁判即銃殺や。」
「アイボン、たいちょー大丈夫れすか。
なんか口から得体の知れない体液が出てるのれす。
やばそうれすね。さわっちゃダメれすよ、病気がうつります。」
「ノノ、いいねえ、さりげに非道いこと言うねえ。成長したやん。」
二人、お互いにしか使わないあだ名で呼び合って、
加護に背中越しに誉められて辻がてへてへと笑う。
「アイボンそんなことより、たいちょー何か呟いてるのれす。何言ってるんれすか。」
辻に促されて加護が、口から出る体液に触れない様に口元に耳を寄せてみる。
「なになに、カコイー カコイー カコヨカタワー サヤマリサヤマリ アヒャヒャヒャヒャ、
なにいっとんねんこいつ。ノノ、さやまりさやまりって何や、知ってるか。」
辻は一頻り唸った後に答えた。
「そんな食べ物は、聞いたことがないのれす。」
「そやな。」
戦車は進むよどこまでも。
結局その後、何事もなく部隊は移動を続けた。
戦車長を欠いた矢口車は、もし何か在れば大事だったに違いない。
後でそう落ち込んだ矢口を慰めたのは、やっぱり高橋で、
やっぱり矢口を二度目の昇天へ導く事になる。合掌。
以上、一応始まりの方
キリの良いところまで