69 :
ねぇ、名乗って:
「糞とかウン・・・そんなのは、どうでもいいんです!!」
問題は
それだ。
よっすぃさん(仮)のその格好。
上半身は真っ裸で
下には
なんと!
なんと!!!
私の大大大大大お気に入りの
Berry’sのタイトスカートを履いて――――――
(しかもそれは安倍さんからのプレゼント!)
いろんな意味で私は
まさにそう、失神一歩手前な状態だ。
「いいよな〜なかなか」
とか言って、満足そうに鏡の前でポーズまで決めて。
「俺、結構似合ってると思わね?」
「そっ・・・そっ・・・」
そんなことどうでもいいから!
は、早く上!
上半身なんか着てくださいって!!
なんてったって
吉澤さんのセミヌードを
私は目の当たりにしちゃったわけで。
そんな格好で下にはスカートなんだから
なおさら悪い。
もちろん胸はぺったんこだったけど。
「だって俺、服ないんだもん」
「服どころか
その、
言いにくいんだけどさ・・・
下着もないわけ。
さすがにヤバいだろ?」
そんなこと言われても!
私にどうしろと!?
っていうか・・・まさか、今まで一週間
ずっと同じパン・・・・・・・
「言いにくくて」
そう言って照れ笑いを浮かべた。
とにかくまずよっすぃさん(仮)にスカートを脱いでもらって
(もちろんトイレで。もちろん即洗濯機に放り込んだ)
普段の服を着てもらった所でようやく落ち着いた。
そういえば
出会ってからずっとよっすぃさん(仮)はこの服装だった。
気づかない私も悪かったんだろうか・・・
ちょっと反省。
「というわけで」
「服はともかくねぇ」
「・・・やっぱり、ムリ?」
「当たり前です!」
男の人の下着なんて
私に買いにいかせるか!?フツー。
かと言って・・・
これ以上同じ下着でいられるのも困る。
困った・・・。
「俺が買いに出ればいいことじゃん」
「はぁ!?」
何を言い出すんだこの人は!
たとえ偽者でも瓜二つの外見で
男性下着なんて買いにいった日には・・・・・。
モーニング娘。の吉澤ひとみ(18)が
男性用下着を買っていった・・・なんて知られたら
考えただけでも恐ろしい・・・。
「だけどさ、それはガキさんだって同じことだし」
「え?」
「ガキさんが男性下着買っていったって報じられてもまずいんだろ?」
そりゃぁ、そうだけど。
「わかったぁぁぁぁ!!!」
突然、よっすぃさん(仮)が大声をあげた。
部屋の空気が
びぃん、と振るえた。
「な、何が!?」
「簡単なことじゃないか!ガキさん!」
だから何が!
「要は、俺がその‘吉澤ひとみ’だと思われなければいいんだろ?」
「そりゃぁ、そうですけど」
「いい手があるYO!」
「はぁ?」
「変装♪」
ほんとに・・・上手くいくんだろうか。
そんな思いに駆られつつも
言われるままにコンビニまで走って
購入してきたブツを袋から取り出す。
まずは、ヘアカラー。
続いてサングラス。帽子。
それからマフラー。(マスクの代用らしい)
「うんうん。完璧」
「・・・ほんとに?」
「あとは、服だけど・・・」
それも問題だ。
借りるか・・・でも、誰に―――
「あっ」
忘れていた。
私としたことが。
一番いい人がいるじゃないか!
「何何?」
「いい事思いついた」
「え?」
「で、電話電話!」
なかばよっすぃさん(仮)を無視して
携帯のメモリを開く。
プルルルル、プルルルル、プルルル・・・・
『もしもし?』
「もしもし、新垣ですけど・・・吉澤さんですか?」
『どしたの〜』
「いや、実はですね・・・ちょっとお願いが」
『ん〜何?』
「吉澤さんの服、貸してもらえませんか?」
そういうと、吉澤さんは受話器の向こうで
へぇ?と気の抜ける声をあげた。
『いーけど…どうするの?』
「ちょっと事情がありまして」
『・・・分かったヨ。じゃぁ持っていこうか?」
「いやっ!それは駄目ですっ」
「えーっ!!いいじゃんYO〜」
すぐ傍でおとなしく座って聞いていたよっすぃさん(仮)が
いきなり大声をあげる。
私は、全身の血の気が引いた気がした。
『何?ガキさん、そこに誰かいるの?』
「あ、いや、そんなことは・・・」
しどろもどろな言い訳を返しつつ
片手でよっすぃさん(仮)を追い払う。
それでもこの人はしっつこかった。
「俺も吉澤って奴見てみてぇ〜」
「ム、無理に決まってるじゃないですか!}
子供かこの人は。
『ガキさん!?』
「何でもないんですっ!じゃ、取りにいきますからぁ!!」
ちょっと強引に電話を切った。
吉澤さんには申し訳ない、ほんと。
それもこれも
全部目の前に転がってるこの人のせいで!!!
私の目の前に転がってるよっすぃさん(仮)は
さっきと一転して妙に静かだ。
いや、微かになんか聞こえる。
・・・うーんうーんって唸ってる・・・?
「・・・どうしたんですか」
「・・・」
私の問いかけには無言で
よっすぃさん(仮)は私を睨み上げた。
それから無言で自分の向こう脛の方を指す。
「なんですか」
「足」
「は?」
「蹴っただろ、今、思いっきり」
記憶になかった。
ていうか、それは自業自得ってもんじゃ?
「入った…見事急所に」
無意識に蹴っ飛ばしてしまったらしい。
よっすぃさん(仮)はまだソコをさすっている。
「あー痛い痛い」
なんて嫌味な・・・
いや、ここは素直に
「・・・すいませんでした」
するとよっすぃさん(仮)は
ふぅ、とため息をついて
許してあげないこともないYO、と言った。
もう反論する気にもなれなかった。
「よっすぃさんて」
「ん?」
「語尾、変ですよね」
「そんなことないYO!」
「ほら、そことか」
よっすぃさん(仮)はしばらく考え込んで
少し腕を組んだ。
そして
「俺の特徴だから」
そういうのは
特徴って言わない。
「でさぁ」
「何ですか」
「吉澤サンの服、俺が着ていいわけ?」
「どういう意味です」
「仮にもね、その、オンナノコの服なわけでさぁ」
「・・・」
「失礼じゃない?男として」
さっき私のスカートを履いて喜んでた事実を忘れてる。
「吉澤さんはそんな事気にしませんよ」
と勝手に決め付けたけど
事実、そんな気がしないでもない。
「男の人に貸しますね〜」とか言っても
「いいYO〜」って普通に言いそうだ。
なかなかスッキリした子だね、と
よっすぃさん(仮)は言った。
「さすが、俺似」
いや逆だろ
とは、あえて突っ込まないでおく。
数時間後
私は吉澤さん家の前にいた。
「早かったね」
「はい」
なにしろ、急を要する事情なので。
「なんでもいいの?」
「はぁ。出来れば男っぽいのを」
「ふーん。そりゃまぁあるけど・・・」
助かった!
娘。で唯一男物なんて持ってるの
きっと吉澤さんしかいない筈だ。
「どうぞ」
自由に見ていいよ、と言って
吉澤さんは消えてった。
うーん・・・こうして見てみると
ほんと、吉澤さんの服のセンスって
すごい。
真っ黒の甚平とか
真っ黒の「つなぎ」とか
さ、佐川急便のジャンバーまで!!
いつ着るんだろう。
「決まったぁ〜?」
コーヒーとベーグルをお盆に乗せて
吉澤さんが再び現れた。
「好きなの持っていっていいよ」
「はぁ・・・」
「ガキさんには、コレとかいいんじゃない」
これはその
いわゆる、柔道着では・・・?
「ガキさん、カンフーとか好きでしょ」
決められてしまった。
「あたしもう着ないからあげるよ」
「でも」
「ごめん、ちょっと襟元ほつれてるけど」
着てたのか。
断る間もなくそれを受け取った。
でも
吉澤さんが着るとそれはそれで
納得できそうな気がしないでもない。