「ブレーザーカノン!」
「V3ィィ反転キィィィック!」
──どおぉぉぉぉおん
大爆発を起こすロボットが、大きなディスプレイに映し出された。
「ええい! またしても!」
その光景を見て歯がみする一人の男。
その後ろにいるもう一人の老人も、忌々しげに舌を鳴らした。
ゼティマの下部組織、デスターを率いるドクターQ。
そして元テンタクルの首領、プロフェッサーK。
「あやつらの所為で、ワシらの仕事はあがったりじゃわい!」
彼らの仕事、それは子供達を泣かせること。
子供達の涙こそが、魔神ゴーラの像からダイヤを吐き出させるために必要なのである。
加えてプロフェッサーKにとって、子供はアレルギーの元。
だからこそ彼らはその叡智を振るい、子供を泣かせることにその全てを賭けてきた。
子供達をいじめること、それは趣味と実益をかねた、彼らの生き甲斐と言っても良いものなのだ。
しかし、最近ではそれも満足には出来なくなっていた。
「なぜだ! なぜアイツラはこんなに早く我らの計画に気が付くのだ!」
「……たしかにおかしい。ここ最近、奴らの来るタイミングが早すぎる。
まるで、子供達となにかネットワークでも持っているかのようじゃ」
「ば、ばかな! そんなことにでもなったら、ワシらの生活は……」
「首領、今日のダイヤですわ」
落ち込む二人の老人に、若い女性の声がかかった。
ドクターQの秘書であるシルビア。
そしてその後ろには、いつものようにシルビアと張り合うリタの姿。
「ちょっと! あたしが持っていくって言ったでしょ」
「うるさいわね! 早い者勝ちよ!」
「これ、やめんか! ……むぅ、やはり今日も少ないのぉ」
ここのところ、魔人ゴーラの像から手に入るダイヤの量は激減していた。
犯罪組織とはいえ、所詮ゼティマの下部組織。
ノルマがこなせなければ待っているものは厳しい処分だ。
「さてさて、これからどうしたもんか……」
「あら? お父様、これなにかしら」
リタがダイヤの入れ物を指さす。
その指の先には、ダイヤとは異なる輝く石があった。
「なんじゃ、これは」
ドクターQは首を捻りながらそれを手に取った。
ピンポン球ぐらいの大きさの二つの石。
まるで自らが光を放っているかのように、赤と青にぼんやりと輝く。
「なぜこんなものが……」
「それを渡して貰おうか。ドクターQ」
不意に名前を呼ばれ、ドクターQは慌てて振り返った。
いつの間に現われたのか、白いローブを着た三人組が、部屋の中央にふわりと浮かんでいた。
「お、お前達は……三神官!」
「ごくろうであったな、ドクターQ」
「それこそが、我らの求めていた石」
「ふふ、今まで待った甲斐があったというもの」
ダロムが手を伸ばすと、Qの手にあった石がふわりと浮かび上がり、その手の中に収まった。
「そ、その石はいったい何なんじゃ!」
「これは『王者の石』。
インカの秘宝、ギギとガガの腕輪に納められし秘石、『太陽の石』と『月の石』。
それらと合わさることで『キングストーン』へと変わる魔石だ」
「そ、そんなものがなぜゴーラ像から!」
「ふふふ、もともとゴーラ像とはこの『王者の石』を造るためのものなのだ。
ダイヤなぞ、その時に出来るただの失敗作に過ぎん」
「な、なんだと……」
驚きの事実に呆然とするドクターQ達。
「これで全ての準備は整った」
「後は運命の娘の覚醒を待つのみ。
彼のものの19回目の生誕の日を。
明日の日食の時を」
「だが良いのか? 運命の日に生まれたのはただ一人。
もう一人は……」
「心配はいらぬ。このビシュムの左目が見た未来は絶対。
世紀王となる運命の娘は、あの二人を置いて他にはない」
そんなQ達を気にもとめず、三神官達は謎めいた会話を続ける。
それが、二人の少女に過酷な運命をもたらす悪魔の言葉であることは、
まだ誰も知る由もないことであった。
「よかろう。では迎えに行くとしよう。
我らの王となる運命の娘を」
「うむ、世紀王『影なる月』を」
「そして……『黒き太陽』を」
仮面ライダーのの 第53話
「 黒 き 太 陽 」
「太陽?」
「そ、亜弥ちゃんは太陽みたいな人だねって言ったの」
そう言って、少女は切れ長の目を細め口元に笑みをたたえた。
言われた方の少女は、ふっくらした唇をすぼめ、すねたように上目遣いになる。
「えー、あたしってそんなに暑苦しい?」
「あのー、そんなにくっつかないでくれる?
てか、重いんですけど」
「へへー、いいじゃん。ミキたんとこうしてるの好きなんだからー」
「もー、しょうがないなあ」
明るい日の光が差す部屋。
真っ白なシーツの敷かれたソファーの上。
他に何も存在しないかのように、まるで子猫のようにじゃれ合う二人。
「どうだー。暑苦しいだろー」
「だから、そうじゃなくって。
亜弥ちゃん見てると、なんだかぽかぽかと暖かい気分になるって言ってんの」
「んん、そう? それは嬉しいな」
「ホント、亜弥ちゃんの笑顔見てると癒されるよ」
言葉通り、少女──藤本美貴は嬉しそうに微笑んだ。
「あー、まあそうだね。ほら、あたしって癒し系? みたいな」
そう言ってもう一人の少女──松浦亜弥もにっこり笑う。
「お、自分で言うかな。そういうこと」
「にゃははは。あ、そうだ。あたし、新しい入浴剤買ってきたんだ。
今日も一緒にお風呂入ろうね」
「おー、いいね。あ、ラベンダーじゃん。好きなんだこれ」
「でしょでしょ。絶対気に入ると思ったんだー」
美貴の言葉に亜弥はまたはしゃいだ。
くるくると良く変わる表情。
生命力が、その小さな体に漲っているように感じられる。
「いいよねぇ、亜弥ちゃんは。いっつも楽しそうでさ」
「なによぉ、たんは楽しくないって言うの?
あたしと一緒にいるっていうのに」
「ちょ、ちょっとぉ。だからそんなにくっつかないでってばぁ」
またひとしきり、二人のじゃれ合う声が聞こえた。
幼い頃からずっと一緒に育ってきた。まるで姉妹のような関係。
仲の良い、かけがえのない存在。
「はー、あんまり変なコトさせないでよね。もう若くないんだから」
「なぁにいってんの。あたしと2つしか違わないでしょ」
「いやいや、明日でもう美貴19歳になるんだよ」
なおもくっついてこようとする亜弥を引きはがし、美貴はソファーの上のクッションを抱えた。
「……あれから十年か」
「そうだね……」
一瞬だけ、二人の間にしんみりとした空気が流れた。
その空気を切り替えるかのように、亜弥はまた笑顔で美貴に尋ねる。
「ね、明日さ、パーティーがあるんでしょ」
「そ、なんか父さん気合い入ってるみたいでさ。
ここ一週間その話ばっかなんだから」
「船上パーティーかぁ。いやー楽しみだなぁ」
「ちょっと、主役を差し置いて目立とうとか考えてんじゃないでしょうね」
「ま、まっさかぁ……」
「あやしいなあ、その態度。
さ、正直に白状しなさい!」
「きゃあ、ミキたんやめてよぉ」
今度は美貴が亜弥を押し倒した。
くすくすと笑う二人の声がいつまでも続く。
今日も明日もそれは変わらない。永遠にこの幸せは続いていく。
そう信じていた。
19回目の美貴の誕生日。
あの、運命の日を迎えるまでは。