「しかし、どうして奈津美の名前を・・・」
しばらくして浮かんだタイガーロイドの疑問は、研究員からの詳しい説明で解けた。
「そうか、甘さはもう捨てられたのだな・・・次に会った時に倒されるのはこちらかも知れん・・・」
タイガーロイドは2号機の惨状を眺めながらそうつぶやいた。
口元には微かに笑みが浮かんでいた。
その日の夜、研究員にZX計画の中止が伝えられた。
「量産化は中止・・・しかし予備の機体を1体だけ用意しろだなんて・・・」
研究員は上部からの命令に戸惑った。
そもそもZXは量産に向く設計ではなかった。
しかも並の人間の脳ではまともに動かせない。
本当に量産するつもりだったのか。そうでなければ、計画の本当の目的は何だったのか・・・
それは最後まで研究員に知らされることは無かった。
「伝えて参りました。」
信田は研究所の最深部の部屋に入り、暗い部屋の奥に座る最高幹部の一人にそう報告した。
「これでZX計画も終了か・・・」
その最高幹部、悪魔元帥は表情を変えずにそうつぶやいた。
「しかしZXを奪い返すことができれば・・・」
「・・・無駄だ。キングストーンはもう存在しない。既に世紀王は誕生したのだぞ。」
「そうでしょうか?あれが本当に世紀王だと・・・」
「控えよ、タイガーロイド!貴様であろうと世紀王を侮辱することは許さんぞ!」
悪魔元帥は大声を出し、信田を睨みつけた。
「・・・失礼しました。」
信田は表情を変えず謝罪した。
「そもそもZX計画はあれの『保険』に過ぎん。今となっては無用の長物だ。
・・・滑稽だとは思わんか?『神』を創造しようなどと本気で考えていたとは・・・」
悪魔元帥はそう言うと不敵に笑い出した。
信田はその様子を黙って見ていた。
「しかし・・貴様と、あの小川とかいう娘ならあるいは・・・」
悪魔元帥はそう言いかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。
「・・・ところでタイガーロイド。貴様なぜ戻ってきた?」
「・・・所詮改造人間は人間社会では生きられません。それが外に出て身に染みてわかっただけです。」
「ふん・・・一体何を考えている?」