「お願い、逃げて・・・そうじゃなかったら・・・殺して・・・」
洗脳の解けないまま2号機の攻撃は延々と続く。
ZXはダメージが最小限になるように攻撃を受けていた。
それでも徐々にダメージが溜まり、動きが鈍くなってくる。
次第に攻撃をまともに受け始めた。
「大丈夫・・・大丈夫だよ奈津美ちゃん・・」
ZXの声も段々と小さくなっていく。
ついにはよろよろと両膝を地面に着いてしまった。
乙。続きが楽しみな展開。
「もうやめて・・・」
2号機は片手でZXの頭を掴んで少し持ち上げ、止めを刺すべく右腕を振り上げた。
「ZXパンチ」の体勢・・・いや、右手は拳を握らず「手刀」の形になっている。
2号機の視線はZXの首を狙っていた。
これをまともに食らえば、危ない。
「お願い!逃げて!」
西田の必死に叫びにもZXは動こうとしない。
「私を・・殺したくなかったら・・・自分の力で・・・」
2号機は躊躇せず、一気に右手を振り下ろした。
「やめてぇぇぇ!」
西田の絶叫が響く。
ZXは思わず両目を閉じた。
ZXが目をつぶっていたのは、ほんの1秒か2秒・・・
攻撃が来ない・・・
そっと目を開けると手刀はZXの首の数センチ手前で止まっていた。
2号機の顔を見ると「怒り」の色が消えている・・・
「奈津美ちゃん・・・・」
「ありがとう・・・」
ZXが声を掛けると、西田は小さくつぶやいた。
「やったね・・」
ZXの声に反応したように、2号機は振り下ろした右手を手前に引いた。
「奈津美ちゃんならきっと出来るって信じて・・・」
2号機はZXが話すのを無視して、再度右手を振り上げた。
「奈津美ちゃん?・・・・」
右手が振り下ろされた。
ZXは反射的にガードした。
コツン、という軽い音とともに手刀がZXの腕に当たる。
「・・・どうしたの?」
困惑するZXにかまわず、また右手を振り上げる。
そこで動きが止まった。
2号機はそのままの姿勢でゆっくりと横に倒れていった。
ドサリ、と音がして2号機が地面に転がる。
よく見ると背中に穴が開き、人工脊髄が損傷していた。
「奈津美ちゃん!」
「ありがとう・・・もう人殺しは・・・したくなかった・・・」
西田の声はさらに小さくなっていた。
「まこっちゃん、ごめんね・・・・」
いつの間にかZXの目の前にスカイライダーが立っていた。
つづく
2号機は動力を失い、ぐったりと横たわっていた。
「・・・・奈津美ちゃん!」
ZXが駆け寄る。
「あさ美ちゃん・・・ひどいよ・・・」
ZXはそう言いながらスカイライダーの方を振り返った。
「ごめん・・・こうしなかったら、まこっちゃんが・・・」
「・・・・・」
ZXも実は分かっていた。
スカイライダーは数分前から2人の様子を見ていた。
止めに入ろうとしたのを何度も我慢した。ギリギリまで我慢した。
しかしあそこが限界だった。
結果としてZXの命と引き換えでも、2号機は目覚めなかった。
無理もない。ゼティマの改造人間の中で、自力で洗脳を解いたのは小川ただ一人なのだ。
小川が特異体質なのか、あるいは特殊な能力を持っているのか。
他には信田が逆に洗脳が一切効かない、といった例があるぐらいだ。
「・・・小川さん、これでよかったんです。」
2号機の口から、か細い西田の声が聞こえてきた。
「奈津美ちゃん・・・大丈夫なの?」
「急所は外したから・・・」
スカイライダーは意図して人工脊髄を狙った。
2号機の脳を破壊することなくその活動を止めるには、荒っぽいがこれが最善の方法だった。
「まこっちゃんの想いは通じなかったけど・・・でも、連れて帰ればきっと助けられるよ。」
「・・・そうか!」
中澤家に連れて帰り、加護、ソニン、ミカ、そして亡命した夏まゆみの力を借りられれば
西田の洗脳は解ける可能性は大きい。
「奈津美ちゃん、時間はかかるかも知れないけど、きっと助けてあげるから・・・」
ZXは明るい声で2号機に話しかけた。
しかし、西田からは意外な答えが帰ってきた。
「大丈夫だよ。加護さんもミカさんもみんな優秀だから。」
「そういうことじゃないんです。私はここから逃げられないんです。」
「いったいどういうこと?・・・」
「まさか・・・」
スカイライダーにはその理由がわかったらしい。
「はい、私には『自爆装置』が付いているんです・・・」
「・・・そんな!」
改造人間の体内には強力な小型爆弾が埋め込まれている場合が多い。
改造人間の脱走防止のため、秘密保持ため、証拠隠滅のため、あるいは「最後の武器」として・・・
ほとんどは脳や人工心臓などが機能を停止したとき爆発する仕組みだが、
幹部や重要人物などは脱走したり反抗した場合に起爆することもある。
2号機もおそらくこのタイプだ。
無理にアジトから引き離すと爆発する恐れがある。
中澤家に連れて帰るのは無理だった。
「くそ!・・・」
ZXは地面を叩いて悔しがった。
残る手段は加護を直接ここに呼んで処置を施すことだが、おそらくゼティマは全力で2号機の回収に来るかだろう。
2号機はここに置いていくしかない。
「ごめん、奈津美ちゃん。いつか必ず助けに来るから・・・」
2号機にそう語りかけ、ZXとスカイライダーは無念そうに立ち去ろうとした。
そこへ背後から西田が声をかけた。。
「・・・待って下さい、お願いがあります。」
「何?・・・」
「私を・・殺して欲しいんです。」
「バカなことを言わないで!必ず助けに来るよ!」
「そうだよ、諦めちゃダメだよ!」
西田の思いがけない言葉にZXとスカイライダーが声を上げた。
「でも・・・小川さんが助けに来るまで、私は何人の罪の無い人を殺さなければならないんですか?」
「それは・・・・」
「戻ったらまた洗脳されるんです。」
「・・・・・」
ZXもスカイライダーも言葉を失った。
「・・・お願いです。私がここで死ねば多くの人が死なずに済むんです。」
「でも、別の改造人間が代わりに同じ事をするだけだよ!」
スカイライダーは必死に反論する。
「そうだよ、奈津美ちゃんが悪いわけじゃない・・・」
ZXも反論するが、そこで言葉を詰まらせた。
ZXの脳裏に「悪い夢」の記憶が蘇る。
自分だったら・・・やはり同じ事を頼んだはずだ。
「小川さん、お願いです・・・」
西田のすがるような声がZXの頭に響いた。
つづく