ZX(小川)は山奥の廃車置場で敵と対峙していた。
敵は今回もマントのような布を頭からスッポリと被っている。
またしても巧妙な罠だった。
いつのまにか飯田と分断され、一人でここに誘い込まれていた。
しかし、半分わざと罠に乗ってやった面もある。
もしも相手が「2号機」ならば望むところだ。
「さっさとマントを脱いだらどう?あんたの正体は分かってるんだからね。」
ZXがそう言うと、敵は体に巻きつけた布を引きちぎり、正体をあらわした。
やはり「2号機」だった。
ZXとほとんど同じ姿形。よく見ると細かい部品に改良の後が見られる程度だ。
「何が目的か知らないけど、私があんたの目を覚まさせてあげる。」
「・・・オマエヲ倒セバ、オレガ本物ノゼクロスダ!」
そう言うと「2号機」は一直線にZXに向かって行った。
廃車置場から1kmほど離れた山中に、ワンボックスの車が停まっていた。
車にはアンテナが数本立ち、中には多数のモニターと機械が並べられていた。
「ひょっとして『1号機』は手加減してるんですかね?」
2人の闘いをモニターで見ながら、研究員の男が恐る恐る信田に尋ねた。
「少し遠慮しているようにも見えるが・・・ほぼ全力だろうな」
闘いは徐々に「2号機」のペースになりつつある。
今回の脳の再改造により、「2号機」のシンクロ率が7%向上した。
わずか7%でもかなり効果がある。「2号機」はスピード、パワーとも見違えるほど上がっていた。
生身の人間の目では闘いの様子は追い切れないが、送られてくるデータは「2号機」の優勢を物語っていた。
「『1号機』のシンクロ率は30%程度ですかね。いや、脳改造をしていない人間としては驚異的ですが・・・
しかしいずれにしろ今の2号機の敵ではありませんよ。」
男は上機嫌で信田に話し掛けた。
しかし信田は男とは正反対に、不機嫌な様子で闘いを見ていた。
男はその様子を見て、それ以上は話し掛けなかった。
ZXは必死で「2号機」の攻撃に耐え続けていた。
最初は敵の攻撃をかわしつつ、なんとか2号機を脳改造から解放させる方法を考えようと思っていた。
しかしそんな余裕は無い。本気で闘わざるを得ない。
それでも敵のペースにはまっていく。
「こいつ、強い・・・」
「2号機」の攻撃は単調だが、スピードが速すぎる。
いつまでも逃げ続けられるものでもない。
ZXはムキになって攻撃を繰り出すがほとんど通用しない。
ZXは焦り出し、いつのまにか後退を始めていた。
そして、焦りと同時に心の中にモヤモヤしたものが湧いて来た。
自分の体は、目的はどうあれ信田、まゆみと3人で苦労して作り上げたものだ。
しかし2号機は何の苦労もせずそれは手に入れ、しかも自分以上に使いこなしている。
所詮自分はこいつの「試作品」でしかなかったのか?・・・
「うわあああ!」
ZXは渾身の力を込めてパンチを放った。
しかし力が入りすぎ、逆にスピードが落ちた。腕を掴まれパンチの勢いのまま投げ飛ばされた。
地面に叩きつけられたところへ追い討ちの蹴りが飛んでくる。
ZXは体をひねってこれを避け、後方に下がって距離を取った。
ZXは肩で大きく息をしている。
これに対し、2号機は汗ひとつかいていなかった。
このままでは紺野と同じくジリ貧だ。
はっきり言って勝てる気がしない。
「くそ・・・」
「2号機」がじりじりと距離を詰め始めた。
ZXはそれに合わせてじりじりと後方に退がる。
「くそ・・・」
「2号機」が前に出る。同じだけZXが退がる。
「くそ・・・・」
ドン、と背中が廃車の山にぶつかった。
いつのまにか追い詰められていた。
「2号機」はそれにかまわず、じりじりと距離を詰めてくる。
「・・・ちくしょぉー!」
ZXは大声で叫び、天を仰いだ。
つづく