深夜の中澤家。
「眠れへんのか?」
ベランダで1人外を眺めていた小川は中澤の声に振り向いた。
「・・・はい。」
「あんたが責任感じることやないやろ?」
中澤はそう言いながら小川の横に立ち、手すりに体をもたれかけた。
「いえ、違うんです。あさ美ちゃんのことも心配ですけど・・」
「ん?じゃあ、あれか?また怖い夢でも見たんか?」
小川はよく怖い夢にうなされる。
そのためここに来たばかりの頃はしばらく中澤と一緒の部屋で寝ていた。
最近はようやく怖い夢を見る回数が減ってきたようだが・・・
「・・・なんなら久し振りに添い寝してやろか?
「あ、それは結構です。」
小川は大げさに手を振ってその申し出を断った。
「じゃあ、なんやの?」
中澤はちょっと不機嫌になった。
「今日の改造人間・・・」
「ゼクロスのことか・・・」
「・・・はい。あれがもし私と同じ体を持っているなら、改造された人は私と同じような脳改造をされていると思うんです。」
「そやな。」
「そして・・・私と同じ目に遭ってる思うんです。」
「・・・・・・」
「私と同じ苦しみを受けているはずです。だから・・・」
「・・・助けてやりたいんやろ?」
小川は黙って頷いた。
「もし、またあいつが現れたら私に闘わせて下さい。きっと助けられると思うんです。」
「うん。・・・でも無理はあかんで。」
「はい・・・」
そのまま二人はしばらく無言でベランダから外を眺めていた。
中澤に頼むまでもなく、小川はZXの2号機と闘うことになる。
ゼティマが2号機の総仕上げの相手に選んだのは、「1号機」の小川だった。
つづく
2日後の昼過ぎ。
小川とパトロール中の飯田から、焦った様子で連絡が入った。
怪しい人影を追跡中に、小川とはぐれたというのだ。
おそらくこの間のZXの2号機であることは間違いない。
中澤の指示で、ビデオ当番の矢口が「充電中」の里田を無理矢理連れて出動した。
これで残っているのはもう一人のビデオ当番の梨華だけだった。
本当は梨華も出動させたいところだが、ここを空にするわけにもいかない。
「私も行きます!」
紺野がパジャマ姿のままリビングに飛び込んできた。
「あんたはダメや。まだ闘える状態やないやろ。」
「もう大丈夫です。それに、相手があいつだとしたらまこっちゃんが危ないです!」
先日のベランダでの小川との会話を思い出し、中澤は黙り込んだ。
小川はZXの2号機を相手に本気で闘えないかも知れない・・・
「それに・・・」
「なんや?」
「私、負けた自分が許せないんです。」
紺野は下を向いた。声が震えていた。
「仕方がないやろ、紺野は精一杯頑張ったんやし、勝負は時の運や。」
「違うんです。驕りがありました。自分が強くなったと勘違いしてたんです。」
「いや、実際強くなったやんか・・・」
中澤は慰めのつもりではなく、本気でそう言った。
「意地を張り過ぎたんです。中澤さんや里沙ちゃんの言うことをちゃんと聞いていれば・・・」
紺野は帰ってきた後で、中澤と新垣にこっぴどく説教をされた。
負けたことを責められた訳ではない。
闘いに熱くなり過ぎて無茶をし、危うく命を落としかけたからだ。
自分達の目的はゼティマを倒すことだ。
改造人間1人と刺し違えたのでは割に合わない。
命にも「懸け時」がある。
今回の敵は命を懸けてまで倒すべき相手ではない。逃げることも戦略の1つだ。
スカイバックドロップ失敗の後でも逃げ出すチャンスはいくらでもあった。
しかし紺野は意地を張りすぎて逃げることが出来なかった。
おとなしい顔をしているが、紺野もかなりの負けず嫌いの強情っ張りだった。
「・・・それで、どうしたいんや?」
「・・・このままで終わるのは嫌です。最後まで見届けるだけでもいいんです。」
紺野は顔を上げ、力の入った目で中澤の顔を見据えた。
「それに、まこっちゃんが心配なのも本当のことなんです。」
「・・・わかった。」
紺野の表情がふっと緩んだ。
「でも無茶したらあかんで、無事に帰って来いや。もし・・・」
「わかってます。 『死んだらぶっ殺す』 ですよね?」
「・・・わかればよろしい。」
紺野は笑顔で頭を下げ、着替えもそこそこに中澤邸を飛び出していった。
中澤はそんな紺野を頼もしく思いながら見送った。
「・・・あの娘も戦士らしくなって来たやんか。」
つづく