「ぐうぅ・・・」
片腕を押さえながら後ずさりする隊員にガルマジロンが襲い掛かる。
「!!!」
鋭い爪が肩口から食い込み、一気に引き裂いた。
隊員は力を失い、ドサリと音を立てて倒れた。
周りから大声でその隊員の名前を叫ぶが、倒れたまま動かない。
「気を付けろ!」
別の隊員が助けに入ろうとするが、ガルマジロンの爪が襲い掛かる。
なにより人間を溶かす鱗が脅威だ。
さっきの隊員が片腕で済んだのは人間離れした反射神経のおかげだ。
並の人間なら瞬時に溶かされていた。
「ぐあっ!」
強引に助けに入った隊員の背中にガルマジロンの爪が食い込み、そのまま倒れ込んだ。
「くそっ・・・」
隊員たちはジリジリと後退する。
ガルマジロンを包囲する隊員の輪が少しずつ広くなっていった。
「お前ら、下がれ!」
輪の後方から、よく通る特徴のある声が響いた。
「副隊長!」
「俺が相手だ!」
その頃、無数の罠を突破したソニンと真ライダーは、ようやく基地の中心部に到達していた。
「ちょっと様子がおかしいよね・・」
潜入直後にあれだけあった罠が途中からパタリとなくなっていた。
おまけにかなり重要と思われる施設が多いのに警備員どころか人っ子一人居ない。
「どうしたんだろう・・・まさか罠・・」
しかし悩んでいる暇はない、片っ端からドアを開け、ロケットの発射施設を探した。
10分程前
>>469 ヨロイ元帥の元に新たな侵入者の情報が入った。
「バカな!三面攻撃だと?・・・奴らにそんな戦力があるのか?」
「いえ、4人です・・・」
それを聞いてヨロイ元帥は安心した。
Z対最大の戦力である隊長と副隊長の所在はわかっている。ほかに守備隊にろくな戦力は無いはずだ。
「ふん、また陽動か。のこのこ迷い込んで来おって・・・一体何処の馬の骨だ!」
そう言いながらモニター画面を覗いた・・・
ライダーの出現、そしてロケットのトラブルにほとんどの戦闘員、作業員、研究員が駆り出され、
この辺りは既に無人となっていた。
いくつかの部屋を経て、ソニンと真ライダーは司令室のような部屋に入った。
モニターとスイッチが数多く並んでいる。
「あ、あれ!」
真ライダーがモニターの1つを指差した。
プルトンロケットの発射準備作業の様子が映し出されていた。
「場所はどこ?」
画面をあれこれ切り替えるがよく分からない。
手元のスイッチをあれこれいじり回してみるとどこかの屋根が開きだした。
モニターで屋根が開く様子は確認できるが、場所がどこだかわからない。
ソニンは無線を取り出しスイッチを入れた
副隊長とガルマジロンの戦いは一進一退の攻防が続いていた。
格闘だけなら互角に見えるが、鱗を警戒するあまり副隊長は中に入り込めない。
若干優位に戦いを進めながらもガルマジロンは違和感を感じていた。
他の隊員たちはその場を動こうとせず、周りを包囲したままこの戦いを眺めている。
基地が目的なら、副隊長が戦ってる隙に他の隊員が入口に殺到するはずだ。
「(基地破壊が目的ではないのか?)」
その時、突如背後で大きな物音がした。
山の中腹が大きく物音を立てながら開き始めたのだ。
時計を見ると既に最終回答期限を15分も越えている。
副隊長はプロトンロケットが今にも発射されるものと思った。
「しまった、間に合わなかったか!」
「副隊長!」
そこへソニンからの無線が入った。
「隊長!」
「・・・そっちから扉の開いたのが見える?」
「はい、見えます!」
「そこが多分ロケットの発射口よ、破壊して!」
無線は他の隊員たちも受信した。周りの隊員が一斉に山の中腹に向け走り出した。
「くそっ!!こっちが囮だったのか!」
ガルマジロンは基地内に侵入していたさっきの二人を思い出した。
人数だけを見てこちらが本隊だと勘違いした。
ガルマジロンは激高し、隊員たちを背後から攻撃した。
「ぐあっ!」
爪で2人ほどなぎ払うと隊員たちを追い抜き、前に立ちはだかった。
何人かが前に出ようとするが、ガルマジロンは光る鱗を投げつけ威嚇する。
再び膠着状態になってしまった。
「くそ、時間が無い!」
副隊長が走り出したところで、再び無線が入った。
「?」
チャンネルは隊長のものではない。不審に思いながら受信した。
「守備隊副隊長どのですか?」
聞いたことのあるような男性の声だ。誰だか思い出せないが・・・
「・・・誰だ!」
「陸上自衛隊中部方面隊10師10特連2中隊の鈴木2尉です。」
中部方面隊第10師団、第10特科連隊・・・豊川の「野砲部隊」だ。
「自衛隊?・・・」
「・・・俺だよ!アマノくん!」
「・・・まさか『ウド』か?」
うざったいダミ声で思い出した。防衛大の同期の鈴木だ。
体がデカイうえに鈍臭いので、ウドの大木から「ウド」と呼ばれていた。
「やっぱり生きてたんだ〜!本当に死んじゃったのかと思ってたよ!」
相変わらず馴れ馴れしいダミ声で話し掛けてくる。防大時代と何も変わっていない・・・
「・・・何の用だ!それに、なんでお前がこの周波数を知ってるんだ?」
「冷たいなあ・・・統幕僚本部から直々の命令で、ここに部隊を配置しろって言われたんだよ。それでそっちの指揮官に、つまりアマノくんに指示を仰げってさ。」
「本当か?・・・・」
事態を表沙汰にしないために守備隊に出動させたはずだ。
それに民家の上空を越えて国立公園の蠍谷に着弾させるなど通常では考えられない。
政府も腹を括ったらしい。
前を向くと、相変わらず隊員たちはガルマジロンとにらみ合っている。
迷っている暇はない。
「わかった。鈴木2尉、砲撃要請だ。座標は・・・」
「・・・FH-70、目標、『蠍谷演習場』、試射弾・発射っ!」
ズドン!
無線の向こうで発射音が響いた。
「・・・あ、アマノ君。言い忘れたけど有効射程ギリギリだから、最大数百メートルの誤差が出るからね。」
「・・・おい、ちょっと待て!」
30秒ほどして、上空から空気を切り裂く笛のような音が聞こえてきた。
通常の人間には無理だが、副隊長と隊員たちの目にはこちらに向かってくる砲弾がはっきり見えた。
「・・・全員ショックに備えろ!」
隊員たちは一斉に着弾予想地点から離れ、地面に伏せた。
「何事だ・・・ぐわっ!」
取り残されたガルマジロンの後方10数メートルに着弾し、派手に吹っ飛んだ。
隊員たちが残っていたら直撃だった・・・
「・・・・あ〜『観測所』、着弾状況を知らせ。」
「・・・誤差5時35分の方向、85メートル!」
「お〜スゲエ、大当たりだあ!」
無線からのん気な声が聞こえてきた。
「何が大当たりだ!殺す気か!」
「・・・え?もう撃たない方がいいかなあ?」
危険だが他に方法は無い。
「・・・・是非頼む。全力で叩き潰してくれ!」
「わかったよ。まかしといて!・・・・よし、試射成功!修正射すっ飛ばして本番行くぞ!」
無線の向こうで一斉射撃の砲撃音が聞こえた。
「全員負傷者を救護しつつ、向かいの山に退避!」
副隊長の声と同時に、動ける者は全員負傷者を抱えて反対の山へ駆け出した。
「しっかりしろ!」
「大丈夫か?」
肩に、背中に、小脇に、抱えられるだけの隊員を抱える。
「・・・そいつは後回しだ!」
小隊長が一人の隊員を怒鳴りつけた。
「し、しかし小隊長、自分はこいつと同期で・・・」
「それは分かってる・・・だが生きてる奴が先だ!」
「・・はい!」
隊員は別の負傷した隊員のところへ向かって行った。
「待て、貴様ら逃げる気か!」
「お前の相手は俺だ!」
ガルマジロンの前に副隊長が立ちはだかった。
「こしゃくな・・・うおっ!」
先程の一斉射撃が着弾・爆発した。
次々と砲弾が着弾し爆発を起こす。
それを避けながらガルマジロンと副隊長が闘いを繰り広げていた。
1発着弾するごとに隊員の一人が誤差を無線で報告する。
徐々に砲撃の精度は高まり、着弾が山の中腹に集中し始めた。
「当たれ!」
「惜しい!もう少しだ!」
そしてついに一発が扉の中に吸い込まれ、基地内で爆発した。
立て続けに2発3発と命中する。
「やったぞ!」
向かいの山に集まった隊員たちの間に歓声が上がった。
「おかしい・・・」
副隊長は闘いながらその様子に違和感を感じていた。
「ここじゃないの?」
「・・・違うみたいね。」
確かに1つの画面には爆発で崩れ落ちるロケットの様子が映し出されている。
しかし別の画面では相変わらず発射準備作業が進んでいる。
第一、ロケットに砲弾が命中すれば燃料や弾頭が大爆発を起こすはずだ。
破壊されたロケットには燃料すら注入されていない。空っぽだ。
「ここは、ただの格納庫?・・・」
「しまった!」
ソニンと真ライダーは制御盤を叩いて悔しがる。
「時間が無いわ!」
ズドドドドドド・・・
急いで立ち上がり、部屋を出ようとしたところで建物全体に轟音が響いた。
今までの爆発音とは明らかに違う、大きな音と振動が続く。
「まさか・・・」
振り返って画面を見ると、二人の顔面から血の気が引いた。
画面にはロケットに火が入り、ちょうど離床するところが映し出されていた。
ソニンは無線を取り出した。
副隊長はまだガルマジロンと戦闘中だった。
轟音に二人同時に振り向くと、山の反対側からロケットがゆっくりと上昇を始めたところだった。
「・・・なんてことだ!」
思わず叫ぶ副隊長にガルマジロンはニヤリと笑う。
「そうか、あれが狙いだったのか・・・残念だったな。これで東京は火の海だ!」
「貴様ぁ!」
ドガッ!
「ぐおぉぉ・・・」
副隊長の渾身のパンチがガルマジロンの頑丈な皮膚を貫いた。
「・・・き、貴様今まで手加減して・・・」
腰のホルスターから銃を取り出し、破れた皮膚に突っ込む。
「死ねぇ!」
「グァァァァ・・・」
開発中の強酸弾が数発撃ちこまれ、ガルマジロンはその場に悶絶して倒れた。
「くそ・・くそぉ!」
苦し紛れに数発ミサイルに向けて発射すると、拳銃を地面に叩きつけた。
「・・・副隊長!」
ここでソニンから無線が入った。
「隊長・・・はい。こちらからも見えます。」
「すぐに本部に連絡して!」
まだ陸海空の総力で迎撃できる可能性がある。
副隊長は近くの隊員に指示を出した。
「それで・・・隊長は?」
「まだ2発目、3発目があるかも・・・発射場を破壊するわ!」
「ちょっと待って下さい、自衛隊に砲撃要請をしま・・・」
突然、頭上でものすごい爆発音が響いた。
驚いて見上げると、上空数百メートルのところでプロトンロケットが大爆発と共に消滅していた。
上空には飛行機雲と、その先に入道雲のような煙が広がっていた。
ロケットのパーツがバラバラと落下している。
その場にいた全員が一瞬何が起きたか分からなかった。
しかし副隊長はすぐに我に返り指示を出す。
「本部に連絡。ロケット、上空で爆発・墜落っ!」
「は、はいっ!」
「・・・何があったの?」
「あ、隊長!ロケットが空中で爆発しました!」
「そう・・・念のため発射地点に砲撃を要請しておいて。」
「はい。・・隊長は?」
「発射地点に向かうわ。」
「でも砲撃が・・・」
「わたしと前田さんなら大丈夫だから。」
「それもそうですね・・・」
前田とソニンは部屋を出て発射場へ向かった。
さっきの発射音と振動でだいたいの場所はわかる。
2人は迷路のような通路を抜け、基地の中枢部へ近づいて行った。
「様子がおかしい・・・」
けたたましく警報音が鳴り響く。
所々壁が崩れ、大きな穴が開いているところがあり、ひどい所は地割れまで起こしている。
突然地響きと共に爆発音が響いた。
>>495 「何?今の?」
「自衛隊の砲撃じゃないみたいだし、まさか2発目?」
途中で逃げ出した研究員や生き残った戦闘員にぶつかった。
それらを掻き分け、まっすぐ音の方向に向かった。
通路の先に不気味なデザインの大きな扉があった。
中で人の気配がする。
「ここね?」
「多分・・・」
2人が扉に手をかけようとすると勝手に開きだした。
扉の隙間から煙が漏れ出し、中から人の声がした。
「誰?!」
ソニンと真ライダーは思わず身構える。
「今の声は・・・ソニンさん?」
「・・・加護さん?」
約1年ぶりの再会だった。