「ビカラグ バス ビ ”ライダ”!?」
アマゾンを見た怪人は驚いたような声を出した。
だが、すぐに思い直したようにケイを指さす。
「チョグゾギギ ゴセグ ジャデデジャス!」
言葉は分からないが、戦おうという意志は感じられた。
無論、ケイも退くつもりはない。
翼を振り上げ、殴りかかってくる敵。
右へ左へと、軽やかにアマゾンは身をかわす。
焦れたのか、怪人は大きく翼を振り上げた。
勢いを付けた攻撃を前転してやり過ごし、無防備になった背中に飛びかかる。
今度はアマゾンがその手を振り上げた。
何度も手刀を打ち下ろすと、たまらず怪人の口からうめき声が漏れる。
アマゾンはさらにアームカッターで切り裂こうと、腕を振り上げた。
怪人はそこを力任せに振りほどかれく。再び距離を取る両者。
「ギギィ………」
怪人は歯をむき出した。吹き寄せてくる感情、それは明らかな怒りだった。
ばさりと音を立ててコウモリ怪人は舞い上がった。
空中から勢いを付けて襲いかかる。鋭い爪がぎらりと光る。
アマゾンの肩から血が噴き出した。
58 :
名無しハンペン:04/02/21 20:26 ID:IkdDh/iF
「くっ、このぉ!」
アマゾンも爪を振るうが、敵の変則的な動きにその反撃も相手の体をとらえきれない。
狭い場所をうまく使って変幻自在に攻撃してくる敵により、
次々とアマゾンの体に傷が刻まれていく。
黴くさい廃屋の中に、濃厚な血の香りが混じった。
「がぁぁ!」
このままでは埒があかないと感じたアマゾンは、地面を蹴る。
三角跳びの要領で大きく舞い上がる。
しかし、やはり空中での姿勢制御は相手の方が上手だった。
すんでの所で身を翻した怪人は、逃げ場の無くなったアマゾンを地面に叩きつける。
よろよろと起きあがったアマゾンに、怪人は後ろから組み付いた。恐るべき牙が首筋を狙う。
だが、それこそがアマゾンの誘いだった。掴んできた腕に逆に噛みつく。
叫び声をあげてのけぞった敵に、オーバーヘッドキックの要領でつま先を叩き込んだ。
慌てて飛び離れた怪人は、想像以上に乱暴なアマゾンの戦い方に業を煮やしたのか、
羽を広げて窓から外へ飛び出した。
「待て!」
その後を追って、アマゾンも外に飛び出す。
59 :
名無しハンペン:04/02/21 20:27 ID:IkdDh/iF
だが、そこに待ち受けていたのは、予想もしなかった相手だった。
「アマゾンよ!」
「お前は……十面鬼!」
たくさんの顔が埋め込まれた、巨大な岩の真ん中から伸びる男の上半身。
その名の通り、鬼のような顔を歪ませているのは、十面鬼ゴルゴスであった。
「どうしてお前がここに!?」
「もちろん、貴様の腕輪を求めてだ。
思わぬ邪魔が入ったがな」
「じゃま……。そうだ! 今の奴は一体……」
「奴はおそらくグロンギ。古代より蘇りし者達」
「グロンギ?」
「お前が知る必要など無い!
それよりもアマゾンよ、決着を付けようではないか」
「決着ですって」
「そうだ、俺とお前二人っきりでな。
これが最後の戦いだ。俺は必ずお前の腕輪を奪い取る。
断れば……手当たり次第に人間どもを皆殺しにしてやる」
不気味な顔でこちらを睨む十面鬼を、アマゾンは真っ直ぐ睨み返す。
「そんなことはさせない!」
「では鬼天狗岳に来い。一対一の決闘だ」
「いいわ、受けてあげる」
「良い覚悟だ。先に行って待っているぞ」
不気味な笑い声とともに飛び去っていく十面鬼を、アマゾンは黙って見つめつづけた。
60 :
名無しハンペン:04/02/21 20:28 ID:IkdDh/iF
「キュー、どうするんだケイ」
「モグラ! いたの?」
変身を解いたケイは驚いて足元を見下ろす。
そこには、モグラ獣人がぼこりと地面から顔を出していた。
「ここは俺もねぐらにしてた場所なんだよ。
それより本当に一人で行くつもりなのか。
アイツは恐ろしい奴だぞ。決闘だと言ったって罠に違いない」
「それでも行かなきゃ。これはあたしの問題。
あたしがケリをつけなきゃいけないの」
「ケイ……」
「ありがと、心配してくれるんだね」
にっこりと笑うケイに、モグラ獣人はあたふたと手を振る。
「ば、馬鹿やろう。俺は……別に……」
「大丈夫。きっと戻ってくる。
ね、モグラ、悪いけどこのネコ、みんなのところに届けておいて。
あたしの代わりに。お願い」
「……分かった。気を付けろよ」
「うん」
顔を上げたケイの目には、確かな決意の色が炎のように激しく映っていた。
61 :
名無しハンペン:04/02/21 20:28 ID:IkdDh/iF
◇
いずことも知れない場所に、奇妙な衣装を着た数人の男女が集まっていた。
聞き慣れない言葉を使う、見慣れない格好をした者達。
戦闘集団グロンギ族。諏訪神社の碑文にも記されていたという太古の怪人達。
「ゴオマ」
額に薔薇のタトゥーを施した、白いドレスの美女が声を発した。
呼びかけられた男が顔を上げる。暑苦しい黒のコート、目深にかぶった黒の帽子。
男はぎょろりと目を見開く。その前に美女は静かに立った。
「ダダバダダ ゴグレ ダ ”ライダ”」
「ゴグザ ババジ ギダレヅンダゼ」
男は得意げににやりと笑いピアスをかちゃりと鳴らす。
その顔に美女は手を伸ばした。頬から顎へと細くしなやかな指が動く。
男の顔にうっとりするような恍惚の表情が浮かんだ。
だが突然、その手がツタに覆われたような不気味なものに変わった。
「グゥ……ゥオオ……」
ツタに絡め取られた男は苦悶の声を上げた。男がのたうつ様子を女は無表情なまま眺める。
散々悲鳴をあげさせ、ようやくツタが離れた。男はずるずるとその場に崩れ落ちる。
「余計なことを」
小さな声でそう呟き、倒れ伏した男を冷たく見下ろす。
62 :
名無しハンペン:04/02/21 20:29 ID:IkdDh/iF
「ズギザ ゴレン バンザ」
集団の中から一人の男が歩み出た。
大きく盛り上がった全身の筋肉。意味ありげに描かれた顔の文様。
「ゴセビ ジャサゲソ」
「ザインか」
ザイン──それが男の名前だろうか。
男は野性味溢れる顔でにっと笑った。
そして傍らに置いてあった石板に線を引く。
「ドググジバンゼ バギンビンザ」
「いいだろう」
美女は、男にいくつかの勾玉のようなものがとめられた、腕輪らしきものを渡した。
そして男の腹に巻いていたベルトに指輪を押し当て、右に捻る。
何かのスィッチが入ったようなかちりと言う音がした。
「ゴゼバ ボギズドバヂバグ」
ザインは倒れたままの男──ゴウマを見下ろし嘲笑する。
「バゾガゲデジャスン ズ・ザイン・ダ」
ザインは意気揚々と外へと向かう。
その後ろ姿を、ゴウマは暗く燃える目でずっと見送っていた。