会議室で作戦のブリーフィングが始まった。
前田は驚いていたが、ソニンは官邸での出来事を隠さずすべて隊員達に話した。
作戦は単純である。蠍谷の地形、情報活動衛星の写真、工作員からの情報、
そして中澤からもらったデータでいくつか侵入口を見つけていた。
正面と思われる入口に守備隊が陽動攻撃を仕掛け、その隙にソニンと前田が通風口から侵入し、ロケットを破壊する。
しかし敵の数、戦力、トラップの有無などすべて不明。基地内部の詳細もわからずロケット発射場の位置もわからない。
苦戦は必至、いやむしろ博打ともいえる無謀な作戦だ。
しかし隊員たちの士気は落ちないどころかむしろ高まった。
皆この時を待っていたのだ。
しかも政府に軽んじられていると思われていた自分たちがここまで信頼されていると聞かされたら奮い立たないわけがない。
会議室全体が熱気に包まれる中、ソニンは最後に全員に遺書を書くよう指示して隊長室に戻った
「出撃準備、整いました。」
十数分後、副隊長が隊長室に入ってきた。
「ご苦労様。こっちもすぐに出るわ。あなたも遺書は書いたの?」
「・・・いいえ。」
「書かないとダメよ。今回は今までの戦闘とは違うんだから。」
「書く相手もいませんし・・・」
副隊長を含め、隊員は全員ゼティマに家族を殺され天涯孤独の身である。
「まあそうだけど、誰宛てでもいいからなにか残さないと・・・」
「いえ、こういうことはやはり直接伝えないと・・・」
副隊長はそう言って黙り込んだ。
体はガッシリしているが背は低く、小太りに見える。
顔も端正とは言いがたく、視力も強化されたのに昔の癖で伊達メガネをかけている。
とても「鬼」と呼ばれる守備隊の副隊長とは思えない。むしろ愛嬌がある。
「伝える・・・って何を?」
ソニンが聞くが、副隊長は下を向いて黙ったままだ。
「・・・・誰に?」
相変わらず黙ったままチラッとソニンのほうを見た。
1分ほど黙り込んでいたが、結局副隊長は隊長室から叩き出された。
仕方がないので遺書を書いて残すことにした。
ずっと様子を見ていた前田は堪らずクスクスと笑い出した。
「素敵な仲間たちですね。」
「うん・・・時々鬱陶しいけどね。」
30分後、守備隊の本体は蠍谷から山を4つほど越えたあたりに集結していた。
ヘリで近づけるのはここが限度だ。
狭い空き地に大型輸送ヘリ10機ほどが激しく入れ替わり、次々と隊員と荷物を降ろしていた。
「本当にこれは必要ないんですか?」
陸上自衛隊の隊員が大砲を指差しながら言った。
「はい、大丈夫です。」
第2中隊長が明るく答えた。
副隊長はなぜか少し元気がない。
自衛隊員が周りを見渡すと、守備隊のほぼ全員が身長の倍以上もある荷物を背負っている。
中には対戦車ヘリの30mm機銃を背負っているものもいる。
「我々でもここから歩いて2日はかかるんですが。しかもそんな荷物を背負って・・・大丈夫ですか?」
作戦発動まであと1時間弱だ。ソニンと前田は別ルートで向かっている。
「ご心配なく。・・・・よし、出発!」
号令とともに全員が動き出した。
次第にスピードを増し、あっという間に自衛隊の隊員の視界から消えた。
そして数分で1つ目の山の頂上を越えていくのが見えた。
「化け物め・・・」
隊員は呆れて小さくつぶやいた。
「配置完了しました。」
山中の司令所に来た第一中隊の伝令はそう伝え、自分の隊に帰っていった。
「いよいよだな・・・」
副隊長は眼下の目標を眺める。
ゼティマのミサイル基地があると思われる蠍谷の中心部。
守備隊はその向かいの山中に扇形に陣を張っていた。
向かいの入口までは距離約800メートル。
こちらの山のふもとには、幅数百メートルの草原が広がっている。
そこから先は草一本も生えない不気味な岩山がそびえていた。
作戦発動時刻、つまり政府の回答期限の1時間前まであと少し・・・
「副隊長!」
隊員の一人が上空を指差した。
赤い信号弾が上空に上がった。ソニンからの合図だ。
「・・・よし。『状況開始』!」
「了解。・・・状況開始!」
副隊長の一言で次々と伝令が走る。いよいよ作戦発動だ。
「予定通り、状況開始です!」
陣形の端の部隊にも命令が伝わった。
「わかった。」
分隊長がそう言いながら時計を見る。
隣では別の隊員が戦車砲の砲弾を持って待機している。
大型の消火器ほどの大きさで50kg以上はあるその砲弾を、まるでラグビーボールのようにポンポンと掌で跳ねさせていた。
「・・・よし、いけ!」
分隊長の合図と同時に大きく振りかぶり、向かいの岩山に向けて砲弾を投げつけた
ドーン!
砲弾は岩肌に命中し、轟音とともに岩が飛び散った。岩の下から金属製の扉が覗く。
「よし情報通りだ。やれ!」
分隊長の声で、他の隊員も一斉に砲弾を投げつけた。
数発の砲弾が立て続けに命中し、頑丈な扉が大きく歪んだ。
「撃ち方止め!・・・来たぞ。」
歪んだ扉の他に3つ、計4つの扉が開き戦闘員が飛び出してきた。
「・・・今だ、行け!」
今度は反対側の分隊で、号令とともに巨大な榴弾砲の砲弾が投げつけられた。
戦闘員の足元で、頭上で、砲弾が音を立てて爆発する。
遠距離攻撃。まずはこれで敵の戦力を削る。
「来たぞ。撃て!」
続いて陣形の中央から30mm機銃2機が火を吹く。
中距離攻撃。先ほどの爆発をかいくぐった戦闘員が次々と倒れていく。
「・・・前へ!」
そして近距離攻撃。討ち漏らした戦闘員に直接攻撃をかけた。
被害ゼロ。
最初の戦闘は守備隊の圧勝に終わった。
司令所では歓声が上がった。
「やりましたね。火器が使えればこっちのものですよ。」
「馬鹿!喜ぶのはまだ早いぞ。勝負はこれからだ!」
副隊長の怒号が飛んだ。
プロトンロケットの破壊以外に作戦の成功はありえない。
そして副隊長の言う通り、ここからが地獄の始まりだった。
「なにが『取るに足らん連中』だ!」
怪人「ガルマジロン」が部下を怒鳴りつけた。
「申し訳ありません、まさか奴らが銃や爆弾を使うとは・・・」
「言い訳はいい。次だ、攻撃準備をしろ!」
「それが・・・。」
先ほどの戦いで配下の戦闘員は全滅していた。
「誰もいないのか?」
「はい、侵攻作戦に駆り出されまして・・・」
「・・・何をモタモタしている!」
突如背後のモニターにヨロイ元帥の姿が映し出された。
「まさかあんな奴らに侵入を許したりはせぬだろうな。」
「は・・はい。お任せを!」
ガルマジロンはモニターに向かい直立不動で返事をした。
「ふん、人間ごときが忌々しい・・・」
そう言いがならヨロイ元帥はモニターのスイッチを切った。
ロケットの発射準備は遅々として進まなかった。
ガルマジロンは通信が終わるとモニタ−に背を向け歩き出した。
「くそ、あんな奴ら俺一人で十分だ・・・」
「お待ち下さい。」
ドアの前に数人の怪人が立ちはだかった。
「我々もお連れ下さイ!」
アルセイデス、キャッティウス、オカルトス・・・
GOD機関の生き残りの怪奇トリオだった。
「・・・ついて来い。」
ガルマジロンがドアをくぐるところで部下が背後から声をかけた。
「あの、こちらの侵入者はいかがしましょう?」
部下が指差したモニターにはソニンと真ライダーが映っていた。
二人は迷路のような通路で迷い、しかも警備システムの罠に こ と ご と く
引っ掛かり、未だプルトンロケットに辿り着けないでいた
「しばらく放っておけ・・・」
そう言いながら後ろの怪人を振り返る。
「それにしてもこんな奴らしか残ってないのか・・・」
ガルマジロンはぶつぶつ文句を言いながら階段を上がっていった。
「・・・来たぞ!」
岩山の入口に怪人4人が現れた。
再び砲弾による攻撃が始まる。
しかし戦闘員と違い素早く直撃を避ける。あるいは手で払い落とす。
至近距離で着弾してもビクともしない。ずんずんと前に進む。
「撃て!」
30mm機銃が火を吹く。
ガルマジロンに命中。後方に倒れた。
「命中!撃ち方止め!・・・効果確認!」
「・・・効果無し!」
ガルマジロンはムクリと起き上がり、何事も無かった様に歩き出す。
「弾頭を替えろ!」
徹甲弾、炸裂弾、試作品の強酸弾・・・次々とまるで実験場のように弾頭を交換する。
「・・・効果無し!」
いずれも大きなダメージは与えられない。しかも命中率も下がってきた。
「上空に改造人間!」
下の4人に気を取られている内に上空に巨大な蛾のような改造人間が現れた。
あわてて機銃を上空に向けるが間に合わない。
ドガッ!
蛾の改造人間が機銃に体当たりを食らわす。
機銃は大きく曲がり、支えていた隊員数人が吹っ飛んだ。
「くそ!」
苦し紛れに別の隊員が5.6mm軽機関銃「MINIMI」をぶっ放す。
「キィィ!・・・」
蛾の改造人間が大きくバランスを崩した。どうやら耐久性は無いらしい。
「食らえ!」
「ギィィィィィィィ・・・」
30mm機銃が数発命中するとヨロヨロと林の中に落ちていった。
「チッ・・・」
その様子を見て舌打ちをしながらも4人の前進は止まらない。
隊員が残った砲弾を投げつけた。
「フン!・・」
ガルマジロンは片手で砲弾を受け止め、こちらに向けて投げ返す。
「うわっ!」
「逃げろ!」
砲弾は残った機銃に命中した。
「砲撃を止めろ!」
副隊長が叫ぶ。
どのみち弾切れだった。
100メートル手前で4人の怪人が立ち止まった。
かかって来いとでも言わんばかりだ。
予想通り、このクラスでは通常兵器は歯が立たない。
「副隊長・・・」
「わかってる、我々の任務は陽動だ。1人でも多くの改造人間をおびき出す・・・」
50人近い隊員と4人の改造人間の睨み合いが続く。
「突撃!」
号令と共に行動可能な隊員が全員一斉に山を下り、改造人間めがけて走り出した。
アルセイデスとオカルトスにそれぞれ10人近い隊員が殺到する。
「うおおおおお・・」
「うわっ、わわわわ・・・」
先頭の数人をなぎ倒すが、あっという間にまるで蟻が群がるように隊員に取りつかれた。
「死ねぇぇぇ!」
たまらず倒れたところに小隊長と中隊長がそれぞれ超硬ナイフを構えて突進する。
「うわあああ!」
「や、やめろ!」
体ごとぶつかるとナイフが体を貫き、アルセイデスとオカルトスは爆発を起こして絶命した。
一方、化け猫改造人間・キャッティウスは素早い動きで隊員を翻弄する。
周囲を取り囲むが頭上を飛び越え、足元をすり抜け、なかなか捉えきれない。
その間にも1人2人と隊員が倒されていく。
「くそっ!」
隊員の1人が苦し紛れに残っていた砲弾を投げつけた。
これをキャッティウスは両手でキャッチした。
「しまった!・・・」
「気を付けろ、こっちに来るぞ!」
隊員たちが身構える。
キャッティウスはバケツほどの大きさの砲弾を抱えてじっと隊員たちの様子をうかがう。
「?」
突然キャッティウスがゴムボールにじゃれつく子猫のように砲弾と遊び始めた。
あっけにとられる隊員たちの前で砲弾が爆発した。
そのままキャッティウスは動かなくなった。
猫並の反射神経と俊敏さを持つ改造人間キャッティウス。
頭の中身も猫並だった。
「役立たずどもめ・・・」
ガルマジロンは横目で3人の惨状を見ながら数10人の隊員を相手にしていた。
次々に群がる隊員を両手でポンポンと払いのける。
そして目の前の隊員を強力な腕力でなぎ倒す。
怪人並の強化を受けたはずの隊員たちがまるで相手にならない。
まるでライダーを相手にする戦闘員のごとく倒されていく。
それでも隊員たちは何度も立ち上がり、ガルマジロンに向かって行く。
「しつこい奴らだ!」
「ぐわああああああ!」
突然1人の隊員が悲鳴を上げた。
ガルマジロンの光る鱗によって、隊員の右腕の肘から先が溶かされていた。