もはや何を信じていいのか分からない。ではZ対は、自分はZ対を信じてもいいのか・・・と言いかけてソニンは言葉を飲み込んだ。
そんなソニンの気持ちを知ってか知らずか首相の話は続く。
「国民に何も明かさず、極秘で計画を進めてきたのはそういう理由もある。我々はアメリカにも
周辺国にも気付かれることなく、極秘に戦力を整える必要がある。
・・・君はあと2年で奴らと互角の戦力を持ちたいと言ったが、私は1年でそうするつもりだった。」
ソニンはそれを聞いて少し驚いた。
確かに研究所の設備・人員は急速に整いつつあった。
特にゼティマ北信越支部から脱走した研究員が大量に加入したのが大きい。
このおかげで守備隊の第三中隊も予定よりかなり早く発足した。
相当な予算を使っているはずだが、どこから出ているのか・・・首相もかなり無茶をしているはずだ。
「・・・だが間に合わなかった。奴らの動きの方が早かった。このロケットが発射されたら計画が全て水の泡だ。なんとかして君たちの力で・・・頼む。」
「しかし我々の戦力では・・・」
「銃器の使用を許可する。自衛隊の物でも研究所の試作品でも好きな物を好きなだけ使いたまえ。それと・・・」
自衛隊の統幕僚長が合図を送ると奥の扉が開き、自衛隊の制服を着た女性が入って来た。
「彼女を連れて行きたまえ、きっと役に立つ。」
女性の体格は華奢で背も高くない。だが体全体からただ者ではない凄みが伝わってくる。
女性はソニンの前に進み、片手を差し出しながら言った。
「前田です。ソニンさん、お噂はかねがね・・・」
「あなたが?」
前田有紀
コードネーム 「シン」
影で『守備隊第二大隊』とも呼ばれる正体不明の刺客。第一研究所の秘蔵っ子である。
ソニンも噂でしかその存在を知らず、本人に会うのはこれが初めてだった。
前田の手を取り握手をするソニンだったが、まだ迷いがあった。
確かに彼女一人で中隊1つ以上の戦力がある。しかし・・
その様子を見て首相が立ち上がった。
「任務が危険な事は承知の上だ。だから君に全ての真相を話した。虫のいい話だが、こんなことは君にしか頼めない。これは命令ではない、『お願い』だ・・・」
首相はそう言って机に額を擦りつけんばかりに頭を下げた。
「ソニン君!」
「頼む!」
それを見て他のメンバーも立ち上がり、全員深々と頭を下げた。
前田がソニンの側に歩み寄り、小声で話しかけた。
「ソニンさん、私からもお願いします。・・・あなたの『お友達』もすでに各地で闘っています。」
黒部ダム、みなとみらい、港湾地区・・・
ライダー達の奮闘が断片的にここにも伝わっていた。
ソニンの脳裏に中澤家の少女たちの顔が頭に浮かぶ。
(そうだ、闘っているのは自分だけではない。)
昔の自分なら頼まれなくても、たとえ一人でも攻撃に向かったはずだ。いつから自分はこんなに守りに入ってしまったのか。
組織の長となり、いつの間にか部下のことを考えるようになった。
「中澤さんだったら・・・」
ソニンは無性に中澤と話がしたくなった。
ライダーたちのリーダー、中澤裕子はどんな気持ちで彼女達を送り出しているのだろうか・・
ソニンが正面を向くと、頭を下げたままのZ対メンバーたちの姿が目に入った。
「・・・首相、さっき言ったことは本気ですよね。」
首相がソニンの言葉を聞いて顔を上げた。
「さっき?・・・」
「1年で奴らと戦える戦力を整える、という話です。」
「もちろんだ。ただし今回の作戦が成功したらの話だが・・・」
「それを聞いて安心しました。私にお任せください。」
ソニンはそう言って敬礼し、振り返って出口に向かった。
「待ちたまえ!」
首相があわてて呼び止めた。
「何ですか?」
「・・・その、こんな作戦をお願いしておいて言うことではないのだが・・・必ず生きて帰って来てくれ。」
「・・・・・・」
「我々はこれからも君を必要としている。この先君抜きで奴らと戦うことなど考えられん・・・それに・・・」
首相はそこまで言うとそのまま黙り込んでしまった。
まるで娘を一人暮らしの都会に出す父親のような顔をしている。
ソニンはそれを見て思わず吹き出しそうになった。
首相も自分や中澤と同じ気持ちなのだ。
「・・・行ってきます。」
ソニンはそう言って再び敬礼し、部屋を出て行った。
首相たちZ対のメンバーは無言でソニンと前田の背中を見つめ続けた。