番外編 首都特別守備隊戦記
「岐路」
首相はカメラの前で知らせを待っていた。
顔面には疲れがにじみ、手にした2種類の原稿は汗でじっとりと濡れていた。
ここは首相官邸内の放送室。
連絡1つでNHK、在京キー局はもちろん日本中のTV・ラジオの放送を中断し、緊急放送を行うことができる。
その放送室内には重苦しい空気が流れていた。
時折首相が秘書に目配せをすると、秘書が別室の通信室へと走る。
そして帰ってくると黙って首を横に振る。
こんなやり取りが朝から何十回も、既に6時間以上続いていた。
バンッ!
放送室のドアが勢いよく開き、別の秘書が飛び込んできた。
放送室を見渡し、首相の姿を見つけると震えた声で報告した。
「・・・発射されました!」
「・・・だめか!」
首相は下を向き、一瞬苦渋の表情を見せる。
しかしすぐに顔を上げ、落ち着いた声で言った。
「放送の準備だ!」
首相は「A案」の原稿を手にし、緊急放送の準備にとりかかった。
「30秒前です!」
「・・・15秒前!」
「待って下さい!」
今度は官邸の職員と自衛隊の通信員が飛び込んできた。
「どうした!」
「・・・プルトンロケット、蠍谷上空で爆発・墜落しました!」
放送室内にわっと歓声が上がった。
「待て、間違いないのか?」
興奮する室内で秘書室長だけは冷静に情報の確認を求める。
「はい、空自・海自のイージス艦のレーダー。現場の守備隊からの連絡で確認済みです。間違いありません!」
再び放送室内が歓声に包まれた。
「・・・3秒前です!」
タイムキーパーが慌ててカウントを再開する。
もう放送は止められない。
全員が持ち場に戻る。
首相は「B案」の原稿を手にし、緊急放送が始まった。
「内閣総理大臣の古泉です。先ほど行われました『判定会』の結果をお知らせします。
・・地震発生の恐れはありません。注意情報は解除しました。繰り返します・・・・」
首相の「都内の避難勧告解除」についての説明はしばらく続いた。
同時刻、蠍谷のプルトンロケット発射地点には無数の砲弾が降り注いでいた。
守備隊の面々はそれを無言で眺めている。
敵の怪人や戦闘員の姿はもう無い。
「・・・ちょっとやり過ぎじゃないの?」
副隊長にソニンから無線が入った。
「あ、隊長!ご無事でしたか?・・」
「2人ともなんとか無事よ。・・でも大丈夫なの?こんなことして。」
「まあ、自衛隊が勝手にやってることですから・・」
「そうね・・・でもこれで首相も私達も後戻りできなくなったわね。」
「・・・そうですね」
自衛隊による砲撃はその後もしばらく続いた。
・・・話は3ヶ月ほど前にさかのぼる。