同じ頃、城南大学から移送されていた古代の遺物を積んだトラックを先導し、アヤカと
貴子を乗せたクーペが初夏の峠道を走っていた。彼女たちが走っている道は本来ならば
科警研のある東京都内某所へは遠回りになるルートだが、すべてはこの遺物をゼティマの
目から隠すためのZ対からの指示である。
「稲葉さん・・・あとどれくらいで着くんですか?」
「せやなぁ、この道使って科警研まで言うたらあと30分はかかるかもね」
貴子の言葉にため息一つつくと、アヤカはトラックの様子が気にかかったのかふとミラー
で後方の様子を見る。しかし、その時トラックのコンテナの中で起きていた異変はついに
顕在的な状況へと発展していた。その兆候となる振動にトラックの運転手が気づいた頃
には、すでにコンテナは少しずつひずみ始めていた。まるで中から空気を抜かれていく
ペットボトルのように、コンテナは内部から少しずつひしゃげていく。猛烈な振動と激しい
異音に運転手のハンドル操作が乱され、車体は右に左にと蛇行し始める。やがてアヤカ
がその異変に気づき、助手席の貴子にうわずった声で告げる。
「稲葉さん、後ろ!あれ見て!!」
アヤカが貴子にトラックの異変を知らせたときには、コンテナの周囲は激しくひしゃげて
しまっていた。二人は内側から壁が引きはがされていくその有様を見せつけられることと
なった。トラックはかろうじてコントロールを保ちながら自走していたが、スピードは
徐々に落ちていく。その間にもコンテナ内の遺物はせわしなく微動し、元々小片でしか
なかったそれが寄り集まって形を成して金属という金属を吸収してそのあるべき姿を
取り戻しつつあった。
「あかん、トラックがヤバい!アヤカっ!!」
「はいっ!」
徐々に速度を落としていくトラックはかろうじて近くの駐車場に入ることが出来たものの
遂に自走能力を失い完全に停車してしまった。その一部始終を目撃した貴子の声にアヤカ
はあわててブレーキを踏み、すぐさま方向転換してトラックが停車した駐車場へと走る。
しかし、そこで二人が見たものは驚くべき光景であった。這々の体でトラックから
逃げ出す運転手の背後で、遺物はまばゆい光を放ちながら金属部品を吸収していく。
それはまさにトラックの鉄という鉄を喰うと言う表現がふさわしいほどの壮絶な光景で
あった。そして完全にそのあるべき姿を取り戻した古代の遺物が遂に二人の前に姿を
表す。光の中から現れたそれは、金色の輝きを放つ巨大な甲虫のような姿をしている。
もっと詳しく言うならば、クワガタムシを模したような姿と言うべきだろうか。まるで
自らの意志を持つかのようにボロボロになったトラックの残骸から姿を現したその巨大な
クワガタムシのような遺物は、不意に強烈な光を放つと二人の前から飛び去っていった。
一方、ドルフィンオルフェノク〜ピザ屋の亭主を店まで送り届けたれいなは、攫われた
少年ライダー隊の少女達の姿を追ってオートバジンを駆る。敵の去っていった方向までは
かろうじて最後に走り去っていった戦闘員らしき人影を目撃したこともあって把握すること
はできたものの、それだけでは敵を追うことは出来ない。と、その時彼女の前に姿を現した
一人の少女がいた。赤い帽子と胸に輝くペンダント、それはまさに少年ライダー隊の
出で立ちである。
「もしかして、アンタ攫われたコじゃないの?」
いぶかしがるような視線で少女を見るれいな。彼女の前に立つ少女・・・夏焼雅は確かに
吸血カメレオンによって攫われたはずだった。
「私と愛理だけは何とか逃げることができたんです。愛理、出ておいで?」
呼ばれて姿を現した愛理と呼ばれた少女は、雅よりもさらに幼かった。そんな二人の様子に
れいなは思わず、子供の遊びじゃないんだからなどと一言小言も言いたくなったが、まず
は二人の身柄を保護することが先決だ。雅がしばらく歩いたところにバイクを隠していると
いうのでとりあえず三人は「ベリーズ」というファミリーレストランの裏手にある駐車場
へと向かう。程なくしてバイクを見つけ出すと、雅は自分のバイクに、そしてれいなは
愛理を後に乗せて走り出した。
一週間のご無沙汰申し訳ありませんでした。今晩より再開です。続きはまた。
「みんなは一体何処にいるの?」
「埠頭の第4倉庫・・・そこでカメレオンに捕まってるはずです」
並んで走る二台のマシン。れいなの問いに答える雅の言葉に従って目的地は決まった。
埠頭で待ち受ける者が何であれ、今更後には引けない。れいなはマシンを走らせる。
一刻も早く少年仮面ライダー隊の少女達を救いださなければならない。二人の言葉を
耳にしたせいか、後でれいなにしがみつく愛理の手に力がこもる。仲間達の身を案じて
不安に駆られる小さな心を落ち着かせるように、れいなは愛理に言う。
「大丈夫、絶対助けるから」
「はい・・・」
少女達を絶対助け出さなければならない。先輩達もおそらくは少年仮面ライダー隊の
危機を察知して駆けつけてはくれるだろう。しかし、それを待っている暇はない。
今少女達を救えるのは自分しかいないのだ。
吸血カメレオンが待ち受ける埠頭にたどり着いた2台のマシン。3人はマシンを
降りると、倉庫の壁を伝いながら少女達が囚われているという第4倉庫へと近づいて
行く。周囲の倉庫には敵の姿はない。壁やコンテナに身を隠しながら、とうとう3人
は第4倉庫の前へとやってきた。ここに至ってもなお、ゼティマの姿はない。
(どうして敵の姿がないんだろう・・・もう他に移ったのかな。それとも)
れいなは周囲を伺いながらも、この状況に不可解なものを感じ始めていた。
「二人とも、ここで間違ってないの?」
そう言ってれいなは雅と愛理の方を見やる。と、その時。
『確かに間違いないよ・・・』
『死に場所はここで間違ってないよ・・・』
ゆっくりと顔を上げた二人の目はうつろな光を宿し、顔色は先ほどとうってかわり
不気味で青白く変わる。
「なっ・・・あんた達!」
身構えるれいなに迫る雅と愛理。そしてその直後、突如として他の少年仮面ライダー隊
の少女達が第4倉庫から次々と姿を現した。しかし、明らかに様子がおかしい。雅と
愛理と同様、うつろな目をしている。
『ゼーティマー・・・ゼーティマー・・・』
焦点の定まらない瞳から放たれる不気味な視線と、まるでうわごとのように敵の名を
口走りながら少女達はれいなへとゆっくり歩み寄ってくる。
「まさか、嵌められた?!」
吐き捨てるように呟くれいな、その言葉に答えるように最後に姿を現したのは、ゼティマ
の改造人間吸血カメレオンだった。
「ヒュヒュヒュ〜。撒いた餌の割には獲物は小物だったが、まぁ仕方あるまい・・・
お前もライダーの一人ならば、ここで死ぬが良いわ」
吸血カメレオンは捕らえた少女達の生き血をすすると同時に、少女達を自分の操り人形に
してしまったのだ。迫り来る少女達に手が出せないまま、れいなは怪人の毒牙にかかって
しまうのだろうか?