「ヒヒョヒョヒョヒョヒョ・・・あのガキ共がそうか」
サングラスの奥に光る不気味な目。人間の姿でありながらもその口元を右に左に
と長い舌が這いずる。人間の姿で少女を追うカメレオンはじわじわとその距離を
縮めていた。そして彼が路地の一角に視線を送ると、まるでそれに呼応するかの
ようにその場所に一人、また一人と姿を現す黒ずくめの男達。吸血カメレオンに
率いられた工作員達だ。吸血カメレオンはそのうちの一人を呼びつけて命令を下す。
「お前達、あのガキ共が見えるか」
「確認できました」
「ならば何をすればいいかはもう判っているな?」
そう言ってにやりと笑う吸血カメレオン。工作員もそれに答えて怪しげな笑みを
浮かべて頷く。工作員達は人混みに紛れながら、少女達の後をつける。そして
さらにその後をカメレオンがつけ、工作員達の活動を見守る算段だ。
そんなこととは露知らず、雅と仲間の少女たちは連れだって徘徊・・・いや、
パトロールを続けていた。アイスクリームやクレープを片手に動き回るその姿には
やはり戦士として戦う少女達と比べれば緊張感に欠ける感がある。
「もう少し先まで行ったら帰ろっか?」
長い髪をなびかせて少女〜夏焼 雅が声を弾ませて仲間達に言う。決められた警邏
コースと言うべきものがあるわけではないが、少女達にしてみれば悪と戦う行為の
一環として強い使命感に支えられて行っている・・・ようであった。雅の言葉に
後をついてくる少女達もそれぞれに頷き、ひとまず本日のパトロールは200メートル
程先にあるピザ屋の辺りまでとすることになった。
何の異常も見つからないまま少女達は通りを歩き、程なくして目標に定めたピザ屋
までやってきた。と、少女達が店先にたどり着いたその時、路上で腕を組んだまま
立ちつくしていた一人の男がいた。真っ白な調理服に身を包んだ彼はピザ屋の店長を
している男だった。
「おじさん、どうかしましたか?」
苦虫を噛み潰したような渋い顔をして立っているピザ屋の亭主に雅達は声を掛ける。
すると男は少女達の言葉に一瞬顔を緩め、こう答えた。
「いやね、アルバイトの女の子がまだ帰ってこないんだよねぇ・・・。出前がはけ
きれなくて困ってるんだが」
そう言って亭主は笑顔で雅の頭を軽く撫でると、さらにこう言葉を続けて店の中へ
戻っていく。
「まぁ、お嬢ちゃん達に愚痴る事じゃなかったね。ごめんね」
ピザ屋の亭主はそう言って小さく手を振ると店の奥へと消え、雅達もそれに答えて
手を振り、声をそろえて「さようなら」と答えるときびすを返してもと来た道を
戻っていく。今日のパトロールは終了。後は稲葉貴子に報告するだけだ。
「こちら少年仮面ライダー隊、稲葉さん応答願います」
胸のペンダントを手に、雅が貴子に対して交信を試みる。ほどなくして貴子が通信を
受信したか、ペンダントが彼女の声を伝える。
『こちら稲葉・・・そっちはどう?異常なし?』
「夢が丘商店街異常なし!少年仮面ライダー隊パトロール終了します!」
ペンダントに向かって明るい声で交信する雅。一方の貴子もまた、彼女の笑顔が
伝わったかのような、明るい声で答えた。
『ご苦労さん!気ぃつけて帰ってな?隊長からは以上!』
「了解!」
二人のこのやりとりをもって、少年ライダー隊と隊長の連絡交信は終了した。しかし、
そんなやりとりの合間にも、怪人達の魔の手はすぐそばまで忍び寄っていたのである。